特開2019-45336(P2019-45336A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-45336(P2019-45336A)
(43)【公開日】2019年3月22日
(54)【発明の名称】ばねの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20 20180101AFI20190222BHJP
【FI】
   G01N23/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-169411(P2017-169411)
(22)【出願日】2017年9月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名 平成28年度第2回残留ひずみ・応力解析研究会 微細構造解析プラットフォーム第2回放射光利用研究セミナー 開催日 平成29年3月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】榊原 隆之
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001EA01
2G001GA13
2G001KA07
2G001LA02
2G001MA10
(57)【要約】
【課題】 X線応力測定法を用いてばねの耐久性をより正確に評価することができる方法を提供する。
【解決手段】 ばねの評価方法は、2θ−sinψ線図から算出されるψスプリット幅の値に基づいて耐久性を評価する。ψスプリット幅は、以下の手順で算出する。まず、ショットピーニングが施されたばねの表面に測定点を定め、該測定点を通る該ばねの表面の法線方向にZ軸、主応力方向にX軸を規定する。次に、X−Z面内で、該Z軸を挟む二方向から複数の角度ψで該測定点にX線を照射し、角度ψについて得られた回折角2θをsinψに対してプロットして、2θ−sinψ線図を作成する。作成された2θ−sinψ線図に基づいて、任意の角度ψに対する回折角2θの差を求め、その差の最大値をψスプリット幅とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショットピーニングが施されたばねについて、以下の(i)〜(iv)の手順でψスプリット幅を算出し、算出されたψスプリット幅の値に基づいて耐久性を評価するばねの評価方法。
(i)該ばねの表面に測定点を定め、該測定点を通る該ばねの表面の法線方向にZ軸、主応力方向にX軸を規定する。該測定点を起点として該X軸の一方を基準方向、他方を反対方向とする。
(ii)該Z軸と該X軸とを含む面内で、該Z軸を挟む該基準方向および該反対方向の両方向から複数の角度ψで該測定点にX線を照射する。該X線の照射角度ψは、該Z軸を基準(0°)として該基準方向を正の値、該反対方向を負の値とする。
(iii)該基準方向の各々の角度ψについて得られた回折角2θを、sinψに対してプロットして2θ−sinψ線図を作成する。同様に、該反対方向の各々の角度ψについて得られた回折角2θを、sinψに対してプロットして2θ−sinψ線図を作成する。
(iv)該基準方向の2θ−sinψ線図と該反対方向の2θ−sinψ線図とに基づいて、任意の角度ψに対する回折角2θの差を求め、その差の最大値をψスプリット幅とする。
【請求項2】
前記ψスプリット幅の値が0.15°以下であるか否かを基準として耐久性を評価する請求項1に記載のばねの評価方法。
【請求項3】
前記ばねの表面には、前記ショットピーニングに加えて窒化処理が施されている請求項1または請求項2に記載のばねの評価方法。
【請求項4】
前記ばねは、前記ショットピーニングを含む表面処理が施される前に、引張強さが1500MPa以上になるよう調質されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のばねの評価方法。
【請求項5】
