【解決手段】熱硬化性樹脂が含浸した発泡体が圧縮された状態で硬化してなる樹脂層11の両面に、炭素繊維強化層21、21を積層一体化した繊維強化成形体10において、樹脂層11には厚み方向に金属塊31が貫通して埋設され、樹脂層11に埋設された金属塊31が樹脂層11の両面で炭素繊維強化層21、21と接触した構成からなり、樹脂層11に埋設した金属塊31によって樹脂層11の両面の炭素繊維強化層21、21間の良好な導電性を確保した。
熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱することにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体が圧縮された状態で硬化してなる樹脂層の両面に、前記炭素繊維プリプレグが硬化してなる炭素繊維強化層を積層一体化した繊維強化成形体の製造方法において、
前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に前記炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱する際に、
前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の片面と前記炭素繊維プリプレグとの間の少なくとも1箇所に金属塊を配置し、
前記圧縮及び加熱を行うことにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体に前記金属塊を押し込み、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面で前記金属塊と前記炭素繊維プリプレグが接触した状態にして、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体及び前記炭素繊維プリプレグを硬化させることを特徴とする繊維強化成形体の製造方法。
熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱することにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体が圧縮された状態で硬化してなる樹脂層の両面に、前記炭素繊維プリプレグが硬化してなる炭素繊維強化層を積層一体化した繊維強化成形体の製造方法において、
前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に前記炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱する際に、
前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の少なくとも1箇所に金属塊を埋設し、
前記圧縮及び加熱を行うことにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面で前記金属塊と前記炭素繊維プリプレグが接触した状態にして、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体及び前記炭素繊維プリプレグを硬化させることを特徴とする繊維強化成形体の製造方法。
前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の少なくとも1箇所に切り込みを設け、前記切り込みに前記金属塊を挿入して埋設することを特徴とする請求項5に記載の繊維強化成形体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、金属製のボルトを炭素繊維強化プラスチック構造体の厚み方向に貫通させたものは、表面にボルトの頭などの突部が存在して美観が損なわれるため、意匠面及び加飾面には、使用できないという問題がある。