【解決手段】スライドドア用駆動装置10は、モータと、モータの回転を減速する減速機構28と、車両のスライドドアに一端が固定された開用ケーブル20aと、開用ケーブル20aが内挿されたアウターケーシング100と、開用ケーブル20aが巻きつけられ、減速機構28によって回転する開用ドラム70と、アウターケーシング100のうちドラムに近い側の端部を開用ケーブル20aの延在方向に沿って移動させ、開用ケーブル20aの経路長を調整する経路長調整機構32とを有する。経路長調整機構32はアウターケーシング100の端部を移動させるリンク106と、経路長の調整範囲のうち、所定の箇所で端部を固定する経路長固定部としての爪108dおよび係合片104cを有する。
【背景技術】
【0002】
ワンボックスカー、ワゴン及びバンにおける後部ドアは引き戸式のスライドドアが設けられることが多く、近時はその開閉動作に自動化が図られてきている。スライドドアを自動開閉する車両用ドア開閉装置の一般的な構成としては、ボディ側面に沿って設けられたレール部材と、レール部材に沿って駆動されることによりドアを開閉するケーブルと、ケーブルを巻き取るためのスライドドア用駆動装置が設けられている。一般的にスライドドア用駆動装置は、動力源としてのモータと、該モータの回転を減速させる減速機構と、減速機構によって回転されてケーブルの巻き取りおよび繰り出しを行う回転ドラムを備える。また、スライドドア用駆動装置ではスライドドアの開閉を手動と自動に切り換えるためのクラッチが設けられていることが多い。
【0003】
スライドドアは安定して開閉動作させるためにアッパーレール、センターレール及びロワーレールの3か所で支持されており、3本のレールのうちセンターレールにスライドドア用駆動装置が設けられることが多い。この場合、スライドドア用駆動装置は車両のクオータパネルにおける室内側に固定される。
【0004】
一方、車両の室内では少しでも広い室内幅が求められている。スライドドア用駆動装置がセンターレールに設けられる場合には、室内幅はクオータパネルにおけるスライドドア用駆動装置の収納部の幅に影響を受ける。車幅が一定であればスライドドア用駆動装置が厚ければそれだけ収納部を広く確保する必要があり、室内幅を狭めることになる。また、センターレールが設けられるのは、車室内スペースからみてちょうど着座した乗員の腰から肘の高さ程度に相当し、室内幅を広くすることの要請が高い箇所である。そこで、スライドドア用駆動装置における厚みを決定する主要素であるモータ、ドラムおよびクラッチの一部を省略しまたは極力薄型化する開発が行われている。
【0005】
一方、スライドドア用駆動装置を車両に組み付ける際にはスライドドアと接続するケーブルにはある程度の余裕が必要であって、スライドドアに固定した後にテンショナーによってケーブルの弛みをとることとなっている。
【0006】
特許文献1では低回転高出力モータを用いることによりクラッチを省略して薄型化を図っている。特許文献1ではケーブルの弛みをとるための初期巻き取り用のアジャストドラムを摘みで操作する構成となっている。特許文献2では、ストッパの摘み部を操作することによりケーブルの弛みをとることができるように構成されている。特許文献3の
図4では、開用ケーブルが巻きつけられた開用ドラムと閉用ケーブルが巻きつけられた閉用ドラムを同軸に並列することにより小型化を図ることが開示されている。
【0007】
また、特許文献4に記載の従来技術にかかるモータユニットは概略的に
図17のように表される。すなわち、スライドドアを開くための開用ケーブル501と、スライドドアを閉じるための閉用ケーブル502がそれぞれドラム503に巻きつけられている。ドラム503は図示しないモータによって回転する。開用ケーブル501はスプリング504によって弾性付勢されたテンションプーリ505によってテンションが与えられるとともに右斜め方向に屈曲して導出されている。同様に閉用ケーブル502はスプリング506によって弾性付勢されたテンションプーリ507によってテンションが与えられるとともに左斜め方向に屈曲して導出されている。特許文献4では減速機構に遊星歯車機構を採用した例が開示されている。特許文献4では車両に駆動ユニットを取り付ける際にケーブルの張力を適正に保つためのストッパが設けられている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明にかかるスライドドア用駆動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態にかかるスライドドア用駆動装置10は車両12に搭載されており、後側のドア(スライドドア)14を自動開閉させるものである。
【0027】
ドア14はスライドドアであり、アッパーレール16a、センターレール16b及びロワーレール16cによって三点を支持されながら安定して開閉される。このうちセンターレール16bはクオータパネル18における略中間高さに設けられている。
【0028】
開用ケーブル20aと閉用ケーブル20bの各端部はドア14に設けられたサポートフレームに固定されている。サポートフレームはセンターレール16b内で転動する走行ローラを備える。開用ケーブル20aおよび閉用ケーブル20bは、例えばステンレス製の縒線ワイヤである。開用ケーブル20aおよび閉用ケーブル20bはスライドドア用駆動装置10と接続されている。スライドドア用駆動装置10によって開用ケーブル20aおよび閉用ケーブル20bを巻き取りおよび繰り出すことによりドア14を開閉することができる。車両12にはドア14を全開位置や全閉位置で保持する保持手段を設ける。
【0029】
