(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-2516(P2019-2516A)
(43)【公開日】2019年1月10日
(54)【発明の名称】動力制御機構
(51)【国際特許分類】
F16D 55/28 20060101AFI20181207BHJP
F16D 27/10 20060101ALI20181207BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20181207BHJP
【FI】
F16D55/28 B
F16D27/10 A
H01F7/16 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-118727(P2017-118727)
(22)【出願日】2017年6月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138416
【弁理士】
【氏名又は名称】北田 明
(72)【発明者】
【氏名】大山 法久
(72)【発明者】
【氏名】桑原 秀明
(72)【発明者】
【氏名】明道 政彦
(72)【発明者】
【氏名】藤川 達也
(72)【発明者】
【氏名】小山 恵里
(72)【発明者】
【氏名】山本 明
【テーマコード(参考)】
3J058
5E048
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA47
3J058AA53
3J058AA58
3J058AA68
3J058AA78
3J058AA88
3J058BA02
3J058BA62
3J058CC07
3J058CC72
3J058CC77
5E048AA06
5E048AB06
5E048AD07
5E048CA09
(57)【要約】
【課題】単純な構成でありながら優れた動力制御機構を提供する。
【解決手段】通電により電磁力を発生させるコイル4と、磁性体からなり、前記コイル4が巻き付けられるヨーク3と、前記ヨーク3に対向して配置され、前記電磁力により前記ヨーク3に接近する方向に移動するアーマチュア5と、を備え、前記ヨーク3において少なくとも前記アーマチュア5に対向した表面に膜状の絶縁層9を備える動力制御機構1である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により電磁力を発生させるコイルと、
磁性体からなり、前記コイルが巻き付けられるヨークと、
前記ヨークに対向して配置され、前記電磁力により前記ヨークに接近する方向に移動するアーマチュアと、を備え、
前記ヨークにおいて少なくとも前記アーマチュアに対向した表面に膜状の絶縁層を備える、動力制御機構。
【請求項2】
前記絶縁層は、前記ヨークにおいて前記巻き付けられるコイルが重なる表面にも備えられ、
前記ヨークにおいて前記アーマチュアに対向した表面に備えられた前記絶縁層と、前記ヨークにおいて前記巻き付けられるコイルが重なる表面に備えられた前記絶縁層と、が一連の層を構成する、請求項1に記載の動力制御機構。
【請求項3】
前記絶縁層は、非磁性体の塗膜からなる、請求項1または2に記載の動力制御機構。
【請求項4】
前記絶縁層は、電着塗装により形成された塗膜からなる、請求項3に記載の動力制御機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、備えたコイルに発生する電磁力により制動を行ったり、動力の伝達・切断を行ったりできる動力制御機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記動力制御機構の一例として電磁ブレーキや電磁クラッチが挙げられる。特許文献1または特許文献2には電磁クラッチの構成が開示されている。
【0003】
各文献に開示された電磁クラッチは、コイルに発生する電磁力によりロータとアーマチュアとが吸着する際、両者が直接的に当接するよう構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−89848号公報
