【解決手段】溶接トーチBの電極と被加工物Wとの間に交流電圧を印加する溶接電源装置A1において、直流電力を出力する直流電源回路(整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3および整流平滑回路5)と、スイッチング素子Q1,Q2を有し、かつ、直流電源回路から直流電力を入力されて、交流電力を出力するインバータ回路7と、インバータ回路7の出力電流を検出する電流センサ91と、直流電源回路およびインバータ回路7を制御する制御回路8とを備えた。制御回路8は、出力極性を切り替える際に、まず、直流電源回路の出力を抑制し、その後、スイッチング素子Q1,Q2をオンにした短絡状態とし、出力電流の瞬時値の絶対値が極性切替電流値I
前記制御回路は、前記被加工物が前記溶接電極より高電位である正極性から低電位である逆極性に切り替える場合と、逆極性から正極性に切り替える場合とで、前記閾値を異なる値にする、
請求項1ないし5のいずれかに記載の溶接電源装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0021】
図1〜
図4は、第1実施形態に係る溶接電源装置を説明するための図である。
図1は、溶接電源装置A1を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。
図2(a)は、溶接電源装置A1の充電回路63の一例を示す回路図である。
図2(b)は、溶接電源装置A1の放電回路64の一例を示す回路図である。
図3は、極性切替制御部の内部構成の一例を示す機能ブロック図である。
図4は、出力極性の切り替えを説明するための図であり、各信号および各電流の時間変化を示すタイムチャートである。なお、本明細書で参照する各タイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0022】
図1に示すように、溶接システムは、溶接電源装置A1および溶接トーチBを備える。当該溶接システムは、溶接トーチBが非消耗電極式のトーチである交流TIG溶接システムである。溶接電源装置A1は、商用電源Dから入力される交流電力を変換して、出力端子a,bから出力する。一方の出力端子aは、ケーブルによって被加工物Wに接続される。他方の出力端子bは、ケーブルによって溶接トーチBの電極に接続される。溶接電源装置A1は、溶接トーチBの電極の先端と被加工物Wとの間にアークを発生させて、電力を供給する。当該アークの熱によって、溶接が行われる。溶接トーチBの電極が、本発明の「溶接電極」に相当する。
【0023】
溶接電源装置A1は、整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3、整流平滑回路5、再点弧回路6、インバータ回路7、制御回路8、および電流センサ91を備える。
【0024】
整流平滑回路1は、商用電源Dから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路1は、交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備える。なお、整流平滑回路1の構成は限定されない。
【0025】
インバータ回路2は、例えば、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子を備える。インバータ回路2は、制御回路8から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路1から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。なお、インバータ回路2は直流電力を高周波電力に変換するものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路2が本発明の「第2インバータ回路」に相当する。
【0026】
トランス3は、インバータ回路2が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路5に出力する。トランス3は、一次側巻線3a、二次側巻線3bおよび補助巻線3cを備える。一次側巻線3aの各入力端子は、インバータ回路2の各出力端子にそれぞれ接続される。二次側巻線3bの各出力端子は、整流平滑回路5の各入力端子にそれぞれ接続される。また、二次側巻線3bには、2つの出力端子とは別にセンタタップが設けられている。二次側巻線3bのセンタタップは、接続線4によって、出力端子bに接続される。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと二次側巻線3bの巻き数比に応じて変圧されて、整流平滑回路5に入力される。補助巻線3cの各出力端子は、充電回路63の各入力端子にそれぞれ接続される。インバータ回路2の出力電圧は、一次側巻線3aと補助巻線3cの巻き数比に応じて変圧されて、充電回路63に入力される。二次側巻線3bおよび補助巻線3cは一次側巻線3aに対して絶縁されているので、商用電源Dから入力される電流が二次側の回路および充電回路63に流れることを防止できる。
【0027】
整流平滑回路5は、トランス3から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。整流平滑回路5は、高周波電流を整流する全波整流回路と、平滑する直流リアクトルとを備える。なお、整流平滑回路5の構成は限定されない。整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3、および整流平滑回路5を合わせたものが、本発明の「直流電源回路」に相当する。
【0028】