スライドドア用駆動装置10は室内側におけるセンターレール16bに近い箇所でクオータパネル18に固定されている。この位置は車室内スペースからみてちょうど着座した乗員の腰から肘の高さ程度に相当することがあり、室内幅を広くすることの要請の高い箇所である。
【0030】
図2、
図3、
図4および
図5に示すように、スライドドア用駆動装置10は前後対称構造であって、開用ケーブル20aおよび閉用ケーブル20bと、ベース板22と、モータ24と、ECU(Electric Control Unit)26と、減速機構28と、開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bと、前後一対の経路長調整機構32とを有し、1つのユニットとなっている。スライドドア用駆動装置10の説明において、便宜上、モータ24の出力軸38を基準としてその軸方向をX方向、室内側に向かう方向をX1方向(第1方向)、室外側に向かう方向をX2方向(第2方向)とする。また、スライドドア用駆動装置10の単体として、
図4に示す側を側面、
図8に示す側を正面とする。さらに、
図8を基準とした左右方向は車両12に搭載された状態で前後方向に相当する。
【0031】
概略的には、スライドドア用駆動装置10は、下部ではX1方向側に減速機構28が配置され、X2方向側に開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bが配置され、上部ではベース板22を挟んでX1方向側にECU26、X2方向側にモータ24が配置され、経路長調整機構32は前後側方に配置されている。
【0032】
ベース板22はスライドドア用駆動装置10のベースとなる金属板であり、モータ24の一部が嵌まり込む円弧状切欠22aと、円弧状切欠22aの周囲に設けられた3つのモータ止孔22bと、上方前後に設けられた固定用切欠22cと、下方前後に設けられたハウジング止孔22dとを有する。2つの固定用切欠22cにはそれぞれブッシュ33とワッシャ34が設けられ、図示しないボルトによりクオータパネル18の内面に取り付けられる。ベース板22は、後述する第1ハウジング40または第2ハウジング42の一部がその機能を兼ねる形状にすることにより省略も可能である。
【0033】
モータ24はインナーロータ型でネオジム磁石を用いた12極8相、扁平薄型のブラシレスモータである。モータ24は正面にU相線24aとV相線24bとW相線24cが120°間隔で設けられている。モータ24の周面には上記のモータ止孔22bに対応した取付孔台座24dが設けられており、これらの取付孔台座24dおよびモータ止孔22bにビス36を通して裏側からナット37を螺合させることによりモータ24がベース板22に固定される。モータ24の中心からはX1方向に出力軸38が突出している。
【0034】
モータ24の特徴についてさらに説明する。モータ24はブラシレスモータであることから寿命のネックとなるブラシがなくて高寿命であり、さらに機械的効率が高い。また、ブラシの通電時の摺接がないことから摺動音がなくて低騒音であるとともに、摺接にともなうスパークの発生がないためEMCノイズが低い。さらに、ブラシがないことから薄型化が可能である。モータ24はインナーロータ型であってコイルが外周側に配置されることから放熱性に優れるとともに、回転イナーシャが小さい。ブラシレスモータは多極化が容易であり、多極化することによりコギングが低減する。
【0035】
モータ24はブラシレスモータの特性として停止状態においても保持トルクを発生させる停止保持制御を行うことができる。これによりある程度の傾斜地においてもドア14を停止状態で保持することができ、保持のために別途クラッチを設ける必要がなく、スライドドア用駆動装置10を小型化、薄型化することができる。モータ24は、ステッピングモータのようなステップ制御を行うことができて制御性や回転精度に優れる。また、モータ24は正弦波駆動することも可能であり、トルク変動を低減させることができる。
【0036】
モータ24ではドア14のスライド作動中に急制動する必要が発生した場合に、上記の停止保持制御を行うことにより、強制ブレーキ力を作用させて強い制動力が得られる。また、モータ24ではベクトル制御により永久磁石の磁力を変化させることができ、ドア14の種類やその他の仕様により、高トルク低回転運転や低トルク高回転運転を行うことができる。さらに、高電圧低回転制御によりステッピングモータのような動作が得られる。低電圧高回転制御では、ドア14の手動開閉モードにおいて人手による開閉操作のアシストをすることができる。
【0037】
モータ24にブラシレスモータを採用することにより、上記の特徴を生かしてドア14の挙動が安定化する。さらに、制御性の向上により低電流動作が可能となりハーネス径およびヒューズ容量を低減化し、コストダウンを図ることができる。モータ24は、ブラシレスモータであることから扁平形状にすることができ、本実施の形態では直径/軸方向厚みの比を4.45〜4.70に実現可能であることが確認されており、従来この用途に用いられてきたモータよりも薄型化が達成されている。モータ24は薄型化されることによりスライドドア用駆動装置10に対して一体化させやすくなる。
【0038】
次に、ECU26は制御回路基板をケースで覆った機器であり、モータ24を制御するインバータ回路を備える。ECU26は薄型でやや横長の箱形状であり、下方に設けられた二段円弧凹部26aと、側面に設けられたコネクタ26bと、四隅のビス孔26cとを有する。コネクタ26bには図示しないハーネスにより電源やセンサ信号が供給される。コネクタ26bはECU26の側面に設けられていることから、接続されるハーネスはX方向に突出することがない。ECU26は四隅のビス孔26cにビス36を通してベース板22に固定される。ECU26にはU相線24a、V相線24bおよびW相線24cが接続されており、モータ24を制御することができる。
