【解決手段】測定対象物を測定するための波形信号を発生する信号発生装置は、測定対象物の電気特性を検出する検出回路120と、検出回路120を介して測定対象物に信号レベルが変化する所定の掃引信号を印加する信号発生器110とを備える。信号発生装置は、所定の掃引信号により測定対象物に生じる電圧を計測する電圧計測部143と、電圧計測部143によって計測される電圧特性と所定の掃引信号との対応関係を算出する電圧特性算出部144と、その対応関係に基づいて波形信号を補償する測定信号補償部145と、を備える。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態における電気化学測定装置1の構成を示す図である。
【0012】
電気化学測定装置1は、めっき液槽(セル)Xに電気めっき液Xaが貯蔵され、その電気めっき液Xaの状態(コンディション)を測定する電気めっき液測定装置である。電気化学測定装置1は、例えば、CVS(Cyclic Voltammetry Stripping)法やCPVS(Cyclic Pulse Voltammetry Stripping)法などに基づいて、電気めっき液Xaの電気化学測定処理を実行する。
【0013】
本実施形態では、電気化学測定装置1が、CVS法に従って、電気めっき液Xaに含まれる一又は複数の添加剤の濃度を分析する。電気化学測定装置1は、電気めっき液Xaに浸漬される電気化学センサ2と、その電気化学センサ2が無線又は有線を介して接続される測定装置本体3と、を備える。
【0014】
電気化学センサ2は、三電極法による電気化学測定処理を実行可能に構成されるセンサ装置であり、電気めっき液Xaの状態を測定するために用いられる。電気化学センサ2は、可搬型でもよく、固定型であってもよい。
【0015】
電気化学センサ2は、電気めっき液Xaで電気電解を行う作用電極21と、作用電極21の電位の基準となる参照電極22と、作用電極21に対向する対向電極23と、対向電極23及び作用電極21間の電流を測定する測定回路24と、を備える。
【0016】
作用電極21は、電気めっき液Xaにおいて反応物質である金属イオンの酸化還元反応を生じさせる電極である。参照電極22は、作用電極21の電位を制御するための電極である。対向電極23は、作用電極21に流れる電流を検出するための電極である。対向電極23と作用電極21との間には、作用電極21で生じる酸化還元反応に応じた電流、いわゆる応答電流が流れる。
【0017】
測定回路24は、測定対象物を測定するための波形信号を発生する信号発生装置により構成される。本実施形態の測定対象物は、非線形な電流電圧特性を有する電気めっき液Xaであり、測定対象物に印加される電気信号としては、例えば、三角波、パルス波、又は正弦波などの波形信号が挙げられる。
【0018】
本実施形態の測定回路24は、電気化学測定処理を実行する制御回路であり、作用電極21と参照電極22との間に三角波の電圧を印加しながら作用電極21と対向電極23との間に流れる応答電流を測定する。そして測定回路24は、測定した結果を示す検出信号を測定装置本体3に出力する。
【0019】
なお、電気めっき液Xa中に還元反応を抑制する作用を有する添加剤が混入している場合は、還元反応時において作用電極21に析出する金属の量が減少するので、酸化反応時の応答電流のピーク値も減少する。このような特性を利用して電気めっき液Xa中の添加剤濃度が推定される。このような理由から測定回路24によって応答電流が測定される。
【0020】
測定回路24は、例えば、ポテンショスタット及びI/V変換回路を備え、ポテンショスタットによって作用電極21と参照電極22の間に三角波の電圧が段階的に印加される。そして印加電圧の大きさが段階的に変更されるたびに、I/V変換回路によって作用電極21と対向電極23間の応答電流に比例する電圧が検出信号として出力される。
【0021】
測定装置本体3は、電気化学センサ2から出力される検出信号に基づいて、電気めっき液に含まれる添加剤の濃度を測定する演算器を構成する。測定装置本体3は、記憶部31と、操作部32と、表示部33と、処理部34と、を備える。
【0022】
記憶部31は、RAM及びROMにより構成される。本実施形態の記憶部31には、CVS法に基づく電気化学測定処理を実行するプログラムが記憶されている。すなわち、記憶部31は、処理部34の動作プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。
【0023】