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、厚み方向に導電性を有し、導電性確保のためのボルトの頭などによる突部が表面に存在しない、意匠面に加飾等が付与できる繊維強化成形体及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、樹脂層の両面に炭素繊維強化層を積層一体化した繊維強化成形体であって、前記樹脂層には該樹脂層の厚み方向に金属塊が貫通して埋設され、前記金属塊が前記樹脂層の両面で前記炭素繊維強化層と接触していることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記金属塊は、スズを含む合金であって、前記樹脂層の複数箇所に設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記樹脂層は、熱硬化性樹脂が含浸した発泡体が圧縮された状態で硬化してなることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱することにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体が圧縮された状態で硬化してなる樹脂層の両面に、前記炭素繊維プリプレグが硬化してなる炭素繊維強化層を積層一体化した繊維強化成形体の製造方法において、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に前記炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱する際に、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体と前記炭素繊維プリプレグとの間の少なくとも1箇所に金属塊を配置し、前記圧縮及び加熱を行うことにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体に前記金属塊を押し込み、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面で前記金属塊と前記炭素繊維プリプレグが接触した状態にして、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体及び前記炭素繊維プリプレグを硬化させることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱することにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体が圧縮された状態で硬化してなる樹脂層の両面に、前記炭素繊維プリプレグが硬化してなる炭素繊維強化層を積層一体化した繊維強化成形体の製造方法において、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面に前記炭素繊維プリプレグを配置して圧縮及び加熱する際に、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の少なくとも1箇所に金属塊を埋設し、前記圧縮及び加熱を行うことにより、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の両面で前記金属塊と前記炭素繊維プリプレグが接触した状態にして、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体及び前記炭素繊維プリプレグを硬化させることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項5において、前記熱硬化性樹脂が含浸した発泡体の少なくとも1箇所に切り込みを設け、前記切り込みに前記金属塊を挿入して埋設することを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、請求項4から6の何れか一項において、前記金属塊はスズを含む合金からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の繊維強化成形体は、樹脂層に埋設された金属塊が樹脂層の両面で炭素繊維強化層と接触しているため、樹脂層の両面の炭素繊維強化層間の導電性が樹脂層に埋設された金属塊で確保でき、かつ表面に突部が存在せず、厚み方向の導電性及び表面の美観が求められる用途に好適である。
また、本発明の製造方法によれば、厚み方向に導電性を有し、かつ表面に突部が存在しない繊維強化成形体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の繊維強化成形体及びその製造方法について図面を用いて説明する。
図1及び
図2に示す本発明の一実施形態に係る繊維強化成形体10は、樹脂層11の両面に炭素繊維強化層21、21を積層一体化した繊維強化成形体であり、厚み方向に導電性を有し、かつ導電性確保のためのボルトの頭などによる突部が表面に存在しない良好な美観を有するものであり、タブレットやノートパソコン等の携帯機器の筐体などに好適である。前記繊維強化成形体10の厚みは、0.3〜3.0mmが好ましい。なお、図示の例の繊維強化成形体10は、長方形の板状からなるが、用途に応じた形状に成形される。