【0039】
減速機構28はモータ24の回転を減速して開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bに伝達する。減速機構28はX1方向と側面と下面が第1ハウジング40で覆われており、開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bはX2方向と側面と下面が第2ハウジング42で覆われており、第1ハウジング40と第2ハウジング42は外周部が互いに合わさって減速機構28と開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bを囲っている(
図4参照)。第1ハウジング40と第2ハウジング42は、下面において2つの爪47(
図3参照)で係合している。
【0040】
第1ハウジング40は扁平円形部40aがベースとなっており、X1方向の膨出部40bと、下部の前後に設けられた固定用突出片40cと、前後側方からそれぞれ斜め上方に向かって延在する第1ケーブル支持片40dとを有する。膨出部40bは、大きい円形部40baとその上部に突出した200°程度の小さい円弧部40bbとを備えている。小さい円弧部40bbの中心にはモータ24の出力軸38が嵌って軸支される軸孔40bcが設けられている。
【0041】
2つの固定用突出片40cには円形切欠が設けられており、それぞれブッシュ33とワッシャ34が設けられ、上記の固定用切欠22cと同様にボルトによりクオータパネル18の内面に取り付けられる。第1ケーブル支持片40dは経路長調整機構32の構成要素となっている。
【0042】
第1ハウジング40と第2ハウジング42は互いに固定されて1つのモジュール48を形成している(
図7参照)。X方向に沿ったモジュール48の幅はECU26のX1方向端面からモータ24のX2方向端面までの幅D以下に構成されているとよい。このように、モジュール48の幅をECU26の端面からモータ24の端面までの合計幅よりも小さくすることにより薄型化される。
【0043】
スライドドア用駆動装置10のX1方向端面ではECU26の端面と第1ハウジング40の端面が同一平面上にあり、X2方向端面ではモータ24の端面と第2ハウジング42の端面が同一平面上にある。これにより、両側面に無駄な凹凸がなくなりスペースの有効利用が図られる。また、スライドドア用駆動装置10は種々の薄型化の対策によりX方向の幅Dが十分に薄くなり、45〜59mmに実現可能であることが確認されており、従来技術にかかるスライドドア用駆動装置よりも薄型化が達成されている。
【0044】
図5および
図6に示すように、第2ハウジング42は、X2方向に膨出する並列した筒42aおよび筒42bと、X1方向が開口した薄厚の箱体42cと、前後側方からそれぞれ斜め上方に向かって延在する第2ケーブル支持片42dと、上方の突出部42eとを有する。突出部42eは大きい円弧部42eaと小さい円弧部42ebとを備えている。筒42aおよび筒42bはX1方向およびX2方向に突出しており、X1方向が開口、X2方向がほぼ塞がれた有底筒を形成している。
【0045】
図6に示すように、第2ハウジング42はさらに、円弧部42eaの中心に設けられた狭径で低い円環突起42gと、筒42aおよび筒42bの底部に設けられたやや幅広で低い円環突起42hと、筒42aおよび筒42bの下方部から第2ケーブル支持片42dに向かって滑らかに接線状に延出する外壁42iと、外壁42iに対面する短い内壁42jとを有する。外壁42iと内壁42jは開用ケーブル20aおよび閉用ケーブル20bを筒42aおよび筒42bへ案内するケーブル導入開口42kを形成している。円環突起42hの中心には孔42nが設けられている。
【0046】
図7に示すように、円弧部42ebは円弧部40bbと組み合わさり、X2方向と下面が開口、X1方向が塞がれた丸穴44を形成している。第1ハウジング40と第2ハウジング42は5つのビス46により固定されており、上記のとおり1つのモジュール48を形成している。モジュール48は、減速機構28、開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bを収容している。ベース板22は2本のビス46によりモジュール48と一体的に固定される。ECU26はモジュール48の上面を覆うように配置され、ビス36およびナット37によってベース板22に取り付けられている。
【0047】
図8および
図9に示すように、減速機構28は第1段減速部50および第2段減速部52を備える。第1段減速部50は、モータ24の出力軸38に設けられた第1入力側歯車54と、第1入力側歯車54と噛合する第1出力側歯車56とを備える。
【0048】
第2段減速部52は、第1出力側歯車56のX2方向面に一体的かつ同軸に設けられた第2入力側歯車58と、第2入力側歯車58とそれぞれ噛合する開用第2出力側歯車60および閉用第2出力側歯車62とを備える。開用第2出力側歯車60と閉用第2出力側歯車62は同方向に回転する。第1出力側歯車56および第2入力側歯車58は中間軸64に固定されている。
【0049】
出力軸38および第1入力側歯車54はモータ24からX1方向に突出し、第2入力側歯車58は第1出力側歯車56に対してX2方向に設けられている。第1出力側歯車56は第1入力側歯車54の下側に配置されている。開用第2出力側歯車60および閉用第2出力側歯車62は第2入力側歯車58の前後斜め下方向に配置されている。
【0050】
