【課題】被試験車載機を搭載した試験車両を実際に公道上で走行させることなく、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境において、被試験車載機が正常に動作するか否かを判定するストレス試験を実施することができるストレス試験システム及びストレス試験方法を提供する。
【解決手段】試験装置20は、仮想路側機及び仮想車載機から周期的に送信される模擬メッセージを生成する模擬メッセージ生成部25と、模擬メッセージを含む複数の試験信号を所定の制御周期単位で生成する変復調部22、フレーム処理部23、及び暗号化・復号部24と、試験信号を被試験車載機10に送信する試験信号送信部21と、被試験車載機10により抽出された模擬メッセージが、模擬メッセージ生成部25により生成された模擬メッセージと一致しているか否かを判定する合否判定部30と、を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されたような従来のシステムは、路車間通信を利用して車載機の無線通信機能を検査するものであり、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい通信環境を模擬するものではなく、高品質な車載機を実現するための試験を実施できないという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、被試験車載機を搭載した試験車両を実際に公道上で走行させることなく、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境において、被試験車載機が正常に動作するか否かを判定するストレス試験を実施することができるストレス試験システム及びストレス試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るストレス試験システムは、被試験車載機に対する試験を行う試験装置を備えるストレス試験システムであって、前記試験装置は、路側機を模擬した少なくとも1つの仮想路側機、及び、車載機を模擬した複数の仮想車載機から周期的に送信される模擬メッセージを生成する模擬メッセージ生成部と、前記模擬メッセージを含む複数の試験信号を所定の制御周期単位で生成する試験信号生成部と、前記試験信号を前記被試験車載機に送信する試験信号送信部と、を備え、前記被試験車載機は、前記試験信号送信部から送信された前記試験信号を受信する試験信号受信部と、前記試験信号受信部により受信された前記試験信号から前記模擬メッセージを抽出するメッセージ抽出部と、を備え、前記試験装置は、前記被試験車載機の前記メッセージ抽出部により抽出された模擬メッセージが、前記模擬メッセージ生成部により生成された模擬メッセージと一致しているか否かを判定する合否判定部を更に備える構成である。
【0011】
この構成により、本発明に係るストレス試験システムは、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境をストレスとして被試験車載機に加えることができる。これにより、本発明に係るストレス試験システムは、被試験車載機を搭載した試験車両を実際に公道上で走行させることなく、複雑かつ通信負荷の大きい通信環境で、被試験車載機が正常に動作するか否かを判定するストレス試験を効果的に実施することができる。
【0012】
また、本発明に係るストレス試験システムにおいては、前記試験信号生成部は、前記模擬メッセージ生成部により生成された模擬メッセージを暗号化する暗号化部を備え、前記試験信号送信部は、前記暗号化部により暗号化された模擬メッセージを含む前記試験信号、又は、前記暗号化部により暗号化されていない模擬メッセージを含む前記試験信号を前記試験信号受信部に送信し、前記メッセージ抽出部は、前記暗号化部により暗号化された模擬メッセージを復号する復号部を備え、前記試験信号受信部により受信された前記試験信号から、前記暗号化部により暗号化された前記模擬メッセージを抽出するとともに、前記暗号化部により暗号化されていない模擬メッセージを抽出し、前記合否判定部は、前記暗号化部により暗号化された模擬メッセージが前記復号部で正常に復号されたか否かを判定する構成であってもよい。
【0013】
この構成により、本発明に係るストレス試験システムは、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境において、被試験車載機が正常に復号処理を実行できるか否かを判定することができる。
【0014】
