特開2019-4648(P2019-4648A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トネックス株式会社の特許一覧

特開2019-4648自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ
<>
  • 特開2019004648-自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ 図000003
  • 特開2019004648-自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ 図000004
  • 特開2019004648-自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ 図000005
  • 特開2019004648-自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ 図000006
  • 特開2019004648-自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ 図000007
  • 特開2019004648-自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ 図000008
  • 特開2019004648-自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-4648(P2019-4648A)
(43)【公開日】2019年1月10日
(54)【発明の名称】自動車エアコンディショナー用モータアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/116 20060101AFI20181207BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20181207BHJP
   H02K 5/24 20060101ALI20181207BHJP
【FI】
   H02K7/116
   B60H1/00 103G
   H02K5/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-119233(P2017-119233)
(22)【出願日】2017年6月19日
(71)【出願人】
【識別番号】591249884
【氏名又は名称】トネックス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智
(72)【発明者】
【氏名】内川 晶
(72)【発明者】
【氏名】早川 清一
(72)【発明者】
【氏名】町田 貴之
【テーマコード(参考)】
3L211
5H605
5H607
【Fターム(参考)】
3L211BA14
3L211BA51
3L211BA52
3L211DA15
5H605AA05
5H605BB05
5H605CC01
5H605FF06
5H605GG02
5H607AA04
5H607BB01
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE31
(57)【要約】
【課題】自動車エアコン用のモータアクチエータにおいては、稼働時のモータ振動の伝搬により、樹脂ケースが捻じれ、一定以上の応力になると樹脂ケースの反力で元に戻る。この捻じれが解放される時にモータアクチエータにはギシギシするような耳障りとなる異音が発生する。これを解消するためには、弾性体(振動吸収材)の追加等を行う必要があるが、重量の増加やコスト上昇、生産性の悪化等の課題があった。
【解決手段】モータアクチエータの樹脂ケースの一部分を完全固着させ、固着させない部分と交互に存在させることで、モータ稼働時に発生するケースの歪みを抑制し、歪みが解消する時に発生するぎしぎしと聞こえる耳障りな異音の発生を抑えることが出来、緩衝剤や構造変更を伴わないため、安価な構造で対応が可能である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ回転を数段の減速ギヤを用いてトルク力を増大させる機構を持ち、これらの機構を達成する内臓部品を保護するため、上下に分割した樹脂ケースで覆った自動車用エアコンディショナーを操作するモータアクチエータにおいて、この上下樹脂ケースの内部の接触面で溶接、熱溶着、振動溶着、接着剤等の固着手段を用いて、上下樹脂ケースの外周の内面の接触面が部分的に完全に固着し、固着されていない部分と固着した部分が交互に存在する事を特徴としている前記モータアクチエータ。
【請求項2】
記アクチエータの上下樹脂ケースの固着面は、最低1箇所以上あり、固着面は各辺の全長を100%とした場合、中央部分(50%位置)の±40%の範囲(10〜90%の範囲)で樹脂ケースの角部を含まない位置に存在し、1箇所または複数個所存在する固着面の合計は5%〜60%の範囲とする事で固着面と非固着面を交互に存在させている前記モータアクチエータ。
なお、固着部分として設定した領域では、必ずしも連続で固着させなくても良く、樹脂ケースの接触させた状態で、上下ケースに隙間がある部分は、空間として残しても良い。但し、この場合でも合計の固着部分が60%を超えない範囲である事を特徴とする前記モータアクチエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載されるエアコンディショナーを操作するモータアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアコンに用いるモータアクチエータにおいては、モータと樹脂ギヤを組み合わせて、樹脂ケースで覆ったモータアクチエータが広く使用されている。
