【解決手段】ゲート電極、ゲート絶縁層、および酸化物半導体層をこの順で備え、さらに水放出防止膜を備え、ゲート絶縁層は、ランタノイドまたはイットリウムと、ジルコニウムとを含む酸化物、またはハフニウム、ジルコニウム、およびアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されており、酸化物半導体層は、インジウムを含む酸化物、インジウムと錫とを含む酸化物、インジウムと亜鉛とを含む酸化物、インジウムとジルコニウムと亜鉛とを含む酸化物、インジウムとガリウムとを含む酸化物、またはインジウムと亜鉛とガリウムとを含む酸化物から形成されており、水放出防止膜は、ゲート絶縁層および/または酸化物半導体層の露出面を覆うように設けられている。
前記水放出防止膜と、前記ゲート絶縁層および/または前記酸化物半導体層との間に含水膜が設けられていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
前記水放出防止膜と、前記ゲート絶縁層および/または前記酸化物半導体層との間に空隙が設けられており、前記空隙が水蒸気を含んでいることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の薄膜トランジスタ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明に至る経緯>
はじめに、本発明に至るまでの経緯を説明する。
【0010】
図9は、従来の薄膜トランジスタ50の一例を概略的に示す断面図である。同図に示すとおり、薄膜トランジスタ50は、基板12上に、ゲート電極14、ゲート絶縁層16、酸化物半導体層18、ならびにソース電極32およびドレイン電極34をこの順で備えている。
【0011】
本発明者らは、従来の薄膜トランジスタ50に対して、温度を変化させて、その電気特性の1つであるオン電流値を測定した。その結果、温度上昇に伴いオン電流値が減少することを発見した。なお、測定に使用した薄膜トランジスタ50は、基板12がSiウェハ基板であり、ゲート電極14がチタン/白金(Ti/Pt)層からなり、ゲート絶縁層16がランタン/ジルコニウム(ランタンとジルコニウムとの原子数比が3:7)酸化物からなり、酸化物半導体層18がインジウム(In)酸化物であった。また、チャネル長Lは20μm、チャネル幅Wは15μmであった。
【0012】
温度可変ステージに薄膜トランジスタ50を載置し、温度を298Kから330Kまで変化させ、V
D=0.1V、V
G=2Vの条件でオン電流を測定したところ、
図5(a)に示されるとおり、オン電流の値は温度上昇とともに低下し、330Kでは300Kの半分以下となった。また、温度を330Kから303Kに低下させたところ、オン電流は、温度を298Kから330Kまで上昇させたときの経路をたどることなく、これよりも低い値を示した。
【0013】
また、このオン電流の測定値から抵抗値を算出してプロットしたところ、
図5(b)に示す結果となった。
図5(b)に示すとおり、電気抵抗は、温度上昇とともに上昇することが判明した。
【0014】
以上のとおり、従来の薄膜トランジスタ50に対して、温度を変化させて、オン電流値を測定したところ、温度上昇とともにオン電流の値が大幅に減少した。また、温度を元に戻した場合にオン電流値は低下した。
【0015】
この温度変化に伴うオン電流値の変動に関して、その原因を究明するために、以下の調査を行った。
【0016】
調査に際し、温度が上昇することにより、薄膜トランジスタ50からなんらかの成分が放出され、これが電気特性の低下の原因となっているのではないかとの仮説を立てた。そこで、以下に説明するとおり、薄膜トランジスタ50を減圧下に置き、オン電流の変化を確認した。
【0017】
まず、薄層トランジスタ50を真空チャンバーに導入し、系内を減圧した後、外気を系内に導入して、大気圧に戻した。
図6は、気圧変化に伴うオン電流の変化を示したものである。
図6より明らかなとおり、系内が減圧されるにつれてオン電流値が低下した。一方、系内の気圧を大気圧に戻すと、オン電流の値も元に戻った。
【0018】
次に、薄層トランジスタ50を真空チャンバーに導入し、減圧した後、ヘリウムガスを系内に導入して、大気圧に戻した。その後、系内のヘリウムガスを空気に置換した。
図7(a)は、この際のオン電流の変化を示したものである。
図7(a)に示すとおり、ヘリウムガス雰囲気下(0〜10分)では、オン電流の値は低いままであったが、ヘリウムガスを空気に置換した(10〜17分)結果、オン電流の値は元に戻った。
【0019】
さらに、薄層トランジスタ50を真空チャンバーに導入し、減圧した後、酸素ガスを系内に導入して、大気圧に戻した。その後、系内の酸素ガスを空気に置換した。
図7(b)は、この際のオン電流の変化を示したものである。
図7(b)に示すとおり、酸素ガス雰囲気下(0〜20分)では、オン電流の値は低いままであったが、酸素ガスを空気に置換した(20〜27分)結果、オン電流の値はほぼ元に戻った。
【0020】
また、薄層トランジスタ50を真空チャンバーに導入し、減圧した後、乾燥空気を系内に導入して、大気圧に戻した。この場合、オン電流の値は低いままであった(図示せず)。
【0021】
以上の結果により、薄層トランジスタ50のオン電流が温度上昇とともに低下した原因は、薄層トランジスタ50、特に、薄層トランジスタ50を構成する酸化物半導体層18およびゲート絶縁層16に含まれる水分が外部に放出されたことによると考えた。
【0022】
そこで、本発明者らは、温度上昇に伴う、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に含まれる水の放出を軽減または防止する手段を講じることにより、本課題を解決するに至った。
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において適宜図面を参照するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面に記載された態様に制限されない。なお、各図において、同様の、または類似した機能を発揮する構成要素には同一、または類似の参照符号を付し、重複する説明を省略することがある。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。さらに、本明細書において、「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0024】
<薄膜トランジスタ>
本発明の薄膜トランジスタは、ゲート電極、ゲート絶縁層および酸化物半導体層をこの順で備え、さらに水放出防止膜を備える。当該ゲート絶縁層は、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物、またはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されている。また、酸化物半導体層は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、またはインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物から形成されている。さらに、当該水放出防止膜は、当該ゲート絶縁層および/または当該酸化物半導体層の露出面を覆うように設けられている。
【0025】
図1は、本発明の薄膜トランジスタ10の一例を概略的に示す断面図である。同図に示す薄膜トランジスタ10は、基板12上に、ゲート電極14、ゲート絶縁層16、酸化物半導体層18、ならびにソース電極32およびドレイン電極34をこの順で備え、さらに、ゲート絶縁層16および酸化物半導体層18の露出面を覆うように水放出防止膜60が設けられている。
【0026】
図1に示す薄膜トランジスタ10は、ボトムゲート構造で示されているが、本発明はこの構造に限定されない。例えば、トップゲート構造などその他の構造であってもよい。また、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニング等については図示していない。