また、本発明に係るストレス試験システムにおいては、前記暗号化部は、前記模擬メッセージ生成部により生成された模擬メッセージにセキュリティ情報を付加して暗号化し、前記復号部は、前記暗号化部により暗号化された模擬メッセージを復号するとともに、前記セキュリティ情報が正当であるか否かを判断し、前記合否判定部は、前記復号部により前記セキュリティ情報が正当でないと判断された模擬メッセージを前記被試験車載機が破棄したか否かを判定する構成であってもよい。
【0015】
この構成により、本発明に係るストレス試験システムは、路側機や車載機のなりすましによる不正なメッセージを被試験車載機が識別できるか否かを判定することができる。
【0016】
また、本発明に係るストレス試験システムにおいては、前記試験装置は、模擬メッセージ生成部、前記試験信号生成部、及び前記試験信号送信部を制御する試験信号制御部を更に備え、各前記仮想路側機から送信される前記模擬メッセージは、各前記仮想路側機を識別するための仮想路側機IDの情報を含んでおり、各前記仮想車載機から送信される前記模擬メッセージは、各前記仮想車載機を識別するための仮想車載機IDの情報を含んでおり、前記試験信号制御部は、前記試験信号送信部により送信される前記複数の試験信号の送信電力レベルを前記制御周期単位で個々に調整する第1の機能と、前記模擬メッセージ生成部による前記模擬メッセージの生成のタイミングを制御することにより、前記試験信号送信部により送信される前記複数の試験信号の各送信期間を前記制御周期単位でランダムに変化させる第2の機能と、前記模擬メッセージ生成部により生成される前記模擬メッセージのうち、前記仮想車載機IDの情報を含む模擬メッセージの数を前記制御周期単位で変化させる第3の機能と、同一の前記仮想路側機IDの情報、又は、同一の前記仮想車載機IDの情報を含む前記模擬メッセージの前記模擬メッセージ生成部による生成を前記制御周期単位で個々にオン/オフする第4の機能と、前記試験信号生成部による前記試験信号の生成のタイミングを制御することにより、前記各送信期間において、前記仮想車載機IDの情報を含む前記試験信号が前記試験信号送信部により送信されるまでの待ち時間を前記制御周期単位で個々に変化させる第5の機能と、前記試験信号生成部により生成される前記複数の試験信号にジッタを付加する第6の機能と、前記試験信号生成部により生成される前記複数の試験信号のビットレートを変更する第7の機能と、のうちの少なくとも1つを実行する構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明に係るストレス試験システムは、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境を任意に作り出すことができる。
【0018】
また、本発明に係るストレス試験システムにおいては、前記被試験車載機は、前記被試験車載機を識別するための被試験車載機IDの情報を含むメッセージを生成するメッセージ生成部と、前記メッセージを含む複数の送信信号を所定の制御周期単位で生成する送信信号生成部と、前記送信信号を前記試験装置に送信する送信信号送信部と、を更に備え、前記試験装置は、前記メッセージ生成部に所定の前記メッセージを生成させるメッセージ制御部と、前記送信信号送信部から送信された前記送信信号を受信する送信信号受信部と、前記送信信号受信部により受信された前記送信信号から前記メッセージを抽出するメッセージ抽出部と、を更に備え、前記合否判定部は、前記試験装置の前記メッセージ抽出部により抽出されたメッセージが、前記メッセージ生成部により生成されたメッセージと一致しているか否かを判定する構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明に係るストレス試験システムは、試験装置から被試験車載機に試験信号が送信されていない期間に、被試験車載機から正常に送信信号が送信されたか否かを判定することができる。
【0020】
また、本発明に係るストレス試験方法は、被試験車載機に対する試験を行う試験装置を用いるストレス試験方法であって、路側機を模擬した少なくとも1つの仮想路側機、及び、車載機を模擬した複数の仮想車載機から周期的に送信される模擬メッセージを生成する模擬メッセージ生成ステップと、前記模擬メッセージを含む複数の試験信号を所定の制御周期単位で生成する試験信号生成ステップと、前記試験信号を前記被試験車載機に送信する試験信号送信ステップと、前記試験信号送信ステップで送信された前記試験信号を受信する試験信号受信ステップと、前記試験信号受信ステップで受信された前記試験信号から前記模擬メッセージを抽出するメッセージ抽出ステップと、前記メッセージ抽出ステップで抽出された模擬メッセージが、前記模擬メッセージ生成ステップで生成された模擬メッセージと一致しているか否かを判定する合否判定ステップと、を含む構成である。