操作部32は、測定条件の設定操作や、電気化学測定処理の開始又は停止などを指示する各種の操作スイッチを備えている。操作部32は、これらの操作に応じた操作信号を処理部34に出力する。
【0024】
表示部33は、処理部34の指示に従って電気化学測定処理の設定内容や解析結果などを表示する。
【0025】
処理部34は、CPU、入出力インターフェース及びこれらを相互に接続するバスにより構成される。処理部34は、記憶部31からプログラムを読み出してCPUに実行させることで、入出力インターフェースを介して電気化学測定装置1を総括的に制御する。
【0026】
本実施形態では、処理部34が、操作部32からの操作信号に従って、CVS法に基づく電気化学測定処理を実行する。これにより、処理部34は、電気化学センサ2の動作を制御するとともに、電気化学センサ2からの検出信号を取得して記憶部31に記録する。
【0027】
処理部34は、記憶部31に記憶された検出信号を解析する。処理部34は、電気めっき液Xaに関して予め規定された項目についての解析値を求め、その解析値を記憶部31に記憶するとともに表示部33に表示させる。
【0028】
例えば、処理部34は、還元反応時において作用電極21に析出する反応物質の量を推定するために、記憶部31に記憶された検出信号に基づき、酸化反応時における検出電流のピーク値の電気量を求める。そして処理部34は、その電気量から電気めっき液Xa中の添加剤の濃度を算出し、算出した添加剤の濃度を表示部33に表示させる。
【0029】
さらに処理部34は、記憶部31に記憶された検出信号に基づいて、検出電流と作用電極21の電極電位との関係を表わす電流電圧特性、いわゆるボルタモグラムを表示部33に表示させる。
【0030】
次に、本実施形態における電気化学センサ2の形状について
図2A及び2Bを参照しながら説明する。
【0031】
図2Aは、本実施形態における電気化学センサ2の作用電極21の形状を示す図である。
図2Bは、電気めっき液Xaに浸漬される作用電極21の表面21aの形状を示す図である。
【0032】
図2Aに示すように、作用電極21は、ガラスなどの絶縁材211に封入されており、作用電極21の先端の表面21aが電気めっき液Xaに接触する。以下では、作用電極21の表面21aのことを接触面21aと称する。
【0033】
図2Bに示すように、作用電極21の接触面21aの形状は円形であり、接触面21aの直径rは、数十μm(マイクロメータ)以下に形成される。
【0034】
直径が数mm(ミリメートル)前後に形成された一般的な作用電極では、その接触面に対して直交する方向の拡散である平面拡散が支配的となると考えられる。これに対して本実施形態では、作用電極21の直径rを一般的な作用電極の直径と比較して百分の一程度まで小さくすることにより、接触面21aに対して0度から180度までの全方向の拡散が集中する球面拡散が優勢となると考えられる。これにより、還元反応時において作用電極21の接触面21a上への金属イオンの輸送効率が増大する。
【0035】
したがって、接触面21a付近に存在する電気めっき液Xaを攪拌する機構が無くとも、球面拡散により接触面21a上へ金属イオンが輸送される。なお、接触面21aの直径rが数十μm以下に形成された作用電極21は微小電極とも称される。
【0036】
また、微小電極である作用電極21は、接触面21aの面積が極めて小さい。そのため、拡散層への金属イオンの輸送量も少なくなるため、測定回路24から作用電極21及び対向電極23の間に印加される三角波の周期を短くすることが可能となる。このように測定時間の短縮化を図るためには、測定回路24の処理速度を高速にしなければならない。
【0037】
次に、本実施形態における信号発生装置を備える測定回路24について
図3を参照しながら詳細に説明する。
【0038】
図3は、本実施形態における測定回路24の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0039】
測定回路24は、電気めっき液Xaの電気特性を測定するための波形信号を発生する信号発生装置を備えている。また、電気めっき液Xaは、電流電圧特性が非線形な測定対象物である。さらに、この例では作用電極21が接地線に対して接続されている。
【0040】
測定回路24は、信号発生器110と、検出回路120と、測定処理部130と、信号制御部140と、を備える。信号制御部140は、信号データ保持部141と、データ設定部142と、電圧計測部143と、電圧特性算出部144と、測定信号補償部145と、を備える。
【0041】