インバータ回路7は、例えば、単相ハーフブリッジ型のPWM制御インバータであり、2つのスイッチング素子Q1,Q2を備える。本実施形態では、スイッチング素子Q1,Q2は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)である。なお、スイッチング素子Q1,Q2は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)や、バイポーラトランジスタなどであってもよい。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは、スイッチング素子Q1のエミッタ端子とスイッチング素子Q2のコレクタ端子とが接続されて、直列接続される。スイッチング素子Q1のコレクタ端子はインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタ端子はインバータ回路7の負極側の入力端子に接続される。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点は、インバータ回路7の出力端子に接続される。スイッチング素子Q1,Q2には、それぞれ、ダイオードが逆並列に接続される。スイッチング素子Q1およびスイッチング素子Q2のゲート端子には、制御回路8から出力されるスイッチング駆動信号が入力される。インバータ回路7の出力端子は、出力端子aに接続される。インバータ回路7は、制御回路8から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子Q1,Q2をスイッチングさせることで、インバータ回路7の出力端子の電位(出力端子aの電位)を、整流平滑回路5の正極側の出力端子の電位と負極側の出力端子の電位とで交互に切り替える。これにより、インバータ回路7は、出力端子a(被加工物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接トーチBの電極に接続)の電位より高い状態である正極性と、出力端子aの電位が出力端子bの電位より低い状態である逆極性とを交互に切り替える。つまり、インバータ回路7は、整流平滑回路5から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。なお、インバータ回路7は直流電力を交流電力に変換するものであればよく、その他の構成のインバータ回路であってもよい。インバータ回路7が本発明の「インバータ回路」に相当する。
【0029】
再点弧回路6は、整流平滑回路5とインバータ回路7との間に配置されており、溶接電源装置A1の出力極性が切り替わるときに、溶接電源装置A1の出力端子a,b間に高電圧を印加する。当該高電圧は、極性切り替え時の再点弧性を向上させるためのものであり、以下では「再点弧電圧」と記載する。正極性から逆極性に切り替わるときにアーク切れが発生しやすいので、本実施形態では、再点弧回路6は、正極性から逆極性に切り替わるときにのみ再点弧電圧を印加し、逆極性から正極性に切り替わるときには再点弧電圧を印加しない。再点弧回路6は、ダイオード61、再点弧コンデンサ62、充電回路63および放電回路64を備える。
【0030】
ダイオード61と再点弧コンデンサ62とは直列接続されて、インバータ回路7の入力側に並列接続される。ダイオード61は、アノード端子がインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、カソード端子が再点弧コンデンサ62の一方の端子に接続される。再点弧コンデンサ62は、一方の端子がダイオード61のカソード端子に接続され、他方の端子がインバータ回路7の負極側の入力端子に接続される。再点弧コンデンサ62は、所定の静電容量以上のコンデンサであり、溶接電源装置A1の出力に印加するための再点弧電圧を充電される。再点弧コンデンサ62は、充電回路63によって充電され、放電回路64によって放電される。また、ダイオード61は、インバータ回路7のスイッチング時のサージ電圧を、再点弧コンデンサ62に吸収させる。つまり、再点弧コンデンサ62は、サージ電圧を吸収するためのスナバ回路としても機能する。
【0031】
充電回路63は、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電するための回路であり、再点弧コンデンサ62に並列に接続される。
図2(a)は、充電回路63の一例を示す図である。
図2(a)に示すように、本実施形態では、充電回路63は、整流平滑回路63cおよび昇圧チョッパ63dを備える。整流平滑回路63cは、交流電圧を全波整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備え、トランス3の補助巻線3cから入力される高周波電圧を直流電圧に変換する。なお、整流平滑回路63cの回路構成は限定されない。
【0032】
昇圧チョッパ63dは、整流平滑回路63cから入力される直流電圧を昇圧して、再点弧コンデンサ62に出力する。昇圧チョッパ63dは、入力端子と出力端子との間にコイルとダイオードとを直列に接続(コイルの一方の端子とダイオードのアノード端子とを接続し、入力端子側にコイル、出力端子側にダイオードを配置)し、その接続点にスイッチング素子63bを並列に接続し、ダイオードのカソード端子にコンデンサを並列に接続した構成となっている。なお、昇圧チョッパ63dの回路構成は限定されない。本実施形態では、スイッチング素子63bは、MOSFETである。なお、スイッチング素子63bは、IGBTやバイポーラトランジスタなどであってもよい。
【0033】
昇圧チョッパ63dは、スイッチング素子63bを駆動するための駆動回路63aを備える。駆動回路63aは、後述する充電制御部86から入力される充電回路駆動信号に基づいて、スイッチング素子63bを駆動させるためのパルス信号を出力する。駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間、パルス信号の出力を行わない。この間、スイッチング素子63bはオフ状態が継続する。したがって、整流平滑回路63cから入力される直流電圧がそのまま、再点弧コンデンサ62に印加され、再点弧コンデンサ62は充電される。一方、駆動回路63aは、充電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間、所定のパルス信号をスイッチング素子63bに出力する。これにより、昇圧チョッパ63dは駆動するので、整流平滑回路63cから入力される直流電圧が昇圧されて、再点弧コンデンサ62に印加され、再点弧コンデンサ62は充電される。すなわち、充電回路63は、充電回路駆動信号に基づいて、整流平滑回路63cから入力される直流電圧をそのまま再点弧コンデンサ62に印加する状態と、昇圧して印加する状態とで切り替える。なお、駆動回路63aを設けずに、充電制御部86が充電回路駆動信号としてパルス信号をスイッチング素子63bに直接入力するようにしてもよい。また、充電回路63の構成は限定されない。充電回路63は、昇圧チョッパ63dに代えて、絶縁型フォワードコンバータなどを備えてもよい。
