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特開2019-218943自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218943(P2019-218943A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20191129BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20191129BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20191129BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20191129BHJP
   C01B 32/30 20170101ALI20191129BHJP
   C01B 32/318 20170101ALI20191129BHJP
【FI】
   F02M25/08 311D
   B01J20/20 B
   B01J20/28 Z
   B01J20/30
   C01B32/30
   C01B32/318
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-9959(P2019-9959)
(22)【出願日】2019年1月24日
(11)【特許番号】特許第6568328号(P6568328)
(45)【特許公報発行日】2019年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2018-115823(P2018-115823)
(32)【優先日】2018年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】今井 大介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳英
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 由生
(72)【発明者】
【氏名】小沢 駿介
(72)【発明者】
【氏名】芳田 千恵
(72)【発明者】
【氏名】藤野 謙一
【テーマコード(参考)】
3G144
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
3G144BA20
3G144BA39
3G144GA12
4G066AA05B
4G066AA14D
4G066AA50D
4G066AC02A
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA35
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA51
4G066DA04
4G066FA03
4G066FA12
4G066FA18
4G066FA23
4G066FA38
4G066GA06
4G146AA06
4G146AB06
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC05A
4G146AC05B
4G146AC09A
4G146AC09B
4G146AC10A
4G146AC22A
4G146AC23B
4G146AC28B
4G146AD32
4G146AD33
4G146BA32
4G146BA42
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC26
4G146BC33B
4G146BD02
4G146BD16
4G146BD18
4G146CB03
(57)【要約】
【課題】自動車に搭載されるキャニスタに適した新たな形態の吸着材を提供することを課題とする。
【解決手段】比表面積、所定の細孔径を有する細孔の容積、シート密度などの種々の指標のうち1又は2以上の要件を満たす活性炭素繊維シートとする。例えば、比表面積が1400〜2200m2/gであり、細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下である細孔の細孔容積が、0.20〜1.20cm3/gであり、且つ、シート密度が0.030〜0.200g/cm3である、活性炭素繊維シートが一実施形態でありうる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が1400〜2200m2/gであり、
細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下である細孔の細孔容積が、0.20〜1.20cm3/gであり、且つ
シート密度が0.030〜0.200g/cm3である、
自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
【請求項2】
全細孔容積が0.50〜1.20cm3/gである、請求項1に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
【請求項3】
該活性炭素繊維シートは、セルロース系繊維の炭化処理物である、請求項1または2に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シートを備えた自動車キャニスタ。
【請求項5】
自動車キャニスタ用活性炭素繊維シートの製造方法であって、
リン酸系触媒若しくは有機スルホン酸系触媒のいずれか一方または双方を保持させた原料シートを、炭化及び賦活化すること、並びに
当該活性炭素繊維シートの密度が0.030〜0.200g/cm3となるように圧密化処理することを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭素繊維シートに関し、詳しくは、自動車のキャニスタ用途に適した活性炭繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車では外気温変化等に伴い燃料タンク内の圧力が変動し、燃料タンク内に充満した蒸散燃料ガスが燃料タンクから放出される。放出される蒸散燃料ガスは、PM2.5や光化学スモッグの原因物質のひとつとされており、これを大気中に放出することを防ぐために、活性炭などの吸着材を備えたキャニスタが設けられている。(以下、本明細書では、自動車に搭載されるキャニスタのことを、「自動車キャニスタ」または単に「キャニスタ」と略称する場合がある。)
【0003】