信号発生器110は、電流又は電圧の電気信号を発生する回路であり、本実施形態の信号発生器110は電圧信号を発生する。信号発生器110は、例えば、オペアンプなどにより構成される。信号発生器110は、検出回路120を介して測定信号を電気めっき液Xaに印加する。
【0042】
本実施形態の信号発生器110は、信号制御部140の指令に従い、測定信号としての三角波の波形信号を、対向電極23を通じて電気めっき液Xaに印加する。
【0043】
検出回路120は、信号発生器110と測定対象物との間に接続され、電気めっき液Xaの電気特性として電流電圧特性を検出する。検出回路120は、電気抵抗、電気容量、及びインダクタンスの少なくとも一つの電気的特性を有するインピーダンス回路である。例えば、検出回路120は、抵抗器、コイル又はコンデンサなどにより構成される。
【0044】
本実施形態の検出回路120は、抵抗素子121と検出器122とを備える。抵抗素子121は、電気めっき液Xa中の作用電極21及び対向電極23の間に流れる応答電流を検出するための検出素子である。
【0045】
検出器122は、抵抗素子121の両端間の電圧を検出する回路である。本実施形態の検出器122は、抵抗素子121において応答電流が流れる際に生じる電圧降下の大きさを検出する。すなわち、検出器122は、作用電極21と対向電極23間に流れる応答電流に比例する電圧を検出する。検出器122は、検出した電圧値を示す検出信号を測定処理部130に出力する。
【0046】
測定処理部130は、測定装置本体3と通信を行い、電気化学測定処理の開始及び停止を検出回路120及び信号制御部140の双方に指示する。
【0047】
測定処理部130は、測定装置本体3から電気化学測定処理の実行を指示する指令信号を受信すると、測定信号の印加開始を信号制御部140に指示するとともに、検出回路120から出力される検出信号を取得する。そして測定処理部130は、電圧計測部143によって計測された電圧Vmを示す計測信号と、検出回路120から出力された検出信号との双方を対応付けて測定装置本体3に送信する。
【0048】
信号制御部140は、信号発生器110の動作を制御するコントローラであり、あらかじめプログラムされた処理を実行する。信号制御部140は、中央演算処理装置(CPU)及び記憶装置を備える一又は複数のマイクロコンピュータにより構成される。信号制御部140は、測定信号として三角波を示す波形信号の電圧を出力するように信号発生器110の動作を制御する。
【0049】
このように、測定回路24では、電気めっき液Xaの電流電圧特性を測定するために、信号発生器110から三角波の電圧Vgがインダクタンスを有する検出回路120を介して電気めっき液Xaへ印加される。
【0050】
この場合には、電気めっき液Xaから対向電極23を通じて検出回路120に流れる電流が変動するので、抵抗素子121の両端間の電圧降下も同様に変動する。その結果、信号発生器110から出力される三角波の電圧Vgに対して、電気めっき液Xaに印加される電圧Vmの波形には歪が生じてしまう。
【0051】
上述のとおり、電気めっき液Xaに印加される実際の電圧Vmの波形が歪んでしまうと、ボルタモグラムに用いられる実際の電圧Vmと電圧Vgとの間に誤差が生じるため、電気めっき液Xaの測定精度が低下してしまう。
【0052】
特に、電気めっき液Xaは非線形な電流電圧特性を有するため、電気めっき液Xaから対向電極23を通じて検出回路120に流れる電流の変動は、線形な測定対象物に三角波の電圧を印加した場合に比べて大きくなる。その結果、電圧Vmの波形に生じる歪みはさらに大きくなるため、電気めっき液Xaの測定精度もさらに低下してしまう。検出回路120が非線形な電流電圧特性を有する場合も、同様である。
【0053】
この対策として本実施形態の信号制御部140は、電気めっき液Xaの電気特性を測定する前に、測定対象物に生じる測定信号の歪み成分を特定し、その歪み成分が相殺されるように測定信号の信号レベルを補償する。
【0054】
次に、本実施形態における信号制御部140の機能構成について詳細に説明する。
【0055】
信号データ保持部141には、測定信号の歪みを特定するために、信号レベルを掃引するための所定の掃引信号を示す掃引データが保持される。所定の掃引信号は、時間の経過とともに信号レベルが変化するものであり、本実施形態では、測定レンジの下限値から上限値まで一定の速度で信号レベルが上昇するようにあらかじめ定められた電圧信号である。なお、掃引信号の波形は、測定信号の波形と同じでもよく、異なる波形であってもよい。
