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特開2019-3995コイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-3995(P2019-3995A)
(43)【公開日】2019年1月10日
(54)【発明の名称】コイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/12 20060101AFI20181207BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20181207BHJP
   H01B 17/60 20060101ALI20181207BHJP
【FI】
   H01F41/12 E
   H01B17/56 A
   H01B17/60 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-116029(P2017-116029)
(22)【出願日】2017年6月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098073
【弁理士】
【氏名又は名称】津久井 照保
(72)【発明者】
【氏名】岡野 辰昭
(72)【発明者】
【氏名】小出 栄司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 将輝
【テーマコード(参考)】
5E044
5G333
【Fターム(参考)】
5E044CA02
5E044CB01
5G333AA03
5G333AB07
5G333BA03
5G333CB07
5G333CB19
5G333DA04
5G333DA19
5G333FB15
(57)【要約】
【課題】コイル装置の巻枠に巻回されたコイルとこの巻枠の端部との間の領域に巻回される樹脂含浸された絶縁テープからの、加熱処理時における、テープ外部への樹脂の流れだしを防止する。
【解決手段】コイル巻回領域10Aと鍔部10Bを有する筒状のボビン10を備えており、コイル巻回領域10Aに巻回されたコイル11と、コイル巻回領域10Aの端部側であって鍔部10Bに当接する位置に巻回された、コイル装置用絶縁テープとしての組合せテープ12を備えている。組合せテープ12は、樹脂含浸テープとしてのエポキシ樹脂含浸テープと、樹脂吸収テープとしてのテトロン織テープを積層してなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを巻回するコイル巻枠に巻回されるコイル装置用絶縁テープであって、
樹脂を含浸した樹脂含浸テープと、加熱時に該樹脂含浸テープから流れ出した樹脂を吸収する樹脂吸収テープを積層してなることを特徴とするコイル装置用絶縁テープ。
【請求項2】
前記樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1記載のコイル装置用絶縁テープ。
【請求項3】
前記樹脂吸収テープがテトロン織テープからなることを特徴とする請求項1または2に記載のコイル装置用絶縁テープ。
【請求項4】
前記樹脂含浸テープがエポキシ樹脂含浸テープからなり、前記樹脂吸収テープが絶縁薄紙またはテトロン織テープからなり、該樹脂吸収テープの厚みが0.05mm〜0.26mmの範囲の値とされていることを特徴とする請求項1記載のコイル装置用絶縁テープ。
【請求項5】
コイル巻回用ボビンと、該コイル巻回用ボビンのコイル巻枠に巻回されるコイルと、該コイル巻枠に巻回されたコイルと該コイル巻枠の端部との間、または、前記コイル巻枠上で間隔を空けて巻回された複数のコイルの間、に巻回されるコイル装置用絶縁テープを備えたコイル装置であって、
該コイル装置用絶縁テープは、樹脂を含浸した樹脂含浸テープと、加熱時に該樹脂含浸テープから流出する樹脂を吸収する樹脂吸収テープを積層した組合せテープからなることを特徴とするコイル装置。
【請求項6】
前記コイル巻回用ボビンが、前記端部に鍔部を備えたことを特徴とする請求項5記載のコイル装置。
【請求項7】
