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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-26903(P2019-26903A)
(43)【公開日】2019年2月21日
(54)【発明の名称】塩浴オーステンパー焼入炉
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/20 20060101AFI20190125BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20190125BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20190125BHJP
   C21D 1/63 20060101ALI20190125BHJP
   C21D 1/607 20060101ALI20190125BHJP
【FI】
   C21D1/20
   C21D1/00 F
   C21D1/18 W
   C21D1/63
   C21D1/607
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-148763(P2017-148763)
(22)【出願日】2017年8月1日
(71)【出願人】
【識別番号】595080887
【氏名又は名称】東京瓦斯電炉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】羽太 治男
(72)【発明者】
【氏名】新山 修
(72)【発明者】
【氏名】岡野 輝雄
【テーマコード(参考)】
4K034
【Fターム(参考)】
4K034GA07
4K034GA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ワークをより確実に回収できるようにする塩浴オーステンパー焼入炉の提供
【解決手段】塩浴槽の排出口にはメッシュコンベア13から自然落下せずに貼り付いたまま溶融塩浴中へ戻ろうとする残品ワークWを磁力で吸着して剥ぎ取り回収するマグネットセパレータ20が備えられ、マグネットセパレータ20は、磁気吸引力が及ぶことによって非磁性の残品ワーク磁気吸着部材21の表面に形成される磁気吸着面が移動することによって、残品ワークWを磁気吸引範囲の外まで搬送してから落下させる塩浴オーステンパー焼入炉。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト領域まで加熱されたワークを恒温状態にある溶融塩浴中に浸漬させながらオーステンパー処理に必要な時間をかけて塩浴槽内をメッシュコンベアで搬送し前記溶融塩浴の外で方向転換するメッシュコンベアから排出口へと自然落下させる塩浴オーステンパー焼入炉において、
前記塩浴槽の排出口には前記メッシュコンベアから自然落下せずに前記メッシュコンベアに貼り付いたまま前記溶融塩浴中へ戻ろうとする残品ワークを磁力で吸着して前記メッシュコンベアから剥ぎ取り回収するマグネットセパレータが備えられ、
前記マグネットセパレータは前記メッシュコンベアの戻り側のベルト面に対向する非磁性材料から成る残品ワーク磁気吸着部材と、前記残品ワーク磁気吸着部材の表面に磁気吸引力を与える磁石とを有し、前記残品ワーク磁気吸着部材の一定領域内では磁気吸引力が及び、その範囲の外では磁気吸引力が及ばないものであり、前記磁気吸引力が及ぶことによって前記残品ワーク磁気吸着部材の表面に形成される磁気吸着面が移動することによって、前記メッシュコンベアから剥ぎ取られ回収された残品ワークを前記磁気吸引範囲の外まで搬送してから落下させる
ことを特徴とする塩浴オーステンパー焼入炉。
【請求項2】
