【実施例1】
【0023】
図1は、内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピンでそれぞれ截断した模式図であり、ジャーナル部10、クランクピン12およびコンロッド14を示す。これら三部材の紙面奥行き方向での位置関係として、ジャーナル部10が紙面の奥側に、クランクピン12が手前側にあり、このクランクピン12は、他端にピストンを担持するコンロッド14の大端部ハウジング16で包囲されている。
【0024】
ジャーナル部10は、一対の半割軸受17、18から構成される主軸受19を介して、内燃機関のシリンダブロック下部(図示せず)に支持されている。図面で上側に位置する第1の半割軸受17に、周方向の全長に亘って周方向に延びる油溝17Gが内周面に形成されている。ジャーナル部10はその直径方向に貫通孔(潤滑油路)10aを有し、ジャーナル部10が矢印X方向に回転すると、貫通孔10aの両端の入口開口が交互に油溝17Gに連通する。図面で下側に位置する第2の半割軸受18に、部分的に周方向に延びる部分溝18Gが内周面に形成されている。
【0025】
ジャーナル部10、図示されないクランクアーム、およびクランクピン12を貫通して、貫通孔10aに連通する内部潤滑油路20がクランク軸内部に形成されている。
【0026】
クランクピン12は、一対の半割軸受22A、22Bから構成されるコンロッド軸受22を介して、コンロッド14の(コンロッド側大端部ハウジング16Aとキャップ側大端部ハウジング16Bから構成される)大端部ハウジング16に保持されている。
【0027】
図2〜
図9に、主軸受19を構成する一対の半割軸受17、18の詳細を示す。
図2の紙面上側の第1の半割軸受17は、ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面17A、および後方側に配置される後方側周方向端面17Bを有する。下側の第2の半割軸受18は、ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面18B、および後方側に配置される後方側周方向端面18Aを有する。第1の半割軸受17の前方側周方向端面17Aは第2の半割軸受18の後方側周方向端面18Aと突き合わされ、また第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bは第1の半割軸受17の後方側周方向端面17Bと突き合わされ、それによって円筒形状の主軸受19を構成している。
ところで、内燃機関のクランク軸は、運転時には一方向に回転する。このため当業者であれば、クランク軸の回転方向を考慮し、第1の半割軸受17の周方向両端面のうち、どちらが「ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面17A」であり、どちらが「ジャーナル部10の回転方向Xの後方側に配置される後方側周方向端面17B」であるか認定することができよう。同じく、当業者であれば第2の半割軸受18の「ジャーナル部10の回転方向Xの前方側に配置される前方側周方向端面18B」および「ジャーナル部10の回転方向Xの後方側に配置される後方側周方向端面18A」も認定することができよう。また当業者であれば、本発明の開示にしたがって本発明の主軸受19を設計、製造し、これを一方向に回転するクランク軸を支承する軸受装置に適切に組み付けることが可能である。
【0028】
第1の半割軸受17の前方側周方向端面17Aおよび後方側周方向端面17Bは、その内周面側に、軸線方向の全長に亘って面取りの態様で形成された傾斜面17C、17Dをそれぞれ有し、また第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bおよび後方側周方向端面18Aは、その内周面側に、軸線方向の全長に亘って同様に形成された傾斜面18D、18Cをそれぞれ有し、それによって半割軸受17、18の接合部(または突合せ部)には軸線方向溝24A、24Bが形成される。
【0029】
図2および