【0027】
以下、
図1に示す薄膜トランジスタ10の構成要素について説明する。
【0028】
(基板)
基板12としては、公知の薄膜トランジスタにおいて用いられている基板を適用できる。
【0029】
基板12の例としては、高耐熱ガラス、SiO
2/Si基板(シリコン基板上に酸化シリコン膜を形成した基板)、アルミナ(Al
2O
3)基板、STO(SrTiO)基板、Si基板の表面にSiO
2層及びTi層を介してSTO(SrTiO)層を形成した絶縁性基板、半導体基板(例えば、Si基板、SiC基板、Ge基板等)が含まれる。また、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)などの樹脂からなるプラスチック基板、または紙を始めとするフレキシブル基板も含まれる。
【0030】
(ゲート電極)
ゲート電極14は、公知の薄膜トランジスタに用いられているゲート電極を採用することができる。ゲート電極14の材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、チタン、アルミニウム、モリブデン、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、タングステン、などの高融点金属、又はその合金等の金属材料、あるいは、インジウム錫酸化物(ITO)又は酸化ルテニウム(RuO
2)を用いることができる。
【0031】
(ゲート絶縁層)
ゲート絶縁層16は、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物、またはハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されている。ここで、ランタノイド(Ln)とは、La(ランタン)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれかから選択される希土類元素である。
【0032】
「ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物」とは、典型的には、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)ならびにジルコニウム(Zr)を主成分として含む酸化物を意図しているが、当該酸化物に、不純物(例えば、原料に由来する不純物)が含まれていてもよい。良好なトランジスタ性能を得るためには、酸化物中の炭素および水素以外の不純物の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましい。同様のことが、「ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物」にも当てはまる。
【0033】
「ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物」の場合において、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)との原子数比は、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、特定の範囲の原子数比を採用することが好ましい。なお、この好ましい範囲の原子数比は、用いる金属の種類およびゲート絶縁層16の製造方法(本焼成温度)によっても変化する。
【0034】
例えば、ランタン(La)とジルコニウム(Zr)とを含む酸化物から形成されているゲート絶縁層16の製造において、約300℃以上の高温にて本焼成を行う場合には、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数は0.43〜2.33であることが好ましい。他方、紫外線を照射しながら、約200℃以下の低温にて本焼成を行う場合には、ランタン(La)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数は0.8〜10であることが好ましい。
【0035】
また、ランタン(La)以外のランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)とジルコニウム(Zr)とを含む酸化物から形成されているゲート絶縁層16の製造において、約300℃以上の高温にて本焼成を行う場合には、ランタン(La)以外のランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数は0.8〜10であることが好ましい。他方、紫外線を照射しながら、約200℃以下の低温にて本焼成を行う場合には、ランタン(La)以外のランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)の原子数を1としたときに、ジルコニウム(Zr)の原子数は1.5〜9であることが好ましい。
【0036】
なお、原子数比は、ラザフォード後方散乱分光法(RBS法)を用いて、元素分析を行うことにより求めることができる。
【0037】
ゲート絶縁層16における炭素(C)の含有率は、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、0.5atom%〜15.0atom%であることが好ましい。また、ゲート絶縁層16中の水素(H)の含有率は、1atom%〜20.0atom%であることが好ましい。
【0038】
炭素(C)と水素(H)の含有率については、National Electrostatics Corporation 製 Pelletron 3SDHを用いて、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry:RBS分析法)、水素前方散乱分析法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry:HFS分析法)、及び核反応解析法((Nuclear Reaction Analysis:NRA分析法)を用いて元素分析を行うことにより求めることができる。
【0039】
ゲート絶縁層16の厚みは、特に制限するわけではないが、リークを抑えながら動作電圧を下げる観点から、50nm〜500nmであることが好ましい。
【0040】
ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物において、ジルコニウム(Zr)を用いる代わりに、タンタル(Ta)を用いてもよい。
【0041】
(酸化物半導体層)
酸化物半導体層18は、インジウム(In)を含む酸化物、インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物、インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物、またはインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物から形成されている。
【0042】
「インジウム(In)を含む酸化物」とは、典型的には、インジウム(In)を主成分として含む酸化物を意図しているが、当該酸化物に、不純物(例えば、原料に由来する不純物)が含まれていてもよい。良好なトランジスタ性能を得るためには、酸化物中の炭素および水素以外の不純物の含有量は、0.2質量%以下であることが好ましい。酸化物半導体層18における炭素(C)の含有率は、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、0.5atom%〜15.0atom%であることが好ましい。また、酸化物半導体層18中の水素(H)の含有率は、1atom%〜20.0atom%であることが好ましい。「インジウム(In)を含む酸化物」以外の酸化物についても同様のことが当てはまる。以下の「インジウム(In)を含む酸化物」以外の酸化物の説明では、酸化物中に含まれる各金属元素の原子数比についてのみ言及する。
【0043】
インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と錫(Sn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、錫(Sn)の原子数を0.005〜0.03とすることが好ましい。