前記マグネットセパレータは、非磁性の回転ドラムから成る残品ワーク磁気吸着部材と、前記回転ドラムの内方で定位置に固定支持されて磁気吸引力を与える磁石とを有し、前記回転ドラムの回転範囲内の一定領域内では磁気吸引力を示し、その範囲の外では磁気吸引力を呈しないものである請求項1記載の塩浴オーステンパー焼入炉。
【請求項3】
前記残品ワーク磁気吸着部材の前記メッシュコンベアの戻り側のベルト面に対向する表面にはスクレーパが備えられ、前記残品ワーク磁気吸着部材上に前記磁気吸引力によって前記残品ワーク磁気吸着部材上を滑って滞留する残品ワークを掻き落とすことを特徴とする請求項1または2に記載の塩浴オーステンパー焼入炉。
【請求項4】
前記残品ワーク磁気吸着部材から落下する残品ワークを収容し、前記排出口とは別のルートから回収残品ワークを取り出す残品回収トレーを備えるものである請求項1から3のいずれか1つに記載の塩浴オーステンパー焼入炉。
【請求項5】
前記残品ワーク磁気吸着部材の磁気の影響が及ばなくなる位置に水流を吹き付けて前記残品ワーク磁気吸着部材の表面に滞留あるいは固着する前記残品ワークを落下させる流水シュートを備えるものである請求項1から4のいずれか1つに記載の塩浴オーステンパー焼入炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルトバス(溶融塩浴)を用いたオーステンパー焼入炉(以下、塩浴オーステンパー焼入炉と呼ぶ)に関する。さらに詳述すると、本発明は、塩浴槽内で熱処理品(ワークとも呼ばれる)を搬送するコンベアに付着して塩浴槽内に戻ろうとする熱処理品を塩浴槽内に戻さずに回収する残品回収機構を備えた塩浴オーステンパー焼入炉に関する。
【背景技術】
【0002】
ソルトバスを用いるオーステンパー熱処理システムは、例えば図1に示すように、加熱炉1と、塩浴オーステンパー焼入炉2と、水洗槽3と、乾燥装置4とで構成されており、各構成装置に組み込まれたメッシュコンベアによってワークは一定速度で搬送される間にオーストナイト領域まで加熱されてから恒温変態処理(オーステンパー処理)が行なわれる。ここで、塩浴オーステンパー焼入炉2を通過したワークには塩類が付着しているので、水洗槽で洗浄し後、乾燥炉で水分の除去が行われる。
【0003】
オーステンパー処理されたワークは、メッシュコンベアにより次工程の水洗槽上部まで搬送され排出口(落とし口)で水洗槽に落下させる構造とされている。しかしながら、オーステンパー焼入炉出口ではメッシュコンベア及びワークに付着した塩類が固まっており、数グラム若しくはそれ以下のワークの場合、固まった塩によってメッシュコンベアに貼り付いてしまい、メッシュコンベアの端の折り返し点で水洗槽に落下せずにそのままオーステンパー焼入炉2の塩浴槽に戻り、塩浴槽内で塩が溶けることによって塩浴槽内に脱落して残品となって滞留してしまう問題がある。
【0004】
この結果として、塩浴槽の底部には多くのワークが堆積し、メッシュベルトの駆動の障害を引き起こすこととなる。また、連続的に多品種処理する場合、ワークの一部が装置内に残留して、異なるワークが流されているときに異品として混入すると、ロットアウトとなり、品質上の問題と同時に生産性の低下に繋がる。また、残品は塩浴の劣化などの問題も発生し、塩浴剤の交換時期を早めることになる。このため、塩浴槽に堆積する残品を定期的に取り出す清掃作業を頻繁に行うことを余儀なくされており、熱処理の生産性を著しく阻害している。このことから、残品回収は重要な課題となっている。
【0005】
そこで、従来のオーステンパー焼入炉では、メッシュコンベアに貼り付いたワークを除去する方法として、ブラッシング、シェーキング、高圧エアーブローなどを採用してきたが、重量が数グラム以下の軽量で薄板形状のワークの場合には、ブラッシングやシェーキングでも除去不十分であったり、高圧エアーブローではワークが吹き飛んでしまうなどの問題がある。
【0006】