図3から理解されるように、第1の半割軸受17の内周面17Sに形成された油溝17Gは、第1の半割軸受17の内周面の周方向の全長に亘って延びており、第1の半割軸受17の周方向両端面17A、17Bに開口している。なお、本実施例では、油溝17Gは、周方向の全長に亘って、第1の半割軸受17の内周面17Sからの溝深さが一定になされている。しかし、これに限定されないで、油溝17Gの溝深さは、周方向で変化していてもよい。また油溝17Gの最大溝深さは、例えば乗用車用の小型の内燃機関の場合、一般的に0.5〜2.5mm程度であるが、本発明はこれに限定されない。また本実施例では、油溝17Gは、主軸受の軸線方向断面内において矩形断面形状を有するが、他の断面形状であってもよい。
【0030】
図3から理解されるように、油溝17Gは第1の半割軸受17の軸線方向長さ(軸受幅)の中央に配置される。油溝17Gの底部には第1の半割軸受17を径方向に貫通する貫通口(図示せず)が形成され、潤滑油は、シリンダブロックの壁内のオイルギャラリーから、この貫通口を通して油溝17G内に供給される。潤滑油の一部はその後、ジャーナル部10の矢印X方向の回転にしたがって油溝17G内を回転方向前方へ流れ、潤滑油の他の一部は油溝17G内を回転方向と反対方向に流れる。第1の半割軸受17はまた、油溝17Gの幅(軸線方向長さ)W1の中央がジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の中心と整合するように配置されているので(
図7は、概ね
図6の回転位置にある入口開口26を破線で示す)、油溝17G内に供給された潤滑油は、入口開口26を通してコンロッド軸受22へとさらに流れることができる。ジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の寸法は、内燃機関の仕様により異なるが、例えば乗用車用の小型の内燃機関の場合、入口開口26の直径はφ5〜8mm程度である。
【0031】
図4および
図5から理解されるように、第2の半割軸受18の内周面18Sには部分的に周方向に延びる部分溝18Gが形成されており、部分溝18Gの周方向両端部18GF、18GRが第2の半割軸受18の内周面18S上に位置している。より詳細には、
図5に示すように、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向前端部18GFは、軸線方向溝24B(傾斜面18D)から第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ1で1°以上離間した内周面18S上に位置し、またクランク軸の回転方向Xの後方側の周方向後端部18GRは、第2の半割軸受18の後方側周方向端面18Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ2で5°〜45°の範囲内の内周面18S上に位置する。したがって
図6および
図7からよく理解できるように、軸線方向溝24Bと、部分溝18Gの周方向前端部18GFとの間には分離内周面18S’が形成される。第2の半割軸受18はまた、部分溝18Gの幅W2の中央がジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の中心と整合するように配置されている。
なお、本実施例では、第1の半割軸受17の油溝17Gの軸線方向における幅W1(油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部での幅)と、第2の半割軸受18の部分溝18Gの軸線方向における幅W2(部分溝18Gの周方向前端部18GFでの幅)は、同じになされている。
また、
図9に示すように、部分溝18Gの、第2の半割軸受18の内周面18Sからの最大深さD2は、0.01〜0.1mmであることが好ましい。本実施例では、部分溝18Gの深さは、部分溝18Gの周方向長さの中央部付近で最大であり、周方向両端部へ向かって小さくなっている。なお、油溝17Gと同様、部分溝18Gも矩形断面形状を有している。
【0032】
図6は、
図2に示す主軸受19の紙面左側の接合部を、クランク軸の軸線方向から見た拡大断面図を示す。
図6によれば、軸線方向溝24Bと、第2の半割軸受18の部分溝18Gの周方向前端部18GFとは、第1の周方向距離L1だけ離間していることが理解されよう。この第1の周方向距離L1は、ジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の周方向長さL2より小さくなされており、したがって部分溝18Gは、軸線方向溝24Bと潤滑油路10aを介して流体連通可能である。