【0034】
放電回路64は、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧を放電するものであり、ダイオード61と再点弧コンデンサ62との接続点と、二次側巻線3bのセンタタップと出力端子bとを接続する接続線4との間に接続される。
図2(b)は、放電回路64の一例を示す図である。
図2(b)に示すように、放電回路64は、スイッチング素子64aおよび限流抵抗64bを備える。本実施形態では、スイッチング素子64aは、IGBTである。なお、スイッチング素子64aは、バイポーラトランジスタや、MOSFETなどであってもよい。スイッチング素子64aと限流抵抗64bとは直列接続されて、再点弧コンデンサ62に直列接続される。スイッチング素子64aのコレクタ端子は限流抵抗64bの一方の端子に接続され、スイッチング素子64aのエミッタ端子は、接続線64cによって、接続線4に接続される。なお、限流抵抗64bは、スイッチング素子64aのエミッタ端子側に接続されてもよい。また、スイッチング素子64aのゲート端子には、後述する放電制御部85から、放電回路駆動信号が入力される。スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオン(例えばハイレベル信号)の間オン状態になる。これにより、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧は、限流抵抗64bを介して、放電される。一方、スイッチング素子64aは、放電回路駆動信号がオフ(例えばローレベル信号)の間オフ状態になる。これにより、再点弧電圧の放電は停止される。すなわち、放電回路64は、放電回路駆動信号に基づいて、再点弧コンデンサ62を放電する状態と放電しない状態とで切り替える。なお、放電回路64の構成は限定されない。
【0035】
電流センサ91は、溶接電源装置A1の出力電流Ioutを検出するセンサであり、本実施形態では、インバータ回路7の出力端子と出力端子aとを接続する接続線71に配置される。本実施形態では、電流がインバータ回路7から出力端子aに向かって流れる場合を正とし、電流が出力端子aからインバータ回路7に向かって流れる場合を負としている。電流センサ91は、出力電流の瞬時値を検出して制御回路8に入力する。なお、電流センサ91の構成は限定されず、接続線71から出力電流Ioutを検出するものであればよい。なお、電流センサ91の配置場所は限定されない。例えば、電流センサ91は、接続線4に配置されてもよい。
【0036】
制御回路8は、溶接電源装置A1を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現される。制御回路8は、電流センサ91から出力電流の瞬時値を入力される。そして、制御回路8は、インバータ回路2、インバータ回路7、充電回路63および放電回路64に、それぞれ駆動信号を出力する。制御回路8は、電流制御部81、目標電流設定部82、極性切替制御部83、放電制御部85、および充電制御部86を備える。
【0037】
電流制御部81は、溶接電源装置A1の出力電流Ioutをフィードバック制御するために、インバータ回路2を制御する。電流制御部81は、電流センサ91から入力される出力電流の瞬時値信号を絶対値回路によって絶対値信号に変換し、当該絶対値信号と目標電流設定部82から入力される出力電流の設定値との偏差に基づいて、PWM制御により、インバータ回路2のスイッチング素子を制御するための出力制御駆動信号を生成して、インバータ回路2に出力する。また、本実施形態では、電流制御部81は、極性切替制御部83から入力される停止信号がオン(例えばハイレベル信号)の間、出力制御駆動信号の出力を停止する。これにより、インバータ回路2は、スイッチング素子のスイッチングが停止し、高周波電力の出力を停止する。
【0038】
極性切替制御部83は、溶接電源装置A1の出力極性を切り替えるために、インバータ回路7を制御する。極性切替制御部83は、出力極性を切り替えるようにスイッチング素子Q1,Q2を制御するためのパルス信号であるスイッチング駆動信号を生成して、インバータ回路7に出力する。極性切替制御部83は、スイッチング素子Q1に入力されて、スイッチング素子Q1のスイッチングを制御するスイッチング駆動信号S1、および、スイッチング素子Q2に入力されて、スイッチング素子Q2のスイッチングを制御するスイッチング駆動信号S2を生成する。スイッチング素子Q1は、スイッチング駆動信号S1がオン(ハイレベル信号)のときに、エミッタ端子とコレクタ端子とを導通させてオンになり、スイッチング駆動信号S1がオフ(ローレベル信号)のときに、エミッタ端子とコレクタ端子とを遮断させてオフになる。スイッチング素子Q2は、スイッチング駆動信号S2がオン(ハイレベル信号)のときに、エミッタ端子とコレクタ端子とを導通させてオンになり、スイッチング駆動信号S2がオフ(ローレベル信号)のときに、エミッタ端子とコレクタ端子とを遮断させてオフになる。したがって、スイッチング駆動信号S1がオンで、スイッチング駆動信号S2がオフの場合、出力端子a(被加工物W)が出力端子b(溶接トーチB)より高電位(正極性)になる。また、スイッチング駆動信号S1がオフで、スイッチング駆動信号S2がオンの場合、出力端子a(被加工物W)が出力端子b(溶接トーチB)より低電位(逆極性)になる。本実施形態では、極性切替制御部83は、出力極性を切り替える際に、スイッチング駆動信号S1,S2を両方オンにすることで、スイッチング素子Q1,Q2を両方オンにする短絡期間を設けている。スイッチング駆動信号S1,S2は、放電制御部85および充電制御部86にも出力される。