【0017】
前記樹脂層11は、熱硬化性樹脂が含浸した発泡体を圧縮した状態で前記熱硬化性樹脂を硬化させたものが好ましい。前記発泡体は、特に限定されるものではなく、例えば、連続気泡構造を有する発泡体、具体的にはメラミン発泡体又はウレタン発泡体が好適である。特にメラミン発泡体を圧縮する場合には、金属塊によってメラミン発泡体が座屈し、樹脂層に金属塊が埋設しやすく好適である。前記繊維強化成形体10に難燃性が求められる場合には、前記発泡体としては難燃性のものが好ましく、メラミン発泡体は樹脂単体が良好な難燃性を有するため好適なものである。また、前記発泡体を圧縮した状態で前記熱硬化性樹脂が硬化することにより、前記繊維強化成形体10の薄肉化と剛性の向上を図ることができる。
【0018】
前記樹脂層11用の発泡体の圧縮前の元厚みは、圧縮率により異なるが、例えば、厚さ3mm以下の繊維強化成形体を得ようとする場合、元厚み1〜25mmが好ましい。この範囲に元厚みがあると、適度な量の熱硬化性樹脂を含浸でき、加熱圧縮後の歩留まりも良い。元厚みが1mmより薄いと、含浸した熱硬化性樹脂を発泡体中に保持できず、含浸比率がばらついて品質が一定しなくなる。一方、元厚みが25mmより厚いと、厚さ3mm以下の繊維強化成形体を得ようとした場合、圧縮が困難で、均一な厚みの繊維強化成形体が得られない。また、前記樹脂層11用の発泡体は、圧縮容易性、含浸性、軽量性、剛性の点から、圧縮前の密度が5〜80kg/m
3のものが好ましい。
【0019】
前記樹脂層11用の発泡体に含浸する熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、前記繊維強化成形体10の剛性を高めるためには、熱硬化性樹脂自体がある程度の剛性を有する必要があり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の混合物からなる群より選択することができる。また、前記繊維強化成形体10に難燃性が求められる場合、前記熱硬化性樹脂は難燃性のものが好ましい。フェノール樹脂は良好な難燃性を有するため、前記発泡体に含浸させる熱硬化性樹脂として好適である。
【0020】
前記樹脂層11の一部には、該樹脂層11の厚み方向に金属塊31、31が貫通して埋設される。前記金属塊31、31は、前記樹脂層11の両面で前記炭素繊維強化層21、21の内面と接触している。すなわち、前記金属塊31、31は、前記樹脂層11と前記炭素繊維強化層21とのふたつの界面で接触している。前記金属塊31、31は、前記繊維強化成形体10を製造する際の圧縮加熱によって変形可能な融点、例えば130〜270℃の融点を有する金属が好ましい。具体的には、スズ(Sn)を含む合金が好ましい。スズ(Sn)を含む合金としては、スズ(Sn)とビスマス(Bi)の合金、スズ(Sn)と鉛(Pb)の合金、スズ(Sn)と銀(Ag)と銅(Cu)の合金などが挙げられる。
【0021】
前記金属塊31、31の成形前の大きさおよび形状は、特に限定されないが、炭素繊維強化層21、21と金属塊31、31の接触を確実にするために、繊維強化成形体10の樹脂層11の厚み以上の直径を有する線状または棒状の金属塊が好ましい。線状または棒状の金属塊は、前記繊維強化成形体11に対して寝させた(横にした)状態で前記樹脂層11に埋設される。なお、線状または棒状の金属塊を寝させて埋設する場合、金属塊の直径が金属塊の厚み(繊維強化成形体10の厚み方向と同じ方向)となる。
【0022】
線状または棒状の金属塊を使用する場合、成形前の金属塊の厚み(直径)は、成形後の繊維強化成形体10の全体厚みより、わずかに大きいか、小さいのが好ましい。成形後の繊維強化成形体10の全体厚みより、わずかに大きいとは、成形の際に金属塊が圧縮及び加熱されることにより、軟化変形することを意味する。すなわち、成形後の繊維強化成形体10の意匠面に、当該金属塊の存在による突起が現れず、目視判定で突起が視認できなければ、外観不良とはならない。許容される成形前の金属塊の厚みは、成形後の繊維強化成形体10の厚みに対して、120%以下の厚みである。しかも、成形前の金属塊の厚みは成形後の樹脂層の厚みよりも大きくなければならない。成形前の金属塊の厚み(直径)が、成形後の繊維強化成形体10の全体厚みより小さいとは、成形後の繊維強化成形体10の全体厚みから炭素繊維強化層21、21の厚みを除いた厚みを、成形前の金属塊の厚み(直径)が占めることを意味する。樹脂層の厚み(C1)に対する成形前の金属塊の厚み(Φ1)の倍率(Φ1/C1)は、1倍から28倍、より好ましくは3倍から25倍である。
