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特開2019-218895車両用内燃機関の制御方法および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218895(P2019-218895A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】車両用内燃機関の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 15/02 20060101AFI20191129BHJP
   B60W 30/188 20120101ALI20191129BHJP
   B60W 40/107 20120101ALI20191129BHJP
   B60W 50/06 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
   F02D15/02 C
   B60W30/188
   B60W40/107
   B60W50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-116591(P2018-116591)
(22)【出願日】2018年6月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】東條 智也
(72)【発明者】
【氏名】手塚 淳
(72)【発明者】
【氏名】中根 裕介
(72)【発明者】
【氏名】新城 崇
(72)【発明者】
【氏名】越後 亮
【テーマコード(参考)】
3D241
3G092
【Fターム(参考)】
3D241BA49
3D241BA51
3D241CC02
3D241CE02
3D241CE04
3G092AA01
3G092AA06
3G092AA12
3G092DD06
3G092EC01
3G092EC07
3G092FA07
3G092HA14Z
3G092HG01Z
3G092HG04Z
(57)【要約】
【課題】可変圧縮比機構2を備えた車両用内燃機関1において、内燃機関1の加速時の低圧縮比化の応答遅れによるノッキングおよび大幅な点火時期リタードを回避する。
【解決手段】可変圧縮比機構2を備えた内燃機関1のエンジンコントローラ10と、カーナビゲーションシステム41と、が車内ネットワーク42を介して接続される。走行中に、所定時間Δt1後に推定される自車位置の道路状況などから、所定時間Δt1後に内燃機関1の加速がなされるかどうかを逐次予測する。所定時間Δt1後の加速が予測されたら、実際の内燃機関1の負荷および機関回転速度に拘わらずに可変圧縮比機構2を予め最低圧縮比とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えた車両用内燃機関の制御方法であって、
内燃機関の負荷および回転速度に応じて設定される目標圧縮比に沿って上記可変圧縮比機構を制御するとともに、
所定時間後に内燃機関の加速が行われるかどうかの予測を行い、
所定時間後に内燃機関の加速が行われることが予測されるときには、上記可変圧縮比機構を予め圧縮比低下方向に制御する、ことを特徴とする車両用内燃機関の制御方法。
【請求項2】
上記の加速が行われるかどうかの予測は、
走行中の車両の位置を検出し、
地図情報、車車間通信情報、路車間通信情報、の中の少なくとも一つを用いて、所定時間後に予測される車両の走行状態から内燃機関の加速が要求されるかどうかを判定する、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項3】
上記所定時間は、上記可変圧縮比機構が最高圧縮比から最低圧縮比へと変化するのに要する最大の時間に等しく設定されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項4】
加速の予測に基づく圧縮比低下を行った後、第2の所定時間が経過したら、内燃機関の負荷および回転速度に応じて設定される目標圧縮比に沿った通常の制御に復帰する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項5】
加速の予測に基づく圧縮比低下を行った後、この予測に基づき低下させた実圧縮比と、内燃機関の負荷および回転速度に応じて設定される目標圧縮比と、がほぼ一致したことを条件として、内燃機関の負荷および回転速度に応じて設定される目標圧縮比に沿った通常の制御に復帰する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項6】