開用第2出力側歯車60のX1方向側の中心部には浅くやや幅広の丸穴60aが設けられ、同様に閉用第2出力側歯車62のX1方向側の中心部には浅くやや幅広の丸穴62aが設けられている。丸穴60aおよび丸穴62aにはそれぞれボールベアリング66が挿入されている。
【0051】
出力軸38が上記のとおり軸孔40bcに軸支され、出力軸38に設けられた第1入力側歯車54は丸穴44内に配置され、第1出力側歯車56は大きい円形部40ba内に配置される。中間軸64はX1方向側が円形部40baの低い円環突起40eに軸支され、X2方向側が円環突起42gに軸支される。開用第2出力側歯車60および閉用第2出力側歯車62は、X1方向側においてはそれぞれ丸穴60aおよび丸穴62aに挿入されたボールベアリング66に円突起40f(
図5参照)が嵌まり込むことによって軸支されている。
【0052】
第1入力側歯車54および第2入力側歯車58は同形状で同歯数の歯車である。第1出力側歯車56、開用第2出力側歯車60および閉用第2出力側歯車62は同形状で同歯数であり、第1入力側歯車54および第2入力側歯車58に対して直径および歯数とも約3倍となっている。
【0053】
X方向視(
図8参照)で、出力軸38および第1入力側歯車54の軸心と、開用第2出力側歯車60の軸心と、閉用第2出力側歯車62の軸心を3点とする三角形は正三角形である。第1出力側歯車56の軸心と第2入力側歯車58の軸心つまり中間軸64の位置は、この正三角形の各頂点までの距離が等しい位置、つまり外心となっている。このような配置により減速機構28をバランスよくコンパクトに構成することができる。
【0054】
第1入力側歯車54は銅鉄系焼結材であり、第1出力側歯車56および第2入力側歯車58は樹脂材である。第1入力側歯車54を銅鉄系焼結材で形成することによりモータ24の出力を確実に伝えることができるとともに高寿命となる。また、第1出力側歯車56および第2入力側歯車58を樹脂材で形成することにより軽量化とコストダウンを図ることができる。
【0055】
図9に示すように、開用ドラム機構30aは開用第2出力側歯車60に対して同心でX2方向側に設けられ、閉用ドラム機構30bは閉用第2出力側歯車62に対して同心でX2方向側に設けられている。開用ドラム機構30aの開用ドラム70は、開用ケーブル20aが巻きつけられ開用第2出力側歯車60によって回転する。閉用ドラム機構30bの閉用ドラム72は、閉用ケーブル20bが巻きつけられ閉用第2出力側歯車62によって回転する。モータ24、開用ドラム70、閉用ドラム72および減速機構28の各歯車の回転軸はそれぞれX方向を指向し、平行である。開用ドラム70と閉用ドラム72は径方向に並列配置されている。ここで、径方向の並列配置とは、
図4のような側面視で、開用ドラム70と閉用ドラム72の相互の周面が互いに重畳していることをいう。
【0056】
このように、開用ドラム70には開用ケーブル20aだけが巻きつけられており、閉用ドラム72には閉用ケーブル20bだけが巻きつけられており、開用ケーブル20aと閉用ケーブル20bが軸方向に重畳することがなく、しかも延在方向を変更して案内するプーリが存在しないことから、各ケーブルの巻きつけ範囲に無駄がなくなり、それだけ開用ドラム70および閉用ドラム72のX方向幅を短くすることができる。このことは
図17に示す従来技術にかかるモータユニットと比較すれば、開用ケーブル501,閉用ケーブル502の180°巻回分が本願では有効利用されて、その分X方向幅が短縮されることが理解されるであろう。さらに、開用ドラム70および閉用ドラム72は径方向に並列配置されており、X方向幅を一層小さくすることができる。
【0057】
また、減速機構28では、出力軸38の回転はX1方向に向かって第1入力側歯車54と伝達され、第1出力側歯車56を介した後に逆にX2方向に向かって第2入力側歯車58に伝達される。さらに、開用第2出力側歯車60および閉用第2出力側歯車62を介してX2方向に向かって開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bに伝達される。
【0058】
次に、開用ドラム機構30aについて説明する。閉用ドラム機構30bは開用ドラム機構30aと前後対称構造であり作用効果も同様であることから、以下対応する要素に同符号を付して詳細な説明は省略する。
【0059】
図10に示すように、開用ドラム機構30aは開用ドラム70と、歯車一体部74と、トーションスプリング(弾性巻取部)76とを有する。トーションスプリング76は開用ケーブル20aを開用ドラム70に巻き取る方向に引っ張り、主に、スライドドア用駆動装置10の組み付け時において開用ケーブル20aの弛みをとることができる。
【0060】
開用ドラム70は樹脂製で、X1方向が開口したドラム78と、ドラム78の外周面に設けられた螺旋溝80と、ドラム78の内周面に設けられた3つの回転ストッパ82と、ドラム78のX2方向側を塞ぐ端板84と、端板84の中心に設けられた円筒部86と、端板84の側面から螺旋溝80につながるケーブル溝88とを有する。螺旋溝80には開用ケーブル20aが巻きつけられ、該開用ケーブル20aを保持するのに適したU字断面を有する。
【0061】
ドラム78は開用ドラム70のベースとなる部分であり、開用第2出力側歯車60の外周歯を除いた部分よりもさらに少し小径である。螺旋溝80はドラム78の外周部で螺旋を形成し開用ケーブル20aの巻き取りに必要なだけの溝長さを有する。
【0062】