【0044】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と亜鉛(Zn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、亜鉛(Zn)の原子数を0.1〜1.0とすることが好ましい。
【0045】
インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、ジルコニウム(Zr)の原子数を0.005〜0.03、亜鉛(Zn)の原子数を0.1〜1.0とすることが好ましい。
【0046】
インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)とガリウム(Ga)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、ガリウム(Ga)を0.1〜1.2とすることが好ましい。
【0047】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)を含む酸化物を用いる場合において、酸化物半導体層18におけるインジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)との原子数比は、インジウム(In)の原子数を1としたときに、特に制限するわけではないが、良好なトランジスタ性能を得る観点から、亜鉛(Zn)を0.1〜1.0、ガリウム(Ga)を0.1〜1.2とすることが好ましい。
【0048】
酸化物半導体層18の厚みは、特に制限するわけではないが、十分な動作電流を確保し、かつ、薄膜化を実現させる観点から、10nm〜100nmであることが好ましい。
【0049】
(ソース電極およびドレイン電極)
ソース電極32およびドレイン電極34は、公知の薄膜トランジスタに用いられているソース電極32およびドレイン電極34を採用することができる。ソース電極32およびドレイン電極34の材料としては、制限するわけではないが、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)又は酸化ルテニウム(RuO
2)を用いることができる。
【0050】
(水放出防止膜)
水放出防止膜60は、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18の露出面を覆うように設けられている。水放出防止膜60とは、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に含まれる水が外部に放出するのを防止または低減する膜を意味する。この機能を有すれば、水放出防止膜60は、外部から水をゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に取り込んでも、取り込まなくてもどちらでもよい。
【0051】
図1(a)に示す例では、水放出防止膜60は、酸化物半導体層18およびゲート絶縁層16の、露出している上面、ならびに酸化物半導体層18の側面を覆うように設けられている。また、
図1(b)に示す例では、水放出防止膜60は、酸化物半導体層18およびゲート絶縁層16の、露出している上面および側面を覆うように設けられている。なお、酸化物半導体層18およびゲート絶縁層16の厚みは通常、ナノオーダーと非常に小さい。このような場合には、これら層の側面からの水分放出量は、ほとんど無視できると考えられるため、水放出防止膜60を、必ずしも酸化物半導体層18およびゲート絶縁層16の側面に設ける必要はない。また、
図1(a)および
図1(b)に示す例では、水放出防止膜60がソース電極32およびドレイン電極34も覆っているが、これら電極は通常、水の透過を妨げる材料で形成されているため、そのような場合には、電極に覆われていない部分(酸化物半導体層18およびゲート絶縁層16が露出している部分)にのみ水放出防止膜60を設けてもよい。或いは、酸化物半導体層18およびゲート絶縁層16の上面および下面に位置する電極等の有無に関わらず、酸化物半導体層18および/またはゲート絶縁層16を囲むように水放出防止膜60を設けてもよい。
【0052】
水放出防止膜60の材料としては、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に含まれる水が外部に放出するのを低減する、或いは防止する材料であれば、特に制限されない。このような材料としては、例えば、SiO
2、Si
3N
4、Al
2O
3などの無機材料を挙げることができる。樹脂材料は、一般的に無機材料と比較して水との親和性が高いため、外部に水を放出する傾向にあるが、無機材料よりも成形性に優れるなどの利点を有する。このため、水放出防止膜60を複雑な形状にする場合などには、膜厚を厚くするなどの手段を講じることで、水放出防止膜60の材料として樹脂材料も用いることができる。樹脂材料の例としては、シリコーン系樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を挙げることができる。また、水放出防止膜60の材料として、異種の材料を組み合わせて用いてもよい。例えば、水放出防止膜60は、複数の層から形成されていてもよく、この場合に、各層を異種の材料で形成してもよい。
【0053】
水放出防止膜60の厚さは、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に含まれる水が外部に放出するのを低減する、或いは防止することさえできれば、特に制限されるものではないが、例えば、0.1〜5μm程度とすることができる。
【0054】
このように、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18の露出面に水放出防止膜60を設けることにより、これら層からの水の放出が妨げられ、温度が上昇する環境下においてもオン電流の低下を低減または防止することができる。
【0055】
また、水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間は湿潤状態であることが好ましい。湿潤状態とは、水を含んだ状態をいう。
【0056】
上記のとおり、温度上昇に伴うオン電流値の低下は、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に含まれる水が外部に放出されることが原因である。ここで、理論に拘束されるわけではないが、厳密には、オン電流値の低下は、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に吸着していた水分子が温度上昇時に、より脱離し易くなり、これら層内の構造に基づく電子状態に変化が生じたためであると考えている。すなわち、オン電流は、水分子が、一定量吸着している場合の電子状態の方が、吸着していない場合と比較して、より高くなると考えている。したがって、より効果的に、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に吸着している水の脱離を防止するには、これら層と、水放出防止膜60との間を湿潤状態にすることが好ましい。これにより、層内での水の脱離が抑制されるか、あるいは脱離しても再度水が吸着され易くなるため、オン電流は温度上昇前の値を維持すると考えている。
【0057】
以上、
図1を参照して、薄膜トランジスタ10の構成要素について説明したが、水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間を湿潤状態とするために、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、下記の実施形態以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0058】
図2は、本発明に係る薄層トランジスタの他の実施形態の一例を示す図であり、(a)は、その模式的な平面図であり、(b)は、(a)に示すIIb−IIb線に沿った模式的な断面図である。
