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特開2019-218973内燃機関のクランク軸用主軸受および軸受装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-218973(P2019-218973A)
(43)【公開日】2019年12月26日
(54)【発明の名称】内燃機関のクランク軸用主軸受および軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20191129BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20191129BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20191129BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20191129BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20191129BHJP
【FI】
   F16C9/02
   F16C17/02 Z
   F16C33/10 Z
   F02F7/00 301F
   F01M1/06 A
   F01M1/06 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-114978(P2018-114978)
(22)【出願日】2018年6月15日
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 志歩
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 康志
【テーマコード(参考)】
3G024
3G313
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3G024AA53
3G024AA55
3G024BA23
3G024FA07
3G313BC01
3G313BC02
3G313BD27
3G313BD29
3G313BD37
3J011AA07
3J011AA20
3J011BA02
3J011BA13
3J011CA01
3J011DA02
3J011JA02
3J011KA02
3J011LA08
3J011MA06
3J011MA23
3J011NA01
3J011QA02
3J011RA01
3J033AA05
3J033GA02
3J033GA03
3J033GA04
3J033GA05
(57)【要約】
【課題】内燃機関のクランク軸用主軸受において、下側の半割軸受の摺動面の温度を低下させること。
【解決手段】本発明によれば、主軸受が第1および第2の半割軸受を有し、第1および第2の半割軸受の突合せ部分の内周面側に軸線方向溝が形成される。第2の半割軸受はその内周面に周方向に延びる部分溝を有し、部分溝の周方向前端部が、軸線方向溝から第2の半割軸受の周方向中央部へ向かって円周角度1°以上に相当する第1の周方向距離だけ離間し、また部分溝の周方向後端部が、第2の半割軸受の、クランク軸の回転方向前方側の周方向端面から第2の半割軸受の周方向中央部側へ向かって円周角度5°〜45°の範囲内の内周面上に位置する。第1の周方向距離L1は、ジャーナル部の入口開口の周方向長さL2より小さく、それにより部分溝は、ジャーナル部の潤滑油路を介して軸線方向溝と流体連通することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸のジャーナル部を回転自在に支持するための主軸受であって、前記ジャーナル部が、円筒胴部と、前記円筒胴部を貫通して延びる潤滑油路と、前記円筒胴部の外周面上に形成された前記潤滑油路の少なくとも1つの入口開口とを有している、主軸受において、
前記主軸受は第1および第2の半割軸受を有し、前記第1および第2の半割軸受は、前記第1の半割軸受のそれぞれの周方向端面を前記第2の半割軸受のそれぞれの周方向端面と突き合わせることによって円筒形状に組み合わされ、
前記第1および第2の半割軸受は、互いに組み合わされたとき、それぞれの突合せ部分の内周面側に、前記主軸受の軸線方向全長に亘って延びる軸線方向溝を共に形成するように構成され、
前記第1の半割軸受は、その内周面に延びる油溝を有し、
前記第2の半割軸受は、その内周面に周方向に延びる部分溝を有し、前記部分溝の、前記クランク軸の回転方向前方側の周方向前端部が、前記軸線方向溝から前記第2の半割軸受の周方向中央部へ向かって円周角度1°以上離間して前記内周面上に位置し、また前記部分溝の、前記クランク軸の回転方向後方側の周方向後端部が、前記第2の半割軸受の、前記クランク軸の回転方向前方側の周方向端面から前記第2の半割軸受の周方向中央部へ向かって円周角度5°〜45°の範囲内の前記内周面上に位置し、
前記軸線方向溝の、前記クランク軸の回転方向後方側の周方向端部と、前記部分溝の前記周方向前端部とはしたがって第1の周方向距離だけの離間しており、
前記部分溝の軸線方向幅の中央が、前記ジャーナル部の前記入口開口の中心と整合するように配置され、
前記第1の周方向距離が、前記ジャーナル部の前記入口開口の周方向長さより小さく、それにより前記部分溝は、前記軸線方向溝と、前記ジャーナル部の前記潤滑油路を介して流体連通するようになっている
主軸受。
【請求項2】
前記第1の周方向距離L1と前記ジャーナル部の前記入口開口の周方向長さL2とが、関係式:L2−L1≧0.5mmを満たす、請求項1に記載の主軸受。
【請求項3】
前記第1の周方向距離L1と前記ジャーナル部の前記入口開口の周方向長さL2とが、関係式:L1≧L2×0.3を満たす、請求項1または2に記載の主軸受。