また、塩浴槽の排出口側において、メッシュコンベアに衝撃を与えてワークの脱落を図ろうとする打撃手段・ハンマーを備えることも提案されている(特許文献1)。打撃手段・ハンマーは、オーステンパー焼入炉の排出口側のメッシュコンベアの端で溶融塩浴の外に露出した部分に備えられ、往き(上)側と戻り(下)側のメッシュベルトの間に設けられ、その位置で戻り側となる下側のメッシュベルトに対して間欠的に衝撃を与えるように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−1522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の発明にかかるオーステンパー焼入炉によれば、ワークを搬送するメッシュベルトをハンマーで間欠的に打撃して、メッシュベルトに引っ掛かっているワークを落下させるようにしているので、メッシュコンベアの劣化につながり長期の使用に堪えられない。特に、小物製品用のオーステンパー焼入炉の場合、メッシュベルトの目が小さく線径が細いので強度に乏しいことから、メッシュコンベアの劣化が激しい。そうかといって、打撃力を抑えれば、打撃効果が薄く、ワークを落下させられない可能性がある。
【0009】
しかも、戻り側となる下側のメッシュベルトに対して衝撃を与えるものであるため、衝撃を加える位置では溶融塩が冷えて固まってしまうため、振動による剥離効果は半減する。このため、さらにより強力な衝撃をコンベアに加えなければワークを落下させられず、さらにコンベアを劣化させることとなる。
【0010】
また、振動・衝撃方式は駆動部分がメッシュコンベアのループの内側に組付けられるため、打撃手段・ハンマーの稼働状況の確認が困難であると共に、調整及びメンテナンスも困難である。
【0011】
さらに、メッシュベルトに衝撃を与える打撃手段・ハンマーを備えるために、塩浴槽出口のコンベアのフレームの長さを長くするなどの、オーステンパー焼入炉自体の大きな構造変更が必要となる問題を有する。
【0012】
本発明は、メッシュコンベアへの過剰な振動や衝撃などを付加せずに、メッシュコンベアに貼り付いてしまい、メッシュコンベアの出口で水洗槽に落下せずにそのままオーステンパー焼入炉(塩浴槽)に戻ろうとするワークをより確実に回収できるようにするオーステンパー焼入炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明は、オーステナイト領域まで加熱されたワークを恒温状態にある溶融塩浴中に浸漬させながらオーステンパー処理に必要な時間をかけて塩浴槽内をメッシュコンベアで搬送し溶融塩浴の外で方向転換するメッシュコンベアから排出口へと自然落下させる塩浴オーステンパー焼入炉において、塩浴槽の排出口にはメッシュコンベアから自然落下せずにメッシュコンベアに貼り付いたまま溶融塩浴中へ戻ろうとする残品ワークを磁力で吸着してメッシュコンベアから剥ぎ取り回収するマグネットセパレータが備えられ、マグネットセパレータはメッシュコンベアの戻り側のベルト面に対向する非磁性材料から成る残品ワーク磁気吸着部材と、残品ワーク磁気吸着部材の表面に磁気吸引力を与える磁石とを有し、残品ワーク磁気吸着部材の一定領域内では磁気吸引力が及び、その範囲の外では磁気吸引力が及ばないものであり、磁気吸引力が及ぶことによって残品ワーク磁気吸着部材の表面に形成される磁気吸着面が移動することによって、メッシュコンベアから剥ぎ取られ回収された残品ワークを磁気吸引範囲の外まで搬送してから落下させるようにしている。
【0014】
ここで、マグネットセパレータは、非磁性の回転ドラムから成る残品ワーク磁気吸着部材と、回転ドラムの内方で定位置に固定支持されて磁気吸引力を与える磁石とを有し、回転ドラムの回転範囲内の一定領域内では磁気吸引力を示し、その範囲の外では磁気吸引力を呈しないものであることが好ましい。
【0015】
また、残品ワーク磁気吸着部材のメッシュコンベアの戻り側のベルト面に対向する表面にはスクレーパが備えられ、残品ワーク磁気吸着部材上に磁気吸引力によって残品ワーク磁気吸着部材上を滑って滞留する残品ワークを掻き落とすように設けることが好ましい。
【0016】
