【課題】皮膚などへの密着性や装着感に優れているとともに、機能性成分を徐々に放出して処置部などに継続的に供給することが可能な医療用・美容シートの簡便な製造方法、及びこの製造方法によって製造される医療用・美容シートを提供する。
【解決手段】粘度平均分子量が10,000以下の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩、及び粘度平均分子量が50,000以上の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を成形して、水溶性成形体を得る工程を有する医療用・美容材料の製造方法である。また、この製造方法により製造された医療用・美容材料である。
粘度平均分子量が10,000以下の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩、及び粘度平均分子量が50,000以上の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を成形して、水溶性成形体を得る工程を有する医療用・美容材料の製造方法。
粘度平均分子量が10,000以下の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩、及び粘度平均分子量が50,000以上の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を成形して、水溶性成形体を得る工程と、得られた前記水溶性成形体を水不溶化処理する工程とを有する医療用・美容材料の製造方法。
前記ポリアニオン性多糖類が、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、及びアルギン酸からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜5のいずれか一項に記載の医療用・美容材料の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案されたシワ改善シートは、基材が紙であるために破れやすく、また、皮膚への密着性や装着感が不足していた。また、特許文献2及び3で提案されたシートは、エレクトロスピニング法や電界紡糸法などの方法により製造する必要があるため、製造工程が煩雑であった。また、特許文献1で提案されたシワ防止シートと同様に、皮膚への密着性や装着感が不足していた。
【0006】
なお、ヒアルロン酸等のポリアニオン性多糖類及びその塩などの機能性成分は、徐々に放出されて処置部や患部に継続的に供給されることが望ましい。しかしながら、特許文献1〜3で提案されたシートは、機能性成分の徐放性については何ら検討されていない。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、皮膚などへの密着性や装着感に優れているとともに、機能性成分を徐々に放出して処置部などに継続的に供給することが可能な医療用・美容シートの簡便な製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、皮膚などへの密着性や装着感に優れているとともに、機能性成分を徐々に放出して処置部などに継続的に供給することが可能な医療用・美容シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、粘度平均分子量が10,000以下の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩、及び粘度平均分子量が50,000以上の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を成形して、水溶性成形体を得る工程を有する医療用・美容材料の製造方法(以下、「第1の製造方法」とも記す)が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、粘度平均分子量が10,000以下の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩、及び粘度平均分子量が50,000以上の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を成形して、水溶性成形体を得る工程と、得られた前記水溶性成形体を水不溶化処理する工程と、を有する医療用・美容材料の製造方法(以下、「第1の製造方法」とも記す)が提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、上記の第1の製造方法により製造された医療用・美容材料(以下、「第1の医療用・美容材料」とも記す)が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、本発明によれば、上記の第2の製造方法により製造された医療用・美容材料(以下、「第2の医療用・美容材料」とも記す)が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、皮膚などへの密着性や装着感に優れているとともに、機能性成分を徐々に放出して処置部などに継続的に供給することが可能な医療用・美容シートの簡便な製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、皮膚などへの密着性や装着感に優れているとともに、機能性成分を徐々に放出して処置部などに継続的に供給することが可能な医療用・美容シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0015】
<医療用・美容材料及びその製造方法>