【0023】
また、前記金属塊31、31の埋設数及び埋設位置は特に限定されないが、安定した導電性を得るためには、前記樹脂層11内で水平方向に離れた複数箇所に金属塊を埋設するのが好ましい。図示の例では、前記樹脂層11の短辺側の略中央位置にそれぞれ1個、合計2個埋設されている。
【0024】
前記炭素繊維強化層21、21は、炭素繊維に熱硬化性樹脂が含浸して硬化したものからなり、炭素繊維によって導電性を有する。前記炭素繊維としては、炭素繊維織物が、軽量及び高剛性に優れるために好ましい。さらに、前記炭素繊維には、長繊維が同一方向に並列に配列されたものも含まれるが、いわゆる織物が好ましく、例えば、縦糸と横糸で構成される平織、綾織、朱子織及び3方向の糸で構成される三軸織などが、成形体の強度等を得るのに好適である。また、炭素繊維織物は、熱硬化性樹脂の含浸及び剛性の点から、繊維重さが90〜400g/m
2のものが好ましい。
【0025】
前記炭素繊維に含浸する熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、前記繊維強化成形体10の剛性を高めるためには、熱硬化性樹脂自体がある程度の剛性を有する必要があり、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の混合物からなる群より選択することができる。また、前記繊維強化成形体10に難燃性が求められる場合、前記繊維織物に含浸する熱硬化性樹脂は難燃性のものが好ましい。フェノール樹脂は良好な難燃性を有するため、前記炭素繊維に含浸させる熱硬化性樹脂として好適である。
【0026】
また、前記炭素繊維強化層21、21は、前記樹脂層11の両側に各1層ずつに限られず、前記樹脂層11の一側または両側において2層以上の積層数としてもよい。
【0027】
前記繊維強化成形体10は、前記樹脂層11を貫通した前記金属塊31、31が、前記樹脂層11の両面で前記炭素繊維強化層21、21と接触しているため、前記樹脂層11の両面の前記炭素繊維強化層21、21間に前記金属塊31を介して導電通路を構成し、前記繊維強化成形体10の厚み方向に導電性を有するものとなる。さらに、繊維強化成形体10の厚み方向の導電性を高めるために、意匠面を研磨し、表層の樹脂を除去し、炭素繊維が意匠表面に現れるようにしてもよい。
【0028】
次に、本発明の繊維強化成形体の製造方法について、第一の実施形態を、前記繊維強化成形体10の製造を例にして説明する。前記繊維強化成形体10の製造方法は、プリプレグ作製工程、発泡体への含浸工程、積層配置工程、圧縮加熱工程とからなる。
【0029】
プリプレグ作製工程では、
図3の(3−1)に示すように、繊維織物等からなる炭素繊維21Aに熱硬化性樹脂21Bを含浸、乾燥させて炭素繊維プリプレグ(含浸済み炭素繊維)21Cを必要数形成する。前記炭素繊維21A及び前記熱硬化性樹脂21Bは、前記繊維強化成形体10において説明したとおりである。含浸に用いる熱硬化性樹脂21Bは、未硬化の液状からなる。また、含浸を容易にするためには、前記熱硬化性樹脂21Bは溶剤に溶かしたものが好ましく、含浸後に、前記炭素繊維プリプレグ21Cを前記熱硬化性樹脂の硬化反応を生じない温度で乾燥させることにより溶剤を除去する。含浸手段は、液状の熱硬化性樹脂21Bを収容した槽に前記炭素繊維21Aを浸ける方法、スプレーにより塗布する方法、ロールコータにより塗布する方法等、適宜の方法により行うことができる。
【0030】
発泡体への含浸工程では、
図3の(3−2)に示すように、メラミン発泡体等からなる発泡体11Aに熱硬化性樹脂11Bを含浸させ、含浸済み発泡体11Cを得る。前記発泡体11A、前記熱硬化性樹脂11Bは、前記繊維強化成形体10において説明したとおりである。含浸に用いる熱硬化性樹脂11Bは、未硬化の液状からなる。また、含浸を容易にするため、前記熱硬化性樹脂11Bは溶剤に溶かしたものが好ましく、含浸後に、含浸済み発泡体11Cを、前記熱硬化性樹脂の硬化反応を生じない温度で乾燥させて含浸済み発泡体11Cから溶剤を除去する。含浸手段は、液状の熱硬化性樹脂を収容した槽に前記発泡体を浸ける方法、スプレーにより塗布する方法、ロールコータにより塗布する方法等、適宜の方法により行うことができる。
なお、前記プリプレグ作製工程と発泡体への含浸工程は、何れを先に行ってもよい。
【0031】