また、本発明にかかる塩浴オーステンパー焼入炉は、残品ワーク磁気吸着部材から落下する残品ワークを収容し、排出口とは別のルートから回収残品ワークを取り出す残品回収トレーを備えることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明にかかる塩浴オーステンパー焼入炉は、残品ワーク磁気吸着部材の磁気の影響が及ばなくなる位置に水流を吹き付けて残品ワーク磁気吸着部材の表面に滞留あるいは固着する残品ワークを落下させる流水シュートを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の塩浴オーステンパー焼入炉によれば、オーステンパー焼入炉の排出口において、溶融塩浴の外で方向転換するベルトコンベアのメッシュベルトからワークが自然落下する一方、メッシュベルトに貼り付いたままオーステンパー焼入炉に戻ろうとする残品ワークはマグネットセパレータの磁石による吸引力でメッシュベルトから剥ぎ取られるようにしてマグネットセパレータ側に吸着され、磁石が存在しない領域にさしかかったときに、落下させることで回収するようにしているので、メッシュベルトに対して悪影響を与えること無く溶融塩浴側へ戻ろうとする残品ワークを回収することができる。
【0019】
また、塩浴オーステンパー焼入炉の排出口で方向転換するベルトコンベアの溶融塩浴の外の端部の下にマグネットセパレータを配置するだけであるので、オーステンパー焼入炉自体の大きな構造変更を伴わない。しかも、塩浴オーステンパー焼入炉の出口点検扉からマグネットセパレータが確認できるので、メンテナンスも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の塩浴オーステンパー焼入炉を含むオーステンパー処理システムの一例を示す原理図である。
図2】本発明にかかる塩浴オーステンパー焼入炉の排出口附近の構造を示す縦断面図である。
図3】同塩浴オーステンパー焼入炉の排出口附近の構造を示す横断面図である。
図4】本発明にかかるドラムセパレータの一実施形態を示す概略原理図であり、(A)は横断面的に、(B)は縦断面的にそれぞれ示されている。
図5】本発明の塩浴オーステンパー焼入炉の一実施形態を示す概略原理図であり、メッシュベルトとドラムセパレータと残品回収トレーとの関係を概略的に示す。
図6】ドラムセパレータの他の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1に、本発明の塩浴オーステンパー焼入炉を含むオーステンパー処理システムの一実施形態を示す。このソルトバスを用いるオーステンパー熱処理システムは、加熱炉1と、塩浴オーステンパー焼入炉2と、水洗槽3と、乾燥炉4とで構成されており、各構成装置に組み込まれたメッシュコンベア5,9,15,16によって熱処理品(以下、ワークと呼ぶ)が一定速度で搬送される間にオーステナイト領域例えば800℃〜900℃に加熱されてから約400℃に温度制御された溶融塩浴(ソルトバス)8で恒温変態処理(オーステンパー処理)が行われる。そして、水洗槽3においてオーステンパー処理されたワークに付着する塩類(溶融塩)が洗浄された後、乾燥炉4で水分の除去が行われる。
【0023】
このオーステンパー処理システムにおいて、塩浴オーステンパー焼入炉2は、加熱炉1でオーステナイト領域まで加熱されたワークを約400℃の恒温状態にある溶融塩浴8中に浸漬させながらオーステンパー処理に必要な時間をかけて塩浴槽7内をベルトコンベア9で搬送し溶融塩浴8の外でメッシュベルト13が戻り側へ180°方向転換する際に自然落下させて排出口10から水洗槽3へと移すように設けられている。尚、排出口10にはホッパー30が備えられ、塩浴オーステンパー焼入炉2から排出されるオーステンパー熱処理後のワークが散乱しないように集めて水洗槽3のコンベア15の上に落とすように設けられている。
【0024】