【請求項4】
前記第1の周方向距離L1と前記ジャーナル部の前記入口開口の周方向長さL2とが、関係式:L1≧L2×0.6を満たす、請求項3に記載の主軸受。
【請求項5】
前記部分溝の軸線方向幅W2と、前記第2の半割軸受の軸線方向長さL3とが、関係式:W2≧L3×0.5を満たす、請求項1から4までのいずれか一項に記載の主軸受。
【請求項6】
前記第2の半割軸受の内周面からの前記部分溝の最大深さが0.01〜0.1mmである、請求項1から5までのいずれか一項に記載の主軸受。
【請求項7】
前記主軸受の内周面からの前記軸線方向溝の最大深さが0.1〜1mmである、請求項1から6までのいずれか一項に記載の主軸受。
【請求項8】
前記主軸受の内周面からの前記軸線方向溝の最大深さが0.1〜0.5mmである、請求項7に記載の主軸受。
【請求項9】
前記主軸受の内周面上における前記軸線方向溝の周方向幅が0.2〜2mmである、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の主軸受。
【請求項10】
前記第1および第2の半割軸受のそれぞれが、周方向両端面に隣接して内周面側に形成された2つのクラッシュリリーフを有する、請求項1から9までのいずれか一項に記載の主軸受。
【請求項11】
前記ジャーナル部の前記円筒胴部の外周面上における前記入口開口の面積が、前記ジャーナル部内の前記潤滑油路の断面積より大きく、したがって前記入口開口と前記潤滑油路の間には断面積が徐々に変化する流路遷移部分が形成されている、請求項1から10までのいずれか一項に記載の主軸受。
【請求項12】
前記ジャーナル部の前記円筒胴部の外周面からの前記流路遷移部分の深さが1〜2mmである、請求項11に記載の主軸受。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか一項に記載の主軸受と、前記主軸受によって支持される前記ジャーナル部とを有する軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸用主軸受に関するものであり、より詳細には、クランク軸のジャーナル部を内燃機関のシリンダブロック下部に支持するための主軸受に関するものである。さらに本発明は、そのような主軸受および対応する軸部から構成される軸受装置にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支持される。この主軸受を潤滑するために、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロックの壁内に形成されたオイルギャラリーおよび主軸受の壁に形成された貫通口を通して、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。クランク軸には、第1潤滑油路がジャーナル部を直径方向に貫通して形成されており、その両端開口で主軸受の潤滑油溝と連通する。さらに、第2潤滑油路が第1潤滑油路から分岐してクランクアーム部を通るように形成され、クランクピンの直径方向に貫通して形成された第3潤滑油路と連通している。したがって、主軸受の潤滑油溝内に送り込まれた潤滑油は、第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を通り、その後、第3潤滑油路の端部開口(クランクピンの外周面上に形成される潤滑油出口)からクランクピンとコンロッド軸受の間の摺動面に供給される。
【0003】
主軸受の潤滑油溝は、一対の半割軸受のうちの少なくとも一方の内周面に、その周方向の全長に亘って形成される(特許文献1の図1)。この場合、シリンダブロック内のオイルギャラリーから主軸受の潤滑油溝に供給された潤滑油は、ジャーナル部の回転にしたがって半割軸受の周方向端部まで主として流れ、その多くが、一対の半割軸受の接合部に形成された軸線方向溝を通して軸受外部に排出される(特許文献2参照)。
【0004】
従来から、主軸受およびコンロッド軸受として、一対の半割軸受から構成されるすべり軸受が採用されている。すべり軸受には、半割軸受同士の接合部に隣接して、いわゆるクラッシュリリーフが形成されている。
クラッシュリリーフとは、半割軸受の周方向端面に隣接する領域の壁厚が、円周方向端面に向かって薄くなるように形成された壁厚減少領域である。クラッシュリリーフは、一対の半割軸受を組み付けた状態における、半割軸受の突合せ面の位置ずれや変形を吸収することを企画して形成される(例えば特許文献3および4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】特開2005−69283号公報
【特許文献3】特開平4−219521号公報
【特許文献4】特開平7−139539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の内燃機関ではオイルポンプが小型化されているため、軸受の内周面に対する潤滑油の供給量が減少する傾向にある。
一対の半割軸受の接合部に軸線方向溝やクラッシュリリーフが形成された従来の主軸受では、シリンダブロック内のオイルギャラリーから主軸受の潤滑油溝に供給された潤滑油は、半割軸受のクランク軸の回転方向前方側の周方向端部まで流れたのち、主軸受の軸線方向溝およびクラッシュリリーフと、ジャーナル部とによって形成される隙間を通して軸受外部に排出されやすい。この場合、潤滑油溝が形成された一方の半割軸受(第1の半割軸受)と対となる他方の半割軸受(第2の半割軸受)の内周面への油の供給が不十分となり、その結果、第2の半割軸受の、特にクランク軸の回転方向前方側の軸線方向溝およびクラッシュリリーフに隣接する領域の内周面がクランク軸のジャーナル部と直接接触して発熱し、その熱により第2の半割軸受の摺動面が損傷しやすい。