【0056】
さらに信号データ保持部141には、測定信号として波形信号を示す波形データが保持される。波形データ及び掃引データの双方は、測定処理部130によって信号データ保持部141に格納される。
【0057】
データ設定部142は、測定処理部130の指示に従って、信号データ保持部141に保持されたデータを信号発生器110に送信する。
【0058】
例えば、データ設定部142は、電気めっき液Xaの測定を開始する前において、信号データ保持部141から掃引データを取得し、その掃引データを信号発生器110及び電圧特性算出部144の双方に出力する。そして信号発生器110は、掃引データを受け付けると、掃引信号の電圧Vgを、検出回路120を介して電気めっき液Xaに印加する。
【0059】
電圧計測部143は、掃引信号によって電気めっき液Xaに生じる電圧を計測する計測手段を構成する。本実施形態の電圧計測部143は、信号発生器110から掃引信号が出力されている間、参照電極22に生じる電気めっき液Xaの電圧Vmを計測する。電圧計測部143は、計測した電圧Vmの値を電圧特性算出部144に出力する。また、電圧計測部143は、信号発生器110から測定信号が出力されている間、計測した電圧Vmを示す計測信号を測定処理部130に出力する。
【0060】
電圧特性算出部144は、掃引データに示される掃引信号と、信号発生器110によって電気めっき液Xaに生じる電圧Vmを示す電圧特性と、の対応関係を算出する算出手段を構成する。
【0061】
本実施形態では、電圧特性算出部144が、掃引信号の電圧Vgと電圧特性の電圧Vmとが一対一で互いに対応付けられた電圧対応テーブルを生成する。そして電圧特性算出部144は、電圧対応テーブルを参照し、電圧Vgと電圧Vmとの対応関係を示す曲線をフィッティングにより近似する近似関数を算出する。この近似関数は、例えば、三次スプライン補間法又は最小二乗法などにより算出される。電圧特性算出部144は、算出した近似関数を測定信号補償部145に出力する。
【0062】
測定信号補償部145は、掃引信号の電圧Vgと電気めっき液Xaの電圧Vmとの対応関係に基づいて、電気めっき液Xaの電気特性を測定するための測定信号を補償する補償手段を構成する。
【0063】
本実施形態では、測定信号補償部145が、電圧特性算出部144から電圧Vgと電圧Vmとの近似関数を受け付けると、信号データ保持部141から波形データを取得する。測定信号補償部145は、取得した近似関数に基づいて、測定信号の歪み成分が補償されるよう、波形データに示された波形信号の各値を変換する。なお、波形データの変換手法については、
図4を参照して後述する。
【0064】
そして、測定信号補償部145は、変換後の波形データを測定信号として信号データ保持部141に格納する。データ設定部142は、電気化学測定処理の開始指令を受け付けると、信号データ保持部141から変換後の波形データを取得して信号発生器110に出力する。
【0065】
これにより、信号発生器110からは歪み成分を補償した測定信号が出力されるので、電気めっき液Xaにおいて電流電圧特性の測定に適した三角波の電圧Vmが印加される。このため、電気めっき液Xaの測定精度が低下するのを抑制することができる。
【0066】
次に、本実施形態における測定信号を補償する手法について
図4及び
図5を参照しながら詳細に説明する。
【0067】
図4は、本実施形態における測定信号補償部145の補償処理を説明するための図である。
【0068】
図4には、電気めっき液Xaの電圧特性L1が実線により示され、線形特性L0が点線により示され、線形特性L0に対する電圧特性L1の逆特性L2が破線により示されている。
【0069】
電圧特性L1は、信号発生器110による掃引信号の出力電圧Vgと、その出力電圧Vgによって電気めっき液Xaに生じる発生電圧Vmと、の対応関係を示す電気特性のラインである。本実施形態の電圧特性L1は、信号発生器110の出力電圧Vgに対する電気めっき液Xaの発生電圧Vmの対応関係を示す。この電圧特性L1は、例えば、信号発生器110の出力電圧Vgを一定速度で上昇(掃引)させながら電圧計測部143で計測された電圧Vmを取得することにより算出される。
【0070】
線形特性L0は、信号発生器110の出力電圧Vgと電気めっき液Xaの発生電圧Vmとが線形関係にあるときの電気特性のラインである。線形特性L0のように歪みのない理想的な電気特性であれば、出力電圧Vgと発生電圧Vmとが互いに一致するため、発生電圧Vmと出力電圧Vgとの不一致による測定誤差は生じない。このため、線形特性L0は、測定精度を確保するにあたり目標となる電気特性である。
