【実施例】
【0262】
実施例1
低親和性抗TfR抗体の生成及び特徴付け
この分野では、トランスフェリン受容体(TfR)の、トランスフェリンを血液脳関門(BBB)を通して輸送する天然の能力を活用して、異種分子を血流から脳内に輸送することができることが理解されている(例えば、国際公開第9502421号を参照されたい)。出願人らは、この系に対する重要な改変、すなわち、抗トランスフェリン受容体抗体(抗TfR)とコンジュゲートした異種分子の脳内への輸送及び脳内での保持が、特定の範囲内で抗TfRのトランスフェリン受容体に対する親和性を低下させることによって実質的に増強されることを以前に開発した(Sci. Transl. Med. 3、84ra43 (2011))。
【0263】
マウスTfRに対する親和性を次第に低下させた抗TfR抗体のパネルを生成し、そのうちの3つ(抗TfR
A、抗TfR
D、及び抗TfR
Eと称される)を、BACE1に特異的な他の抗体腕を用いて二重特異性形式にさらに改変した。単一特異性抗体及び二重特異性抗体をそれぞれ、競合ELISAアッセイにおいてマウスTfRに対するその親和性について評価した。簡単に述べると、アッセイを、PBS中2.5μg/mlの、ヘキサヒスチジンタグを用いてタグを付けた精製muTfR(muTfR−His)でコーティングしたmaxisorpプレート(Neptune、N. J)において、4℃で一晩実施した。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、PBS中Superblockブロッキング緩衝液(Thermo Scientific、Hudson、NH)を使用してブロッキングした。1:3の段階的に力価を決定した二価IgG(抗TfR
A、抗TfR
D、抗TfR
E)又は二重特異性Ab(抗TfR
A/BACE1、抗TfR
D/BACE1、又は抗TfR
E/BACE1)を1nMのビオチン化抗TfR
Aと合わせ、プレートに加え、室温で1時間置いた。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、HRP−ストレプトアビジン(SouthernBiotech、Birmingham)をプレートに加え、室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS/0.05%のTween20で洗浄し、TMB基質(BioFX Laboratories、Owings Mills)を使用してプレートに結合したビオチン化抗TfR
Aを検出した(
図1A)。アッセイにおいて単一特異性抗体又は二重特異性抗体それぞれとマウスTfRの結合について観察されたIC50値が表2に示されている。
【0264】
マウスにおける単回投与後の抗体の分配を以下の通り実施した。全ての試験に6〜8週齢の野生型雌C57B/6マウスを使用した。動物の世話は施設のガイドラインに従った。マウスに、コントロールIgG、抗BACE1又は抗TfR/BACE1バリアントのいずれかを50mg/kgで静脈内注射した。総注射体積は250μLを越えず、必要な場合には抗体をD−PBS(Invitrogen)中に希釈した。示されている時間の後、マウスにおいてD−PBSを毎分2mLの速度で用いて8分間灌流を行った。脳を抽出し、皮質及び海馬を単離し、Complete Mini EDTA−free protease inhibitor cocktail tablet(Roche Diagnostics)を含有するPBS中1%NP−40(Cal−Biochem)中にホモジナイズした。ホモジナイズした脳試料を4℃で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。脳抗体を測定するために上清を単離した。全血を採取した後に、EDTA microtainer tube(BD Diagnostics)中に灌流し、室温で30分静置し、5000×gで10分、遠心沈澱を行った。抗体及びマウスAβ
1−40を測定するために血漿の上層を新しいチューブに移した。
【0265】
マウスの血漿試料中及び脳試料中の全抗体濃度を、抗huFc/抗huFc ELISAを使用して測定した。NUNC 384−well Maxisorp immunoplates(Neptune、NJ)を、Fc断片特異的ポリクローナル抗体であるロバ抗ヒトIgGのF(ab’)
2断片(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)を用いて4℃で一晩コーティングした。プレートを、PBS、0.5%BSAを用いて25℃で1時間ブロッキングした。各抗体(コントロールIgG、抗BACE1、及び抗TfR/BACE1二重特異性バリアント)をそれぞれの抗体濃度を数量化するための標準物質として使用した。プレートを、マイクロプレートウォッシャー(Bio−Tek Instruments、Inc.、Winooski、VT)を使用してPBS、0.05%Tween−20で洗浄し、標準物質及び試料を、0.5%BSA、0.35MのNaCl、0.25%CHAPS、5mMのEDTA、0.05%Tween−20を含有するPBS中に希釈し、15ppmのProclin(登録商標)(Sigma−Aldrich)を加え、25℃で2時間置いた。結合した抗体を、Fc特異的ポリクローナル抗体である、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたF(ab’)
2ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch)を用いて検出した。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(KPL、Inc.、Gaithersburg、MD)を使用して試料を展開し、Multiskan Ascent reader(Thermo Scientific、Hudson、NH)で450nmにおける吸収を測定した。4パラメータ非線形回帰プログラムを使用して標準曲線から濃度を決定した。アッセイの数量化の下限(LLOQ)値は血清では3.12ng/mlであり、脳では12.81ng/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
【0266】
結果が
図1B及び
図1Dに示されている。コントロールIgGと抗BACE1抗体のどちらも、10日間の測定期間にわたって持続した脳への取り込みは限定されたものであったが、それらの血漿中濃度は、経時的な段階的クリアランスにもかかわらず、全ての時点において、試験した分子のいずれよりも高かった。評価した3種の抗TfR/BACE1バリアントの中で、抗TfR
A/BACE1及び抗TfR
D/BACE1の両方で、投薬後1日目に脳において35nMから40nMまでの濃度が示された(コントロールIgGよりも7−8倍高い;
図1D)。しかし、脳内の抗TfR
A/BACE1の濃度は2日目の後に急速に低下し、6日目までにコントロールレベルに戻った。抗TfR
D/BACE1は抗TfR
A/BACE1よりも長く脳内に存続し、脳内濃度はよりゆるやかに低下したが、10日目までに、濃度はコントロールの濃度と一致した。抗TfR
E/BACE1ははるかに穏やかに脳に進入したが(コントロールの2−3倍)、その後の数日にわたる低下は他の2種の抗体バリアントの低下よりもかなり低かった。3種の抗体バリアント全ての血漿中レベルが経時的に低下した(
図1B)。抗TfR
A/BACE1は4日目までに血漿から完全になくなったが、抗TfR
D/BACE1は10日目までに十分になくなり、抗TfR
E/BACE1は、血漿中にコントロールIgG又は抗BACE1のレベルに匹敵するレベルでなお存続した。
【0267】