【0039】
また、極性切替制御部83は、電流制御部81による出力制御駆動信号の出力を停止させる停止信号を生成して、電流制御部81に出力する。本実施形態では、極性切替制御部83は、出力極性を切り替える際に、短絡期間の前に、停止信号をオンにすることで、電流制御部81による出力制御駆動信号の出力を停止させる。
【0040】
次に、極性切替制御部83による、スイッチング駆動信号S1,S2および停止信号の生成について説明する。
【0041】
極性切替制御部83は、出力極性を切り替える際に、まず、インバータ回路2の出力を停止させる。具体的には、極性切替制御部83は、停止信号をオンにすることで、電流制御部81による出力制御駆動信号の出力を停止させて、インバータ回路2の出力を停止させる。インバータ回路2の出力が停止することで、出力電流の瞬時値の絶対値は徐々に減少する。そして、極性切替制御部83は、出力電流の瞬時値の絶対値が短絡切替電流値以下になったときに、スイッチング素子Q1,Q2を両方オンにした短絡状態とする。そして、出力電流の瞬時値の絶対値が極性切替電流値以下になったときに、短絡状態の前にオンであった方のスイッチング素子をオフにする。極性切替電流値は、スイッチング素子Q1,Q2をオフに切り替えたときに発生するサージ電圧を許容範囲に収めるための出力電流の閾値として、あらかじめ設定されている。また、短絡切替電流値は、出力電流の設定値が大きい場合に、出力電流Ioutをある程度低下させるためにあらかじめ設定される閾値である。極性切替電流値が本発明の「閾値」に相当し、短絡切替電流値が本発明の「第2閾値」に相当する。
【0042】
短絡切替電流値は、出力電流の設定値がこの値以下であれば、オフ時のサージ電圧が許容範囲内に収まる電流値が設定される。極性切替電流値が例えば200Aの場合、出力電流の設定値が300Aであれば、インバータ回路2の出力停止と短絡状態への切り替えを同時に行ったとしても、オフ時のサージ電圧が許容範囲内に収まるが、出力電流の設定値が500Aであれば、インバータ回路2の出力停止と短絡状態への切り替えを同時に行うと、オフ時のサージ電圧が許容範囲を超えてしまう。インバータ回路2の出力停止と短絡状態への切り替えを同時にしても、オフ時のサージ電圧が許容範囲内に収まる境界である例えば350Aが、短絡切替電流値として設定される。なお、これらの数値は例示であって、短絡切替電流値は、実験やシミュレーションに基づいて、適宜決定される。
【0043】
図3は、極性切替制御部83の内部構成の一例を示す機能ブロック図である。極性切替制御部83は、比較部831,832、信号生成部833、タイマ部834、および停止部835を備える。
【0044】
比較部831は、出力電流の瞬時値(以下では「出力電流瞬時値」とする)を極性切替電流値I
1と比較する。出力電流Ioutは交流電流であり、逆向きにも流れるので、電流センサ91から入力される出力電流瞬時値は負の値にもなる。比較部831は、短絡状態から逆極性への切り替えのために、出力電流瞬時値を極性切替電流値I
1と比較し、また、短絡状態から正極性への切り替えのために、出力電流瞬時値を極性切替電流値I
1の負の値(−I
1)と比較する。比較結果は信号生成部833、タイマ部834および停止部835に出力される。
【0045】
比較部832は、出力電流瞬時値を短絡切替電流値I
2と比較する。比較部832は、正極性から短絡状態への切り替えのために、出力電流瞬時値を短絡切替電流値I
2と比較し、また、逆極性から短絡状態への切り替えのために、出力電流瞬時値を短絡切替電流値I
2の負の値(−I
2)と比較する。比較結果は信号生成部833に出力される。
【0046】
信号生成部833は、比較部831,832より入力される比較結果に基づいて、スイッチング駆動信号S1,S2を生成する。具体的には、信号生成部833は、出力電流瞬時値が−I
2以上になったときにオンになり、出力電流瞬時値が極性切替電流値I
1以下になったときにオフになるパルス信号を生成し、スイッチング駆動信号S1として出力する。また、信号生成部833は、出力電流瞬時値が短絡切替電流値I
2以下になったときにオンになり、出力電流瞬時値が−I
1以上になったときにオフになるパルス信号を生成し、スイッチング駆動信号S2として出力する。
【0047】
タイマ部834は、所定時間Tを計時する。タイマ部834は、出力電流瞬時値が極性切替電流値I
1以下になったときに計時を開始し、所定時間Tが経過したときに、停止部835にタイミング信号を出力する。また、タイマ部834は、出力電流瞬時値が−I
1以上になったときに計時を開始し、所定時間Tが経過したときに、停止部835にタイミング信号を出力する。
【0048】
停止部835は、比較部831より入力される比較結果と、タイマ部834より入力されるタイミング信号とに基づいて、停止信号を生成する。停止部835は、タイマ部834よりタイミング信号が入力されたときにオンなり、出力電流瞬時値が極性切替電流値I
1以下になったとき、または、出力電流瞬時値が−I
1以上になったときに、オフになるパルス信号を生成し、停止信号として出力する。
【0049】
なお、極性切替制御部83の内部構成は、
図3に示したものに限定されない。
【0050】
図4は、溶接電源装置A1における出力極性の切り替えを説明するための図であり、各信号および各電流の時間変化を示すタイムチャートである。同図(a)は、停止部835が出力する停止信号を示す。同図(b)は、信号生成部833が生成するスイッチング駆動信号S1を示し、同図(c)は、信号生成部833が生成するスイッチング駆動信号S2を示す。同図(d)は、電流センサ91が検出する出力電流瞬時値(出力電流Ioutの瞬時値)を示す。同図(e)は、スイッチング素子Q1を流れる電流Ien、および、スイッチング素子Q2を流れる電流Iepを示す。なお、電流Iep(電流Ien)が負の値のときは、電流Iep(電流Ien)は、スイッチング素子Q2(Q1)を流れる電流ではなく、スイッチング素子Q2(Q1)に逆並列接続されたダイオードを流れる電流(