前記ばねは、コイルばねである請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のばねの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線応力測定法を用いてばねの耐久性を評価するばねの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架用ばね、エンジン用弁ばねなどには高い疲労強度が要求される。ばねの疲労強度を高くするためには、熱処理による硬さや組織の制御、ショットピーニングによる圧縮残留応力の付与などが有効である。なかでも、ばねの疲労強度は、表面層における残留応力の影響を大きく受ける。よって、疲労強度を高めるためには、ショットピーニングなどの表面処理による残留応力の制御が重要になる(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−241143号公報
【特許文献2】特開2002−205270号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】榊原隆之、佐藤嘉洋、「ばね鋼へのショットピーニングにおける有向性加工層の残留応力」、「材料」(Journal of the Society of Materials Science, Japan)、2004年7月、第53巻、第7号、746−751頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多数の結晶粒の集合体である金属材料の表面層の応力を測定する方法として、X線応力測定法が知られている。X線応力測定法は、金属材料にX線を照射した時の回折情報から、金属材料の表面層における応力を求める方法である。X線応力測定法の測定原理および測定方法については、例えば、社団法人 日本材料学会 X線材料強度部門委員会が発行する「X線応力測定法標準(2002年版)−鉄鋼編−」に詳しく説明されている。
【0006】
金属材料(試料)表面の測定点における応力σと回折角2θとの間には次式(I)が成立する。式(I)中、Kは金属材料のヤング率、ポアソン比、無応力状態の回折角θから求められる応力定数であり、ψは試料表面法線と結晶面法線とのなす角度である。
σ=K・[∂(2θ)/∂(sinψ)] ・・・(I)
式(I)に示すように、回折角2θとsinψとは一次関数であるため、この傾きに応力定数Kを乗ずれば応力σを求めることができる。実際には、金属材料の測定点に複数の角度ψからX線を照射し、各々の角度ψにおける回折角2θを、縦軸2θ−横軸sinψのグラフにプロットして、2θ−sinψ線図を作成する。そして、プロットした点を最小2乗法で直線に近似し、得られた直線の傾きに応力定数Kを乗じることにより、測定点の応力σを求める。
【0007】
このように、従来は、2θ−sinψ線図を作成し、プロットを最小2乗法で近似した直線に基づいて、残留応力を算出していた。そして、算出された残留応力の値が所定の値以上であれば、疲労強度が高い、すなわち耐久性が高いと評価していた。
【0008】
しかしながら、本発明者が検討を重ねたところ、2θ−sinψ線図を用いて算出された残留応力が大きくても、実際にばねの疲労試験を行うと、耐久性が充分ではないものが存在することが明らかになった。この理由は明らかではないが、例えばコイルばねのように曲面を有するばねにショットピーニングを施すと、場所ごとに投射材の衝突角度が異なるため、残留応力が不均一になることが一因ではないかと考えられる。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、X線応力測定法を用いてばねの耐久性をより正確に評価することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のばねの評価方法は、ショットピーニングが施されたばねについて、以下の(i)〜(iv)の手順でψスプリット幅を算出し、算出されたψスプリット幅の値に基づいて耐久性を評価することを特徴とする。
(i)該ばねの表面に測定点を定め、該測定点を通る該ばねの表面の法線方向にZ軸、主応力方向にX軸を規定する。該測定点を起点として該X軸の一方を基準方向、他方を反対方向とする。
(ii)該Z軸と該X軸とを含む面内で、該Z軸を挟む該基準方向および該反対方向の両方向から複数の角度ψで該測定点にX線を照射する。該X線の照射角度ψは、該Z軸を基準(0°)として該基準方向を正の値、該反対方向を負の値とする。
(iii)該基準方向の各々の角度ψについて得られた回折角2θを、sinψに対してプロットして2θ−sinψ線図を作成する。同様に、該反対方向の各々の角度ψについて得られた回折角2θを、sinψに対してプロットして2θ−sinψ線図を作成する。
