【課題】フェロニッケル製錬に使用する電気炉に副原料を装入するにあたり、副原料に含まれる水分を除去するとともに、熔融不良等の不具合の発生を防ぐことができる電気炉への副原料の装入方法を提供する。
【解決手段】本発明は、電気炉1内で焼鉱を熔融還元して粗フェロニッケルの熔体を得る熔融還元工程と、得られた高温の粗フェロニッケルの熔体を取鍋に回収して脱硫処理を施す脱硫工程とを有するフェロニッケル製錬における、副原料を前記電気炉に装入する副原料の装入方法であって、脱硫処理後に熔体を回収して空となった取鍋に副原料を充填して所定時間保持し、取鍋内に保持した後の副原料を、電気炉内に供給されて山状に堆積した焼鉱の層の中腹部より上方に留まるように装入する。
電気炉内で焼鉱を熔融還元して粗フェロニッケルの熔体を得る熔融還元工程と、得られた高温の粗フェロニッケルの熔体を取鍋に回収して脱硫処理を施す脱硫工程とを有するフェロニッケル製錬における、副原料を前記電気炉に装入する副原料の装入方法であって、
前記脱硫工程における脱硫処理後に熔体を回収して空となった取鍋に副原料を充填して所定時間保持し、
前記取鍋内に保持した後の副原料を、前記電気炉内に供給されて山状に堆積した焼鉱の層の中腹部より上方に留まるように装入する
電気炉への副原料の装入方法。
【背景技術】
【0002】
フェロニッケルは、鉄とニッケルを主成分とする合金であって、主に乾式製錬法で製造されている。具体的に、フェロニッケルの製錬においては、主原料であるニッケル酸化鉱石及び炭素質還元剤をロータリーキルンに供給して800℃〜900℃程度に予熱し、同時に部分還元することによって焼成鉱石(焼鉱)を得る。その後、得られた焼鉱を電気炉に供給して熔融還元することによって、目的金属であるNi及びFeを、1400℃程度のFe−Ni合金である粗フェロニッケル(以下、「メタル」ともいう)熔体として回収する。一方で、メタル以外のMgOやSiO
2等の成分は、融点が1500℃以上のMgO−SiO
2−FeO系スラグ(以下、単に「スラグ」ともいう。比重2〜3程度)熔体となり、電気炉から抜き出される。
【0003】
なお、このような乾式製錬法の主原料として処理されるニッケル酸化鉱石の代表的な組成は、Ni品位2%程度、Fe品位22%程度、MgO品位16%程度、SiO
2品位35%程度である。
【0004】
フェロニッケル製錬においては、電気炉での熔融還元により得られた粗フェロニッケルの熔体を、電気炉に設けられたメタル樋を通過させて取鍋に回収する。その後、粗フェロニッケル熔体を含む取鍋を、不純物硫黄を除去するための脱硫処理を行う工程に移送する。脱硫工程では、取鍋中の粗フェロニッケル熔体にカルシウムカーバイト等の脱硫剤を添加し、耐火物からなるスターラ(撹拌翼)で撹拌することによって脱硫する。なお、脱硫処理時の熔体温度は900℃程度である。
【0005】
脱硫処理が終了すると、取鍋内においては、上層に脱硫スラグが、下層にFe−Ni熔体が分離した状態となっている。そのため、その取鍋を傾転させることで上層の脱硫スラグを排出し、Fe−Ni熔体だけが残った状態にする。そして、Fe−Ni熔体を含む取鍋を、ショット鋳造を行う工程に移送する。ショット鋳造工程では、Fe−Ni熔体を含む取鍋を傾転させることで、Fe−Ni熔体の全量をショット鋳造設備の装入口に流入させ、その後水冷固化して、粒状のFe−Niメタル(製品)を得る。
【0006】
ところで、フェロニッケル製錬においては、主原料として処理されるニッケル酸化鉱石のほかに、ニッケル資源の回収やフェロニッケル組成の調整のために、副原料が使用されている。副原料としては、電気ニッケルのスクラップやニッケル合金電極を使用した廃電池、電気炉からメタルを抜き出す樋に付着した付着物等、種々のものが用いられる。
【0007】
このような副原料は、適切なサイズに調整された後にフレキシブルコンテナに梱包されて、操業状況に応じて電気炉内に装入され処理される。
【0008】
ところが、電気炉内に副原料を装入する場合、その副原料に含まれる付着水や結晶水等の水分を十分に除去しなければ電気炉内で水蒸気爆発を起こす恐れがあり、また、澱霧内への装入方向によっては、直接スラグ層内に埋没することがあり、例えばFe−Niメタルに比べて比重が重い金属(電気ニッケルスクラップ等)では、熔融不良のまま電気炉内の下部まで沈降して、炉底部に未熔解層が堆積するという問題が発生する。