請求項5または6記載のコイル装置を製造する方法において、前記加熱時の加熱時間を2時間に設定し、かつ前記組合せテープの外表面に外装テープを貼付した状態で、前記加熱時の加熱温度を100℃〜150℃の範囲の値に設定することを特徴とするコイル装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法に関し、例えば、コイル装置の巻枠に巻回されたコイルの沿面距離を確保して絶縁を取るために、巻枠上で巻回コイルの端部に隣接して巻回される絶縁テープ、詳しくは樹脂を含浸したテープの巻回層間の隙間を、加熱により流動化した樹脂により埋めるタイプのコイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばトランス等のコイル装置において、コイル端部の絶縁距離を確保するために、ポリエステルテープ等の絶縁テープをコイル巻枠に巻回して使用することも多いが、ポリエステルテープ等は、巻回したテープ層間に隙間が発生してしまい、テープの絶縁耐力はテープ面の沿面距離(テープの幅)に応じて決定され、テープ素材の固体絶縁性能を生かすことが難しい。
【0003】
すなわち、図7(A)のコイル装置一部断面図に示すように、ボビン110の鍔部110Bと、ボビン110のコイル巻回領域110Aに巻回されたコイル111との間にポリエステルテープ112Aからなる絶縁テープを幅D´に亘って巻回し、絶縁距離を確保する技術(従来技術1)が知られているが、ポリエステルテープ112Aの巻回層間に隙間が生じて確実に絶縁を取ることが難しく、テープ幅D´は固体絶縁厚みに比し数十倍大きく取ることが必要になる。
【0004】
このような隙間を埋める効果を有する絶縁テープとしては、エポキシ樹脂などの樹脂を含浸させた樹脂含浸テープが知られている。この樹脂含浸テープを用いると、熱硬化処理により、含浸されていた樹脂が流動化して、このテープに接する隙間を埋めることが可能となる(例えば、下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4321818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術を転用した、樹脂含浸テープを複数層巻回したもの(従来技術2)の場合には、その加熱処理の状況によっては、流動化したエポキシ樹脂等がテープ外に流れ出し、テープ間を埋める樹脂が不足して、逆にテープ間に大きな隙間を発生させてしまい、この隙間を通して放電が起きるという事態も起こりうる。また、これとともにエポキシ樹脂等の流れ出しにより、テープ幅方向のコイル巻回領域まで樹脂がはみ出してしまい、これが硬化すると、コイル巻線幅が狭くなって、設計時の巻線仕様を変更せざるを得ないという不都合が生じる虞もある。
【0007】
すなわち、上記従来技術2においては、図7(B)のコイル装置一部断面図に示すように、ボビン210の鍔部210Bと、ボビン210のコイル巻回領域210Aに巻回されたコイル211との間にエポキシ樹脂含浸テープ212A等からなる絶縁テープを巻回し、絶縁距離を確保するようにしているが、加熱処理時にエポキシ樹脂含浸テープ212A等からテープ外にエポキシ樹脂215等が流れ出して、種々の不都合を発生させる虞がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、コイル装置の巻枠に巻回されたコイルに隣接した領域に巻回される樹脂含浸された絶縁テープから、加熱処理時において、テープ外部へ樹脂が流れ出すのを防止することができる、コイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係るコイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法は、以下の特徴を備えている。
【0010】
すなわち、本発明に係るコイル装置用絶縁テープは、
コイルを巻回するコイル巻枠に巻回されるコイル装置用絶縁テープであって、
樹脂を含浸した樹脂含浸テープと、加熱時に該樹脂含浸テープから流れ出した樹脂を吸収する樹脂吸収テープを積層してなることを特徴とするものである。
【0011】
前記樹脂はエポキシ樹脂であることが好ましい。
また、前記樹脂吸収テープがテトロン織テープからなることが好ましい。
前記樹脂含浸テープがエポキシ樹脂含浸テープからなり、前記樹脂吸収テープが絶縁薄紙またはテトロン織テープからなり、該樹脂吸収テープの厚みが0.05mm〜0.26mmの範囲の値とされていることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るコイル装置は、