近年の環境保全意識の高まりに伴い、ガスの排出規制は年々強化される傾向にあるため、キャニスタについても、より高い吸着性能が求められている。また、アイドリングストップ等の普及により、自動車の吸気能力は抑制される傾向にあるため、キャニスタ内の吸着材に吸着したガソリンが脱着しづらい傾向にある。そのため、キャニスタに用いられる吸着材のさらなる高性能化が求められている。キャニスタに用いられる吸着材としては活性炭が用いられており、その形状としては粒状、粉状、又はハニカム形状に成型されたものなどが提案されている(例えば、特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−173137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
古くからある粉状、粒状、又はペレット状の活性炭に対して、活性炭素繊維(または繊維状活性炭)は、第三の活性炭と呼ばれる場合がある。活性炭素繊維は、広義の活性炭の中でも、比較的、高比表面積で吸着容量が大きく、吸脱着速度が早い傾向を有すると言われている。しかしながら、活性炭素繊維はキャニスタに実用化されるに至っておらず、どのような特性を有する活性炭素繊維がキャニスタの実用に適しているのかは、未だ十分に研究、開発が進んでいない。
【0006】
上記のような状況に鑑み、本発明は、自動車キャニスタに適した新たな形態の吸着材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究を進めたところ、自動車キャニスタでは、振動等で吸着材が摩耗しないよう固定される必要があることや、取扱いの容易性等の観点から、活性炭素繊維で形成されたシートが実用的に好適であることを見出した。しかし、自動車では、キャニスタの容積に制限があることなどから、単に活性炭素繊維シートをキャニスタの筐体内に収納しただけでは、キャニスタに求められる単位体積あたりの性能を十分に発揮することが難しいことを見出した。本発明者等は、さらに鋭意検討を進めた結果、下記の手段によって、自動車用キャニスタに好適な活性炭素繊維シートとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
〔1〕比表面積が1400〜2200m2/gであり、
細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下である細孔の細孔容積が、0.20〜1.20cm3/gであり、且つ
シート密度が0.030〜0.200g/cm3である、
自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
〔2〕全細孔容積が0.50〜1.20cm3/gである、上記〔1〕に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
〔3〕該活性炭素繊維シートは、セルロース系繊維の炭化処理物である、上記〔1〕または〔2〕に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
〔4〕上記1〜3のいずれか一項に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シートを備えた自動車キャニスタ。
〔5〕自動車キャニスタ用活性炭素繊維シートの製造方法であって、
リン酸系触媒若しくは有機スルホン酸系触媒のいずれか一方または双方を保持させた原料シートを、炭化及び賦活化すること、並びに
当該活性炭素繊維シートの密度が0.030〜0.200g/cm3となるように圧密化処理することを含む、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、取扱いが容易で、低濃度での吸脱着性能が高く、自動車のキャニスタ用として好適な活性炭素繊維シートを提供することができる。
また、本発明によれば、低濃度での吸脱着性能に優れた自動車キャニスタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、特に断らない限り、数値範囲に関し、「AA〜BB」という記載は、「AA以上BB以下」を示すこととする(ここで、「AA」および「BB」は任意の数値を示す)。
【0011】
1.自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート
本発明の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シートは、賦活化された炭素繊維で形成されているシート状の成形物であり、自動車に搭載されるキャニスタに収納する吸着材として好適に用いられる。(なお、以下、本発明の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シートを、本発明の活性炭素繊維シートと略称する場合がある。)本発明の活性炭素繊維シートは、下記の所定の項目のうち、少なくとも1つ又は任意の2つ以上の組合せからなる条件を満たすものである。
【0012】
<比表面積>
本発明の活性炭素繊維シートの比表面積の下限は、好ましくは1400m2/g以上であり、より好ましくは1500m2/g以上であり、更に好ましくは1600、1700又は1800m2/g以上である。
本発明の活性炭素繊維シートの比表面積は、一般に広い方が吸着性能の観点からは好ましいが、活性炭素繊維シートの場合、比表面積の上限は、概ね2200又は2000m2/g以下でありうる。
比表面積を上記のような範囲とすることによって、蒸散燃料ガスについて、吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0013】
<全細孔容積>
本発明の活性炭素繊維シートの全細孔容積の下限は、好ましくは0.50cm3/g以上であり、より好ましくは0.60cm3/g以上であり、更に好ましくは0.70、0.80又は0.85cm3/g以上である。
本発明の活性炭素繊維シートの全細孔容積の上限は、好ましくは1.20cm3/g以下であり、より好ましくは1.10cm3/g以下であり、更に好ましくは1.00cm3/g以下である。
全細孔容積を上記のような範囲とすることによって、蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0014】
<平均細孔直径>
本発明の活性炭素繊維シートの平均細孔直径の下限は、好ましくは1.69nm以上であり、より好ましくは1.70nm以上であり、更に好ましくは1.72、1.75、1.78又は1.80nm以上である。
本発明の活性炭素繊維シートの平均細孔直径の上限は任意でありうるが、好ましくは4.00nm以下であり、より好ましくは3.50nm以下であり、更に好ましくは3.00nm以下である。