【0009】
なお、副原料をロータリーキルンに装入する場合もあるが、そのロータリーキルンでの部分還元により得られる焼鉱のサイズが小さすぎて電気炉への供給に適さないときには、装入した副原料も合わせてロータリーキルンに戻し入れられてしまうため、操業効率の観点からすると、副原料の装入は電気炉に対して行うことが好ましい。
【0010】
例えば、特許文献1には、廃棄自動車を解体後、シュレッダー処理を施さずにプレスした廃棄自動車プレス体を用い、廃棄自動車プレス体の装入量、電気炉の容量に応じて、装入物の装入回数、各回の装入量及び廃棄自動車プレス体の割合、並びに装入物の溶解時間を決定する技術が開示されている。しかしながら、対象とする電気炉は、炉蓋が回転する鉄鋼用電気炉であり、フェロニッケル製錬に使用される電気炉には適用が困難である。
【0011】
また、特許文献2には、必要な副原料の投入量を計算し、その計算結果から自動的に副原料の切出し、計量を行い、電気炉まで搬送、投入する技術が開示されている。しかしながら、多数の炉上ビンや複雑な投入用配管の設置が必要となるため、炉上空間が限定されているフェロニッケル製錬に使用される電気炉には適用が困難である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
≪1.電気炉への副原料の装入方法の概要
本発明に係る電気炉への副原料の装入方法(以下、単に「副原料装入方法」という)は、フェロニッケル製錬における焼鉱に対する熔融還元処理に使用する電気炉へ副原料を装入する方法である。
【0022】
フェロニッケルの製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石をロータリーキルン等で焼成して得られた焼鉱を電気炉内に供給し、熔融還元することによって粗フェロニッケルの熔体を得る熔融還元工程と、得られた粗フェロニッケルの熔体を取鍋に回収し、その熔体に含まれる不純物の硫黄を除去する脱硫工程と、を有する。
【0023】
本発明に係る副原料装入方法においては、脱硫工程における脱硫処理後に熔体を回収して空となった取鍋に副原料を充填して所定時間保持し、取鍋内に保持した後の副原料を、電気炉内に供給されて山状に堆積した焼鉱の層の中腹部より上方に留まるように装入することを特徴としている。
【0024】
このような副原料装入方法によれば、電気炉内への装入に際して、副原料に含まれる水分を効率的に除去することができ、電気炉内に装入したときの水蒸気爆発の危険性を有効に防ぐことができる。また、電気炉内に堆積した焼鉱の層(以下、「鉱層」ともいう)の特定の箇所に副原料を装入するように調整することで、その副原料が熔融不良となって電気炉内の底部に未熔解層として堆積するといった不具合を抑制することができ、副原料を有効に装入して反応に寄与させることができる。
【0025】
≪2.フェロニッケル製錬について≫
[熔融還元工程]
具体的に、フェロニッケル製錬において、熔融還元工程では、焼鉱を電気炉内に搬送投入し、石炭等の炭材(還元剤)を使用して、その焼鉱を電気炉内で熔融還元(熔解)する。電気炉としては、例えば三相交流電極式電気炉を用いることができ、炉上ビンに接続された焼鉱シュートを介して焼鉱が供給される。
【0026】
電気炉内では、供給された焼鉱が電極に通電された電流によって熔融され、メタル(粗フェロニッケル)とスラグとが生成する。生成したメタルとスラグは、比重差によって分離し、電気炉の底部にメタル層(下層)が、その上部にスラグ層(上層)が形成される。
【0027】
ここで、
図1は、電気炉内での焼鉱の熔融還元時の様子を示した模式図である。なお、
図1では、電気炉1として三相交流電極式電気炉を使用した例を示している。
【0028】
電気炉1は、例えば、直径が約10m〜25m程度の大きさの円筒形状であって、高さ(炉底から炉頂までの高さ)が約4m〜10m程度の大きさの炉であり、その内部が耐火物により構成されている。電気炉1においては、焼鉱の熔融還元に伴って、焼鉱が熔融されて得られた熔体の層(熔体層)11が形成される。この熔体層11は、比重によって分離した、底部のメタル層11Aと、そのメタル層11Aの上部に存在するスラグ層11Bとからなる。
【0029】