図2(a)および(b)に示す例では、
図1に示す例と同様、基板12上に、ゲート電極14、ゲート絶縁層16、酸化物半導体層18、ならびにソース電極32およびドレイン電極34が形成されている。そして、ゲート絶縁層16および酸化物半導体層18の露出面を覆うように含水膜62および水放出防止膜60を順次備えている。
【0059】
この例にように、水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間を湿潤状態とするために、水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間に含水膜62が設けられていてもよい。
【0060】
含水膜62は、水を含んだ膜である。温度上昇時において、含水膜62から水が放出されることにより、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18内からの水の放出を抑制することができる。
【0061】
含水膜62の材料としては、水を保持するとともに、温度上昇時に、水を放出することができる材料であれば、特に制限されない。例えば、含水膜62として、水を含んだポーラス材を用いることができ、ポーラス材としては、例えば、PDMSなどのシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコールを用いることができる。
【0062】
ポーラス材のポロシティ(空隙率)は、30%以上、好ましくは50〜90%、さらに好ましくは70〜90%とすることができる。ここで、ポーラス材のポロシティ(空隙率)とは、ポーラス材を構成する物質の全体積に対する、その中に含まれる空隙の占める体積の割合をいう。
【0063】
含水膜62中の含水率は、特に制限されないが、例えば、ポーラス材に含まれる空隙全体の、20体積%以上、好ましくは40体積%以上、さらに好ましくは60体積%以上とすることができる。
【0064】
含水膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、例えば、0.2〜5μm程度とすることができる。
【0065】
さらに、水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間に湿潤状態を形成するために、
図3に示す例のように、水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間に、空隙64を設け、空隙64に水蒸気を充填してもよい。これにより、温度上昇による、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18内での水(液体)の放出は起こりにくくなる。
【0066】
図3は、本発明に係る薄層トランジスタの他の実施形態の一例を示す図であり、
図3(a)は、その模式的な平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示すIIIb−IIIb線に沿った模式的な断面図である。
図3(a)および(b)に示す例では、
図1に示す例と同様、基板12上に、ゲート電極14、ゲート絶縁層16、酸化物半導体層18、ならびにソース電極32およびドレイン電極34が形成されている。そして、水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間に、空隙64を備え、空隙64に水蒸気が充填されている。
【0067】
さらに、空隙64に充填した水蒸気の量が飽和水蒸気量であることが好ましい。このように水蒸気の量を飽和水蒸気量とするには、例えば、空隙64内に水を存在させる方法が挙げられる。
図3に示す例では、仕切り壁66と、水放出防止膜60と、基板12にて形成される水溜めを設けて、その中に水を存在させている。空隙64内に水を存在させる方法としては、
図3に示す方法に制限されず、空隙64内に、水を適切に保持することが可能な既知のあらゆる手段を用いることができる。
【0068】
空隙64内に水がある程度存在すると、温度変化を伴う場合であっても、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18内の水と、空隙64内の水蒸気と、水溜め内の水とは平衡状態にある。このような状態においては、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18に含まれる水が減少することはないといえる。
【0069】
以上説明したように、本発明の薄膜トランジスタ10は、水放出防止膜60を備えることにより、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18からの水の放出が抑えられる。これにより、温度上昇時においても、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18内の構造に基づく電子状態が保持され、オン電流値の低下を軽減または防止することができる。
【0070】
次に、本発明の薄膜トランジスタ10の製造方法を説明する。
【0071】
<薄膜トランジスタの製造方法>
図4は、
図1(a)に示す薄膜トランジスタ10の製造方法の一例であって、その各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基板12の上にゲート電極14を形成する工程、(b)は、ゲート電極14の上にゲート絶縁膜16’を形成する工程、(c)は、(b)で形成したゲート絶縁膜16’を備える積層体20’を加熱して、ゲート絶縁層16を形成する工程、(d)は、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体膜18’を形成する工程、(e)は、(d)で形成した酸化物半導体膜18’を備える積層体30’を加熱して、酸化物半導体層18を形成する工程、(f)は、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成する工程、(g)は、酸化物半導体層18の一部、ソース電極32、およびドレイン電極34の上にレジスト膜36を形成する工程、(h)は、酸化物半導体層18をエッチングする工程、(i)は、水放出防止膜60を配置して、薄膜トランジスタ10を得る工程を示す。以下に、
図4(a)〜(i)にそれぞれ対応している工程(a)〜(i)について詳述する。
【0072】
(工程(a))
本工程は、基板12の上にゲート電極14を形成する工程である(
図4(a))。
【0073】
基板12は、洗浄したものを使用することが好ましく、その洗浄方法としては、酸素ガスを用いたプラズマアッシングなど既知のいかなる方法を採用することができる。
【0074】
ゲート電極14の形成方法としては、真空蒸着法(例えば、スパッタリング法)など既知のいかなる方法を採用することができる。
【0075】
(工程(b))
本工程は、ゲート電極14の上にゲート絶縁膜形成溶液を塗布して、ゲート絶縁膜16’を形成する工程である(
図4(b))。
【0076】
ゲート絶縁膜形成溶液の塗布方法としては、制限するわけではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷、反転オフセット印刷など公知の方法を用いることができる。
【0077】
ゲート絶縁膜形成溶液は、ゲート絶縁層を構成する金属の種類および下記の工程(c)において採用する本焼成温度に応じて、例えば、以下のように調製することができる。
【0078】
ゲート絶縁層が、焼成温度ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物から形成されている場合であって、約300℃以上の高温にて本焼成を行う場合には、例えば、以下のようにゲート絶縁膜形成溶液を調製することができる。
【0079】
ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)を含む所定の金属化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)の金属溶液を作製する。また、ジルコニウム化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のジルコニウム溶液を作製する。作製した各溶液を所定量で混合し、適宜、フィルターでろ過を行うことにより、所定の金属とジルコニウムとが所望の原子数比を有するゲート絶縁膜形成溶液を調製することができる。或いは、溶媒に、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)とジルコニウムとが所望の原子数比となるように所定の金属化合物とジルコニウム化合物を加えて、溶解させて、適宜、フィルターでろ過を行うことにより、ゲート絶縁膜形成溶液を調製してもよい。
【0080】
ゲート絶縁層が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されている場合であって、約300℃以上の高温にて本焼成を行う場合には、例えば、所定の金属化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)の金属溶液を作製することができる。
【0081】
上記所定の金属化合物の例としては、金属の酢酸塩、硝酸塩、塩化物、またはアルコキシド(例えば、イソプロポキシド、ブトキシド、エトキシド、メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0082】
ジルコニウム化合物の例としては、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、またはジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0083】
金属化合物およびジルコニウム化合物を溶解する溶媒は、特に制限するわけではないが、例えば、プロピオン酸、酢酸、オクチル酸、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択される溶媒を採用することができる。
【0084】
金属化合物およびジルコニウム化合物を溶媒に溶解するに際し、適宜加熱してもよい。
【0085】
ゲート絶縁膜形成溶液をスピンコート法により塗布する場合には、ローターの回転数および回転時間は、膜厚等により適宜設定すればよい。
【0086】
以上、約300℃以上の高温にて本焼成を行う場合についての、ゲート絶縁膜形成溶液の調製方法を説明した。次に、本焼成温度を約200℃以下の低温とする場合における、ゲート絶縁膜形成溶液の調製方法を説明する。
【0087】
ゲート絶縁層が、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物から形成されている場合には、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)と、アセチルアセトナートとを含むゲート絶縁膜形成溶液を用いる。アセチルアセトナートは、ランタノイド(Ln)もしくはイットリウム(Y)、ならびにジルコニウム(Zr)の総モル数に対して、20〜400モル%とすることができる。ゲート絶縁膜形成溶液にアセチルアセトナートが含まれると、紫外線の吸収が著しく高くなる。この特性を利用し、後述する工程(c)において、紫外線照射を加熱と併用することにより、従来適用されていた高温の本焼成温度を200℃以下にまで低減することができる。ゲート絶縁膜形成溶液は、例えば、以下のように調製することができる。
【0088】
所定の金属化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)の金属溶液を作製する。また、ジルコニウム化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のジルコニウム溶液を作製する。作製した各溶液を所定量で混合し、適宜、フィルターでろ過を行うことにより、所定の金属とジルコニウムとが所望の原子数比を有するゲート絶縁膜形成溶液を調製することができる。或いは、溶媒に、所定の金属とジルコニウムとが所望の原子数比となるように所定の金属化合物とジルコニウム化合物を加えて、溶解させて、適宜、フィルターでろ過を行うことにより、ゲート絶縁膜形成溶液を調製してもよい。なお、ゲート絶縁膜形成溶液を調製する際に用いる金属化合物中にアセチルアセトナートが含まれない場合、または所定量にアセチルアセトナートが含まれていない場合には、別途、アセチルアセトナートを加える。
【0089】
金属化合物の例としては、金属のアセチルアセトナート、アセテートなどを挙げることができる。
【0090】
ジルコニウム化合物の例としては、ジルコニウムアセチルアセトナート、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、またはジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシ)を挙げることができる。
【0091】
金属化合物およびジルコニウム化合物を溶解する溶媒は、特に制限するわけではないが、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択されるアルコール溶媒を挙げることができる。
【0092】
金属化合物およびジルコニウム化合物を溶媒に溶解するに際し、適宜加熱してもよい。
【0093】
さらに、以上に説明したゲート絶縁膜形成溶液を、密閉容器内で加熱処理に供することが好ましい。これは、溶液中の金属錯体およびアセチルアセトナートから構成されるクラスタ―の形成を促進し、その構造を均一化し、秩序を向上させるとともに、紫外線の吸収効率を高めるからである。
【0094】
密閉容器内での加熱処理は、例えば、ゲート絶縁膜形成溶液をオートクレーブなどの耐圧容器に移して、これを溶媒の沸点以上に昇温することで加圧状態とし、この状態で、適切な時間(例えば、1〜10時間程度)保持することにより実施する。
【0095】
なお、ジルコニウムの代わりにタンタルを用いる場合には、上記の説明において、ジルコニウムをタンタルに置き換えて読むことができるものとする。
【0096】
次に、ゲート絶縁層が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素を含む酸化物から形成されている場合について説明する。ゲート絶縁膜形成溶液としては、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびアルミニウム(Al)からなる群から選択される少なくとも1種類の金属元素と、アセチルアセトナートとを含む溶液を用いる。
【0097】
また、このゲート絶縁膜形成溶液の調製時に用いる、ジルコニウム、ハフニウム、アルミニウム化合物の例としては、対応する金属のアセチルアセトナート、硝酸化物、塩化物、またはアルコキシド(例えば、イソプロポキシド、ブトキシド、エトキシド、メトキシエトキシ)を挙げることができる。
【0098】
さらに、ジルコニウム、ハフニウム、アルミニウム化合物を溶解する溶媒は、特に制限するわけではないが、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択されるアルコール溶媒を挙げることができる。
【0099】
なお、ゲート絶縁膜形成溶液の調製は、上記で説明した、ランタノイド(Ln)またはイットリウム(Y)と、ジルコニウム(Zr)とを含む酸化物から形成されている場合と同様の方法を採用することができる。
【0100】
以上のようにして、本焼成温度を約200℃以下とする場合における、ゲート絶縁膜形成溶液の調製をすることができる。
【0101】
(工程(c))
本工程は、工程(b)で形成したゲート絶縁膜16’を備える積層体20’を加熱して、ゲート絶縁層16を形成する工程である(
図4(c))。
【0102】
まず、約300℃以上の高温にて本焼成を行い、ゲート絶縁層を形成する場合について説明する。
【0103】