【0071】
逆特性L2は、線形特性L0を基準とする電圧特性L1の逆特性であり、線形特性L0を介して電圧特性L1の線対称となる電気特性のラインである。本実施形態の逆特性L2は、電圧特性L1の座標軸における発生電圧Vmに対する出力電圧Vgの対応関係を示し、出力電圧Vgに対する発生電圧Vmの対応関係を反転させる(入れ替える)ことにより算出される。
【0072】
図4に示すように、掃引信号の出力電圧Vgに対応する発生電圧Vmの関係を示す電圧特性L1は、線形特性L0に対して歪んでおり、非線形特性を有する。電圧特性L1の線形特性L0に対する逆特性L2を求め、その逆特性L2を測定信号に反映することにより、測定対象物において歪み成分を補償することが可能となる。
【0073】
本実施形態では、電圧特性算出部144が、出力電圧Vgと発生電圧Vmとに基づいて電圧特性L1の近似関数を算出する。そして測定信号補償部145は、その近似関数を用いて、発生電圧Vmに対応する出力電圧Vgの逆特性L2を示す逆特性テーブルを生成し、測定信号の各値を逆特性テーブルに対応する値に変換する。このようにして、測定信号に補償処理が施される。
【0074】
図5は、本実施形態の測定信号補償部145の補償処理により生成される測定信号の一例を示す図である。
【0075】
図5には、補償後の測定信号の電圧Vgが実線により示され、電気めっき液Xaの発生電圧Vmが破線により示されている。この例では、信号発生器110から三角波の波形信号Swを測定信号として出力することを想定している。
【0076】
図5に示すように、測定信号に対して補償処理が施されることにより、測定信号の信号レベルは、電気めっき液Xaの電圧特性に歪みが生じないよう逆特性L2を用いて補償される。これにより、電気めっき液Xaにおいて歪みが抑えられた三角波の電圧Vmが印加される。
【0077】
なお、電気めっき液Xaの電気特性は非可逆性を有するため、電圧Vmを下限値から上昇させる場合の電圧特性と、電圧Vmを上限値から低下させる場合の電圧特性と、が互いに異なる。したがって、本実施形態では、上昇時及び低下時の両者についての電圧特性の近似関数が算出され、算出された近似関数ごとに逆特性テーブルが生成される。
【0078】
次に、本実施形態における測定回路24の動作について説明する。
【0079】
図6は、測定回路24の制御方法についての処理手順例を示すフローチャートである。
【0080】
ステップS1において信号制御部140は、電気めっき液Xaの測定を開始する前に、検出回路120を介して信号発生器110から電気めっき液Xaに所定の掃引信号を印加させる。なお、ステップS1の処理は、検出回路120を介して測定対象物に所定の掃引信号を印加する印加ステップである。
【0081】
本実施形態では、例えば電気化学測定装置1を起動するときに、データ設定部142は、信号データ保持部141に保持された掃引データを信号発生器110に出力する。これにより、信号発生器110は、その掃引データに示された掃引信号の電圧Vgを出力する。具体的には、信号発生器110から出力される電圧の信号レベルが測定レンジの下限値から上限値まで掃引される。
【0082】
ステップS2において電圧計測部143は、ステップS1で信号発生器110から掃引信号が出力されている間、電気めっき液Xaに生じる電圧Vmを計測する。なお、ステップS2の処理は、印加ステップにより測定対象物に生じる電圧を計測する計測ステップである。
【0083】
ステップS3において電圧特性算出部144は、信号発生器110の掃引信号の出力電圧Vgと、電気めっき液Xaの電圧特性L1の発生電圧Vmと、の対応関係を算出する。なお、ステップS3の処理は、計測ステップにて計測される電圧特性と所定の掃引信号との対応関係を算出する算出ステップである。
【0084】
本実施形態では、電圧特性算出部144が、掃引信号の出力電圧Vgに対応する電気めっき液Xaの発生電圧Vmの関係を示す電圧対応テーブルを生成し、その電圧対応テーブルを参照して出力電圧Vgと発生電圧Vmとの近似関数を算出する。
【0085】
ステップS4において測定信号補償部145は、ステップS3で算出された対応関係に基づいて測定信号に対する補償処理を実行する。すなわち、測定信号補償部145は、出力電圧Vgと発生電圧Vmとの対応関係に基づいて、電気めっき液Xaの電気特性を測定するための測定信号を補償する。この補償処理については
図7を参照して後述する。なお、ステップS4の処理は、算出ステップにて算出される対応関係に基づいて波形信号を補償する補償ステップである。