平均細孔直径を上記のような範囲とすることによって、蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0015】
<ウルトラマイクロ孔容積:V0.7
本発明において「ウルトラマイクロ孔」との用語は、細孔径が0.7nm以下の細孔を意味する。
本発明の活性炭素繊維シートのウルトラマイクロ孔容積の下限は、好ましくは0.10cm3/g以上であり、より好ましくは0.20cm3/g以上であり、更に好ましくは0.22又は0.25cm3/g以上である。
本発明の活性炭素繊維シートのウルトラマイクロ孔容積の上限は、好ましくは0.30cm3/g以下であり、より好ましくは0.29cm3/g以下であり、更に好ましくは0.28又は0.27cm3/g以下である。
ウルトラマイクロ孔容積を上記のような範囲とすることによって、蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0016】
<マイクロ孔容積:V2.0
本発明において「マイクロ孔」との用語は、細孔径が2.0nm以下の細孔を意味する。
本発明の活性炭素繊維シートのマイクロ孔容積の下限は、好ましくは0.45cm3/g以上であり、より好ましくは0.50cm3/g以上であり、更に好ましくは0.55、0.60又は0.70cm3/g以上である。
本発明の活性炭素繊維シートのマイクロ孔容積の上限は、好ましくは1.00cm3/g以下であり、より好ましくは0.90cm3/g以下であり、更に好ましくは0.80cm3/g以下である。
マイクロ孔容積を上記のような範囲とすることによって、蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0017】
<細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積:V0.7-2.0
細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積V0.7-2.0は、ウルトラマイクロ孔容積の値aとマイクロ孔容積の値bとを用い、下記式1によって求めることができる。
0.7-2.0=b−a ・・・式1
【0018】
本発明の活性炭素繊維シートにおいて、細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積V0.7-2.0の下限は、好ましくは0.20cm3/g以上であり、より好ましくは0.30cm3/g以上であり、更に好ましくは0.36、0.40又は0.43cm3/g以上である。
本発明の本発明の活性炭素繊維シートにおいて、細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下の細孔の細孔容積V0.7-2.0の上限は、好ましくは1.20cm3/g以下であり、より好ましくは1.00cm3/g以下であり、更に好ましくは、0.90、0.80、0.75又は、0.70cm3/g以下である。
当該細孔容積V0.7-2.0を上記のような範囲とすることによって、蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0019】
<マイクロ孔の容積に占めるマイクロ孔の容積の存在比率:R0.7/2.0
細孔径が2.0nm以下であるマイクロ孔の細孔容積に占める、細孔径が0.7nm以下であるウルトラマイクロ孔の細孔容積の存在比率R0.7/2.0は、ウルトラマイクロ孔容積の値aとマイクロ孔容積の値bとを用い、下記式2によって求めることができる。
0.7/2.0=a/b×100(%) ・・・式2
【0020】
本発明の活性炭素繊維シートにおいて、マイクロ孔容積に占めるウルトラマイクロ孔容積の存在比率R0.7/2.0の下限は、好ましくは25%以上であり、より好ましくは30%以上であり、更に好ましくは32%以上である。
本発明の活性炭素繊維シートにおいて、マイクロ孔容積に占めるウルトラマイクロ孔容積の存在比率R0.7/2.0の上限は、好ましくは60%以下であり、より好ましくは55%以下であり、更に好ましくは50、45又は40%以下である。
当該ウルトラマイクロ孔容積の存在比率R0.7/2.0を上記のような範囲とすることによって、蒸散燃料ガスに対する吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0021】
<坪量(単位面積重量)>
本発明の活性炭素繊維シートの坪量の下限は、好ましくは30g/m2以上であり、より好ましくは35g/m2以上であり、更に好ましくは37又は40g/m2以上である。
本発明の活性炭素繊維シートの坪量の上限は、好ましくは400g/m2以下であり、より好ましくは380g/m2以下であり、更に好ましくは360、350、340又は330g/m2以下である。
坪量を上記のような範囲とすることによって、キャニスタ内に収納できる吸着材の容量の範囲内において、キャニスタ用に要求される吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0022】
<シート厚み>
本発明の活性炭素繊維シートのシート厚みの下限は、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1.0mm又は1.5mm以上である。
本発明の活性炭素繊維シートのシート厚みの上限は、好ましくは8.0mm以下であり、より好ましくは7.0mm以下、さらに好ましくは4.0mm又は3.0mm以下である。
シート厚みを上記のような範囲とすることによって、キャニスタ内に収納できる吸着材の容量の範囲内において、キャニスタ用に要求される吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0023】
<シート密度>
本発明の活性炭素繊維シートの密度の下限は、好ましくは0.030g/cm3以上であり、より好ましくは0.035g/cm3以上であり、更に好ましくは0.040g/cm3以上である。
本発明の活性炭素繊維シートのシート密度の上限は、好ましくは0.200g/cm3以下であり、より好ましくは0.190g/cm3以下であり、更に好ましくは0.180又は0.170g/cm3以下である。
シート密度を上記のような範囲とすることによって、キャニスタ内に収納できる吸着材の容量の範囲内において、キャニスタ用に要求される体積当たりの吸脱着性能についてより優れたシートとすることができる。
【0024】
<引張強度(MD:Machine Direction>
本発明の活性炭素繊維シートの引張強度(MD)の下限は、好ましくは0.05kN/m以上であり、より好ましくは0.06kN/m以上である。