【0021】
この構成により、本発明に係るストレス試験方法は、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境をストレスとして被試験車載機に加えることができる。これにより、本発明に係るストレス試験方法は、被試験車載機を搭載した試験車両を実際に公道上で走行させることなく、複雑かつ通信負荷の大きい通信環境で、被試験車載機が正常に動作するか否かを判定するストレス試験を効果的に実施することができる。
【0022】
また、本発明に係るストレス試験方法は、被試験車載機に対する試験を行う試験装置を用いるストレス試験方法であって、前記被試験車載機を識別するための被試験車載機IDの情報を含むメッセージを生成するメッセージ生成ステップと、前記メッセージを含む複数の送信信号を所定の制御周期単位で生成する送信信号生成ステップと、前記送信信号を前記試験装置に送信する送信信号送信ステップと、前記送信信号送信ステップで送信された前記送信信号を受信する送信信号受信ステップと、前記送信信号受信ステップで受信された前記送信信号から前記メッセージを抽出するメッセージ抽出ステップと、前記メッセージ抽出ステップで抽出されたメッセージが、前記メッセージ生成ステップで生成されたメッセージと一致しているか否かを判定する合否判定ステップと、を含む構成である。
【0023】
この構成により、本発明に係るストレス試験方法は、試験装置から被試験車載機に試験信号が送信されていない期間に、被試験車載機から正常に送信信号が送信されたか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、被試験車載機を搭載した試験車両を実際に公道上で走行させることなく、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境において、被試験車載機が正常に動作するか否かを判定するストレス試験を実施することができるストレス試験システム及びストレス試験方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るストレス試験システム及びストレス試験方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係るストレス試験システム100は、被試験車載機10に対する試験を行う試験装置20を備え、試験装置20から送信される試験信号を被試験車載機10が受信する受信試験を実施する。
【0028】
試験装置20は、フレーム送受信部21と、変復調部22と、フレーム処理部23と、暗号化・復号部24と、模擬メッセージ生成部25と、表示部26と、操作部27と、制御部28と、を備える。さらに、制御部28は、試験信号制御部29と、合否判定部30と、を含む。
【0029】
模擬メッセージ生成部25は、路側機を模擬した少なくとも1つの仮想路側機、及び、車載機を模擬した複数の仮想車載機から周期的に送信される模擬メッセージを所定の制御周期単位(例えば100msごと)で生成するようになっている。ここで、仮想路側機及び仮想車載機は、フレーム送受信部21と、変復調部22と、フレーム処理部23と、暗号化・復号部24と、模擬メッセージ生成部25により構成される。さらに、模擬メッセージ生成部25は、生成した模擬メッセージを暗号化・復号部24に出力するように構成されている。
【0030】
模擬メッセージは、実際の路車間通信や車車間通信で送受信される、各時刻における各車両の車両状態や、交通情報を示すメッセージに相当する。例えば、各仮想路側機から送信される模擬メッセージは、送信元である各仮想路側機を識別するための仮想路側機IDの情報や、事故情報、渋滞情報、信号情報などの情報を含んでいる。
【0031】
また、各仮想車載機から送信される模擬メッセージは、送信元である各仮想車載機を識別するための仮想車載機IDの情報(車両ID情報)、各仮想車載機を備える仮想車両の位置情報、車速情報、車両方位角情報、前後加速度情報、シフトポジション情報、ステアリング角度情報、車両サイズ種別情報、車両用途種別情報、車幅情報、車長情報、及び時刻情報などの情報を含んでいる。
【0032】
なお、「車両ID情報」とは、仮想車両ごとにテンポラリーに設定されるID情報である。また、「位置情報」とは、仮想車両が存在する位置の経度、緯度、及び高度の情報である。また、「車速情報」とは、仮想車両の速度情報である。また、「車両方位角情報」とは、仮想車両の進行方位角情報であり、北を0度とした時計回りの角度値である。また、「前後加速度情報」とは、仮想車両の前後方向の加速度情報である。
