【課題】表面にナノスケールの凹凸構造等の微細構造を有する微細構造体、及び該微細構造体を、適当なレーザーを用いることで、極力少ないエネルギーで効率良くかつ精度良く製造可能な微細構造体の製造方法、並びに前記微細構造体及びその製造方法に好適な微細構造体製造用組成物の提供。
【解決手段】基材上に、Si化合物と導電性微粒子とを含有するSi化合物膜を形成するSi化合物膜形成工程と、前記Si化合物膜に短パルスレーザーを照射し、前記Si化合物膜を加工する加工工程とを含むことを特徴とする微細構造体の製造方法である。前記微細構造体の製造方法により製造されたことを特徴とする微細構造体である。前記微細構造体の製造方法に用いられ、Si化合物と導電性微粒子とを含有することを特徴とする微細構造体製造用組成物である。
基材上に、Si化合物と導電性微粒子とを含有するSi化合物膜を形成するSi化合物膜形成工程と、前記Si化合物膜に短パルスレーザーを照射し、前記Si化合物膜を加工する加工工程とを含み、
前記Si化合物膜の表面にナノスケールの凹凸構造を有する微細構造体を製造することを特徴とする微細構造体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノ構造の加工方法として、短パルスレーザーの照射によって金属表面や半導体表面などの基材上に、レーザー光を用いて、ナノスケールの微細な凹凸構造を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3及び非特許文献1〜2参照)。この方法においては、前記レーザー光を前記基材上に照射することにより、表面波を発生させ、この表面波と前記レーザー光とを干渉させることにより、光の波長程度の前記微細な凹凸構造を形成することができる。例えば、金属材料に短パルスレーザーを照射すると、表面がレーザー光を吸収することにより、電子の粗密分布が生じ、波長程度の周期をもつ表面プラズモンが発生する。そして、電子密度が高くなった箇所でクーロン爆発が起こり、金属材料に微細な周期構造が形成される。
しかし、この方法において、金属、半導体以外の、ガラス等のレーザーを透過するような材料を基材として用いた場合に、基材から表面波が発生しないため、前記レーザー光を用いても、微細な凹凸構造を形成することができないという問題がある。
【0003】
そこで、金属、半導体以外の、ガラス等のレーザーを透過するような材料を前記基材とし、レーザー光を用いても、前記微細な凹凸構造を形成することができる方法が提案されている。
【0004】
第1の方法としては、前記基材の表面に微細なレジストパターンを形成し、エッチング処理等を行うリソグラフィ法がある(例えば、特許文献4参照)。
しかし、このリソグラフィ法の場合、前記レジストパターンを前記基材上の所望の位置にかつ所望のサイズに形成することが容易ではなく、ナノスケールの微細な凹凸構造を精度良く形成することが難しいという問題がある。
【0005】
第2の方法としては、前記基材の表面に顔料を付着させ、該基材の表面に穴を形成する方法がある(例えば、特許文献5参照)。
しかし、この方法の場合、前記顔料を除去する必要があり、加工時間が長くなり、ナノスケールの微細な凹凸構造を効率良く形成することが難しいという問題がある。
【0006】
第3の方法としては、エキシマレーザーを用いることで、光重合開始剤を添加したポリシラザンに光照射をパターン状に行って硬化させ、所望のパターン状の硬化膜を得る方法がある(例えば、特許文献6参照)。
しかし、この方法の場合、前記エキシマレーザーを照射することにより、前記ポリシラザンを硬化させるためには、レジスト材料を塗布しなければならないという問題がある。また、そもそも基材自体の表面に前記微細な凹凸構造を形成する方法ではない上、前記基材の表面に前記微細な凹凸構造を形成するためには、前記エキシマレーザーを用いることが必ずしも適当であるとはいえない。前記エキシマレーザーは連続光を照射するものであるため、パルスが発生せず、電子の振動を起こすことができず、それゆえ、前記ポリシラザンに対するパターンの形成を効率良く行うことが難しいという問題もある。
【0007】
第4の方法としては、ポリシラザン層にレーザー光を用いた加工を行うために、該レーザー光を吸収しない前記ポリシラザン層の下に前記レーザー光を吸収する材料層を形成し、該材料層に前記レーザー光を照射することにより、該レーザー光が照射された前記材料層に接する前記ポリシラザン層をアブレーションさせて、該ポリシラザン層をレーザー加工する方法がある(例えば、特許文献7参照)。
しかし、この方法の場合、前記ポリシラザン層をアブレーションさせて、レーザー加工を行うためには、前記材料層の存在が必要となり、基材の上に1層分の余分な層を含まなければならないという問題がある。
【0008】
したがって、ナノスケールの凹凸構造を有する微細構造体を、適当なレーザーを用いることで、効率良くかつ精度良く製造することができる技術の開発が求められているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(微細構造体及びその製造方法、並びに微細構造体製造用組成物)
本発明の微細構造体の製造方法は、Si化合物膜形成工程と、加工工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明の微細構造体は、本発明の前記微細構造体の製造方法により製造された微細構造体である。