加速の予測に基づく圧縮比低下を行った後、さらに、第3の所定時間後に内燃機関の再加速が行われるかどうかの予測を行い、
第3の所定時間後に内燃機関の再加速が予測されるときには、圧縮比低下状態を継続する、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の車両用内燃機関の制御方法。
【請求項7】
機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えた車両用内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の負荷および回転速度に応じて設定される目標圧縮比に沿って上記可変圧縮比機構を制御するとともに、
所定時間後に内燃機関の加速が行われるかどうかの予測を行い、
所定時間後に内燃機関の加速が行われることが予測されるときには、上記可変圧縮比機構を予め圧縮比低下方向に制御する、ことを特徴とする車両用内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用内燃機関の制御方法、特に、機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構を備えた内燃機関における圧縮比制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の分野においては、従来から種々の形式の可変圧縮比機構が知られている。例えば、ピストンとシリンダとの相対的位置関係を変化させることにより機械的な圧縮比を可変とする可変圧縮比機構や、燃焼室の容積を補助ピストン・シリンダによって変化させる形式のものなどが広く知られている。
【0003】
このような可変圧縮比機構を備えた内燃機関にあっては、熱効率向上の上ではできるだけ高い機械的圧縮比(以下、単に圧縮比ともいう)に制御することが望ましいが、高負荷域で圧縮比を高くするとノッキングが発生する。そのため、一般に目標圧縮比は、内燃機関の負荷と回転速度とに基づいて設定され、高負荷域ほど低い目標圧縮比となる。
【0004】
例えば一般路での定速走行などの比較的低い負荷で運転されている状態からアクセル開度が増加して内燃機関の加速が行われると、可変圧縮比機構は比較的高い圧縮比状態から圧縮比を低下させる方向に動作することとなるが、機械的な要素を含む可変圧縮比機構にあっては、このような圧縮比変化には少なからず応答遅れが伴う。
【0005】
従って、可変圧縮比機構を備えた車両用内燃機関では、内燃機関の加速時に過渡的にノッキングが発生する問題がある。例えば特許文献1には、このような加速時の過渡的なノッキングを回避するために、点火時期リタードを行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−90236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来の制御方法では、実際に内燃機関の加速状態が検出されてから圧縮比の変更が開始されるので、過渡的なノッキングの懸念が残る。また、大幅な点火時期リタードによってノッキングを回避しようとすると、結果的に内燃機関のトルクの立ち上がりが悪化してしまい、車両の加速応答性が低くなる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するために、この発明は、所定時間後に内燃機関の加速が行われるかどうかの予測を行い、所定時間後に内燃機関の加速が行われることが予測されるときには、可変圧縮比機構を予め圧縮比低下方向に制御する。
【0009】
例えば、高速道路の合流時には車速を高めるために内燃機関の加速が要求されるが、このようなシチュエーションは、自車位置の検出と地図情報とを用いることにより、事前に容易に予測できる。平坦路から登坂路へ移行するところでの加速なども同様である。この発明では、このように所定時間後に内燃機関の加速が行われることが予測された場合に、その時点で、実際の内燃機関の負荷や回転速度とは無関係に、可変圧縮比機構を圧縮比低下方向に制御する。
【0010】
圧縮比低下方向への制御開始から実際に圧縮比が低圧縮比状態となるまでには、やはりある程度の応答遅れが伴うが、加速の予測に基づいて事前に圧縮比低下方向への制御を開始するので、実際に内燃機関の加速が行われるときには、実際の圧縮比が十分に低いものとなっている。従って、ノッキングがより確実に回避される。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、内燃機関の加速が実際に行われるに先だって可変圧縮比機構が圧縮比低下方向へ動かされるので、加速時の過渡的なノッキングがより確実に回避される。また過大な点火時期リタードが不要となるため、車両の加速応答性の上でも有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明に係る可変圧縮比機構を備えた内燃機関のシステム構成を示す構成説明図