【特許文献2】特開2007−113731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような構成では、吸着時に両者が衝突することで発生する騒音の問題や、電磁力が解消した時点での残留磁気によって、両者が離れるまでにタイムラグが生じることによる性能低下の問題があった。これら問題への対処のため、例えばアーマチュアとロータとの間に樹脂シート、コルクシート等の非磁性体からなるシートを配置することがあった。しかしこのような構成では、前記問題が改善されたとしても、構成部品が増えてしまうことが問題であった。
【0006】
そこで本発明は、単純な構成でありながら前記問題を改善できる動力制御機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、通電により電磁力を発生させるコイルと、磁性体からなり、前記コイルが巻き付けられるヨークと、前記ヨークに対向して配置され、前記電磁力により前記ヨークに接近する方向に移動するアーマチュアと、を備え、前記ヨークにおいて少なくとも前記アーマチュアに対向した表面に膜状の絶縁層を備える、動力制御機構である。
【0008】
この構成によれば、絶縁層の厚み分、ヨーク表面とアーマチュアの表面との間を空けることができ、ヨークとアーマチュアとが直接的に当接しないようにできる。このため、通電時(吸着時)に両者が衝突することで発生する騒音の問題や、電磁力が解消した時点での残留磁気によって、両者が離れるまでにタイムラグが生じることによる性能低下の問題を改善できる。また、従来のように、ヨークとアーマチュアとの間に別部材である樹脂シートを配置する必要がない。このため、動力制御機構の構成部品が増えることも抑制できる。
【0009】
そして、前記絶縁層は、前記ヨークにおいて前記巻き付けられるコイルが重なる表面にも備えられ、前記ヨークにおいて前記アーマチュアに対向した表面に備えられた前記絶縁層と、前記ヨークにおいて前記巻き付けられるコイルが重なる表面に備えられた前記絶縁層と、が一連の層を構成することができる。
【0010】
この構成によれば、ヨークとコイルとの間にボビンが配置されたり、空間が確保されたりした構成に比べ、ヨークとコイルとの間を接近させることができる。ヨークとコイルとの間を接近させることができると、コイルの巻き数を減らすことなくケースの外形寸法を小型化できる。よって、動力制御機構を小型化できる。そして更に、一連の層である絶縁層を構成することにより、ばらばらに絶縁層を構成することに比べ、製造途中でのマスキングの手間が軽減し、絶縁層を備えたヨークを製造しやすい。
【0011】
そして、前記絶縁層は、非磁性体の塗膜からなるものとできる。この構成によれば、非磁性体の塗膜によりヨークとコイルとの間が絶縁される。
【0012】
そして、前記絶縁層は、電着塗装により形成された塗膜からなるものとできる。この構成によれば、他の塗装方法に比べて膜厚を均一にできるため、ヨークにコイルを巻く際に電線の巻きに乱れが生じにくく、コイルの発する電磁力を均一化できる。また、電線の巻きに乱れが生じにくいことから、コイルの外周に生じる凹凸を少なくできるため、コイルの外周を覆う絶縁テープを巻く必要がある場合であっても、絶縁テープを容易かつ美しく巻くことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、通電時(吸着時)にヨークとアーマチュアとが衝突することで発生する騒音の問題や、電磁力が解消した時点での残留磁気によって、両者が離れるまでにタイムラグが生じることによる性能低下の問題を改善できる。また、従来のように、ヨークとアーマチュアとの間に別部材である樹脂シートを配置する必要がない。このため、動力制御機構の構成部品が増えることも抑制できる。よって、単純な構成でありながら従来の問題を改善でき、優れた動力制御機構とできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る動力制御機構としての電磁ブレーキを示し、(a)は縦断面図、(b)は平面図である。
【
図2】前記電磁ブレーキの概略的な分解斜視図である。
【
図3】
図1(a)において絶縁層の形成された部分を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明につき、一実施形態である電磁ブレーキ1を取り上げて、図面とともに以下説明を行う。なお、以下における上下方向の説明は、
図1(a)に示す位置関係に対応している。
【0016】
図1(a)(b)、
図2に示すように、動力制御機構としての本実施形態の電磁ブレーキ1は、外観が円柱状であって、ケース2、ヨーク3、コイル4、アーマチュア5、付勢部6、制動部7、入力連結部8を備える。