積層配置工程では、
図4の(4−1)に示すように、プレス成形用下型41の型面に、前記炭素繊維プリプレグ21C、前記含浸済み発泡体11C、前記金属塊31、31、前記炭素繊維プリプレグ21Cの順に積層する。前記金属塊31は、図示の例では、前記含浸済み発泡体11Cの上面に配置したが、前記含浸済み発泡体11Cの下面側の前記炭素繊維プリプレグ21Cの上面に配置してもよい。また、前記金属塊31の配置は、前記含浸済み発泡体11Cの片面において一箇所、あるいは片面または両面において複数箇所とされる。また、前記炭素繊維プリプレグ21Cは、前記含浸済み発泡体11Cの片側あるいは両側において複数積層してもよい。符号43はプレス成形用上型である。
【0032】
圧縮加熱工程では、
図4の(4−2)に示すように、前記積層工程で積層した前記炭素繊維プリプレグ21C、前記含浸済み発泡体11C、前記金属塊31及び前記炭素繊維プリプレグ21Cからなる積層体を、前記プレス成形用下型41と前記プレス成形用上型43により圧縮すると共に加熱する。圧縮は前記積層体の厚みが0.3〜3.0mmとなるようにするのが好ましい。前記圧縮加熱工程時、前記プレス成形用下型41と上型43間には適宜の位置にスペーサを設置して、前記プレス成形用下型41と上型43間が所定間隔(積層体の圧縮厚み)となるようにされる。また、加熱方法は特に限定されないが、前記プレス成形用下型41と上型43にヒータ等の加熱手段を設けて、前記プレス成形用下型41と上型43を介して加熱するのが簡単である。加熱温度は、前記含浸している熱硬化性樹脂の硬化反応温度以上とされる。また、加熱温度と前記金属塊31の融点との関係は、前記金属塊31の融点が前記プレス成形用下型41及び上型43の加熱温度以上であるのが好ましい。前記プレス成形用下型41及び上型43の加熱温度は、前記熱硬化性樹脂11Bの成形温度であり、この成形温度が金属塊31の融点に近いほど、金属塊31は軟化変形しやすく、加工しやすいため、融点の低い合金が、金属塊として好ましい。
【0033】
前記圧縮加熱工程時、前記含浸済み発泡体11Cの表面に配置されている前記金属塊31は、前記含浸済み発泡体11C内に押し込まれて埋設され、前記含浸済み発泡体11Cの両面で前記炭素繊維プリプレグ21C、21Cと接触する。さらに、前記金属塊31は、加熱された状態で前記含浸済み発泡体11C及び前記炭素繊維プリプレグ21C,21Cと共に圧縮され、前記含浸済み発泡体11Cの圧縮厚みに変形する。また、前記含浸済み発泡体11Cの熱硬化性樹脂及び前記炭素繊維プリプレグ21C、21Cの熱硬化性樹脂が、加熱により硬化反応を開始し、前記炭素繊維プリプレグ21Cと、前記金属塊31が埋設された含浸済み発泡体11Cと、前記炭素繊維プリプレグ21Cが、積層及び圧縮状態で硬化して一体化し、前記繊維強化成形体10が形成される。なお、前記硬化によって、前記含浸済み発泡体11Cは、熱硬化性樹脂からなる中実の前記樹脂層11になり、また、前記炭素繊維プリプレグ21C、21Cは、熱硬化性樹脂をマトリクスとする前記炭素繊維強化層21、21になる。その後、前記プレス成形用下型41と前記プレス成形用上型43を開き、前記繊維強化成形体10を取り出す。
【0034】
前記繊維強化成形体の製造方法について第二の実施形態を説明する。製造方法の第二の実施形態は、プリプレグ作製工程、発泡体への含浸工程、金属塊埋設工程、積層配置工程、圧縮加熱工程とからなる。
【0035】
第二実施形態におけるプリプレグ作製工程及び発泡体への含浸工程は、第一の実施形態と同様である。
金属塊埋設工程では、
図5の(5−1)に示すように、前記含浸済み発泡体11Cの所定箇所に前記金属塊31を埋設する。前記含浸済み発泡体11Cにおける前記金属塊31の埋設箇所には、前記含浸済み発泡体11Cの表面にスリット等からなる切り込みを形成し、前記切り込みに前記金属塊31を挿入して埋設する。これにより、正しい位置に容易に前記金属塊31を埋設できる。また、前記切り込みは、前記含浸済み発泡体11Cの片面のみに設けてもよく、あるいは両面に設けたり、あるいは両面間を貫通して設けたりしてもよい。なお、前記切り込みの形成は、熱硬化性樹脂含浸前の発泡体あるいは、含浸済みの発泡体の何れに対して行ってもよい。
【0036】
積層配置工程では、