また、電気炉1には、熔融還元するための焼鉱を供給するための投原管21が天井部に複数設けられており、投原管21を介して連続的又は断続的に焼鉱が炉内に供給される。したがって、操業時においては、熔体層11の表面(スラグ層11Bの表面)を、投原管21を介して供給された焼鉱、すなわち未熔解の焼鉱からなる層(鉱層)12が覆った状態が形成される。
【0030】
投原管21を介して焼鉱が電気炉1内に供給されると、
図1の点線丸囲み部Mで示すように、その焼鉱は山状に徐々に堆積していくことによって鉱層12を形成する。なお、電気炉1には、複数の投原管21が設けられているため、鉱層12を構成する焼鉱の山が複数形成される。
【0031】
電気炉1には、3本の電極22(22a〜22c)(例えば炭素電極)が電気炉1の天井部から垂下して設けられており、それら3本の電極22a〜22cをスラグ層11Bまで浸漬させて3相交流電流を印加することで、電極22a〜22cからメタル層11A、スラグ層11Bに直接通電させて抵抗発熱(ジュール熱)を生じさせる。そして、その熔体からのジュール熱により、スラグ層11Bの上部に形成された鉱層12を構成する焼鉱が熔解され、メタルとスラグとが生成する。なお、焼鉱の熔解に際しては、電極22a〜22cをスラグ層11Bまで浸漬させない状態としてアークを発生させ、そのアーク熱で直接的に焼鉱を熔解させる方法を用いてもよい。
【0032】
また、電気炉1には、その下部にメタルホール23とスラグホール24とが設けられている。メタルホール23は、電気炉1の内部に形成されたメタル層11Aが存在する位置に対応して設けられ、そのメタルホール23を介してメタルの熔体が抜き出される。また、スラグホール24は、電気炉1の内部に形成されたスラグ層11Bが存在する位置に対応して設けられ、そのスラグホール24を介してスラグの熔体が抜き出される。
【0033】
[粗フェロニッケル熔体の回収]
電気炉1のメタルホール23から取り出された粗フェロニッケルの熔体は、そのメタルホール23に接続して設けられた樋(メタル樋)を介して移送され、粗フェロニッケル熔体の回収時に、メタル樋の先に配置された取鍋に回収される。
【0034】
熔体を回収する取鍋は、一般的にレードルとも称されるもので、粗フェロニッケルの熔体を回収し、その熔体を移送するための容器である。取鍋の大きさとしては、特に限定されないが、フェロニッケル製錬において熔体の移送に一般的に用いられる大きさとすることができ、例えば内容積が6.5m
3程度のものを用いることができる。
【0035】
粗フェロニッケルの熔体を回収した取鍋は、搬送装置等により、次工程である脱硫工程における脱硫処理を行う場所まで移送される。そして、その取鍋内に熔体が収容された状態のまま、脱硫処理が行われる。
【0036】
なお、取鍋に回収した粗フェロニッケルの熔体は、上述した電気炉での熔融還元により得られた熔体であって、1500℃〜1800℃程度の非常に高温の状態となっている。
【0037】
[脱硫工程]
脱硫工程では、取鍋内の粗フェロニッケルの熔体に対して脱硫剤を添加し、スターラ等の撹拌装置によって撹拌することで、粗フェロニッケル熔体中の硫黄を硫化カルシウム(CaS)として精製スラグ中に固定し分離する脱硫処理が行われる。
【0038】
脱硫剤としては、脱硫剤としては、粗フェロニッケル熔体中の硫黄を硫化カルシウム(CaS)として固定することができるものであれば特に限定されず、例えば、カルシウムカーバイド、石灰、及びそれらの混合物等が挙げられる。また、脱硫剤の添加量は、粗フェロニッケル熔体中の硫黄品位と、使用する脱硫剤の脱硫効率とから経験的に得られるものであるため特に限定されないが、例えば、粗フェロニッケル熔体中の硫黄品位が0.4質量%〜0.5質量%である場合には、粗フェロニッケル1トン当たり10kg〜20kgの範囲で添加される。
【0039】
脱硫工程での脱硫処理は、上述したように、高温の粗フェロニッケルの熔体に対する処理であり、例えば、脱硫処理時における取鍋の内壁の温度は、およそ1300℃〜1600℃程度の高温となっている。
【0040】
このような脱硫処理の終了後、脱硫後の熔体が取鍋から排出される。ここで、熔体が排出された直後の取鍋の内壁の温度は、およそ800℃〜1000℃程度となっている。
【0041】
≪3.副原料の装入方法の詳細について≫
図2は、本発明に係る副原料の装入方法を実行したときの様子を示した模式図である。
