【解決手段】エレクトロポレーション装置1は、電極面を有する下側電極21及び別の電極面を有する上側電極22からなる垂直電極2と、下側電極21と上側電極22の間に電圧を印加する電圧印加装置3と、を備える。試料Sは、両電極面の間に他の部材から離間して保持される。下側電極21は、支持台23を鉛直方向に貫通して固定されている。上側電極22は、鉛直方向における位置を調整できるよう、ケース24の上面を鉛直方向に貫通し、ナット27で固定されている。
前記第1の電極と前記第2の電極の少なくとも一方に発生した熱を放熱する放熱手段、及び/又は、前記第1の電極と前記第2の電極の少なくとも一方を冷却する冷却手段を備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載のエレクトロポレーション装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態に係るエレクトロポレーション装置とエレクトロポレーション方法を、添付図面を参照しつつ説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
本実施の形態に係るエレクトロポレーション装置1は、
図1に示すように、試料Sを保持すると共に電圧を印加する下側電極21と上側電極22とからなる垂直電極2と、下側電極21と上側電極22との間に電圧を印加する電圧印加装置3と、を備える。
【0022】
下側電極21は、厚さ5mm程度の透明のアクリル樹脂製の板材からなる支持台23を鉛直方向に貫通して固定されている。下側電極21の一端は、支持台23の上方に、他端は、支持台23の下方に、それぞれ位置している。
【0023】
上側電極22は、透明のアクリル樹脂製のケース24の上面に、該上面を鉛直方向に貫通して固定されている。上側電極22の一端は、ケース24の上面の下方に、他端は、ケース24の上面の上方に、それぞれ位置している。
【0024】
エレクトロポレーションの対象となる試料Sは、下側電極21と上側電極22の間に配置される。
【0025】
上側電極22の外周面には雄ねじが形成され、ケース24の上面中央部には、内面に雌ねじが形成された電極貫通穴が形成されている。上側電極22は、電極貫通穴の雌ねじと螺合している。上側電極22に形成された雄ねじにはナット27も螺合している。上側電極22を回転することにより、上側電極22の上昇及び下降が可能である。また、ナット27を締めることにより、上側電極22をケース24に固定することが可能である。
【0026】
ケース24は、例えば、一辺の長さが20mmである立方体状の外形を有する。ケース24には、その底面から鉛直方向上向きに、円柱状の空間が形成されている。円柱状の空間は、ケース24の底面に開口している。
【0027】
下側電極21と上側電極22とは、ケース24を支持台23の基準位置に配置した状態で、その一端同士が互いに対向し、ケース24内の円柱空間のほぼ中央に位置するように配置されている。
【0028】
支持台23の上面には、複数の磁石25Aが埋設されている。ケース24の下面部の所定位置には、磁石25Aとの間で吸引力が作用する磁石25Bが埋設されている。ケース24を支持台23の上の所定位置に配置すると、磁石25Aと25Bが引き合い、ケース24は、支持台23に位置合わせされ且つ固定される。これにより、上側電極22が下側電極21に位置合わせされる。
【0029】
支持台23の底には、ゴム製の脚26が3本、同一直線上に並ばないように設けられている。これにより、支持台23が設置される面の凹凸や振動が脚26によって吸収され、エレクトロポレーション装置1が安定して設置される。
【0030】
下側電極21と上側電極22は、いずれも、銅などの良導体の芯部材と、芯部材の表面を覆う金層とから形成される。下側電極21と上側電極22は、例えば、芯部材を金メッキして形成されている。下側電極21と上側電極22を金で覆うことにより、高電圧が印加されても、酸化・腐食しにくくなる。また、金は、酸・塩基や有機溶剤などに強いため、下側電極21及び上側電極22洗浄すれば、同一の電極を用いて複数回のエレクトロポレーションを実行することも可能となる。言い換えれば、表面に金膜を備える下側電極21及び上側電極22を用いることで、垂直電極2の再利用が容易になる。