【0033】
入口開口26は、
図6では潤滑油路10aと同じ断面積を有するものとして記載している。しかし入口開口26は、加工の結果として、例えば
図10に示すように潤滑油路10aより大きい断面積を有していてもよく、またジャーナル部10の外周面上において円形または楕円形の開口形状を有していてもよい。入口開口26の断面積が潤滑油路10aの断面積より大きい場合、入口開口26と潤滑油路10aの間には断面積が油路方向に徐々に変化する流路遷移部分29が、ジャーナル部10の外周面から深さ1〜2mmまで形成される(
図10)。しかし、いずれの場合も、入口開口26はジャーナル部10の外周面上に周方向長さ(直線距離)L2を有するものと定義されることが理解されよう。
【0034】
(作用)
上述したように、シリンダブロック内のオイルギャラリーから第1の半割軸受17の油溝17Gに供給された潤滑油は、クランク軸の回転に伴ってクランク軸の回転方向前方側の周方向端部まで流れ、その後第2の半割軸受18の内周面18Sに供給される。しかしその際、潤滑油の一部が軸線方向溝24A(およびクラッシュリリーフとクランク軸の間の隙間)から外部へ流出し、第2の半割軸受18への供給油量が減少する。さらに、潤滑油は、第2の半割軸受18の摺動面の軸線方向端部からも外部に流出(サイドリーク)することから、第2の半割軸受18の、クランク軸の回転方向前方側の摺動面では潤滑油が不足し、軸受の内周面とクランク軸の表面とが直接接触しやすい。したがって従来の主軸受では、その直接接触による熱のため、軸受の内周面に損傷が生じやすくなっている。
しかし本発明の主軸受19は、第2の半割軸受19の内周面18Sの回転方向前方側に、軸線方向溝24Bと直接連通していない閉じた部分溝18Gを有しているので、ジャーナル部10の潤滑油路10aと部分溝18Gとが連通を開始する瞬間(
図11A〜
図11B)、クランク軸の回転による遠心力から発生する潤滑油路10a内の逆流の圧力と、部分溝18G内の圧力との圧力差によって、潤滑油の高圧な噴出流が閉じた部分溝18G内に分散して流れ込み潤滑油の乱流を発生させ、さらにこの潤滑油が部分溝18G内に一時的に滞留する。軸受の内周面で発生した熱はこの潤滑油の乱流に効率よく伝達され、次いでジャーナル部10の潤滑油路10aを介して部分溝18Gと軸線方向溝24Bとが連通することにより、高温となった潤滑油が軸受の外部へ排出される。これにより、第2の半割軸受が損傷するほどの高温となることを抑制することできる。
なお、部分溝18Gで潤滑油の乱流を発生させることで、先ず、部分溝18Gの表面の熱が潤滑油に伝達されるため、部分溝18Gの表面と部分溝18Gの周囲の半割軸受18の内周面18Sに温度勾配が発生する。そうすると、半割軸受18の内部では、発生した温度勾配を小さくするように内周面18Sの熱が部分溝18G表面へと伝達されるため、結果として半割軸受18の部分溝18Gの周囲の内周面18Sが冷却されることが当業者には理解されよう。
【0035】
より詳細には、
図11Bに示すように、潤滑油路10aが部分溝18Gと連通するとき、(1)ジャーナル部10の回転による遠心力F1、および(2)部分溝18G内と潤滑油路10a内の間の潤滑油の圧力勾配による流れ力f2が入口開口26付近の潤滑油に同時に作用し、部分溝18G内への潤滑油の流れ(噴出流)が瞬間的に形成される。このとき、閉じた部分溝18G内に噴出流が流入することで、潤滑油が撹拌されて乱流が発生する。そして上述したようにこの乱流によって軸受の内周面から潤滑油への熱の移動が促進される。
なお、実施形態とは異なり、部分溝18Gの周方向前端部18GFと軸線方向溝24Bを直接連通させた(分離内周面18S’を設けない)場合には、潤滑油路10aが部分溝18Gと連通したときに、部分溝18G内に流入した潤滑油は直ちに部分溝18Gの周方向前端部18GFから軸線方向溝24Bに流れて軸受の外部へ排出されるため、部分溝18で潤滑油の乱流が発生し難くなる。
次いで