図2に示すように、副原料装入方法においては、脱硫工程における脱硫処理後に熔体を回収して空となった取鍋30に副原料Sを充填して所定時間保持し、その後、取鍋30内に保持した副原料Sを、電気炉1内に供給されて山状に堆積した焼鉱の層(鉱層)12の中腹部より上方に留まるように装入する。
【0042】
[取鍋内における保持]
まず、この副原料装入方法においては、電気炉1に装入する副原料Sを、脱硫工程における脱硫処理後に熔体を回収して空となった状態の取鍋30内に充填し、その取鍋30内で所定時間に亘って保持する。
【0043】
上述したように、高温の粗フェロニッケル熔体に対する脱硫処理後に熔体を回収して空となった取鍋30は、その内壁が高温(例えば800℃〜1000℃程度)となっている。このような高温の取鍋30の内部に、電気炉1に装入する副原料Sを予め充填し、所定時間保持することで、その取鍋30の熱により、副原料Sに含まれる付着水や結晶水等の水分を有効に除去することができる。
【0044】
副原料Sとしては、例えば、電気ニッケルのスクラップやニッケル合金電極を使用した廃電池、電気炉からメタルを抜き出す樋に付着した付着物等が用いられ、それら材料を副原料として用いるにあたっては、水等による洗浄処理が施される。そのため、洗浄に伴って副原料に水分が付着した状態となっていることがある。また、副原料Sは、フレキシブルコンテナ(フレコン)等に収納して保管されるが、その保管時に水分が付着することがある。さらに、副原料Sとして用いる材料によっては、結晶水として微量の水分が含まれているものがある。このような水分を含んだ副原料を、電気炉に装入する原料として用いた場合、水蒸気爆発等が生じる可能性があり、高い安全性を維持して安定的な操業を行うことが困難となる。また、これら水分を含んだ副原料を電気炉に装入するに先立ち、例えばロータリーキルンやその他の加熱装置等に投入して乾燥処理を施すと、加熱のためのエネルギーコストや処理時間を要してしまい、効率的な操業を行うことができない。
【0045】
その点、本発明に係る副原料装入方法においては、電気炉1に副原料Sを装入するに先立って、脱硫処理後に熔体を回収して空となった取鍋30、すなわち高温状態の取鍋30に副原料Sを予め充填し、所定時間保持するようにしているため、その取鍋30の熱が有効に活用されて副原料Sに含まれる水分を効率的に除去することができる。また、取鍋30は、種々の原料を移送するための容器であるため、そのような取鍋30を用いて、例えばフレコン等に収納されて任意の場所に保管されていた副原料Sを電気炉1が設置されている場所に移送する過程において有効に水分を除去することができ、水蒸気爆発等の危険を効果的に防ぐことができる。
【0046】
また、このように高温状態の取鍋30内に所定時間保持することで、副原料S自体を熱することができ、電気炉1に装入するときの副原料を高温の状態のものとすることができる。電気炉1内での熔融還元処理では、例えば三相の電極によって焼鉱を加熱することによって熔融するが、このとき、例えば常温等の低い温度の原料を電気炉1内に装入すると、熔融還元反応の進行が阻害され、熔融不良や熔融時間延長の原因となる。したがって、電気炉1内に装入する原料としては、比較的高い温度の状態であることが好ましく、副原料についても同様である。この点、装入する副原料を予め高温の取鍋30内に保持しておくことで、副原料S自体を熱することができ、適した温度の副原料Sを電気炉1内に装入することができる。なお、装入する副原料Sの温度が高すぎると、詳しくは後述する装入装置の熱負荷が高まるため、例えば温度の上限値としては300℃以下とする。
【0047】
取鍋30内での副原料の保持時間としては、水分が除去されれば十分であり特に限定されないが、例えば取鍋30の内壁の温度が300℃程度にまで低下する時間で保持することができる。より具体的には、例えば500kg程度の副原料Sを取鍋30内に充填した場合、およそ2時間程度の間保持することにより、水分を有効に除去できる。
【0048】
また、一般的に副原料Sは、フレコン等に収納されており、そのフレコンごと取鍋30内に充填した場合でも、例えば取鍋30の内壁の温度が300℃程度にまで低下する時間で保持することにより、コンテナ自体も燃焼し、焼失する。
【0049】
