【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では小梁とデッキプレートからなるデッキユニット3(スラブユニット)を吊り上げるために、揚重機から懸垂する吊りフレーム107に支持される吊上部材6を小梁1の長さ方向両端部に接続している。この吊上部材6は吊りフレーム107から懸垂するワイヤ106を接続するための仮設材であるため、デッキユニット3の吊り込み後には回収される必要があるが、各小梁1の軸方向両端部に接続されていることで、小梁1からの回収作業数が多くなり、回収の作業効率が低下し易い。
【0005】
特許文献1ではまた、複数枚のデッキユニット3を積み重ねた状態で吊りフレーム107に支持させることで、複数枚のデッキユニット3を同時に架構内に吊り込むことを可能にしている(
図5〜
図7)。複数枚のデッキユニット3はデッキユニット3毎に接続される吊上部材6とワイヤ106を使用し、ワイヤ106に引張力を負担させることで、重なって吊りフレーム107に吊り支持されている。
【0006】
しかしながら、この状態でデッキユニット3を地上に仮置きするとすれば、ワイヤ106による吊り支持が解除され、デッキユニット3の自重を圧縮力として負担できる要素がなくなるため、デッキユニット3を積み重ねた状態で地上に仮置き(設置)することはできないことになる。
【0007】
一方、特許文献2では小梁とデッキプレートからなる小梁デッキユニット10aを、地上に仮構築されたタワー式ストッカー2に多段に格納し、小梁デッキユニット10aに付属部品を組み付けながら上方へ移動させる作業を繰り返し、小梁デッキユニット10aに付属部品が一体化し、最上部に移動したフロア先組みユニット10を揚重して搬出している。
【0008】
しかしながら、この方法では小梁デッキユニット10aに付属部品を組み付けるために、地上に大規模な仮設のタワー式ストッカー2を構築しなければならないため、この構築と解体のための付随作業に多くの時間と経費を掛けなければならない。このタワー式ストッカー2の構築と解体は工期全体の効率化と工費の低減の妨げになっている。
【0009】
本発明は上記背景より、複数枚のスラブユニットを積み重ねた状態での吊り上げと地上への設置を可能にしながら、地上での積み重ねのための専用の仮設構造物の構築を不要にする形態のスラブユニットを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載のスラブユニットは、柱と大梁からなる架構の構築領域以外の領域で組み立てられ、前記架構の構築後に前記架構内に吊り込まれ、前記大梁に接合されるスラブユニットであり、
一方向に並列して配列し、前記大梁に接合される複数本の小梁と、幅が前記小梁の全長より小さく、前記全小梁上に敷設されて接合される床型枠と、この床型枠の幅方向両側の前記全小梁上に、前記床型枠の長さ方向を向いて配置され、前記小梁に仮接合されるトラバーサとを備え、前記床型枠が前記全小梁上に、前記全小梁の軸方向両側部分を露出させた状態で敷設されていることを構成要件とする。
【0011】
「柱と大梁からなる架構の構築領域以外の領域」はスラブユニットをその組み立て位置、または仮置き位置から揚重機を使用して架構内に直接、吊り込める領域であり、主に架構の構築領域に近い地上、あるいは同一敷地内にある地上を指す。スラブユニットは揚重機から懸垂するワイヤがトラバーサの接続部に接続されることにより吊り上げられ、架構内に吊り込まれる。ワイヤ16は
図1に示すように揚重機から懸垂するフック15に接続される。トラバーサ4にはスラブユニット1の吊り上げ時にスラブユニット1が曲げ変形や捩り変形を起こさない程度の剛性を持つ鋼材が主に使用されるが、必要な剛性を持てば材料は問われない。
【0012】