【0007】
したがって本発明の目的は、内燃機関のクランク軸のジャーナル部を回転自在に支持するための、第1および第2の半割軸受を有する主軸受において、第2の半割軸受の摺動面の温度を低下させることにより上述した損傷を防ぐことができる主軸受を提供することである。本発明の他の目的は、そのような主軸受およびジャーナル部から構成される軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第一の観点によれば、内燃機関のクランク軸のジャーナル部を回転自在に支持するための主軸受であって、ジャーナル部が、円筒胴部と、円筒胴部を貫通して延びる潤滑油路と、円筒胴部の外周面上に形成された潤滑油路の少なくとも1つの入口開口とを有している、主軸受において、
主軸受は第1および第2の半割軸受を有し、第1および第2の半割軸受は、第1の半割軸受のそれぞれの周方向端面を第2の半割軸受のそれぞれの周方向端面と突き合わせることによって円筒形状に組み合わされ、
第1および第2の半割軸受は、互いに組み合わされたとき、それぞれの突合せ部分の内周面側に、主軸受の軸線方向全長に亘って延びる軸線方向溝を共に形成するように構成され、
第1の半割軸受は、その内周面に延びる油溝を有し、
第2の半割軸受は、その内周面に周方向に延びる部分溝を有し、この部分溝の、クランク軸の回転方向前方側の周方向前端部が、軸線方向溝から第2の半割軸受の周方向中央部へ向かって円周角度1°以上離間して内周面上に位置し、また部分溝の、クランク軸の回転方向後方側の周方向後端部が、第2の半割軸受の、クランク軸の回転方向前方側の周方向端面から第2の半割軸受の周方向中央部へ向かって円周角度5°〜45°の範囲内の内周面上に位置し、
軸線方向溝の、クランク軸の回転方向後方側の周方向端部と、部分溝の周方向前端部とはしたがって第1の周方向距離だけ離間しており、
部分溝の軸線方向幅の中央が、ジャーナル部の入口開口の中心と整合するように配置され、
第1の周方向距離L1が、ジャーナル部の入口開口の周方向長さL2より小さく、それにより部分溝は、軸線方向溝と、ジャーナル部の潤滑油路を介して流体連通するようになっている
主軸受が提供される。
【0009】
本発明の一実施形態では、第1の周方向距離L1とジャーナル部の入口開口の周方向長さL2とが以下の関係式:
L2−L1≧0.5mm
を満たしていてもよい。
【0010】
本発明の他の実施形態では、第1の周方向距離L1とジャーナル部の入口開口の周方向長さL2とが以下の関係式:
L1≧L2×0.3
を満たしていてもよい。
より好ましくは、第1の周方向距離L1とジャーナル部の入口開口の周方向長さL2とが以下の関係式:
L1≧L2×0.6
を満たしていてもよい。
【0011】
本発明の他の実施形態では、部分溝の軸線方向幅W2と、第2の半割軸受の軸線方向長さ(軸受幅)L3とが以下の関係式:
W2≧L3×0.5
を満たしていてもよい。
【0012】
本発明の他の実施形態では、第2の半割軸受の内周面からの部分溝の最大深さが0.01〜0.1mmであってもよい。
【0013】
本発明のさらに他の実施形態では、主軸受の内周面からの軸線方向溝の最大深さが0.1〜1mmであってもよい。
より好ましくは、主軸受の内周面からの軸線方向溝の最大深さが0.1〜0.5mmであってもよい。
【0014】
本発明の他の実施形態では、主軸受の内周面上における軸線方向溝の周方向幅が0.2〜2mmであってもよい。
【0015】
本発明の他の実施形態では、第1および第2の半割軸受のそれぞれが、周方向両端面(前方側の周方向端面および後方側の周方向端面)に隣接して内周面側に形成されたクラッシュリリーフを有していてもよい。
【0016】
本発明の他の実施形態では、ジャーナル部の円筒胴部の外周面上における入口開口の面積が、ジャーナル部内の潤滑油路の断面積より大きく、したがって入口開口と潤滑油路の間には断面積が徐々に変化する流路遷移部分が形成されていてもよい。
好ましくは、ジャーナル部の円筒胴部の外周面からの流路遷移部分の深さが1〜2mmであってもよい。
【0017】
本発明の他の実施形態では、第1の半割軸受の油溝の周方向端部が、内周面上に位置していてもよく、または第1の半割軸受の周方向端面で開口していてもよい。さらに、油溝の軸線方向幅の中央もまた、ジャーナル部の入口開口の中心と整合するように配置されていてもよい。
【0018】
また本発明の第二の観点によれば、上述した第一の観点によるクランク軸用主軸受と、この主軸受によって支持されるジャーナル部とから構成される軸受装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、主軸受の第2の半割軸受は、周囲を摺動面で囲まれた閉じた部分溝を有し、したがってジャーナル部の潤滑油路の入口開口から部分溝内に流れた潤滑油が乱流となり、且つ部分溝内で一時的に滞留する。それゆえ、半割軸受の、回転方向前方側の摺動面が油量不足により相手軸と接触して熱を発生しても、乱流となった油流に熱が効率よく伝達される。さらに、その後クランク軸の回転により部分溝はジャーナル部の潤滑油路を介して軸線方向溝と連通するよう構成されているので、高温となった潤滑油は軸線方向溝を通って軸受外部に排出される。このため、軸受が損傷するほどの高温となることを抑制することができる。
【0020】
本発明の他の目的、特徴および利点は、添付図面に関する以下の本発明の実施例の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピンでそれぞれ截断した模式図である。
図2】本発明の実施例1によるクランク軸用主軸受、およびクランク軸の正面図である。