【0031】
図2に示すように、下側電極21の一端と上側電極22の一端には、直径約2mm、厚さ約0.5mmの円盤部21A、22Aが形成されている。円盤部21A、22Aの対向部分には、円形状の平坦な電極面CS1とCS2がそれぞれ形成されている。ケース24を支持台23の基準位置に配置した状態では、下側電極21の円盤部21Aの電極面CS1と上側電極22の円盤部22Aの電極面CS2とは、いずれも水平、平行であり、且つ、互いに対向している。なお、下側電極21と上側電極22とは直接接触しない。下側電極21の円盤部21Aの電極面CS1と上側電極22の円盤部22Aの電極面CS2との距離Dは、上側電極22を回転させて、鉛直方向の位置を調整することにより可変となっているが、例えば、0.3mm〜1.0mm程度に設定される。
【0032】
図3に示すように、エレクトロポレーションの対象となる試料Sは、下側電極21の円盤部21Aと上側電極22の円盤部22Aとの間に保持される。このとき、試料Sは、金表面のぬれ性により、下側電極21の円盤部21Aの電極面CS1と上側電極22の円盤部22Aの電極面CS2に吸着した状態で保持される。また、試料Sの側部は表面張力により、流れ落ちることなく保持される。このため、試料Sは、1つの液体の粒として電極21と22以外の部材(機械要素)から離間して保持される。この場合、試料Sの量は、例えば、1〜3μlで足りる。従って、微少量の試料で実験を行ったり、高価な試料を用いて多数回の実験を繰り返したりすることが可能である。
【0033】
さらに、特許文献1〜4に記載のエレクトロポレーション装置においては、場所により、試料S付近の電界の強度が異なったり、電流の密度が偏ったりするおそれがある。これに対し、
図3に示すように、エレクトロポレーション装置1では、互いに平行な下側電極21の電極面CS1と上側電極22の電極面CS2との間に、両面に接して且つ両面に吸着して、試料Sが保持される。従って、試料Sの厚みも全体で一定値Dである。このため、
図4に示すように、下側電極21の電極面CS1と上側電極22の電極面CS2との間には、互いに平行で同一密度の電気力線が発生する。従って、試料Sに加わる電界が、試料S内の場所によらずほぼ一定となる。これにより、エレクトロポレーションの精度及び再現性が向上する。
【0034】
次に、垂直電極2に生じる電界と試料Sの量との関係を
図5に基づいて説明する。
図5(A)に示すように、試料Sの量が少なすぎる場合には、試料Sが上側電極22の電極面CS2に接触しない。この状態で電極21、22間に電圧を印加しても、試料Sと電極面CS2との間に間隔があるため、絶縁抵抗が大きく、試料Sには電圧が加わらず、電流も流れない。
【0035】
これに対し、
図5(B)に示すように、試料Sが電極面CS1と電極面CS2の両方に接している場合には、試料Sに電圧が印加され、電流が流れる。
【0036】
また、一般に、滴下された試料Sが懸濁液であれば、重力の作用により、細胞やリポソーム、導入する小分子や金属微粒子などについて、鉛直方向の濃度勾配が生じる。これに対し、下側電極21と上側電極22との間に生じる電界は、
図4において前述したように、鉛直方向であり、且つ、その強度も一定である。従って、
図5(B)に示すように、試料Sの量が十分である場合には、鉛直方向に垂直な方向において、場所によって電界の強度が変化することが少ない。従って、電界は、鉛直方向に垂直な方向においては、どの位置でもほぼ一定であり、試料Sに対して、場所に依存する不均一な電圧印加が起こらない。これにより、試料Sに効率よく電圧を印加することができ、再現性の高く、精度の高い実験を行うことができる。
【0037】
図5(A)と
図5(B)とを比較すると、