本実施形態の塩浴オーステンパー焼入炉2は、例えば、図1に示すように、加熱炉1の落とし口6の下から水洗槽の入り口に繋がるワーク排出口10の上までの間で循環するベルトコンベア9を備える塩浴槽7に溶融状態にある塩類を貯蔵して恒温状態に保持することにより溶融塩浴8を形成したものであり、加熱炉1から落下してくるワークを溶融塩浴8中に浸漬されているベルトコンベア9のメッシュベルト13で受け止めて搬送している間に恒温変態処理を行い、オーステンパー処理が完了した後にメッシュベルト13の端部に到達して水洗槽3に落とされるように構成されている。尚、ベルトコンベア9は、例えば溶融塩浴8の中に浸漬されている第一のスプロケット11と、溶融塩浴8の外の排出口10の上方に存在している第二のスプロケット12との間にベルトガイド(図示省略)に沿ってメッシュベルト13が掛け渡され、塩浴槽7の外の駆動源(図示省略)によって回転駆動されている。
【0025】
塩浴オーステンパー焼入炉2の排出口10には、図2及び図3に示すように、ベルトコンベア9のメッシュベルト13から自然落下せずにメッシュベルト13に貼り付いたまま溶融塩浴8中へ戻ろうとするワーク(以下、残品ワークWと呼ぶ)を磁力で吸着してメッシュベルト13から剥ぎ取り回収するマグネットセパレータ20が備えられている。このマグネットセパレータ20はベルトコンベア9の戻り側のメッシュベルト面に対向する非磁性材料から成る残品ワーク磁気吸着部材21と、残品ワーク磁気吸着部材21の表面に磁気吸引力を与える磁石22とを有し、残品ワーク磁気吸着部材21の相対移動範囲の一定領域内(概ね、磁石が配置されている範囲であり、以下磁気吸引範囲θと呼ぶ)では磁気吸引力が及びその範囲の外では磁気吸引力が及ばないように磁石22を配置して、ベルトコンベア9から磁気吸引力で吸着されて剥ぎ取られるようにして回収された残品ワークWを磁気吸引範囲θの外まで搬送してから落下させるように構成されている。即ち、残品ワークWは、磁気吸着部材21の表面に磁石22の吸引力で吸着されているので、磁気吸着部材21が回転する際には磁気吸着部材21との間の摩擦で共に移動し、残品ワークWが移動する際には磁気吸着部材21の上を滑って移動する。
【0026】
本実施形態の場合、マグネットセパレータ20は、例えば、非磁性の回転ドラム21から成る残品ワーク磁気吸着部材と、回転ドラム21の内方で定位置に固定支持されて磁気吸引力を与える磁石22とを備え、回転ドラム21の回転範囲内の一定領域内では磁気吸引力を示し、その範囲の外では磁気吸引力を呈しないように構成されている。この場合、マグネットセパレータ20の占める空間を回転ドラム21のサイズに収めることができるので、コンパクトで尚且つ場所を取らないものとすることができ、オーステンパー焼入炉2自体の大きな構造変更、例えば特許文献1記載の発明のようにメッシュベルト13に衝撃を与える打撃手段・ハンマーを備えるために塩浴槽出口のコンベアのフレームの長さを長くするなどの大きな変更を必要としない。
【0027】
このマグネットセパレータ20は、例えば図4に示すように、非磁性の回転ドラム21とその内方に配置されて磁気吸引力を与える磁石22を備える磁気ドラム23とを備え、固定された磁気ドラム23に対してベアリング26を介在させて回転ドラム21が回転自在に支持されている。回転ドラム21は、一端部の回転軸24が軸受け部材28に回転自在に支持されると共に、回転軸24に装着されたスプロケット18と焼入炉2に設置された駆動モータ17とを駆動チェーン19で連結して回転駆動される。他方、磁気ドラム23は回転ドラム21の外の軸固定部29によって支持される固定軸部25と、ベアリング26を介して支持される回転ドラム21側の回転軸24とによって固定されている。回転ドラム21は例えばステンレススティールや合成樹脂などの非磁性材料からなり、それ自体は残品ワークWを磁力で吸着し得ないものである。この回転ドラム21は、本実施形態の場合、ステンレススティールで構成されている。この回転ドラム21の内側には、オーステンパー処理の雰囲気温度でも減磁しない磁石22例えばサマリウムコバルト磁石(希土類金属のサマリウムとコバルトの金属間化合物の磁石)などの希土類磁石が備えられている。尚、本実施形態では、磁石22として永久磁石を利用しているが、これに特に限られるものではなく、場合によっては電磁石を用いるようにしても良い。