小梁2上に敷設される床型枠3の幅が小梁2の全長より小さいことで、床型枠3の幅方向両側の、床型枠3の範囲外で全小梁2上にトラバーサ4が載置され、小梁2に接合される。但し、トラバーサ4は必ずしも全小梁2に接合される必要はない。請求項1における「床型枠が全小梁の軸方向両側部分を露出させた状態で全小梁上に敷設され」とは、床型枠3が全小梁2上に敷設されたときに、床型枠3の幅方向両側の外側に、全小梁2とトラバーサ4の重なり代が確保されることを言う。床型枠3はデッキプレート等、床スラブのための型枠部材である。
【0013】
トラバーサ4が床型枠3の幅方向両側の全小梁2上に、床型枠3の長さ方向を向いて配置されることで(請求項1)、1本のトラバーサ4に床型枠3の長さ方向に連続する長さを持たせることができるため、吊り上げ状態でのスラブユニット1の形態の安定性を確保する曲げ剛性と捩り剛性を付与する機能をトラバーサ4が持ち得る。トラバーサ4が床型枠3の長さ方向に連続することは、小梁2の軸方向片側に配置される1本のトラバーサ4が全小梁2に跨る長さを持つことであるから、トラバーサ4は連続する場合、全小梁2をスラブユニット1の一部として一体化させる役目を持つ。
【0014】
トラバーサ4がスラブユニット1に形態安定性を付与する機能を持つことは、トラバーサ4に例えばH形鋼、溝形鋼、T形鋼等の鋼材を使用することで確保されるが、このことの結果としてトラバーサ4に床型枠3の厚さより大きい高さを持たせることができる(請求項2)。このことはトラバーサ4が床型枠3の範囲を外した位置で小梁2に支持されることと併せ、床型枠3の上面よりトラバーサ4の上面を上に位置させることができることでもある(請求項2)。
【0015】
小梁2の下面は床型枠3の下面より下に位置するため、スラブユニット1の最下部は小梁2の下面になり、最上部はトラバーサ4の上面になる。トラバーサ4と床型枠3は共に小梁2の上に載置されるが、床型枠3の厚さ(高さ)は主な鋼材の高さより小さいため、トラバーサ4に鋼材を使用すれば、
図4−(b)に示すように結果的にトラバーサ4は床型枠3の厚さより大きい高さを持つことになる。
【0016】
トラバーサ4の上面が床型枠3の上面より上方へ突出することで、複数枚のスラブユニット1を地上で積み重ねるとき、上段側のスラブユニット1の小梁2を下段側のスラブユニット1のトラバーサ4の上面に直接、もしくは間接的に支持させることが可能になり、下段側のスラブユニット1の床型枠3上に上段側のスラブユニット1の小梁2を直接、支持させる状態は回避される。この結果、下段側スラブユニット1の床型枠3に変形や損傷を与えることなく、
図5に示すように複数枚のスラブユニット1を安定させて地上で積み重ねることが可能になる。「間接的に支持させる」とは、後述のようにトラバーサ4の上面に上下に重なるスラブユニット1、1間の間隔を確保するための束柱5が接合された場合に、この束柱5が上段側スラブユニット1の小梁2を支持する状態になることを言う。
【0017】
例えば特許文献1ではデッキプレートの幅方向両端部に部分的に吊上部材6が仮固定されるだけであるから、複数枚のデッキユニット3、3を地上で積み重ねるとすれば、上段側デッキユニット3の小梁1に下段側デッキユニット3のデッキプレート2の上面を接触させる可能性がある。
【0018】
この例では、積み重なる上段側のデッキユニット3は下段側のデッキユニット3の幅方向両側で、デッキプレート2に接続される2個の吊上部材6、6に2点で支持される形になる。このとき、下段側の2個の吊上部材6、6が上段側の小梁1の荷重を受けることで、デッキプレート2の幅方向中央部が浮き上がるようにデッキプレート2が幅方向に曲げ変形を起こし、上段側の小梁1の下面に接触する可能性が高い。または吊上部材6、6間で上段側のデッキユニット3の小梁1が下向きに撓み、下段側のデッキプレート2に接触する可能性もあるため、吊上部材6の使用のみでは上段側のデッキユニット3を下段側のデッキユニット3に支持させることはできない。
【0019】
これに対し、本発明では上記のようにトラバーサ4が床型枠3の長さ方向を向いて全小梁2上に配置されることで(請求項1)、トラバーサ4にデッキプレート等の床型枠3の長さ方向に連続する長さを持たせることができるため、トラバーサ4はスラブユニット1に吊り上げ状態での形態を安定させる機能を持つことが可能になる。