【0086】
ステップS5において測定処理部130は、測定装置本体3から電気化学測定処理の実行(開始)を指示する指令信号を受信したか否かを判断する。測定処理部130は、その指令信号を受信するまで待機する。
【0087】
ステップS6において測定処理部130は、測定処理の実行を指示する指令信号を受信すると、信号発生器110から補償後の測定信号を出力するよう信号制御部140に指示するとともに検出回路120から出力される検出信号を取得する。これにより、電気めっき液Xaの電流電圧特性が測定される。
【0088】
本実施形態では、データ設定部142が測定処理部130の指示に従って、補償後の波形データを信号発生器110に出力し、信号発生器110は、その波形データに示された補償後の測定信号を、検出回路120を介して電気めっき液Xaに印加する。
【0089】
ステップS6の処理が終了すると、測定回路24の制御方法についての一連の処理手順が終了する。
【0090】
図7は、ステップS4の補償処理に関する処理手順例を示すフローチャートである。
【0091】
ステップS41において測定信号補償部145は、
図4に示したように、ステップS3で算出された出力電圧Vgと電気めっき液Xaの発生電圧Vmとの対応関係に基づいて、電圧特性L1の線形特性L0に対する逆特性L2を算出する。
【0092】
本実施形態では、測定信号補償部145が、電圧特性算出部144で算出された近似関数を用いて、出力電圧Vgと発生電圧Vmとの対応関係を反転させることにより、逆特性L2を示す逆特性テーブルを生成する。
【0093】
逆特性テーブルには、掃引信号の電圧Vgの各値に対応する測定対象物の発生電圧Vmの近似値が対応付けられている。測定信号補償部145は、その逆特性テーブルを信号データ保持部141に記録する。
【0094】
ステップS42において測定信号補償部145は、ステップS41で算出された逆特性L2を用いて、信号発生器110から出力される測定信号を補償する。
【0095】
本実施形態では、逆特性テーブルが生成されると、測定信号補償部145は、信号データ保持部141から波形データを取得し、その波形データに示される測定信号の各値を、逆特性テーブルに対応付けられた各値に変換する。測定信号補償部145は、変換した測定信号を示す補償後の波形データを生成し、その波形データを信号データ保持部141に記録する。
【0096】
ステップS43においてデータ設定部142は、信号発生器110から補償後の波形データに示された測定信号を出力させる。
【0097】
本実施形態では、データ設定部142が補償後の波形データを信号発生器110に出力する。これにより、信号発生器110は、補償後の波形信号を測定信号として出力する。
【0098】
ステップS44において電圧特性算出部144は、補償後の測定信号に含まれる値ごとに、電圧計測部143で計測された発生電圧Vmの波形についての誤差を算出する。すなわち、電圧特性算出部144は、測定対象物に印加すべき電圧の波形に対して発生電圧Vmの波形の誤差を算出する。
【0099】
本実施形態では、補償後の測定信号の出力電圧Vgごとに、電圧計測部143が電気めっき液Xaの発生電圧Vmを計測して電圧特性算出部144がその発生電圧Vmと本来(補償前)の波形信号の電圧値との差分を誤差として算出する。そして電圧特性算出部144は、補償後の測定信号の出力電圧Vgごとに、算出した誤差を測定信号補償部145に出力する。
【0100】
ステップS45において測定信号補償部145は、補償後の測定信号に含まれる値ごとに、ステップS44で算出された誤差に基づいて、ステップS41で算出された逆特性L2を補正する。
【0101】
本実施形態の測定信号補償部145は、信号データ保持部141から逆特性テーブルを取得すると、その逆特性テーブルにおける測定対象物の発生電圧Vmの値に対し、ステップS44での補償後の測定信号の電圧値に対応する誤差を反映する。
【0102】
例えば、測定信号補償部145は、補償後の測定信号の各値について、逆特性テーブルのうち補償後の測定信号の電圧値と一致する発生電圧Vmの値を抽出する。そして測定信号補償部145は、その抽出した発生電圧Vmの値からこれに対応する誤差を減算し、減算した値を逆特性テーブルに格納する。これにより、信号データ保持部141に保持された逆特性テーブルが補正される。
【0103】
ステップS46において測定信号補償部145は、ステップS45で算出された補正後の逆特性L2を用いて、測定対象物に印加すべき本来の波形信号が印加されるよう信号発生器110から出力される測定信号の信号レベルを補償する。