本発明の活性炭素繊維シートの引張強度(MD)の上限は、特に制限はなく任意でありうるが、好ましくは2.50kN/m以下であり、より好ましくは2.40kN/m以下であり、さらに好ましくは2.30、2.20、2.10又は2.00kN/m以下である。
引張強度(MD)を上記のような範囲とすることによって、フレキシブル性を有するシートとすることができる。そのため、加工性に優れ、破損しにくく、キャニスタへの収納作業などにおける取扱いが容易な吸収材とすることができる。
【0025】
<引張強度(CD:Cross Direction>
本発明の活性炭素繊維シートの引張強度(CD)の下限は、好ましくは0.05kN/m以上であり、より好ましくは0.06kN/m以上であり、更に好ましくは0.07kN/m以上である。
本発明の活性炭素繊維シートの引張強度(CD)の上限は、特に制限はなく任意でありうるが、好ましくは2.50kN/m以下、より好ましくは2.40kN/m以下、さらに好ましくは2.30、2.20、2.10又は2.00kN/m以下でありうる。
引張強度(CD)を上記のような範囲とすることによって、フレキシブル性を有するシートとすることができる。そのため、加工性に優れ、破損しにくく、キャニスタへの収納作業などにおける取扱いが容易な吸収材とすることができる。
【0026】
<水分含有量>
本発明の活性炭素繊維シートは、所定の水分含有量を有するものが好適である。例えば、23℃、相対湿度50%の条件下における水分含有量の下限は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上であり、更に好ましくは3%以上である。
また23℃、相対湿度50%の条件下における水分含有量の上限は、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下、更に好ましくは15又は10%以下である。
上記の条件下における水分含有量を上記のような範囲とすることによって、自動車キャニスタ用の吸着材としてより優れたシートとすることができる。
【0027】
<メチレンブルー吸着性能>
本発明の活性炭素繊維シートは、吸着材として、所定のメチレンブルー吸着性能を有することが好ましい。メチレンブルー吸収性能は、活性炭素繊維シート重量当たりのメチレンブルー吸着量として示すことができる。本発明の活性炭素繊維シートが有するメチレンブルー吸着性能は、好ましくは60ml/g以上であり、より好ましくは70ml/g以上であり、更に好ましくは80、90又は100ml/g以上である。
【0028】
<ヨウ素吸着性能>
本発明の活性炭素繊維シートは、吸着材として、所定のヨウ素吸着性能を有することが好ましい。ヨウ素吸収性能は、活性炭素繊維シート重量当たりのヨウ素吸着量として示すことができる。本発明の活性炭素繊維シートが有するヨウ素吸着性能は、好ましくは800mg/g以上であり、より好ましくは900mg/g以上であり、更に好ましくは1000、1100又は1200mg/g以上である。
【0029】
<n−ブタン吸脱着性能>
本発明の活性炭素繊維シートは、吸着材として、所定のn―ブタン吸脱着性能を有することが好ましい。n−ブタン吸脱着性能は、蒸散ガスの吸脱着性能の指標となるため、n−ブタンの吸脱着性能が優れるものは、自動車キャニスタ用途に好適である。n−ブタン吸脱着性能は、n−ブタンを十分に吸収破過させた後、所定の脱着条件下に置いたときに吸着材から脱離させた後、吸着を繰り返す際の吸着量を、活性炭素繊維シート重量当たりのn−ブタンの有効吸着量として示すことができる。
【0030】
本発明の活性炭素繊維シートの好ましい形態としては、下記実施例において示した測定方法に従って求められるn−ブタンの有効吸脱着量(2回目の吸着量、脱着量、および3回目吸着量、脱着量の平均)が、好ましくは0.380mmol/g以上であり、より好ましくは0.420mmol/g以上であり、更に好ましくは0.450、0.500、又は0.550mmol/g以上でありうる。
また、本発明の活性炭素繊維シートの好ましい形態としては、下記実施例において示した測定方法に従って求められるn−ブタンの有効吸脱着率が、好ましくは29.0%以上であり、より好ましくは31.0%以上であり、更に好ましくは32.0又は34.0%でありうる。
【0031】
<好適な条件の組合せ>
本発明の活性炭素繊維シートは、上記の物性又は性能に係る項目のうち、少なくとも1つ又は任意の2つ以上の組合せからなる条件を満たすものであるが、好ましい組合せの例を以下に示す。なお、本発明の活性炭素繊維シートは下記の組合せの例に限定されるものではない。
【0032】
<実施形態1のシート>
以下の(1)〜(3)の要件を満たす自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
(1)比表面積が1400〜2200m2/gである。
(2)細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下である細孔の細孔容積が、0.20〜1.20cm3/gである。
(3)シート密度が0.030〜0.200g/cm3である。
【0033】
自動車キャニスタ用の吸着材に吸着させる主たる対象は、蒸散燃料ガスである。蒸散燃料ガスに対する吸着性能の観点から、上記のような比表面積及び上記細孔容積V0.7-2.0を満たすことが好適である。
また、自動車キャニスタには大きさの制限があるため、活性炭素繊維シートを用いて吸着可能な量を担保する観点から、更に上記(3)のシート密度要件を満たすことが好ましい。活性炭素繊維シートは、原料の繊維シートを炭化して形成されることもあり、一般に、やや嵩高く、密度が低い傾向がある。上記(3)の要件を満たすために、活性炭素繊維シートは、製造過程において加圧処理等が行われ、圧密化されたものが好ましい。
このように、実施形態1のシートは、自動車キャニスタに求められる吸着性能および吸着容量の観点から好適な形態となっている。
【0034】
<実施形態2のシート>
実施形態1の(1)〜(3)の要件に加え更に、下記(4)の要件を満たす自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
(4)全細孔容積が0.50〜1.20cm3/gである。
【0035】
上記(1)〜(3)の要件を満たし、且つ(4)の要件を満たすことにより、キャニスタに求められる吸着容量を担保する観点から、より好ましい実施形態のシートとすることができる。
【0036】
2.キャニスタ
