【解決手段】マイクロ波IC導波路装置モジュールは、貫通孔を有する基板と、基板の第1の面側に配置されるマイクロ波ICと、第1の面と反対側の、基板の第2の面側に配置され、貫通孔に対向する導電性の導波面を有する導波部材と、少なくとも当該導波面に沿って拡がる部分を覆う導電部材と、導波部材の両側の人工磁気導体とを有する。導波部材の導波面は基板に沿って延びるストライプ形状を有している。マイクロ波ICは、信号端子およびグランド端子の端子対を有する。基板は、貫通孔の内壁を覆い、導電部材と電気的に接続する内壁導電部を有する。信号端子およびグランド端子は、内壁導電部の、貫通孔を挟んで対向する2つの部分にそれぞれ電気的に接続されている。
前記内壁導電部を貫通方向に垂直な仮想平面で切った断面形状が、H字形状の上半分の形状またはU字形である、請求項1から6のいずれかに記載のマイクロ波IC導波路装置モジュール。
前記内壁導電部の前記断面形状のそれぞれの角部は、少なくとも面取りまたはR形状をなす繋ぎ形状である、請求項7から9のいずれかに記載のマイクロ波IC導波路装置モジュール。
前記導波部材が、前記貫通孔に対向する部位において伸びる方向は、前記マイクロ波ICの前記信号端子と前記グランド端子を結ぶ仮想線に沿った方向に平行である、請求項10に記載のマイクロ波IC導波路装置モジュール。
前記導電部材は、前記導波面に沿って拡がる前記部分を越えて広がり、前記他の導電部材の少なくとも一部を構成する、請求項19に記載のマイクロ波IC導波路装置モジュール。
前記マイクロ波ICと前記複数の他の導電性ロッドの少なくとも一部との間に樹脂層をさらに備える、請求項1から24のいずれかに記載のマイクロ波IC導波路装置モジュール。
前記樹脂層は、前記マイクロ波ICおよび前記複数の他の導電性ロッドの前記少なくとも一部の先端部に接触している、請求項25に記載のマイクロ波IC導波路装置モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<用語>
「マイクロ波」は、周波数が300MHzから300GHzまでの範囲にある電磁波を意味する。「マイクロ波」のうち、周波数が30GHzから300GHzまでの範囲にある電磁波を「ミリ波」と称する。真空中における「マイクロ波」の波長は、1mmから1mの範囲にあり、「ミリ波」の波長は、1mmから10mmの範囲にある。
【0017】
「マイクロ波IC(マイクロ波集積回路素子)」は、マイクロ波帯域の高周波信号を生成または処理する半導体集積回路のチップまたはパッケージである。「パッケージ」は、マイクロ波帯域の高周波信号を生成または処理する1個または複数個の半導体集積回路チップ(モノリシックICチップ)を含むパッケージである。本開示において、「マイクロ波IC」を「MMIC」と称する場合がある。また、ミリ波帯域の高周波信号を生成または処理する「マイクロ波IC」を「ミリ波IC」と称する場合がある。
【0018】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示によるマイクロ波IC導波路装置モジュールの実施形態を説明する。
【0019】
図1は、本開示の一実施形態にかかるマイクロ波IC導波路装置モジュール100が備える基本構成の、限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。
図1では、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。座標系および本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0020】
マイクロ波IC導波路装置モジュール100は、マイクロ波IC基板110と、プレート状のワッフルアイアン遮断部材120と、マイクロ波IC130とを備えている。以下、記載の簡略化のため、マイクロ波IC導波路装置モジュールを「モジュール」と、ワッフルアイアン遮断部材を「遮断部材」と略記する。また、遮断部材120を「導電プレート」と呼ぶことがある。
【0021】
まずモジュール100の概要を説明する。
【0022】
マイクロ波IC基板110および遮断部材120は、導波路(導波管およびリッジ導波路)を形成している。マイクロ波IC基板110には、導波管として機能する貫通孔(後述)が設けられている。マイクロ波IC130の少なくとも1組の信号端子およびグランド端子は貫通孔に接続され、電磁波を発生させる。電磁波はそのまま貫通孔内を伝搬し、さらにその先に設けられたリッジ導波路を伝搬する。リッジ導波路は、マイクロ波IC基板110の下面および遮断部材120によって形成された、人工磁気導体として機能し得るワッフルアイアン構造中に設けられている。このような人工磁気導体を利用するリッジ導波路(以下、WRG:Waffle−iron Ridge waveGuideと称する場合がある。)は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。
【0023】
以下、モジュール100の構成を詳細に説明する。
【0024】
モジュール100では、マイクロ波IC基板110と遮断部材120とは間隔を開けて配置されており、その間隔はモジュール100内を伝搬する電磁波の波長との関係で定められる。たとえば、モジュール100を伝搬される電磁波の自由空間における波長を4mmとすると、マイクロ波IC基板110と遮断部材120との間隔は2mm未満である。モジュール100の寸法については後に詳細に説明する。
【0025】
マイクロ波IC基板110は、XY平面に平行な下面110aおよび上面110bを有する。下面110aは、マイクロ波IC基板110の−Z側の面(遮断部材120と対向している側の面)である。上面110bは、マイクロ波IC基板110の+Z側の面(遮断部材120と対向していない側の面)である。なお、下面110aおよび上面110bはそれぞれ厳密にXY平面に平行でなくてもよく、一部が曲面形状を有していてもよい。
【0026】
マイクロ波IC基板110の上面110bにはマイクロ波IC130が設けられている。マイクロ波IC130は、能動素子(たとえばトランジスタ、ダイオード)と、受動素子(たとえば伝送線路、抵抗、容量、インダクタンス)とが集積化された回路である。さらに、複数の機能をもつ回路が集積された回路も、マイクロ波IC130の範疇である。単一の半導体基板の上に1個以上のマイクロ波ICが集積化された場合には、特に「モノリシックマイクロ波集積回路」(MMIC)と呼ばれる。
【0027】
マイクロ波IC130は、たとえばレーダシステムのアンテナ素子から放射される信号波(電磁波)のもととなる電気信号を生成する。あるいはマイクロ波IC130は、レーダシステムのアンテナ素子を介して受け取った信号波(電磁波)から得られた電気信号を処理する。マイクロ波IC130の詳細な機能および当該機能を実現するための内部構成の詳細の説明は省略する。
【0028】
遮断部材120は、複数の導電性ロッド124を有する。詳細は
図2を参照しながら説明する。
【0029】
図2は、わかりやすさのため、マイクロ波IC基板110と遮断部材120との間隔を極端に離した状態にあるモジュール100を模式的に示す斜視図である。
【0030】
遮断部材120は、導波部材122と、複数の導電性ロッド124とを備えている。
【0031】
導波部材122は、細長いストライプ形状の導波面122aを有している。マイクロ波IC基板110と遮断部材120とが組み付けられたとき、導波面122aはマイクロ波IC基板110の下面110aに沿って延びる。
【0032】
一例として、マイクロ波IC基板110の下面110aには、
図2には示されていない導電部材が設けられており、当該導電部材は導波面122aに沿って導波面122aの上方を覆っている。モジュール100において生成された信号波(電磁波)、またはアンテナ素子によって受信された信号波(電磁波)は、導波面122aと、当該導波面122aに対向する導電部材の部分との間を伝搬する。
【0033】
図2にはさらに、マイクロ波IC基板110とマイクロ波IC130とが、Z方向に離れた状態で記載されている。マイクロ波IC基板110は、その上面110bから下面110aに貫通する貫通孔140を有している。貫通孔140の内壁は導電体で覆われている。本明細書では、内壁に設けられた導電体を包括的に、「内壁導電部140a」と呼ぶ。内壁導電部140aは、マイクロ波IC基板110の上述した導電部材と電気的に接続されている。
【0034】
マイクロ波IC130は、マイクロ波IC基板110の上面110bに対向する側の面に、少なくとも1組の信号端子Sおよびグランド端子Gを有している。
図2には、マイクロ波IC130を透過して見たときの信号端子Sおよびグランド端子Gが記載されている。
【0035】
信号端子Sおよびグランド端子Gは、貫通孔140を挟んで対向する内壁導電部140aの2つの位置に電気的に接続されている。信号端子Sおよびグランド端子Gと内壁導電部140aとが接続された部分が電磁波の信号発生部として機能する。これにより、内壁導電部140aを電磁波が伝搬する。
【0036】
マイクロ波IC基板110と遮断部材120とが組み付けられたとき、導波面122aと、マイクロ波IC基板110の下面110aにおける貫通孔140の開口位置とは対向する。これにより、貫通孔140から導波面122aへと、または導波面122aから貫通孔140へと電磁波が伝搬し得る。本明細書では、互いに対向する導波面122aおよび貫通孔140の開口部分とで挟まれた空間部位を、「接続部」と呼ぶ。
図2の導波面122aには、接続部の射影がハッチングによって示されている。
【0037】