図1に示す矢印の反対向きに流れる電流)を示している。
【0051】
時刻t1までは、出力極性が正極性で、出力電流Ioutが設定値に制御されている状態である(
図4(d)参照)。そして、時刻t1において、停止信号がオフからオンに切り替わっている(
図4(a)参照)。これにより、インバータ回路2は、高周波電力の出力を停止する。したがって、出力電流瞬時値は減少し、時刻t2において、短絡切替電流値I
2以下になっている(
図4(d)参照)。これにより、スイッチング駆動信号S2がオンになる(
図4(c)参照)。なお、スイッチング駆動信号S1は、時刻t1の前からオンになっている(
図4(b)参照)。つまり、時刻t2において、スイッチング駆動信号S1,S2が両方オンになって短絡状態になっている。時刻t1から時刻t2までの期間は、インバータ回路2の出力が停止しているが、短絡状態になっていない(スイッチング素子Q1がオンで、スイッチング素子Q2がオフ)。スイッチング素子Q2がオフなので、スイッチング素子Q2を流れる電流Iepは「0」であり、スイッチング素子Q1を流れる電流Ienは出力電流Ioutに等しい(
図4(e)参照)。
【0052】
時刻t2において短絡状態になったことで、出力電流瞬時値はさらに減少し、時刻t3において、極性切替電流値I
1以下になっている(
図4(d)参照)。これにより、スイッチング駆動信号S1がオフになり(
図4(b)参照)、停止信号がオフになり(
図4(a)参照)、タイマ部834による計時が開始される。時刻t2から時刻t3までの期間が短絡期間である。短絡期間において、スイッチング素子Q2を流れる電流Iepは、「0」から徐々に増加している。スイッチング素子Q1を流れる電流Ienは、出力電流Ioutと電流Iepを加算したものであり、徐々に減少している(
図4(e)参照)。電流Iepは、時刻t1から時刻t2までの期間は増加せず、時刻t2から時刻t3までの期間(短絡期間)だけ増加するので、時刻t1から時刻t3まで増加する場合と比較すると、時刻t3においての電流Iepは小さい。別の言い方をすると、時刻t1から時刻t2までの期間で、出力電流瞬時値を、短絡切替電流値I
2まで減少させている。この間、スイッチング素子Q2がオフなので、電流Iepは増加しない。
【0053】
時刻t3において、スイッチング駆動信号S1がオフになることで、スイッチング素子Q1にサージ電圧が印加されるが、スイッチング素子Q1を流れる電流Ienが、極性切替電流値I
1から大きく解離しないので、サージ電圧を許容範囲に収めることができる。
【0054】
時刻t3において、スイッチング駆動信号S1がオフになることで、出力極性は逆極性になり、出力電流瞬時値は、急激に減少して電流の向きを変え、大きさが設定値である逆向きの電流値に達する(
図4(d)参照)。出力電流瞬時値が「0」になったとき、再点弧回路6によって再点弧電圧が印加されるので、再点弧性が向上されて、アーク切れの発生が抑制される。
【0055】
時刻t3から時刻t4までは、出力極性が逆極性で、出力電流Ioutが設定値の負の値に制御されている状態である(
図4(d)参照)。そして、時刻t4において、停止信号がオフからオンに切り替わっている(
図4(a)参照)。これにより、インバータ回路2は、高周波電力の出力を停止する。したがって、出力電流瞬時値は増加し、時刻t5において、−I
2以上になっている(
図4(d)参照)。これにより、スイッチング駆動信号S1がオンになる(
図4(b)参照)。なお、スイッチング駆動信号S2は、時刻t5の前からオンになっている(
図4(c)参照)。つまり、時刻t5において、スイッチング駆動信号S1,S2が両方オンになって短絡状態になっている。時刻t4から時刻t5までの期間は、インバータ回路2の出力が停止しているが、短絡状態になっていない(スイッチング素子Q2がオンで、スイッチング素子Q1がオフ)。スイッチング素子Q1がオフなので、スイッチング素子Q1を流れる電流Ienは「0」であり、スイッチング素子Q2を流れる電流Iepは出力電流Ioutの絶対値に等しい(
図4(e)参照)。
【0056】
時刻t5において短絡状態になったことで、出力電流瞬時値はさらに増加し、時刻t6において、−I
1以上になっている(
図4(d)参照)。これにより、スイッチング駆動信号S2がオフになり(
図4(c)参照)、停止信号がオフになり(
図4(a)参照)、タイマ部834による計時が開始される。時刻t5から時刻t6までの期間が短絡期間である。短絡期間において、スイッチング素子Q1を流れる電流Ienは、「0」から徐々に増加している。スイッチング素子Q2を流れる電流Iepは、電流Ienから出力電流Ioutを減算(出力電流Ioutの正負を反転した値と電流Ienとを加算)したものであり、徐々に減少している(
図4(e)参照)。電流Ienは、時刻t4から時刻t5までの期間は増加せず、時刻t5から時刻t6までの期間(短絡期間)だけ増加するので、時刻t4から時刻t6まで増加する場合と比較すると、時刻t6においての電流Ienは小さい。別の言い方をすると、時刻t4から時刻t5までの期間で、出力電流瞬時値を、−I
2まで増加させている。この間、スイッチング素子Q1がオフなので、電流Ienは増加しない。
【0057】
時刻t6において、スイッチング駆動信号S2がオフになることで、スイッチング素子Q2にサージ電圧が印加されるが、スイッチング素子Q2を流れる電流Iepが、極性切替電流値I
1から大きく解離しないので、サージ電圧を許容範囲に収めることができる。
【0058】
時刻t6において、スイッチング駆動信号S2がオフになることで、出力極性は正極性になり、出力電流瞬時値は、急激に増加して電流の向きを変え、設定値に達する(
図4(d)参照)。
【0059】