ドア14が全開となったときには開用ドラム70における螺旋溝80のほぼ全長にわたって開用ケーブル20aが巻き取られ、閉用ドラム72における螺旋溝80からは閉用ケーブル20bがほぼすべて繰り出される。逆に、ドア14が全閉となったときには閉用ドラム72における螺旋溝80のほぼ全長にわたって閉用ケーブル20bが巻き取られ、開用ドラム70における螺旋溝80からは開用ケーブル20aがほぼすべて繰り出される。このように開用ドラム70および閉用ドラム72の周面は螺旋溝80で無駄なく利用されており、その分X方向の幅が短縮化されている。
【0063】
3つの回転ストッパ82は120°間隔でドラム78の内周壁から中心に向かって突出するように設けられている。ただし、
図10において回転ストッパ82の1つは端板84に隠れている。回転ストッパ82は、ドラム78を基準として中心側が周方向に狭く、外側ほど周方向に広く、X方向視で略台形に形成されている。回転ストッパ82のX2方向側は端板84にもつながっており十分な強度がある。回転ストッパ82における周方向の中心にはスリット82aが設けられている。スリット82aは、ドラム78を基準として中心側およびX1方向に開口し、径方向に向かって深く、周方向には狭い。
【0064】
円筒部86は端板84の中心に設けられ、X1方向にはドラム78とほぼ同じ長さで突出し、X2方向にはドラム78よりもわずかに長く突出している。円筒部86の外周面には、トーションスプリング76の内周面との摩擦を低減させるための複数の突起86bが設けられている。突起86bは細棒状でX方向に沿って延在し、円筒部86の外周面に等角度に設けられている。円筒部86における端板84からX2方向に突出した部分にはボールベアリング66が外嵌される。
【0065】
ケーブル溝88は螺旋溝80の溝端部から端板84の側面に連通しており、端部にはやや広い止め具格納部88aが設けられている。ケーブル溝88は、止め具格納部88aに近い箇所は、ドラム78を基準とした周方向に対して緩やかな角度であり、外周に近いほど急となって螺旋溝80に連通している。開用ケーブル20aの端部には止め具20aaが固定されており、該止め具20aaが止め具格納部88aに嵌まり込んで開用ケーブル20aの抜け止めとなっている。開用ケーブル20aは止め具格納部88aからケーブル溝88を介して螺旋溝80に案内され、螺旋状にほぼ隙間なく巻きつけられている。
【0066】
歯車一体部74は開用ドラム機構30aの一部であり、開用第2出力側歯車60のX2方向側の面に一体成型で形成されており、各構成要素は全てX2方向に突出している。歯車一体部74は120°間隔で設けられた3つの回転ストッパ92と、開用第2出力側歯車60の中心に設けられた低い円形台94と、円形台94からさらに突出した円筒部96および2本の対ロッド98とを有する。
【0067】
回転ストッパ92は上記の回転ストッパ82とほぼ同形状であって、ドラム78を基準として中心側が周方向に狭く、外側ほど周方向に広く、軸方向視で略台形に形成されている。回転ストッパ92における周方向の中心にはスリット92aが設けられている。スリット92aは、ドラム78を基準として中心側およびX2方向に開口し、外方向に向かって深く、周方向には狭い。3つの回転ストッパ92はドラム78の内周に対してやや隙間をもって嵌り合う寸法となっている。円筒部96の外径は円筒部86の内周に嵌り合う寸法となっている。一対の対ロッド98は円筒部96の内側において対向して設けられ、円形台94から突出しており、円筒部96よりも長く突出し、それぞれ先端に突起98aを有する。トーションスプリング76は、X2方向の端部76aおよびX1方向の端部76bがそれぞれ外方向に向かって曲げられている。
【0068】
開用ドラム機構30aは以下のように組み立てられる。まず、端部76aがいずれかの回転ストッパ82におけるスリット82aに入るようにして、トーションスプリング76を円筒部86に外嵌させる。そして、端部76bがいずれかの回転ストッパ92におけるスリット92aに入るようにして、円筒部96を円筒部86に嵌合させる。回転ストッパ82と回転ストッパ92は干渉することなく組み立てられる。十分に嵌合させると、各対ロッド98は円筒部86の奥まで入り込み、先端の各突起98aが環状突起86aに係合することによって抜け止めがなされる。ボールベアリング66を円筒部86のX2方向端部に外嵌し、さらに止め具20aaを止め具格納部88aにはめ込んだ後に開用ケーブル20aをケーブル溝88および螺旋溝80に沿って巻きつける。
【0069】
円筒部86はボールベアリング66を介して第2ハウジング42(
図6参照)の円環突起42hに嵌め合わされるとともに、円筒部86の一部が孔42n(
図3参照)に挿入されて軸支される。これにより、開用第2出力側歯車60、閉用第2出力側歯車62、開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bのX2方向側が軸支される。開用ドラム70の外周面は第2ハウジング42の筒42aによって覆われる。
【0070】
また、開用ドラム70は開用第2出力側歯車60に対して、回転ストッパ82と回転ストッパ92によって適正に制限された動作角度範囲において回転可能に軸支されており、トーションスプリング76の回転弾性作用により、動作角度範囲内において開用ケーブル20aに張力を付与することができる。これにより、開用ケーブル20aをドア14まで配索させる際に適度な範囲で開用ケーブル20aの出し入れが可能となる。
【0071】
次に、経路長調整機構32について説明する。例として前後の経路長調整機構32のうち開用ケーブル20aに対応する部分、つまり
図3における右側部を説明するが、閉用ケーブル20bに対応する部分、つまり
図3における左側部については前後対称構造であって作用効果も同様である。
【0072】