総合すると、これらの所見は、使用した抗体のうち親和性が最も高いもの(抗TfR
A/BACE1)が最も急速に脳からなくなり、使用した抗体のうち親和性が最も低いもの(抗TfR
E/BACE1)が最も長く脳内に存続したので、抗体のTFRに対する親和性を低下させることにより脳におけるその保持が実際に改善されるという以前の発見と一致した。しかし、脳内に経時的に輸送された抗TfR
D/BACE1の総量は、脳内に経時的に輸送された抗TfR
E/BACE1の総量をはるかに超え、これにより、BBBを通した輸送と脳内での存続の両方を最大にするためには抗TfR
D/BACE1及び抗TfR
E/BACE1の親和性が最適であることが示唆されることもデータから明らかであった。
【0268】
脳内に及び血漿中に輸送された分子の存在及び存続は、潜在的な有効性の尺度の1つにすぎず、それらの区画内の分子の活性がさらに興味深い。したがって、両方の区画内のBACE1酵素活性を、Aβ
1−40(アミロイド前駆体タンパク質(APP)に対するBACE1酵素活性による切断の副生成物)の量を測定することによって評価した。簡単に述べると、上記の通り野生型マウスにおいて抗体による処置及び灌流を実施した。Aβ
1−40測定値については、半脳(hemi−brain)を5Mの塩酸グアニジン緩衝液中にホモジナイズし、試料を室温で3時間回転させた後に、新鮮に添加したアプロチニン(20mg/mL)及びロイペプチン(10mg/mL)を含有するPBS中0.25%カゼイン、5mMのEDTA(pH8.0)中に希釈した(1:10)。希釈したホモジネートを14,000rpmで20分高速回転させ、Aβ
1−40を測定するために上清を単離した。血漿を上記の通り調製した。血漿中及び脳内の総マウスAβ
1−40の濃度を、サンドイッチELISAを使用し、上記のものと同様の手順に従って決定した。Aβ
1−40測定用の半脳を1%NP−40(Cal−Biochem)中にホモジナイズし、室温で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。Aβ
1−40のC末端に特異的なウサギポリクローナル抗体(Millipore、Bedford、MA)をプレート上にコーティングし、ビオチン化抗マウスAβモノクローナル抗体M3.2(Covance、Dedham、MA)を検出のために使用した。アッセイのLLOQ値は、血漿では1.96pg/mlであり、脳では39.1pg/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
【0269】
血漿及び脳についての結果がそれぞれ
図1C及び
図1Eに示されており、これは、示されている時間において各区画内に存在する抗体の量と一致する(
図1B及び
図1Dを参照されたい)。重要なことに、脳において経時的に観察されたAβ
1−40の量は、抗TfR
D/BACE1で処置したマウスにおいて最長の期間にわたって最低であった。
【0270】
実施例2A
抗TfR投薬の網状赤血球に対する影響
予想外に、マウスを単一特異性の抗TfR
A又は抗TfR
Dで処置すると、1mg/kg以上の全ての用量レベルで、二重特異性の抗TfR
A/BACE1又は抗TfR
D/BACE1で処置したマウスでは観察されなかった普通でない急性の臨床徴候が観察された(表3参照)。
特に、単一特異性で処置したマウスでは、処置の5分以内に投薬後嗜眠が示され、マウスは動かなくなり、反応しなくなり(いくつかの動物では時々、痙攣性の動きがあった)、その後、投薬の20−25分後までにだらしなく、体を丸めた外観が生じた。そのような観察された影響は処置後数時間のうちに消滅した。ある特定の単一特異性抗体で処置したマウスでは、時々の血尿、並びに投与の1時間後に末端心臓血液採取が二重特異性で処置した動物からの採取と比較して難しかったことに基づいて、明らかな低血圧があると思われた。マウスの未成熟の赤血球では末梢血流中に存在するためにTfRが発現されることが公知であり(
図2A参照)、マウスにおいて観察された影響は、そのような血液細胞が傷害を受けたとすると説明することができるので、マウスにおいて未成熟の赤血球(網状赤血球)に対する抗体による処置の影響を調査した。
【0271】
マウスに、実施例1に記載のものと同じ手順を使用して、抗TfR
D又は抗TfR
D/BACE1を1mg/kg、5mg/kg、又は50mg/kgで単回静脈内注射した、又はコントロールIgGを50mg/kgで単回静脈内注射し、投与の1時間後に全血試料を取得し、カリウム−EDTAを含有する採取管に入れた。これらの血液試料に関して、Sysmex XT2000iV(Sysmex、Kobe、Japan)を製造者の説明書に従って使用して赤血球及び網状赤血球の数及び指標を決定した。簡単に述べると、Sysmexにより、総網状赤血球並びに未成熟の網状赤血球の画分(蛍光が高い及び中央/中間の網状赤血球の合計)を、蛍光ポリメチン色素を使用して細胞内RNAと結合させ、生じた細胞光散乱特性を測定するフローサイトメトリーによって検出し、分類する。
【0272】
投薬1時間後に、抗TfR
Dにより、試験した全ての用量レベルで、未成熟の網状赤血球レベルが用量にかかわらずほぼ同じ程度に低下した。各抗TfR
D投与量群で処置したマウスは、同様の重症度及び浸透度の急性臨床徴候も示した(
図2参照B)。対照的に、1mg/kgの抗TfR
D/BACE1で処置したマウス由来の血液試料と5mg/kgの抗TfR
D/BACE1で処置したマウス由来の血液試料は、コントロールIgGで処置した試料のものと同様の未成熟の網状赤血球の画分を有した。50mg/kgの抗TfR
D/BACE1で処置したマウスは、網状赤血球の顕著な低下を示したが(コントロール量の約50%)(
図2B)、この低下にはいかなる急性臨床徴候も伴わなかった。したがって、二重特異性抗TfR
Dを含有する抗体の網状赤血球レベルに対する影響は、単一特異性抗TfR
Dの影響よりも小さく、急性の有害な臨床徴候は引き出されなかった。
【0273】
TfRに対する親和性が異なる第2の二重特異性抗体を含めて実験を繰り返した。マウスに、実施例1に記載のものと同じ手順を使用して、抗TfR
A/BACE1又は抗TfR
D/BACE1を5mg/kg、25mg/kg又は50mg/kgで単回静脈内注射した、又はコントロールIgGを50mg/kgで単回静脈内注射し、投薬の24時間後及び7日後に血液試料を取得した。全血中の網状赤血球数を上記の通り測定した。
図2Cに結果が示されている。投薬の24時間後に、抗TfR
A/BACE1で処置したマウス試料の全てで、同様の総網状赤血球数の顕著な減少が示された。25mg/kgの抗TfR
D/BACE1で処置した試料及び50mg/kgの抗TfR
D/BACE1で処置した試料では、抗TfR
A/BACE1で処置した試料と同様に少ない網状赤血球数が示された。しかし、5mg/kgの抗TfR
D/BACE1で処置した試料で示された網状赤血球数の減少は、投薬の24時間後にIgGコントロール試料と比較してそれほど大きくなかった。投薬の7日後までに、全群で正常なレベルの網状赤血球が示され(
図2C)、これにより、コントロール量と比較して網状赤血球レベルの持続的な低下が示された(およそ50%)50mg/kgの抗TfR
D/BACE1試料を例外として、最初の網状赤血球枯渇から回復したことが示唆された。したがって、最も低い試験用量の抗TfR
D/BACE1のみは網状赤血球に対して中程度の影響を有したが、他の試験用量の全てでは、投薬の24時間後に網状赤血球のほぼ完全な喪失が導かれ、これにより、抗体の親和性を低下させること(抗TfR
Aに対して抗TfR
D)及び用量を低下させることにより、網状赤血球の喪失に関連する安全性に関する懸念が弱まることが示された。しかし、投薬の7日後までに、最も高い用量の抗TfR