図3図2に示す主軸受の上側の第1の半割軸受を軸受内周面側から見た平面図である。
図4図2に示す主軸受の下側の第2の半割軸受を軸受内周面側から見た平面図である。
図5図2示す主軸受の第2の半割軸受の正面図である。
図6図2に示す主軸受の第1および第2の半割軸受の接合部、ならびにクランク軸の、軸線方向から見た拡大断面図である。
図7図6に示す主軸受の接合部を軸受内周面側から見た図である。
図8図6に示す主軸受の接合部の拡大正面図である。
図9図6に示す第2の半割軸受の周方向端部付近を軸線方向から見た拡大断面図である。
図10】ジャーナル部の潤滑油路に流路遷移部分が形成された、図6と同様の図である。
図11A図2に示す主軸受の機能を説明するための、主軸受の接合部を軸線方向から見た拡大断面図である。
図11B図2に示す主軸受の機能を説明するための、主軸受の接合部を軸線方向から見た拡大断面図である。
図12図2に示す主軸受の機能を説明するための、主軸受の接合部を軸線方向から見た拡大断面図である。
図13】本発明の実施例2によるクランク軸用主軸受、およびクランク軸の正面図である。
図14図13に示す主軸受の上側の第1の半割軸受を軸受内周面側から見た平面図である。
図15図13に示す主軸受の下側の第2の半割軸受を軸受内周面側から見た平面図である。
図16図13に示す主軸受の第1および第2の半割軸受の接合部、ならびにクランク軸の、軸線方向から見た拡大断面図である。
図17図16に示す主軸受の接合部を軸受内周面側から見た図である。
図18図13に示す主軸受の機能を説明するための、主軸受の接合部を軸線方向から見た拡大断面図である。
図19図13に示す主軸受の機能を説明するための、主軸受の接合部を軸線方向から見た拡大断面図である。
図20図13に示す主軸受の機能を説明するための、主軸受の接合部を軸線方向から見た図である。
図21図13に示す主軸受の機能を説明するための、主軸受の接合部を軸受内周面側から見た拡大断面図である。
図22】クラッシュリリーフを設けた場合の、図2に示す主軸受の接合部の軸線方向から見た拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピンでそれぞれ截断した模式図であり、ジャーナル部10、クランクピン12およびコンロッド14を示す。これら三部材の紙面奥行き方向での位置関係として、ジャーナル部10が紙面の奥側に、クランクピン12が手前側にあり、このクランクピン12は、他端にピストンを担持するコンロッド14の大端部ハウジング16で包囲されている。
【0024】
ジャーナル部10は、一対の半割軸受17、18から構成される主軸受19を介して、内燃機関のシリンダブロック下部(図示せず)に支持されている。図面で上側に位置する第1の半割軸受17に、周方向の全長に亘って周方向に延びる油溝17Gが内周面に形成されている。ジャーナル部10はその直径方向に貫通孔(潤滑油路)10aを有し、ジャーナル部10が矢印X方向に回転すると、貫通孔10aの両端の入口開口が交互に油溝17Gに連通する。図面で下側に位置する第2の半割軸受18に、部分的に周方向に延びる部分溝18Gが内周面に形成されている。
【0025】
ジャーナル部10、図示されないクランクアーム、およびクランクピン12を貫通して、貫通孔10aに連通する内部潤滑油路20がクランク軸内部に形成されている。
【0026】
クランクピン12は、一対の半割軸受22A、22Bから構成されるコンロッド軸受22を介して、コンロッド14の(コンロッド側大端部ハウジング16Aとキャップ側大端部ハウジング16Bから構成される)大端部ハウジング16に保持されている。
【0027】
図2図9に、主軸受19を構成する一対の半割軸受17、18の詳細を示す。図2の紙面上側の第1の半割軸受17は、ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面17A、および後方側に配置される後方側周方向端面17Bを有する。下側の第2の半割軸受18は、ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面18B、および後方側に配置される後方側周方向端面18Aを有する。第1の半割軸受17の前方側周方向端面17Aは第2の半割軸受18の後方側周方向端面18Aと突き合わされ、また第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bは第1の半割軸受17の後方側周方向端面17Bと突き合わされ、それによって円筒形状の主軸受19を構成している。
ところで、内燃機関のクランク軸は、運転時には一方向に回転する。このため当業者であれば、クランク軸の回転方向を考慮し、第1の半割軸受17の周方向両端面のうち、どちらが「ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面17A」であり、どちらが「ジャーナル部10の回転方向Xの後方側に配置される後方側周方向端面17B」であるか認定することができよう。同じく、当業者であれば第2の半割軸受18の「ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面18B」および「ジャーナル部10の回転方向Xの後方側に配置される後方側周方向端面18A」も認定することができよう。また当業者であれば、本発明の開示にしたがって本発明の主軸受19を設計、製造し、これを一方向に回転するクランク軸を支承する軸受装置に適切に組み付けることが可能である。
【0028】
第1の半割軸受17の前方側周方向端面17Aおよび後方側周方向端面17Bは、その内周面側に、軸線方向の全長に亘って面取りの態様で形成された傾斜面17C、17Dをそれぞれ有し、また第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bおよび後方側周方向端面18Aは、その内周面側に、軸線方向の全長に亘って同様に形成された傾斜面18D、18Cをそれぞれ有し、それによって半割軸受17、18の接合部(または突合せ部)には軸線方向溝24A、24Bが形成される。