貫通孔140のZ軸に垂直な平面で切った断面形状は、後述する通り、X方向に長辺を持つ長方形である。貫通孔140の+Z方向端部は、前述したとおり、マイクロ波IC130の信号端子Sおよびグランド端子Gと電気的に接続されている。これにより貫通孔140の内部では、信号端子Sの接続部とグランド端子Gの接続部との間で、高周波電界が生じる。本実施形態では±Y方向に電界が生じる。またこれと同時にこの電界に対応する磁界も生じ、これらが貫通孔140の内壁に形成された導電体による導波管を通じて、−Z方向の端部に伝搬される。この高周波電磁界は、接続部を経由して、後述する通り、マイクロ波IC基板110の下面110aに形成された導電部材と、これに対向する導波面122aとで形成された導波路と繋がっている。この場合、導波面122aの延びる方向は、電界が生じる方向に沿う方向である。即ち本実施形態では、+Y方向に沿う方向である。導波面122aから貫通孔140を経由してマイクロ波IC130に向う電磁波の伝搬の場合は、上記とは逆に動作することになる。
【0038】
なお、信号端子Sの接続部とグランド端子Gの接続部との間で生じた高周波電界は、+Z方向にも伝搬する。当該高周波電界を遮断するための構成は、
図11等を参照しながら後に詳述する。
【0039】
+Y方向から−Y方向を見たとき、導波部材122の先端部(接続部の射影よりも−Y方向の部分)122eは開放されている。先端部122eは複数の導電性ロッド124によって囲まれている。
【0040】
導波部材122の先端部122eと、当該先端部の延長方向に並ぶ複数の導電性ロッド124は、チョーク構造150を構成している。チョーク構造150は、導波部材122の一端から電磁波が漏洩することを抑制するための構造である。チョーク構造150に含まれる導波部材122の先端部の長さは、導波面122aを伝搬する電磁波の波長λgとするとき、λg/4である。チョーク構造150を設けることにより、接続部を介して、貫通孔140から導波面122aへ、または導波面122aから貫通孔140へ、電磁波を効率よく伝送することができる。
【0041】
図3Aは、
図1に示すAA’線によるモジュール100の断面を示す。
図3Aには、モジュール100の各部材の寸法の範囲の例が示されている。
図3Aでは、マイクロ波IC基板110の下面110a全体に、導電部材110cが設けられている。よって、導波面122aと導電部材110cとの距離L1、および導電性ロッド124の先端部124aと導電部材110cとの距離L2は等しい。
【0042】
図3Bは、
図1に示すAA’線によるモジュール100の、他の例による断面を示す。
図3Bでは、マイクロ波IC基板110の下面110aのうち、導波面122aに対向する領域に導電部材110c−1が設けられ、他の領域には110c−1は設けられていない。
図3BはXZ平面による断面を示しているが、導電部材110c−1は、導波面122aに対向しながらY方向にも延びていることに留意されたい。
【0043】
導電部材110c−1のX方向の幅、換言すれば、導波面に沿って拡がる部分は、導波面122aよりも広く、たとえば導波面122aに隣接するロッド124の少なくとも2列分の幅を有する。「2列分」とは、導波面122aの一方の側の一列と他方の側の一列である。導波面122aにより±Y方向に伝搬する電磁波の電界は、X方向について一定の広がりを有している。本願発明者は、この広がりを考慮して、導電部材110c−1のX方向の幅を少なくともロッド2つ分確保した。これにより、ロスを十分抑えながら電磁波を伝搬させることができる。なお、上述の説明では、導電部材110c−1のX方向の幅をロッド124の列数で表現したが、これは一例である。必ずしもロッド124の列数で表す必要はない。電磁波の電界がX方向に一定の広がりを考慮して、導波面122aに対向する幅よりも広い幅を有していればよい。
【0044】
一方、マイクロ波IC基板110内には導電部材110c−2(たとえばグランド層)が設けられており、当該導電層110c−2が、上述の、導電性ロッド124に対向する導電部材110cの代替となる。よって、導波面122aと導電部材110c−1との距離L1、および導電性ロッド124の先端部124aと導電部材110c−2との距離L2は異なっている。なお、導電部材110c−2は、マイクロ波IC基板110内部のグランド層に代えて、別体の金属層を設けてもよい。
【0045】
導電部材110c−1、110c−2として、たとえば、銅、表面に金がめっきされた所定の金属材料(たとえば銅)を採用し得る。
【0046】
遮断部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも表面(上面および側面)が導電性を有していればよい。また、遮断部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。遮断部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面を電気的に短絡していればよい。言い換えると、遮断部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、導電部材110cまたは下面110aを介した導電部材110c−2に対向する凹凸状の導電性表面を有していればよい。
【0047】
遮断部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図2からわかるように、この例における導波部材122は、遮断部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なる値を有していてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電部材110cまたは110c−1に沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、その全体が導電性を有している必要は無く、導電部材110cまたは110c−1に対向する導電性の導波面122aを有していればよい。遮断部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、導電部材110cまたは110c−1も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0048】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と、導電部材110cまたは110c−2との間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。モジュール100内を伝搬する電磁波(以下、「信号波」と称することがある。)の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の径、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電部材110c−2との間の間隙の大きさによって調整され得る。
【0049】
本明細書において、導電部材110cまたは110c−1と、導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。更に、動作周波数帯域における最低周波数の電磁波の自由空間における波長をλxとする。各導電性ロッド124のうち、導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図3Aおよび
図3Bに示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。
【0050】
各部材の寸法、形状、配置等の例は、以下のとおりである。なお、
図3Aおよび
図3Bの対応する構成には同じ符号を付し、以下の説明が適用される。
【0051】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0052】
(2)導電性ロッドの基部から導電部材までの距離L3
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110cまたは110c−2までの距離L3は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0053】
導電部材110cまたは110c−2から導電性ロッド124の基部124bまでの距離L3は、当該導電部材と遮断部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は3.8934mmから3.9446mmの範囲を持つ。したがって、この場合λmは前者となるので、導電部材110と導電部材120との間隔λm/2は、3.8934mm/2よりも小さく設定される。導電部材110cと遮断部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、導電部材110cと遮断部材120とが厳密に平行である必要はない。また、導電部材110cと遮断部材120との間隔がλm/2未満であれば、導電部材110および/または導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していても良い。他方、導電部材110c、遮断部材120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。このときマイクロ波IC基板110の下面110aの形状も同様である。
【0054】
図3Aおよび
図3Bで示される例において、導電性ロッド124の基部124bが設けられた遮断部材120の表面は平面であるが、本開示の実施形態はこれに限られない。例えば、当該表面のXZ平面による断面形状は、U字またはV字に近い形状である面の底部であっても良い。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状をもつ場合に、導電性表面120aはこのような構造になり得る。このような構造であっても、導電部材110cまたは110c−2と、遮断部材120の表面との間の距離L3が波長λmの半分よりも短ければ、当該構成は信号波の閉じ込め効果を発揮し得る。
【0055】