D/BACE1のみは網状赤血球レベルに対していかなる測定可能な影響も有さなかったが、試験した他の用量の全てでは、網状赤血球数がIgGコントロールマウスのレベルと同様のレベルまで回復した。特に、投薬の7日後における抗体のTfRに対する絶対的な親和性は、より長い時点についての血流内での抗体の存続ほど重要ではなかった。抗TfR
A/BACE1のTfRに対する親和性がはるかに高いにもかかわらず(表A)、高用量の抗TfR
A/BACE1で処置したマウスでは、7日目までに赤血球数の回復が示され、これは、この抗体の循環からのクリアランスが抗TfR
D/BACE1と比較して速いことと対応した(実施例1、
図1Bにおいて見られる通り)。
【0274】
網状赤血球枯渇において用量反応が観察されたので、種々の用量レベルと、脳内のAbetaを低下させる関連する能力を相関させることが可能かどうかを決定するために実験を実施した。簡単に述べると、全ての試験に6−8週齢の野生型雌C57B/6マウスを使用した。マウスに、コントロールIgG、又は抗TfR/BACE1のいずれかを50mg/kgで静脈内注射した。総注射体積は250μLを越えず、必要な場合には抗体をD−PBS(Invitrogen)中に希釈した。示されている時間の後、マウスにおいてD−PBSを毎分2mLの速度で用いて8分間灌流を行った。脳を抽出し、皮質及び海馬を単離し、Complete Mini EDTA−free protease inhibitor cocktail tablet(Roche Doagnostics)を含有するPBS中1%NP−40(Cal−Biochem)中にホモジナイズした。ホモジナイズした脳試料を4℃で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。脳抗体を測定するために上清を単離した。全血を採取した後に、EDTA microtainer tube(BD Diagnostics)中に灌流し、室温で30分置き、5000×gで10分、遠心沈澱を行った。抗体及びマウスAbeta
1−40を測定するために血漿の上層を新しいチューブに移した。
【0275】
マウスの血漿試料中及び脳試料中の全抗体濃度を、抗Fc/抗huFc ELISAを使用して測定した。NUNC 384well Maxisorp immunoplates(Neptune、NJ)を、Fc断片特異的ポリクローナル抗体であるロバ抗ヒトIgGのF(ab’)
2断片(Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)を用いて4℃で一晩コーティングした。プレートを、PBS、0.5%BSAを用いて25℃で1時間ブロッキングした。各抗体をそれぞれの抗体濃度を数量化するための標準物質として使用した。プレートを、マイクロプレートウォッシャー(Bio−Tek Instruments Inc.、Winooski、VT)を使用してPBS、0.05%Tween−20で洗浄し、標準物質及び試料を、0.5%BSA、0.35MのNaCl、0.25%CHAPS、5mMのEDTA、0.05%Tween−20を含有するPBS中に希釈し、15ppmのProclinを加えて25℃で2時間置いた。結合した抗体を、Fc特異的ポリクローナル抗体である、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたF(ab’)
2ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch)を用いて検出し、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(KPL、Inc.、Gaithersburg、MD)で展開し、Multiskan Ascent reader(Thermo Scientific、Hudson、NH)で450nmにおける吸収を測定した。4パラメータ非線形回帰プログラムを使用して標準曲線から濃度を決定した。アッセイの数量化の下限(LLOQ)値は血清では3.12ng/mlであり、脳では12.81ng/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
【0276】
脳内及び血漿中のAbeta
1−40も検出した。簡単に述べると、マウスを、抗体で処置し、上記の方法に従って灌流を行った。Abeta
1−40を測定するために、半脳を5Mの塩酸グアニジン緩衝液中にホモジナイズし、試料を室温で3時間回転させた後に、新鮮に添加したアプロチニン(20mg/mL)及びロイペプチン(10mg/ml)を含有するPBS中0.25%カゼイン、5mMのEDTA(pH8.0)中に希釈した(1:10)。希釈したホモジネートを14,000rpmで20分高速回転させ、Abeta
1−40を測定するために上清を単離した。血漿を上記の通り調製した。血漿中及び脳内の総マウスAbeta
1−40濃度を、サンドイッチELISAを使用し、上記のものと同様の手順に従って決定した。Abeta
1−40のC末端に特異的なウサギポリクローナル抗体(Millipore、Bedford、MA)をプレート上にコーティングし、ビオチン化抗マウスAbetaモノクローナル抗体M3.2(Covance、Dedham、MA)を検出のために使用した。アッセイのLLOQ値は血漿では1.96pg/mlであり、脳では39.1pg/gであった。実験群間の差異の統計解析を、対応のない両側t検定を使用して実施した。
【0277】
抗TfR
D/BACE1については、25mg/kgと50mg/kgのどちらの用量レベルにおいても脳内Abetaのロバスト及び持続的な減少が観察されたが(
図2D)、抗TfR
A/BACE1では、3つの用量レベル全てにおいて脳内Abetaのロバストであるが急性の減少が示された(
図2E)。これらのデータは、末梢及び脳のどちらで観察された化合物の薬物動態とも一致した(
図2F−2H)。これらのデータから、これらの試験では、25mg/kgの投与量レベルの抗TfR
D/BACE1が、脳内Abetaレベルを有意に低下させるために十分であることが明らかになった。
【0278】
抗TfR抗体種による網状赤血球枯渇は、エフェクター機能/抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、補体依存性細胞毒性(CDC)、直接標的媒介性溶解/アポトーシス、及び/又はマクロファージによるオプソニン化網状赤血球の食作用を含めた種々の異なる天然のプロセスに起因し得る。抗TfR抗体を投与した後に観察された網状赤血球枯渇に関与する機構をよりよく理解するために、一連の実験を行った。
【0279】
実施例2B
エフェクター機能を調節することの影響
TfRに対する親和性及び結合価が異なることに加えて、前述の実験で使用した単一特異性抗TfR抗体及び二重特異性抗TfR抗体は、それらのエフェクター機能の程度も異なった。単一特異性抗TfR抗体は、CHO細胞において産生させたものであり、哺乳動物型のグリコシル化及び野生型エフェクター機能を有した。二重特異性抗TfR/BACE1抗体は、当技術分野で周知の以下の方法の1つ又は複数を使用してFcγ受容体と相互作用する能力を著しく低下させた又は排除したものである:Fc領域に変異N297G又はN297Aが存在することに起因してグリコシル化を抑止すること(Atwalら、Sci. Transl. Med. 3、84ra43 (2011);Fares Al-Ejehら、Clin. Cancer Res. (2007) 13: 5519s-5527s)、抗体Fc領域を、エフェクター機能が完全に抑止されることが既知である、265位におけるアスパラギン酸からアラニンへの変異(D265A)を含有するように改変すること(例えば、米国特許7332581号を参照されたい)、又は抗体を、大腸菌に産生させることなどの、野生型哺乳動物グリコシル化が妨げられる様式で作製すること。