コイル巻回用ボビンと、該コイル巻回用ボビンのコイル巻枠に巻回されるコイルと、該コイル巻枠に巻回されたコイルと該コイル巻枠の端部との間、または、コイル巻枠上で間隔を空けて巻回された複数のコイルの間、に巻回されるコイル装置用絶縁テープを備えたコイル装置であって、
該コイル装置用絶縁テープは、樹脂を含浸した樹脂含浸テープと、加熱時に該樹脂含浸テープから流出する樹脂を吸収する樹脂吸収テープを積層した組合せテープからなることを特徴とするものである。
また、前記コイル巻回用ボビンは、前記端部に鍔部を備えたものとすることができる。
上述したコイル装置を製造する方法において、前記加熱時の加熱時間を2時間に設定し、かつ前記組合せテープの外表面に外装テープを貼付した状態で、前記加熱時の加熱温度を100℃〜150℃の範囲の値に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法によれば、コイル巻回用ボビンのコイルの巻回領域よりも端部側の巻回領域、または、コイル巻枠上で間隔を空けて巻回された複数のコイルの巻回領域の間、に巻回し、絶縁距離を確保する際に、加熱処理により樹脂含浸テープから流れ出した樹脂を樹脂吸収テープにて吸収し、絶縁テープの外部に流出することを回避するとともに、テープ巻回層間に樹脂を吸収したテープが介在し一体的に固体化されて、巻回層間の隙間を確実に埋めることができる。なお、コイル巻枠に巻回された2つのコイル間に上記テープを巻回した場合には、加熱処理により樹脂含浸テープから流出した樹脂が、この組合せテープとボビンを接着し、一体化するので、このテープを自立した隔壁、鍔として機能させることができる。
これにより、テープ間を埋める樹脂が流失して、テープ間に大きな隙間を発生させる、という事態を回避することができる。また、エポキシ樹脂の流れ出しにより、テープ幅方向のコイル巻回領域まで樹脂がはみ出してしまい、コイル巻線幅が狭くなって、設計時の巻線仕様を変更する必要が生じる、等という不都合の発生を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るコイル装置の主要部の一部を示す概略断面図である。
図2図1に示す実施形態に係るコイル装置用絶縁テープの構成を示す概念図である。
図3】本発明の実施形態に係るコイル装置の一部を示す写真である。
図4】加熱処理を施した際の樹脂流れ出し状態を示す写真であって、(A)は従来技術に係るコイル装置を示し、(B)は本実施形態に係るコイル装置を示すものである。
図5】測定実験において用いた模擬的なコイル装置の形状を示す写真である。
図6図1に示す実施形態に係るコイル装置とは別のコイル装置を示す概略一部断面図である。
図7】従来技術1のコイル装置を示す概略一部断面図(A)、および従来技術2のコイル装置を示す概略一部断面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るコイル装置用絶縁テープ、コイル装置およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係るコイル装置の構成を示す概略図であり、図2は、本実施形態に係るコイル装置用絶縁テープの構成を示す概念図である。
本実施形態に係るコイル装置用絶縁テープは、図2に示すように、樹脂含浸テープとしてのエポキシ樹脂含浸テープ12Aと、樹脂吸収テープとしてのテトロン織テープ12Bを積層してなる組合せテープ12からなる。また、エポキシ樹脂含浸テープ12Aとテトロン織テープ12Bの上下位置を、上記と互いに逆とすることも可能である。
上記樹脂含浸テープは、一般にプリプレグテープ等として知られているものであり、熱硬化樹脂を吸収性のあるシート基材に含浸させた未硬化状態のテープ状・シート状の製品全般を指称するものとする。
なお、樹脂含浸テープおよび樹脂吸収テープの種類としては種々の変更態様を選択し得る。このことについては後述する。
【0017】
本実施形態に係るコイル装置は、コイル巻回領域10Aと鍔部10Bを有する筒状のボビン10を備えており、図1の一部断面図に示すように、コイル巻回領域10Aに巻回されたコイル11と、コイル巻回領域10Aの端部側であって鍔部10Bに当接する位置に幅Dに亘って巻回された、コイル装置用絶縁テープとしての組合せテープ12を備えている。
【0018】