なお、熔体を回収した直後の取鍋30の内壁の温度は、上述したように800℃〜900℃程度であり、その温度は時間の経過に伴って徐々に低下するものの、脱硫処理の終了後にすぐに副原料Sを充填することで、比較的高温の状態の取鍋30内に充填し保持することができ、有効に水分を除去することができる。
【0050】
[鉱層への副原料の装入]
次に、副原料装入方法においては、取鍋30内に保持した副原料Sを、電気炉1内に供給され山状に堆積した焼鉱の層(鉱層)12の中腹部より上方に留まるように装入する。
【0051】
図1に示して説明したように、熔融還元工程では、電気炉1内に投原管21を介して焼鉱が供給され、熔体層11の上部に熔融前の焼鉱の層12が、山状に堆積して形成されていく。一般的に、電気炉1には、複数の投原管21が天井部から設けられており、その複数の投原管21を介して供給され堆積した「焼鉱の山」が複数形成される。
【0052】
そして、本発明に係る副原料装入方法においては、そのような「焼鉱の山」が形成された鉱層12に対し、その鉱層12の中腹部より上方に留まるように、取鍋30から副原料を装入することを特徴としている。ここで、鉱層12の中腹部とは、投原管21から電気炉1内に供給され「山」のような形状に徐々に堆積した「焼鉱の山」の中腹部であり、傾斜している「焼鉱の山」の斜面の中間部付近をいう。
【0053】
鉱層12の中腹部は、電気炉1内に形成されている熔体層11から上方に離れた位置であり、電気炉1内でも比較的温度が低い状態の位置である。電気炉1内では、その熔体層11上に供給され堆積した鉱層12の下部から徐々に熔解していく。したがって、鉱層12の中腹部より上方に留まるように副原料を装入することで、副原料が留まった付近の焼鉱が徐々に熔体層11の方向に移動していくのに伴って副原料の移動し、熔体層11(温度が1600℃程度)付近に至るまでの過程で副原料が徐々に昇温されていく。このことから、副原料が熔融不良となることを防ぐことができ、炉底部付近に未熔融の副原料が堆積し、さらに成長してしまうという不具合を軽減することができる。
【0054】
このように、副原料Sを装入する位置が重要となり、山状に堆積した鉱層12の中腹部より上方に留まるように副原料Sを調整装入することで、その副原料が熔融不良となって電気炉1内の底部に未熔解層として堆積するといった不具合を抑制することができ、副原料を有効に装入して反応に寄与させることができる。
【0055】
[副原料の装入装置の使用]
ここで、副原料Sの装入に際しては、特定の構造を有する装入装置を用いることが好ましい。装入装置を用いて副原料Sを装入することで、鉱層12の中腹部に的確に装入することができ、より安定した操業を実現することができる。
【0056】
図3は、副原料の装入装置の構成の一例を示す模式図である。装入装置40は、ドラム缶を縦方向に2分割して得られる半円状の形状を有するシュート部41と、シュート部41から装入される副原料Sの装入角度を調整する調整部42と、を備えている。
【0057】
(シュート部)
シュート部41は、ドラム缶を縦方向に2分割して得られるような半円状の形状を有しており、そのドラム缶の内面が副原料Sを移動させ装入うるシュート面となる。
図4は、装入装置40におけるシュート部41のみの構成を示した斜視図である。
図4に示すように、シュート部41には、そのドラム缶を縦方向に2分割して得られる半円状の形状において、そのドラム缶の内面がシュート面41aとなる。
【0058】
シュート部41は、取鍋30に保持された副原料Sをシュート面41aに載置させ、調整部42によるシュート面41aの角度調整に基づいて、そのシュート面41aに沿って副原料Sを装入する。
【0059】
(調整部)
調整部42は、例えば傾転装置により構成されるものであり、シュート部41を設置固定して、そのシュート部41におけるシュート面41aが所定の角度となるように傾転させる傾転機構42aを有する。なお、シュート部41を設置する方法としては、特に限定されず、例えば傾転装置等から構成される調整部42に設置台を設け、その設置台上にシュート部41を載せて設置固定することができる。
【0060】
調整部42においては、傾転機構42aを作動して、
図3中の矢印Rで示すように、設置固定したシュート部41のシュート面41aが所定の角度となるように傾転させることによって、そのシュート面41aに載置された副原料Sをシュート面41aに沿って滑り転がしながら装入する。すなわち、調整部42によって、シュート部41におけるシュート面41aの角度が任意に調整されることで、電気炉1内に装入する副原料Sの目標装入位置や装入スピードが制御されることになる。