図5の(5−2)に示すように、プレス成形用下型41の型面に、前記炭素繊維プリプレグ21C、前記金属塊31が埋設された含浸済み発泡体11C、前記炭素繊維プリプレグ21Cの順に積層することにより、前記熱硬化性樹脂が含浸して前記金属塊31が埋設された発泡体11Cの両面に前記炭素繊維プリプレグ21C、21Cを配置した積層体を形成する。なお、前記金属塊31が埋設された含浸済み発泡体11Cの片側あるいは両側で、前記炭素繊維プリプレグ21Cを複数層積層してもよい。符号43はプレス成形用上型である。
【0037】
圧縮加熱工程では、
図5の(5−3)に示すように、前記積層工程で積層した前記炭素繊維プリプレグ21C、前記金属塊31が埋設された含浸済み発泡体11C及び前記炭素繊維プリプレグ21Cの積層体を、前記プレス成形用下型41と前記プレス成形用上型43により圧縮すると共に加熱する。圧縮は前記積層体の厚みが0.3〜3.0mmとなるようにするのが好ましい。前記圧縮加熱工程時、前記プレス成形用下型41と上型43間には適宜の位置にスペーサを設置して、前記プレス成形用下型41と上型43間が所定間隔(積層体の圧縮厚み)となるようにされる。加熱方法、加熱温度と前記金属塊31の融点との関係等は、第一の実施形態と同様である。
【0038】
前記圧縮加熱工程時、前記含浸済み発泡体11Cに埋設されている前記金属塊31は、加熱により軟化した状態で前記含浸済み発泡体11Cと共に圧縮され、前記含浸済み発泡体11Cの圧縮厚みに変形し、前記含浸済み発泡体11Cの両面で前記炭素繊維プリプレグ21C、21Cと接触する。また、前記含浸済み発泡体11Cの熱硬化性樹脂及び前記炭素繊維プリプレグ21C、21Cの熱硬化性樹脂が、加熱により硬化反応を開始し、前記炭素繊維プリプレグ21Cと、前記金属塊31が埋設された含浸済み発泡体11Cと、前記炭素繊維プリプレグ21Cが、積層及び圧縮状態で硬化して一体化し、前記繊維強化成形体10が形成される。その後、前記プレス成形用下型41と前記プレス成形用上型43を開き、前記繊維強化成形体10を取り出す。
【実施例】
【0039】
熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製、品名:PR−55791B、樹脂濃度60wt%エタノール溶液)中に、炭素繊維として綾織の炭素繊維織物(東邦テナックス株式会社製、品名:W−3161、繊維重さ200g/m
2)を漬け、取り出した後に25℃の室温にて2時間自然乾燥し、更に60℃の雰囲気下にて1時間乾燥させて炭素繊維プリプレグ(含浸済み炭素繊維)を必要数形成した。炭素繊維織物は、200×300mmの平面サイズに裁断したもの(重量12g/枚)を使用した。乾燥後の炭素繊維プリプレグ(含浸済み繊維)は1枚あたり28gであった。
【0040】
また、発泡体として、厚み5mm、平面サイズ200×300mm(重量2.7g)に切り出したメラミン発泡体(BASF社製、品名:バソテクトV3012、密度9kg/m
3)を、炭素繊維織物と同様にしてフェノール樹脂に漬け、取り出した後に25℃の室温にて2時間自然乾燥し、更に60℃の雰囲気下にて1時間乾燥させて含浸済み発泡体を形成した。乾燥後の含浸済み発泡体の重量は27gであった。
【0041】
次に、実施例6及び比較例1を除き、
図6に示すように、含浸済み発泡体において一組の対向する角部の表面に切り込みを入れ、その切り込みに金属塊を挿入して含浸済み発泡体に埋設した。使用した金属塊は線状であり、含浸済み発泡体に対して寝させた状態(含浸済み発泡体の表面とほぼ平行の状態)で挿入した。金属塊の材質、直径及び長さは、
図8の表に示す通りである。
【0042】
次に、予め離型剤を表面に塗布したSUS製のプレス成形用の下型(平板状)の上に、炭素繊維プリプレグの必要数、金属塊が挿入された含浸済み発泡体、炭素繊維プリプレグの必要数の順に重ねて配置し、積層体を形成した。前記炭素繊維プリプレグの全数は
図7の表における「ply数」の欄に示す通りである。
なお、実施例6については、予め離型剤を表面に塗布したSUS製のプレス成形用の下型(平板状)の上に、炭素繊維プリプレグの必要数、含浸済み発泡体、金属塊、炭素繊維プリプレグの必要数の順に重ねて配置し、積層体を形成した。
【0043】
前記プレス成形用下型上の前記積層体を、150℃で10分間、10MPaの面圧をかけてプレス成形用上型(平板状)で押圧することにより圧縮及び加熱を行ない、前記圧縮状態でフェノール樹脂を反応硬化させた。その際の積層体の加熱は、上下のプレス型に取り付けられた鋳込みヒータにより行なった。また、プレス成形用下型とプレス成形用上型間には製品板厚に設定したSUS製スペーサを介在させて下型と上型間の間隔、すなわち積層体の圧縮厚みを調整した。その後、プレス成形用下型とプレス成形用上型を室温で冷却させた後にプレス成形用下型とプレス成形用上型を開き、各実施例及び各比較例の繊維強化成形体を得た。