【0028】
マグネットセパレータ20は、第二のスプロケット12よりも僅かに第一のスプロケット11寄りの位置に、ベルトコンベア9の戻り側のベルト面に対向させて配置されている。例えばベルトコンベア9の第二のスプロケット12の回転中心から垂下する線よりも後方側(折り返し位置よりも炉側)に回転ドラム21の回転中心を配置して、ドラム回転中心と第二のスプロケット12の回転中心とを結ぶ線上よりも奥側に磁石22が配置されるように設置されている。そして、回転ドラム21は、メッシュベルト13の戻り側の進行方向と同方向に回転するように設けられている。これによって、メッシュベルト13が180°方向転換する際に自然落下するワークを回転ドラム21の内側の磁石22が吸着することがなく、自然落下できずにメッシュベルト13に付着したまま戻り側へ折り返す残品ワークWのみを吸着して回転ドラム21側に移し替えるように機能する。
【0029】
また、マグネットセパレータ20の回転ドラム21と戻り側のメッシュベルト13との間隙(距離)Sは、接近し過ぎると残品ワークWが重なり合った場合に干渉して変形する恐れがあり、その反面離れ過ぎると十分な吸引力が残品ワークWに及ばず残品ワークWを吸着することが難しくなる。このことから、サマリウムコバルト磁石22を用い残品ワーク磁気吸着部材として回転ドラム21を用いる本実施形態の場合には、例えば60mm程度とすることが好ましいが、これに特に限定されるものではなく、磁石22の強さや回転ドラム21の厚みなどに応じて適宜調整される。また、磁石22は、メッシュベルト13と回転ドラム21とが最も接近する領域に配置されていれば足りるが、より好ましくはその前後においても磁石22の吸着力の影響を与えることであり、最接近位置の前後に及ぶ領域まで配置することが好ましい。例えば、図2及び図4に示すように、磁石22は、少なくとも回転ドラム21の回転中心から前方(第一のスプロケット側)に5〜10°進んだ位置から後方(第二のスプロケット側)に5〜10°遅れた位置までの間に配置されていればメッシュベルト13からのワークWの吸着には十分であるが、好ましくは回転ドラム21の回転中心から前方(第一のスプロケット側)に10°進んだ位置から後方に90°遅れた位置までの間に配置されることである。即ち、磁石22は、少なくとも角度10°〜20°、好ましくは100°の範囲で設置されている。そこで、本実施形態の場合、角度95°程度の円弧状の磁石22を固定している。この場合には、メッシュベルト13から吸着された残品ワークWが回転ドラム21の後縁(回転中心軸を通過する水平面と回転ドラム21の周面とが交わる線のうちの後側の線)あるいはその位置を通過した僅かに前方寄りの定位置で落下するので、残品ワークWの残品回収トレー31内での飛散を防止できる。
【0030】
また、残品ワーク磁気吸着部材たる回転ドラム21の表面にはスクレーパ27が備えられ、磁気吸引力に因って回転ドラム21の表面上に滑って滞留する残品ワークWを掻き落とすように設けられている。本実施形態の場合、スクレーパー27は例えば断面矩形の角棒が採用され、回転ドラム21の外周面に回転中心と平行に配置されて溶接によって固着されている。勿論、スクレーパー27は必ずしも回転中心と平行に配置されるものでなくとも良く、例えば場合によっては回転中心に対して傾斜するらせん状に形成されても良い。尚、スクレーパー27の高さは、回転ドラム21の周面に残留する残品ワークWを掻き落とすのに十分な高さが少なくとも必要であるが、メッシュベルト13と干渉しない高さとすることが望ましい。
【0031】