図12に示すように部分溝18Gが潤滑油路10aを介して軸線方向溝24Bと連通し、開放されると、(1)ジャーナル部10の回転による遠心力F1、(2)軸線方向溝24B内と潤滑油路10a内の間の潤滑油の圧力勾配による流れ力F2、および(3)潤滑油路10a内と部分溝18G内の間の潤滑油の圧力勾配による流れ力F3が、入口開口26付近の潤滑油に同時に作用し、高温となった潤滑油を部分溝18Gから潤滑油路10aを介して軸線方向溝24B内へ移動させる流れ力が瞬間的に形成される。高温となった潤滑油が軸線方向溝24Bへ流出し、そして軸受の外部へ排出されることで、軸受の内周面の熱が除去される。
なお、上述したように入口開口26の断面積が潤滑油路10aの断面積より大きく、したがって流路遷移部分29が少なくとも入口開口26の周方向両側に形成されている場合(
図10〜
図12)、軸線方向溝24Bと部分溝18Gが流体連通したときに部分溝18G内の潤滑油が流路遷移部分29の傾斜面によって誘導されるので、高温となった潤滑油は軸線方向溝24Bへ流れやすくなる。またそれにより部分溝18Gの内の油圧が低下すると、次に入口開口26が部分溝18Gと連通を開始するとき(
図11A〜
図11B)にその圧力勾配により潤滑油路10a内の潤滑油が部分溝18Gへ流れやすくなり、部分溝18G内に流入する潤滑油の流れ力f2(吐出圧)を強めることができる。
【0036】
本発明によれば、軸線方向溝24Bと部分溝18Gの間の第1の周方向距離L1、より詳細には、軸線方向溝24Bの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部と、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向前端部18GFとの間の第1の周方向距離L1が、入口開口26の周方向長さL2よりも小さいことが要求される。その理由は、L1≧L2の場合、入口開口26が軸線方向溝24Bと連通を開始したときに入口開口26は部分溝18Gと既に連通しておらず、それゆえ
図12に示すような部分溝18Gからの流れ力F3が生じず、潤滑油路10aに進入した潤滑油を軸線方向溝24Bに押し流すことができなくなるからである。
【0037】
潤滑油路10aに進入した潤滑油を軸線方向溝24Bに押し出す流れ力を生じさせるために、軸線方向溝24Bと部分溝18Gの間の第1の周方向距離L1と、入口開口26の周方向長さL2とが、L2−L1≧0.5mmの関係を満たすことが好ましい。また、軸線方向溝24Bが部分溝18Gと流体連通している際に過剰に潤滑油が流出することを防止するため、第1の周方向距離L1と入口開口26の周方向長さL2とが、L1≧L2×0.3の関係を満たしていることが好ましく、L1≧L2×0.6の関係を満たしていることがより好ましい。これは、第1の周方向距離L1が短すぎると、軸線方向溝24Bと部分溝18Gとが流体連通する時間が長くなり、軸線方向溝24Bの軸線方向端部から流出する潤滑油量が増加して部分溝18G内の潤滑油の圧力が低下し、それによりコンロッド軸受22へ送られる油量が減少するためである。
【0038】
第2の半割軸受18において、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向前端部18GFは、軸線方向溝24Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ1で1°以上離間した内周面上に位置するので、部分溝18Gに供給された潤滑油は、外部へ流出しにくく、部分溝内18Gに一時的に滞留し、したがって乱流を発生させる。また、部分溝18Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向後端部18GRは、第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ2で5°〜45°の範囲内の内周面上に位置する。もし部分溝18Gの周方向後端部18GRの位置が第2の半割軸受18の前方側周方向端面18Bから第2の半割軸受18の周方向中央部Cへ向かって円周角度θ2で5°未満であると、潤滑油路10aの入口開口26が部分溝18Gと連通を開始してから、部分溝18Gと軸線方向溝24Bとを連通させるまでの時間が短くなりすぎるため、部分溝18G内に供給される潤滑油が少なくなり、十分な乱流が発生しない。