【0016】
<Si化合物膜形成工程>
前記Si化合物膜形成工程は、基材上に、Si化合物と導電性微粒子とを含有するSi化合物膜を形成する工程である。
【0017】
<<基材>>
前記基材としては、特に制限はなく、その材質、形状、構造、大きさなどは、目的に応じて適宜選択することができる。
前記基材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セラミックス、金属、半導体、DLC(ダイアモンドライクカーボン)などが挙げられる。
【0018】
前記セラミックスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、金属酸化物、金属窒化物、炭化物、ホウ化物などが挙げられる。
前記ガラスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、青板ガラス、白板ガラス、石英ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱温度という点で石英ガラスが好ましい。また、前記ガラスを基材として用いることにより、前記ガラスの透明性が高いという性質から、自動車のフロントガラス、太陽熱発電の熱吸収管の表面ガラスのような光学部材などに適用できるという利点がある。
前記金属酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、チタニア(TiO
2)などが挙げられる。
前記金属窒化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガリウムナイトライド(GaN)などが挙げられる。
前記炭化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B
4C)、炭化カルシウム(CaC
2)などが挙げられる。
前記ホウ化物としては、特に制限することはなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホウ化アルミニウム(AlB
2)、ホウ化マグネシウム(MgB
2)などが挙げられる。
前記金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレス鋼、鉄、銅、チタン、白金、金、銀、ニッケル、クロム、パラジウムなどが挙げられる。
また、前記基材としては、上記例示した材質を、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
【0019】
前記基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、球面状などが挙げられる。
前記基材の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単一構造、複数の材料で構成されている構造などが挙げられる。
前記複数の材料で構成されている構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層、積層、混合層などが挙げられる。
前記基材の大きさとしては、特に制限はなく、例えば、自動車のフロントガラスなどの微細構造体の用途における大きさに合わせて、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
<<Si化合物膜>>
前記Si化合物膜は、前記Si化合物と前記導電性微粒子とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。ただし、前記Si化合物膜はレジスト材料を含んでいないものとする。
前記Si化合物膜は、本発明の微細構造体製造用組成物により、好適に形成することができる。
【0021】
<<微細構造体製造用組成物>>
前記微細構造体製造用組成物は、前記Si化合物と前記導電性微粒子とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0022】
−−Si化合物−−
前記Si化合物としては、Siを含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、光や熱のエネルギーを付与することにより、ガラスに転化しうる材料、もしくは、酸素や酸素原子を持つ物質と反応することにより、ガラスに転化しうる材料であるのが好ましく、例えば、ポリシラザン、ポリシロキサンなどが好適に挙げられる。これらの中でも、優れた光学特性のガラスに転化する点で、ポリシラザンが好ましく、パーヒドロポリシラザン(PHPS)がより好ましい。
前記Si化合物としては、上記例示したものを、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また、適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
【0023】
なお、前記エネルギーを前記Si化合物に付与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザーを照射する方法、焼成する方法などが挙げられる。
前記レーザーを照射するエネルギーの大きさによっては、前記Si化合物膜をガラスに転化することができるが、更に後述の焼成工程を行うことにより、前記Si化合物膜のガラスへの転化を完全に行うことができる。