上記組合せテープ12を構成するエポキシ樹脂含浸テープ12Aは、支持体としての不織布または織物テープにエポキシ樹脂を含浸してなる、複合材構造のテープにより構成されている。
【0019】
この支持体テープの厚みは、例えば 0.07 〜0.18 mmのものを用いる。また、上記エポキシ樹脂の含浸量は、例えば 45〜85 %のものを用いる。
また、上記組合せテープ12を構成するテトロン織テープ12Bは、エポキシ樹脂含浸テープ12Aから流れ出したエポキシ樹脂を吸収して、この組合せテープ12の外部にエポキシ樹脂が流れ出さないようにするための、エポキシ樹脂吸収素材であるテトロン布材をベース素材とするものである。
テトロン織テープ12Bの厚みは、例えば、0.050〜0.250mmのものを用いる。
【0020】
図1に示すコイル装置において、ボビン10のコイル巻回領域10Aと鍔部10Bの間であって、鍔部10Bの内壁面に沿わせて、上述した組合せテープ12が巻回される。この後、コイル11がコイル巻回領域10A上に巻回され、組合せテープ12は、鍔部10Bとコイル11に挟まれた位置に巻回される。
【0021】
このようなコイル装置用絶縁テープにおいて、巻回層間に存在する隙間をなくし沿面距離を確保するべく、加熱処理を施し、溶融させたエポキシ樹脂が巻回層間の隙間に入り込むようにし、その後、加熱処理を終了して、巻回層間に入り込んだエポキシ樹脂が硬化するようにしている。これにより、組合せテープ12が固体化し、コイル11の絶縁壁として形成される。
【0022】
しかしながら、この加熱処理の実施状況によっては、溶融したエポキシ樹脂がコイル装置用絶縁テープの外部に流れ出し、巻回層間の隙間を埋める材料が不足してしまうことも起こり得るし、流れ出したエポキシ樹脂が、この組合せテープ12に隣接するコイル巻回領域10A上で硬化して、コイルを巻回するスペースが狭くなってしまう虞もある(図7(B)を参照)。
【0023】
そこで、本実施形態においては、前述したように、コイル装置用絶縁テープを、エポキシ樹脂含浸テープ12Aとテトロン織テープ12Bを積層してなる組合せテープ12から構成し、エポキシ樹脂含浸テープ12Aから滲み出したエポキシ樹脂はその上下において隣接するテトロン織テープ12Bにより吸収されるようにしている。
【0024】
これにより、エポキシ樹脂を吸収したテトロン織テープ12Bが接着層として介在して、組合せテープ12の上下層のエポキシ樹脂含浸テープ12A同士が強力に一体的に固体化せしめられ、巻回された組合せテープ12の層間の隙間が確実に埋められて、コイル装置用絶縁テープの絶縁状態を確保することが可能となる。
【0025】
図3は、図1に示すコイル装置とは、基本的な構成は同様であるが、細部において若干異なる別の実施形態に係るコイル装置を示すものである。したがって、図3に示すコイル装置の各部材において、図1に示すコイル装置と同じ機能を有するものについては同一の符号を付し、異なる部分についてのみ異なる符号を付してその説明を加える。
【0026】
図3に示す実施形態に係るコイル装置は、通信用の整合トランスとして用いられるものであり、四角筒状のボビン10(図4(B)を参照)のコイル巻回領域(他部材に隠れて視認できない)にはコイル11が巻回され、このコイル巻回領域と鍔部12Bとの間にはコイル装置用絶縁テープである組合せテープ12が巻回されてなる。この組合せテープ12は、エポキシ樹脂含浸テープ12Aを使用しており、この樹脂吸収テープとして、テトロン織テープ12Bを用いている点においては、図1を用いて示す上記実施形態のコイル装置と同様である。
【0027】
なお、この図3には、1次巻線および2次巻線からなるコイル11の端部が、コイル引出線15A、B、Cとして示されている。また、ボビン10の鍔部10Bは、組合せテープ12の状態を確認し得るように低背状態に形成されている。
【0028】
また、図4(A)、(B)は加熱処理時におけるエポキシ樹脂の、組合せテープ外部への流れ出し状態を示す写真であり、(A)は従来技術に係るコイル装置用絶縁テープ(エポキシ樹脂含浸テープのみを用い、樹脂吸収テープは用いていない)、(B)は図3の実施形態に係るコイル装置用絶縁テープを用いた写真である。
【0029】
従来技術を用いた場合には、図4(A)に示すように、エポキシ樹脂含浸テープ212Aから流れ出たエポキシ樹脂がボビン210の鍔部210Bの内側縁部から滴下している状態であることが観察された。一方、本実施形態においては、図4(B)に示すように、組合せテープ12のエポキシ樹脂含浸テープ12Aから外部にエポキシ樹脂が流れ出る様子が観察されず、ボビン10の鍔部10Bを始めとして各部にエポキシ樹脂の付着は観察