【0280】
実施例2Aにおいて実施したマウス試験を、これらのFc改変抗体を用いて、及びFcγ受容体又は補体C3のいずれかを欠く異なるマウス系統においても繰り返して、それぞれエフェクターに駆動されるADCC又はCDCを含めた網状赤血球枯渇の潜在的な機構を評価した。全血試料を、抗体を静脈内注射した24時間後の総網状赤血球数について評価した。第1の実験では、エフェクター機能を欠く単一特異性抗TfR
Dを1mg/kg又は25mg/kgで野生型マウスに投与することには、完全なエフェクター機能を有する抗TfR
D抗体と同じ網状赤血球数に対する枯渇作用があった(
図3Aと
図2Bを比較されたい)。しかし、エフェクターを欠く抗TfR
D抗体で処置したマウスでは、エフェクター陽性抗TfR
D抗体で処置したマウスとは著しく異なり、急性臨床徴候は観察されなかった(実施例2A)。同様に、Fcγ受容体を欠く(エフェクター機能によって誘発され得るADCC機構を排除するため)マウスにエフェクター陽性抗TfR
Dを投与した場合、25mg/kgを投薬した後に網状赤血球レベルはゼロ近くまで低下したが、急性臨床徴候は観察されなかった(
図3B)。
【0281】
Fcγノックアウトマウスにおいて、エフェクター機能を欠く二重特異性抗TfR
D/BACE1 D265A抗体の網状赤血球レベルに対する影響も評価した(
図3B)。マウスにおいて抗体のエフェクター機能が完全に抑止されており、及びFcγ受容体が存在しなくても、25mg/kgの用量レベルで投与した際の網状赤血球枯渇は軽減されなかった。野生型マウスにおいてエフェクターを欠く二重特異性抗TfR/BACE1抗体を使用した他の実験と一致して、処置したFcγノックアウトマウスにおいて有害な臨床徴候は観察されなかった。
【0282】
エフェクター機能が存在することが急性臨床症状の駆動に十分であるかどうかを決定するために、及びエフェクター機能の網状赤血球枯渇に対する寄与をさらに特徴付けるために、野生型マウスにおいて実験を繰り返し、低用量(5mg/kg)のエフェクターを欠く抗TfR
D/BACE1 D265Aと、相当する用量の完全なエフェクター陽性抗TfR
D/BACE1を比較した(
図3C)。エフェクター機能を二重特異性抗体に導入すると、急性臨床徴候が観察された。さらに、エフェクター陽性抗体を用いると、エフェクターを欠く型の抗体と比較して、低用量レベルでロバストな網状赤血球枯渇が観察された(
図3C及び
図2C)。この総合データから、エフェクター機能は網状赤血球枯渇の駆動に必要ではないが、この枯渇に、特に低用量レベルで明白に寄与する。重要なことに、マウスにおいて観察された急性臨床症状は抗体のエフェクターの状態と関連づけられ、したがって、エフェクターを欠く抗体又はFcγノックアウトマウスのどちらによってもこれらの症状が十分に軽減される。
【0283】
補体カスケードが臨床症状又は網状赤血球の喪失のいずれかに関与したかどうかを決定するために、補体C3が欠損したマウス(すなわち、正常な補体カスケードを欠くマウス)において実験を再度実施した。
図3Dに示されている通り、エフェクター陽性抗TfR
Aにより、これらのマウスにおいて重度な網状赤血球枯渇とロバストな急性臨床症状の両方が引き起こされ、これにより、補体C3及び関連する補体カスケードが、投与した抗体が完全なエフェクター機能を有する場合に観察される作用のいずれの駆動においても主要な役割を果たしてはいないことが示された。完全なエフェクター機能の不在下で同じ結果が得られるかどうかを試験するために、C3ノックアウトマウスにエフェクターを欠く抗TfRD/BACE1抗体を投薬して、補体によって残りの網状赤血球の枯渇が媒介されるかどうかを決定した。
図3Eに結果が示されている。実際に、残りの網状赤血球の枯渇は、C3ノックアウトマウスにエフェクターを欠く抗TfR二重特異性抗体を高い治療量レベル(50mg/kg)で投薬することでエフェクター機能と補体カスケードの両方が排除されている場合、レスキューされる。したがって、補体は、マウスにおいて、エフェクターを欠く抗TfR抗体を投与した後の網状赤血球枯渇の機構としての機能を果たすと思われる。
【0284】
in vitroにおける補体依存性細胞毒性(CDC)アッセイも実施した。簡単に述べると、標的細胞として初代マウス骨髄細胞又はマウス赤白血病リンパ芽球(HPA Cultures、UK)、及びウサギ血清に由来する補体(EMD Chemicals、Gibbstown NJ)を使用してCDCアッセイを実施した。Vi−Cell(商標)(Beckman Coulter、Fullerton、CA)によって細胞を計数し、生存能力を決定した。抗TfR
A/BACE1抗体、抗TfR
A抗体、陰性コントロール抗体又は陽性コントロール抗体(それぞれIgG又は抗H2Kb)をアッセイ培地(20mMのHEPES、pH7.2及び1%FBSを補充したRPMI−1640培地)中に1:4に段階的に希釈し、白色の平底96ウェル組織培養プレート(Costar;Corning、Acton MA)に分配した。アッセイ培地中に1:3に希釈した血清補体及び標的細胞(ウェル当たり細胞2×10
5個)を加えた後、プレートを5%CO
2、37℃で2時間インキュベートした。次いでプレートを絶えず振盪しながら室温で10分間放置した。細胞溶解の程度を、SpectroMax(商標)M5プレートリーダーを用いて発光強度を測定することによって数量化した。試料希釈物の発光値を抗体濃度に対してプロットし、GraphPad(商標)(GraphPad Software Inc.)を使用して用量反応曲線を4パラメータモデルにあてはめた。
【0285】
興味深いことに、マウス細胞を血清補体の存在下で単一特異性のエフェクター機能のために適格な抗TfR
Aによって処置することによっても、エフェクターを欠く二重特異性抗TfR
A/BACE1によって処置することによっても、細胞の補体媒介性溶解は生じなかったが、抗H2Kb陽性コントロールでは有意な細胞溶解が示された(
図4A)。特に、抗体のエフェクター活性が異なることは、CDC活性を引き出すそれらの能力に影響しないと思われた。1つの非限定的な説明は、抗TfRのF(ab’)
2断片ではインタクトであるに違いない機構である、in vivoにおいて、補体により、脾臓マクロファージ及び肝臓マクロファージによる循環している網状赤血球のオプソニン化を介して網状赤血球枯渇が媒介され得ることである(Garratty (2008)、Transfusion Med. 18 (6): 321-334;Mantovaniら、(1972) J. Exp. Med. 135: 780-792;Molinaら、(2002) Blood 100 (13): 4544-4549)。
【0286】
以前に記載されている、エフェクター機能に媒介される抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、急性臨床症状、及び網状赤血球枯渇の間の関連を支持するin vivoにおける結果を確認するために、同様のin vitro実験も行った。エフェクター細胞として健康なドナーから新鮮に単離したPBMC、及び標的細胞として初代マウス骨髄細胞又はマウス赤白血病リンパ芽球(HPA Cultures、UK)を使用してADCCアッセイを行った。FcγRIIIAの残基158位におけるアロタイプの差異に由来するドナーの変動を最小限にするために、血液ドナーを、ヘテロ接合性FcγRIIIA遺伝子型(F/V158)を有するドナーに限定した。簡単に述べると、PBMCを、Uni−Sep blood separation tube(Accurate Chemical & Scientific;Westbury、NY)を使用して密度勾配遠心分離によって単離した。標的細胞を1.4mMのカルセインAM(Molecule Probes)の溶液で前標識し、96ウェルの丸底プレート(BD Biosciences;Mississauga、Ontario;Canada)にウェル当たり4×10