(3)導電性ロッドの先端部から導電部材までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電部材110cまたは110c−2までの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間を往復する伝搬モードが生じ、信号波を閉じ込められなくなるからである。
【0056】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および、導電性ロッド124の先端部124aと導電部材110cまたは110c−2との間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の信号波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0057】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していても良い。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要は無く、単純な規則性を示さずに分散して配置されていても良い。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、遮断部材120上の位置に応じて変化していて良い。
【0058】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要は無く、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0059】
なお、
図3Aおよび
図3Bでは、左側のロッド124についてのみ人工磁気導体の表面125が示されているが、これは記載が煩雑になることを避けるためである。人工磁気導体の表面125は、各ロッド124の先端部124aによって張られる平面または曲面として規定され得る。
【0060】
さらに、導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0061】
導電性ロッド124の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λo/4に設定され得る。
【0062】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλm/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0063】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電部材110cまたは110c−2との距離がλm/2以上となるからである。
【0064】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電部材110cまたは110c−1との間の距離L1については、λm/2未満に設定される。距離L1がλm/2以上の場合、導波面122aと当該導電部材との間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の信号波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
【0065】
距離L1の下限、および距離L2の下限は、機械工作の精度と、導電部材110c、110c−1、110c−2を有するマイクロ波IC基板110と遮断部材120とを一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0066】
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110cまたは110−2との間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110cまたは110c−1との間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき信号波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110c、110c−1または110c−2と遮断部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって電気的に接続する必要もない。
【0067】
図4Aは、
図1に示すBB’線によるモジュール100の断面を示す。
図4Aは、
図3Aの構成に対応する。また、
図4Bは、
図1に示すBB’線によるモジュール100の、他の例による断面を示す。
図4Bは、
図3Bの構成に対応する。
図2Aおよび
図2Bには、貫通孔140と導波面122aとの間の接続部141が示されている。距離L2およびL3の記載は省略しているが、先に説明した通り定義される。なお、接続部141のZ軸方向の高さは、想定される電磁波の最短波長λmを基準としてλm/2未満であればよい。
【0068】
図5は、貫通孔140および内壁導電部140aを貫通方向に垂直な仮想平面(XY平面)で切った断面形状を示す。本実施形態では断面形状は長方形であり、X方向の辺の長さaとY方向の辺の長さbとの関係はa>bである。
【0069】
本実施形態では、短辺(Y軸方向の辺)が、少なくとも接続部141の近傍における導波部材122の導波面122aが延びる方向と平行になるよう、短辺および長辺を決定している(たとえば
図2参照)。その理由は、接続部141近傍の、導波部材122の導波面122aと、導波面122aに対向する導電部材110cまたは110c−1との間で、電界を安定的に、かつスムースに受け渡すためである。マイクロ波IC130の信号端子Sおよびグランド端子Gは、貫通孔140の断面の対向する長辺の中央部(a/2の位置)にそれぞれ電気的に接続されて、高周波電界を発生させる。この電界により、内壁導電部140a内には導波管の伝搬モード(TE
10モード)の電磁界が生じ、導波部材122に向けて伝搬する。本願発明者は、当該電磁界を安定的に伝搬させるため、内壁導電部140aの辺の長さaはλx/2よりも大とし、長さbはλx/2よりも小とする。ここで、λxは動作周波数帯域における最低周波数の電磁波の自由空間波長を示す。この寸法関係を与えることで、内壁導電部140aの内部に、TE
10モードの電磁界を伝播させることができる。TE
10モードにおいては、電界の方向は導波管の短辺が伸びる方向に一致する。
【0070】
さらに本願発明者は、導波面122aが延びる方向と内壁導電部140aの短辺が伸びる方向とが平行になるよう、配置を調整した。こうすることで、電界が振動する方向と導波面122aが伸びる方向とが一致し、内壁導電部140aを伝搬する電磁波のロスを抑えつつ、当該電磁波を導波部材122の導波面122aにスムースに伝搬させることができる。
【0071】
仮に、内壁導電部140aの辺の長さbをλx/2よりも長くすると、内壁導電部140a内部に、電界が長辺方向においても振動するTE
11モード等の振動モードが現れ得る。長辺方向において振動する電界のエネルギーは、短辺方向に伸びる導波面には殆ど受け渡されない。よって、このような場合には、内壁導電部140aから導波面122aに受け渡されずに反射される電磁波の割合が増える。
【0072】
なお、内壁導電部140aの長方形状に関して、現実には、長方形のそれぞれの角部は、少なくとも面取りまたはR形状をなす繋ぎ形状で形成されている。繋ぎ形状の内壁導電部140aとは、たとえば、同一材料で構成され、削り、絞り、成型等で製造された単一部材である。なお、マイクロ波IC基板110の製造時において、内壁導電部140aは、別体の導電性金属部材で成型され、貫通孔140に嵌め込まれてもよい。
【0073】
本明細書では、説明の便宜上、貫通孔140が導波管であると簡略化して説明することがあるが、正確には内壁導電部140aの内部が導波管として機能することに留意されたい。
【0074】
図6は、
図1に示すCC’線によるモジュール100の断面を示す。なお、ここでは
図3Bおよび
図4Bに対応するモジュール100を示している。
図3Bおよび
図4Bに対応するモジュール100の構造は、導電部材110c−1を単に導電部材110cに読み替えればよい。貫通孔140、接続部141、チョーク構造150等の構造は既に説明したのでそれらの説明は省略する。
【0075】
マイクロ波IC130は、複数の端子を有している。このうち、貫通孔140周辺には、信号端子Sおよびグランド端子Gが設けられている。信号端子Sおよびグランド端子Gは、電気信号を電磁波に変換して、導波管としての貫通孔140に導く信号発生部142を構成している。
図7Aおよび
図7Bを参照しながら、信号発生部142の詳細を説明する。
【0076】
図7Aは、第1の例による、
図6の信号発生部142周辺の部分拡大図である。信号発生部142は、信号端子Sおよびグランド端子Gが、貫通孔140を挟んで対向する2つの部分(内壁導電部140aの導電体140a−Sおよび140a−G)にそれぞれ、はんだ付け等によって電気的に接続されることによって構成される。
【0077】
マイクロ波IC130は、信号端子Sに高周波電流および電圧信号(以下「高周波電気信号」という。)を出力する。他方グランド端子Gは、マイクロ波ICの内部グランドと接続されている。信号端子S上に乗った能動的な高周波電気信号に対して、グランド端子Gには、これに対応する形でこの高周波電気信号とは反対の位相の信号が誘起される。このような信号形式を不平衡(UnBalance)型と呼ぶ。本実施形態は、不平衡型の信号端子を採用した例を示している。
【0078】
なお、マイクロ波IC130が一対の信号端子S(S(+)/S(−))を有している場合にも適用可能である。このような信号形式を平衡(Balance)型と呼ぶ。この場合、これら一対の信号端子S(S(+)/S(−))には、振幅が同じで極性が逆の高周波電気信号が能動的に出力されている。他方グランド端子Gは、マイクロ波IC130の内部グランドと接続されている。本実施形態に適用する場合は、例えば