(iv)該基準方向の2θ−sinψ線図と該反対方向の2θ−sinψ線図とに基づいて、任意の角度ψに対する回折角2θの差を求め、その差の最大値をψスプリット幅とする。
【0011】
本発明者は、計算により得られた残留応力と実際の疲労試験の結果との不一致は、残留応力の算出過程で、2θ−sinψ線図におけるプロットを直線近似することに問題があるのではないかと考えた。すなわち、2θ−sinψ線図におけるプロットのばらつきに意味があり、個々のプロットが示す特性を見過ごしているおそれがあると考えた。そこで、ψの正負により歪みの値が異なることにより、2θ−sinψ線図におけるプロットが楕円状に分布するψスプリット現象に着目した。ψスプリット現象は、試料の表面層に存在するせん断応力に起因し、一方向にせん断力を伴う有向性加工が施された場合などに観察されることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。このような思想により実現された本発明のばねの評価方法は、2θ−sinψ線図におけるプロットを直線近似することなく、ψの正負が異なる二方向の2θ−sinψ線図において発現するψスプリット現象を利用して、ばねの耐久性を評価する。
【0012】
図1に、ばねの表面に設定される座標系を示す。図1に示すように、ばね(試料)10の表面の測定点をOとし、測定点Oを通る試料表面法線方向にZ軸、主応力方向にX軸を規定する。測定点Oを起点とし、X軸の一方を基準方向X1(φ=0°)、他方を反対方向X2(φ=180°)とする。X線の照射は、Z軸とX軸とを含む面内(X−Z面、図1中、点線で示す)において、基準方向X1および反対方向X2の二方向から、Z軸を基準(0°)として基準方向X1または反対方向X2に傾斜する複数の角度ψで行う。角度ψは、基準方向X1を正の値、反対方向X2を負の値とする。そして、基準方向X1および反対方向X2の両方向において、角度ψごとに回折角2θを求め、2θをsinψに対してプロットして2θ−sinψ線図を作成する。
【0013】
図2に、2θ−sinψ線図のモデル図を示す。図2に示すように、基準方向X1と反対方向X2とにおいて、角度ψが同じ(正負は異なる)で2θの値が異なると、プロットが楕円状に分布するψスプリットが生じる。この場合、任意の角度ψに対する回折角2θの差Dを求め、その差の最大値Dmaxをψスプリット幅とする。なお、基準方向X1および反対方向X2のプロットが一致し、2θ−sinψ線図が線形になる場合には、ψスプリット幅を0とする。例えば、算出されたψスプリット幅の値が0.15°以下であれば、耐久性が高いと評価することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、従来のように2θ−sinψ線図におけるプロットを直線近似することなく、プロットのばらつきを取り入れて、ばねの耐久性を評価する。このため、本発明によると、ばねの表面にショットピーニングによる有向性加工層が存在し、表面層の残留応力が不均一になっている場合でも、ばねの耐久性を従来よりも正確に評価することができる。本発明の方法で得られた耐久性の評価は、ばねの材質、形状、調質状態に応じてショットピーニングなどの表面処理の条件を決定するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ばねの表面に設定される座標系の説明図である。
図2】2θ−sinψ線図のモデル図である。
図3】疲労試験の結果を示すグラフである。
図4】サンプルBのコイルばねの2θ−sinψ線図である。
図5】サンプルCのコイルばねの2θ−sinψ線図である。
図6】ψスプリット幅と疲労試験における耐久回数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のばねの評価方法は、ショットピーニングが施されたばねを対象とする。ばねの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、コイルばね、板ばね、皿ばね、トーションバーなどが挙げられる。ばねの材料としては、ばね鋼が知られており、炭素を主な添加元素とする炭素鋼、Si、Mn、Cr、Vなどを添加する合金鋼、ステンレス鋼などがある。
【0017】