4個で播種した。抗TfR/BACE1抗体、抗TfR抗体及びコントロール抗体の段階希釈物を、標的細胞を含有するプレートに加え、その後、37℃、5%二酸化炭素で30分インキュベートしてオプソニン化させた。抗体の最終濃度は、4倍段階希釈後に1,000ng/mLから0.004ng/mLまでにわたった。インキュベートした後、アッセイ培地100μL中PBMCエフェクター細胞1×10
6個を各ウェルに加えてエフェクター細胞と標的細胞の比を25:1にし、プレートをさらに3時間インキュベートした。インキュベートの最後にプレートを遠心分離し、上清における蛍光シグナルを、SpectraMax(商標)M5マイクロプレートリーダーを使用し、励起485nm及び発光520nmで測定した。標的細胞のみを含有するウェルのシグナルにより、標識した細胞からのカルセインAMの自発性放出が示されたが(自発性放出)、トリトン(商標)X−100を用いて溶解させた標的細胞を含有するウェルでは、入手可能な最大のシグナルがもたらされた(最大の溶解)。抗体非依存性細胞傷害性(AICC)を、標的細胞及びエフェクター細胞を含有するウェルにおいて抗体を添加せずに測定した。特異的なADCCの程度を以下の通り算出した:
%ADCC=100×(試料シグナル−AICC)÷(最大の溶解−自発性放出)
試料希釈物のADCC値を抗体濃度に対してプロットし、GraphPad(商標)(GraphPad Software Inc.)を使用して用量反応曲線を4パラメータモデルにあてはめた。
【0287】
このアッセイで使用した抗TfR
Aはエフェクター機能を有したが、このアッセイで使用した抗TfR
A/BACE1はエフェクター機能を有さなかった。
図4Bに示されている通り、エフェクター機能を有する抗体ではADCCが誘導されたが、エフェクター機能を欠く抗TfR
A/BACE1抗体では誘導されず、前のマウス実験の結果と相関しなかった。これらのデータにより、処置したマウスにおける急性臨床徴候が、循環している網状赤血球と結合するエフェクター陽性抗体によって能動的に引き出されるADCCに起因すること、及びエフェクターに駆動されるADCCも抗体を投与した後の網状赤血球枯渇に寄与する可能性があるという観念がさらに支持される(
図3C)。
【0288】
実施例2C
Fc又はBACE1の結合の調節の影響
Fc腕及びBACE1腕の役割を、網状赤血球枯渇の媒介におけるそれらの潜在的な関与についてそれぞれ別々に調査した。完全なエフェクター機能及び正常なグリコシル化を有する野生型IgG1のFc領域を有する単一特異性抗TfR及び二重特異性抗TfRを生成した。簡単に述べると、記載されている通り、TfR(ホール)半抗体及びIgG(ノブ)半抗体をCHOにおいて別々に発現させ、in vitroでアニーリングさせた(Carter, P. (2001) J. Immunol. Methods 248、7-15;Ridgway, J. B.、Presta, L. G.、及びCarter, P. (1996) Protein Eng. 9、617-621;Merchant, A. M.、Zhu, Z.、Yuan, J. Q.、Goddard, A.、Adams, C. W.、Presta, L. G.、及びCarter, P. (1998) Nat. Biotechnol. 16、677-681;Atwell, S.、Ridgway, J. B.、Wells, J. A.、及びCarter, P. (1997) J. Mol. Biol. 270、26-35)。抗TfR IgG抗体、抗TfR/IgG抗体又は抗TfR/BACE1抗体から、固定化ペプシンで消化することによってF(ab’)
2断片を生成した。抗体を100mMの酢酸ナトリウム、pH4.2中で再構成し、固定化ペプシン樹脂(IgG1mg当たり固定ゲル0.3mL)と一緒に37℃で一晩、回転させながらインキュベートした。インキュベートした後、試料を遠心分離して、固定化ペプシンをF(ab’)
2消化混合物から分離した。次いで、強力な陽イオン交換樹脂であるSPセファロース(1mLのHiTrap(商標)カラム(Supelco))を使用してF(ab’)
2断片を精製した。試料を50mMのNaOAc、pH5.0にローディングし、20カラム体積にわたって0−0.5MのNaCl勾配を用いて溶出し、 その後、試料をPBS、pH7.4に対して透析した。これらの抗体及びF(ab’)
2を用い、上記と同じ手順で、静脈内25mg/kg用量の単一特異性F(ab’)
2又は静脈内50mg/kg用量の二重特異性F(ab’)
2若しくはコントロールF(ab’)
2若しくは抗体を使用してマウス実験を実施した。全血試料を、抗体/F(ab’)
2を静脈内注射した24時間後の総網状赤血球数について評価した。結果が
図5A−5Cに示されている。
【0289】
抗TfR
D F(ab’)
2を投与することには、抗TfR
D抗体を投与することと非常に類似した網状赤血球枯渇作用があり(
図5Aと
図3A及び
図3Bを比較されたい)、これにより、評価した用量レベルにおいて観察された網状赤血球枯渇に抗体のFc部分は必要ではないことが示された。二重特異性F(ab’)
2分子では全長の二重特異性IgG抗体と比較して網状赤血球枯渇のわずかな減弱が示されたが(
図5Bと
図2Cを比較されたい)、これは、一般的にF(ab’)
2のクリアランスがIgGと比較して速く、(Covellら、(1986) Cancer Res. 46: 3969-3978)、それにより、投薬後24時間の間隔にわたる抗体の曝露が全体的に減少することに起因する可能性が最も高いことに留意するべきである。それにでもなお、二重特異性F(ab’)
2抗体を投与した後に観察された網状赤血球枯渇により、網状赤血球枯渇が生じることにFc領域は必要ではないという結論がさらに強調される。BACE1腕を欠く二重特異性抗体(抗TfR
D/コントロールIgG)により、網状赤血球が抗TfR
D/BACE1と同じ程度に枯渇し(
図5C)、これにより、BACE1腕も網状赤血球排除に寄与しないことが実証された。
【0290】
実施例3
結合親和性のさらなる操作
いくらかの上記の結果により、観察される網状赤血球枯渇の程度に対して親和性及び用量成分が存在することが示唆された(
図2C)。親和性及び用量が網状赤血球枯渇にどのように影響を及ぼすかをよりよく理解するために、実施例2において実施したマウスへの投薬実験を、2つの異なる用量レベル(25mg/kg及び50mg/kg)の低親和性抗TfR抗体、具体的には抗TfR
E/BACE1を追加して繰り返した。抗TfR
Eでは、試験したいずれの用量においても網状赤血球への影響は基本的になかったが(
図6A)、同様の用量の抗TfR
A/BACE1又は抗TfR
D/BACE1では、網状赤血球が枯渇した。実施例1において考察されている結果から、抗TfR
E/BACE1は抗TfR
D/BACE1よりも血漿曝露の持続及び脳内での存続は良好であるが、血液脳関門を通るロバストな輸送は劣ることが観察された。抗TfR
D/BACE1投与により網状赤血球枯渇が生じるが、抗TfR
E/BACE1投与では網状赤血球枯渇が生じないことを考慮して、TfRに対して抗TfR
Dの親和性と抗TfR
Eの親和性の間の親和性を有するバリアント抗TfRを生成して、BBB輸送及び脳内での存続を犠牲にすることなく抗体の安全性プロファイルを改善することができるかどうかを確かめた。
【0291】
簡単に述べると、標準の変異誘発技法を用い、部位特異的変異誘発を使用して、それぞれ抗TfR