【0029】
図2および図3から理解されるように、第1の半割軸受17の内周面17Sに形成された油溝17Gは、第1の半割軸受17の内周面の周方向の全長に亘って延びており、第1の半割軸受17の周方向両端面17A、17Bに開口している。なお、本実施例では、油溝17Gは、周方向の全長に亘って、第1の半割軸受17の内周面17Sからの溝深さが一定になされている。しかし、これに限定されないで、油溝17Gの溝深さは、周方向で変化していてもよい。また油溝17Gの最大溝深さは、例えば乗用車用の小型の内燃機関の場合、一般的に0.5〜2.5mm程度であるが、本発明はこれに限定されない。また本実施例では、油溝17Gは、主軸受の軸線方向断面内において矩形断面形状を有するが、他の断面形状であってもよい。
【0030】
図3から理解されるように、油溝17Gは第1の半割軸受17の軸線方向長さ(軸受幅)の中央に配置される。油溝17Gの底部には第1の半割軸受17を径方向に貫通する貫通口(図示せず)が形成され、潤滑油は、シリンダブロックの壁内のオイルギャラリーから、この貫通口を通して油溝17G内に供給される。潤滑油の一部はその後、ジャーナル部10の矢印X方向の回転にしたがって油溝17G内を回転方向前方へ流れ、潤滑油の他の一部は油溝17G内を回転方向と反対方向に流れる。第1の半割軸受17はまた、油溝17Gの幅(軸線方向長さ)W1の中央がジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の中心と整合するように配置されているので(図7は、概ね図6の回転位置にある入口開口26を破線で示す)、油溝17G内に供給された潤滑油は、入口開口26を通してコンロッド軸受22へとさらに流れることができる。ジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の寸法は、内燃機関の仕様により異なるが、例えば乗用車用の小型の内燃機関の場合、入口開口26の直径はφ5〜8mm程度である。
【0031】
図4および図5から理解されるように、第2の半割軸受18の内周面18Sには部分的に周方向に延びる部分溝18Gが形成されており、部分溝18Gの周方向両端部18GF、18GRが第2の半割軸受18の内周面18S上に位置している。より詳細には、図5に示すように、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向前端部18GFは、軸線方向溝24B(傾斜面18D)から第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ1で1°以上離間した内周面18S上に位置し、またクランク軸の回転方向Xの後方側の周方向後端部18GRは、第2の半割軸受18の後方側周方向端面18Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ2で5°〜45°の範囲内の内周面18S上に位置する。したがって図6および図7からよく理解できるように、軸線方向溝24Bと、部分溝18Gの周方向前端部18GFとの間には分離内周面18S’が形成される。第2の半割軸受18はまた、部分溝18Gの幅W2の中央がジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の中心と整合するように配置されている。
なお、本実施例では、第1の半割軸受17の油溝17Gの軸線方向における幅W1(油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部での幅)と、第2の半割軸受18の部分溝18Gの軸線方向における幅W2(部分溝18Gの周方向前端部18GFでの幅)は、同じになされている。
また、図9に示すように、部分溝18Gの、第2の半割軸受18の内周面18Sからの最大深さD2は、0.01〜0.1mmであることが好ましい。本実施例では、部分溝18Gの深さは、部分溝18Gの周方向長さの中央部付近で最大であり、周方向両端部へ向かって小さくなっている。なお、油溝17Gと同様、部分溝18Gも矩形断面形状を有している。
【0032】
図6は、図2に示す主軸受19の紙面左側の接合部を、クランク軸の軸線方向から見た拡大断面図を示す。
図6によれば、軸線方向溝24Bと、第2の半割軸受18の部分溝18Gの周方向前端部18GFとは、第1の周方向距離L1だけ離間していることが理解されよう。この第1の周方向距離L1は、ジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の周方向長さL2より小さくなされており、したがって部分溝18Gは、軸線方向溝24Bと潤滑油路10aを介して流体連通可能である。
【0033】
入口開口26は、図6では潤滑油路10aと同じ断面積を有するものとして記載している。しかし入口開口26は、加工の結果として、例えば図10に示すように潤滑油路10aより大きい断面積を有していてもよく、またジャーナル部10の外周面上において円形または楕円形の開口形状を有していてもよい。入口開口26の断面積が潤滑油路10aの断面積より大きい場合、入口開口26と潤滑油路10aの間には断面積が油路方向に徐々に変化する流路遷移部分29が、ジャーナル部10の外周面から深さ1〜2mmまで形成される(図10)。しかし、いずれの場合も、入口開口26はジャーナル部10の外周面上に周方向長さ(直線距離)L2を有するものと定義されることが理解されよう。
【0034】
(作用)