【0033】
また、「ステアリング角度情報」とは、仮想車両のステアリングの操舵角度情報である。また、「車幅情報」とは、仮想車両の全幅情報である。また、「車長情報」とは、仮想車両の全長情報である。また、「車両サイズ種別情報」とは、仮想車両のサイズ種別情報である。また、「車両用途種別情報」とは、仮想車両の用途種別情報である。
【0034】
また、「時刻情報」とは、仮想路側機又は仮想車載機からフレームが送信された時点の時刻情報である。また、「信号情報」とは、交差点などに設置されている信号機の灯色情報である。
【0035】
暗号化・復号部24は、模擬メッセージ生成部25により生成された模擬メッセージにセキュリティ情報を付加して暗号化する暗号化部として機能する。ここで、セキュリティ情報とは、例えば、公開鍵暗号方式を用いて生成された電子署名や、共通鍵暗号方式を用いて生成されたメッセージ認証コードである。
【0036】
フレーム処理部23は、暗号化・復号部24により暗号化された模擬メッセージ、又は、暗号化・復号部24により暗号化されていない模擬メッセージに各種のヘッダやフッタを付加して、試験信号のフレームを生成するようになっている。
【0037】
変復調部22は、フレーム処理部23により生成された試験信号のフレームに対して変調を実行した後に、変調された試験信号のフレームをフレーム送受信部21に出力するようになっている。
【0038】
変復調部22、フレーム処理部23、及び暗号化・復号部24は、模擬メッセージを含む複数の試験信号を所定の制御周期単位で生成する試験信号生成部を構成する。
【0039】
フレーム送受信部21は、被試験車載機10との間でフレームを周期的に送受信するようになっており、後述する被試験車載機10のフレーム送受信部11に試験信号を送信する試験信号送信部として機能する。例えば、試験装置20は、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)方式の通信を模擬して、フレーム送受信部21から仮想車載機IDの情報を含む試験信号を被試験車載機10に送信するようになっている。
【0040】
なお、上記のフレームの周波数帯としては、例えばUHF帯(特に700MHz帯)を利用することができる。また、フレーム送受信部21と後述する被試験車載機10のフレーム送受信部11とは同軸ケーブルで接続されていてもよく、あるいは、無線通信で接続されていてもよい。
【0041】
なお、フレーム送受信部21は、暗号化・復号部24により暗号化された模擬メッセージを含む試験信号、又は、暗号化・復号部24により暗号化されていない模擬メッセージを含む試験信号を後述する被試験車載機10のフレーム送受信部11に送信するようになっている。
【0042】
試験信号制御部29は、模擬メッセージ生成部25と、フレーム処理部23と、フレーム送受信部21とを制御するものである。
【0043】
試験信号制御部29は、送信電力レベル調整部29aと、送信期間変化部29bと、仮想車載機数変化部29cと、オン/オフ部29dと、待ち時間変化部29eと、ジッタ付加部29fと、ビットレート変更部29gとを含んでおり、制御周期単位で下記の第1〜第7の機能のうちの少なくとも1つを実行するようになっている。
【0044】
第1の機能は、送信電力レベル調整部29aにより実行されるものであり、フレーム送受信部21により送信される複数の試験信号の送信電力レベルを制御周期単位で個々に調整する機能である。この送信電力レベルは、実際の路車間通信又は車車間通信における被試験車載機10と路側機又は周辺車載機との遠近関係に応じたものとなっている。
【0045】
この第1の機能により、被試験車載機10のフレーム送受信部11における受信電力レベルが低下した際の被試験車載機10の動作試験を行うことができる。例えば、フレーム送受信部11が備えるAGCに対して、間欠メッセージの受信や急激なレベル低下時の耐力を確認することができる。
【0046】
第2の機能は、送信期間変化部29bにより実行されるものであり、模擬メッセージ生成部25による模擬メッセージの生成のタイミングを制御することにより、フレーム送受信部21により送信される複数の試験信号の各送信期間を制御周期単位でランダムに変化させる機能である。この第2の機能により、実際の車車間通信又は路車間通信での多元接続状態を模擬して被試験車載機10の動作試験を行うことができる。
【0047】
第3の機能は、仮想車載機数変化部29cにより実行されるものであり、模擬メッセージ生成部25により生成される模擬メッセージのうち、仮想車載機IDを含む模擬メッセージの数を制御周期単位で変化させる機能である。
【0048】