図7Aにおいて、貫通孔140の+Z方向端部にてマイクロ波IC130の端子と接続される一対の信号端子を、S(+)端子、S(−)端子とする。マイクロ波IC130のグランド端子は、例えば、マイクロ波IC基板110のグランド層に接続される。
【0079】
本実施形態では、導電体140a−Sおよび140a−Gは電気的に接続されているとする。このとき、信号波は方形導波管モード(TE
10モード)で伝搬する。
【0080】
信号発生部142によって生成された信号波は、そのまま、貫通孔140を−Z方向に伝搬し、導波部材122の方向に進む。そして接続部141を経て、導波面122aと導電部材110c−1との間の導波路を+Y方向に伝搬する。上述のように、導波面122aが延びる方向と貫通孔140の内壁導電部140aの短辺が伸びる方向とが平行であるため、接続部141では、電磁波を貫通孔140から導波部材122の導波面122aにスムースに伝搬させることができる。上述したチョーク構造150が設けられているため、信号波は接続部141から−Y方向へは伝搬しない。
【0081】
本実施形態では、接続部141から導波部材122が伸びる方向は、マイクロ波IC130の信号端子Sとグランド端子Gとを結ぶ仮想的な線に沿った方向に平行である。ただし、仮想的な線と完全に平行でなくてもよい。このように構成する利点は以下のとおりである。内壁導電部140aでは、信号端子Sとグランド端子Gとを結ぶ方向に電磁波の電界成分が現れる。この電磁波を受ける導波部材122では、この電界方向を維持しつつ、導波面122aと、それに対向する導電部材110cまたは110c−1との間で電界を受け継ぐ。これにより、電磁波の損失を抑えた、効率的な伝搬が実現される。
【0082】
一方、アンテナ素子を介して受け取った信号波は、導波面122aと導電部材110c−1との間の導波路を−Y方向に伝搬し、接続部141を経て、貫通孔140内を+Z方向に伝搬する。そして信号発生部142において電気信号に変換され、マイクロ波IC130によって処理される。
【0083】
従来は、信号端子Sおよびグランド端子Gと信号発生部までの距離が長かったため電磁波の損失が発生していた。しかしながら、本実施形態によれば、信号端子Sおよびグランド端子Gが信号発生部142として機能するため、電磁波の損失を大きく低減することができる。また本実施形態では、電磁波を、信号発生部142から導波管である貫通孔140および接続部141を経て、リッジ導波路まで効果的に伝送する構造を採用している。これにより、従来の態様と比較して、電磁波の損失を抑えると共に、製造を容易化できる。さらに、遮断部材120を設けて電磁波の漏れを防ぐため、やはり電磁波の損失を抑えることができる。
【0084】
図7Bは、第2の例による、
図6の信号発生部142周辺の部分拡大図である。
【0085】
図7Bの構成が
図7Aの構成と相違する点は、マイクロ波IC130の信号端子Sおよびグランド端子Gと、内壁導電部140aの導電体140a−Sおよび140a−Gとの間に、開口縁導電部143を設けたことにある。
【0086】
開口縁導電部143は、マイクロ波IC基板110の上面110bの少なくとも一部を覆っている。具体的には、本実施形態では、開口縁導電部143は貫通孔140の上面110b側の開口の縁に設けられている。開口縁導電部143は、当該開口を挟む2ヶ所において、内壁導電部140aの導電体140a−Sおよび140a−Gに接続されている。
図7Bでは、開口縁導電部143の2箇所の接点部143aおよび143bが、内壁導電部140aの導電体140a−Sおよび140a−Gにそれぞれ接続されている。開口縁導電部143の2箇所の接点部143aおよび143bには、マイクロ波IC130の信号端子Sおよびグランド端子Gがそれぞれ接続される。
【0087】
なお、信号端子Sおよびグランド端子Gと開口の縁との間隔は、当該開口の縁から開口中央(基板110のZ方向の中心部)までの距離よりも小さい。
【0088】
これにより、導電体140a−Sおよび140a−Gの間、または、開口縁導電部143の2箇所の接点部143aおよび143bの各々が存在する対向する辺の間に高周波電界が発生し、導波管の伝搬モード(TE
10モード)の電磁界が生じる。
【0089】
図7Bの構成によれば、信号端子Sおよびグランド端子Gに加えて、開口縁導電部143もまた信号発生部142として機能する。
【0090】
上述した
図7Aおよび
図7Bの構成は、それぞれ、信号端子Sおよびグランド端子Gが、内壁導電部140aの、貫通孔を挟んで対向する部分(導電体140a−Sおよび140a−G)にそれぞれ電気的に接続されている態様を示す一例である。変形例として、他の接続態様が種々考えられる。
【0091】
(接続態様に関する第1の変形例)
図7Aに示す形状の導電体140a−Sおよび140a−Gを考える。信号端子Sおよびグランド端子Gは、貫通孔140を挟んで対向する位置の導電体140a−Sおよび140a−Gにそれぞれ直接物理的には接続されていない。一方信号端子Sおよびグランド端子Gは、導電体140a−Sの−Y側端部付近、および導電体140a−Gの+Y側端部付近でそれぞれ直接物理的に接続される。これにより信号端子Sおよびグランド端子Gは、導電体140a−Sおよび140a−Gにそれぞれ電気的に接続されている。
【0092】
なお本明細書において2つの導電体を「物理的に接続する」とは、2つの導電体について、注目している部位でハンダ付け等を行うことで接続されている状態をいう。この場合、これら2つの導体は電気的にも接続されている状態を含む。例えば導電体である部位Xと部位Yとが「直接物理的に接続されていない」場合であっても、部位Xおよび部位Yが導電体部位Zにそれぞれ「直接物理的に接続されている」場合は、「部位Xと部位Yは電気的に接続されている」ことになる。
【0093】
(接続態様に関する第2の変形例)
図7Bのように、導電体140a−Sおよび140a−Gの+Z側の端部が、マイクロ波IC基板110の上面110bと同じレベル(高さ)で途切れているとする。ただし、開口縁導電部143を設けることなく、信号端子Sおよびグランド端子Gが、導電体140a−Sおよび140a−Gの+Z側の端部に直接物理的に接続されてもよい。または、信号端子Sおよびグランド端子Gの一方または両方が、ボンディングワイヤ等の導体線を介して導電体140a−Sおよび140a−Gの+Z側の端部の一方または両方に直接物理的に接続されてもよい。このときの信号端子Sおよびグランド端子Gの形状は、
図7Aおよび
図7Bに示されるようなボール形状でなくてもよく、たとえばマイクロ波IC130の信号ピンを直接物理的に接続する態様もあり得る。
【0094】
図7Aおよび
図7Bに示されるような内壁導電部140aは、いずれも、マイクロ波IC基板110の上面110bと同じレベルまで延び、または、上面110bと同じレベルを超えて、上面110bの少なくとも一部を覆い、貫通孔140の周囲を囲っている例であると言える。本明細書ではこのような構成を、内壁導電部140aが、マイクロ波IC基板110の上面110b側まで延びている」と呼ぶことがある。
【0095】
(接続態様に関する第3の変形例)
内壁導電部140aが、マイクロ波IC基板110の上面110b側まで延びていることは必須ではない。つまり、導電体140a−Sおよび140a−Gの一方または両方が、マイクロ波IC基板110の上面110b側に至ることなく貫通孔140内部で途切れていてもよい。このとき、信号端子Sおよびグランド端子Gの一方または両方は、直接物理的にまたはワイヤボンディング等を介して、導電体140a−Sおよび140a−Gの端部と電気的に接続されていてもよい。信号端子Sおよびグランド端子Gの一方または両方の形状は、たとえば、前者の場合にははんだボール形状であり、後者の場合には信号ピンであり得る。
【0096】
以下、上述の構成の変形例を説明する。以下の変形例は、単独でまたは組み合わせることが可能である。変形例を説明した後は、マイクロ波IC導波路装置モジュールの応用例を説明する。
【0097】
<変形例1>
図5において、貫通孔140および内壁導電部140aの断面形状は長方形(矩形)であるとした。しかしながら他の形状を採用することもできる。以下、
図8(a)〜(d)を参照しながら、貫通孔140および内壁導電部140aの断面形状の他の例を説明する。
図8(a)〜(d)には、マイクロ波IC130の信号端子Sとグランド端子Gが接続される位置を「S」および「G」として示している。上述の説明と同様、信号端子Sおよびグランド端子Gが信号発生部142として機能する。以下では、内壁導電部140aのX方向のサイズ(長さ)をL、Y方向のサイズ(幅)をWとするが、記載の便宜上、単に貫通孔140の形状の変形例として説明する。
【0098】
図8(a)は、楕円形状の貫通孔1400aの例を示している。図中において矢印で示す、貫通孔1400aの長径は、高次の共振が起こらず、かつ、インピーダンスが小さくなり過ぎないように、動作周波数に対応する自由空間中での波長をλoとして、λo/2<L<λoに設定される。
【0099】
図8(b)は、一対の縦部分113Lおよび一対の縦部分113Lを繋ぐ横部分113Tからなる形状(本明細書において「H字形状」と称する。)を有する貫通孔1400bの例を示している。横部分113Tは、一対の縦部分113Lにほぼ垂直であり、一対の縦部分113Lのほぼ中央部同士を繋いでいる。このようなH字形状の貫通孔1400bでも、高次の共振が起こらず、かつ、インピーダンスが小さくなり過ぎないように、その形状およびサイズが決定される。上記条件を満たすために、H字形状の中心点(横部分113Tの中心点)から端部(縦部分113Lのいずれかの端部)までの、横部分113Tおよび縦部分113Lに沿った長さの2倍が、λo/2<L<λoに設定される。このため、横部分113Tの長さ(図中において矢印で示す長さ)を例えばλo/2未満にでき、横部分113Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