本発明の活性炭素繊維シートは、自動車キャニスタに収納される吸着材として好適である。すなわち、本発明は、他の一実施形態として、自動車キャニスタも提供することができる。
【0037】
本発明の自動車キャニスタは、吸着材として活性炭素繊維シートを搭載したものである。自動車キャニスタの構造については、特に制限はなく、一般的な構造のものを採用しうる。例えば、自動車キャニスタとしては、以下のような構造を有するものが挙げられる。
【0038】
筐体と、
筐体内において吸着材を収納する吸着材室と、
吸着材室とエンジンとの間でガスを吸入または送出可能に連通するための第1の送出入口と、
吸着材室と燃料タンクとの間でガスを吸入または送出可能に連通するための第2の送出入口と、
吸着材室または外気から所定の圧力が負荷されたときに開口し、吸着材室と外気との間でガスを吸入または排出可能に連通するための第3の送出入口と、
を備えるキャニスタ。
【0039】
各送出入口の配置は、特に制限はないが、第3の送出入口は、第1および第2の送出入口との間でガスが移動する際に、ガスが吸着材を十分に通過する位置に配置されることが好ましい。例えば、第1および第2の送出入口を、筐体の第1の側面部に設け、第3の送出入口を第1の側面部の対面に位置する第2の側面部に設けるなどの実施形態を採りうる。
【0040】
吸着材室は、複数の室に分けて設けてもよい。例えば、吸着材室は、隔壁により2又はそれ以上の区画に区分けされていてもよい。隔壁としては、通気性のある多孔板などを用いうる。また、第1の筐体とは別に外付けの第2筐体を設け、第1の筐体と第2の筐体とをガス通路を介して連通するようにして、吸着材室を追加装備してもよい。このように複数の区画または筐体が設けられる場合、好ましい一形態として、各区画又は筐体単位で、蒸散燃料ガス送出入口側(第1の送出入口側)から外気口側(第2の送出入口側)へ向かい、吸着容量が順次小さくなるように、吸着材または吸着材室を配置しうる。具体的には、例えば、本体キャニスタ(第1の筐体)とこれに対し外気口寄りに付加する第2のキャニスタ(第2の筐体)とを備えた複合キャニスタの形態としうる。このように複数の区画または筐体を設ける場合、最も蒸散燃料ガス送出入口側の区画又は筐体を、最も収納容積が大きな本体(第1区画または第1筐体)とし、当該本体には従来の廉価な活性炭を収納させる一方、相対的に収納容積の小さい第2区画又は第2筐体以後に、本発明の低濃度の吸脱着性能に優れた活性炭素繊維シートを収納することにより、コストを抑えつつ、高性能なキャニスタとすることも可能である。
【0041】
複数の吸着材室がある場合、外気口寄りの吸着材室では、前層から流入してくる蒸散燃料ガスの濃度は薄くなる。そのため、0.2%程度の低濃度でのn−ブタン吸着能力が高い本発明の活性炭素繊維シートは、外気口寄りに位置する第2区画または第2筐体以後の吸着材室に収納する吸着材として好適である。
また、本発明の活性炭素繊維シートを外気口寄りの吸着材室に用いる場合、本発明の活性炭素繊維シートはパージによる有効吸脱着量が高いため、自動車を長時間停車した場合の蒸散燃料ガスのリーク量を低減することができるという点でも自動車キャニスタに用いる吸着材として好適である。
【0042】
したがって、好ましいキャニスタの形態として、例えば、以下のような形態が挙げられる。
吸着材室を2つ又はそれ以上有する自動車用キャニスタであって、
最も蒸散燃料ガス送出入口寄りに設けられた第1の吸着材室よりも外気口寄りに設けられた第2又はそれ以降の吸着材室に、本発明の活性炭素繊維シートが収納されている自動車用キャニスタ。
また、好ましい活性炭素炭素繊維シートの一形態としては、例えば、上記のように2つ又はそれ以上の吸着材室を有する自動車キャニスタにおいて、第2又はそれ以降の吸着材室用の活性炭素繊維シートとすることも好適である。
上記の形態において、吸着材室は2つでもよいし、それ以上の数であってもよい。また、吸着材室が3つ以上ある場合には、本発明の活性炭素繊維シートは、第2の吸着材室以後の少なくとも1つの吸着材室に収納されていればよい。
【0043】
3.活性炭素繊維シートの製造方法
上記本発明の活性炭素繊維シートは、上記に示したような所定の項目のうちから選ばれる要件を満たすように製造する。本発明の活性炭素繊維シートは、例えば、以下のようにして作製することができる。
【0044】
本発明の活性炭素繊維シートの製造方法の好適な方法の一実施形態として、
リン酸系触媒若しくは有機スルホン酸系触媒のいずれか一方または双方を保持させた原料シートを炭化及び賦活化すること、並びに
当該活性炭素繊維シートの密度が0.030〜0.200g/cm3となるように加圧処理すること、
を含む製法を挙げられる(以下、製法実施形態1という)。
【0045】
3−1.原料シート(前駆体)の調製
<繊維の種類>
原料シートを構成する繊維としては、例えば、セルロース系繊維、ピッチ系繊維、PAN系繊維、フェノール樹脂系繊維などが挙げられ、好ましくはセルロース系繊維が挙げられる。
【0046】
<セルロース系繊維>
セルロース系繊維とは、セルロース及び/又はその誘導体を主成分として構成される繊維である。セルロース、セルロース誘導体は、化学合成品、植物由来、再生セルロース、バクテリアが産生したセルロースなど、その由来はいずれであってもよい。セルロース系繊維として好ましくは、例えば、樹木などから得られる植物系セルロース物質で形成された繊維、および、植物系セルロース物質(綿、パルプなど)に化学処理を施して溶解させて得られる長い繊維状の再生セルロース系物質から構成された繊維などを用いうる。また、この繊維には、リグニンやヘミセルロースなどの成分が含まれていても構わない。
【0047】
セルロース系繊維(植物系セルロース物質、再生セルロース物質)の原料としては、例えば、綿(短繊維綿、中繊維綿、長繊維綿、超長綿、超・超長綿など)、麻、竹、こうぞ、みつまた、バナナ、および被嚢類などの植物性セルロース繊維;銅アンモニア法レーヨン、ビスコース法レーヨン、ポリノジックレーヨン、竹を原料とするセルロースなどの再生セルロース繊維;有機溶剤(NメチルモルフォリンNオキサイド)紡糸される精製セルロース繊維;並びに、ジアセテートやトリアセテートなどのアセテート繊維、などが挙げられる。これらの中では、入手のし易さから、キュプラアンモニウムレーヨン、ビスコース法レーヨン、精製セルロース繊維から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0048】
セルロース系繊維を構成する単繊維の径は、好ましくは、5〜75μm、密度は1.4〜1.9m3/gである。
【0049】