この第3の機能により、仮想車載機の数を変化させながら、渋滞、混雑、及び順調などの状況を模擬して被試験車載機10の動作試験を行うことができる。例えば、渋滞時の急激な通信負荷の増加に対する被試験車載機10の耐力を確認することが可能である。
【0049】
第4の機能は、オン/オフ部29dにより実行されるものであり、同一の仮想路側機IDの情報、又は、同一の仮想車載機IDの情報を含む模擬メッセージの模擬メッセージ生成部25による生成を制御周期単位で個々にオン/オフする機能である。この第4の機能により、ビルや歩道橋などの遮蔽物の影響による一時的な通信断を模擬して被試験車載機10の動作試験を行うことができる。
【0050】
第5の機能は、待ち時間変化部29eにより実行されるものであり、フレーム処理部23による試験信号の生成のタイミングを制御することにより、複数の試験信号の各送信期間において、仮想車載機IDの情報を含む試験信号がフレーム送受信部21により送信されるまでの待ち時間を制御周期単位で個々に変化させる機能である。この待ち時間は、CSMA/CA方式のバックオフ時間に相当する。この第5の機能により、実際の車車間通信での多元接続状態を模擬して被試験車載機10の動作試験を行うことができる。
【0051】
第6の機能は、ジッタ付加部29fにより実行されるものであり、フレーム処理部23により生成される複数の試験信号にジッタを付加する機能である。この第6の機能により、実際の車車間通信又は路車間通信で送受信されるメッセージを含む信号の位相の揺らぎを模擬して、被試験車載機10の動作試験を行うことができる。
【0052】
第7の機能は、ビットレート変更部29gにより実行されるものであり、フレーム処理部23により生成される複数の試験信号のビットレートを変更する機能である。この第7の機能により、実際の車車間通信又は路車間通信で送受信されるメッセージを含む信号の通信速度の変化を模擬して、被試験車載機10の動作試験を行うことができる。
【0053】
図2は、試験信号制御部29により試験信号が変化する様子を説明する図であり、縦軸は試験信号の送信電力レベル、横軸は時間を表している。図中の白四角は、仮想路側機から模擬メッセージが送信されている送信期間を示している。また、図中の黒四角は、仮想車載機からの模擬メッセージの送信が可能な送信期間を示している。ここで、r1,r2を仮想路側機IDとし、v1〜v15を仮想車載機IDとする。
【0054】
図2(a)は、上記の第1の機能により、ある制御周期における各試験信号の送信電力レベルが個々に調整されている状態を示している。
【0055】
図2(b)は、上記の第2の機能により、仮想車載機IDがv1とv3の仮想車載機の送信期間が
図2(a)の状態から変化するとともに、仮想路側機IDがr1とr2の仮想路側機の送信期間が
図2(a)の状態から変化した状態を示している。さらに、
図2(b)は、上記の第4の機能により、仮想車載機IDがv2の仮想車載機の試験信号が
図2(a)の状態からオフにされた状態を示している。
【0056】
図2(c)は、上記の第4の機能により、仮想車載機IDがv2の仮想車載機の試験信号が
図2(b)の状態から再びオンにされた状態を示している。さらに、
図2(c)は、上記の第3の機能により、仮想車載機IDがv15の仮想車載機から新たに試験信号が送信され、
図2(b)の状態から試験信号の数が変化した状態を示している。
【0057】
このように、試験信号制御部29は、第1〜第7の機能を任意の組み合わせで実行することにより、複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境を容易に作り出すことができる。なお、
図2に示した例は説明を分かりやすくするために単純化した例であり、本実施形態の試験信号及びその変化はこれに限定されない。
【0058】
被試験車載機10は、フレーム送受信部11と、変復調部12と、フレーム処理部13と、暗号化・復号部14と、メッセージ処理部15と、を備える。
【0059】
フレーム送受信部11は、試験装置20との間でフレームを周期的に送受信するようになっており、試験装置20のフレーム送受信部21から送信された試験信号を受信する試験信号受信部として機能する。
【0060】
変復調部12は、フレーム送受信部11により受信された試験信号に対して復調を実行するようになっている。
【0061】
フレーム処理部13は、変復調部12により復調された試験信号から、模擬メッセージを抽出するようになっている。
【0062】
暗号化・復号部14は、試験装置20の暗号化・復号部24により暗号化された模擬メッセージを復号するとともに、模擬メッセージに付加されたセキュリティ情報が正当であるか否かを判断する復号部として機能する。