上述したように、シリンダブロック内のオイルギャラリーから第1の半割軸受17の油溝17Gに供給された潤滑油は、クランク軸の回転に伴ってクランク軸の回転方向前方側の周方向端部まで流れ、その後第2の半割軸受18の内周面18Sに供給される。しかしその際、潤滑油の一部が軸線方向溝24A(およびクラッシュリリーフとクランク軸の間の隙間)から外部へ流出し、第2の半割軸受18への供給油量が減少する。さらに、潤滑油は、第2の半割軸受18の摺動面の軸線方向端部からも外部に流出(サイドリーク)することから、第2の半割軸受18の、クランク軸の回転方向前方側の摺動面では潤滑油が不足し、軸受の内周面とクランク軸の表面とが直接接触しやすい。したがって従来の主軸受では、その直接接触による熱のため、軸受の内周面に損傷が生じやすくなっている。
しかし本発明の主軸受19は、第2の半割軸受19の内周面18Sの回転方向前方側に、軸線方向溝24Bと直接連通していない閉じた部分溝18Gを有しているので、ジャーナル部10の潤滑油路10aと部分溝18Gとが連通を開始する瞬間(図11A図11B)、クランク軸の回転による遠心力から発生する潤滑油路10a内の逆流の圧力と、部分溝18G内の圧力との圧力差によって、潤滑油の高圧な噴出流が閉じた部分溝18G内に分散して流れ込み潤滑油の乱流を発生させ、さらにこの潤滑油が部分溝18G内に一時的に滞留する。軸受の内周面で発生した熱はこの潤滑油の乱流に効率よく伝達され、次いでジャーナル部10の潤滑油路10aを介して部分溝18Gと軸線方向溝24Bとが連通することにより、高温となった潤滑油が軸受の外部へ排出される。これにより、第2の半割軸受が損傷するほどの高温となることを抑制することできる。
なお、部分溝18Gで潤滑油の乱流を発生させることで、先ず、部分溝18Gの表面の熱が潤滑油に伝達されるため、部分溝18Gの表面と部分溝18Gの周囲の半割軸受18の内周面18Sに温度勾配が発生する。そうすると、半割軸受18の内部では、発生した温度勾配を小さくするように内周面18Sの熱が部分溝18G表面へと伝達されるため、結果として半割軸受18の部分溝18Gの周囲の内周面18Sが冷却されることが当業者には理解されよう。
【0035】
より詳細には、図11Bに示すように、潤滑油路10aが部分溝18Gと連通するとき、(1)ジャーナル部10の回転による遠心力F1、および(2)部分溝18G内と潤滑油路10a内の間の潤滑油の圧力勾配による流れ力f2が入口開口26付近の潤滑油に同時に作用し、部分溝18G内への潤滑油の流れ(噴出流)が瞬間的に形成される。このとき、閉じた部分溝18G内に噴出流が流入することで、潤滑油が撹拌されて乱流が発生する。そして上述したようにこの乱流によって軸受の内周面から潤滑油への熱の移動が促進される。
なお、実施形態とは異なり、部分溝18Gの周方向前端部18GFと軸線方向溝24Bを直接連通させた(分離内周面18S’を設けない)場合には、潤滑油路10aが部分溝18Gと連通したときに、部分溝18G内に流入した潤滑油は直ちに部分溝18Gの周方向前端部18GFから軸線方向溝24Bに流れて軸受の外部へ排出されるため、部分溝18で潤滑油の乱流が発生し難くなる。
次いで図12に示すように部分溝18Gが潤滑油路10aを介して軸線方向溝24Bと連通し、開放されると、(1)ジャーナル部10の回転による遠心力F1、(2)軸線方向溝24B内と潤滑油路10a内の間の潤滑油の圧力勾配による流れ力F2、および(3)潤滑油路10a内と部分溝18G内の間の潤滑油の圧力勾配による流れ力F3が、入口開口26付近の潤滑油に同時に作用し、高温となった潤滑油を部分溝18Gから潤滑油路10aを介して軸線方向溝24B内へ移動させる流れ力が瞬間的に形成される。高温となった潤滑油が軸線方向溝24Bへ流出し、そして軸受の外部へ排出されることで、軸受の内周面の熱が除去される。
なお、上述したように入口開口26の断面積が潤滑油路10aの断面積より大きく、したがって流路遷移部分29が少なくとも入口開口26の周方向両側に形成されている場合(図10図12)、軸線方向溝24Bと部分溝18Gが流体連通したときに部分溝18G内の潤滑油が流路遷移部分29の傾斜面によって誘導されるので、高温となった潤滑油は軸線方向溝24Bへ流れやすくなる。またそれにより部分溝18Gの内の油圧が低下すると、次に入口開口26が部分溝18Gと連通を開始するとき(図11A図11B)にその圧力勾配により潤滑油路10a内の潤滑油が部分溝18Gへ流れやすくなり、部分溝18G内に流入する潤滑油の流れ力f2(吐出圧)を強めることができる。
【0036】
本発明によれば、軸線方向溝24Bと部分溝18Gの間の第1の周方向距離L1、より詳細には、軸線方向溝24Bの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部と、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向前端部18GFとの間の第1の周方向距離L1が、入口開口26の周方向長さL2よりも小さいことが要求される。その理由は、L1≧L2の場合、入口開口26が軸線方向溝24Bと連通を開始したときに入口開口26は部分溝18Gと既に連通しておらず、それゆえ図12に示すような部分溝18Gからの流れ力F3が生じず、潤滑油路10aに進入した潤滑油を軸線方向溝24Bに押し流すことができなくなるからである。
【0037】