セルロース系繊維の形態は、特に限定されるものではなく、目的に合わせて、原糸(未加工糸)、仮撚糸、染色糸、単糸、合撚糸、カバリングヤーン等に調製したものを用いることができる。また、セルロース系繊維が2種以上の原料を含む場合には、混紡糸、混撚糸等としてもよい。さらに、セルロース系繊維として、上記した各種形態の原料を、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの中では、複合材料の成型性や機械強度の両立から無撚糸であることが好ましい。
【0050】
<繊維シート>
繊維シートは、多数の繊維を薄く広いシート状に加工したもののことをいい、織物、編み物、および不織布などが含まれる。
【0051】
セルロース系繊維を製織する方法について特に制限はなく、一般的な方法を用いることができ、また、その織地の織組織も、特に制限はなく、平織、綾織、朱子織の三原組織を用いうる。
【0052】
セルロース系繊維で形成された織物は、セルロース系繊維の経糸及び緯糸同士の隙間が、好ましくは0.1〜0.8mmであり、より好ましくは0.2〜0.6mmであり、さらに好ましくは0.25〜0.5mmである。さらに、セルロース系繊維からなる織物の目付は、好ましくは50〜500g/m2であり、より好ましくは100〜400g/m2である。
【0053】
セルロース系繊維及びセルロース系繊維からなる織物を上記範囲とすることにより、この織物を加熱処理して得られる炭素繊維織物は、強度に優れたものとすることができる。
【0054】
不織布の製造方法も、特に限定されないが、例えば、適当な長さに切断された前述の繊維を原料とし乾式法または湿式法などを用いて繊維シートを得る方法や、エレクトロスピニング法などを用いて溶液から直接繊維シートを得る方法などが挙げられる。さらに不織布を得た後に繊維同士を結合させる目的でレジンボンド、サーマルボンド、スパンレース、ニードルパンチ等による処理を加えてもよい。
【0055】
3−2.触媒
製法実施形態1では、上記のようにして用意された原料シートに、触媒を保持させる。原料シートに触媒を保持させて炭化処理を行い、さらに水蒸気や二酸化炭素、空気ガス等を用いて賦活化し、多孔質の活性炭素繊維シートを得ることができる。触媒としては、例えば、リン酸系触媒、有機スルホン酸系触媒などを用いうる。
【0056】
<リン酸系触媒>
リン酸系触媒としては、例えば、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸等のリンのオキシ酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジメチルホスホノプロパンアミド、ポリリン酸アンモニウム、ポリホスホニトリルクロライド、およびリン酸、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩またはトリス(1−アジリジニル)ホスフィンオキサイドと尿素、チオ尿素、メラミン、グアニン、シアナミツド、ヒドラジン、ジシアンジアミドまたはこれらのメチロール誘導体との縮合物などが挙げられ、好ましくはリン酸水素二アンモニウムが挙げられる。リン酸系触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。リン酸系触媒を水溶液として用いる場合、その濃度は、好ましくは0.05〜2.0mol/Lであり、より好ましくは0.1〜1.0mol/Lである。
【0057】
<有機スルホン酸系触媒>
有機スルホン酸としては、1又は複数のスルホ基を有する有機化合物を用いることができ、例えば脂肪族系、芳香族系など種々の炭素骨格にスルホ基が結合した化合物が利用可能である。有機スルホン酸系触媒としては、取扱いの観点から、低分子量のものが好ましい。
【0058】
有機スルホン酸系触媒としては、例えば、R−SO3H(式中、Rは炭素原子数1〜20の直鎖/分岐鎖アルキル基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、または、炭素原子数6〜20のアリール基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基はそれぞれアルキル基、水酸基、ハロゲン基で置換されていても良い。)で表される化合物が挙げられる。有機スルホン酸系触媒としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、ビニルスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸などが挙げられる。このうち、好ましくは、メタンスルホン酸を用いうる。また、有機スルホン酸系触媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0059】
有機スルホン酸を水溶液として用いる場合、その濃度は、好ましくは0.05〜2.0mol/Lであり、より好ましくは0.1〜1.0mol/Lである。
【0060】
<混合触媒>
上記、リン酸系触媒および有機スルホン酸系触媒は、混合して、混合触媒として用いてもよい。混合比は適宜調整してよい。
【0061】
<触媒の保持>
原料シートに対し触媒を保持させる。ここで「保持」とは、触媒が原料シートに接触した状態を保つことを意味し、付着、吸着、含浸などの諸形態でありうる。触媒を、保持させる方法には特に制限はないが、例えば、触媒を含む水溶液に浸漬する方法、触媒を含む水溶液を原料シートに対して振りかける方法、気化した触媒蒸気に接触させる方法、触媒を含む水溶液に原料シートの繊維を混ぜて抄紙する方法などが挙げられる。
【0062】
十分に炭化させる観点から、好ましくは、触媒を含む水溶液に原料シートを浸漬し、繊維内部まで触媒を含浸させる方法を用いることができる。触媒を含む水溶液に浸漬する際の温度は特に制限されないが、室温が好ましい。浸漬時間は、好ましくは10秒〜120分間、より好ましくは20秒〜30分間である。浸漬により、原料シートを構成する繊維に、例えば1〜150質量%、好ましくは5〜60質量%の触媒が吸着する。浸漬後、原料シートを取り出して、乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては、例えば室温で放置、乾燥機に導入する、などのいずれの方法であってもよい。乾燥は、触媒を含む水溶液から取り出した後、余分の水分が蒸発して試料重量の変化がなくなるまで行えばよい。例えば室温乾燥では、乾燥時間は0.5日以上放置すればよい。乾燥により質量変化が殆どなくなった後、触媒を保持した原料シートを炭化する工程へと進む。
【0063】
3−3.炭化処理
触媒を保持させた原料シートを用意した後、それを炭化処理を行う。活性炭素繊維シートを得るための炭化処理は、一般的な活性炭の炭化方法に沿って行うことができるが、好ましい実施形態として、以下のようにして行うことができる。