また、回転ドラム21の磁気の影響が及ばなくなる位置、例えば回転ドラム21の後縁附近あるいは後縁を僅かに通過した位置に水流を吹き付ける流水シュート35が備えられている。本実施形態の場合、残品回収トレー31の上方、例えば点検扉33の上のフレーム36に流水シュート35が配置され、水洗槽3の水を循環させて回転ドラム21に対して常時流を吹き付ける構造とされている。この流水シュート35は、回転ドラム21の磁気の影響が及ばなくなる位置に向けて水流が当たるような位置に配置されていることが好ましい。これにより、回転ドラム21の表面に滞留あるいは固着する残品ワークWが水流で落ちやすくなると共に、回転ドラム21に付着して固まった塩を溶かすことができる。
【0032】
マグネットセパレータ20の下には、回転ドラム21から落ちた残品ワークWを回収する残品回収トレー31が備えられている。この残品回収トレー31は、マグネットセパレータ20から掻き落とされる残品ワークWを受け止ることができる位置、例えばマグネットセパレータ20の回転中心付近から後方側の位置に配置されている。本実施形態の場合、残品回収トレー31は例えば上方が開口された箱形の筐体によって構成され、塩浴オーステンパー焼入炉2の架台の一部を成すガイドレール32の上に炉体の内外に出入り可能となるように支持されて塩浴槽3の点検扉33の内側に組み付けられており、ヒンジ34を中心に点検扉33を手前側に引き倒すことによって残品回収トレー31を引き出す構造とされている。したがって、点検扉33が定期的に開けられることによって、塩浴オーステンパー焼入炉2の外部に取り出されて残品ワークWが回収されるように設けられている。尚、残品回収トレー31は、流水シュート35を装備する場合には、残品ワークWと共に水も落下してくるので、水だけを水洗槽3に落下させる孔を多数空けておくことが好ましい。
【0033】
本実施形態の場合、残品回収トレー31は、マグネットセパレータ20の下に配置され、マグネットセパレータ20で回収された残品ワークWを水洗槽3に落下するワークWと分けて回収するように設けられている。マグネットセパレータ20によって回収された残品ワークWには、磁気が残留しているので、通常のワークとは識別して取り扱うが、場合によっては脱磁してから水洗槽3に直接落下して回収されたワークと一緒にするようにしても良い。勿論、場合によっては、マグネットセパレータ20で回収した残品ワークWを水洗槽3にそのまま落下させて、水洗槽3から乾燥装置4を経て取り出すようにしても良い。
【0034】
以上のように構成された塩浴オーステンパー焼入炉2によれば、排出口10において方向転換するベルトコンベア9の端から、オーステンパー処理後のワークが自然落下する一方、メッシュベルト13に貼り付いたまま溶融塩浴8に戻ろうとする残品ワークWは対向するマグネットセパレータ20の磁石22による吸引力で回転ドラム21の上に吸着されてメッシュベルト13から剥ぎ取られる。このとき、マグネットセパレータ20はメッシュベルト13に対して非接触であるため、メッシュベルト13に対して衝撃などの悪い影響を与えずに、メッシュベルト13に貼り付いた残品ワークWを剥がし取ることができる。
【0035】
そして、磁石22は回転ドラム21内で固定され、回転ドラム21のみ回転しているので、回転ドラム21の表面に吸着された残品ワークWは回転ドラム21と共に回転しながら磁石22が存在しない領域(磁気吸引範囲θの外)にさしかかったときに、吸引力が作用しないので非磁性回転ドラム21の表面から滑り落ちる。また、磁気吸引範囲θの端部において磁石22の吸引力により非磁性の回転ドラム21の表面を残品ワークWが滑ることによって残留する場合には、回転ドラム21の表面に固定されたスクレーパー27によって強制的に掻き落とされて残品回収トレー31に落下することで回収される。因みに、マグネットセパレータ20は塩浴オーステンパー焼入炉2の出口点検扉39から確認でき、メンテナンスも容易である。