【0100】
図8(c)は、横部分113Tおよび横部分113Tの両端から延びる一対の縦部分113Lを有する貫通孔1400cの例を示している。一対の縦部分113Lの横部分113Tから延びる方向は横部分113Tにほぼ垂直であり、互いに逆である。この例でも横部分113Tの長さ(図中において矢印で示す長さ)を、例えばλo/2未満にできるため、横部分113Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
【0101】
図8(d)は、横部分113Tおよび横部分113Tの両端から横部分113Tに垂直な同じ方向に延びる一対の縦部分113Lを有する貫通孔1400dの例を示している。このような形状を、本明細書では「U字形状」と称する。なお、
図8(d)に示す形状は、H字形状の上半分の形状と言うこともできる。本例でも横部分113Tの長さ(図中において矢印で示す長さ)を、例えばλo/2未満にできるため、横部分113Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
【0102】
<変形例2>
上述の例では、信号発生部142の信号端子Sおよびグランド端子Gは球状であり、直接、内壁導電部140aの導電体140a−Sおよび140a−Gに接続されているとした。しかしながら、これは一例である。たとえばボンディングワイヤ(導線)を利用して、球状の信号端子Sおよびグランド端子Gと導電体140a−Sおよび140a−Gとをそれぞれ接続してもよい。または、信号端子Sおよびグランド端子Gがピン形状であるときに、伸びたそれぞれのピンを内壁導電部140a−Sおよび140a−Gに接続してもよい。
【0103】
<変形例3−1>
これまでは、マイクロ波IC130の1組の端子対(各1つの信号端子Sおよびグランド端子G)から生成された信号波が、1つの貫通孔140を経て1つの導波面122aを伝搬する例を説明した。
【0104】
以下では、複数組の端子対の各々から生成された信号波を、別個の貫通孔140および導波面122aを伝搬させるための例を説明する。なお以下の説明では、説明を簡略化するために、マイクロ波IC130の信号形式を不平衡型であるとしている。但し平衡型のマイクロ波ICであっても同様に実現できる。
【0105】
図9は、基板パターンP−1およびP−2と、4つの貫通孔140−1〜140−4とを有するマイクロ波IC基板1100の上面構成例を示す。貫通孔140−1〜140−4の断面形状はいずれも矩形である。
【0106】
参考として、図にはマイクロ波ICの4組の端子対(S1,G1)〜(S4,G4)の位置が仮想的に示され、−Z方向に位置する複数の導電性ロッド124も示されている。さらに、図には4本の導波面122a−1〜122a−4が示されている。また、マイクロ波IC基板1100の下面(図示せず)には、たとえば全面にわたってグランドとして機能する導電部材が設けられている。
【0107】
基板パターンP−1およびP−2は各貫通孔140−1〜140−4の内壁導電部と電気的に接続している。端子対近傍の基板パターンは、端子対とともに信号発生部を構成する。マイクロ波IC130(図示せず)が信号波のもととなる電圧信号を端子対(S1,G1)〜(S4,G4)に独立して印加することにより、各信号発生部によって信号波が生成され、各貫通孔140−1〜140−4を伝搬する。そして、これまで説明したように、各接続部を経由して各導波面122a−1〜122a−4を伝搬する。
【0108】
なお、
図9に示す導波面122a−1〜122a−4のうち、Y方向に隣接する2本、およびX方向に対向する2本の間には、少なくとも2列の導電性ロッド124が設けられている。本願発明者らの研究によれば、2列の導電性ロッド124が設けられていれば、一方の導波面を伝搬する信号波の他方の導波面への影響は遮蔽し得る。ただし、2本の導波面の間に3列以上の導電性ロッド124を設けてもよい。ただし、次に説明する
図10の構成のように、2本の導波面の間に1列の導電性ロッド124を設けた場合であっても、一方の導波面を伝搬する信号波の他方の導波面への影響は低減され得る。
【0109】
なお、端子対の配置例を説明する。自由空間波長λ
0が4mmの信号波を生成する場合、1つの端子対の端子間の間隔(たとえば信号端子S1およびグランド端子G1の間隔)は1mm以上である。また、X方向に並ぶ2組の端子対の各中心位置の間隔(たとえば端子対(S1,G1)の中心位置と端子対(S3,G3)の中心位置との間隔)は5mm以上である。また、Y方向に並ぶ2組の端子対の中心位置の間隔(たとえば端子対(S1,G1)と端子対(S2,G2)との間隔)は3mm以上である。対をなしている信号端子Sおよびグランド端子Gの位置は、入れ替えられてもよい。
【0110】
<変形例3−2>
図10は、さらに他の例による、基板パターンP−11およびP−12と、4つの貫通孔140−11〜140−14とを有するマイクロ波IC基板1101の上面構成例を示す。貫通孔140−11〜140−14の断面形状はいずれもH字形状である。
【0111】
図9と同様、参考として、図にはマイクロ波ICの4組の端子対(S1,G1)〜(S4,G4)の位置が仮想的に示され、−Z方向に位置する複数の導電性ロッド124も示されている。さらに、図には4本の導波面122a−1〜122a−4が示されている。また、マイクロ波IC基板1100の下面(図示せず)には、たとえば全面にわたってグランドとして機能する導電部材が設けられている。
【0112】
基板パターンP−11およびP−12は各貫通孔140−11〜140−14の内壁導電部と電気的に接続している。端子対近傍の基板パターンは、端子対とともに信号発生部を構成する。マイクロ波IC130(図示せず)が信号波のもととなる電圧信号を端子対(S1,G1)〜(S4,G4)に独立して印加することにより、各信号発生部によって信号波が生成され、各貫通孔140−1〜140−4を伝搬する。そして、これまで説明したように、各接続部を経由して各導波面122a−1〜122a−4を伝搬する。端子対の配置例は
図9の例と概ね同じである。ただし、Y方向に並ぶ2組の端子対の中心位置の間隔(たとえば端子対(S1,G1)と端子対(S2,G2)との間隔)は2mm以上であればよい。対をなしている信号端子Sおよびグランド端子Gの位置は、入れ替えられてもよい。
【0113】
<変形例4>
図6、
図7Aおよび
図7Bに示す例では、信号発生部142によって生成された信号波が−Z方向に伝搬することのみを説明した。しかしながら、生成された信号波の一部は、信号発生部142から+Z方向に伝搬し、マイクロ波IC130周辺またはその上方に漏れ出し得る。
【0114】
本変形例は、そのような漏れ出しを防ぐための構成を説明する。
【0115】
図11は、マイクロ波IC130の+Z方向側にも、ワッフルアイアン遮断部材120’を設けたマイクロ波IC導波路装置モジュール1000の例を示す。
図11に含まれる構成要素のうち、
図6と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、再度の説明は省略する。以下では、ワッフルアイアン遮断部材120’を「遮断部材120’」と略記し、マイクロ波IC導波路装置モジュール1000を「モジュール1000」と略記する。
【0116】
モジュール1000の上方には遮断部材120’が設けられている。遮断部材120’の導電性表面から−Z方向に、複数の導電性ロッド124’が伸びている。遮断部材120’および複数の導電性ロッド124’の条件は、
図3Aおよび
図3Bを参照しながら説明した複数の導電性ロッド124の条件と同じである。より具体的には、上述した項目(1)導電性ロッドの幅、(2)導電性ロッドの基部から導電部材までの距離L3、(3)導電性ロッドの先端部から導電部材までの距離L2、(4)導電性ロッドの配列および形状、および(7)導波面と導電性表面との間の距離L1において、距離L2およびL3を、それぞれ距離L2’およびL3’と読み替えればよい。ここで距離L2’は、導電性ロッド124の先端部から、マイクロ波IC基板110内に設けられた導電部材110c−2までの距離である。距離L3’は、導電性ロッド124が設けられた側の遮断部材120’の導電性表面から、導電部材110c−2までの距離である。
【0117】
マイクロ波IC130の上下(Z方向)に、導電性ロッド124を有する遮断部材120と、導電性ロッド124’を有する遮断部材120’とを配置することにより、電磁波の漏れを大きく低減できる。
【0118】
なお、
図11では、マイクロ波IC130は、遮断部材120’に完全に覆われているが、この構成は必須ではない。マイクロ波IC130は、複数の導電性ロッド124’の少なくとも一部と、導電部材110c−2の少なくとも一部との間に位置していればよい。これらの構造体に挟まれたマイクロ波IC130の部分については、電磁波の遮蔽効果を得ることができる。
【0119】
なお、電磁波の遮蔽効果を得ようとする位置または領域においては、マイクロ波IC基板110の上面110bに導電体のパターンを設けてもよい。この導電体のパターンは、導電部材110c−2に代わり、複数の導電性ロッド124’とともに人工磁気導体を形成するために用いられる。
【0120】
このような構成を採用する理由を説明する。いま、マイクロ波IC130の厚さを約1mmとする。たとえば、自由空間波長λ
0=4mmの電磁波を発生させようとすると、導電性ロッド124’の基部と導電層との間隔L3’はλ
0/2(約2mm)未満である。マイクロ波IC130の厚さ(約1mm)を考慮すると、マイクロ波IC130に対向して配置される導電性ロッド124’の長さ(高さ)は1mm未満になる。そして、電磁波の遮蔽効果を実現する、導電性ロッド124’の先端部と導電部材110c−2との間の距離L2’は、マイクロ波IC130の厚さ以上必要であるから1mm以上になる。