【0044】
各実施例及び各比較例の繊維強化成形体について、外観判断と厚み方向の抵抗値及び曲げ弾性率の測定を行った。
外観判断は、目視および触感により突部の存在を判定した。金属塊の埋設部分に、触診および視認により突起が全く見られない場合に「◎」、目視では分からないが触診にて触感としてわずかに突起を感じる場合に「〇」、目視および触感共に突起を感じる場合に「×」とした。
厚み方向の抵抗値は、デジタルマルチメーター(日置電機株式会社製:DT4281)を用い、
図7に示すように、繊維強化成形体の一方の面における「*1」の位置と、反対面における「*2」の位置間の抵抗値を測定した。
曲げ弾性率は、JIS K7074−1988A法に準拠して行った。
外観の判断結果及び抵抗値と曲げ弾性率の測定結果を
図8の表に示す。
なお、
図8の表における「金属塊の硬度(Hv)」は、JIS Z 2244−ビッカース硬さ試験に準拠して測定した値である。
また、
図8の表における、「ply数」は炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層数であり、「全体厚み」は繊維強化成形体の厚み(スペーサの厚みと同一)である。「樹脂層厚み(mm)C1」は、「全体厚み」から使用した炭素繊維織物の全厚み(合計厚み)を減算して得られた値で代用した。
【0045】
実施例1は、金属塊として、スズとビスマスの合金(金属比率42/58)、直径(Φ1)0.6mm、長さ10mmを使用し、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数が2、全体厚みが0.6mm、樹脂層厚み(C1)が0.12mmの例である。実施例1は、Φ1/C1の値が5.00、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が53Ω、曲げ弾性率が31GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有する。
【0046】
実施例2は、金属塊として、スズと鉛の合金(金属比率60/40)、直径(Φ1)1.0mm、長さ10mmを使用し、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数が2、全体厚みが1.0mm、樹脂層厚み(C1)が0.52mmの例である。実施例2は、Φ1/C1の値が1.92、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が12MΩ、曲げ弾性率が45GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。
【0047】
実施例3は、実施例2における金属塊の直径を0.6mm、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数を4、全体厚みを1.0mm、樹脂層厚み(C1)を0.04mmとした例である。実施例3は、Φ1/C1の値が15.00、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が10Ω、曲げ弾性率が45GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。
【0048】
実施例4は、実施例3における金属塊の直径(Φ1)を1.0mmとした例である。実施例4は、Φ1/C1の値が25.00、外観が「〇」、厚み方向の抵抗値が12Ω、曲げ弾性率が46GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。
【0049】
実施例5は、実施例4における金属塊の直径を0.6mm、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数を6、全体厚みを2.0mm、樹脂層厚み(C1)を0.56mmとした例である。実施例5は、Φ1/C1の値が1.07、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が42Ω、曲げ弾性率が40GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。
【0050】