【0063】
変復調部12、フレーム処理部13、及び暗号化・復号部14は、フレーム送受信部11により受信された試験信号から模擬メッセージを抽出するメッセージ抽出部として機能する。すなわち、変復調部12、フレーム処理部13、及び暗号化・復号部14は、フレーム送受信部11により受信された試験信号から、暗号化・復号部24により暗号化された模擬メッセージを抽出するとともに、試験装置20の暗号化・復号部24により暗号化されていない模擬メッセージを抽出するようになっている。
【0064】
メッセージ処理部15は、暗号化・復号部14によりセキュリティ情報の正当性が検証されなかった模擬メッセージを破棄するようになっている。
【0065】
試験装置20の合否判定部30は、被試験車載機10の変復調部12、フレーム処理部13、及び暗号化・復号部14により抽出された模擬メッセージが、模擬メッセージ生成部25により生成された模擬メッセージと一致しているか否かを判定するようになっている。
【0066】
また、合否判定部30は、暗号化・復号部24により暗号化された模擬メッセージが、被試験車載機10の暗号化・復号部14で正常に復号されたか否かを判定するようになっている。
【0067】
さらに、合否判定部30は、被試験車載機10の暗号化・復号部14によりセキュリティ情報が正当でないと判断された模擬メッセージを、被試験車載機10のメッセージ処理部15が破棄したか否かを判定するようになっている。
【0068】
表示部26は、例えばLCDやCRTなどの表示機器で構成され、合否判定部30による判定結果などを表示するようになっている。
【0069】
操作部27は、ユーザによる操作入力を行うためのものであり、例えば表示部26の表示画面の表面に設けられたタッチパネルで構成される。あるいは、操作部27は、キーボード又はマウスのような入力デバイスを含んで構成されてもよい。例えば、操作部27により、第1〜第7の機能のうちの少なくとも1つを選択して実行させ、フレーム送受信部21から送信される試験信号を制御することができる。
【0070】
試験装置20の制御部28は、例えばCPU、ROM、RAM、HDDなどを含むマイクロコンピュータ又はパーソナルコンピュータ等で構成され、試験装置20を構成する上記各部の動作を制御する。
【0071】
なお、試験信号制御部29及び合否判定部30は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのディジタル回路で構成することや、制御部28による所定のプログラムの実行によりソフトウェア的に構成することが可能である。あるいは、試験信号制御部29及び合否判定部30は、ディジタル回路によるハードウェア処理と所定のプログラムによるソフトウェア処理とを適宜組み合わせて構成することも可能である。
【0072】
以下、本実施形態のストレス試験システム100により実行される試験方法について、
図3のフローチャートを参照しながらその処理の一例を説明する。
【0073】
まず、ユーザによる操作部27の操作により、制御周期ごとに第1〜第7の機能のうちの少なくとも1つが選択される(ステップS1)。
【0074】
次に、ステップS1で選択された機能に応じて、模擬メッセージ生成部25は、路側機を模擬した少なくとも1つの仮想路側機、及び、車載機を模擬した複数の仮想車載機から周期的に送信される模擬メッセージを生成する(模擬メッセージ生成ステップS2)。
【0075】
次に、ステップS1で選択された機能に応じて、変復調部22、フレーム処理部23、及び暗号化・復号部24は、模擬メッセージ生成ステップS2で生成された模擬メッセージを含む複数の試験信号を制御周期単位で生成する(試験信号生成ステップS3)。
【0076】
次に、フレーム送受信部21は、試験信号生成ステップS3で生成された試験信号を被試験車載機10に送信する(試験信号送信ステップS4)。
【0077】
次に、被試験車載機10のフレーム送受信部21は、試験信号送信ステップS4で送信された試験信号を受信する(試験信号受信ステップS5)。
【0078】
次に、被試験車載機10の変復調部12、フレーム処理部13、及び暗号化・復号部14は、試験信号受信ステップS5で受信された試験信号から模擬メッセージを抽出する(メッセージ抽出ステップS6)。
【0079】
次に、合否判定部30は、メッセージ抽出ステップS6で抽出された模擬メッセージが、模擬メッセージ生成ステップS2で生成された模擬メッセージと一致しているか否かを判定する(合否判定ステップS7)。すなわち、合否判定ステップS7では、被試験車載機10において模擬メッセージの受信が正常に行われたか否かが判定される。