ショットピーニングは、ばねの表面に投射材を高速で打ちつけて圧縮残留応力を付与する処理である。ショットピーニングを施すことにより、ばねの硬さや疲労強度が向上する。ショットピーニングの条件、方法などは特に限定されるものではない。投射材としては、鉄鋼、またはガラス、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックからなる小粒子を用いればよい。小粒子は、球状でも異形状でもよく、例えば鋼線を短く切断したカットワイヤでもよい。一例として、投射材の粒子径は、0.3〜0.6mm、ビッカース硬さは550〜750HVにするとよい。ショットピーニングは、室温で行ってもよく、ばねを室温よりも高い温度(例えば100〜300℃)に保持した状態で行ってもよい。一例として、投射材の投射速度は、70〜90m/秒、投射時間は10〜30分にするとよい。ショットピーニングは、1回でもよく、2回以上行ってもよい。
【0018】
疲労強度をより高めるという観点から、ばねには後述する熱処理の後、ショットピーニングに加えて窒化処理などの表面処理が施されていてもよい。窒化処理により、ばねの表面にFeNなどの薄い窒化物層が形成されることにより、表面が硬化して疲労強度が向上する。窒化処理の条件、方法などは特に限定されるものではない。例えば、500℃程度の温度下、アンモニアガスなどの窒素を含むガス中でばねを所定時間保持して行うことができる。なお、ショットピーニングや窒化処理を行う前にデスケーリング処理を行い、熱処理の後に生成する酸化皮膜などを除去してもよい。
【0019】
ばねは、ショットピーニングを含む表面処理が施される前に、引張強さが1500MPa以上になるよう調質されていることが望ましい。引張強さは、引張試験においてばねが破断するまでの最大荷重をばねの初期断面積で除した値である。調質としては、ばねの製造において通常行われる焼き入れ、焼き戻し、セッチングなどの熱処理が挙げられる。例えば、熱処理を誘導加熱により行うと、処理時間が短くて済むなどの利点がある。
【0020】
本発明のばねの評価方法は、上述した(i)〜(iv)の手順でψスプリット幅を算出し、算出されたψスプリット幅の値に基づいて耐久性を評価する。例えば、ψスプリット幅の値が0.15°以下であれば、耐久性が高いと評価することができる。
【0021】
手順(i)で規定する主応力方向(X軸)は、ばねに圧縮荷重を加えた場合に作用応力が最大になる方向である。例えばコイルばねの場合には、線軸に対して45°傾斜した方向、板ばねの場合には、長手方向に定めればよい。手順(ii)におけるX線の照射角度ψは、特に限定されないが、例えば、0°、±15°、±20°、±30°、±40°などを選択すればよい。X線回折測定には、X線照射とそれにより生じる回折パターンを検出できる公知の装置を用いればよい。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0023】
<コイルばねの製造>
耐久性を評価するばねとして、以下の手順で冷間成形したコイルばねを使用した。コイルばねの材料としては、ばね用鋼線(SWOSC−V)を用いた。ばね用鋼線には、焼き入れ(950℃に誘導加熱した後急冷)、および焼き戻し(500℃に誘導加熱した後空冷)が施されており、ばね用鋼線の引張強さは1950MPaであった。まず、ばね用鋼線をコイリング(成形)してコイルばねとした。次に、コイルばねを低温焼鈍(400℃で30分間)した。それから、コイルばねの表面に、直径0.3mmの投射材を30分間投射するデスケーリング処理を施した後、窒化処理を施した。窒化処理は、コイルばねをアンモニアを含むガス中に480℃下で2時間保持して行った。その後、コイルばねの表面に、ショットピーニング処理を施した。ショットピーニング処理は、3回に分けて行った。1回目は直径0.6mmの投射材を30分間投射し、2回目は直径0.3mmの投射材を30分間投射し、3回目は直径0.1mmの投射材を15分間投射した。表1に、製造したコイルばねの諸元を示す。
【表1】
【0024】
<疲労試験>
製造したコイルばねを星形耐久試験機(最大容量32本)に取り付けて、疲労試験を行った。疲労試験においては、応力振幅τ=686±650MPa、平均応力610MPaにて、ばねを繰り返し伸縮させた。
【0025】