Dバリアント及び抗TfR
Bバリアントを表す2つの点変異を組み合わせて抗TfR
Dbと称される単一の抗体にした。同様に、それぞれ抗TfR
Dバリアント及び抗TfR
Cバリアントを表す2つの点変異を導入して抗TfR
Dcと称される単一の抗体にした。どちらの抗体も、実施例2Cに記載のノブ・アンド・ホール(knob and hole)技術を使用して抗BACE1を有する二重特異性形式に作出した。どちらの抗体もTfRに対する親和性は抗TfR
D抗体の親和性と抗TfR
E抗体の親和性の間であり、抗TfR
Db/BACE1抗体のTfRに対する親和性は抗TfR
Dc/BACE1抗体のTfRに対する親和性のおよそ3倍であった。これらの新しいバリアントを用いてマウス投与/網状赤血球枯渇実験を繰り返した。
図6Bに結果が示されている。どちらのバリアントでも、網状赤血球枯渇が同じ用量レベルの抗TfR
D/BACE1抗体で観察される網状赤血球枯渇よりも著しく改善され(すなわち、減少)、投薬の24時間後の網状赤血球レベルがコントロールで処置したマウスの網状赤血球レベルに近づいたことが実証された。予測通り、新しいバリアント抗体のどちらも、経時的な血漿中抗体濃度、脳内抗体濃度(最大値と経時的な低下の両方)、及びAβ
1−40の減少は、同じ用量レベルで投与した場合の抗TfR
D/BACE1及び抗TfR
E/BACE1の経時的な血漿中抗体濃度、脳内抗体濃度(最大値と経時的な低下の両方)、及びAβ
1−40の減少の間であった。
【0292】
血液脳関門におけるTfRの発現に対する親和性及び用量の影響も調査した。マウスに対して抗TfR
A/BACE1又は抗TfR
D/BACE1を5mg/kg、25mg/kg又は50mg/kgで単回投与する処置を行い、投薬の4日後に脳におけるTfR発現をウエスタンブロットによって評価した。抗体で処置したマウス由来の脳にPBSを灌流した後に抽出し、単離した皮質及び海馬を、Complete Mini EDTA−free protease inhibitor tables(Roche Diagnostics)を含有するPBS中1%NP−40(Calbiochem)中にホモジナイズした。ホモジナイズした脳を4℃で1時間回転させた後に、14,000rpmで20分高速回転させた。上清を単離し、等濃度のタンパク質を4−12%Novex Bis−Tris gels(Invitrogen)によって分離した。膜を抗TfR抗体(Invitrogen)及び抗アクチン抗体(Abcam)と一緒に4℃で一晩インキュベートし、その後、IRDye(登録商標)(Li−Cor Biosciences)二次抗体と一緒に室温で2時間インキュベートした。免疫ブロットを画像化し、バンドを、Odyssey Infrared Imaging System(商標)software(Li−Cor Biosciences、Lincoln、NE)を使用してデンシトメトリーによって数量化した。投薬の4日後に、TfR発現は抗TfR
D/BACE1で処理した試料3つ全てにおいて同様であったが、高用量レベルではコントロールレベルよりもわずかに低下した(
図6C)。対照的に、漸増用量の抗TfR
A/BACE1抗体により、投薬の4日後に血液脳関門におけるTfRの発現が顕著に減少した。したがって、抗TfR抗体の親和性を低下させることにより、観察される脳内TfR発現の用量依存的な低下も改善され、これは抗体の全体的な安全性プロファイルの改善にさらに寄与する可能性がある。
【0293】
実施例4
BBB浸透性の評価
異種分子を脳内に輸送するために血液脳関門輸送受容体を利用することの懸念は、BBB自体が損なわれる可能性があることである。したがって、抗TfRを投薬した際のBBBの抗体に対する浸透性を調査した。野生型マウスに、コントロールIgGを50mg/kgで、又は示されている同時注射する抗体の組合せのそれぞれを25mg/kgで静脈内投与した。静脈内注射した24時間後の平均の脳内への抗体の取り込みを、一般的なヒト−Fc ELISAを実施例1に従って使用し、又は抗BACE1特異的ELISAを実施例1に記載のものと同様の手順に従って使用して評価した。BACE1細胞外ドメインをコートタンパク質として使用し、Fc特異的ポリクローナル抗体である、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたF(ab’)
2ヤギ抗ヒトIgGを用いて検出を実施した。このアッセイのLLOQ値は抗BACE1についてはおよそ2.56ng/gであり、抗TfR
D/BACE1については12.8ng/gであった。実施例1に記載のものと同じ手順を使用して投与後の脳内Aβ
1−40レベルを測定した。
【0294】
結果が
図7A−7Cに示されている。脳抗体曝露はコントロールIgG+抗TfR
D/BACE1で処置したマウスで最も高かったが、抗TfR
Dを含有する抗体の組合せで処置したマウスでも相当なものであった(
図7A)。これは、低親和性の二重特異性形態の抗TfR
Dが脳内に取り込まれ、高親和性の単一特異性形態の抗TfR
Dよりも長く存続するという点で、実施例1の結果と相関する。抗TfR抗体と同時投与した抗体は脳内に相当量では取り込まれず、脳内で相当量が観察された抗BACE1は抗TfR
Dと直接コンジュゲートしたものだけであった(
図7B)。同様に、脳において観察された抗BACE1活性は、抗TfR
D/BACE1で処置したマウスにおけるものだけであった(
図7C)。総合すると、これらのデータにより、抗体に対する血液脳関門浸透性は抗TfR処置の影響を受けないことが示される。
【0295】
実施例5
網状赤血球レベルに対する多数回投薬の影響
前述の試験は、抗TfR抗体の単回投薬並びに網状赤血球レベルに対して生じる影響及び同時に生じる急性臨床症状に焦点を合わせた。より長い期間にわたって複数回投薬した後に異なる影響が観察されるかどうかを確認するために、さらなる試験を行った。単回の静脈内投薬の代わりに、マウスに、25mg/kgの抗TfR
D/BACE1又はIgGコントロールを、1週間に1回、合計4週間にわたって静脈内投薬したこと以外は前述の実施例に記載のものと同じプロトコールを使用した。2回目の注射の1日後、4日後又は7日後及び4回目の注射の1日後、4日後又は7日後に組織/血液を採取し、上記のプロトコールを使用して処理した。さらに、血清試料について、直接ビリルビン、血清鉄、総鉄結合能及び不飽和鉄結合能を、Integra(商標)400(Roche、Indianapolis、IN)を製造者の説明書に従って使用して比色定量アッセイによって決定した。各時点及び各処置群についてマウス6匹を使用した。
【0296】
抗TfR
D/BACE1の血清中抗体濃度は、2回又は4回投薬した後、経時的に同様であり、これにより、投薬を繰り返した後のマウス血流におけるクリアランスは実質的に異ならないことが示唆された(
図8A)。しかし、4回目の投薬の4日後に、2回目の投薬後の同じ時間と比較して全体的な抗体曝露のわずかな減少が明らかであり、これにより、投与したヒトIgG抗体に対するマウス抗薬物抗体(ADA)が出現したことが示唆された。血清中抗体濃度と同様に、脳内抗体濃度も4回目の投薬の4日後に低下したが、脳内での経時的な抗体の存続は2回目の投薬後に観察されたものが再現された(
図8B)。Abeta1−40の血漿中レベル(
図8C)及び脳内レベル(
図8D)は、2回又は4回投薬した後に血清中及び脳内に存在することが観察された抗TfR
D/BACE1の量とよく相関した。
【0297】
重要なことに、複数回投薬の状況で網状赤血球毒性の増悪は観察されなかった。