【0080】
次に、表示部26は、合否判定部30による判定結果を表示する(ステップS8)。
【0081】
次に、制御部28は、全ての制御周期に関する処理が終了したか否かを判定する(ステップS9)。否定判定の場合には模擬メッセージ生成ステップS2に戻り、肯定判定の場合には処理を終了する。なお、ステップS2〜S8の処理は周期的に(例えば100msごとに)実行されるようになっている。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係るストレス試験システム100は、少なくとも1つの仮想路側機及び複数の仮想車載機から周期的に送信される模擬メッセージを生成する模擬メッセージ生成部25により、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境をストレスとして被試験車載機10に加えることができる。これにより、本実施形態に係るストレス試験システム100は、被試験車載機10を搭載した試験車両を実際に公道上で走行させることなく、複雑かつ通信負荷の大きい通信環境で、被試験車載機10が正常に動作するか否かを判定するストレス試験を効果的に実施することができる。
【0083】
例えば、本実施形態に係るストレス試験システム100によれば、百数十台もの車両が被試験車載機10を搭載した試験車両の周辺を走行しているような通信環境を容易に作り出すことができる。このような通信環境を実際に実現しようとすれば、百数十台もの車両と運転者と路側機を用意した上、運転者による車両移動の統制が必要となるため、実現は不可能といえる。つまり、本実施形態に係るストレス試験システム100には、大規模かつ複雑な試験を低コストで簡単に実施できるというメリットがある。
【0084】
また、本実施形態に係るストレス試験システム100は、合否判定部30により、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境において、被試験車載機10が正常に復号処理を実行できるか否かを判定することができる。
【0085】
また、本実施形態に係るストレス試験システム100は、合否判定部30により、路側機や車載機のなりすましによる不正なメッセージを被試験車載機10が識別できるか否かを判定することができる。
【0086】
また、本実施形態に係るストレス試験システム100は、試験信号制御部29により、多数の周辺車両が移動するような複雑かつ通信負荷の大きい模擬的な通信環境を任意に作り出すことができる。
【0087】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係るストレス試験システム100について
図1を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。また、第1の実施形態と同様の動作についても適宜説明を省略する。
【0088】
図1に示す本実施形態のストレス試験システム100は、第1の実施形態の受信試験と並行して、被試験車載機10からCSMA/CA方式に基づいて送信される送信信号を試験装置20が受信する送信試験を実施する。
【0089】
本実施形態においては、被試験車載機10を構成する各部は、第1の実施形態で説明した動作を行うとともに、以下に説明する動作を並行して行う。
【0090】
本実施形態においては、被試験車載機10のメッセージ処理部15は、後述する試験装置20のメッセージ制御部31の制御により、被試験車載機10を識別するための被試験車載機IDの情報を含むメッセージを生成するメッセージ生成部として機能する。
【0091】
暗号化・復号部14は、メッセージ処理部15により生成されたメッセージにセキュリティ情報を付加して暗号化するようになっている。
【0092】
フレーム処理部13は、暗号化・復号部14により暗号化されたメッセージに各種のヘッダやフッタを付加して、送信信号のフレームを生成するようになっている。
【0093】
変復調部12は、フレーム処理部13により生成された送信信号のフレームに対して変調を実行した後に、変調された送信信号のフレームをフレーム送受信部11に出力するようになっている。
【0094】
変復調部12、フレーム処理部13、及び暗号化・復号部14は、メッセージ処理部15により生成されたメッセージを含む複数の送信信号を所定の制御周期単位で生成する送信信号生成部を構成する。
【0095】
フレーム送受信部11は、送信信号を試験装置20のフレーム送受信部21に送信する送信信号送信部として機能する。
【0096】
本実施形態においては、試験装置20を構成する各部は、第1の実施形態で説明した動作を行うとともに、以下に説明する動作を並行して行う。