【0121】
導電性ロッド124’の先端部から導電部材110c−2までの距離L2’は可能な限り短くする必要がある。その目的を達成するためには、導電部材110c−2に代えて、マイクロ波IC基板110の上面110bに導電体のパターンを設けることが好適である。
【0122】
ただし、上述の構成を採用した場合であっても、または採用しなかった場合にはなおさら、対向する導電性ロッド124’の先端部とマイクロ波IC130の表面との間隔は非常に短くなる。つまり、両者が互いに接触する可能性が高まる。
【0123】
図12は、対向するマイクロ波IC130と導電性ロッド124’との間に設けられた絶縁樹脂160を示す。なお、
図12には、基板上面110bに導電部材110c−3が設けられている例を示している。
【0124】
絶縁樹脂160のような絶縁材料を、導電性ロッド124’の先端部とマイクロ波IC130の表面との間に設けることにより、両者の接触を防止することが可能になる。
【0125】
ここで、ロッド基部(遮断部材120’の導電性表面)と導電層との間隔の条件を検討する。
【0126】
遮断部材120’の導電性表面と導電部材110c−3との間隔L3’の条件は、空気層と樹脂層160との間で電磁波が伝搬することによって電波定在波が立たない条件、即ち半周期以下の位相条件を満たしていることが必要である。導電部材110c−3を設けていない場合には、マイクロ波IC基板110表面から基板内部の導電部材110c−2に至るまでの誘電体層も考慮する必要がある。
【0127】
いま、絶縁樹脂160の厚さをd、空気層の厚さをc、絶縁樹脂内部の電磁波の波長をλε、空気層の電磁波の波長をλ0とすると、以下の関係が成り立つ必要がある。
【0129】
なお導電性ロッド124’の先端部にのみ絶縁樹脂160を置く場合は、導電性ロッド124’の基部(遮断部材120’の導電性表面)と導電部材110c−3の間は空気層のみになる。そのときは、遮断部材120’の導電性表面と導電部材110c−3との間隔L3’はλ0/2未満であれば良い。
【0130】
絶縁樹脂160として熱伝導率が所定値以上の樹脂を採用すると、マイクロ波IC130において発生した熱をワッフルアイアン遮断部材120’に伝達させることができる。これにより、モジュールの放熱効率を向上させることができる。
【0131】
さらに、
図12に示すように、遮断部材120’の+Z側の面に直接ヒートシンク170を設けてもよい。ヒートシンク170は、上述した熱伝導率が高い樹脂によって構成されていてもよいし、窒化アルミニウムや窒化ケイ素などの熱伝導率の高いセラミック部材を用いてもよい。これらにより、冷却性能の高いモジュール100を構成できる。ヒートシンク170の形状も任意である。
【0132】
なお、絶縁樹脂160およびヒートシンク170は、
図12に示すように同時に組み込む必要は無い。別個独立に組み込むか否かを決定することができる。
<応用例1>
以下では、モジュール100または1000をレーダ装置に応用するための構成を説明する。具体例として、モジュール100と放射素子とを組み合わせたレーダ装置の例を説明するが、モジュール1000を採用してもよいし、モジュール100または1000の変形例にかかる構成を採用してもよい。
【0133】
まず、放射素子としてのスロットアレーアンテナの構成を説明する。スロットアレーアンテナにはホーンを設けているが、ホーンの有無は任意である。
【0134】
図13は、スロット312毎にホーン314を有するスロットアレーアンテナ300の構造の一部を模式的に示す斜視図である。このスロットアレーアンテナ300は、二次元的に配列された複数のスロット312および複数のホーン314を有する第1の導電部材310と、複数の導波部材322Uおよび複数の導電性ロッド324Uが配列された第2の導電部材320とを備える。第1の導電部材310における複数のスロット312は、第1の導電部材310の第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に配列されている。
図13は、簡単のため、導波部材322Uの各々の端部または中央に配置され得るポートおよびチョーク構造の記載は省略されている。本実施形態では、導波部材322Uの数は4個であるが、導波部材322Uの数は2個以上であればよい。
【0135】
図14Aは、
図13に示す20個のスロットが5行4列に配列されたアレーアンテナ300をZ方向からみた上面図である。
図14Bは、
図14AのD−D’線による断面図である。このアレーアンテナ300における第1の導電部材310は、複数のスロット312にそれぞれ対応して配置された複数のホーン314を備えている。複数のホーン314の各々は、スロット312を囲む4つの導電壁を有している。このようなホーン314により、指向特性を向上させることができる。
【0136】
図示されるアレーアンテナ300においては、スロット312に直接的に結合する導波部材322Uを備える第1の導波路装置350aと、第1の導波路装置350aの導波部材322Uに結合する他の導波部材322Lを備える第2の導波路装置350bとが積層されている。第2の導波路装置350bの導波部材322Lおよび導電性ロッド324Lは、第3の導電部材340上に配置されている。第2の導波路装置350bは、基本的には、第1の導波路装置350aの構成と同様の構成を備えている。
【0137】
図14Aに示すように、導電部材310は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に直交する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット312を備える。複数の導波部材322Uの導波面322aは、Y方向に延びており、複数のスロット312のうち、Y方向に並んだ4つのスロットに対向している。この例では導電部材310は、5行4列に配列された20個のスロット312を有しているが、スロット312の数はこの例に限定されない。各導波部材322Uは、複数のスロット312のうち、Y方向に並んだ全てのスロットに対向している例に限らず、Y方向に隣接する少なくとも2つのスロットに対向していればよい。隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、例えば波長λoよりも短く設定される。このような構造とすることで、グレーティングローブの発生を回避できる。隣接する2つの導波面122aの中心間隔は短い程グレーティングローブの影響は現れにくくなるが、λo/2未満とすることは必ずしも好ましくはない。導電部材や導電性ロッドの幅を狭くする必要が生ずるためである。
【0138】
図14Cは、第1の導波路装置350aにおける導波部材322Uの平面レイアウトを示す図である。
図14Dは、第2の導波路装置350bにおける導波部材322Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図から明らかなように、第1の導波路装置350aにおける導波部材322Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2の導波路装置350bにおける導波部材322Lは分岐部および屈曲部の両方を有している。第2の導波路装置350bにおける「第2の導電部材320」と「第3の導電部材340」との組み合わせは、第1の導波路装置350aにおける「第1の導電部材310」と「第2の導電部材320」との組み合わせに相当する。
【0139】
第1の導波路装置350aにおける導波部材322は、第2の導電部材320が有するポート(開口部)345Uを通じて第2の導波路装置350bにおける導波部材322Lに結合する。言い換えると、第2の導波路装置350bの導波部材322Lを伝搬してきた電磁波は、ポート345Uを通って第1の導波路装置350aの導波部材322Uに達し、第1の導波路装置350aの導波部材322Uを伝搬することができる。このとき、各スロット312は、導波路を伝搬していきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット312に入射すると、その電磁波はスロット312の直下に位置する第1の導波路装置350aの導波部材322Uに結合し、第1の導波路装置350aの導波部材322Uを伝搬する。第1の導波路装置350aの導波部材322Uを伝搬してきた電磁波は、ポート345Uを通って第2の導波路装置350bの導波部材322Lに達し、第2の導波路装置350bの導波部材322Lを伝搬することも可能である。第2の導波路装置350bの導波部材322Lは、第3の導電部材340のポート345Lを介して、外部にあるモジュール100(
図1)に結合され得る。
【0140】
図14Dは、遮断部材120(
図1等)の導波部材122と、第2の導電部材320の導波部材322Lとが接続された構成例も示されている。上述の通り、遮断部材120のZ方向にはマイクロ波IC基板110が設けられており、マイクロ波IC基板110上のマイクロ波IC130によって生成された信号波が、導波部材122上の導波面122aおよび導波部材322L上の導波面を伝搬する。
【0141】
図14Aに示される第1の導電部材310を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図14Cに示される第2の導電部材320、導波部材322U、および導電性ロッド324Uの全体を「励振層」と呼び、
図14Dに示される第3の導電部材340、導波部材322L、および導電性ロッド324Lの全体を「分配層」と呼んでも良い。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでも良い。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0142】