図5(B)の場合の方が、試料Sの接触角θ(試料Sの表面が下側電極21の電極面CS1(又は上側電極22の電極面CS2)となす角度)が大きい。このように、試料Sが大きい接触角θで電極面CS1、CS2に接することで、試料Sは、印加された電圧による電気エネルギーを効率的に受けることができる。そこで、試料Sの特性、例えば、緩衝液の粘度、固形物の割合や、試料Sのサイズなどに応じて、下側電極21と上側電極22の距離Dを調整して、大きな接触角θが得られるように調整することが望ましい。
【0038】
図1に示す電圧印加装置3は、波形信号を発生させる波形発生装置32と、波形発生装置32によって生成された波形信号を増幅する増幅器33と、を有する。波形とは、例えば、電圧波形、すなわち、時間に対する電圧の変化をいう。波形発生装置32はパーソナルコンピュータ(PC)31に接続されている。
【0039】
PC31は、波形発生装置32に生成させる波形を定義する波形データを作成し、編集し、保存する機能を有する。
【0040】
エレクトロポレーションに用いられる代表的な電圧波形には、スクエアパルス(矩形波、square pulse)とエクスポネンシャルパルス(減衰波、exponential pulse)とがある。スクエアパルスは、
図6(A)に例示するように、一定の電圧が一定期間持続する形状を有する。また、エクスポネンシャルパルスは、
図6(B)に例示するように、時間の経過とともに指数関数的に電圧が低下する形状を有する。これらの波形にはそれぞれ特徴があり、例えば、生きた細胞を対象とする場合には、スクエアパルスを用いる方が、エクスポネンシャルパルスを用いるよりも電圧印加後の細胞の生存率が高くなることがある。
【0041】
PC31は、例示したエクスポネンシャルパルスやスクエアパルス以外の任意の波形を作成し、編集し、保存することができる。PC31は、例えば、
図6(C)に例示するバイアスが付加された正弦波、三角波、これらの一部等を作成、編集、保存することが可能である。言い換えれば、PC31は、時刻毎の電圧の値を細かく設定し、保存することができる。
【0042】
再び
図1を参照すると、PC31は、発生させる電圧パルスの波形、発生タイミング及び発生回数を波形発生装置32に指示する制御信号を出力する。波形に関する情報は、例えば、PCM信号などでPC31がその都度出力してもよく、また、波形発生装置32に予め記憶されている波形の識別情報を指示する形態でもよい。
【0043】
波形発生装置32は、PC31からの制御信号に含まれる波形データを取り出して、再生するか、または、記憶装置内に予め記憶されている波形データのうち、コマンドに対応するものを選択して、必要に応じて合成して、再生し、指示された波形を有する電圧信号を指示されたタイミングで指示された回数出力する。波形発生装置32は、電圧信号の出力が正常に完了したことなどの情報をPC31に送信し、PC31はこれを報知する。
【0044】
増幅器33は、直流電源34から供給された電力を用いて、波形発生装置32から入力された電圧信号を一定の倍率で増幅し、出力する。増幅器33の一対の出力端は、末端に鰐口クリップやコネクタを備えた導線41、42を介して下側電極21と上側電極22に接続される。
なお、増幅器33は、スピーカ35にも接続されている。そして、下側電極21と上側電極22との間に流れる電流は、増幅器33内部でIV変換され、スピーカ35に出力される。
図5(A)に示したように、試料Sの量が十分でなく、試料Sが下側電極21の電極面CS1と上側電極22の電極面CS2のいずれかに接していない場合には、下側電極21と上側電極22との間に流れる電流は極めて小さいため、スピーカ35に入力される電圧の振幅も小さく、スピーカ35から大きな音が聞こえることはない。これに対し、
図5(B)に示したように、試料Sの量が十分であり、試料Sが下側電極21の電極面CS1と上側電極22の電極面CS2の両方に接している場合には、下側電極21と上側電極22との間に、試料Sの電気抵抗の値に応じた十分な大きさの電流が流れるため、スピーカ35に入力される電圧の振幅もそれに応じて大きくなり、スピーカ35から音が聞こえる。このように、増幅器33にスピーカ35を接続し、スピーカ35からの音を確認することにより、試料Sが下側電極21の電極面CS1と上側電極22の電極面CS2の両方に確実に接しているか否かを簡便に判別することができる。また、試料Sが電極面CS1、CS2の両方に接しているか否かを判別する方法は上述したものに限られず、下側電極21と上側電極22との間に流れる電流の大きさをモニタリングできる方法であればよい。例えば、スピーカの替わりにオシロスコープ等を接続し、両電極21、22間に流れる電流を視覚的、または、定量的に監視して判別する方法を用いてもよい。