図8Eに示されている通り、絶対的な網状赤血球数は、2回目の投薬の1日後から4回目の投薬の7日後までに劇的に改善された(値がコントロールレベルに戻った又はそれを超えた)。4週間の時点で赤血球質量の減少又は血清鉄及び総鉄結合能(血清トランスフェリンの代替パラメータ)の変化の証拠はなかった。評価した組織のいずれにおいても病理組織的変化又は染色可能な鉄レベルの変更の証拠もなかった。理論に束縛されることなく、最初の投薬によって引き出され、投薬期間全体を通して持続する骨髄再生応答の増強が、4回目の投薬の後に観察された全体的な網状赤血球の減少の好転に関与する可能性があることが提唱される。さらに、ADAが存在する疑いがあることにより、投薬を繰り返すと全体的な循環している抗体のレベルがさらに低下し、これも4週目に観察された網状赤血球枯渇の緩和に寄与する。最後に、TfRの脳での発現は、4回目の投薬の1日後、4日後、又は7日後に、抗TfR
D/BACE1で処置したマウスとコントロールIgGで処置したマウスで異ならなかった(
図8F)。
【0298】
実施例6
血液中及び骨髄中の赤血球前駆細胞に対するエフェクターを含有する二重特異性及びエフェクターを欠く二重特異性の影響
骨髄中の赤血球前駆細胞集団に対する抗体投薬の影響を解明するために追加的な実験を実施した。まず、抗TfR/BACE1を投薬した後の網状赤血球の喪失の時間経過を調査するために、野生型マウスに、コントロールIgG又はエフェクター機能を欠く抗TfR
D/BACE1を50mg/kgで、滅菌PBS中200μLの単回のボーラスとして静脈内注射した(群当たりn=6)1時間後、4時間後、16時間後、及び24時間後に血液及び骨髄を単離した。示されている投薬後の時点で動物から血液及び骨髄を回収した。イソフルラン麻酔後に眼窩出血を血液抽出のために使用し、片側の大腿骨から骨髄を回収し、単一細胞懸濁液を調製した。次いで、細胞を70ミクロンの細胞濾過器で濾過した。細胞を洗浄し、設定した体積のPBSに再懸濁させた。固定体積の細胞懸濁液を固定濃度のFITC標識蛍光ビーズに加え、フローサイトメーターで分析し、試料当たり5000のビーズ事象を収集して細胞数を得た。赤血球集団の定量的分析をフローサイトメトリーによって決定した。血液及び骨髄のどちらにおいても、別個の赤血球系細胞の集団をそれらのTer119 マーカー(マウス成熟赤血球及び赤血球前駆体細胞でのみ発現されることが決定されているマーカー)の発現、TfR発現、及び側方散乱プロファイルによってゲーティングした(以前にPanigaら、"Expression of Prion Protein in Mouse Erythroid Progenitors and Differentiating Murine Erythroleukemia Cells." PLoS One 6、9 (2011);
図9A及び9Bに記載されている通り)。簡単に述べると、試料を抗マウスTer119−PE(eBioscience)及びビオチン化抗マウスTfRと一緒に、その後ストレプトアビジン−eFluor450(eBioscience)と一緒に氷上で20分インキュベートした。試料を0.5%BSA、2mMのEDTAを含有するPBSで洗浄し、BD LSR Fortessa多色フローサイトメーターに流し、FlowJo software(Ashland、OR)を使用して解析した。
【0299】
エフェクター機能を欠く抗TfR
D/BACE1を用いた処置により、コントロールIgGと比較して血液中の赤血球の総数は変更されなかったが(
図9C)、それにもかかわらず、血液中に循環しているTfR発現網状赤血球は急速及び著しく減少した(
図9D)。血液での所見とは対照的に、エフェクターを欠く抗TfR
D/BACE1は、骨髄中の、TfR高発現集団(EryA集団及びEryB集団)(
図10B−C)、並びにTfR陰性成熟赤血球(EryC集団)(
図10D)を含めた赤血球前駆細胞集団のいずれに対しても作用しなかった(
図10A−C)。まとめると、これらの結果により、単回投薬後に、エフェクターを欠く抗TfR
D/BACE1では、マウスの血液中のTfR発現網状赤血球のみが枯渇し、骨髄中の他の赤血球系細胞の亜集団は影響を受けないことが実証された。
【0300】
血液中の赤血球亜集団及び骨髄中の赤血球亜集団に対する完全なエフェクター機能抗体の影響を調査するために、並びに親和性が赤血球系細胞の枯渇において役割を果たすかどうかを決定するために、野生型マウスに、上記のものと同じ注射及び試料採取プロセスに従って、25mg/kgの抗TfR
A/BACE1(Fc−)、抗TfR
D/BACE1(Fc−)、抗TfR
D/BACE1(Fc+)、又はコントロールIgG(「Fc−」は変異D265A及びN297Gが存在すること又はグリコシル化されていないことに起因してエフェクターを欠く抗体を示し、「Fc+」は野生型エフェクター機能を有する抗体を示す)を単回IV投薬した。コントロールIgGと比較して、抗体投薬後の循環血液中の成熟赤血球の総数に対して、エフェクター機能が存在することによる影響も、TfRに対する親和性による影響もなかった(
図11A)。以前の知見を確認すると、エフェクターを欠く抗TfR/BACE1抗体を投薬することにより、血液中のTfR発現網状赤血球が急速及び持続的に減少した(
図11B、
図9Dと比較されたい)。さらに、抗TfR
A/BACE1(Fc−)を投薬した動物と抗TfR
D/BACE1(Fc−)を投薬した動物の間で網状赤血球の減少の時間経過にもその大きさにも有意差はなかったので、TfRに対する親和性によって二重特異性抗体により網状赤血球の喪失が駆動される程度は変更されなかった(
図11B)。しかし、エフェクター機能が完全な抗TfR
D/BACE1(Fc+)を投薬することにより、エフェクターを欠く二重特異性抗体と比較して網状赤血球の喪失が有意に増悪し(
図11B)、これにより、エフェクター機能が抗体投薬後の網状赤血球枯渇の重症度において重要な役割を果たすことが示唆された。
【0301】
骨髄では、エフェクターを欠く(Fc−)抗TfR二重特異性抗体により、コントロールIgGと比較して赤血球系細胞の総数は変更されなかった(
図11A)。しかし、エフェクター機能が完全な抗TfR
D/BACE1(Fc+)では、投薬の24時間後に赤血球系細胞の総数が減少した(
図12A)。具体的には、コントロールIgGと比較して、完全なエフェクター機能の存在下ではTfR陽性赤血球前駆体細胞(EryA集団及びEryB集団)が有意及びロバストに減少したが、エフェクターを欠く抗TfR/BACE1抗体によるTfR陽性赤血球系細胞亜集団に対する作用はなかった(
図12B−C)。興味深いことに、エフェクター機能が完全な抗TfR
D/BACE1(Fc+)を投薬した4時間後及び16時間後にエフェクターを欠く抗TfR/BACE1(Fc−)抗体及びコントロールIgGと比較すると成熟赤血球の数が一過性に増加した(
図12D)。1つの非限定的な解釈では、この一過性の増加は、赤血球前駆体細胞の枯渇に応答して赤血球成熟化の加速を駆動する二次的な代償的機構に起因する可能性がある。まとめると、これらのデータにより、エフェクターを欠く抗TfR/BACE1抗体により、骨髄中のTfR陽性赤血球系細胞の喪失が軽減されることが示唆される。
【0302】
実施例7
ヒト赤白血病細胞株及び初代骨髄単核細胞に対するエフェクターを含有する単一特異性抗体及び二重特異性抗体並びにエフェクターを欠く単一特異性抗体及び二重特異性抗体の影響
前述の実施例では、ヒトTfRを特異的に認識しない抗マウスTfR抗体を使用した。マウス試験において観察された網状赤血球枯渇がマウスの系に独特のものであるかを確認するために、ヒトTfRに結合する抗TfRを利用して別の実験を実施した。
【0303】