積層体20’の加熱は、大気中など酸素を含む環境下、徐々に温度を上げていくことが好ましい。例えば、まず、80〜170℃で加熱する初期加熱、次いで、170〜300℃で加熱する予備焼成、その後、300〜500℃で加熱する本焼成の3段階で行うことが好ましい。このように、3段階で加熱を行うことにより、初期加熱によりゲート絶縁膜16’に含まれる溶媒を蒸発させ、予備焼成により有機成分を部分的に分解し、さらに、本焼成により完全に固体化をさせることができる。この結果、ムラの少ない均一なゲート絶縁層16を再現良く形成することができる。
【0104】
ゲート絶縁層16の膜厚を厚くする場合には、工程(b)のゲート絶縁膜16’を形成する工程と、上記の初期加熱および予備焼成との一連の操作を複数回繰り返した後、最後に本焼成を行えばよい。
【0105】
積層体20’の加熱方法は、特に制限するわけではないが、例えば、ヒーターの加熱面に、基板12の面が接触するように積層体20’を設置して行うことができる。
【0106】
次に、約200℃以下の低温にて本焼成を行い、ゲート絶縁層を形成する場合について説明する。
【0107】
低温にて本焼成を行う場合には、工程(b)で形成した積層体20’のゲート絶縁膜16’の表面に、紫外線を照射しながら、ゲート絶縁膜16’を加熱して、ゲート絶縁層16を形成する。
【0108】
紫外線の照射は、ムラの少ない均一なゲート絶縁層16を形成するために、ゲート絶縁膜16’の全面に均一に行うことが好ましい。この際、照射する紫外線の照度は、特に制限するわけではないが、5.0〜15.0mW/cm
2、好ましくは7.0〜12.0mW/cm
2とすることができる。このように、本工程で使用する照度は、一般的な表面洗浄用UV装置に用いられている照度と同レベルに低くすることができる。これは、ゲート絶縁膜16’の紫外線吸収度が高いため、高い照度を必要としないことによる。
【0109】
積層体20’の加熱方法は、特に制限するわけではないが、例えば、ヒーターの加熱面に、基板12の面が接触するように積層体20’を設置して行うことができる。
【0110】
積層体20’の加熱条件は、大気中など酸素を含む環境下、徐々に温度を上げていくことが好ましい。例えば、まず、80〜170℃で初期加熱し、次いで、180〜200℃で焼成することが好ましい。初期加熱は主に、ゲート絶縁膜16’に含まれる溶媒を蒸発させることを目的とする。
【0111】
ゲート絶縁層16は、複数の層から形成されていてもよい。複数の層を形成する場合には、工程(b)のゲート絶縁膜16’を形成する工程と、上記の初期加熱および焼成の一連の操作を複数回繰り返せばよい。
【0112】
(工程(d))
本工程は、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体膜形成溶液を塗布して、酸化物半導体膜18’を形成する工程である(
図4(d))。
【0113】
酸化物半導体膜形成溶液の塗布方法としては、制限するわけではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷、反転オフセット印刷など公知の方法を用いることができる。
【0114】
酸化物半導体膜形成溶液は、後述する工程(e)の本焼成温度に関わらず、例えば、以下のように調製することができる。
【0115】
インジウム(In)を含む酸化物で形成されている酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)溶液を作製する。
【0116】
インジウム(In)と錫(Sn)とを含む酸化物で形成されている酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および錫(Sn)化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/錫(Sn)溶液を作製する。
【0117】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物で形成されている酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物および亜鉛(Zn)化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/亜鉛(Zn)溶液を作製する。
【0118】
インジウム(In)とジルコニウム(Zr)と亜鉛(Zn)とを含む酸化物で形成されている酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物、ジルコニウム(Zr)化合物および亜鉛(Zn)化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/ジルコニウム(Zr)/亜鉛(Zn)溶液を作製する。
【0119】
インジウム(In)とガリウム(Ga)とを含む酸化物で形成されている酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物およびガリウム(Ga)化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/ガリウム(Ga)溶液を作製する。
【0120】
インジウム(In)と亜鉛(Zn)とガリウム(Ga)とを含む酸化物で形成されている酸化物半導体膜18’を形成する場合には、インジウム(In)化合物、亜鉛(Zn)化合物、およびガリウム(Ga)化合物を、溶媒に溶解させて、所定のモル濃度(例えば、0.2mol/kg)のインジウム(In)/亜鉛(Zn)/ガリウム(Ga)溶液を作製する。
【0121】
インジウム(In)化合物の例としては、硝酸インジウム、インジウムアセチルアセトナート、酢酸インジウム、塩化インジウム、またはインジウムアルコキシド(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0122】
錫(Sn)化合物の例としては、塩化錫、硝酸錫、酢酸錫、または錫アルコキシド(例えば、錫イソプロポキシド、錫ブトキシド、錫エトキシド、錫メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0123】
亜鉛(Zn)化合物の例としては、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、または亜鉛アルコキシド(例えば、亜鉛イソプロポキシド、亜鉛ブトキシド、亜鉛エトキシド、亜鉛メトキシエトキシド)を挙げることができる。
【0124】
ジルコニウム(Zr)化合物の例としては、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、またはジルコニウムアルコキシド(例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムメトキシエトキシ)を挙げることができる。
【0125】
ガリウム(Ga)化合物の例としては、硝酸ガリウム、塩化ガリウム、酢酸ガリウム、ガリウムアセチルアセトナートまたはガリウムアルコキシド(ガリウムメトキシド、ガリウムエトキシド、ガリウムプロポキシド、ガリウムブトキシド)等を挙げることができる。
【0126】
酸化物半導体膜形成溶液に使用する溶媒は、特に制限するわけではないが、例えば、2−メトキシエタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールの群から選択されるアルコール溶媒、酢酸、プロピオン酸、オクチル酸の群から選択されるカルボン酸の溶媒、または、水を採用することができる。酸化物半導体膜形成溶液に硝酸塩が含まれる場合には、TFTの特性向上の観点から、溶媒として水を用いることが好ましい。
【0127】
酸化物半導体膜形成溶液は、酸化剤を含んでいる。酸化剤の例としては、限定するわけではないが、硝酸塩、過酸化物、または過塩素酸塩を挙げることができる。ここで、例えば、インジウム(In)化合物として、硝酸インジウムを用いる場合には、それ自体が硝酸塩であるため、別途、酸化剤を加える必要はない。
【0128】
また、酸化物半導体膜形成溶液は、当該溶液の焼成温度および焼成の強さを調整するために助焼成剤を含んでいてもよい。助焼成剤の例としては、限定するわけではないが、アセチルアセトン、アセチルアセトネート、尿素、または酢酸アンモニウムを挙げることができる。