図1に戻って、放電制御部85は、放電回路64を制御する。放電制御部85は、極性切替制御部83から入力されるスイッチング駆動信号に基づいて、放電回路64を制御するための放電回路駆動信号を生成して、放電回路64に出力する。放電回路64は、放電回路駆動信号がオンの間、再点弧コンデンサ62に充電された再点弧電圧を放電する。放電制御部85は、溶接電源装置A1の出力電流Ioutが正から負に変わるときにオンになっているように、放電回路駆動信号を生成する。具体的には、放電制御部85は、スイッチング駆動信号S1がオンからオフに切り替わったときにオンに切り替わり、オンに切り替わった後、所定時間が経過したときにオフに切り替わるパルス信号を生成し、放電回路駆動信号として出力する。所定時間は、出力電流Ioutが正から負に変わるタイミングを完全に超えるまで継続するように設定される。なお、放電制御部85が放電回路駆動信号を生成する方法は、これに限定されない。出力電流Ioutが正から負に変わるときに再点弧電圧を印加できればよいので、放電回路駆動信号は、出力電流Ioutが正から負に変わる前にオンになり、出力電流Ioutが正から負に変わった後にオフになればよい。
【0060】
充電制御部86は、充電回路63を制御する。充電制御部86は、極性切替制御部83から入力されるスイッチング駆動信号と、図示しない電圧センサから入力される再点弧コンデンサ62の端子間電圧の瞬時値とに基づいて、充電回路63を制御するための充電回路駆動信号を生成して、充電回路63に出力する。充電回路63は、充電回路駆動信号がオンの間、再点弧コンデンサ62を充電する。充電回路63は、放電回路64による放電が完了してから次の放電のタイミングまでに、再点弧コンデンサ62に再点弧電圧を充電する必要がある。また、再点弧コンデンサ62が目標電圧まで充電された場合は、それ以上の充電を行う必要がない。充電制御部86は、放電回路64による放電が完了してから、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧になるまでオンとなるように、充電回路駆動信号を生成する。具体的には、充電制御部86は、スイッチング駆動信号S1がオンからオフに切り替わった後、所定時間が経過したときにオンに切り替わり、再点弧コンデンサ62の端子間電圧が目標電圧になったときにオフに切り替わるパルス信号を生成し、充電回路駆動信号として出力する。なお、充電制御部86が充電回路駆動信号を生成する方法は、これに限定されない。充電回路駆動信号は、放電回路64による放電が完了してから、次の放電のタイミングまでの間でオンになり、再点弧コンデンサ62を充電できればよい。
【0061】
制御回路8は、各部をモジュール化したプログラムを実行するマイクロコンピュータによって実現してもよいし、論理回路を含むデジタル回路またはアナログ回路で実現してもよい。
【0062】
次に、本実施形態に係る溶接電源装置A1の作用および効果について説明する。
【0063】
本実施形態によると、極性切替制御部83は、出力極性を切り替える際に、まず、インバータ回路2の出力を停止させる。この期間においては、短絡状態になっていないので、極性切り替え前にオフであったスイッチング素子に電流が流れない状態で、出力電流が減少する。そして、極性切替制御部83は、出力電流瞬時値の絶対値が短絡切替電流値以下になったときに、スイッチング素子Q1,Q2を両方オンにした短絡状態とする。短絡状態では極性切り替え前にオフであったスイッチング素子もオンになって電流が流れるが、この電流の増加は、短絡と同時にインバータ回路2の出力を停止させる場合より小さくなる。したがって、極性切り替え前にオンであったスイッチング素子に流れる電流も小さくなる。これにより、出力電流の設定値が大きいときでも、スイッチング素子をオフにするときに当該スイッチング素子を流れる電流を小さくできるので、サージ電圧が許容範囲を超えることを抑制できる。
【0064】
また、本実施形態によると、極性切替制御部83は、出力極性を切り替える際に、停止信号をオンにして電流制御部81による出力制御駆動信号の出力を停止させることで、インバータ回路2の出力を停止させる。これにより、出力電流Ioutは早く減少し、極性の切り替えにかかる時間が短縮される。また、極性切替制御部83は、出力極性を切り替える際に、短絡期間を設けている。これにより、出力電流Ioutはより早く減少し、極性の切り替えにかかる時間がさらに短縮される。
【0065】
また、本実施形態によると、極性切替制御部83は、出力極性を切り替える際に、インバータ回路2の出力を停止させた後、出力電流瞬時値の絶対値が短絡切替電流値以下になったときに短絡状態に切り替える。短絡切替電流値は、インバータ回路2の出力停止と短絡状態への切り替えを同時にしても、オフ時のサージ電圧が許容範囲内に収まる境界である電流値が設定される。したがって、極性切替制御部83は、出力電流瞬時値の絶対値が短絡切替電流値以下になるまで短絡状態に切り替えないことで、サージ電圧が許容範囲に収まるようにし、かつ、短絡切替電流値以下になると短絡状態に切り替えることで、極性の切り替えにかかる時間をできるだけ短くできる。
【0066】
なお、本実施形態においては、出力極性を切り替える際に、電流制御部81による出力制御駆動信号の出力を停止させることで、インバータ回路2の出力を停止させる場合について説明したが、これに限られない。例えば、極性切替制御部83が目標電流設定部82に出力電流の設定値を「0」に変更させ、電流制御部81が出力電流Ioutを「0」に制御することで、インバータ回路2の出力を低下させてもよい。また、出力電流の設定値を、「0」ではなく、極性切替電流値I
1または短絡切替電流値I
2に変更してもよい。なお、出力電流Ioutを早く減少させるという観点からは、インバータ回路2の出力を停止させるのが望ましい。
【0067】
また、本実施形態においては、極性切替制御部83が、短絡状態から正極性への切り替えのために、出力電流瞬時値を極性切替電流値I
1の負の値(−I
1)と比較する場合について説明したが、これに限られず、極性切替電流値として(−I