【0017】
ケース2は、仮想の軸である中心軸の外周を取り巻く円筒状の外周部21と、外周部21の上端に連続しており、上端面のうち径外領域を覆うプレート部22とを有する。ケース2の下端部は開放されて開口部23とされている。ケース2の一部は「外側ヨーク」として機能し、コイル4の発する磁束が通るため、ケース2は磁性体により形成されている。
【0018】
ヨーク3はコイル4が巻き付けられる部分であって、ケース2の開口部23を覆う円板状の基部31と、基部31の中心から上方に延びる円筒状の軸部32とを有する。軸部32は中空で少なくとも上方が開放されており、軸部32の内部のうち上側に付勢部6が配置される。軸部32の内部には段差部33が形成されており、この段差部33で付勢部6の下端を不動に支持している。ヨーク3にはコイル4の発する磁束が通るため、ヨーク3は磁性体により形成されている。
【0019】
コイル4は、ヨーク3の基部31により支持されつつ、軸部32に電線が巻き付けられることにより構成されている(なお、電線自体は図示していない)。このため、コイル4は中心軸周りに巻回されている。電線はケース2の外周部21を貫通してケーブルCとして外部に取り出されている。ケーブルCを介して電磁ブレーキ1に電力が供給されて、電線に通電させることによりコイル4に電磁力が発生する。この電磁力はケース2の一部とヨーク3とを介してアーマチュア5に及ぶ。具体的に通電時において、アーマチュア5には付勢部6の付勢力に抗して、ヨーク3に引き付けられる力が働く。
【0020】
コイル4を構成する電線は、例えば自己融着電線、具体的には温風接着型の自己融着電線を用いることが望ましい。自己融着電線を用いることで電線を巻きながら固めていくことができるため、電線の巻きが崩れず、整った形状のコイル4を得ることができる。これは、特に直径30mm未満である超小型の電磁ブレーキ1を製作するため、細い電線を使用する際に有利である。
【0021】
アーマチュア5は板状であり、本実施形態では円板を径方向で対向する2箇所において面取りすることにより対向辺51を形成した形状とされている。ケース2の内面形状は、アーマチュア5の外周形状に対して一回り大きい形状とされており、これにより、アーマチュア5が軸方向(上下方向)に往復移動することを許容しつつ、回転することは制限される。アーマチュア5はヨーク3の上端面に対向して配置され、通電時にコイル4の発する電磁力によりヨーク3に接近する方向に移動する。非通電時に電磁力が消失した状態において、アーマチュア5は付勢部6の付勢力によりヨーク3から離反する方向に移動する。
【0022】
付勢部6は軸方向(本実施形態では上下方向)に伸縮する圧縮コイルばねが用いられている。この付勢部6の付勢力により、アーマチュア5が押し上げられる。なお、通電時にアーマチュア5に働く電磁力は、付勢部6の付勢力よりも大きく設定されている。このため、通電時には電磁力が付勢部6の付勢力に打ち勝って、アーマチュア5がヨーク3に接近する方向に移動する。
【0023】
制動部7は板状のものであって、中心軸周りに回転可能に設けられている。そして、ケース2におけるプレート部22の下面、及び、アーマチュア5の上面に対して当接した際には、各面に対する摩擦力により制動部7の回転が阻止される。この制動部7には同軸で回転するように入力連結部8が嵌め込まれて固定されている。図示していないが、入力連結部8には制動対象物の回転軸が連結される。
【0024】
以上のように構成された本実施形態の電磁ブレーキ1は、非通電時には付勢部6の付勢によりアーマチュア5が押し上げられ、アーマチュア5とケース2のプレート部22との間で制動部7が挟まれることにより、入力連結部8の回転を停止させる。一方、通電時には、コイル4の電磁力によりアーマチュア5が下方に移動する。すると、制動部7がケース2のプレート部22及びアーマチュア5に対して離反する、または、摺動可能な状態となる。これにより、入力連結部8の回転が許容される。
【0025】
本実施形態では、ヨーク3において少なくとも前記アーマチュア5に対向した表面である上端面に絶縁層9(上部絶縁層9a)を備える。本実施形態の絶縁層9(上部絶縁層9a及び下部絶縁層9b)は、ヨーク3の表面のうちで
図3に太線で示した領域に形成されている。絶縁層9は樹脂成分を含む膜状の層であって、具体的には塗装による塗膜である。つまり、絶縁層9は非磁性体の塗膜からなる。絶縁層9の膜厚は、30μm〜70μm、望ましくは40μm〜60μmとされている。