【0045】
(動作)
次に、上記構成を有するエレクトロポレーション装置1の動作を説明する。
まず、試料Sを用意する。具体的には、緩衝液等などに目的細胞やリポソーム、さらに、導入対象の金属微粒子、DNA等の対象物を分散させて試料Sを構成する懸濁液を生成する。
【0046】
例えば、金ナノ粒子を細胞内に導入する場合、例えば、緩衝液をストレプトアビジン(Streptavidin)に結合した金属ナノ粒子と目的細胞とを分散させて試料を生成する。また、タンパク質又はmRNAを細胞内へ導入する場合には、緩衝液にタンパク質又はmRNAと、細胞とを分散させた緩衝液を生成する。
【0047】
次に、上側電極22と共にケース24を支持台23から取り外す。
次に、試料Sをスポイトやマイクロピペットに吸い込み、下側電極21の円盤部21Aの電極面CS1上に滴下する。滴下された試料Sは、表面張力の作用により球状になるが、その直径が、下側電極21の円盤部21Aの直径より大きくなるまで、溢れないように静かに滴下を続ける。
【0048】
試料Sの直径が十分な大きさになったら、上方からケース24を静かに被せる。
ケース24と支持台23に設けられた磁石25Aと25Bの吸引力により、ケース24は支持台23の所定位置に固定される。これにより、下側電極21の電極面CS1と上側電極22の電極面CS2とは鉛直方向に対向し、その間に試料Sが挟まれる。このとき、試料Sが上側電極22の電極面CS2にも接していることを確認する。試料Sを含む液体が、
図5(A)に示すように、上側電極22の電極面CS2に接していない場合には、ケース24を取り外し、さらに試料Sを追加するか、上側電極22を下げ、下側電極21と上側電極22との距離Dを狭める。そして、
図5(B)に示すように、下側電極21の電極面CS1と上側電極22の電極面CS2に触れ、且つ、接触角θが大きくなるように試料Sを配置する。
【0049】
また、ケース24を被せたことにより、試料Sの一部が下側電極21と上側電極22との間から溢れ出した場合には、ケース24を一度取り外し、こぼれた液体を除去する。必要に応じて、試料Sを追加するか、下側電極21と上側電極22との距離Dを広げてもよい。
【0050】
ユーザは、波形を新規に作成するか、事前に作成・保存されていた波形のデータを呼び出して、データを編集した後、PC31を操作して、波形発生装置32に制御信号を出力する。
【0051】
波形発生装置32は、制御信号の指示に従った波形を有する電圧信号を指示された回数、指示されたタイミングで発生する。増幅器33は、この電圧信号を電流増幅又は電圧増幅し、下側電極21と上側電極22の間に印加する。これにより、下側電極21と上側電極22の間に配置された試料Sに所望の波形を有する電圧パルス又は電流パルス信号が、所望の回数、所望のタイミングで印加される。
【0052】
これにより、下側電極21と上側電極22の間に配置された試料Sに電圧パルス又は電流パルスが印加され、目的細胞やリポソームに、金属微粒子、DNA等の対象物が導入される。
【0053】
電圧パルス又は電流パルスの印加後、ケース24を静かに取り外す。
図7(A)に示すように、パルスの印加により、試料S中に気泡Bが発生することがある。
続いて、
図7(B)に示すように、試料Sを作成するために用いたものと同様の緩衝液や蒸留水等の呼び水Wを、スポイトやピペットP1から下側電極21上の試料Sに滴下する(加水する)。これにより、試料Sの体積が増加し、接触角θが大きくなるとともに、粘度が下がる。
【0054】
続いて、
図7(C)に示すように、ユーザは、スポイトやピペットP2で吸い込むことにより、試料Sを回収する。
【0055】