1)以外の閾値を用いてもよい。つまり、短絡状態から正極性への切り替えの場合と、短絡状態から逆極性への切り替えの場合とで、極性切替電流値の絶対値が異なってもよい。例えば、正極性への切り替え時の極性切替電流値の絶対値を逆極性への切り替え時の極性切替電流値をより大きい値にすることで、正極性への切り替え時のサージ電圧を大きくして、再点弧コンデンサ62の充電を促進してもよい。同様に、逆極性から短絡状態への切り替えの場合と、正極性から短絡状態への切り替えの場合とで、短絡切替電流値の絶対値が異なってもよい。
【0068】
また、本実施形態においては、整流平滑回路1、インバータ回路2、トランス3、および整流平滑回路5を備えた直流電源回路を用いているが、これに限られない。インバータ回路7に直流電力を供給する直流電源回路の構成は限定されない。例えば、商用電源Dからの交流電圧をトランスで昇圧してもよいし、DC/DCコンバータや昇圧チョッパで直流電圧を昇圧してもよい。
【0069】
図5〜
図7は、本発明の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0070】
図5および
図6は、本発明の第2実施形態に係る溶接電源装置A2を説明するための図である。
図5は、溶接電源装置A2を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。
図6は、極性切替制御部の内部構成の一例を示す機能ブロック図である。溶接電源装置A2は、出力電圧Voutに応じて、極性切替電流値I
1および短絡切替電流値I
2を変更する点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(
図1および
図3参照)と異なっている。
【0071】
図5に示すように、溶接電源装置A2は、電圧センサ92を備えている。電圧センサ92は、溶接電源装置A2の出力電圧Voutを検出するセンサであり、本実施形態では、出力端子aと出力端子bとの間の電圧を検出する。本実施形態では、出力端子aの電位が出力端子bの電位より高い場合を正とし、出力端子aの電位が出力端子bの電位より低い場合を負としている。電圧センサ92は、出力電圧Voutの瞬時値を検出して制御回路8に入力する。なお、電圧センサ92の構成は限定されず、出力電圧Voutを検出するものであればよい。なお、第1実施形態では説明を省略しているが、実際には、溶接電源装置A1も電圧センサ92を備えている。
【0072】
図6に示すように、極性切替制御部83は、閾値設定部836,837をさらに備える。閾値設定部836は、出力電圧Voutに応じて、極性切替電流値I
1を設定する。閾値設定部836は、電圧センサ92が検出した出力電圧Voutの瞬時値(以下では「出力電圧瞬時値」とする)を入力され、出力電圧Voutの平均値(以下では「出力電圧平均値」とする)を算出する。出力電圧平均値は、出力電圧瞬時値の絶対値の所定時間の積分値を所定時間で除算することで算出される。所定時間は、出力電圧Voutの例えば1周期に相当する時間である。なお、所定時間は限定されない。なお、閾値設定部836は、平均値に代えて、実効値を算出してもよい。閾値設定部836は、算出した出力電圧平均値を閾値V
0と比較して、出力電圧平均値が閾値V
0以下の場合、比較部831に、極性切替電流値I
1としてI
1Hを設定する。一方、出力電圧平均値が閾値V
0より大きい場合、極性切替電流値I
1としてI
1L(<I
1H)を設定する。
【0073】
出力極性を切り替える際に、短絡状態から短絡状態の前にオンであった方のスイッチング素子をオフに切り替えるとき、溶接電源装置A2の外部の負荷のインピーダンスが大きいほど、当該スイッチング素子を流れる電流は大きくなる。これは、外部の負荷のインピーダンスが大きいほど、短絡状態により回生される電流(短絡状態の前にオフであった方のスイッチング素子を流れる電流)が大きくなるからである。したがって、外部の負荷のインピーダンスが大きい場合、出力電流瞬時値の絶対値が極性切替電流値I
1以下になったとしても、スイッチング素子を流れる電流が大きく、オフ時のサージ電圧が許容範囲を超えてしまうことがある。これを抑制するために、本実施形態では、外部の負荷のインピーダンスが大きい場合に、極性切替電流値I
1を小さい値に切り替える。外部の負荷のインピーダンスが大きい場合、出力電圧Voutが大きくなるので、本実施形態では、閾値設定部836は、出力電圧平均値を閾値V
0と比較して、比較結果に応じて、比較部831に設定する極性切替電流値I
1をI
1HとI
1Lとで切り替える。
【0074】
閾値設定部837も、閾値設定部836と同様であり、出力電圧平均値に応じて、短絡切替電流値I
2を設定する。閾値設定部837は、出力電圧瞬時値を閾値V
0と比較して、出力電圧平均値が閾値V
0以下の場合、比較部832に、短絡切替電流値I
2としてI
2Hを設定する。一方、出力電圧平均値が閾値V
0より大きい場合、短絡切替電流値I
2としてI
2L(<I
2H)を設定する。
【0075】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態によると、閾値設定部836は、出力電圧平均値が閾値V
0以下の場合、極性切替電流値I
1としてI
1Hを設定し、出力電圧平均値が閾値V
0より大きい場合、極性切替電流値I
1としてI
1L(<I
1H)を設定する。したがって、極性切替制御部83は、外部の負荷のインピーダンスが大きい場合に、極性切替電流値I
1を小さい値(I
1L)に切り替えることができる。これにより、外部の負荷のインピーダンスが大きく、短絡状態により回生される電流が大きくなっても、極性切替制御部83は、出力電流瞬時値の絶対値がI
1L以下になってからスイッチング素子をオフにするので、オフ時のスイッチング素子を流れる電流は小さくなり、サージ電圧が許容範囲を超えてしまうことを抑制できる。また、本実施形態によると、閾値設定部837は、閾値設定部836と同様に、出力電圧平均値に応じて、短絡切替電流値I
2を設定する。したがって、極性切替制御部83は、極性切替電流値I
1に連動した短絡切替電流値I
2を設定することができる。短絡切替電流値I
2が極性切替電流値I