本発明の医療用・美容材料の製造方法(第1の製造方法)は、粘度平均分子量が10,000以下の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩、及び粘度平均分子量が50,000以上の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を成形して、水溶性成形体を得る工程を有する。また、本発明の第1の医療用・美容材料は、上記第1の製造方法により製造されたものである。さらに、本発明の医療用・美容材料の製造方法(第2の製造方法)は、粘度平均分子量が10,000以下の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩、及び粘度平均分子量が50,000以上の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を成形して、水溶性成形体を得る工程と、得られた水溶性成形体を水不溶化処理する工程と、を有する。そして、本発明の第2の医療用・美容材料は、上記第2の製造方法により製造されたものである。以下、本発明の医療用・美容材料及びその製造方法の詳細について説明する。
【0016】
水溶性成形体は、ポリアニオン性多糖類の水溶性塩を含有する原材料を用いて形成される。ポリアニオン性多糖類は、カルボキシ基やスルホン酸基等の負電荷を帯びた1以上のアニオン性基をその分子構造中に有する多糖類である。また、ポリアニオン性多糖類の水溶性塩は、ポリアニオン性多糖類中のアニオン性基の少なくとも一部が塩を形成したものである。なお、ポリアニオン性多糖類中のアニオン性基は、多糖類の分子中に導入されたものであってもよい。
【0017】
ポリアニオン性多糖類の具体例としては、カルボキシメチルセルロースやカルボキシエチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース、カルボキシメチルでんぷん、カルボキシメチルアミロース、コンドロイチン硫酸(コンドロイチン−4−硫酸及びコンドロイチン−6−硫酸を含む)、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、アルギン酸、ペクチン、カラギーナン、デルマタン硫酸、及びデルマタン−6−硫酸等を挙げることができる。これらのポリアニオン性多糖類は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ポリアニオン性多糖類の水溶性塩としては、無機塩、アンモニウム塩、及び有機アミン塩等を挙げることができる。無機塩の具体例としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛、鉄等の金属塩等を挙げることができる。
【0019】
第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩の粘度平均分子量は10,000以下であり、好ましくは1,000〜5,000である。また、第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩の粘度平均分子量は50,000以上であり、好ましくは100,000〜2,000,000である。このように、粘度平均分子量が異なる二種類のポリアニオン性多糖類の水溶性塩を組み合わせて用いることで、皮膚などへの密着性や装着感に優れているとともに、機能性成分を徐々に放出して処置部などに継続的に供給することが可能な、本発明の医療用・美容シートを得ることができる。
【0020】
粘度平均分子量は公知の測定方法により求めることができる。具体的には、ポリアニオン性多糖類又はその塩(乾燥物)を0.2M塩化ナトリウム溶液に溶解し、30±0℃における極限粘度(η)をウベローデ粘度計で求め、Laurentの式(η(極限粘度)=3.6×10
-4・M
0.78(M:粘度平均分子量))に基づいて粘度平均分子量が算出される。極限粘度(η)は、第16改正日本薬局方の一般試験法 粘度測定法 第1法:毛細管粘度計法により測定される。
【0021】
第1の製造方法の場合、より具体的には、粘度平均分子量が相対的に大きい高分子量の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩によって、皮膚などへの密着性や装着感に優れた基材が形成される。そして、形成された基材には、粘度平均分子量が相対的に小さい低分子量の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩が保持されている。このため、第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩は、基材から徐々に放出され、処置部などに継続的に供給されることになると考えられる。
【0022】
また、第2の製造方法の場合、より具体的には、粘度平均分子量が相対的に大きい高分子量の第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩によって形成された基材が水不溶化処理されることで、皮膚などへの密着性や装着感に優れた水不溶性の基材が形成される。一方、より低分子量の第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩は、粘度平均分子量が相対的に小さいため、水不溶化処理されてもほとんど基材を構成することなく、高分子量の第2のポリアニオン性多糖類により形成された基材に保持された状態となる。このため、低分子量のポリアニオン性多糖類は基材から徐々に放出され、処置部などに継続的に供給されることになると考えられる。
【0023】