前記ガラスは光学特性に優れるため、自動車のフロントガラス、太陽熱発電の熱吸収管の表面ガラスのような光学部材などに適用できるという利点がある。
【0024】
−−導電性微粒子−−
前記導電性微粒子としては、特に制限はなく、その材質、形状、大きさ、構造などは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記材質としては、遷移金属などが好適に挙げられる。
本発明における導電性とは、Siの導電率よりも高い導電率をもつことを言う。前記導電性微粒子の導電率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.5×10
−4[S/m]超であることが好ましく、1×10
6[S/m]以上がより好ましい。
【0025】
前記遷移金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Pt、Ni、Ti、Cr、Phなどが挙げられる。
また、前記導電性微粒子の材質としては、上記例示したものを、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、また適宜合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
【0026】
前記導電性微粒子の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、球形、ワイヤー状、針状、不定形などが挙げられる。
【0027】
前記導電性微粒子の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下が特に好ましい。
前記導電性微粒子の平均粒子径が150nmを超えると、前記微細構造体が形成されにくいことがある。
前記導電性微粒子の平均粒子径の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、動的光散乱法、レーザー回析法、画像イメージング法、重力沈殿法などが挙げられる。
【0028】
前記導電性微粒子の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単一部材で形成されていてもよいし、2種以上の部材で形成されていてもよく、後者の場合としては、例えば、コアシェル構造などであってもよい。
【0029】
前記Si化合物膜における、前記導電性微粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01質量%〜10質量%が好ましく、0.04質量%〜1質量%がより好ましい。
前記Si化合物膜における前記導電性微粒子の含有量が、0.01質量%未満であると、前記短パルスレーザーの照射回数が減らせず、10質量%を超えると、前記導電性微粒子由来の着色及びヘイズが生じることがある。
【0030】
−−その他の成分−−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶媒などが挙げられる。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機溶媒などが挙げられる。
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、キシレン、ジブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0031】
−−Si化合物膜の形成−−
前記Si化合物膜の形成方法としては、例えば、前記Si化合物と前記導電性微粒子と前記溶媒とを含有する微細構造体製造用組成物を、前記基材上に塗布する方法などが挙げられる。
また、前記基材上に前記微細構造体製造用組成物を塗布する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、ロールコート法、スプレーコート法、塗り込み法、スピンコート法、バーコート法、カーテンコート法、ダイコート法、ディップコート法などが挙げられる。
【0032】
−−Si化合物膜の平均厚み−−
前記Si化合物膜の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができるが、100nm〜5μmが好ましい。
前記平均厚みが、100nm未満であると、表面に微細な周期構造を形成することが困難となり、5μmを超えると、前記Si化合物膜がガラスに転化した際に割れが発生することがある。
前記平均厚みの測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、反射率分光法、干渉間隔法、周波数解析法、触針法、断面SEM観察、断面TEM観察などが挙げられる。
【0033】
<加工工程>
前記加工工程は、前記Si化合物膜に短パルスレーザーを照射し、前記Si化合物膜を加工する工程である。
【0034】
<<短パルスレーザー>>
前記短パルスレーザーは、パルスレーザーの中でも、特に発光時間(間隔)の短いもの(数ピコ秒〜数フェムト秒)をいう。
前記短パルスレーザーを照射するためには、一般的にレーザー照射装置が用いられる。前記レーザー照射装置を用いて、所定波長の短パルスレーザーを前記Si化合物膜に照射することにより、レーザー照射領域にその所定波長サイズ、もしくは所定波長より小さいサイズの周期構造を形成することができる。