【0036】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、マグネットセパレータ20は、位置固定された永久磁石22とその周囲を回転する非磁性の真円形の回転ドラム21とで構成されているが、この構造に特に限られるものではなく、一対のローラ間に架け渡された環状無端ベルト(非円形の非磁性材料から成る残品ワーク磁気吸着部材)を使ったマグネットセパレータや、相対移動する磁気吸着面を利用したマグネットセパレータ(つまり非磁性材料から成る残品ワーク磁気吸着部材が固定され、磁石が回転することで移動する磁気吸着面を形成する)などを用いるようにしても良い。即ち、マグネットセパレータは、磁気吸引力が及ぶことによって残品ワーク磁気吸着部材の表面に形成される磁気吸着面が移動することによって、メッシュコンベアから剥ぎ取られ回収された残品ワークWを磁気吸引範囲の外まで搬送してから落下させるものであれば良い。
【0037】
例えば図6に示すように、残品ワーク磁気吸着部材たる可撓性のあるステンレススティールベルトやシリコーンゴムベルトなどの非磁性の環状無端ベルト21を一対のローラ37,38間に懸架して駆動する一方、一対のローラ37,38間に永久磁石22を配置してそれと対向する領域内でのみ磁気吸引力を呈するようにしても良い。この場合、環状無端ベルト21はベルトコンベアの戻り側のメッシュベルト面(図示省略)と並行に配置されることが好ましい。そして、一方のローラ側例えばローラ37側から回収された残品ワークWが自然落下することから、その下に残品回収トレー(図示省略)を配置すれば良い。また、この無端ベルト21の表面にもスクレーパー27を備え、磁気吸引力で無端ベルト21上を残品ワークWが滑って停留する場合にも強制的に排除しうるように設けることが好ましい。この場合においても、メッシュベルトに固着した残品ワークWを磁気吸引力により非磁性の環状無端ベルト(残品ワーク磁気吸着部材)21上に吸着させて剥ぎ取る一方、環状無端ベルト21の上に残品ワークWをのせて移動させ、吸引力が作用しない領域(永久磁石22の外)に達したところで環状無端ベルト21の表面から滑り落ちさせることで残品回収トレーに回収するとができる。
【0038】
また、マグネットセパレータとしては、固定された非磁性材料から成る残品ワーク磁気吸着部材に対して永久磁石側を移動させることによって、残品ワーク磁気吸着部材の表面に形成される磁気吸着面を移動させて、メッシュベルトから吸着された残品ワークを残品ワーク磁気吸着部材の上を滑らせて自然落下する領域まで移動させてから磁石と残品ワーク磁気吸着部材との間隔を広げて吸引力が及ばなくすることで落下させるようにしても良い。例えば、固定されている非磁性のテーブル形あるいはドラム形の残品ワーク磁気吸着部材の内側に往復移動あるいは回転移動する永久磁石を備え、移動する永久磁石によって残品ワーク吸着して非磁性の残品ワーク磁気吸着部材の表面を摺動させ、永久磁石の移動範囲の外で非磁性の残品ワーク磁気吸着部材の傾斜あるいは湾曲した端から残品ワークが滑り落ちるようにすることも可能である。この場合、磁気吸着面が残品ワーク磁気吸着部材の表面に連続的に形成されるように、あるいはワークの剥ぎ取り不良を招来しない程度の間隔で間欠的に形成されるように、永久磁石の配置を考慮することが望ましい。また、固定された非磁性の残品ワーク磁気吸着部材の表面に沿って循環移動するスクレーパを備え、残品ワーク磁気吸着部材の表面に滞留する残品ワークを掻き落として排除するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0039】
2 塩浴オーステンパー焼入炉
7 塩浴槽
8 溶融塩浴
9 ベルトコンベア
10 排出口
13メッシュベルト
20 マグネットセパレータ
21 非磁性の残品ワーク磁気吸着部材(回転ドラム)
22 磁石
27 スクレーパー
31 残品回収トレー
W 残品ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6