【0064】
炭化処理は、通常、不活性ガス雰囲気中で行う。本発明において、不活性ガス雰囲気とは、炭素が燃焼反応しにくく炭化する無酸素又は低酸素雰囲気のことを意味し、好ましくは、例えば、アルゴン、窒素などのガス雰囲気でありうる。
【0065】
触媒を保持させた原料シートは、上述の所定のガス雰囲気中で、加熱処理し、炭化させる。
【0066】
加熱温度の下限は、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは400℃以上又は750℃以上である。
加熱温度の上限は、好ましくは1400℃以下であり、より好ましくは1300℃以下であり、さらに好ましくは1200℃以下又は1000℃以下である。
このような加熱温度設定とすることにより、繊維形態が維持された炭素繊維シートを得ることができる。加熱温度が上記の下限以下であると、炭素繊維の炭素含有量が80%以下で炭化が不十分となりやすい。
【0067】
加熱処理時間の下限は、昇温の時間も含め、好ましくは10分以上であり、より好ましくは11分以上であり、さらに好ましくは12分以上であり、より好ましくは30分以上である。
加熱処理時間の上限は任意でありうるが、好ましくは180分以下であり、より好ましくは160分であり、さらに好ましくは140分以下である。
原料シートに十分に触媒を含浸させ、上記の好適な加熱温度に設定し、加熱処理時間を調整することにより、細孔形成の進行程度を調整することができ、比表面積、各種細孔の容積、平均細孔直径などの多孔体としての物性を調整することができる。
加熱処理時間が上記の下限より少ないと、炭化が不十分となりやすい。
【0068】
また加熱処理としては、上記のような加熱処理(一次加熱処理という場合がある)後に、さらに所定のガス雰囲気中で、更に再加熱処理を行うこともできる。すなわち、炭化処理は、温度などの条件が異なる加熱処理を複数の段階に分けて行ってもよい。所定の条件で一次加熱処理と再加熱処理を行うことにより、物性を調整し、炭化、後の賦活化をより良好に進行させ、吸脱着性に優れた活性炭素繊維シートを得ることができる場合がある。
【0069】
3-4.賦活化処理
本発明における賦活化処理としては、例えば上記加熱処理後に連続して、水蒸気を供給し適切な賦活温度で所定時間保持することで行うことができ、活性炭素繊維シートを得ることができる。
【0070】
賦活温度の下限は、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは350℃以上であり、更に好ましくは、400又は750℃以上である。
他方、賦活温度の上限は、好ましくは1400℃以下であり、より好ましくは1300℃以下であり、さらに好ましくは1200又は1000℃以下である。
なお、加熱処理後に連続して賦活処理を行う場合、加熱処理温度と同等程度に調整することが望ましい。
【0071】
賦活時間の下限は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以上である。
賦活時間の上限は任意でありうるが、好ましくは180分以下であり、より好ましくは160分以下であり、さらに好ましくは140分以下、100分以下、50分以下、30分以下である。
【0072】
3−5.圧密化処理
本発明の活性炭素繊維シートは、シート密度が調整されたものであることが好ましい。シート密度を調整するためには、製造工程のいずれかの段階において、圧密化処理することが好ましい。圧密化処理は、例えば、シートを加圧処理し、高密度化することにより行いうる。
【0073】
圧密化処理の実施形態としては、例えば、以下のような4種類が挙げられる。
(1)原料シートに樹脂などのバインダーを含有させ加温加圧処理を施し、高密度化した原料シートを調製し、炭化処理する。
(2)炭化処理を行う工程において、炭化処理を行いつつ、シートを加圧処理する。
(3)炭化処理を施した後、樹脂などのバインダーを含有させ活性炭素繊維シートを加温加圧処理する。
(4)活性炭素繊維シートを解繊し、パルプ等と混抄する。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0075】
活性炭素繊維シートおよび粒状活性炭の物性および性能に関する各種項目について、下記に示す方法により、測定および評価を行った。なお、本発明を規定する各種の数値は以下の測定方法および評価方法により求めることができる。
【0076】
<比表面積>
活性炭素繊維シートを約30mg採取し、200℃で20時間真空乾燥して秤量し、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP−maxII(マイクロトラック・ベル社)を使用して測定した。液体窒素の沸点(77K)における窒素ガスの吸着量を相対圧が10-8オーダー〜0.990の範囲で測定し、試料の吸着等温線を作成した。この吸着等温線を、解析相対圧範囲を吸着等温線I型(ISO9277)の条件で自動的に決定したBET法により解析し、重量当たりのBET比表面積(単位:m2/g)を求め、これを比表面積(単位:m2/g)とした。
【0077】
<全細孔容積>
上記比表面積の項で得られた等温吸着線の、相対圧0.990での結果より1点法での全細孔容積(単位:cm3/g)を算出した。
【0078】
<平均細孔直径>
次式3により算出した。
平均細孔直径(単位:nm)=4×全細孔容積×103÷比表面積 ・・・式3
【0079】
<ウルトラマイクロ孔容積>
上記比表面積の項で得られた等温吸着線を、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP−maxII(マイクロトラック・ベル社)付属の解析ソフトBELMasterを用いて、解析設定を「スムージング(細孔分布の解析全点で前後1点を使用した移動平均処理)」、「分布関数:No−assumption」、「細孔径の定義:Solid and Fluid Def. Pore Size」、「Kernel:Slit−C−Adsorption」としたGCMC法によって解析し、得られた吸着時の細孔分布曲線の結果から、0.7nmの積算細孔容積を読み取り、ウルトラマイクロ孔容積(単位:cm3/g)とした。
【0080】
<マイクロ孔容積>