されなかった。
【0030】
本実施形態においては、エポキシ樹脂含浸テープ12Aから滲みだした樹脂が、隣接して巻回されているテトロン織テープに吸収され、隣接する巻回層間の樹脂テープ12Aが、このテトロン織テープを介して接着され、層間の隙間が確実に埋められて、この隙間を通しての放電が阻止される。
【0031】
<測定実験>
次に、エポキシ樹脂含浸テープおよびエポキシ樹脂吸収テープを、図1に示すように重ね巻きし、加熱処理を施したときに、エポキシ樹脂含浸テープから樹脂がある程度流れ出して接着効果が得られる最低温度、エポキシ樹脂含浸テープから樹脂がある程度流れ出してはいるが、過剰に流れ出さない状態とされる最高温度を実験により測定し、さらに最低温度と最高温度の中間の温度であるセンター温度を算出した。
【0032】
すなわち、本実験においては、樹脂吸収テープの厚み条件を一定とし、加熱温度×加熱時間に関する条件を変化させて、樹脂の流れ出し状態を観察することにより、実施可能な加熱条件範囲を見い出した(下記表1を参照)。
また、加熱条件を一定とし、樹脂吸収テープの厚みを変化させて実施可能な樹脂吸収テープ厚みの範囲を見い出した(下記表2を参照)。
【0033】
(用いた試料)
・ エポキシ樹脂含浸テープは、寺岡製エポキシ樹脂含浸テープ5120を用いた。支持体の厚みは0.13mm、含有樹脂量は75%とした。
・ エポキシ樹脂吸収テープは、(1)絶縁薄紙クラフト紙0.05mm厚、および(2)テトロン織テープ0.13mm厚を用いた。
・ なお、外装テープを用いた場合と用いない場合の双方について観察した。ここで、外装テープとしては、 適度の熱収縮特性を備えたものを用いた。
また、外装テープは粘着テープであり、以下の条件を備えていることが好ましい。
(1)糊の成分がエポキシ樹脂の硬化反応を(化学的に)阻害しないこと。硬化後は相互密着し一体化するものであることが好ましい。
(2)組合せテープが硬化するまで適度の締め付け力を保持すること。すなわち、流動化した樹脂が吸収テープ内部に吸収され組合せテープ全体の厚みが減少することによってテープ層間に隙間が発生する問題が解消される。
外装テープとして、例えば、寺岡製作所製のポリエステルテープNO.632S(アクリル糊・非硬化性)を使用した場合、エポキシ樹脂吸収テープは良好に硬化した。この場合のポリエステルテープの縦方向熱収縮は、150℃において1.3%程度であった。
なお、図3においては、巻線が視認し得るように外装テープを全て削り落している。
【0034】
(コイル装置)
図5に示すように、ボビン310の鍔部310Bを底面とし、この鍔部310Bの上部の巻枠に組合せテープ312を巻回し、この巻枠の上方に端子台311および端子ピン315を配設している。この測定装置においては、巻枠にコイルは巻回せず、組合せテープ312のみを巻回しているが、加熱時の樹脂の流れ出し状況は、コイルを巻回している場合と略同様である。なお、上記ボビン310としては、20φのフェノール樹脂製のものを用いた。
【0035】
(実験手順)
・ オーブン加熱温度を80℃〜150℃の範囲で変化させて上記加熱条件の範囲を見出した(加熱温度範囲)。
・ 樹脂吸収テープの厚みを0.05〜0.26mmの範囲で変化させて上記吸収テープ条件の範
囲を見出した(吸収テープ厚み範囲)。
【0036】
(測定結果)
<測定1>
上述した手法で加熱温度を80℃〜150℃の範囲で変更し、測定を行った。各温度(80℃、100℃、120℃、150℃:加熱時間は各々2時間)における樹脂の流れ出し状態およびテープの固体化状態について観察した。その様子を下表1に示す。なお、エポキシ樹脂テープの厚み(種類)は0.17mm (寺岡製作所製No.5120)で一定とした。
【0037】
<測定2>
上述した手法でエポキシ樹脂吸収テープの厚み(テープ種として2種を用いた)を0.05mm〜0.26mmの範囲で変更して測定を行った。各テープの厚み(0.05mm、0.10mm、0.13mm、0.26mm:テープ種は、絶縁薄紙クラフト紙0.05mm/枚、およびテトロン織テープ0.13mm/枚を用いた)における樹脂の流れ出し状態およびテープの固体化について観察した。その様子を下表2に示す。ここで用いた絶縁薄紙クラフト紙とテトロン織テープは、エポキシ樹脂吸収特性が略同様と仮定して測定を行った。なお、加熱条件は、120℃、2時間で一定とした。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