図2】一実施例の圧縮比制御の処理の流れを示すメインフローチャート。
図3】通常時の目標圧縮比の設定の流れを示すフローチャート。
図4】目標圧縮比の特性を示す特性図。
図5】一実施例の動作を示すタイムチャート。
図6】第2実施例の要部を示すフローチャート。
図7】第2実施例の動作を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明が適用された自動車用内燃機関1のシステム構成を示している。この内燃機関1は、例えば複リンク式ピストンクランク機構を利用した可変圧縮比機構2を備えた4ストロークサイクルの火花点火内燃機関であって、燃焼室3の天井壁面に、一対の吸気弁4および一対の排気弁5が配置されるとともに、これらの吸気弁4および排気弁5に囲まれた中央部に点火プラグ6が配置されている。
【0015】
上記吸気弁4によって開閉される吸気ポート7の下方には、燃焼室3内に燃料を直接に噴射する燃料噴射弁8が配置されている。燃料噴射弁8は、駆動パルス信号が印加されることによって開弁する電磁式ないし圧電式の噴射弁であって、駆動パルス信号のパルス幅に実質的に比例した量の燃料を噴射する。
【0016】
上記吸気ポート7に接続された吸気通路9のコレクタ部9a上流側には、エンジンコントローラ10からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットルバルブ11が介装されており、さらに、その上流側に、吸入空気量を検出するエアフロメータ12が配設されている。
【0017】
また、排気ポート13に接続された排気通路14には、三元触媒からなる触媒装置15が介装されており、その上流側に、空燃比を検出する空燃比センサ16が配置されている。
【0018】
一方、上記可変圧縮比機構2は、公知の複リンク式ピストンクランク機構を利用したものであって、クランクシャフト17のクランクピン17aに回転自在に支持されたロアリンク18と、このロアリンク18の一端部のアッパピン19とピストン20のピストンピン20aとを互いに連結するアッパリンク21と、ロアリンク18の他端部のコントロールピン22に一端が連結されたコントロールリンク23と、このコントロールリンク23の他端を揺動可能に支持するコントロールシャフト24と、を主体として構成されている。上記クランクシャフト17および上記コントロールシャフト24は、シリンダブロック25下部のクランクケース内で図示せぬ軸受構造を介して回転自在に支持されている。
【0019】
上記コントロールシャフト24は、該コントロールシャフト24の回動に伴って位置が変化する偏心軸部24aを有し、上記コントロールリンク23の端部は、詳しくは、この偏心軸部24aに回転可能に嵌合している。上記可変圧縮比機構2においては、上記コントロールシャフト24の回動に伴ってピストン20の上死点位置が上下に変位し、従って、機械的圧縮比が変化する。つまり、本実施例においては、コントロールシャフト24の回転位置に応じて機械的圧縮比が一義的に定まる。
【0020】
また、上記可変圧縮比機構2の圧縮比を可変制御する駆動機構として、クランクシャフト17と平行な出力軸26aを有するアクチュエータ26がシリンダブロック25下部に配置されている。アクチュエータ26は、アクチュエータ本体となる電動モータ27と、この電動モータ27の出力回転を減速して出力軸26aから出力する減速機28と、が直列に結合されて配置された構成となっている。上記出力軸26aと上記コントロールシャフト24とは互いに平行に位置しており、両者が連動して回動するように、出力軸26aに固定された第1のアーム29とコントロールシャフト24に固定された第2のアーム30とが中間リンク31によって互いに連結されている。
【0021】
すなわち、アクチュエータ26の出力軸26aが回転すると、この回転が第1のアーム29から中間リンク31を介して第2のアーム30へ伝達され、コントロールシャフト24が回動する。これにより、上述したように、内燃機関1の機械的圧縮比が変化する。上記減速機28としては、比較的小型の電動モータ27でもって大きな駆動トルクを得るために、例えば、1:100あるいは1:200といった大きな減速比を有する波動歯車機構が用いられている。
【0022】