前記Si化合物膜に前記短パルスレーザーが照射されている時に、前記Si化合物膜中の前記Si化合物、もしくは前記導電性微粒子で電子が位置移動し、前記短パルスレーザーが照射されていない時に、前記Si化合物膜中の前記Si化合物、もしくは前記導電性微粒子で電子が元の位置に戻ろうとする。その繰り返しにより、電子の振動を起こすことができる。この電子の振動により、表面波が生じ、該表面波と前記短パルスレーザーとが干渉することより加工が行われる。また、前記Si化合物膜に照射するレーザーが短パルスであることにより、強いエネルギーを与えることができるため、前記Si化合物膜が加工されうる。
なお、本発明においては、前記レーザー照射装置として、市販品のものを使用することができる。
【0035】
−レーザー照射装置−
前記短パルスレーザーを射出するレーザー照射装置の概略を
図1に示す。レーザー本体1は、例えば、垂直方向に直接偏光したレーザー光(レーザー光と称することがある)を射出し、波長板2(λ/2波長板)を用いて、偏光方向を回転させることで、所望の方向の直接偏光を得ることができる。また、λ/2波長板の代替でλ/4波長板を用いることで、円偏光を得ることができる。また、本装置では、四角形の開口を有するアパチャー3を用いて、前記レーザー光の一部を取り出す。これは、前記レーザー光の強度分布がガウス分布となっているので、その中央付近のみを用いることで、面内強度分布の均一な前記レーザー光を得るようにしている。また、本装置では、直交させた2枚のシリンドリカルレンズ4を用いて、前記レーザー光を絞ることにより、所望のビームサイズとすることができる。所望のビームサイズの前記レーザー光は、リニアステージ6上のサンプル5に照射される。
【0036】
前記短パルスレーザーの制御因子としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、波長、フルーエンス、照射パルス数、パルス幅、ビームスポットなどが挙げられる。
【0037】
−波長−
前記波長としては、特に制限はなく、所望の周期構造に応じて266nm〜1,570nmの範囲から適宜選択することができる。好ましくは266nm〜800nmの範囲の波長である。更に好ましくは390nm〜800nmの範囲の波長である。例えば、前記短パルスレーザーの波長は、800nm、400nm、266nmなどの所望の周期構造に応じて適宜選択された値をとることができる。
【0038】
−フルーエンス−
前記フルーエンス(fluence)とは、レーザーの1パルス当たりのエネルギーE(J)を照射断面積S(cm
2)で割ったエネルギー密度E/S(J/cm
2)である。所定のフルーエンスの範囲は、材料によって異なるが、0.01J/cm
2〜1.0J/cm
2が好ましい。
前記フルーエンスの値が、0.01J/cm
2未満であると、微細構造を形成できないことがあり、1.0J/cm
2を超えると、微細構造が消えてしまうことがある。
【0039】
−照射パルス数−
前記照射パルス数は、フルーエンスや周期構造の加工深さによるが、加工時間を短くするために、できる限り少ない方が好ましい。
本発明の実施例において、必要な前記照射パルス数は、パルス周波数で制御しているため、とびとびの値をとる。なお、前記照射パルス数n(回)は、前記パルス周波数f(Hz)を用いて以下の式(1)で表すことができる。
n=1/f ・・・(1)
【0040】
−パルス幅−
前記パルス幅としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、短い方が好ましく、0.01ピコ秒(ps)〜100ピコ秒(ps)が好ましい。
前記パルス幅の値が、0.01ピコ秒(ps)未満であると、微細構造が形成されないことがあり、100ピコ秒(ps)を超えると、微細構造が形成されないことがある。
【0041】
−ビームスポット−
前記ビームスポットの形状は、四角形であることが好ましい。前記ビームスポットの整形は、例えば、アパチャーやシリンドリカルレンズ等によって行うことが可能である。また、ビームスポットにおけるレーザー光の強度分布は、できるだけ均一であることが好ましい。
また、前記ビームスポット径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、30μm〜500μmが好ましい。
【0042】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、洗浄工程、焼成工程、酸化処理工程などが挙げられる。
【0043】
<<焼成工程>>
前記焼成工程は、前記Si化合物膜に短パルスレーザーを照射した後、前記Si化合物膜を焼成する工程である。
前記焼成工程は、前記Si化合物膜をガラスへと完全に転化する際に行われる。
前記焼成工程における焼成温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、200℃〜1,600℃が好ましい。
前記焼成工程における焼成時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般には、Si化合物膜を完全にガラス化できる程度の時間が好ましい。
【0044】
−−微細構造体の用途−−
本発明の微細構造体の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記基材がガラスである場合には、光学部材として好適に使用することができ、例えば、自動車のフロントガラス、太陽熱発電の熱吸収管の表面ガラスなどが好適に挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