呼び水Wを用いない場合には、試料S(エレクトロポレーションの実施により、体積は1μl程度になる。)の回収率は30%程度であるところ、例えば、4μlの呼び水Wを用いた場合の試料Sの回収率は70〜80%程度まで上昇する。試料Sの回収率の向上により、回収後の試料Sの分析が容易になり、分析精度も上昇する。
【0056】
以上で、1回のエレクトロポレーションの処理が終了する。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態にかかるエレクトロポレーション装置1によれば、試料Sを下側電極21と上側電極22とで保持するため、微量の試料Sでエレクトロポレーションを実施可能である。また、試料Sの汚染を防止することが可能である。
【0058】
ケース24で試料Sを覆うことにより、外気などによる試料Sの汚染も防止できる。ケース24を透明とすることにより、目視しながらエレクトロポレーションを実施できる。
【0059】
また、試料Sに含まれる細胞又はリポソームに、それらの位置によらず、均一な強度の電界を印加することができる。
【0060】
さらに、呼び水Wを用いることにより、試料Sを効率良く回収することができる。
【0061】
また、任意の波形の電圧パルス又は電流パルスを、任意のタイミング、任意の回数で、試料Sに印加することができる。
【0062】
下側電極21と上側電極22との距離Dを調整でき、しかも、その距離Dを維持できるので、試料Sの特性に応じた調整が可能である。
【0063】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係るエレクトロポレーション装置100について説明する。なお、理解を容易にするため、エレクトロポレーション装置1と異なる部分を中心に説明する。
【0064】
この実施の形態に係るエレクトロポレーション装置100は、下側電極121を冷却し、エレクトロポレーションによって生じる熱を拡散する手段を備える。
【0065】
本実施の形態において、
図8に示すように、エレクトロポレーション装置100の支持台123は、アルミニウム製であり、下側電極121と電気的及び熱的に接続されている。また、支持台123の底には、アルミニウム製の脚126が複数設けられている。
【0066】
熱伝導率が高いアルミニウムを支持台123や脚126の材質として用いることで、エレクトロポレーションの実施に伴い発生する熱が速やかに拡散し、試料Sの温度上昇を抑制し、又は、速やかな温度低下を実現することができる。すなわち、このような支持台123や脚126は、放熱手段及び/又冷却手段として機能する。また、下側電極121と支持台123とを電気的に接続することで、導線41を下側電極121自体に接続する必要がなくなり、導線41を接続する位置の自由度が向上する。
【0067】
さらに、脚126を、氷水Iが溜められたガラス容器128内に配置することにより、下側電極121を積極的に冷却してもよい。
【0068】
なお、放熱及び冷却の手法は、上述したものに限られず、例えば、下側電極121、上側電極122にフィンを設ける方法、クーラーを用いる方法等であってもよい。
【0069】
支持台123及び脚126の材質は、アルミニウムに限られず、熱伝導率が高く、電気抵抗の低い他の材質、例えば、ステンレスであってもよい。ステンレスを支持台123及び脚126の材質とすることにより、腐食しにくいエレクトロポレーション装置100を実現できる。
【0070】
(第3の実施の形態)
前述した実施の形態においては、電極面CS1への試料Sの滴下、エレクトロポレーション実施後の試料Sへの呼び水Wの滴下、試料Sの回収、電極21、22の洗浄、上側電極22の昇降などを人間が実施する例を示したが、これらを自動化してもよい。以下、自動化した機能を備えるエレクトロポレーション装置200の実施の形態を説明する。
【0071】
この構成に係るエレクトロポレーション装置200は、
図9に例示するように、レール231と、自走車232と、アーム233と、ディスペンサ234と、を備える。
【0072】
レール231は、ケース24で覆われた範囲内の支持台23(又は123)の上に水平に配置される。
自走車232は、レール231に沿って自走する。