1に連動して変化するので、極性切替制御部83は、サージ電圧が許容範囲に収まるようにし、かつ、極性の切り替えにかかる時間をできるだけ短くできる。
【0076】
本実施形態においては、閾値設定部836が極性切替電流値I
1を2個の値で切り替える場合について説明したが、これに限られない。閾値設定部836は、3個以上の値で切り替えてもよいし、出力電圧平均値に応じて、極性切替電流値I
1を線形的に変化させてもよい。また、本実施形態においては、閾値設定部837が短絡切替電流値I
2を2個の値で切り替える場合について説明したが、これに限られない。閾値設定部837は、3個以上の値で切り替えてもよいし、出力電圧平均値に応じて、短絡切替電流値I
2を線形的に変化させてもよい。なお、閾値設定部836と閾値設定部837とでは、切り替えの手法が異なってもよい。つまり、極性切替電流値I
1と短絡切替電流値I
2とは、連動して変化しなくてもよい。また、極性切替電流値I
1を切り替え可能とし、短絡切替電流値I
2を固定値としてもよいし、その逆としてもよい。
【0077】
図7は、本発明の第3実施形態に係る溶接電源装置A3を示すブロック図であり、溶接システムの全体構成を示している。なお、
図7においては、商用電源Dの記載が省略されている。溶接電源装置A3は、インバータ回路7がフルブリッジ型のインバータである点で、第1実施形態に係る溶接電源装置A1(
図1参照)と異なっている。
【0078】
本実施形態に係るインバータ回路7は、単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、4つのスイッチング素子Q1〜Q4を備える。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは、スイッチング素子Q1のエミッタ端子とスイッチング素子Q2のコレクタ端子とが接続されて、直列接続される。スイッチング素子Q1のコレクタ端子はインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタ端子はインバータ回路7の負極側の入力端子に接続される。同様に、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とは、スイッチング素子Q3のエミッタ端子とスイッチング素子Q4のコレクタ端子とが接続されて、直列接続される。スイッチング素子Q3のコレクタ端子はインバータ回路7の正極側の入力端子に接続され、スイッチング素子Q4のエミッタ端子はインバータ回路7の負極側の入力端子に接続される。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点は、接続線71によって出力端子aに接続される。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続点は、接続線によって出力端子bに接続される。スイッチング素子Q1〜Q4には、それぞれ、ダイオードが逆並列に接続される。
【0079】
スイッチング素子Q1およびスイッチング素子Q4のゲート端子には、制御回路8から出力されるスイッチング駆動信号S1が入力される。スイッチング素子Q2およびスイッチング素子Q3のゲート端子には、制御回路8から出力されるスイッチング駆動信号S2が入力される。インバータ回路7は、スイッチング駆動信号S1がオンでスイッチング駆動信号S2がオフの場合、スイッチング素子Q1,Q4がオンで、スイッチング素子Q2,Q3がオフになって、出力端子a(被加工物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接トーチBの電極に接続)の電位より高い正極性になる。一方、スイッチング駆動信号S1がオフでスイッチング駆動信号S2がオンの場合、スイッチング素子Q1,Q4がオフで、スイッチング素子Q2,Q3がオンになって、出力端子a(被加工物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接トーチBの電極に接続)の電位より低い逆極性になる。また、スイッチング駆動信号S1,S2が両方オンの場合、スイッチング素子Q1〜Q4がすべてオンになって、短絡状態になる。インバータ回路7が本発明の「インバータ回路」に相当する。
【0080】
本実施形態に係る再点弧回路6において、接続線64cは、インバータ回路7の正極側の入力端子に接続される。また、本実施形態に係るトランス3は、二次側巻線3bにセンタタップが設けられておらず、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続点が、接続線によって出力端子bに接続される。
【0081】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態によると、接続線64cがインバータ回路7の正極側の入力端子に接続されるので、再点弧回路6は、正極性から逆極性への切り替え時だけでなく、逆極性から正極性への切り替え時にも、再点弧電圧を印加することができる。また、逆極性への切り替え時の極性切替電流値を正極性への切り替え時の極性切替電流値の絶対値より大きい値にすることで、逆極性への切り替え時のサージ電圧を大きくすれば、逆極性への切り替え時のアーク切れに対応できるように、再点弧コンデンサ62の充電量を増加させることができる。
【0082】
なお、上記第1〜第3実施形態では、溶接電源装置A1〜A3をTIG溶接システムに用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係る溶接電源装置は、その他の半自動溶接システムにも用いることができる。また、本発明に係る溶接電源装置は、ロボットによる全自動溶接システムにも用いることができるし、被覆アーク溶接システムにも用いることができる。
【0083】
本発明に係る溶接電源装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接電源装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。