疲労試験の結果として、図3に、試験したコイルばねにおける応力振幅と折損までの繰り返し回数(耐久回数)とをプロットしたグラフを示す。図3には、10%折損確率線を直線で示す。10%折損確率線とは、試験したコイルばねのうち10%の数が折損する耐久回数を示す線である。10%折損確率線は、疲労試験結果を統計的に処理して算出した。プロットが10%折損確率線の線上または上側にあれば、疲労強度が高い、すなわち耐久性が高いと判断することができる。図3に示すように、プロットの多くは、10%折損確率線の線上または上側にあり所望の耐久性を有していたが、一部は10%折損確率線の下側にあり耐久性が充分ではないという結果になった。
【0026】
<X線応力測定法を用いたψスプリット幅の算出>
疲労試験の結果、耐久性が高いと判断されたコイルばね、耐久性が充分ではないと判断されたコイルばねを各々2つずつ選び、X線応力測定法に基づいた以下の(i)〜(iv)の方法により、各々のコイルばねについてψスプリット幅を算出した。耐久性が高いコイルばねは、耐久回数が62,888,500回、100,000,000回の2つであり、順にサンプルA、サンプルBのコイルばねと称す。耐久性が充分ではないコイルばねは、耐久回数が8,010,500回、8,113,300回の2つであり、順にサンプルC、サンプルDのコイルばねと称す。
【0027】
(i)まず、コイルばねの表面に測定点Oを定め、測定点Oを通るコイルばね表面の法線方向にZ軸、線軸に対して45°傾斜した方向(主応力方向)にX軸を規定した。測定点Oを起点とし、X軸の一方を基準方向X1(φ=0°)、他方を反対方向X2(φ=180°)とした(符号は前出図1参照)。
【0028】
(ii)次に、X−Z面において、Z軸を基準(0°)として基準方向X1にψ=0°、15°、20°、30°、40°の角度で傾斜する方向から、測定点OにX線を照射して、各々の角度ψにおける回折角2θを求めた。同様に、Z軸を基準(0°)として反対方向X2にψ=−15°、−20°、30°、−40°の角度で傾斜する方向から、測定点OにX線を照射して、各々の角度ψにおける回折角2θを求めた。X線の回折ピーク位置は、半価幅中点法により決定した。
【0029】
表2に、X線回折測定の条件を示す。
【表2】
【0030】
(iii)次に、基準方向X1の角度ψごとの回折角2θをsinψに対してプロットして、基準方向X1の2θ−sinψ線図を作成した。同様に、反対方向X2の角度ψごとの回折角2θをsinψに対してプロットして、反対方向X2の2θ−sinψ線図を作成した。反対方向X2の2θ−sinψ線図は、基準方向X1の2θ−sinψ線図に重ねて作成した。
【0031】
図4に、サンプルB(耐久回数100,000,000回)のコイルばねの2θ−sinψ線図を示す。図5に、サンプルC(耐久回数8,010,500回)のコイルばねの2θ−sinψ線図を示す。図4に示すように、サンプルBのコイルばねについては、基準方向と反対方向との2θ−sinψ線図はほぼ一致し、ψスプリットは認められるものの、回折角2θの差(ψスプリット幅)は小さかった。一方、図5に示すように、サンプルCのコイルばねについては、基準方向と反対方向との2θ−sinψ線図は一致せず、ψスプリットが認められ、サンプルBと比較して回折角2θの差(ψスプリット幅)は大きくなった。
【0032】
(iv)サンプルA〜Dの各コイルばねについて、基準方向および反対方向の2θ−sinψ線図における角度ψごとの回折角2θの差を求め、その最大値をψスプリット幅とした。図6に、サンプルA〜Dの各コイルばねのψスプリット幅と疲労試験における耐久回数との関係を示す。
【0033】
図6に示すように、耐久回数が多く耐久性が高いサンプルA、Bのコイルばねのψスプリット幅は、0.15°未満であった。一方、耐久回数が少なく耐久性が充分ではないサンプルC、Dのコイルばねのψスプリット幅は、0.15°を超えていた。このように、ψスプリット幅の0.15°を基準にして、耐久性を評価できることが確認された。以上説明したように、本発明のばねの評価方法によると、表面にショットピーニングによる有向性加工層が存在する可能性があるコイルばねについても、耐久性を正確に評価することができる。
【符号の説明】
【0034】
10:ばね、O:測定点、X1:基準方向、X2:反対方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6