この例におけるアレーアンテナでは、
図14Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現している。例えば、
図14Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
【0143】
図14Dに示される例では、導波部材122から導波部材322Lを経て、第2の導電部材320の各ポート345U(
図14C参照)に至るまでの距離が、全て等しい。このため、導波部材122の導波面122aを伝搬し、導波部材322Lに入力された信号波は、第2の導波部材322UのY方向における中央に配置された4つのポート345Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、第2の導電部材320上に配置された4個の導波部材322Uは、同位相で励振され得る。
【0144】
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット312が同位相で電磁波を放射する必要はない。励振層および分配層における導波部材322のネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
【0145】
図14Cに示すように、本実施形態では、複数の導波部材322における隣接する2つの導波面322aの間にはY方向に配列された1列の導電性ロッド324Uしか存在していない。このように形成することにより、その2つの導波面の間は、電気壁だけでなく磁気壁(人工磁気導体)も含まない空間になる。このような構造により、隣接する2つの導波部材322の間隔を短縮することができる。その結果、X方向に隣接する2つのスロット312の間隔も同様に短縮することができる。これにより、グレーティングローブの発生の抑制を図ることができる。
【0146】
本実施形態では、隣接する2つの導波部材の間に電気壁も磁気壁も存在しないため、その2つの導波部材上を伝搬する信号波の混合が生じ得る。しかし、本実施形態において不具合は生じない。本実施形態のスロットアレーアンテナ300は、電子回路310の動作中、隣接する2つの導波路を伝搬する電磁波の位相が、X方向に隣接する2つのスロット312の位置で実質的に同一になるように設計されているためである。本実施形態における電子回路310は、
図14Cおよび
図14Dに示すポート345U、345Lを介して各導波部材322U上の導波路に接続されている。電子回路310から出力された信号波は、分配層で分岐した上で、複数の導波部材322U上を伝搬し、複数のスロット312まで到達する。X方向に隣接する2つのスロット312の位置で信号波の位相を同一にするために、例えば電子回路から2つのスロット312までの導波路の長さの合計が実質的に等しくなるように設計される。
【0147】
<応用例2:車載レーダシステム>
次に、上述したアレーアンテナを利用する応用例として、アレーアンテナを備えた車載レーダシステムの一例を説明する。車載レーダシステムに利用される送信波は、たとえば76ギガヘルツ(GHz)帯の周波数を有し、その自由空間中の波長λoは約4mmである。
【0148】
自動車の衝突防止システムや自動運転などの安全技術には、特に自車両の前方を走行する1または複数の車両(物標)の識別が不可欠である。車両の識別方法として、従来からレーダシステムを用いた到来波の方向を推定する技術の開発が進められてきた。
【0149】
図15は、自車両500と、自車両500と同じ車線を走行している先行車両502とを示す。自車両500は、上述した実施形態にアレーアンテナを有する車載レーダシステムを備えている。自車両500の車載レーダシステムが高周波の送信信号を放射すると、その送信信号は先行車両502に到達して先行車両502で反射され、その一部は再び自車両500に戻る。車載レーダシステムは、その信号を受信して、先行車両502の位置、先行車両502までの距離、速度等を算出する。
【0150】
図16は、自車両500の車載レーダシステム510を示す。車載レーダシステム510は車内に配置されている。より具体的には、車載レーダシステム510は、リアビューミラーの鏡面と反対側の面に配置されている。車載レーダシステム510は、車内から車両500の進行方向に向けて高周波の送信信号を放射し、進行方向から到来した信号を受信する。
【0151】
本応用例による車載レーダシステム510は、上記の実施形態におけるアレーアンテナを有している。本応用例では、複数の導波部材の各々が延びる方向が鉛直方向に一致し、複数の導波部材の配列方向が水平方向に一致するように配置される。このため、複数のスロットを正面から見たときの横方向の寸法を小さくできる。上述のアレーアンテナを含むアンテナ装置の寸法の一例は、横×縦×奥行きが、60×30×10mmである。76GHz帯のミリ波レーダシステムのサイズとしては非常に小型であることが理解される。
【0152】
なお、従来の多くの車載レーダシステムは、車外、たとえばフロントノーズの先端部に設置されている。その理由は、車載レーダシステムのサイズが比較的大きく、本開示のように車内に設置することが困難であるからである。
【0153】
本応用例によれば、送信アンテナに用いられる複数の導波部材(リッジ)の間隔を狭くすることができるため、隣接する導波部材に対向して設けられる複数のスロットの間隔も狭くすることができる。これにより、グレーティングローブの影響を抑制することができる。たとえば、横方向に隣接する2つのスロットの中心間隔を送信波の波長λoの半分未満(約2mm未満)にした場合にはグレーティングローブは発生しない。スロットの中心間隔を送信波の波長λoの半分よりも大きい場合であっても、一般の車載レーダシステム用送信アンテナと比較すると、隣接するアンテナ素子の間隔を狭くすることができる。これにより、グレーティングローブの影響を抑制できる。なお、グレーティングローブは、アンテナ素子の配列間隔が電磁波の波長の半分よりも大きくなると出現し、アンテナ素子の配列間隔が広がるほど主ローブにより近い方位に現れる。送信アンテナのアレーファクタを調整することにより、送信アンテナの指向性を調整することができる。複数の導波部材上を伝送される電磁波の位相を個別に調整できるように、位相シフタを設けてもよい。位相シフタを設けることにより、送信アンテナの指向性を任意の方向に変更することができる。位相シフタの構成は周知であるため、その構成の説明は省略する。
【0154】
本応用例における受信アンテナは、グレーティングローブに由来する反射波の受信を低減できるため、以下に説明する処理の精度を向上させることができる。以下、受信処理の一例を説明する。
【0155】
図17(a)は、車載レーダシステム510のアレーアンテナAAと、複数の到来波k(k:1〜Kの整数;以下同じ。Kは異なる方位に存在する物標の数。)との関係を示している。アレーアンテナAAは、直線状に配列されたM個のアンテナ素子を有する。原理上、アンテナは送信および受信の両方に利用することが可能であるため、アレーアンテナAAは送信アンテナおよび受信アンテナの両方を含み得る。以下では受信アンテナが受信した到来波を処理する方法の例を説明する。
【0156】
アレーアンテナAAは、様々な角度から同時に入射する複数の到来波を受ける。複数の到来波の中には、同じ車載レーダシステム510の送信アンテナから放射され、物標で反射された到来波が含まれる。さらに、複数の到来波の中には、他の車両から放射された直接的または間接的な到来波も含まれる。
【0157】
到来波の入射角度(すなわち到来方向を示す角度)は、アレーアンテナAAのブロードサイドBを基準とする角度を表している。到来波の入射角度は、アンテナ素子群が並ぶ直線方向に垂直な方向に対する角度を表す。
【0158】
いま、k番目の到来波に注目する。「k番目の到来波」とは、異なる方位に存在するK個の物標からアレーアンテナにK個の到来波が入射しているときにおける、入射角θ
kによって識別される到来波を意味する。
【0159】
図17(b)は、k番目の到来波を受信するアレーアンテナAAを示している。アレーアンテナAAが受信した信号は、M個の要素を持つ「ベクトル」として、数2のように表現できる。
(数2)
S=[s
1,s
2,…,s
M]
T
ここで、s
m(m:1〜Mの整数;以下同じ。)は、m番目のアンテナ素子が受信した信号の値である。上付きのTは転置を意味する。Sは列ベクトルである。列ベクトルSは、アレーアンテナの構成によって決まる方向ベクトル(ステアリングベクトルまたはモードベクトルと称する。)と、物標(波源または信号源とも称する。)における信号を示す複素ベクトルとの積によって与えられる。波源の個数がKであるとき、各波源から個々のアンテナ素子に到来する信号の波が線形的に重畳される。このとき、s
mは数3のように表現できる。
【0161】
数3におけるa
k、θ
kおよびφ
kは、それぞれ、k番目の到来波の振幅、到来波の入射角度、および初期位相である。λは到来波の波長を示し、jは虚数単位である。
【0162】
数3から理解されるように、s
mは、実部(Re)と虚部(Im)とから構成される複素数として表現されている。
【0163】
ノイズ(内部雑音または熱雑音)を考慮してさらに一般化すると、アレー受信信号Xは数4のように表現できる。
(数4)
X=S+N
Nはノイズのベクトル表現である。
【0164】
信号処理回路は、数4に示されるアレー受信信号Xを用いて到来波の自己相関行列Rxx(数5)を求め、さらに自己相関行列Rxxの各固有値を求める。
【0165】
【数5】
ここで、上付きのHは複素共役転置(エルミート共役)を表す。
【0166】
求めた複数の固有値のうち、熱雑音によって定まる所定値以上の値を有する固有値(信号空間固有値)の個数が、到来波の個数に対応する。そして、反射波の到来方向の尤度が最も大きくなる(最尤度となる)角度を算出することにより、物標の数および各物標が存在する角度を特定することができる。この処理は、最尤推定法として公知である。