上記可変圧縮比機構2の目標圧縮比は、エンジンコントローラ10において、後述するように基本的にはそのときの実際の機関運転条件(つまり負荷および機関回転速度)に基づいて設定され、この目標圧縮比を実現するように上記アクチュエータ26つまり電動モータ27が駆動制御される。実際の機械的圧縮比に相当するコントロールシャフト24の回転位置は、実圧縮比センサ32によって検出され、目標圧縮比に沿うように電動モータ27のフィードバック制御がなされる。
【0023】
上記エンジンコントローラ10には、上記エアフロメータ12、空燃比センサ16、実圧縮比センサ32のほか、運転者により操作されるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ33、車速を検出する車速センサ34、内燃機関1の回転速度を検出するクランク角センサ35、等のセンサ類の信号が入力されている。上記エンジンコントローラ10は、これらの検出信号に基づき、可変圧縮比機構2の圧縮比、燃料噴射弁8による燃料噴射量および噴射時期、点火プラグ6による点火時期、スロットルバルブ11の開度、等を最適に制御している。
【0024】
また、この内燃機関1が搭載されている自動車は、自車を含む周辺道路の地図の表示や設定した目的地への航路案内等を行ういわゆるカーナビゲーションシステム41を備えており、このカーナビゲーションシステム41とエンジンコントローラ10とが車内ネットワーク42を介して接続されている。カーナビゲーションシステム41は、GPS衛星を利用して自車の位置の特定と自車の進行方向の認識とを行うGPSシステム43と、道路種別等の道路情報を含む地図情報つまり地図データ44と、を含んでいる。地図データ44は、道路の高低つまり標高情報を含んでいることが好ましい。地図データ44は、カーナビゲーションシステム41のハードディスク等のメモリ手段に予め格納されていてもよく、あるいは、双方向無線通信を介して道路インフラストラクチャ等から適宜に受信して一時的に保持する形態のものであってもよい。
【0025】
カーナビゲーションシステム41がエンジンコントローラ10と連係していることにより、車両走行中に、所定時間後(例えば数秒後)に内燃機関1の加速(すなわちアクセル開度の増加)が行われるかどうかの予測を行うことが可能となる。つまり、現在の自車位置と車速情報とから所定時間後に自車がいるであろう位置が推定でき、この推定した所定時間後の自車位置の道路状況や周囲の種々の情報から内燃機関1の加速が必要となる状況であるかどうかを推定できる。ここでの「加速」とは、いわゆる緩加速を含める必要はなく、アクセル開度の変化速度がある一定以上の加速あるいはアクセル開度の変化幅がある一定以上の加速を予測の対象とすればよい。
【0026】
カーナビゲーションシステム41に予め目的地が設定されている場合には、カーナビゲーションシステム41が決定した経路に沿って所定時間後の自車位置の推定が容易である。目的地の設定がなされていない場合であっても、走行する蓋然性が高い道路の特定は可能である。あるいは、複数の経路が存在し、どの経路に進むか予測できない場合には、可能性のある全ての経路について内燃機関1の加速の要否を判断し、いずれかの経路で加速が要求されそうな場合には加速が行われるものと予測するようにしてもよい。
【0027】
所定時間後の加速要求の予測のために、自動車が、カーナビゲーションシステム41のほかに(あるいはカーナビゲーションシステム41に代えて)、車車間通信用の通信ユニットあるいは路車間通信用の通信ユニットを備えていてもよい。車車間通信あるいは路車間通信によって、例えば数秒後にアクセル開度の増加が必要となるような状況が到来するかどうか、に関するより多くの情報を得ることが可能である。
【0028】
内燃機関1の加速(アクセル開度の増加)が要求される状況としては、例えば、平坦路から登坂路への移行区間、高速道路での合流直前の車両加速区間、有料道路でのETCゲート通過区間、等での走行が挙げられる。その他、曲線路から直線路への移行区間でも加速が行われやすい。あるいは、交差点での信号待ちからの発進においても加速操作がなされるが、例えば路車間通信によって数秒後の自車位置に対応した信号の状態を推定することで、信号待ちからの発進・加速の予測が可能である。あるいは、車車間通信によって、所定時間後に自車が走行する位置で多くの車両が加速していることが判れば、自車もその地点で加速操作をする蓋然性が高いものと予測できる。
【0029】