このモータアクチエータについては、モータを稼働させた場合、モータのトルクによる振動が伝わり、樹脂ケースにはモータ回転方向の捻じれが生じる。この捻じれが一定値以上になると樹脂ケースの反力で元に戻る揺り戻し現象が発生し、捻じれ解消後に再び捻じれが生じるというように、捻じれと解放が繰り返し発生している。この結果、捻じれが解放される時にモータアクチエータからはギシギシするような耳障りとなる異音が発生し、大きな問題となっている。
【0003】
このため、モータ稼働時の振動伝搬を対策する事を目的に、特許文献1では、モータのロータ部やコイル部をカバーしモータそのものを固定する弾性体を追加し、この弾性体に荷重を加える部品を追加する事でモータを弾性体で固定し振動が樹脂ケースに伝搬する事を防ぐ方法が提案されている。また、特許文献2では、モータが配置された部分に2色成形技術を応用することでモータ外形部に防振材を形成させ、モータ振動の伝搬を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3751771号
【特許文献2】特許4739195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、モータ設置位置の防振作用によりモータ本体が振動する事で起こるケースの細かな振動は抑制可能であるが、弾性体が吸収する応力が一定値を超えた場合の揺り戻しで起こる長周期振動の抑制効果が無く、耳障りな異音を防止する事が出来ていない。また。部品追加に伴う生産コストの上昇や、部品固定のための寸法精度の向上による生産性悪化があり、加えて、製品全体の重量が増加し、車両が要求する軽量化に反するという問題を抱えている。
【0006】
特許文献2で提案された手法では、上記と同様の防振構造を2色成形用いて実現するものであるため、その効果も同様であり、異音の完全な防止は出来ないだけでなく、生産コストの悪化や製品重量の増加が同様に懸念される。さらに、高精度が要求されるモータとギヤのクリアランスに対して工法上精度が出しにくく、2色成形の課題である高温耐性や対候性が弱いという問題も抱えている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、モータアクチエータを構成する最外層の上下樹脂ケースの接触面の内部で、溶接、熱溶着、振動溶着、接着剤等の固着手段により、内部の接触面の一部分を完全に固着させ、固着されていない部分と固着部分を交互に存在させた事を特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構造により、現行仕様であるケースが爪で勘合させた場合での異音が発生するメカニズムであるモータ稼働時の短周期でのケースの捻じれ−解放を抑制でき、加えて、全周固着した場合や防振構造の追加等で発生する樹脂ケースの捻じれ応力の増加と樹脂ケースの反力による捻じれ解放時起こる長周期振動で発生する異音を固着させない部分で逃がす事が出来、モータアクチエータで発生するギシギシする耳障りな異音を排除する事を可能にした。
【0009】
実際の固着させる箇所は、前記モータアクチエータの樹脂ケースの各辺に対して、最低1箇所以上の固着面を設け、各辺の全長を100%とした場合、中央部分(50%位置)の±40%の範囲(10〜90%の範囲)で樹脂ケースの角部を含まない位置に存在し、固着面の合計は5%〜60%の範囲とする事で固着面と非固着面を交互に存在させている前記モータアクチエータ。
なお、固着部分として設定した領域では、必ずしも連続で固着させなくても良く、樹脂ケースの接触させた状態で、上下ケースに隙間がある部分は、空間として残しても良い。但し、この場合でも合計の固着部分が60%を超えない範囲である事を特徴とする前記モータアクチエータ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明品の実施形態における内部構成を示した物で図面の代用図である
図2】本発明品の実施形態における上下ケースの固着部分と非固着部分を示した図面の代用図である。
図3】本発明品と比較品であるモータアクチエータの稼働時の樹脂ケースの変位量を示したグラフである。
図4】本発明品と比較品であるモータアクチエータの稼働時の異音発生時の音圧変化のグラフである。
図5】本発明の効果が出るモータアクチエータ樹脂ケースの固着させる範囲を示したグラフである。
図6】本発明品の効果を説明した模式図である。
図7】本発明品を実現させるための溶着用の溶着装置である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明に係るモータアクチエータの実施形態に関して説明する。
図1は、本発明品であるモータアクチエータの内部構成を示したものであり、モータアクチエータは、内部にモータ21とモータ出力を減速する複数のギヤ22a、22b、22c、22d、22eを備え、樹脂製の上ケース25、下ケース26により内蔵される構造になっている。
【実施例】
【0012】
図2は、本発明における上下樹脂ケースの固着部分の実施例を示した物で、上ケース25と下ケース26の固着する位置の詳細を示している。上下ケースは、ケース合わせ目の内側で、固着面は各辺の10%〜90%の位置の範囲で面積は辺の長さに対して30%で1箇所、若しくは、18%の固着面積で2箇所設けた構造である。これにより、部分的な固着面と非固着面を形成している。尚、固着範囲の合計が、全体で5〜60%の範囲であれば本発明品と同様の効果を得る事ができる。
【0013】
図3は、本発明品の効果を示したグラフであり、モータアクチエータを稼働させた時の上下樹脂ケース25、26の内部の固着面積を変えた場合の各構造の上ケース25の左右方向の変位量(移動量)を計測した結果である。