経路長調整機構32は、開用ケーブル20aが内挿されたアウターケーシング100(
図10参照)と、アウターケーシング100の端部に設けられるケーブルガイド102(
図10参照)と、ケーブルガイド102を移動自在に支持するガイド部104(
図12参照)と、アウターケーシング100およびケーブルガイド102の端部を移動させるリンク106(
図13、
図16参照)とを有する。経路長調整機構32は、開用ドラム70からドア14まで配索される開用ケーブル20aの経路長を調整するものであって、アウターケーシング100のうち開用ドラム70に近い側の端部を開用ケーブル20aの延在方向に沿って移動させ、開用ケーブル20aの経路長を調整する。経路長調整機構32の構成要素について順に説明する。
【0073】
図10および
図11に示すように、アウターケーシング100は細長い筒形状であって、高強度で可撓性があり、滑らかに形成された内面側に開用ケーブル20aがほぼ隙間なく挿入されている。アウターケーシング100はアウターケーブルまたはアウターチューブとも呼ばれ、一般的な車両や自転車に用いられている汎用品である。アウターケーシング100は開用ケーブル20aをスライドドア用駆動装置10からドア14まで車両12における他の部分に摺れることなく案内している。
【0074】
ケーブルガイド102は細く適度に長い筒形状であり、金属などで形成されている。ケーブルガイド102は長いメインスリーブ102aと、メインスリーブ102aの一端から同軸状に突出する短いサブスリーブ102bと、メインスリーブ102aにおける一端の近傍で前後に突出する短い円突起102cとを有する。前後の円突起102cはそれぞれ低い円形台座102dから突出している。サブスリーブ102bの外径および内径はメインスリーブ102aの外径および内径よりもやや小径であり、メインスリーブ102aにおける一端の近傍には内径段差部102eが形成されている。内径段差部102eを境にしてメインスリーブ102aの内径はアウターケーシング100よりもやや大径であり、サブスリーブ102bの内径はアウターケーシング100よりも小径かつ開用ケーブル20aよりもやや大径である。開用ケーブル20aはケーブルガイド102を貫通して挿入されている。アウターケーシング100はメインスリーブ102aに挿入されており、その端部は内径段差部102eに安定して当接している。ケーブルガイド102とアウターケーシング100は軽く固定されていてもよい。
【0075】
図11および
図12に示すように、ガイド部104は対称形状の第1ケーブル支持片40dと第2ケーブル支持片42dが組み合わさって形成されている。ガイド部104は斜め上方を指向した断面正方形の角筒形状であり、端部に設けられた短いリング104aと、両側面にそれぞれ設けられた長孔104bと、端部近傍の上面に設けられた係合片(被係合部、経路長固定部)104cと、両側面の根元部分にそれぞれ設けられた円突起104dとを有する。リング104aおよび係合片104cは、第1ケーブル支持片40dと第2ケーブル支持片42dが組み合わさって形成されている。第2ケーブル支持片42dは第2ハウジング42の箱体42cに対して三角板104eによって補強接続されている。ガイド部104は、第1ケーブル支持片40dの三角板104eと第2ケーブル支持片42dの一部がビス46によって固定されることにより一体的形態を保持している。
【0076】
リング104aの内周面は、ガイド部104の端部でメインスリーブ102aの外周面を摺動自在に保持している。両側の長孔104bにはそれぞれ円突起102cが嵌まり込んでいる。長孔104bの幅は円突起102cの径とほぼ同じであり、該円突起102cを摺動自在に保持している。円突起102cはガイド部104の側面よりもやや突出している。係合片104cは薄板状であって前後端がそれぞれガイド部104の角筒側面よりもやや突出しており、その突出部は外向きに広くなる傾斜面を形成している。
【0077】
このようなガイド部104はアウターケーシング100およびケーブルガイド102が移動自在に嵌合されており、経路長の変更前後で開用ケーブル20aの巻き取りおよび繰り出しを適正な方向に維持できる。
【0078】
図13に示すように、リンク106は樹脂製の第1リンク108と第2リンク110から構成される。第1リンク108は一方が開口した矩形断面形状であって、一端の両側から開口側に突出する係合突起108aと、他端近傍の両側に設けられて円突起104dが嵌まり込む軸孔108bと、中間部の両側に設けられた軸孔108cとを有する。第1リンク108は軸孔108bを中心として回転可能である。係合突起108aは先端に内向きにやや突出する爪(係合部、経路長固定部)108dを備える。爪108dは係合突起108aの突出方向に向かって狭幅となる傾斜面を形成している。対向する2つの係合突起108aの間隔は係合片104cの前後幅とほぼ等しく、対抗する2つの爪108dの先端部の間隔は係合片104cの前後幅よりもやや小さい。
【0079】
第2リンク110は、一方が開口した矩形断面形状であって、その外幅は第1リンク108の内幅にほぼ等しく、該第1リンク108の内側に嵌まり込んでいる。第2リンク110は、一端の両外側に設けられて軸孔108cに嵌まり込む円突起110aと、他端に突出してガイド部104を挟みこむ一対の突片110bと、2つの突片110bにそれぞれ設けられて円突起102cが嵌まり込む軸孔110cとを有する。第1リンク108はやや弾性変形可能であって、軸孔108bが設けられている両端部を一度押し広げることによって軸孔108bに円突起104dを嵌め込むことができる。第2リンク110もやや弾性変形可能であって、一対の突片110bを一度押し広げることによって軸孔110cに円突起102cを嵌め込むことができ、逆側については一度押し狭めることによって円突起110aを軸孔108cにはめ込むことができる。