次に、図2は、上記エンジンコントローラ10において実行される圧縮比制御の処理の流れを示すメインフローチャートである。このフローチャートに示すルーチンは、所定の演算サイクル毎に繰り返し実行される。ステップ1では、後述する加速が予測されたときに開始される加速予測時圧縮比制御の実行中であるか否かを判別する。初回および通常時はNOであり、ステップ2へ進む。ステップ2では、現在の実圧縮比εrが所定の高圧縮比範囲であるかどうかを判定する。所定の高圧縮比範囲は、ある程度急な加速がなされたときにノッキング発生の可能性があるかどうかの観点で設定される。例えば、可変圧縮比機構2により実現される圧縮比可変範囲が「8〜14」であるとすると、その中間に適宜に閾値が設定され、実圧縮比εrが閾値以上であるかどうかが判定される。なお、過渡時でなければ現在の実圧縮比εrは現在の内燃機関1の運転条件(負荷および機関回転速度)に実質的に対応するので、ステップ2の判定を内燃機関1の負荷および機関回転速度に基づいて行うことも可能である。
【0030】
ステップ2において所定の高圧縮比範囲になければ、加速時のノッキングの懸念がないので、ステップ8へ進み、通常時圧縮比制御を行う。
【0031】
通常時圧縮比制御では、図3に示すフローチャートに従って設定される基本目標圧縮比ε0を、目標圧縮比εtとして設定する。すなわち、図3のステップ21において内燃機関1の運転条件すなわち負荷と機関回転速度とを読み込み、ステップ22において、図4に示すような特性のマップを参照して、負荷と機関回転速度とに対応する基本目標圧縮比ε0を求める。図4に示すように、基本的な圧縮比制御の傾向としては、低負荷側では熱効率向上のために高い目標圧縮比が与えられ、高負荷側ではノッキング回避のために低い目標圧縮比が与えられる。なお、「負荷」としては、アクセル開度(アクセルペダル踏込量)、スロットルバルブ11の開度、サイクル当たりの燃料噴射量、サイクル当たりの吸入空気量、等を用いることができる。
【0032】
ステップ8で通常時圧縮比制御として基本目標圧縮比ε0を目標圧縮比εtに設定したら、ステップ7へ進み、目標圧縮比εtを実現するようにアクチュエータ26を駆動制御する。つまり、実圧縮比センサ32によって検出される実圧縮比εrが目標圧縮比εtに沿うように、両者の偏差に基づいて電動モータ27をフィードバック制御する。
【0033】
ステップ2において所定の高圧縮比範囲にあれば、ステップ2からステップ3へ進み、所定時間(第1の所定時間:Δt1)後に内燃機関1の加速が行われるかどうかの情報の授受を、カーナビゲーションシステム41(あるいは車車間通信ないし路車間通信の通信ユニット)との間で行う。そして、ステップ4において、所定時間Δt1後にノッキングの懸念のある加速がなされる可能性があるかどうか、を判定する。
【0034】
第1の所定時間Δt1は、一例では、数秒つまり1〜9秒程度であり、例えば、3〜5秒程度である。これは、可変圧縮比機構2の圧縮比変化の応答速度を考慮して設定される。好ましくは、可変圧縮比機構2が最高圧縮比から最低圧縮比へと変化するのに要する時間とりわけ温度や電圧変化等を考慮した最大の所要時間に実質的に等しく設定されている。このようにすれば、仮に加速の予測に基づいて最高圧縮比から最低圧縮比へと変化させる場合でも、実圧縮比εrが最低圧縮比付近に達した後に実際の加速が発生することとなる。
【0035】
所定時間Δt1後に加速が予測されない場合は、ステップ4からステップ8へ進み、前述した通常時圧縮比制御を継続する。従って、実際の機関運転条件に応じて圧縮比が制御される。
【0036】
所定時間Δt1後に加速が予測される場合には、ステップ4からステップ5へ進み、加速を考慮した低い圧縮比である加速予測時目標圧縮比ε1を決定する。一実施例では、加速予測時目標圧縮比ε1は、予測される加速の程度に拘わらず、制御可能な範囲内での最低圧縮比である。あるいは、急加速であるほど低い圧縮比となるように、予測される加速の程度に応じて加速予測時目標圧縮比ε1を決定するようにしてもよい。そして、ステップ5からステップ6へ進み、加速予測時圧縮比制御を行う。つまり、現在の実際の機関運転条件(負荷および機関回転速度)に拘わらずに、加速予測時目標圧縮比ε1を目標圧縮比εtとして設定する。
【0037】
ステップ6で加速予測時圧縮比制御として加速予測時目標圧縮比ε1を目標圧縮比εtに設定したら、ステップ7へ進み、目標圧縮比εtを実現するようにアクチュエータ26を駆動制御する。つまり、実圧縮比センサ32によって検出される実圧縮比εrが目標圧縮比εtに沿うように、両者の偏差に基づいて電動モータ27をフィードバック制御する。このような加速予測時圧縮比制御が開始する直前の目標圧縮比εtは比較的高いので、加速予測時圧縮比制御の開始に伴って目標圧縮比εtがステップ的に変化(低下)する。また加速予測時圧縮比制御の開始時点では、実圧縮比εrは比較的高い圧縮比であるが、加速予測時圧縮比制御の開始に伴って実圧縮比εrも低下していく。
【0038】