本実施例では、基材上にSi化合物膜を形成し、短パルスレーザーを照射する。その後、微細構造体を電界放射型走査型電子顕微鏡(FESEM:Field Emission−Scanning Electron Microscope、日立製作所製S−4700型)を用いて、表面観察及び元素分析を行った。
【0047】
(実施例1)
前記Si化合物としてのパーヒドロポリシラザン(商品名:アクアミカNN120、クラリアント社製)99.96質量部(溶媒分を除く)と前記導電性微粒子としての金粒子(製品名:AuDT、田中貴金属社製、平均粒子径;3nm)0.04質量部とを混合して、微細構造体製造用組成物を調製した。
前記基材として板状のガラス(S9112、松浪硝子社製)を用い、前記基材上に前記微細構造体製造用組成物をバーコーターを用いて塗布し、平均厚みが1,500nmであるSi化合物膜を形成した。その後、前記Si化合物膜に前記Si化合物膜側から短パルスレーザーを下記の照射条件で照射した。
なお、前記Si化合物膜の平均厚みは、膜厚測定システム(F20、フィルメトリクス社製)を用いて測定した。
<照射条件>
装置 :IFRIT(サイバーレーザー社製)
フルーエンス :0.12J/cm
2
パルス幅 :200fs
周波数 :1kHz
波長 :390nm
ビームスポット :300μm×120μm
【0048】
<評価>
<<微細構造の形成に必要な照射パルス数>>
照射パルス数は、パルス周波数で制御している。そのため、照射パルス数は、所定の回数で行った。本実施例における照射パルス数は8回、16回、33回、66回、125回、250回、500回、1,000回、2,000回、4,000回で行った。
上記照射パルス数の照射を行った後にSEM観察を行い、平均最大径が150nm〜500nmの微細構造が観察された最小の照射パルス数を、必要な照射パルス数とした。結果を表1に示した。
【0049】
<<外観着色>>
必要な照射パルス数の短パルスレーザーを照射した後の、Si化合物膜の外観着色を、目視により観察した。結果を表1に示した。
【0050】
(実施例2〜21)
実施例1において、Si化合物膜における導電性微粒子の種類、前記導電性微粒子の含有量、前記導電性微粒子の平均粒子径を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様に微細構造体の製造を行い、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示した。また、実施例5、8において微細構造の形成を続けた後のSEM写真をそれぞれ
図2、3に示す。
【0051】
(比較例1)
実施例1において、基材上にSi化合物膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、前記基材に短パルスレーザーを照射し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示した。
【0052】
(比較例2)
実施例1において、前記導電性微粒子を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、微細構造体の製造を行い、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示した。
【0053】
(比較例3〜6)
実施例2において、微粒子の種類、前記微粒子の含有量を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例2と同様に微細構造体の製造を行い、実施例2と同様の評価を行った。結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
以下に本発明で用いた微粒子の製品名及び製造会社名を記す。
Au(3nm):AuDT、田中貴金属社製(導電性微粒子;48.78×10
6[S/m])
Au(75nm):金、イオリテック社製(導電性微粒子;48.78×10
6[S/m])
Ag:銀、イオリテック社製(導電性微粒子;25×10
6[S/m])
Pd:パラジウム微粒子、QuantumSphereInc社製(導電性微粒子;10×10
6[S/m])
Cu:銅、イオリテック社製(導電性微粒子;64.5×10
6[S/m])
Si:シリコン、イオリテック社製(非導電性微粒子;2.5×10
−4[S/m])
TiO
2:スーパータイタニアF−6、昭和電工社製(非導電性微粒子;10
−12[S/m])
SiO
2:AEROSIL RX200;日本アエロジル社製(非導電性微粒子;10
−14[S/m])
【0055】
パーヒドロポリシラザンに前記導電性微粒子を加えることで、必要な照射パルス数を減らすことができた。
また、前記Si化合物に対する前記導電性微粒子の材質が、Au、Ag、Cuの場合では、Pdの場合よりも必要なパルス数を減らすことができた。この理由は、Au(48.78×10
6[S/m])、Ag(25×10
6[S/m])、Cu(64.5×10
6[S/m])の導電率がPd(10×10
6[S/m])のそれよりも大きいためであると考えられる。
比較例1は照射パルス数が4,000でも微細構造体が形成されなかった。