【0080】
このようなリンク106は、軸孔110cに嵌る円突起102c、軸孔108bに嵌る円突起104dおよび軸孔108cに嵌る円突起110aの3か所をジョイント軸とするリンク機構を構成する。円突起104dと円突起110aとの距離および円突起110aと円突起102cとの距離は固定であり、円突起104dと円突起102cとの距離が可変となる。円突起104dは第2ハウジング42に固定されていることから、円突起102cが長孔104bに沿って移動することになる。円突起102cが移動すると、アウターケーシング100およびケーブルガイド102もガイド部104の延在方向に向かって案内され移動する。
【0081】
また、リンク106は経路長調整機構32において、アウターケーシング100の端部を開用ケーブル20aの延在方向に沿って移動させて開用ケーブル20aの経路長を調整する作用を奏する部分である。係合片104cと爪108dは、相互の係合によりアウターケーシング100の端部を適正位置に固定する経路長固定部として作用する。経路長固定部としては、設計条件により経路長調整機構32による経路長の調整範囲のうち、少なくとも1か所でアウターケーシング100の端部の位置を固定できるとよい。経路長固定部として係合片104cと爪108dによれば、経路長調整後に自動的に経路長が固定されることになり、簡便なワンタッチ操作が可能となる。
【0082】
経路長調整機構32は初期状態として、
図13および
図14(a)に示すように第1リンク108を回転可能な範囲で最も斜め下向きにしておく。そうすると第2リンク110も下方に引き寄せられ、軸孔110cに嵌る円突起102cは長孔104bの下端近傍まで最大変位する。このとき円突起102cと円突起104dは相当に近接した位置となっており、それだけケーブルガイド102も斜め下方に引き寄せられている。ケーブルガイド102はほとんどがガイド部104内に入り込み、上端面がわずかにリング104aから出ている。
【0083】
開用ケーブル20aは開用ドラム70内のトーションスプリング76の弾性作用によって巻き取られる方向に引き寄せられていることから、開用ケーブル20aおよびアウターケーシング100もケーブルガイド102とともにガイド部104内に引き込まれている。開用ケーブル20aおよびアウターケーシング100のうちリング104aから外に出ている長さはガイド部104に没入している分だけ短くなっている。
【0084】
開用ドラム70はトーションスプリング76により
図14(a)における時計方向に弾性付勢されており、開用ドラム70における3つの回転ストッパ82の時計方向面82bはそれぞれ、開用第2出力側歯車60における3つの回転ストッパ92の反時計方向面92bに対して当接している。
【0085】
また、
図15に示すように経路長調整機構32は、この時点でスライドドア用駆動装置10の幅内に収まっており、より具体的には第1ハウジング40および第2ハウジング42との合計幅の約1/2程度の幅となっている。
【0086】
この状態でスライドドア用駆動装置10を車両12における所定位置に取り付け、開用ケーブル20aの他端をドア14に固定するように配索する。開用ケーブル20aはトーションスプリング76によって開用ドラム70に弾性的にある程度巻き取られていることから、弾性力に抗して引き出すことよって開用ケーブル20aを一時的にやや長くして余裕を持たせることができドア14への配索が簡便に行われる。また、回転ストッパ82と回転ストッパ92による回転制限作用により、開用ケーブル20aが過度に引き出されることが防止され、アウターケーシング100がケーブルガイド102から抜けてしまうことがない。開用ケーブル20aのドア14への配索と固定が終了すると、
図14(b)に示すように、開用ケーブル20aはトーションスプリング76によって適度に巻き取られるが、開用ドラム70は初期状態よりもわずかに反時計方向に回転し、回転ストッパ82の時計方向面82bと回転ストッパ92の反時計方向面92bは離間する。
【0087】
さらに、開用ケーブル20aのケーブル経路長が長くなるように経路長調整機構32のリンク106を操作する。すなわち、
図13において第1リンク108を反時計方向に回転させることにより第2リンク110およびケーブルガイド102を押し上げる。リンク106の操作は人手によって簡便に行われる。
【0088】
図16に示すように、第1リンク108を十分に回転させると係合突起108aの先端の爪108dは係合片104cに係合する。このとき、爪108dと係合片104cの双方が最初に当接する面同士は傾斜面となっているので、爪108dはスムーズに係合片104cに係合可能である。爪108dは一度弾性的に外側にやや押し出されて、係合片104cの最も広い部分を乗り越えたときに弾性作用により瞬時に係合することとなり、操作者には適度なクリック感とクリック音が得られ、正常に係合したことが確認できる。第2リンク110の内側底面がガイド部104の下側斜面に当接するとともに、第1リンク108の内側底面が第2リンク110の外側面に当接し安定する。
【0089】
リンク106は爪108dと係合片104cとの係合により固定されると、円突起102c、円突起110aおよび円突起104dは一直線上に配置され、円突起102cと円突起104dとの距離はリンク106の動作範囲の最大長となり、円突起102cは長孔104bの上端部近傍まで押し出される。これにともなってケーブルガイド102およびアウターケーシング100も斜め上方に突出し、さらにアウターケーシング100に挿入されている開用ケーブル20aもトーションスプリング76の弾性力に抗して、アウターケーシング100と一体的に押し出されることになる。