この場合、クランク軸のジャーナル部10と接触しやすいクランク軸の回転方向の前方側の内周面18Sの冷却が不十分となる。また、この円周角度θ2が45°より大きいと、潤滑油路10aの入口開口26が部分溝18Gと連通を開始した直後に乱流となった潤滑油が、部分溝18Gの周方向前端部18GFに向かっている間に層流となり、やはりクランク軸のジャーナル部10と接触しやすいクランク軸の回転方向の前方側の摺動面18Sの冷却が不十分となる。さらに、ジャーナル部10の負荷を支持するために、第2の半割軸受18の内周面18Sの面積が減少することは好ましくない。また部分溝18Gの周方向長さは、円周角度で10°から30°までの長さであることが好ましい。
【0039】
主軸受19の内周面上における軸線方向溝24Bの周方向長さ(直線距離)L4は0.2〜2mmとすることができ、また主軸受19の内周面からの軸線方向溝24Bの最大深さD1は0.1〜1mm、好ましくは0.1〜0.5mmとすることができる(
図8参照)。
【0040】
本実施例によるクランク軸用主軸受19は、第1および第2の半割軸受17、18の軸受壁厚が周方向に亘って一定に形成されているが、これら半割軸受17、18の軸受壁厚は、半割軸受17、18の周方向中央部Cで最大で、周方向両端部側へ向かって小さくなるように形成することもできる。またこれら半割軸受17、18の内周面17S、18Sは、複数の円弧面により構成されていてもよい。
【0041】
本発明によるクランク軸用主軸受19は、第1および第2の半割軸受17、18の接合部に隣接する軸受内周面にクラッシュリリーフ42、44を有していてもよい。クラッシュリリーフは、
図22に示すように、各半割軸受17、18の周方向端部領域において壁部の厚さを回転中心と同心である本来の内周面40(主要円弧)から半径方向に減じることによって形成される逃し空間42、44のことであり、これは、例えば一対の半割軸受17、18をクランク軸10のジャーナル部19に組み付けた時に生じ得る半割軸受の周方向端面の位置ずれや変形を吸収するために形成される。したがって、例えばクラッシュリリーフ42が形成された領域での軸受内周面17Sの曲率中心位置は、その他の領域における軸受内周面(主要円弧)の曲率中心位置と異なる(SAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497、セクション3.2、JIS D3102参照)。なお、クラッシュリリーフが形成された場合であっても、第2の半割軸受18の内周面18S上に分離内周部18S’が形成されることが理解されよう。またこの場合、部分溝18Gの少なくとも周方向後端部18GRは、第2の半割軸受18の内周面18S上に位置する(
図22参照)。一般に、乗用車用の小型の内燃機関用軸受の場合、半割軸受の周方向端面におけるクラッシュリリーフの深さ(本来の内周面から実際の内周面までの距離)は0.01〜0.05mm程度である。
【実施例2】
【0042】
図13は、本発明の実施例2によるクランク軸用主軸受19を示す。実施例2によるクランク軸用主軸受19の、実施例1と共通する構成については説明を省略する。
この主軸受19は、一対の半割軸受17、18から構成される。
図14〜
図15に、主軸受19を構成する一対の半割軸受17、18の詳細を示す。
図14から理解されるように、第1の半割軸受17の内周面17Sに形成された油溝17Gは、第1の半割軸受17の周方向に延び、且つ油溝17Gの周方向両端部17GF、17GRは、第1の半割軸受17の内周面17S上に位置する。なお、油溝17Gは、油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向端部17GFが第1の半割軸受17の内周面17Sに位置し、且つ油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部17GRが第1の半割軸受17の後方側周方向端面17Bに開口するように構成されてもよく、あるいは油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの前方側の周方向端部17GFが第1の半割軸受17の前方側周方向端面17Aに開口し、且つ油溝17Gの、クランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部17GRが第1の半割軸受17の内周面17Sに開口するように構成されてもよい。