【0061】
傾転機構42aとしては、特に限定されないが、例えば
図3に示すような、設置固定させたシュート部41の一方の端部を固定させた状態で他方の端部を持ち上げるようなシリンダー構造により構成することができる。
【0062】
このように、副原料Sの装入に際して、例えば
図3〜
図4に示すような装入装置40を用いることで、副原料Sを鉱層12の中腹部に的確に装入することができ、より安定した操業を実現することができる。なお、
図2において、装入装置40を用いて鉱層12の中腹部に副原料Sを装入する様子を模式的に示している。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
[フェロニッケル製錬の共通条件]
(操業状況)
・Fe−Ni製造量:200t/日程度(取鍋回数≒7回)
・取鍋(粗フェロニッケル熔体移送用) 全容量:5.0m
3
移送容量:4.2m
3
移送重量:30t
外壁:鉄皮、内壁:耐火レンガ張り
・取鍋内壁の温度 電気炉からの粗フェロニッケル熔体受け入れ時:1400℃程度
脱硫処理時:1500℃程度
合金排出直後(空の状態にした直後):800℃〜900℃程度
(副原料)
副原料として下記A〜Cを、単独又は混合して、500kg程度の量にまとめてフレキシブルコンテナ中に保管した。副原料の電気炉への装入は、電気炉の上蓋に設けられた点検口から、500kg/回、1〜2回/日の頻度で行った。
○副原料A[電気ニッケルスクラップ(Ni>99%、Co、S等の不純物規格外品)]
サイズ:(厚物)厚さ 10mm〜15mm程度、縦横は数十cm以内で様々
(薄物)厚さ 1mm〜5mm程度、縦横は数十cm以内で様々
水分:保管中の付着水
○副原料B[廃電池(電極:Ni合金(微量Co、P等)+筺体:Fe製)]
サイズ:10×2×5mm程度の電池単位が5個〜10個程度連結されたもの
水分:保管中の付着水(場合により(納入業者不備)電解液の抜き出し残分)
○副原料C[樋付着物(電気炉のメタル固化物)]
サイズ:こぶし大程度以下の大きさ
形状:様々の形状
水分:保管中の付着水
【0065】
[実施例1]
実施例1では、脱硫処理後、熔体を回収して空となった取鍋を副原料Bのフレコンの保管場所に移送して、その副原料Bのフレコン1個をそのまま取鍋内に投入した。副原料Bを投入したときの取鍋の内壁温度は550℃であり、そのまま2時間保持した。2時間の保持後、取鍋の内壁温度(すなわち副原料の温度)は300℃となった。なお、フレコン自体は焼失していた。
【0066】
続いて、取鍋内の副原料Bを、ドラム缶を縦方向に2分割して得られる半円状の形状を有するシュート部(
図4参照)を備える装入装置(
図3参照)に移し、その装入装置を用いて電気炉内に副原料Bを装入した。電気炉内への副原料Bの装入は、電気炉内で山状に堆積した焼鉱の層(鉱層)の中腹部より上方に留まるように装入した。
【0067】
取鍋を副原料Bのフレコンの保管場所に移送し始めてから、すべての副原料Bを電気炉に装入し終わるまでの所要時間は3時間であった。また、電気炉への装入直後の副原料Bはすべて鉱層の中腹に留まり、およそ5時間後に鉱層の最下部に到達した。フェロニッケルの製錬操業としては、特に問題無い時間内で操業することができた。
【0068】
[比較例1]
比較例1では、以下の手順で電気炉内に副原料Bを装入した。すなわち、フレコン内に収納された副原料Bを150℃の乾燥機で一昼夜乾燥させ、クレーンのバケットに充填した。その後、バケットを電気炉上蓋の点検口直上に移送して、バケットを傾転させることにより副原料Bを電気炉内に装入した。なお、装入時の副原料Bの温度は100℃程度であった。
【0069】
副原料Bの乾燥を開始してから、すべての副原料Bを電気炉内に装入し終わるまでの所要時間は25時間となり、長時間を要した。
【0070】
また、装入した副原料Bのうち、およそ3分の1の量が投入直後に鉱層を構成する山のすそ野(下方側)まで落ちてしまった。さらに、その後の操業において、スラグの排出時に通常に比べてスラグ流出の流れが悪くなり、スラグ樋へのスラグの付着が増加してしまい、除去作業が必要となった。