このように所定時間Δt1後の加速の予測に伴って加速予測時圧縮比制御が開始すると、ステップ1での判定がYESとなるので、ステップ1からステップ9へ進んで、加速予測時圧縮比制御を終了すべき終了条件が成立したかどうかを判定する。終了条件としては、例えば、加速予測時圧縮比制御が開始してから所定時間(第2の所定時間:Δt2)が経過したこと、あるいは、実圧縮比εrと基本目標圧縮比ε0とがほぼ一致したこと、の2つの条件の「OR」条件である。必要に応じて、終了条件を上記の2つの条件の「AND」条件としてもよく、あるいは、2つの条件のいずれか一方のみを終了条件と定めてもよい。なお、第2の条件は、実際に加速がなされて基本目標圧縮比ε0が低圧縮比側へ変化することにより、予め設定した加速予測時目標圧縮比ε1に沿った実圧縮比εrとの差が小さくなる、ということに基づいており、両者の差が所定の微小範囲内になった段階で条件成立となる。第1の条件における第2の所定時間Δt2は、基本的には、加速予測を行う第1の所定時間Δt1よりも長い時間として設定することが好ましい。
【0039】
ステップ9で終了条件が成立するまでは、ステップ9からステップ6へ進み、加速予測時圧縮比制御を継続する。なお、加速予測時圧縮比制御が継続している間、加速予測時目標圧縮比ε1(ひいては目標圧縮比εt)は変化せず、一定である。
【0040】
ステップ9で終了条件が成立したら、ステップ9からステップ8へ進み、通常時圧縮比制御に復帰する。つまり、内燃機関1の負荷および機関回転速度に応じた圧縮比制御を再開する。
【0041】
次に、図5のタイムチャートに基づいて上記実施例の作用について説明する。図の実線が実施例の特性を示し、破線は参考例の特性を示す。なお、この図5では、車速の変化と圧縮比(実圧縮比εr)の変化とを対比して示してあるが、車速に代えて内燃機関1の負荷例えばアクセル開度やスロットルバルブ開度あるいは吸入空気量や燃料噴射量等としても基本的な傾向は同様となる。
【0042】
図示例では、当初の車速は比較的低く、内燃機関1の負荷も低い。そのため、目標圧縮比εtおよび実圧縮比εrは、例えば、最高圧縮比(例えば「14」)である。時間t1までは、そのときの内燃機関1の負荷および機関回転速度に応じた通常時圧縮比制御がなされている。この間、所定時間Δt1後に加速が行われるかどうかの予測が逐次実行される。
【0043】
時間t1において、所定時間Δt1後に加速が行われる可能性がある旨の予測がなされる。この予測に基づいて、時間t1の時点で目標圧縮比εtが基本目標圧縮比ε0から加速予測時目標圧縮比ε1(例えば最低圧縮比)にステップ的に変化する。そのため、実圧縮比εrも徐々に低下し、時間t1から遅れて最低圧縮比(例えば「8」)に到達する。つまり、予測された加速に備えて可変圧縮比機構2が予め圧縮比低下方向に制御される。
【0044】
そして、この例では、所定時間Δt1後の時間t2において、実際に加速(つまりアクセルペダルの踏込)がなされ、車速が高くなっていく。このとき、実圧縮比εrは既に最低圧縮比であるので、仮に急加速であってもノッキングが生じる可能性は極めて低いものとなる。また、ノッキング発生に伴う点火時期リタードも非常に小さくあるいは実質的になされない。そのため、アクセルペダルの踏込に伴うトルクの立ち上がりが良好となり、車両の加速応答性が高くなる。
【0045】
その後、時間t1から第2の所定時間Δt2が経過した時間t3において、基本目標圧縮比ε0を目標圧縮比εtとした通常時圧縮比制御に復帰する。なお、この例では、時間t3以降も高負荷状態が続いているので、最低圧縮比がそのまま保たれている。
【0046】
破線で示す参考例は、実際の内燃機関1の負荷および機関回転速度に応じて圧縮比を制御した場合の例であり、実際の加速が生じた時間t2において低圧縮比側への圧縮比低下が開始する。可変圧縮比機構2の圧縮比変化には応答遅れが伴うので、時間t2の直後つまり加速開始直後に過渡的にノッキングが発生しやすくなる。そして、ノッキング抑制のために大幅な点火時期リタードがなされる結果、トルクの立ち上がりが悪化し、車両の加速応答性が低くなってしまう。
【0047】
なお、図5の例では、予測された加速が実際に実行されたものとして説明しているが、地図情報等から加速がなされるものと予測したものの実際には加速がなされないこともあり得る。しかしながら、このような場合でも、単に比較的短い時間の間(例えば上記の第2の所定時間Δt2の間)圧縮比が低くなって僅かな燃費の悪化等が生じるに過ぎず、ノッキング発生のような大きな不利益を伴うことはない。また、同様の理由から、加速の予測の精度は必ずしも高くなくてもよい。
【0048】
次に、図6および図7に基づいて、第2実施例の制御について説明する。この第2実施例は、内燃機関1の加速が複数回繰り返される状況において、1つの加速と次の加速との間で内燃機関1の負荷が低くなっても不必要に高圧縮比に復帰させないようにしたものである。