上記比表面積の項で得られた等温吸着線を、高精度ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP−maxII(マイクロトラック・ベル社)付属の解析ソフトBELMasterを用いて、解析設定を「スムージング(細孔分布の解析全点で前後1点を使用した移動平均処理)」、「分布関数:No−assumption」、「細孔径の定義:Solid and Fluid Def. Pore Size」、「Kernel:Slit−C−Adsorption」としたGCMC法によって解析し、得られた吸着時の細孔分布曲線の結果から、2.0nmの積算細孔容積を読み取り、マイクロ孔容積(単位:cm3/g)とした。
【0081】
<シート坪量>
活性炭素繊維シートを、温度23±2℃、相対湿度50±5%の環境下で12時間以上静置し、重量と縦横の寸法からシート坪量(単位:g/m2)を求めた。
【0082】
<シート厚み>
活性炭素繊維シートを、温度23±2℃、相対湿度50±5%の環境下で12時間以上静置し、デジタル小型側厚器FS−60DS(大栄科学精器製作所社)を用いて、0.3KPaの荷重をかけた際のシート厚さ(単位:mm)を測定した。
【0083】
<シート密度>
次式4により算出した。
シート密度(単位:g/cm3)=シート坪量÷シート厚み÷103 ・・・式4
【0084】
<引張強度(MD)、引張強度(CD)、伸び率(MD)、伸び率(CD)>
活性炭素繊維シートを、温度23±2℃、相対湿度50±5%の環境下で12時間以上静置し、Machine Direction(MD)方向及びこれと直行するCross Direction(CD)方向から、それぞれ試験片(幅15mm、長さ50〜60mm)を各方向が長さとなるように切り取り、テンシロン万能試験機RTG−1210(エー・アンド・デイ社)を用いて、つかみ間隔40mm、引っ張り速度100mm/分で引っ張り、次式5および6により引張強度および伸び率をそれぞれ算出した。
【0085】
<式5>
引張強度(単位:kN/m)=試験中に加わった最大荷重(単位:N)÷15mm
【0086】
<式6>
伸び率(単位:%)=最大荷重時の伸長量(単位:mm)÷40mm
【0087】
<水分含有量>
活性炭素繊維シートを、温度23±2℃、相対湿度50±5%の環境下で12時間以上静置後、試料を0.5〜1.0g採取し、乾燥機で115±5℃3時間以上乾燥させた際の重量変化から、水分(単位:%)を求めた。
【0088】
<メチレンブルー吸着性能>
日本水道協会規格水道用粉末活性炭(JWWA K113)のメチレンブルー脱色力(単位:ml/g)に従って測定した結果を、メチレンブルー吸着性能(単位:ml/g)とした。
【0089】
<ヨウ素吸着性能>
日本水道協会規格水道用粉末活性炭(JWWA K113)のヨウ素吸着性能(単位:mg/g)に従って測定した。
【0090】
<n−ブタン吸脱着性能>
活性炭素繊維シートを0.114cm3採取し、触媒分析装置BELCATII(マイクロトラック・ベル社)を使用して測定した。試験温度25℃で、窒素ガスで0.2%濃度に希釈したノルマルブタンガス50cm3/分を試料に流しn−ブタンを吸着破過させ、その後、活性炭素繊維シート体積の2000倍になるよう窒素ガス23cm3/分を約600秒間試料に流しn−ブタンを脱着させる事を3回繰り返した。2回目吸着量、2回目脱着量、3回目吸着量、3回目脱着量の平均を有効吸脱着量(mmol/g)、有効吸脱着量を1回目の吸着量で除した割合を有効吸脱着率(%)とした。
【0091】
<実施例1>
レーヨン繊維(1.7dtex、繊維長40mm)からなる坪量300g/m2のニードルパンチ不織布に5〜8%リン酸水素二アンモニウム水溶液を含浸し、絞液後、乾燥して、8〜10重量%付着させた。得られた前処理不織布を加圧しながら窒素雰囲気中、900℃まで50分で昇温し、この温度で4分保持した。引き続きその温度で露点60℃の水蒸気を含有する窒素気流中で10分間賦活処理を行った。
【0092】
<実施例2:>
レーヨン繊維(3.3dtex、繊維長76mm)からなる坪量300g/m2のニードルパンチ不織布に5〜8%リン酸水素二アンモニウム水溶液を含浸し、絞液後、乾燥して、8〜10重量%付着させた。得られた前処理不織布を窒素雰囲気中、900℃まで50分で昇温し、この温度で12分保持した。引き続きその温度で露点60℃の水蒸気を含有する窒素気流中で10分間賦活処理を行った。
【0093】
<実施例3:> 実施例2における賦活処理時間を23分に変更した以外は、実施例2と同じ方法で、実施例3の活性炭素繊維シートを作製した。
【0094】
<比較例1:>
実施例2における900℃までの昇温時間を25分に、900℃保持時間を2分に、賦活処理時間を6分に変更した以外は、実施例2と同じ方法で、比較例1の活性炭素繊維シートを作製した。
【0095】
<比較例2:粒状活性炭>
市販のキャニスタに充填された粒状活性炭を取り出し、比較例2の吸着材として用いた。市販のキャニスタとして、品番:77740−48220(トヨタ部品山口共販株式会社)のキャニスタを用いた。
【0096】
実施例1〜3、並びに比較例1及び2について物性および性能を測定した結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2019年6月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が1400〜2200m2/gであり、
細孔径が0.7nmより大きく2.0nm以下である細孔の細孔容積0.7-2.0が、0.20〜0.70cm3/gであり、
細孔径が2.0nm以下である細孔の細孔容積に占める、細孔径が0.7nm以下である細孔の細孔容積の存在比率R0.7/2.0が、25%以上であり、且つ
シート密度が0.030〜0.200g/cm3である、
自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
【請求項2】
全細孔容積が0.60〜1.20cm3/gである、請求項1に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
【請求項3】
該活性炭素繊維シートは、セルロース系繊維の炭化処理物である、請求項1または2に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車キャニスタ用活性炭素繊維シートを備えた自動車キャニスタ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
<マイクロ孔の容積に占めるウルトラマイクロ孔の容積の存在比率:R0.7/2.0
細孔径が2.0nm以下であるマイクロ孔の細孔容積に占める、細孔径が0.7nm以下であるウルトラマイクロ孔の細孔容積の存在比率R0.7/2.0は、ウルトラマイクロ孔容積の値aとマイクロ孔容積の値bとを用い、下記式2によって求めることができる。
0.7/2.0=a/b×100(%) ・・・式2