【0043】
図15から理解されるように、第2の半割軸受18の内周面18Sに形成された部分溝18Gは、部分溝18Gの周方向両端部18GF、18GRが第2の半割軸受18の内周面18S上に位置するように形成されている。なお、本実施例では、第2の半割軸受18の部分溝18Gの軸線方向幅W2は、第1の半割軸受17の油溝17Gの軸線方向幅W1よりも大きくなされている。
ここで、第2の半割軸受18の部分溝18Gの軸線方向幅W2と、第2の半割軸受18の軸線方向長さ(軸受幅)L3とが以下の関係式:
W2≧L3×0.5
を満たしていることが好ましい。例えば部分溝18Gの軸線方向幅W2は、部分溝18Gの軸線方向の両側に内周面18Sがそれぞれ1mm残るように、第2の半割軸受18の軸線方向長さL3よりも2mm小さく形成されることができる。
【0044】
軸線方向溝24Bと、第2の半割軸受18の部分溝18Gの周方向前端部18GFとは、第1の周方向距離L1だけ離間しており、またそれらの間には分離内周面18S’が形成されている(
図16および
図17参照)。第1の周方向距離L1は、ジャーナル部10の潤滑油路10aの入口開口26の周方向長さL2より小さく、したがって部分溝18Gは、潤滑油路10aを介して軸線方向溝24Bと流体連通可能である。また、第1半割軸受17の油溝17Gのクランク軸の回転方向Xの後方側の周方向端部17GRと軸線方向溝24Bとは離間していることが理解されよう。
【0045】
(作用)
実施例1と同様、主軸受19では、第2の半割軸受18の、クランク軸の回転方向前方側の摺動面で潤滑油が不足し、軸受の内周面とクランク軸の表面とが直接接触しやすい。 しかし本発明の半割主軸受19において、クランク軸の回転に起因する遠心力により潤滑油路10a内の潤滑油は閉じた部分溝18Gに流入し、その流入圧力によって乱流が発生する。噴出された潤滑油は閉じた部分溝18G内に一時的に滞留するので、軸受の内周面で発生した熱は潤滑油の乱流に効率よく伝達される。そしてジャーナル部10が回転して部分溝18Gが軸線方向溝24Bと流体連通したとき、部分溝18G内の潤滑油は流路遷移部分29の傾斜面によって誘導され、高温となった潤滑油は軸線方向溝24Bへ流れ、軸受の外部へ排出される。実施例2では、部分溝18Gの軸線方向幅W2が比較的大きいので、実施例1より乱流の発生領域が広い。このため、乱流となった潤滑油の流れが、より効率よく軸受の内周面から、さらにジャーナル部10の表面から熱を伝達し、それらを冷却する。なお、部分溝18Gから潤滑油が流出して滞留した潤滑油が減少するので、次に潤滑油路10aから高圧で潤滑油が部分溝18Gに流入することができ、それにより十分に乱流が発生する。
【0046】
より詳細には、潤滑油が潤滑油路10aを介して先ず部分溝18Gのみと流体連通したとき、
図18に示すように、部分溝18G内と潤滑油路10a内の潤滑油の圧力勾配による十分な潤滑油の流れが瞬間的に形成される。
【0047】
その後、ジャーナル部10が回転し(
図19)、ついに部分溝18Gが潤滑油路10aを介して軸線方向溝24Bと連通すると(
図20)、(1)ジャーナル部10の回転による遠心力F1、(2)軸線方向溝24Bと潤滑油路10a内の潤滑油の圧力勾配による流れ力F2、および(3)潤滑油路10a内と部分溝18G内の潤滑油の圧力勾配による流れ力F3が、入口開口26付近にある潤滑油路10a内部の潤滑油に同時に作用し、潤滑油路10a内に進入した高温の潤滑油を軸線方向溝24B内へ移動させる潤滑油の流れが瞬間的に形成される。さらに、高温の潤滑油は軸線方向溝24Bに到達した後、
図21に示すように軸線方向に流れ主軸受19の外部へ排出される。
【0048】
なお、実施例1および2において、下側の第2の半割軸受18は、クランク軸の回転方向Xの前方側の所定の内周面18S上に部分溝18Gを有しているが、回転方向Xの後方側の内周面18S上に周方向中央部Cに関して対称な部分溝をさらに有していてもよい。このような対称形状を採用することにより、シリンダブロック下部の軸受キャップへの第2の半割軸受18の誤った組み付けが防止される。