【0026】
このようにヨーク3の上端面に絶縁層9(上部絶縁層9a)を備えることにより、絶縁層9の厚み分、ヨーク3の上端面とアーマチュア5の下面との間を空けることができ、ヨーク3とアーマチュア5とが直接的に当接しないようにできる。このため、通電時(吸着時)に両者が衝突することで発生する騒音の問題や、電磁力が解消した時点での残留磁気によって、両者が離れるまでにタイムラグが生じることによる性能低下の問題を改善できる。また、従来のように、ヨーク3とアーマチュア5との間に別部材である樹脂シートを配置する必要がない。このため、電磁ブレーキ1の構成部品が増えることも抑制できる。
【0027】
絶縁層9は、ヨーク3において巻き付けられるコイル4が重なる表面、つまり、コイル4に対して径内に位置するヨーク3の表面にも備えられる(下部絶縁層9b)。この下部絶縁層9bにより、ヨーク3とコイル4との間が絶縁される。
【0028】
ここで、特開2016−89848号公報(特許文献1)には、ボビンに電線を巻いてコイルを形成することが開示されている。また、特開2007−113731号公報(特許文献2)には、予め巻いた状態にしてモールドしたコイルを用いることが開示されている。しかし、前者の技術では、ボビンの厚み分コイルの巻き数が減ってしまう。また後者の技術では、予め巻いた状態にするために用いられる巻枠からコイルを取り外した後に「巻締め」が起こり、コイルの内径が縮小してしまうため、ヨークとコイルとの間にあらかじめ空間を確保しておく必要があった。
【0029】
これら従来の技術に比べて本実施形態では、絶縁層9を塗膜とすることにより従来よりも薄い膜を実現でき、ボビンを用いたり、あらかじめ空間を確保しておいたりすることに比べ、ヨーク3とコイル4との間を接近させることができる。ヨーク3とコイル4との間を接近させることができると、コイル4の巻き数を減らすことなくケース2の外形寸法を小型化できる。また逆に、ケース2の外形寸法を変更せず、コイル4の巻き数を増やすことができる。
【0030】
本実施形態では、ヨーク3においてアーマチュア5に面する表面に備えられた上部絶縁層9aと、ヨーク3において巻き付けられるコイル4が重なる表面に備えられた下部絶縁層9bとは一連の層(つながった一つの層)を構成する。このように絶縁層9を構成することにより、ばらばらに絶縁層9を構成することに比べ、製造途中でのマスキングの手間が軽減し、絶縁層9を備えたヨーク3を製造しやすい。
【0031】
絶縁層9である塗膜は種々の塗装方法によって形成することができるが、電着塗装によることが好ましい。電着塗装による被膜は、膜厚を均一にできるため、コイル4を巻く際に電線の巻きに乱れが生じにくく、コイル4の発する電磁力を均一化できるからである。また、電線の巻きに乱れが生じにくいことから、コイル4の外周に生じる凹凸を少なくできるため、コイル4の外周を覆う絶縁テープを巻く必要がある場合であっても、絶縁テープを容易かつ美しく巻くことができる。更に、組立時にコイル4が外周部21の内周面に接触することもなくなるため、前記絶縁テープを破ってしまったり、コイル4の電線を傷付けたりすることもないので、組み立て作業が容易にできる。
【0032】
電着塗装は公知の方法により実施できる。簡単に述べると、樹脂を含む電解液中に絶縁層9を形成しようとするヨーク3を浸し、電解液に通電することでヨーク3の表面に塗膜を形成する。塗膜を形成しない部分にはあらかじめマスキング処理をしておく。また、あらかじめヨーク3の表面にめっきが施されている場合には、絶縁層9を形成しようとする部分につき、酸洗い等によりめっきを剥離しておく。本実施形態ではヨーク3の表面に部分的に塗膜を形成しているが、表面全体に塗膜を形成することも可能である。
【0033】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0034】
絶縁層9である塗膜は、前記実施形態における電着塗装の他に、例えば、静電塗装、レイデント処理(登録商標)、溶射によって形成することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…動力制御機構、電磁ブレーキ、2…ケース、3…ヨーク、4…コイル、5…アーマチュア、6…付勢部、7…制動部、8…入力連結部、9…絶縁層、9a…上部絶縁層、9b…下部絶縁層