水溶性成形体(第1の医療用・美容材料)を得るための原材料に含まれる第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩の量は、第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩100質量部に対して、1〜150質量部とすることが好ましく、10〜100質量部とすることがさらに好ましい。第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩の量が、第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩100質量部に対して1質量部未満であると、放出される機能性成分の量が少なくなり、医療用・美容シートとしての効果がやや不足する場合がある。一方、第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩の量が、第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩100質量部に対して150質量部超であると、機能性成分を保持する基材の量が少なくなるため、取り扱い性や強度がやや低下することがある。
【0024】
水溶性成形体である第1の医療用・美容材料は、例えば、ポリアニオン性多糖類の水溶性塩を水に溶解させて得た原材料(水溶液)を所望の形状に成形した後、乾燥等させることによって得ることができる。水溶性成形体の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、スポンジ状、粉末状、紐状等を挙げることができる。これらの形状の水溶性成形体を水不溶化処理することによって、シート状、フィルム状、スポンジ状、粉末状、紐状等の用途に応じた形状の第2の医療用・美容材料を得ることができる。なお、必要に応じて、得られた医療用・美容材料をさらに成形して所望の形状に加工してもよい。
【0025】
例えば、原材料(水溶液)を適当な容器に流し入れた後、乾燥又は凍結乾燥することによって、シート状、フィルム状、又はスポンジ状の水溶性成形体を得ることができる。原材料(水溶液)をノズルから貧溶媒中に押し出すことによって、繊維状の水溶性成形体を得ることができる。原材料(水溶液)を適当な管に充填した後、乾燥又は凍結乾燥することによって、紐状の原料成形体を得ることができる。このように、本発明の製造方法によれば、用途に応じた形状の医療用・美容材料を得ることができる。
【0026】
第2の製造方法において、水溶性成形体を水不溶化処理する手法は特に限定されず、従来公知の手法を採用することができる。水溶性成形体を水不溶化処理する手法の具体例としては、架橋剤を用いて化学的に架橋させて水不溶化する方法;電子線を照射し、架橋させて水不溶化する方法;多価金属イオンを用いてイオン結合により架橋させて水不溶化する方法;酸無水物を含む処理液に接触させて水不溶化する方法;などを挙げることができる。なかでも、酸無水物を含む処理液に原料成形体を接触させる方法が、簡便であるとともに、十分かつ速やかに水溶性成形体を水不溶化処理することができるために好ましい。なお、ポリアニオン性多糖類の水溶性塩を用いて形成した水溶性成形体を、無水酢酸等の酸無水物を含む処理液で処理した場合に想定される反応機構等については、例えば、国際公開第2015/029892号、特開2016−163695号公報等に開示されている。
【0027】
処理液に用いる酸無水物の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水酪酸、無水フタル酸、及び無水マレイン酸等を挙げることができる。なかでも、無水酢酸及び無水プロピオン酸が好ましい。これらの酸無水物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
処理液は、水及び水溶性有機溶媒の少なくともいずれかの媒体をさらに含むとともに、この媒体中に酸無水物が溶解又は分散していることが好ましい。このような媒体中に酸無水物が溶解又は分散した処理液を使用することで、水溶性成形体を十分かつ速やかに水不溶化させることができる。
【0029】
水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、及びテトラヒドロフラン等を挙げることができる。なかでも、メタノール、エタノール、及びジメチルスルホキシドが好ましい。これらの水溶性有機溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
処理液中の酸無水物の濃度は、通常、0.1〜50質量%であり、5〜30質量%であることが好ましい。酸無水物の濃度が0.1質量%未満であると、得られる第2の医療用・美容材料の水不溶化の程度が不十分になる、或いは水不溶化に長時間を要する傾向にある。一方、酸無水物の濃度が50質量%を超えると、効果が頭打ちになる傾向にある。
【0031】
なお、ポリアニオン性多糖類は親水性が高いため、水溶性成形体をより十分かつ速やかに水不溶化させる観点から、処理液が媒体として水を含有することが好ましい。処理液中の水の含有量は、水溶性成形体が溶解又は膨潤しない程度とすることが好ましい。具体的には、処理液中の水の含有量は、0.01〜50質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。処理液中の水の含有量が0.01質量%未満であると、メタノール以外の溶媒では水不溶化が不十分となる場合がある。また、処理液中の水の含有量が50質量%超であると、得られる医療用・美容材料の形状維持が困難となる場合がある。
【0032】