潤滑油路10aに進入した潤滑油を軸線方向溝24Bに押し出す流れ力を生じさせるために、軸線方向溝24Bと部分溝18Gの間の第1の周方向距離L1と、入口開口26の周方向長さL2とが、L2−L1≧0.5mmの関係を満たすことが好ましい。また、軸線方向溝24Bが部分溝18Gと流体連通している際に過剰に潤滑油が流出することを防止するため、第1の周方向距離L1と入口開口26の周方向長さL2とが、L1≧L2×0.3の関係を満たしていることが好ましく、L1≧L2×0.6の関係を満たしていることがより好ましい。これは、第1の周方向距離L1が短すぎると、軸線方向溝24Bと部分溝18Gとが流体連通する時間が長くなり、軸線方向溝24Bの軸線方向端部から流出する潤滑油量が増加して部分溝18G内の潤滑油の圧力が低下し、それによりコンロッド軸受22へ送られる油量が減少するためである。
【0038】
第2の半割軸受18において、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向前端部18GFは、軸線方向溝24Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ1で1°以上離間した内周面上に位置するので、部分溝18Gに供給された潤滑油は、外部へ流出しにくく、部分溝内18Gに一時的に滞留し、したがって乱流を発生させる。また、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向後端部18GRは、第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ2で5°〜45°の範囲内の内周面上に位置する。もし部分溝18Gの周方向後端部18GRの位置が第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ2で5°未満であると、潤滑油路10aの入口開口26が部分溝18Gと連通を開始してから、部分溝18Gと軸線方向溝24Bとを連通させるまでの時間が短くなりすぎるため、部分溝18G内に供給される潤滑油が少なくなり、十分な乱流が発生しない。この場合、クランク軸のジャーナル部10と接触しやすいクランク軸の回転方向の前方側の内周面18Sの冷却が不十分となる。また、この円周角度θ2が45°より大きいと、潤滑油路10aの入口開口26が部分溝18Gと連通を開始した直後に乱流となった潤滑油が、部分溝18Gの周方向前端部18GFに向かっている間に層流となり、やはりクランク軸のジャーナル部10と接触しやすいクランク軸の回転方向の前方側の摺動面18Sの冷却が不十分となる。さらに、ジャーナル部10の負荷を支持するために、第2の半割軸受18の内周面18Sの面積が減少することは好ましくない。また部分溝18Gの周方向長さは、円周角度で10°から30°までの長さであることが好ましい。
【0039】
主軸受19の内周面上における軸線方向溝24Bの周方向長さ(直線距離)L4は0.2〜2mmとすることができ、また主軸受19の内周面からの軸線方向溝24Bの最大深さD1は0.1〜1mm、好ましくは0.1〜0.5mmとすることができる(図8参照)。
【0040】
本実施例によるクランク軸用主軸受19は、第1および第2の半割軸受17、18の軸受壁厚が周方向に亘って一定に形成されているが、これら半割軸受17、18の軸受壁厚は、半割軸受17、18の周方向中央部Cで最大で、周方向両端部側へ向かって小さくなるように形成することもできる。またこれら半割軸受17、18の内周面17S、18Sは、複数の円弧面により構成されていてもよい。
【0041】
本発明によるクランク軸用主軸受19は、第1および第2の半割軸受17、18の接合部に隣接する軸受内周面にクラッシュリリーフ42、44を有していてもよい。クラッシュリリーフは、図22に示すように、各半割軸受17、18の周方向端部領域において壁部の厚さを回転中心と同心である本来の内周面40(主要円弧)から半径方向に減じることによって形成される逃し空間42、44のことであり、これは、例えば一対の半割軸受17、18をクランク軸10のジャーナル部19に組み付けた時に生じ得る半割軸受の周方向端面の位置ずれや変形を吸収するために形成される。したがって、例えばクラッシュリリーフ42が形成された領域での軸受内周面17Sの曲率中心位置は、その他の領域における軸受内周面(主要円弧)の曲率中心位置と異なる(SAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497、セクション3.2、JIS D3102参照)。なお、クラッシュリリーフが形成された場合であっても、第2の半割軸受18の内周面18S上に分離内周部18S’が形成されることが理解されよう。またこの場合、部分溝18Gの少なくとも周方向後端部18GRは、第2の半割軸受18の内周面18S上に位置する(図22参照)。一般に、乗用車用の小型の内燃機関用軸受の場合、半割軸受の周方向端面におけるクラッシュリリーフの深さ(本来の内周面から実際の内周面までの距離)は0.01〜0.05mm程度である。
【実施例2】
【0042】
図13は、本発明の実施例2によるクランク軸用主軸受19を示す。実施例2によるクランク軸用主軸受19の、実施例1と共通する構成については説明を省略する。
この主軸受19は、一対の半割軸受17、18から構成される。図14図15に、主軸受19を構成する一対の半割軸受17、18の詳細を示す。
図14から理解されるように、第1の半割軸受17の内周面17Sに形成された油溝17Gは、第1の半割軸受17の周方向に延び、且つ油溝17Gの周方向両端部17GF、17GRは、第1の半割軸受17の内周面17S上に位置する。なお、油溝17Gは、油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向端部17GFが第1の半割軸受17の内周面17Sに位置し、且つ油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部17GRが第1の半割軸受17の後方側周方向端面17Bに開口するように構成されてもよく、あるいは油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向端部17GFが第1の半割軸受17の前方側周方向端面17Aに開口し、且つ油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部17GRが第1の半割軸受17の内周面17Sに開口するように構成されてもよい。