アーム233は、自走車232の上に配置され、鉛直方向に伸縮する。
ディスペンサ234は、アーム233の先端部に配置され、内部に試料Sを保持し、試料Sを電極面CS1上に配置する。
【0073】
また、下側電極21と上側電極22には、直動アクチュエータ241と242が配置され、下側電極21と上側電極22をそれぞれ鉛直方向に移動させる。
【0074】
自走車232とアーム233とディスペンサ234と直動アクチュエータ241、242は、例えば、PC31により制御される。
【0075】
次に、このような構成において、電極面CS1上に試料Sを載置する動作を説明する。
初期状態では、自走車232は、ケース24内で下側電極21から離れた退避位置にある。
PC31は、直動アクチュエータ241と242を制御して、下側電極21を基準位置に、上側電極22を基準位置よりも上方に移動する。
【0076】
次に、PC31は、自走車232を制御し、ディスペンサ234が試料Sを電極面CS1上に滴下することが可能な位置である滴下位置まで移動させる。
PC31は、アーム233の長さを制御して、ディスペンサ234の高さを調整する。
続いて、PC31は、ディスペンサ234の向き、角度などを制御し、電極面CS1上に規定量の試料Sを吐出する。なお、ディスペンサ234は、内部に攪拌機構を備え、吐出前に試料を攪拌することが望ましい。
その後、PC31は、自走車232、アーム233、ディスペンサ234を制御して、退避位置に移動させる。
続いて、PC31は、直動アクチュエータ242を制御して、上側電極22を基準位置まで降下させる。
【0077】
このような構成によれば、試料Sの載置を自動化することができる。
【0078】
なお、同様の構成により、呼び水Wを滴下する機構を構成可能である。この場合、ディスペンサ234は、加水手段としての機能を有する。
さらに、ディスペンサ234と吸収器(プランジャ)を置換することにより、エレクトロポレーション実施後の試料Sを回収する機構を実現可能である。この場合、吸収器(プランジャ)は、回収手段としての機能を有する。
さらに、純水などの洗浄液を収納したディスペンサ234と洗浄液を吸収する吸収器とを配置することにより、電極21、22を洗浄する洗浄機構を構成することも可能である。
また、これらの構成の一部を共用化してもよい。例えば、1台のディスペンサ234に試料Sと洗浄液を収容させ、異なる吐出口からこれらを吐出するようにしてもよい。また、1台の自走車232或いはアーム233に、ディスペンサ234と吸引器を配置するなどしてもよい。
【0079】
また、作業性を向上するため、
図10に示すエレクトロポレーション装置300に示すように、ケース24に開閉扉243を配置してもよい。
【0080】
以上、本発明の実施の形態に係るエレクトロポレーション装置1等とエレクトロポレーション装置1等が実行するエレクトロポレーション方法について説明したが、本願発明はこれらに限定されない。
【0081】
例えば、多数の試料Sのエレクトロポレーションを一度に行うため、支持台23の上に多数の下側電極21、上側電極22及びケース24を設けてもよい。
また、ケース24内部空間の形状は、円柱以外、例えば、四角柱であってもよい。
また、下側電極21と上側電極22とを金で覆う例を説明したが、各電極の電極面とその近傍のみを金で覆ってもよい。また、金以外の物質でコーティングしてもよい。
【0082】
下側電極21と上側電極22の形状も実施の形態で示したものに限定されず、適量の試料Sを空中で保持できるならば、任意の形状であってもよい。
【0083】
例えば、
図11(A)は、金属棒の先端を水平に切断して水平面を形成した形状を有する電極21、22の例を示す。
また、
図11(B)は、金属棒の先端に、円錐台を形成し、その円錐台の底面が水平となるように配置した電極21、22を示す。
また、
図11(C)は、円錐台形状の電極21、22を示す。
このような垂直電極2を用いても、試料Sが挟み込まれる面は、水平であるから、前述した発明の効果が得られる。また、電極面CS1、CS2は、円形に限定されず、楕円形などでもよい。
【0084】