健康なヒトドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)をエフェクター細胞として使用してADCCアッセイを行った。ヒト赤白血病細胞株(HEL、ATCC)及び初代ヒト骨髄単核細胞(AllCells、Inc.)を標的細胞として使用した。実験の第1のセットでは、FcγRIIIAの残基158位におけるアロタイプの差異から潜在的に生じる可能性があるドナー間の変動を最小限にするために、血液ドナーを、ヘテロ接合性RcγRIIIA遺伝子型(F/V158)を有するドナーに限定した(
図13A−B)。実験の第2のセットでは(
図14A−B)、HEL細胞のみを標的細胞として使用し、F/V158遺伝子型又はFcγRIIIA V/V158遺伝子型のいずれかを有する健康なヒトドナー由来のPBMCを一緒に使用した。NK細胞媒介性ADCC活性の増加並びにIgG4抗体に結合する能力に関連することが公知であるので(Bowles及びWeiner、2005; Bruhnsら 2008)、V/V158遺伝子型もこのアッセイに含めた。Vi−CELL(登録商標)(Beckman Coulter;Fullerton、CA)により、製造者の説明書に従って細胞を計数し、生存能力を決定した。
【0304】
Uni−Sep(商標)blood separation tube(Accurate Chemical & Scientific Corp.;Westbury、NY)を使用してPBMCを密度勾配遠心分離によって単離した。アッセイ培地(1%BSA及び100単位/mLのペニシリン及びストレプトマイシンを伴うRPMI−1640)50μL中の標的細胞を96ウェルの丸底プレートにウェル当たり4×10
4個で播種した。試験抗体及びコントロール抗体の段階希釈物(ウェル当たり50μL)を、標的細胞を含有するプレートに加え、その後、37℃、5%CO
2で30分インキュベートしてオプソニン化させた。抗体の最終濃度は、5倍に段階希釈した後、合計10のデータ点で0.0051〜10,000ng/mLにわたった。インキュベート後、アッセイ培地100μL中PBMCエフェクター細胞1.0×10
6個を各ウェルに加えてエフェクター細胞:標的細胞の比を25:1にし、プレートをさらに4時間インキュベートした。インキュベートの最後にプレートを遠心分離し、上清を乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性についてCytotoxicity Detection Kit(商標)(Roche Applied Scinece;Indianapolis、IN)を使用して試験した。LDH反応混合物を上清に加え、プレートを室温で15分、絶えず振盪しながらインキュベートした。1MのH
3PO
4を用いて反応を終了させ、SpectraMaxプラスマイクロプレートリーダーを使用して490nmにおける吸収を測定した(各ウェルについて650nmにおいて測定されたバックグラウンドを引く)。標的細胞のみを含有するウェルの吸収がバックグラウンドについてのコントロールとしての機能を果たし(低コントロール)、トリトン−X100を用いて溶解させた標的細胞を含有するウェルにより入手可能な最大のシグナルがもたらされた(高コントロール)。抗体非依存性細胞傷害性(AICC)を、標的細胞及びエフェクター細胞を含有するウェルにおいて抗体を添加せずに測定した。特異的なADCCの程度を以下の通り算出した:
試料希釈物のADCC値を抗体濃度に対してプロットし、SoftMax Proを使用して用量反応曲線を4パラメータモデルにあてはめた。
【0305】
実験の第1のセットでは、種々の抗ヒトTfR構築物のADCC活性を、ヒト赤白血病細胞株(HEL細胞)又は初代ヒト骨髄単核細胞のいずれかを標的細胞として使用して評価した。二価IgG1エフェクター機能のために適格な抗ヒトTfR1抗体15G11、及び前の実施例においてエフェクター機能を抑止するD265A変異及びN297G変異を有するヒトIgG1形式で使用した同じ抗BACE1腕を有するこの抗体の二重特異性形態(実施例6を参照されたい)を種々の濃度で、陰性コントロールとして抗gD WT IgG1を使用し、陽性コントロールをマウス抗ヒトHLA(クラスI)として使用したADCCアッセイにおいて試験した。結果が
図13A及び
図13Bに示されている。標的としてHEL細胞(
図13A)又は標的として骨髄単核細胞(
図13B)のいずれを用いても、単一特異性抗ヒトTfR抗体15G11により、有意なADCC活性が引き出された。この活性は、HEL細胞における陽性コントロール抗ヒトHLA抗体による活性と同様であり、骨髄単核細胞に対する陽性コントロールよりもロバストであるが低いレベルであった。骨髄単核細胞実験において観察されたレベルがいくらか低いことは、おそらくこの実験で使用した骨髄系列PBMC細胞及び赤血球系列PBMC細胞の不均一な混合物の一部では高レベルのTfRが発現されるが、HEL細胞ではクローン細胞集団全体を通して一貫してTfRが高発現されるという事実に起因する。著しく対照的に、エフェクターを欠く二重特異性抗ヒトTfR/BACE1抗体は、陰性コントロールと同様に、HEL細胞又は骨髄単核細胞のいずれにおいてもいかなるADCC活性も示さなかった。
【0306】
実験の第2のセットでは、このアッセイ系で抗体のアイソタイプスイッチの影響を評価した。ADCCアッセイ手順は、標的細胞が全てHEL細胞であったこと、及びエフェクター細胞が、ヘテロ接合性FcγRIIIa−V/F158遺伝子型又はホモ接合性FcγRIIIa−V/V158遺伝子型のいずれかを有する健康なヒトドナー由来のPBMCであったこと以外は上記の手順と同一であった。試験した抗ヒトTfRは全て二重特異性であり、抗gDを有し、3つの異なるIg骨格:野生型ヒトIgG1、N297G変異を有するヒトIgG1、及びヒトIgG4を有した。ヒトIgG4骨格を有する抗Abeta抗体も試験し、マウス抗ヒトHLA(クラスI)が陽性コントロールとしての機能を果たした。結果が
図14A及び
図14Bに示されている。エフェクター細胞活性化とV/V158遺伝子型の公知の関連性に基づいて予測される通り(Bowles及びWeiner 2005)、ADCC活性は、V/V158ドナーPBMC(標的細胞の〜45%が影響を受けた)により、F/V158ドナー(標的細胞の〜25%が影響を受けた)と比較してよりロバストに引き出された(
図14Aと
図14Bを比較されたい)。野生型IgG1を有する抗TfR/gDではHEL細胞においてロバストなADCCが誘導されたが、エフェクターを欠くIgG1を有する抗TfR/gDではHEL細胞においていかなるADCC活性も示されず、これにより実験の第1のセットからの結果が再現された。特に、100ng/mL以上の濃度において、IgG4アイソタイプの抗TfR/gDが軽度のADCC活性を示した。この活性は抗Abeta IgG4の結果では観察されず、これにより、ADCC活性のためにはTfRの結合が必要であることが示された。この所見は、IgG4が最小であるが測定可能なエフェクター機能を有するという以前の報告と相関する(Adolffsonら、J. Neurosci. 32 (28): 9677-9689 (2012);van der Zeeら Clin Exp. Immunol. 64: 415-422 (1986));Taoら、J. Exp. Med. 173:1025-1028 (1991))。
【0307】
したがって、マウスにおける赤血球系列細胞の枯渇がTfR依存性及びエフェクター機能依存性の様式で起こるという本発明の所見は、ヒトの系に直接置き換えることができる。前述の本発明は、理解を明確にするために図表及び実施例によって一部の詳細で記載されているが、説明及び実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書において引用されている全ての特許文献及び科学文献の開示は、それらの全体が出典明示により本明細書に明白に援用される。