【0090】
つまり、ケーブルガイド102、アウターケーシング100および開用ケーブル20aは、ガイド部104の上端部を基準とすると、円突起102cが長孔104bに沿って移動した距離だけ経路長が長くなって固定されたことになる。
【0091】
図14(c)に示すように、開用ドラム70は開用ケーブル20aが繰り出された分だけ
図14(c)における反時計方向に回転し、これにともなって3つの回転ストッパ82の反時計方向面82cはそれぞれ、3つの回転ストッパ92の時計方向面92cにちょうど当接する。反時計方向面82cと時計方向面92cは所定の公差範囲でわずかに離間していてもよいし、または軽く押圧気味となっていてもよい。これにより、開用ケーブル20aの経路長が弛みを取る長さになったときにアウターケーシング100の端部の位置が固定されることになる。
【0092】
この後のスライドドア用駆動装置10の動作時で、開用ケーブル20aを巻き取るために開用第2出力側歯車60が図中の矢印のように時計方向に回転するとき、3組の回転ストッパ82および回転ストッパ92によって、開用第2出力側歯車60の回転が直接的に開用ケーブル20aに伝達される。また、開用ケーブル20aを巻き取る際には、開用第2出力側歯車60の力は回転ストッパ92、回転ストッパ82、開用ドラム70、開用ケーブル20aおよびドア14へと伝達されるが、この間に弾性変化する箇所や実質的な隙間がなく剛性的に接続されていることから、力の伝達がダイレクトとなり好適な制御がなされる。なお、開用ケーブル20aを繰り出す際には、開用第2出力側歯車60は反時計方向に回転するため、回転ストッパ92から回転ストッパ82へ力が伝達されないが、開用ケーブル20aはドア14によって引き寄せられることから開用ドラム70も反時計方向に回転し、結局は開用第2出力側歯車60と開用ドラム70は同期回転することになる。
【0093】
さらにまた、
図15の仮想線で示すように、この時点においても経路長調整機構32のリンク106はスライドドア用駆動装置10の幅以下に収まっている。つまり、リンク106のジョイント部の軸がX方向に設定されていることから側面から見たリンク106の幅はケーブル長の調整前後で一定であり、スライドドア用駆動装置10の幅内で収まる薄型仕様であり、X1方向またはX2方向に飛び出ることがないため、車両12において狭い場所に搭載可能である。
【0094】
このような経路長を変更可能な経路長調整機構32によれば、テンションプーリなどにより横方向からケーブルを押圧するタイプと比較して部品点数や重量を低減することができる。また、テンションプーリなどスペースやその動作余裕域を設ける必要がない。経路長調整機構32はアウターケーシング100の端部に作用させることにより、経路長を簡便に変更することができる。
【0095】
上記したように、本実施の形態にかかるスライドドア用駆動装置10では、モータ24、開用ドラム70および閉用ドラム72の回転軸は平行であり、開用ドラム70と閉用ドラム72は並列配置されている。このような並列配置によれば、開用ドラム70および閉用ドラム72における開用ケーブル20aおよび閉用ケーブル20bの巻きつけ範囲に無駄がなくなり、その分だけ開用ドラム機構30aおよび閉用ドラム機構30bのX方向長さが短縮され、全体としても薄型化される。また、スライドドア用駆動装置10は薄型化されることにより軽量化や室内幅を含む車両レイアウトの自由度アップが図られる。
【0096】
また、スライドドア用駆動装置10では、経路長調整機構32によりアウターケーシング100のうち開用ドラム70に近い側の端部を開用ケーブル20aの延在方向に沿って移動させ、開用ケーブル20aの経路長を調整する。これにより、テンションプーリなどにより横方向からケーブルを押圧するタイプと比較して部品点数や重量を低減することができる。また、テンションプーリなどスペースやその動作余裕域を設ける必要がない。テンションプーリが不要になる分、開用ケーブル20aに対する屈曲負荷がかからない。さらに、経路長調整機構32はアウターケーシング100の端部に作用させることにより、経路長を簡便に調整することができる。経路長固定部としての係合片104cと爪108dにより、アウターケーシング100を適正位置に固定することができる。さらにまた、経路長固定部によりアウターケーシング100の端部が適正位置に固定された後は、減速機構28から開用ドラム70、開用ケーブル20aおよびドア14までの間が、開用ケーブル20aの巻き取り方向について剛性的に接続されることになる。このように弾性変化する箇所なく剛性的に接続されていることにより、力の伝達がダイレクトとなり好適な制御がなされる。経路長調整機構32は動作前後でユニットの幅内に収まることから、車両12におけるスライドドア用駆動装置10を取り付ける収容部は狭く足り、その分室内幅が広くなる。
【0097】
上記の例ではスライドドア用駆動装置10は車両12の左側に適用されているが、プログラム書替えあるいは適当な左右スイッチ切替えなどの処理で開閉の機能を逆転させるだけで右側についても適用可能である。薄くコンパクトなスライドドア用駆動装置10はセンターレール16bに設けると好適であるが、設計条件によってはアッパーレール16a又はロワーレール16cに設けてもよい。スライドドア用駆動装置10はリア側のドア14の開閉用に限らず、例えば2ドア車のドア開閉に適用してもよい。
【0098】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。