【0129】
酸化物半導体膜形成溶液の調製する際、溶媒に溶質を加えて、適宜加熱してもよい。
【0130】
酸化物半導体膜形成溶液をスピンコート法により塗布する場合には、ローターの回転数および回転時間は、膜厚等により適宜設定すればよい。
【0131】
(工程(e))
本工程は、工程(d)で形成した酸化物半導体膜18’を備える積層体30’を加熱して、酸化物半導体膜18’から酸化物半導体層18を形成する工程である(
図4(e))。
【0132】
まず、比較的高温にて本焼成を行い、酸化物半導体層18を形成する場合について説明する。
【0133】
積層体30’の本焼成前に、大気中など酸素を含む環境下、積層体30’を、初期加熱をすることが好ましい。これは、初期加熱により酸化物半導体膜18’に含まれる溶媒を蒸発させるためである。初期加熱の温度は、本焼成温度よりも低温に設定する。例えば、本焼成温度が350〜550℃であれば、初期加熱の温度範囲を、80〜250℃に設定することができる。また、例えば、本焼成温度が170〜300℃であれば、初期加熱の温度範囲を、80〜170℃に設定することができる。
【0134】
その後、本焼成で行うことにより、有機成分を分解し、酸化物半導体膜18’を完全に固体化をさせる。この結果、ムラの少ない均一な酸化物半導体層18を再現良く形成することができる。また、酸化物半導体膜18’を構成する材料等によっては、本焼成の工程を2段階で実施することにより、良好な特性が得られる場合がある。例えば、焼成工程を2段階で実施する場合には、積層体30’を170〜300℃で焼成した後、300〜550℃で焼成することができる。このように、焼成の工程を1段階または多段階で実施することができる。各段階における積層体30’の焼成時間は、用いる材料等により適宜設定すればよい。
【0135】
次に、比較的低温にて本焼成を行い、酸化物半導体層18を形成する方法について説明する。
【0136】
本方法では、工程(d)で形成した積層体30’の酸化物半導体膜18’の表面に、紫外線を照射しながら、酸化物半導体膜18’を加熱して、酸化物半導体層18を形成する。
【0137】
紫外線の照射は、ムラのない均一な酸化物半導体層18を形成するために、酸化物半導体膜18’の全面に均一に行うことが好ましい。この際、照射する紫外線の照度は、特に制限するわけではないが、5.0〜15.0mW/cm
2、好ましくは7.0〜12.0mW/cm
2とすることができる。このように、使用する照度は、一般的な表面洗浄用UV装置に用いられている照度と同レベルに低くすることができる。
【0138】
積層体30’の加熱方法は、特に制限するわけではないが、例えば、ヒーターの加熱面に、基板12の面が接触するように積層体30’を設置して行うことができる。
【0139】
積層体30’の加熱条件は、例えば、大気中など酸素を含む環境下、まず、80〜170℃で初期加熱し、次いで、180〜200℃で焼成することができる。初期加熱は主に、酸化物半導体膜18’に含まれる溶媒を蒸発させることを目的とする。
【0140】
以上の積層体30’の加熱により、ゲート絶縁層16の上に酸化物半導体層18を形成することができる。
【0141】
(工程(f))
本工程は、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成する工程である(
図4(f))。
【0142】
ソース電極32およびドレイン電極34の形成としては、リフトオフ法など既知のいかなる方法を採用することができる。
【0143】
リフトオフ法にて形成する例は、以下のとおりである。
【0144】
酸化物半導体層18上に、フォトリソグラフィー法によってパターニングされたレジスト膜を形成し、酸化物半導体層18およびレジスト膜の上に、スパッタリング法などにより、金属層を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、酸化物半導体層18の上にソース電極32およびドレイン電極34を形成することができる。
【0145】
レジスト膜の材料としては、通常用いられているリフトオフ層の材料、例えば、ロームアンドハース社製LOL2000および東京応化工業社製TSMR8900を用いることができる。
【0146】
金属層が、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)により形成されている場合には、ITO層ターゲット材として、5質量%の酸化錫(SnO
2)を含有するITOを用いることができる。また、金属層が、例えば、酸化ルテニウム(RuO
2)により形成されている場合には、ターゲット材として、酸化ルテニウム(RuO
2)を用いることができる。
【0147】
(工程(g))
本工程は、酸化物半導体層18の一部、ソース電極32、およびドレイン電極34の上にレジスト膜36を形成する工程(
図4(g))である。
【0148】
本工程は、後述する工程(h)にて、酸化物半導体層18をパターンニングする場合に適宜設けてもよい工程である。
【0149】
レジスト膜36は、例えば、フォトリソグラフィー法などの公知の方法により、パターニングして形成することができる。
【0150】
レジスト膜36の材料としては、通常用いられているレジスト材料、例えば、東京応化工業社製OMR85などを用いることができる。
【0151】
(工程(h))
本工程は、工程(g)で形成したレジスト膜36を備える積層体40をエッチングすることにより、レジスト膜36で覆われていない酸化物半導体層18を除去する工程(
図4(h))である。
【0152】
エッチングとしては、例えば、ITO用エッチャント(関東化学株式会社製ITOシリーズ)などのエッチャントを用いるウェットエッチング法またはアルゴンプラズマによるドライエッチング法を用いることができる。
【0153】
酸化物半導体層18の素子分離(工程(h))後には、ソース電極32およびドレイン電極34と酸化物半導体層18との密着性向上のため、積層体50をポストアニール処理することが好ましい。ポストアニールはホットプレートなどの加熱手段を用いて、200℃以上、10分以上の熱処理により実施することが好ましい。さらに高温で追加のポストアニールを実施してもよいが、実施する温度は、酸化物半導体層18、またはゲート絶縁層16の組み合わせによって適宜設定すればよい。
【0154】
(工程(i))
本工程は、工程(h)で形成した積層体50におけるゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18の露出面を覆うように水放出防止膜60を設けて、薄膜トランジスタ10を得る工程(
図4(i))である。
【0155】
水放出防止膜60を積層体50に設けるに際し、別途、水放出防止膜60を形成し、これを、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18の露出面を覆うように積層体50に貼り合わせてもよい。
【0156】
水放出防止膜60は、使用する材料に応じて、PVD法、CVD法、溶液法など既知の方法を用いて適切な形状(例えば、シート状)に形成することができる。
【0157】
水放出防止膜60を積層体50に貼り合わせるには、例えば、水放出防止膜60または積層体50の貼り合わせ面に接着剤を塗布した後、両者を適切な位置で互いに接着させればよい。あるいは、接着剤を用いずに、水放出防止膜60を加熱して軟化させながら、積層体50に押し当てて両者を貼り合わせてもよい。
【0158】
水放出防止膜60と、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18との間を湿潤状態とする場合には、例えば、水放出防止膜60の形成前に、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18の露出面に水滴を吹きかける、或いは、高湿度の環境下で水放出防止膜60を設ければよい。
【0159】
以上、