【0097】
本実施形態においては、試験装置20のフレーム送受信部21は、被試験車載機10のフレーム送受信部11から送信された送信信号を受信する送信信号受信部として機能する。
【0098】
変復調部22は、フレーム送受信部21により受信された送信信号に対して復調を実行するようになっている。フレーム処理部23は、変復調部22により変調された送信信号から模擬メッセージを抽出するようになっている。暗号化・復号部24は、被試験車載機10の暗号化・復号部14により暗号化されたメッセージを復号するようになっている。
【0099】
変復調部22、フレーム処理部23、及び暗号化・復号部24は、フレーム送受信部21により受信された送信信号からメッセージを抽出するメッセージ抽出部として機能する。
【0100】
制御部28は、第1の実施形態で説明した構成に加えて、メッセージ制御部31を含む。メッセージ制御部31は、被試験車載機10の位置情報などの情報を被試験車載機10のメッセージ処理部15に出力し、被試験車載機10のメッセージ処理部15に所定のメッセージを生成させるようになっている。
【0101】
メッセージ制御部31から被試験車載機10のメッセージ処理部15に出力される情報は、例えば、送信元である被試験車載機10を識別するための被試験車載機IDの情報、被試験車載機10を備える仮想車両の位置情報、車速情報、車両方位角情報、前後加速度情報、シフトポジション情報、ステアリング角度情報、車両サイズ種別情報、車両用途種別情報、車幅情報、車長情報、及び時刻情報などである。
【0102】
なお、メッセージ制御部31は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのディジタル回路で構成することや、制御部28による所定のプログラムの実行によりソフトウェア的に構成することが可能である。あるいは、メッセージ制御部31は、ディジタル回路によるハードウェア処理と所定のプログラムによるソフトウェア処理とを適宜組み合わせて構成することも可能である。
【0103】
合否判定部30は、変復調部22、フレーム処理部23、及び暗号化・復号部24により抽出されたメッセージが、被試験車載機10のメッセージ処理部15により生成されたメッセージと一致しているか否かを判定するようになっている。これにより、試験装置20から被試験車載機10に試験信号が送信されている通信負荷の大きい状況において、被試験車載機10が送信信号を試験装置20に正常に送信できるか否かを判定することができる。
【0104】
以下、本実施形態のストレス試験システム100による試験方法について、
図4のフローチャートを参照しながらその処理の一例を説明する。
図4のフローチャートの処理は、第1の実施形態の
図3のフローチャートの処理が実行されている状態で、並行して実行される。
【0105】
まず、メッセージ制御部31から出力された情報に応じて、被試験車載機10のメッセージ処理部15は、被試験車載機10を識別するための被試験車載機IDの情報を含むメッセージを生成する(メッセージ生成ステップS11)。
【0106】
次に、変復調部12、フレーム処理部13、及び暗号化・復号部14は、メッセージ生成ステップS11で生成されたメッセージを含む複数の送信信号を制御周期単位で生成する(送信信号生成ステップS12)。
【0107】
次に、フレーム送受信部11は、送信信号生成ステップS12で生成された送信信号を試験装置20に送信する(送信信号送信ステップS13)。
【0108】
次に、試験装置20のフレーム送受信部21は、送信信号送信ステップS13で送信された送信信号を受信する(送信信号受信ステップS14)。
【0109】
次に、変復調部22、フレーム処理部23、及び暗号化・復号部24は、送信信号受信ステップS14で受信された送信信号からメッセージを抽出する(メッセージ抽出ステップS15)。
【0110】
次に、合否判定部30は、メッセージ抽出ステップS15で抽出されたメッセージが、メッセージ生成ステップS11で生成されたメッセージと一致しているか否かを判定する(合否判定ステップS16)。すなわち、合否判定ステップS16では、被試験車載機10がメッセージを正常に送信できたか否かが判定される。
【0111】
次に、表示部26は、合否判定部30による判定結果を表示する(ステップS17)。
【0112】
以上説明したように、本実施形態に係るストレス試験システム100は、合否判定部30により、試験装置20から被試験車載機10に試験信号が送信されていない期間に、被試験車載機10から正常に送信信号が送信されたか否かを判定することができる。