実施例6は、実施例2における全体厚みを0.8mm、樹脂層厚み(C1)を0.32mmに設定し、スリットのない含浸済み発泡体の上面所定位置に、金属塊を載置し、その後、圧縮加熱工程を行った例である。実施例6は、Φ1/C1の値が3.13、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が12Ω、曲げ弾性率が46GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。
【0051】
実施例7は、実施例6において含浸済み発泡体にスリットを形成して金属塊を埋設した以外、他の構成を実施例6と同一にした例である。実施例7は、Φ1/C1の値が3.13、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が10Ω、曲げ弾性率が47GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。スリットの有無に関係なく、実施例6と実施例7では、抵抗値、曲げ弾性率、外観が変わらなかった。
【0052】
実施例8は、実施例2における全体厚みを0.6mm、樹脂層厚み(C1)を0.12mmとした例である。実施例8は、Φ1/C1の値が8.33、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が11Ω、曲げ弾性率が48GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。
【0053】
実施例9は、実施例2における金属塊の直径(Φ1)を2.0mm、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数を10、全体厚みを3.0mm、樹脂層厚み(C1)を0.6mmとした例である。実施例9は、Φ1/C1の値が3.33、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が12Ω、曲げ弾性率が44GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有している。
【0054】
実施例10は、金属塊として、スズと銀と銅の合金(金属比率96.5/3/0.5)、直径(Φ1)1.0mm、長さ10mmを使用し、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数が2、全体厚みが0.8mm、樹脂層厚み(C1)が0.32mmの例である。実施例10は、Φ1/C1の値が3.13、外観が「〇」、厚み方向の抵抗値が25Ω、曲げ弾性率が45GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有する。
【0055】
実施例11は、金属塊として、スズと鉛の合金(金属比率10/90)、直径(Φ1)1.0mm、長さ10mmを使用し、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数が2、全体厚みが0.8mm、樹脂層厚み(C1)が0.32mmの例である。実施例14は、Φ1/C1の値が3.13、外観が「〇」、厚み方向の抵抗値が14Ω、曲げ弾性率が45GPaであり、厚み方向の抵抗値が小さく、厚み方向に良好な導電性を有する。
【0056】
比較例1は、金属塊を埋設しない例であり、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数が2、全体厚みが0.8mm、樹脂層厚み(C1)が0.32mmである。比較例は、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が5.2MΩ、曲げ弾性率が45GPaであり、厚み方向の抵抗値が大きく、厚み方向の導電性が低いものである。
【0057】
比較例2は、金属塊として、スズと鉛の合金(金属比率60/40)、直径(Φ1)0.6mm、長さ10mmを使用し、炭素繊維強化層(炭素繊維プリプレグ)の全積層(ply)数が2、全体厚みが1.2mm、樹脂層厚み(C1)が0.72mmの例である。比較例2は、Φ1/C1の値が0.83、外観が「◎」、厚み方向の抵抗値が2.9MΩ、曲げ弾性率が42GPaであり、厚み方向の抵抗値が高くなった。比較例2は、成形後の樹脂層の厚みが、成形前の金属塊の直径よりも大きく、圧縮加熱工程を行っても、実質的に炭素繊維に接触しなかった。
【0058】
このように、本発明の繊維強化成形体は、厚み方向に導電性を有し、かつ樹脂層に埋設した金属塊に起因する突部や変形が表面に存在しないものであり、厚み方向の導電性及び表面の美観が求められる用途に好適なものである。