【0049】
図6に示すフローチャートは、図2に示した第1実施例のフローチャートにステップ10〜12の処理を加えたものであり、他のステップ1〜9の処理は、前述した第1の実施例と実質的に変わりがない。すなわち、所定時間Δt1後に加速が予測されるとして加速予測時圧縮比制御(ステップ6)が開始すると、ステップ1での判定がYESとなるので、ステップ1からステップ10へ進む。ステップ10では、所定時間(第3の所定時間:Δt3)後に、内燃機関1の再加速が行われるかどうかの情報の授受を、カーナビゲーションシステム41(あるいは車車間通信ないし路車間通信の通信ユニット)との間で行う。そして、ステップ11において、所定時間Δt3後にノッキングの懸念のある再加速がなされる可能性があるかどうか、を判定する。所定時間Δt3後に再加速が予測される場合には、終了条件の判定を行うステップ9の処理をスキップする。また、ステップ12において、終了条件の1つである加速予測時圧縮比制御が開始してからの経過時間を計測するタイマをリセットする。
【0050】
従って、この実施例では、加速予測時圧縮比制御を行っている間、所定時間Δt3後に再加速が行われるかどうかの予測を逐次行い、再加速があると予測された場合には、加速予測時圧縮比制御を終了せずに延長することとなる。
【0051】
ステップ11で再加速の予測がない場合には、ステップ9へ進み、前述したように終了条件が成立したかどうかを判定する。加速予測時圧縮比制御を行っている途中で再加速が予測されるとタイマがリセットされるので、最後に再加速の予測がなされてから第2の所定時間Δt2が経過した段階で終了条件が成立し、通常時圧縮比制御に復帰する。
【0052】
図7は、この第2実施例の動作を説明するためのタイムチャートであって、車速変化として示すように、時間t2において第1回の加速がなされ、その後、アクセルペダルが戻されて一旦低負荷運転となった後に、時間t5において第2回の加速(つまり再加速)がなされている。このようなシチュエーションとしては、山岳路で上り勾配と下り勾配とが交互に繰り返し出現する区間の走行、曲線路が繰り返されて曲線路入口での減速と曲線路出口での加速が繰り返される区間の走行、高速道路での追い越しに伴う加速・減速の繰り返し、などが想定される。高速道路での追い越しは、例えば車車間通信と車両のウィンカーの動作の情報を読み込むことで判断可能である。
【0053】
図7の例では、時間t2での実際の加速に先だって時間t1において加速の予測がなされ、加速予測時圧縮比制御に移行する。従って、実際の加速に先だって実圧縮比εrが低下していく。これにより、時間t2での加速時における過渡的なノッキングが回避される。
【0054】
その後、実際の内燃機関1の負荷は低負荷となるが、通常時圧縮比制御に復帰する前に、時間t4において、第2回の加速が予測される。そのため、加速予測時圧縮比制御がそのまま継続される。従って、時間t5において実際に再加速が生じたときに、実圧縮比εrが低いままであり、加速時における過渡的なノッキングが回避される。つまり、再加速時においても低圧縮比への変化が遅れてしまうようなことがない。
【0055】
破線で示す参考例は、実際の内燃機関1の負荷および機関回転速度に応じて圧縮比を制御した場合の例であり、実際の加速が生じた時間t2において低圧縮比側への圧縮比低下が開始する。実際の加速の後、アクセルペダルが戻されて一旦低負荷となると、これに追従して圧縮比が高圧縮比側へ変化しようとする。そして、その変化の途中で再加速が生じるため、再加速に対しては、低圧縮側への圧縮比変化がさらに遅れて生じる。そのため、過渡的なノッキングが生じ、これに伴って大幅な点火時期リタードがなされることになる。
【0056】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、目的地まで自動運転が可能な車両にあっては、運転者のアクセル操作によらずに内燃機関1のアクセル開度が自動制御されることとなるが、このような場合にも本発明は適用が可能である。
【0058】
また、地図情報等から予測される所定時間後の状況に対して運転者が加速を行うかどうかについて、運転者の類似した状況下での運転傾向のデータに基づいて学習を行い、より適切な判定を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…内燃機関
2…可変圧縮比機構
10…エンジンコントローラ
41…カーナビゲーションシステム
43…GPSシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7