【0043】
図15から理解されるように、第2の半割軸受18の内周面18Sに形成された部分溝18Gは、部分溝18Gの周方向両端部18GF、18GRが第2の半割軸受18の内周面18S上に位置するように形成されている。なお、本実施例では、第2の半割軸受18の部分溝18Gの軸線方向幅W2は、第1の半割軸受17の油溝17Gの軸線方向幅W1よりも大きくなされている。
ここで、第2の半割軸受18の部分溝18Gの軸線方向幅W2と、第2の半割軸受18の軸線方向長さ(軸受幅)L3とが以下の関係式:
W2≧L3×0.5
を満たしていることが好ましい。例えば部分溝18Gの軸線方向幅W2は、部分溝18Gの軸線方向の両側に内周面18Sがそれぞれ1mm残るように、第2の半割軸受18の軸線方向長さL3よりも2mm小さく形成されることができる。
【0044】
軸線方向溝24Bと、第2の半割軸受18の部分溝18Gの周方向前端部18GFとは、第1の周方向距離L1だけ離間しており、またそれらの間には分離内周面18S’が形成されている(図16および図17参照)。第1の周方向距離L1は、ジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の周方向長さL2より小さく、したがって部分溝18Gは、潤滑油路10aを介して軸線方向溝24Bと流体連通可能である。また、第1半割軸受17の油溝17Gのクランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部17GRと軸線方向溝24Bとは離間していることが理解されよう。
【0045】
(作用)
実施例1と同様、主軸受19では、第2の半割軸受18の、クランク軸の回転方向前方側の摺動面で潤滑油が不足し、軸受の内周面とクランク軸の表面とが直接接触しやすい。 しかし本発明の半割主軸受19において、クランク軸の回転に起因する遠心力により潤滑油路10a内の潤滑油は閉じた部分溝18Gに流入し、その流入圧力によって乱流が発生する。噴出された潤滑油は閉じた部分溝18G内に一時的に滞留するので、軸受の内周面で発生した熱は潤滑油の乱流に効率よく伝達される。そしてジャーナル部10が回転して部分溝18Gが軸線方向溝24Bと流体連通したとき、部分溝18G内の潤滑油は流路遷移部分29の傾斜面によって誘導され、高温となった潤滑油は軸線方向溝24Bへ流れ、軸受の外部へ排出される。実施例2では、部分溝18Gの軸線方向幅W2が比較的大きいので、実施例1より乱流の発生領域が広い。このため、乱流となった潤滑油の流れが、より効率よく軸受の内周面から、さらにジャーナル部10の表面から熱を伝達し、それらを冷却する。なお、部分溝18Gから潤滑油が流出して滞留した潤滑油が減少するので、次に潤滑油路10aから高圧で潤滑油が部分溝18Gに流入することができ、それにより十分に乱流が発生する。
【0046】
より詳細には、潤滑油が潤滑油路10aを介して先ず部分溝18Gのみと流体連通したとき、図18に示すように、部分溝18G内と潤滑油路10a内の潤滑油の圧力勾配による十分な潤滑油の流れが瞬間的に形成される。
【0047】
その後、ジャーナル部10が回転し(図19)、ついに部分溝18Gが潤滑油路10aを介して軸線方向溝24Bと連通すると(図20)、(1)ジャーナル部10の回転による遠心力F1、(2)軸線方向溝24Bと潤滑油路10a内の潤滑油の圧力勾配による流れ力F2、および(3)潤滑油路10a内と部分溝18G内の潤滑油の圧力勾配による流れ力F3が、入口開口26付近にある潤滑油路10a内部の潤滑油に同時に作用し、潤滑油路10a内に進入した高温の潤滑油を軸線方向溝24B内へ移動させる潤滑油の流れが瞬間的に形成される。さらに、高温の潤滑油は軸線方向溝24Bに到達した後、図21に示すように軸線方向に流れ主軸受19の外部へ排出される。
【0048】
なお、実施例1および2において、下側の第2の半割軸受18は、クランク軸の回転方向Xの前方側の所定の内周面18S上に部分溝18Gを有しているが、回転方向Xの後方側の内周面18S上に周方向中央部Cに関して対称な部分溝をさらに有していてもよい。このような対称形状を採用することにより、シリンダブロック下部の軸受キャップへの第2の半割軸受18の誤った組み付けが防止される。
【符号の説明】
【0049】
10 ジャーナル部
10a 貫通孔(潤滑油路)
12 クランクピン
14 コンロッド
16 大端部ハウジング
16A コンロッド側大端部ハウジング
16B キャップ側大端部ハウジング
17 第1の半割軸受
17G 油溝
17GF (油溝の)回転方向前方側の周方向端部
17GR (油溝の)回転方向後方側の周方向端部
17A (第1の半割軸受の)回転方向前方側の周方向端面
17B (第1の半割軸受の)回転方向後方側の周方向端面
17C、17D 傾斜面
17S 内周面
17S’ 分離内周部
18 第2の半割軸受
18A (第2の半割軸受の)回転方向後方側の周方向端面
18B (第2の半割軸受の)回転方向前方側の周方向端面
18D、18C 傾斜面
18G 部分溝
18GF (部分溝の)周方向前端部
18FR (部分溝の)周方向後端部
18S 内周面
18S’ 分離内周部
19 主軸受
20 内部潤滑油路
22 コンロッド軸受
24A、24B 軸線方向溝
26 入口開口
29 流路遷移部分
42、44 クラッシュリリーフまたは逃し空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22