水不溶化工程においては、酸無水物を含む処理液に水溶性成形体を接触させて、水溶性成形体を水不溶化することが好ましい。水溶性成形体を処理液に接触させることによって、その形状を維持したまま水溶性成形体を水不溶化することができ、対応する形状の医療用・美容材料を得ることができる。処理液に水溶性成形体を接触させる方法は特に限定されないが、水溶性成形体の全体に処理液が接触するとともに、水溶性成形体の内部にまで処理液が浸透するように処理することが好ましい。具体的な処理方法としては、水溶性成形体を処理液中に浸漬する、水溶性成形体に処理液を塗布又は吹き付ける(噴霧する)等の方法を挙げることができる。
【0033】
水不溶化処理の際の温度は、処理液の沸点を超えない温度であればよく、特に限定されない。ポリアニオン性多糖類の分解変性を抑制する観点、及び媒体や副生成物等の揮散を抑制する観点からは、処理の際の温度は0〜80℃とすることが好ましく、0〜70℃とすることがさらに好ましく、室温(25℃)〜60℃とすることが特に好ましい。但し、処理の際に処理液が揮散しない条件、例えば、ヒートプレスや熱ローラー等により処理すれば、分解変性等が生ずることなく、より短時間で処理することができる。例えば、ヒートプレスや熱ローラー等により処理する場合、処理の際の温度は50〜90℃とすることが好ましく、処理時間は30分以下とすることが好ましい。第2の製造方法においては、水不溶化処理後、必要に応じて水や水溶性有機溶媒等を用いて洗浄すること等によって、第2の医療用・美容材料を得ることができる。
【0034】
酸無水物を含む処理液に接触させて水溶性成形体を水不溶化処理する、すなわち、架橋剤を用いずに水不溶性成形体を水不溶化処理すると、得られる医療用・美容材料を構成する分子中に架橋剤に由来する官能基等の構造が取り込まれることがない。このため、酸無水物を含む処理液に接触させて水溶性成形体を水不溶化処理して得た第2の医療用・美容材料は、原料であるポリアニオン性多糖類本来の特性が保持されているとともに、より安全性が高いため、医療用・美容材料としてより好適である。なお、医療用・美容材料の厚さは特に限定されないが、好ましくは20〜200μmであり、さらに好ましくは60〜120μmである。
【0035】
本明細書における「水不溶性」とは、水に容易に溶解しない性質を意味する。より具体的には、本発明の第2の医療用・美容材料は、水により膨潤状態とした後に乾燥する操作を2回繰り返して得た乾燥体の質量が、この操作前の乾燥質量の80%以上である。
【0036】
本発明の第2の医療用・美容材料の膨潤率は、6,000質量%以下であることが好ましく、900質量%以下であることがさらに好ましく、100〜500質量%であることが特に好ましく、150〜350質量%であることが最も好ましい。本明細書における「膨潤率」とは、「水分保持前(膨潤前)の第2の医療用・美容材料の質量」に対する、「水分保持後(膨潤後)の第2の医療用・美容材料の質量」の割合(質量%)を意味する。なお、水不溶化工程で用いる処理液中の水の量を、例えば20質量%を超えない範囲で増加することで、比較的膨潤率の低い(例えば、6,000質量%以下の)第2の医療用・美容材料を製造することができる。また、処理液中の酸無水物の量を増加すること(例えば上限20質量%)で、比較的膨潤率の低い(例えば、6,000質量%以下の)第2の医療用・美容材料を製造することができる。
【0037】
酸無水物を含む処理液に水溶性成形体を接触させて、水溶性成形体を水不溶化させた場合、得られる第2の医療用・美容材料を構成するポリアニオン性多糖類の分子は実質的に架橋していない。さらに、ポリアニオン性多糖類には、新たな共有結合が実質的に形成されていない。但し、ポリアニオン性多糖類の分子間には、水素結合、疎水結合、及びファンデルワールス力などの物理的結合が形成されていると推測される。そのような物理的結合がポリアニオン性多糖類の分子間で形成されている点については、赤外吸収スペクトルを測定することによって確認することができる。
【0038】
本発明の第2の医療用・美容材料は、酸性からアルカリ性までの広範なpH域において安定して水不溶性なものである。但し、例えばpH12以上の水性媒体に接触又は浸漬等した場合には、分子間同士の物理的結合が解離して容易に溶解しうる。また、第2のポリアニオン性多糖類の水溶性塩と比べて、第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩は水不溶化されにくい。このため、本発明の第2の医療用・美容材料は、水不溶化した第2のポリアニオン性多糖類からなる基材から、第1のポリアニオン性多糖類の水溶性塩が比較適容易に溶出される。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0040】
<医療用・美容材料の製造(1)>
(実施例1)
ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量150万Da、キッコーマンバイオケミファ社製)の粉末1g、ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量1万Da、キッコーマンバイオケミファ社製)の粉末1g、グリセリン(日本薬局方)0.5g、及び水97.5gを混合して水溶液100gを調製した。調製した水溶液100gを縦12cm×横10cmのステンレストレイに流し込み、20℃の恒温槽内で乾燥させて、グリセリンを含有する厚さ約50μmの膜(水溶性膜)を得た。
【0041】
(実施例2)
実施例1で製造した水溶性膜を処理液(無水酢酸:エタノール=20:80)に浸漬し、50℃で1時間放置して水不溶化処理し、厚さ約55μmの膜を得た。
【0042】
(実施例3)
ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量150万Da、キッコーマンバイオケミファ社製)の粉末1g、ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量1万Da、キッコーマンバイオケミファ社製)の粉末1g、及び水98gを混合して水溶液100gを調製した。調製した水溶液をステンレス製バットに流し込み、−30℃で凍結させた後、棚加熱温度120℃で凍結乾燥して、スポンジ状の成形体(水溶性成形体)を得た。
【0043】
(実施例4)
実施例3で製造した水溶性成形体を処理液(無水酢酸:メタノール=10:90)に浸漬し、室温で18時間放置して水不溶化処理した。次いで、メタノール、80体積%メタノール水溶液、及び水の順で洗浄し、スポンジ状の成形体を得た。
【0044】
<評価>
(ヒアルロン酸ナトリウム濃度の測定)
以下に示す構成のHPLCシステムを使用し、測定対象物を0.3%NaOH水溶液で溶解して調製した試料(10μL)中のヒアルロン酸ナトリウムの濃度を測定した。粘度平均分子量1,500,000(150万Da)及び10,000(1万Da)のヒアルロン酸ナトリウムを分析して得たクロマトグラムを
図1に示す。
[HPLCシステム]
ポンプ:商品名「PU−980」(日本分光社製)
オートサンプラー:商品名「AS−950−10」(日本分光社製)
カラムオーブン:商品名「CO−965」(日本分光社製)
UV検出器:商品名「UV−970」(日本分光社製)
GPCカラム:商品名「TSKgel PWXL」(直径4.6mm×300mm×2本、東ソー社製)
移動相:0.1N NaCl水溶液
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
【0045】
(溶解試験(1))
実施例1及び3で製造した膜を切断して2cm×2cmの試験片を作製した。直径3.5cm、深さ1.5cmの容器に作製した試験片を入れ、PBS緩衝液(pH6.8)5mLを加えた。この容器を37℃に調整した恒温槽に入れて静置した。緩衝液を経時的に緩衝液を抜き取り、ヒアルロン酸ナトリウム濃度を測定した。緩衝液のヒアルロン酸ナトリウム濃度の測定結果を
図2及び3に示す。
図2及び3に示すように、実施例1及び3で製造した膜では、低分子量のヒアルロン酸ナトリウムが迅速に溶出した後、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムがゆっくりと溶出した。これにより、皮膚への浸透性の高い低分子量のヒアルロン酸ナトリウムが迅速に放出されるとともに、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムが徐々に溶解して皮膜状となる、皮膚表面等を保護可能な医療用・美容シートを提供できることが分かる。
【0046】
(溶解試験(2))
実施例2及び4で製造した膜を切断して2cm×2cmの試験片を作製した。直径3.5cm、深さ1.5cmの容器に作製した試験片を入れ、PBS緩衝液(pH6.8)5mLを加えた。この容器を37℃に調整した恒温槽に入れ、振とう機を用いて10〜20rpmで24時間振とうした。経時的に緩衝液を抜き取り、ヒアルロン酸ナトリウム濃度を測定した。緩衝液のヒアルロン酸ナトリウム濃度の測定結果を
図4及び5に示す。
図4及び5に示すように、実施例2及び4で製造した膜では、低分子量のヒアルロン酸ナトリウムの溶出が検出されたが、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムの溶出は検出されなかった。これにより、低分子量のヒアルロン酸ナトリウムを迅速に放出して処置部などに継続的に供給するとともに、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムによって皮膚や臓器表面を保護可能な医療用・美容シートを提供できることが分かる。
【0047】
<医療用・美容材料の製造(2)>
(実施例5)
ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量150万Da、キッコーマンバイオケミファ社製)の粉末1g、ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量0.5万Da、キッコーマンバイオケミファ社製)の粉末0.5g、及び水98.5gを混合して水溶液100gを調製した。
図6に示すような、一辺1.5cm、深さ1cmの穴5を20個備えたポリエチレンテレフタレート製のトレイ10を用意した。このトレイ10の穴5に調製した水溶液を1mLずつ流し込んだ後、−80℃の冷凍庫内に載置して凍結させた。得られた凍結物を真空凍結乾燥(真空度−20Pa、棚温度25℃)して、スポンジ状固形物20片を得た。得られたスポンジ状固形物の1片を手の甲に載せて化粧水で伸ばした。これにより、低分子量のヒアルロン酸ナトリウムが皮膚に供給されるとともに、高分子量のヒアルロン酸ナトリウムによる皮膚の保護及び保湿効果が得られることが分かった。
【0048】
(実施例6)
ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量150万Da)に代えて、アルギン酸ナトリウム(粘度平均分子量40万Da、和光純薬社製)を用いたこと以外は、前述の実施例5と同様にして、高分子量アルギン酸ナトリウム−低分子量ヒアルロン酸ナトリウムからなるスポンジ状固形物を得た。
【0049】
(実施例7)
ヒアルロン酸ナトリウム(粘度平均分子量150万Da)に代えて、カルボキシメチルセルロースナトリウム(粘度平均分子量15万Da、東京化成社製)を用いたこと以外は、前述の実施例5と同様にして、高分子量カルボキシメチルセルロースナトリウム−低分子量ヒアルロン酸ナトリウムよりなるスポンジ状固形物を得た。