【0020】
加えてトラバーサ4が床型枠3の範囲を外した位置で小梁2に支持され、接合されることで(請求項1)、小梁2上に載置されたときのトラバーサ4の上面が床型枠3の上面より上方へ突出する高さをトラバーサ4に持たせることができる(請求項2)。結果として、上段側スラブユニット1の小梁2が下段側スラブユニット1の床型枠3に接触することを回避し、下段側の床型枠3に直接、上段側スラブユニット1の荷重が加えられることによる床型枠3の変形を回避することが可能になる。
【0021】
以上のようにトラバーサ4を小梁2上に載置したときに床型枠3の上面より上方へ突出させることができることで(請求項2)、複数枚のスラブユニット1を地上で積み重ねることが可能である。但し、例えば
図2に示すように床型枠3の下面側に各種設備機器8や非構造部材等を付属させておくことで、設備機器8等が小梁2の下面より下方へ突出するような場合には、トラバーサ4の上面を床型枠3の上面より突出させるだけでは、設備機器8等を下段側スラブユニット1の床型枠3に接触させない状態が得られるとは限らない。そこで、スラブユニット1の積み重ね時に設備機器8等が下段側スラブユニット1の床型枠3に確実に接触させないようにする上では、各トラバーサ4上の複数箇所に高さの等しい束柱5を接合することが適切である(請求項3)。
【0022】
トラバーサ4上に束柱5が立設され、接合されることで(請求項3)、
図5に示すように上段側スラブユニット1の小梁2の下面と、下段側スラブユニット1の小梁2と床型枠3の上面との間に束柱5の高さ(長さ)分の空間が確保される。この結果、上段側スラブユニット1の床型枠3及び小梁2の下面側に設備機器8等が接続されている場合の、設備機器8等と下段側スラブユニット1の床型枠3との接触(衝突)が回避される。束柱5の高さが等しいことには、下段側スラブユニット1の束柱5の上に上段側スラブユニット1が載置されたときに、上段側スラブユニット1を水平に保持し、安定させる意味がある。束柱5はトラバーサ4上に立設され、トラバーサ4は小梁2上に敷設されるため、下段側の束柱5の上には上段側スラブユニット1の小梁2が載置される。
【0023】
上段側スラブユニット1の設備機器8等と下段側スラブユニット1の床型枠3との接触を単に回避する上では、トラバーサ4上に複数本の束柱5が配置されればよいが、束柱5をトラバーサ4の小梁2との重複領域以外の領域に配置すれば(請求項4)、複数枚のスラブユニット1を地上で積み重ねたときに、上段側スラブユニット1の荷重を下段側スラブユニット1の小梁2に負担させずに済ませることが可能である。
【0024】
束柱5がトラバーサ4と小梁2との重複領域、すなわち小梁2上のトラバーサ4が重なった領域に配置されれば、
図7−(a)に示すように束柱5上に上段側スラブユニット1が載置されたときに、上段側スラブユニット1の小梁2が下段側スラブユニット1の束柱5上に載置される形になるため、上段側スラブユニット1の小梁2は上段側スラブユニット1の自重を負担することになる。となれば、スラブユニット1を設計するに当たり、スラブユニット1が架構内に設置された応力状態のみではなく、スラブユニット1を積み重ねた仮置き状態での応力状態をも考慮する必要があり、無駄に小梁の部材断面が大きくなってしまう懸念が生じる。
【0025】
これに対し、
図1に示すように束柱5がトラバーサ4と小梁2との重複領域以外の領域に配置されれば、
図8−(a)、(b)に示すように上段側スラブユニット1のトラバーサ4が下段側スラブユニット1の束柱5上に載置される形になり、上段側スラブユニット1の荷重は下段側スラブユニット1の束柱5に負担され、反力は上段側のトラバーサ4が負担する。結果として、各段のスラブユニット1はそれより上にあるスラブユニット1等の重量を負担しないで済むため、上述のような懸念は不要になる。