【実施例】
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0023】
<コイルばねの製造>
耐久性を評価するばねとして、以下の手順で冷間成形したコイルばねを使用した。コイルばねの材料としては、ばね用鋼線(SWOSC−V)を用いた。ばね用鋼線には、焼き入れ(950℃に誘導加熱した後急冷)、および焼き戻し(500℃に誘導加熱した後空冷)が施されており、ばね用鋼線の引張強さは1950MPaであった。まず、ばね用鋼線をコイリング(成形)してコイルばねとした。次に、コイルばねを低温焼鈍(400℃で30分間)した。それから、コイルばねの表面に、直径0.3mmの投射材を30分間投射するデスケーリング処理を施した後、窒化処理を施した。窒化処理は、コイルばねをアンモニアを含むガス中に480℃下で2時間保持して行った。その後、コイルばねの表面に、ショットピーニング処理を施した。ショットピーニング処理は、3回に分けて行った。1回目は直径0.6mmの投射材を30分間投射し、2回目は直径0.3mmの投射材を30分間投射し、3回目は直径0.1mmの投射材を15分間投射した。表1に、製造したコイルばねの諸元を示す。
【表1】
【0024】
<疲労試験>
製造したコイルばねを星形耐久試験機(最大容量32本)に取り付けて、疲労試験を行った。疲労試験においては、応力振幅τ=686±650MPa、平均応力610MPaにて、ばねを繰り返し伸縮させた。
【0025】
疲労試験の結果として、
図3に、試験したコイルばねにおける応力振幅と折損までの繰り返し回数(耐久回数)とをプロットしたグラフを示す。
図3には、10%折損確率線を直線で示す。10%折損確率線とは、試験したコイルばねのうち10%の数が折損する耐久回数を示す線である。10%折損確率線は、疲労試験結果を統計的に処理して算出した。プロットが10%折損確率線の線上または上側にあれば、疲労強度が高い、すなわち耐久性が高いと判断することができる。
図3に示すように、プロットの多くは、10%折損確率線の線上または上側にあり所望の耐久性を有していたが、一部は10%折損確率線の下側にあり耐久性が充分ではないという結果になった。
【0026】
<X線応力測定法を用いたψスプリット幅の算出>
疲労試験の結果、耐久性が高いと判断されたコイルばね、耐久性が充分ではないと判断されたコイルばねを各々2つずつ選び、X線応力測定法に基づいた以下の(i)〜(iv)の方法により、各々のコイルばねについてψスプリット幅を算出した。耐久性が高いコイルばねは、耐久回数が62,888,500回、100,000,000回の2つであり、順にサンプルA、サンプルBのコイルばねと称す。耐久性が充分ではないコイルばねは、耐久回数が8,010,500回、8,113,300回の2つであり、順にサンプルC、サンプルDのコイルばねと称す。
【0027】
(i)まず、コイルばねの表面に測定点Oを定め、測定点Oを通るコイルばね表面の法線方向にZ軸、線軸に対して45°傾斜した方向(主応力方向)にX軸を規定した。測定点Oを起点とし、X軸の一方を基準方向X1(φ=0°)、他方を反対方向X2(φ=180°)とした(符号は前出
図1参照)。
【0028】
(ii)次に、X−Z面において、Z軸を基準(0°)として基準方向X1にψ=0°、15°、20°、30°、40°の角度で傾斜する方向から、測定点OにX線を照射して、各々の角度ψにおける回折角2θを求めた。同様に、Z軸を基準(0°)として反対方向X2にψ=−15°、−20°、30°、−40°の角度で傾斜する方向から、測定点OにX線を照射して、各々の角度ψにおける回折角2θを求めた。X線の回折ピーク位置は、半価幅中点法により決定した。
【0029】
表2に、X線回折測定の条件を示す。
【表2】
【0030】
(iii)次に、基準方向X1の角度ψごとの回折角2θをsin
2ψに対してプロットして、基準方向X1の2θ−sin
2ψ線図を作成した。同様に、反対方向X2の角度ψごとの回折角2θをsin
2ψに対してプロットして、反対方向X2の2θ−sin
2ψ線図を作成した。反対方向X2の2θ−sin
2ψ線図は、基準方向X1の2θ−sin
2ψ線図に重ねて作成した。
【0031】
図4に、サンプルB(耐久回数100,000,000回)のコイルばねの2θ−sin
2ψ線図を示す。
図5に、サンプルC(耐久回数8,010,500回)のコイルばねの2θ−sin
2ψ線図を示す。
図4に示すように、サンプルBのコイルばねについては、基準方向と反対方向との2θ−sin
2ψ線図はほぼ一致し、ψスプリットは認められるものの、回折角2θの差(ψスプリット幅)は小さかった。一方、
図5に示すように、サンプルCのコイルばねについては、基準方向と反対方向との2θ−sin
2ψ線図は一致せず、ψスプリットが認められ、サンプルBと比較して回折角2θの差(ψスプリット幅)は大きくなった。
【0032】
(iv)サンプルA〜Dの各コイルばねについて、基準方向および反対方向の2θ−sin
2ψ線図における角度ψごとの回折角2θの差を求め、その最大値をψスプリット幅とした。
図6に、サンプルA〜Dの各コイルばねのψスプリット幅と疲労試験における耐久回数との関係を示す。
【0033】
図6に示すように、耐久回数が多く耐久性が高いサンプルA、Bのコイルばねのψスプリット幅は、0.15°未満であった。一方、耐久回数が少なく耐久性が充分ではないサンプルC、Dのコイルばねのψスプリット幅は、0.15°を超えていた。このように、ψスプリット幅の0.15°を基準にして、耐久性を評価できることが確認された。以上説明したように、本発明のばねの評価方法によると、表面にショットピーニングによる有向性加工層が存在する可能性があるコイルばねについても、耐久性を正確に評価することができる。