【0104】
本実施形態では、測定信号補償部145が、波形テータに示される測定信号の各値を、補正後の逆特性テーブルに対応付けられた電圧値に変換する。そして測定信号補償部145は、その測定信号を示す補償後の波形データを信号データ保持部141に上書きする。
【0105】
ステップS46の処理が完了すると、ステップS4の補償処理についての一連の処理手順が終了し、信号制御部140は、
図6に示したステップS5の処理に進む。
【0106】
なお、ステップS43乃至S46の各処理は省略してもよい。これらの処理を省略することにより、測定対象物に印加される波形信号の歪みを抑制しつつ測定信号補償部145の補償処理を簡素にすることができる。
【0107】
または、ステップS43乃至S46の一連の処理を繰り返し行ってもよい。繰り返し行うことにより、測定対象物の発生電圧Vmの誤差が徐々に小さくなるので、測定対象物に印加される波形信号の歪みをさらに小さくすることができる。例えば、信号制御部140は、算出される各発生電圧Vmの誤差のうちの最大値が所定の値以下となるまで、ステップS43乃至S46の一連の処理を繰り返し行ってもよい。
【0108】
なお、本実施形態では電気めっき液Xaを測定対象物としたが、これに限られない。例えば、
図8に示す信号発生装置101のように測定対象物は、電流電圧特性が非線形となる非線形測定対象物200であってもよい。非線形測定対象物200としては、例えばリチウムイオン電池やダイオードなどが挙げられる。なお、信号発生装置101は、
図3に示した信号発生器110、インピーダンスを有する検出回路120及び信号制御部140を備えている。
【0109】
次に、本実施形態の作用効果について詳細に説明する。
【0110】
本実施形態によれば、測定回路24は、測定対象物を測定するための波形信号を発生する信号発生装置を備える。そして信号発生装置は、測定対象物の電気特性を検出する検出回路120と、検出回路120を介して測定対象物に信号レベルが変化する所定の掃引信号を印加する印加回路としての信号発生器110を備える。
【0111】
さらに、測定回路24の信号発生装置は、信号発生器110により生じる測定対象物の電圧特性を計測する計測手段としての電圧計測部143と、電圧計測部143で計測される電圧特性と所定の掃引信号との対応関係を算出する算出手段としての電圧特性算出部144とを備える。そして信号発生装置は、電圧特性算出部144で算出される対応関係に基づいて波形信号を補償する補償手段として測定信号補償部145を備える。
【0112】
通常、信号発生器110と測定対象物との間に検出回路120が配置された信号発生装置では、
図4に示したように、検出回路120が有するインピーダンスによって、測定対象物に印加される波形信号に歪みが生じてしまう。
【0113】
測定対象物に対して精度よく波形信号を印加するには、測定処理の実行中において測定対象物の電圧を波形信号の指令値にフィードバックさせる制御回路が必要になる。しかしながら、測定対象物において波形信号に歪みが生じるような構成では、波形信号に歪みが生じない構成に比べて、波形信号の変化に対する測定対象物での発生電圧の変動が大きくなる。これに対して制御回路の追随性を確保しようとすると、回路構成が複雑になり、測定回路24のサイズ及び製造コストが増大してしまう。
【0114】
特に、測定対象物及び検出回路120の少なくとも一方が非線形な電流電圧特性を有する場合は、波形信号の変化に対する測定対象物の電圧変動がより一層大きくなる。測定対象物の電圧変動が大きくなるほど、回路構成が複雑になるので、測定回路24のサイズ及び製造コストがさらに増大してしまう。
【0115】
これに対して本実施形態では、測定処理の実行前において、信号発生器110から出力される所定の掃引信号と測定対象物の電圧特性との対応関係を求めることにより、検出回路120に起因する測定対象物での波形信号の歪みを特定できる。したがって、上述の対応関係を用いることにより、波形信号の歪みが抑制されるよう信号発生器110から出力される波形信号を補償することができる。
【0116】
このように、信号発生器110の掃引信号と測定対象物の電圧特性との対応関係を求めて波形信号を補償する演算処理を実行することにより、測定対象物の測定に必要となる波形信号を正しく測定対象物に印加することができる。
【0117】