Fig.1は、本発明品の樹脂ケースの変位量を示したグラフであり、モータ稼働時でも、上ケースの変位量は小さく、高周波の振れが±5μm、比較的長いうねりの様な振動は±20μm以内であった。Fig.2は、従来仕様で固着部分が全く無い仕様の変位量を示している。上ケースは細かく大きな高周波の変動が±20μm、比較的長い周期でうねりのような大きな変位が±40μm発生している。Fig.3は上下樹脂ケース25,26を全周固着させた仕様である。細かな高周波の振れは±5μmと小さい物の、うねりのような大きな変位は±35μmあり変位を抑制する効果は少ない事が確認できた。
【0014】
図4は、モータアクチエータ稼働時の実際の異音の大きさを測定した結果であり、それぞれ、Fig.4は本発明品、Fig.5は従来構造品、Fig.6は上下ケース25、26を完全に固着させた仕様の測定結果になる。前述した図5の結果と同様に、従来仕様の固着無し仕様や全周を固着させた仕様は、大きな異音ピークが発生している事が確認できた。これに対して、本発明仕様では、この大きな異音ピークが発生していない事が確認できた。実際の聴感検査でも、従来品やケースを全周固着した仕様は異音が確認されたのに対して、本発明品は、異音は発生せず、効果が確認できた。
【0015】
図5は、上下樹脂ケース25,26の内部の固着面積比率とモータアクチエータの最大異音圧を測定した結果である。本図で示した通り、固着面積が5%〜60%の範囲で音圧最大値を低く抑える事が出来ており。本発明品の効果を示している。
【0016】
図6は、本発明品の効果の原理を示した物である。
モータアクチエータを稼働させた場合、内蔵されたモータはエアコンディショナーの対象レバーが目標位置に到達するまで一定方向に回転する。この時、上下の樹脂ケースはモータから回転方向の振動を受けるが、その強さや方向は、モータからの距離や方向で異なり、全体として樹脂ケースには、モータ回転方向と同一方向の捻じれとなって伝達される。
固着面の無い従来の仕様では、上下ケースの接触面が捻じれやすく、短周期でケースが絶えず捻じれ−解放を繰り返すぶれのような変異があり、その大きさは、図5で示した通り、上ケースでは±20μmの変位量があった。また、ケース全体としては、一定以上の応力がケース溜まった場合に一気に解放されるため、うねりの様な大きな長周期の変位は±40μm程度あり、この変化は、図6で示した通り角状の音圧ピークとなり、聴感ではぎしぎしとした耳障りなノイズを発生させる要因となっている。
一方、樹脂ケース全周を固着させた仕様では、上下ケースの接触面が固着し一体化しているので、短周期で発生する上下ケース25、26の振動は図5より約±10μmに抑制出来ているが、徐々に捻じれが大きくなるため、樹脂ケースの反力が耐性を超えた場合に一気に捻じれが解放され、その大きさは、約±35μmが計測されている。この解放時に異音が発生するため、一定間隔で大きな異音が発生する原因となっており、異音解消効果は少ない。
これに対して本発明品では、上下ケース25、26において、一体化した固着部分と非固着部分が一定間隔で交互に存在するため、固着部分の効果で、上下ケース25,26の短周期の捻じれが約±5μmに抑えられている。非固着部分もこの動きに制限されるため、全体として、大きな変位は発生しない。また、完全固着した場合に起こる、徐々に増加する変位量に対しては、固着部分の体積が小さく、捻じれ応力の内部保持量も少なくなり、完全固着と比べ、解放する時点でのエネルギーが少ないため、変位量が少ない段階で捻じれが解放される。加えて、固着していない部分の緩衝作用で捻じれを解放する場合に、揺り戻しも小さくなり、全体として捻じれ量が小さくなっている。また、変位量も±20μm以下と少なくなっている。これにより、異音発生をも抑制する事が出来た。この結果、モータ振動の影響で発生する、ぎしぎしとした異音が発生しないモータアクチエータの提供を可能とした。
【0017】
図8は、本発明品を実現するための振動溶着装置の概略図である。従来仕様では上下の樹脂ケースは、爪形状の凹凸によりケース全体を勘合させていたが、樹脂の性質上、温度による硬度差や伸び縮みにより勘合力が変化し、また、モータ稼働時の捻じれ方向のゆがみの発生が避けられず、異音発生の大きな要因となっている。本発明品は構造変更や部品追加等の構造無しでこの課題を解決する手段を提供するもので、図9の装置を用いた具体的な生産方法を以下に示す。
本発明品は、通常の組み立て工程終了後に、最終工程に追加するもので、従来工程の変更がなく、溶着したい部分に高振動を掛けて、樹脂の部分的な熱溶着を行う、振動溶着工法を用いて実現させた。
振動溶着工程は、最初に従来のアクチエータ完成品を固定可能な装置の台座に正確にセットし、溶着部と同一形状のホーンをアクチエータに合わせ、発信機から発信された振動を振動子を通して増幅し、ホーンに伝えアクチエータの上下樹脂ケースの接触面を1KHz〜100KHzの間で振動させる事で発生する摩擦熱による接触面を熱溶着して、アクチエータの上下樹脂ケースの当該部分を固着させる。溶着時間は20秒以下である。尚、従来品でケースの勘合に利用していた爪部は、振動溶着においても、溶着前の上下ケースの仮止めとして使用するため形状変更の必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
近年、自動車には省エネ化や温暖化ガス削減の観点から、低燃費、低排気を達成するため軽量化が求められ、加えて静粛性などの乗り心地向上が要求されている。この要求に対して、部品追加や構造変更を伴うことが無く、安価で静粛性の高いモータアクチエータを提供する事が可能となる。
【符号の説明】
【0019】
10 モータアクチュエータ
20 モータアクチュエータ内部構造図
21 モータ
22a モータ速度減速用ギヤ
22b モータ速度減速用ギヤ
22c モータ速度減速用ギヤ
22d モータ速度減速用ギヤ
22e モータ速度減速用ギヤ
23 ギヤ固定用シャフト
24 エアコンディショナー操作レバー勘合部
25 上側樹脂ケース
26 下側樹脂ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7