(条件範囲の決定)
上述した表1から加熱温度は、樹脂の流出が始まる(滲み出しは生じている)温度を下限値とし、樹脂の流出が過剰となる温度を上限値とし、この下限値と上限値の中間温度をセンター値とした。この結果、下限値は100℃となり、上限値は150℃となった。また、センター値は125℃となり、通常の作業で用いる標準温度である120℃と近い値となった。
【0041】
また、上述した表2からエポキシ樹脂吸収テープの厚みは、樹脂の流出が始まる(滲み出しは生じている)厚みを下限値とし、一方、流動化した樹脂が全て吸収されても全体に行渡らないため、完全な固体状態よりも軟化した状態となっているときの厚みを上限値とした。この結果、下限値は0.05mmとなり、上限値は0.26mmとなった。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態の態様のものに
限定されるものではなく、種々に態様を変更することが可能である。
【0043】
例えば、樹脂含浸テープ(プリプレグテープ)としては、上述したエポキシ樹脂を含浸したものに限られるものではなく、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂等を用いることができる。また、樹脂の含浸量は45〜85%とすることが望ましい。
また、上記実施形態においては、樹脂含浸テープは、支持テープであるアラミド不織布にエポキシ樹脂を含浸させた構造とされているが、これに替えて織布の支持材にエポキシ樹脂を含浸させるようにしてもよい。
【0044】
また、樹脂吸収テープとしては、上述した絶縁薄紙やテトロン織テープに限られるものではなく、例えば、種々の紙、不織布、織物・編物、多孔質合成樹脂を用いることができる。
紙としては、天然繊維やパルプを抄紙・加圧したもの(例えばグラシン紙、クラフト紙、プレスボード等)があり、また合成繊維やフィラーを抄紙・加圧したもの(例えばアラミド紙等)がある。
不織布としては、天然繊維として綿、羊毛、麻、パルプ、絹、および鉱物繊維等があり、化学繊維として、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル繊維、ビニロン、およびアラミド繊維等がある。
織物・編物としては、天然繊維として綿、絹、麻等があり、化学繊維としてアセテート、テトロン、ポリエステル、ガラス繊維、アラミド繊維等がある。
多孔質合成樹脂材としては、ウレタン、ポリエステル、シリコン、フッ素樹脂等がある。
【0045】
また、本発明のコイル装置としては、図6の断面図に示すように、ボビン410の巻枠上に、間をおいて巻回された2つのコイル411、411の間に、これら2つのコイル411、411の隔壁(鍔)として機能するように組合せテープ412Aを巻回するような構成とすることも可能である。
このように巻回された組合せテープ412Aからは、加熱処理時において、樹脂が少しずつ溶け出して、組合せテープ412Aとボビン410の間の接合部(界面)412Bにおいて両者を互いに接着し、一体化させる。これにより、組合せテープ412Aを自立した隔壁として機能させることができる。
なお、組合せテープ412、412および鍔部410B、410Bは、図1を用いて説明した前述した実施形態における、組合せテープ12および鍔部10Bと同様の機能をなすように構成されている。
【0046】
また、コイル装置として、ボビンの鍔部を有していることが望ましいが、鍔部を有していないようなボビンであっても、本発明の適用は可能である。
【符号の説明】
【0047】
10、110、210、310、410 ボビン
10A、110A、210A コイル巻回領域
10B、110B、210B、310B、410B 鍔部
11、111、211、411 コイル
12、312、412、412A 組合せテープ
112A ポリエステルテープ
12A、212A エポキシ樹脂含浸テープ
12B テトロン織テープ
15A、B、C コイル引出線
215 流れ出たエポキシ樹脂
311 端子台
315 端子ピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7