なお、試料Sは表面張力により電極面CS1、CS2の間に保持される。従って、電極面CS1、CS2のエッジは、明確であることが望ましく、面取りなどの処理の無い、鋭いエッジを有することが望ましい。
【実施例】
【0085】
本実施の形態に係るエレクトロポレーション装置1を用いてエレクトロポレーションを実施し、エレクトロポレーションが可能であることを確認する実験を行った。
【0086】
(第1の実験)
第1の実験は、金ナノ粒子(ストレプトアビジン(Streptavidin)と結合、直径60nm)を細胞内へ導入する実験である。
【0087】
HEK293細胞に対し、エレクトロポレーション装置1を用いて、40V(矩形波の電圧、以下同様)、5ms(矩形波の電圧印加時間、以下同様)のパルスを2回、印加した。
図12(A)は細胞の輪郭の位置を示す蛍光画像(顕微鏡画像、以下同様)であり、
図12(B)は(A)に対応する細胞における金ナノ粒子の散乱像である。
図12(A)、(B)はいずれも光学断層像である。これに対し、
図12(C)、(D)は、それぞれ、
図12(A)、(B)の断層像を(A)、(B)の断層面に対して垂直な方向であるZ軸方向に投影したZ軸投影像である。
【0088】
細胞のある断面において、
図12(A)に示すように、細胞の内側の領域に(細胞膜に想到する部分が8の字状に発光している。)、
図12(B)に示すように、複数の明るい点が存在することから、HEK293細胞の内部に金ナノ粒子が導入されたことが理解される。また、このことは、Z軸投影像である
図12(C)、(D)を参照するとより明確に理解される。
図12(A)と
図12(C)、
図12(B)と
図12(D)がそれぞれ対応する。
図12(D)に示すように、細胞の内側の領域に、多数の明るい点が存在することから、HEK293細胞の内部に少なくとも数10個の金ナノ粒子が導入されたことが理解される。
【0089】
(第2の実験)
第2の実験は、タンパク質又はmRNAを細胞内へ導入する実験である。
細胞にはHEK293細胞を、タンパク質にはKusabira-Orange(蛍光タンパク質の一種)を、mRNAには発現すると蛍光タンパク質venusが生成されるものをそれぞれ用いた。
Kusabira-Orangeを導入する実験では、45V、5msのパルスを2回、mRNAを導入する実験では、35V、5msのパルスを2回、印加した。
【0090】
図13(A)はKusabira-Orangeの蛍光画像であり、
図13(B)はvenusの蛍光画像である。
図13(A)及び(B)に示すように、発光している点が複数確認される。これは、Kusabira-Orange又はvenusを発現するmRNAがHEK293細胞内に良好に導入されたことを示している。
【0091】
以上説明した第1の実験及び第2の実験の結果から、エレクトロポレーション装置1を用いて、微少量の試料Sでエレクトロポレーションを実施することができたことが理解される。
【0092】
(第3の実験)
第3の実験は、エレクトロポレーションを実施する際に、垂直電極2を冷却することによる細胞の生存率の変化を調べる実験である。エレクトロポレーション装置1又はエレクトロポレーション装置100を用いてHEK293細胞に40V、5msのパルスを2回印加して、GFP発現プラスミドを導入した。室温そのままで実験した場合(エレクトロポレーション装置1を使用)と、支持台23ごと垂直電極2を氷水(0℃)で冷却しながら実験した場合(エレクトロポレーション装置100を使用)とで比較した。
【0093】
図14(A)及び(B)は、多数の細胞を含む領域を同等の拡大率で撮影した蛍光画像である。GFPは、生存している細胞において発現するため、生存している細胞の存在する領域は蛍光を発し、画像に発光する点として現れる。
冷却しない場合(
図14(A))に比べ、冷却した場合(
図14(B))の方が、蛍光を発している領域が広い。これは、冷却した場合の方が、冷却しない場合に比べて細胞の生存率が高いことを示している。
【0094】
第3の実験の結果から、エレクトロポレーション装置100を用いたエレクトロポレーションの実施により、細胞の生存率が向上することが理解される。