したがって、測定回路24のサイズ及び製造コストの増加を抑制しつつ、測定対象物に精度よく波形信号を印加することができる。すなわち、測定対象物に適切な測定信号を印加しつつ、信号発生装置の構成を簡素にすることができる。
【0118】
これに加え、本実施形態では、
図2Bで述べたように作用電極21が微小電極であることから、電気めっき液Xaに印加される波形信号の周期を短くすることが可能となる。さらに測定回路24は、信号発生器110から補償後の測定信号を出力するだけで歪みの少ない波形信号を測定対象物に印加できるため、フィードバック制御が不要となる。したがって、本実施形態によれば、回路構成が複雑にならずに測定時間を短縮することができる。すなわち、信号発生装置の構成を簡素にしつつ、測定信号の高速化を図ることができる。
【0119】
また、本実施形態によれば、測定信号補償部145は、
図4の破線で示したように、上述の対応関係に基づき、線形特性L0を基準として、掃引信号に対する電圧特性L1の逆特性L2を算出する。そして測定信号補償部145は、算出した逆特性L2を用いて、信号発生器110から出力される波形信号の信号レベルを補償する。
【0120】
このように、電圧特性L1の逆特性L2を求めることにより、波形信号の各値に対して測定信号の歪みを抑制するための補償成分を波形信号に加味することが可能となる。それゆえ、逆特性L2を用いて波形信号の信号レベルを補償することで、
図5に示したように、測定対象物に対して歪みの小さな波形信号を印加することができる。
【0121】
また、本実施形態によれば、
図4に示したように、逆特性L2は、測定対象物の電圧特性に対する所定の掃引信号の関係を示す。このため、逆特性L2を用いて波形信号を補償することにより、測定対象物に印加される波形信号Swの歪みを抑制することができる。
【0122】
また、本実施形態によれば、掃引信号は電圧信号であり、測定信号補償部145は、信号発生器110によって印加される電圧信号と測定対象物の電圧特性との対応関係を反転させることにより逆特性L2を算出する。具体的には、
図4に示したように、電圧特性L1についての縦軸の電圧Vgと横軸の電圧Vmとを互いに反転させることにより逆特性L2が算出される。したがって、簡易な手法により逆特性L2を算出することができる。
【0123】
また、本実施形態によれば、電圧特性算出部144は、信号発生器110の掃引信号と測定対象物の電圧特性との対応関係を示す近似関数を算出する。そして測定信号補償部145は、その近似関数に基づいて逆特性L2を示す逆特性テーブルを生成し、波形信号の各値を逆特性テーブルに対応する各値に変換する。このように、近似関数を用いて逆特性テーブルを生成することにより、電圧特性L1から逆特性L2への変換処理を簡易にすることができる。したがって、簡易な処理により波形信号を補償することができる。
【0124】
また、本実施形態によれば、信号発生器110が補償後の波形信号を印加するとともに、測定信号補償部145は、補償後の波形信号によって測定対象物に生じる電圧特性と波形信号との差分を求め、その差分に応じて逆特性テーブルを補正する。これにより、測定対象物に印加される測定信号の歪みをより一層抑えることができる。
【0125】
また、本実施形態によれば、測定対象物は、非線形な電流電圧特性を有するものであってもよく、例えば電気めっき液Xaなどが挙げられる。このような測定対象物に生じる電圧は、信号発生器110から出力される信号の変化によって急峻に変動する場合があり、このような場合であっても測定回路24は、測定対象物に対して歪みの小さい測定信号を印加することができる。
【0126】
また、検出回路120は、非線形な電流電圧特性を有するものであってもよい。このような検出回路120が信号発生器110と測定対象物との間に配置され、測定対象物の電圧変動が急峻となっても、測定回路24は、測定対象物に印加される測定信号の歪みを抑制することができる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0128】
例えば、信号発生器110は電流信号を出力する回路であってもよい。この場合でも、信号発生器110の掃引信号の出力電流と測定対象物の電圧特性との対応関係に基づいて波形信号を補償することができる。
【0129】
また、上記実施形態では電圧特性算出部144が信号データ保持部141から掃引信号を指令値として取得する例について説明したが、電圧特性算出部144は信号発生器110から掃引信号の出力値を取得してもよい。この場合には、信号発生器110自体の出力誤差についても補償されるので、より正確な測定を実現することが可能となる。