図4を参照した薄膜トランジスタ10の製造方法では、酸化物半導体層18の形成において、目的原料を含む溶液を用いる溶液法を適用しているが、当該溶液法の代わりに、真空蒸着、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの乾式成膜法を適用してもよく、また、フォトリソグラフィーなどの各種形成方法により成膜してもよい。さらに、ゲート絶縁層16および酸化物半導体層18は、インプリント法にて形成してもよい。
【0160】
以上のようにして、
図1に示す薄膜トランジスタ10を製造することができる。
【0161】
他の実施形態である、
図2に示す薄膜トランジスタ10の製造方法は、例えば、
図1に示す薄膜トランジスタ10の製造方法にて、水放出防止膜60を形成する前に、含水膜62を形成する工程を組み込めばよい。具体的には、
図4に示す工程(a)〜(h)にて積層体50を形成し、次いで、ゲート絶縁層16および/または酸化物半導体層18の露出面に含水膜62を設けた後、含水膜62を覆うように水放出防止膜60を設けて、薄層トランジスタを作製することができる。
【0162】
含水膜62として、水を含んだポーラス材を用いる場合には、ポーラス材を公知技術により形成し、次いで、ポーラス材に水を取り込ませることにより、含水膜62を調製することができる。
【0163】
ポーラス材の形成方法としては、例えば、単に、樹脂材料をシート状に形成して、これを加熱乾燥する方法、相分離法、化学処理法、照射エッチング法、複合法、抽出法、延伸法、融着法、発砲法などの公知の方法を挙げることができる。
【0164】
また、ポーラス材に水を取り込ませるには、ポーラス材を水に浸漬する、ポーラス材に水を吹き付けるなどして行うことができる。
【0165】
さらに他の実施形態である、
図3に示す薄膜トランジスタ10の製造方法は、例えば、
図4に示す工程(a)〜(h)にて積層体50を形成し、次いで、基板12上に水を溜めるための空間を形成し、この空間に水を加え、最後にこれらを囲うように、水放出防止膜60を配置することにより製造できる。例えば、
図3に示すように、水を溜めるための空間を、仕切り壁66、基板12、および水放出防止膜60の側部にて形成する場合には、基板12上に、ゲート絶縁層16および酸化物半導体層18の占める領域を囲むように水放出防止膜60の側部を設け、さらに仕切り壁66を設けて水溜めを形成し、これに水を加えた後、水放出防止膜60の上部を形成すればよい。
【0166】
以上のようにして、薄膜トランジスタ10を製造することができる。
【実施例】
【0167】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0168】
<薄膜トランジスタの製造>
(実施例1)
本実施例では、
図3に示す薄膜トランジスタを製造した。
【0169】
まず、洗浄したSiウェハ基板上に、スパッタリング法により、チタン/白金(Ti/Pt)層からなるゲート電極を形成した。次いで、チタン/白金(Ti/Pt)層が成膜された基板表面を、酸素ガスを用いたプラズマアッシングにより洗浄した。
【0170】
次に、ゲート電極層上に、スピンコート法(回転数2000rpm、回転時間25秒間)により、ゲート絶縁膜形成溶液を塗布し、ゲート絶縁膜を形成した。なお、ゲート絶縁膜形成溶液は、以下のように調製した。まず、プロピオン酸に、ランタンアセテートを溶解し、これを、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgのランタン溶液を調製した。次いで、プロピオン酸に、ジルコニウムブトキシドを溶解し、これを、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して、0.2mol/kgのジルコニウム溶液を調製した。調製した各溶液を、ランタンとジルコニウムとの原子数比が3:7となるように混合し、その後0.2umのPTFEフィルターでろ過を行うことにより、ゲート絶縁膜形成溶液を調製した。
【0171】
次いで、ゲート絶縁膜を形成した積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に10秒間静置、加熱した後、250℃に温度を上昇させて5分間加熱して、ゲート絶縁膜を加熱、乾燥した。以上に実施したスピンコート法によるゲート絶縁膜の形成と、加熱、乾燥との一連の操作を5回繰り返した。その後、得られた積層体をITO−02(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)にてウェットエッチングして、測定用ゲート電極出しを行い、次いで、400℃に設定されたホットプレート上で5分間焼成して、さらに設定温度を450℃として、当該温度で5分間焼成して、ゲート絶縁層を形成した。ゲート絶縁層の厚みは、125nmであった。
【0172】
その後、ゲート絶縁層上に、スピンコート法(回転数3000rpm、回転時間30秒間)により、酸化物半導体膜形成溶液を塗布し、得られた積層体を、150℃に設定されたホットプレート上に30秒間静置、加熱した後、250℃に温度を上昇させて30分間加熱することにより酸化物半導体層を形成した。酸化物半導体層の厚みは、15nmであった。なお、酸化物半導体膜形成溶液としては、2−メトキシエタノールに、硝酸インジウム、金属(インジウム)と同モル量のアセチルアセトンおよび酢酸アンモニウムを加え、110℃、回転数1000rpmで30分間、撹拌して調製した0.2mol/kgのインジウム溶液を使用した。
【0173】
続いて、酸化物半導体層上に、リフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成した。なお、ソース電極およびドレイン電極の材料としてはそれぞれPtおよび5質量%のSnO
2を含有するITOを用いた。また、Pt電極およびITO電極の厚みはそれぞれ、100nmおよび60nmであった。
【0174】
その後、素子分離(酸化物半導体層のパターニング)のため、フォトリソグラフィーによってレジスト膜を形成し、得られた積層体を、ITO−02(関東化学株式会社製のITO用エッチャント)を用いたウェットエッチングによりエッチングし、その後250℃のホットプレート上で20分ポストアニールを行った。なお、チャネル長Lは200μmであり、チャネル幅Wは300μmであった。
【0175】
さらに、基板上に、水放出防止膜の側部を設け、次いで仕切り壁を設けて水溜めを形成し、これに水を加えた後、水放出防止膜の上部を設けて、薄膜トランジスタを作製した。水放出防止膜および仕切り壁としては、ポリジメチルシロキサン(東レ・ダウコーニング社製silpot184)をシート状に形成し、適切な大きさに切断したものを使用した。
【0176】
<トランジスタの特性評価>
実施例1で製造した薄膜トランジスタを、温度可変ステージ(LakeShore社製Model TTPX)に載置し、温度を297.7K、312.6K、321.6K、312.8K、301.7K、292.7K、283.5K、292.6K、301.5K、311.5K、321.0K、330.3K、321.6Kの順に変化させ、V
D=0.1V、V
G=2Vの条件で、各温度におけるオン電流値を測定した。なお、オン電流の測定は、Semiconductor Parameter Analyzer(Agilent社製Model 4155C)を用いた。その測定結果を
図9(a)に示す。このオン電流の測定値から抵抗値を算出してプロットしたところ、
図9(b)に示す結果となった。
【0177】
図9(a)により明らかなとおり、温度を283.4Kから330.3Kに上昇させても、オン電流は、ほとんど低下しなかった。(オン電流のわずかの低下は下記の説明のように金属的な導電性になっているからである。)また、283.4K〜330.3Kの間で温度を上下させた場合に、同一の温度では略同一のオン電流値を示した。このように、本発明の薄膜トランジスタでは、温度の変動にオン電流がほとんど影響を受けることのないことが判明した。これは、温度が変動した場合であっても、ゲート絶縁層および/または酸化物半導体層内の構造に基づく電子状態がほとんど変化しないためであるといえる。
【0178】
また、
図9(b)の結果より、本発明の薄膜トランジスタは、抵抗値が非常に小さく、しかも通常の半導体導電性と異なり、金属的な導電性を示した。