【0167】
次に、
図18を参照する。
図18は、本開示による車両走行制御装置600の基本構成の一例を示すブロック図である。
図18に示される車両走行制御装置600は、車両に実装されたレーダシステム510と、レーダシステム510に接続された走行支援電子制御装置520とを備えている。レーダシステム510は、アレーアンテナAAと、レーダ信号処理装置530とを有している。
【0168】
アレーアンテナAAは、複数のアンテナ素子を有しており、その各々が1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する。上述のように、アレーアンテナAAは高周波のミリ波を放射することも可能である。なお、アレーアンテナAAは、上記の実施形態におけるアレーアンテナに限らず、受信に適した他のアレーアンテナであってもよい。
【0169】
レーダシステム510のうち、アレーアンテナAAは車両に取り付けられる必要がある。しかしながらレーダ信号処理装置530の少なくとも一部の機能は、車両走行制御装置600の外部(例えば自車両の外)に設けられたコンピュータ550およびデータベース552によって実現されてもよい。その場合、レーダ信号処理装置530のうちで車両内に位置する部分は、車両の外部に設けられたコンピュータ550およびデータベース552に、信号またはデータの双方向通信が行えるように、常時または随時に接続され得る。通信は、車両が備える通信デバイス540、および一般の通信ネットワークを介して行われる。
【0170】
データベース552は、各種の信号処理アルゴリズムを規定するプログラムを格納していても良い。レーダシステム510の動作に必要なデータおよびプログラムの内容は、通信デバイス540を介して外部から更新され得る。このように、レーダシステム510の少なくとも一部の機能は、クラウドコンピューティングの技術により、自車両の外部(他の車両の内部を含む)において実現し得る。したがって、本開示における「車載」のレーダシステムは、構成要素のすべてが車両に搭載されていることを必要としない。ただし、本願では、簡単のため、特に断らない限り、本開示の構成要素のすべてが1台の車両(自車両)に搭載されている形態を説明する。
【0171】
レーダ信号処理装置530は、信号処理回路560を有している。この信号処理回路560は、アレーアンテナAAから直接または間接に受信信号を受け取り、受信信号、または受信信号から生成した二次信号を到来波推定ユニットAUに入力する。受信信号から二次信号を生成する回路(不図示)の一部または全部は、信号処理回路560の内部に設けられている必要はない。このような回路(前処理回路)の一部または全部は、アレーアンテナAAとレーダ信号処理装置530との間に設けられていても良い。
【0172】
信号処理回路560は、受信信号または二次信号を用いて演算を行い、到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている。ここで、「到来波の個数を示す信号」は、自車両の前方を走行する1または複数の先行車両の数を示す信号ということができる。
【0173】
この信号処理回路560は、公知のレーダ信号処理装置が実行する各種の信号処理を実行するように構成されていればよい。例えば、信号処理回路560は、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などの「超分解能アルゴリズム」(スーパーレゾリューション法)、または相対的に分解能が低い他の到来方向推定アルゴリズムを実行するように構成され得る。
【0174】
図18に示す到来波推定ユニットAUは、任意の到来方向推定アルゴリズムにより、到来波の方位を示す角度を推定し、推定結果を示す信号を出力する。信号処理回路560は、到来波推定ユニットAUが公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力する。
【0175】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に一つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路560は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されても良い。例えば、信号処理回路560の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路560は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路560は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路560は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路560として機能し得る。
【0176】
走行支援電子制御装置520は、レーダ信号処理装置530から出力される各種の信号に基づいて車両の走行支援を行うように構成されている。走行支援電子制御装置520は、所定の機能を発揮するように各種の電子制御ユニットに指示を行う。所定の機能は、例えば、先行車両までの距離(車間距離)が予め設定された値よりも短くなったときに警報を発してドライバにブレーキ操作を促す機能、ブレーキを制御する機能、アクセルを制御する機能を含む。例えば、自車両のアダプティブクルーズコントロールを行う動作モードのとき、走行支援電子制御装置520は、各種の電子制御ユニット(不図示)およびアクチュエータに所定の信号を送り、自車両から先行車両までの距離を予め設定された値に維持したり、自車両の走行速度を予め設定された値に維持したりする。
【0177】
MUSIC法による場合、信号処理回路560は、自己相関行列の各固有値を求め、それらのうちの熱雑音によって定まる所定値(熱雑音電力)より大きい固有値(信号空間固有値)の個数を、到来波の個数を示すとして出力する。
【0178】
次に、
図19を参照する。
図19は、車両走行制御装置600の構成の他の例を示すブロック図である。
図19の車両走行制御装置600におけるレーダシステム510は、受信専用のアレーアンテナ(受信アンテナとも称する。)Rxおよび送信専用のアレーアンテナ(送信アンテナとも称する。)Txを含むアレーアンテナAAと、物体検知装置570とを有している。
【0179】
送信アンテナTxおよび受信アンテナRxの少なくとも一方は、上述した導波路構造を有している。送信アンテナTxは、例えばミリ波である送信波を放射する。受信専用の受信アンテナRxは、1個または複数個の到来波(例えばミリ波)に応答して受信信号を出力する。
【0180】
送受信回路580は、送信波のための送信信号を送信アンテナTxに送り、また、受信アンテナRxで受けた受信波による受信信号の「前処理」を行う。前処理の一部または全部は、レーダ信号処理装置530の信号処理回路560によって実行されても良い。送受信回路580が行う前処理の典型的な例は、受信信号からビート信号を生成すること、および、アナログ形式の受信信号をデジタル形式の受信信号に変換することを含み得る。
【0181】
なお、本開示によるレーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、道路または建物に固定されて使用され得る。
【0182】
続いて、車両走行制御装置600のより具体的な構成の例を説明する。
【0183】
図20は、車両走行制御装置600のより具体的な構成の例を示すブロック図である。
図20に示される車両走行制御装置600は、レーダシステム510と、車載カメラシステム700とを備えている。レーダシステム510は、アレーアンテナAAと、アレーアンテナAAに接続された送受信回路580と、信号処理回路560とを有している。
【0184】
車載カメラシステム700は、車両に搭載される車載カメラ710と、車載カメラ710によって取得された画像または映像を処理する画像処理回路720とを有している。
【0185】
本応用例における車両走行制御装置600は、アレーアンテナAAおよび車載カメラ710に接続された物体検知装置400と、物体検知装置400に接続された走行支援電子制御装置520とを備えている。この物体検知装置400は、前述した信号処理装置530に加えて、送受信回路580および画像処理回路720を含んでいる。物体検知装置400は、レーダシステム510によって得られる情報だけではなく、画像処理回路720によって得られる情報を利用して、道路上または道路近傍における物標を検知することができる。例えば自車両が同一方向の2本以上の車線のいずれかを走行中において、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを、画像処理回路720によって判別し、その判別の結果を信号処理回路560に与えることができる。信号処理回路560は、所定の到来方向推定アルゴリズム(たとえばMUSIC法)によって先行車両の数および方位を認識するとき、画像処理回路720からの情報を参照することにより、先行車両の配置について、より信頼度の高い情報を提供することが可能になる。
【0186】
なお、車載カメラシステム700は、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを特定する手段の一例である。他の手段を利用して自車両の車線位置を特定してもよい。例えば、超広帯域無線(UWB:Ultra Wide Band)を利用して、複数車線のどの車線を自車両が走行しているかを特定することができる。超広帯域無線は、位置測定および/またはレーダとして利用可能なことは広く知られている。超広帯域無線を利用すれば、路肩のガードレール、または中央分離帯からの距離を特定することが可能である。各車線の幅は、各国の法律等で予め定められている。これらの情報を利用して、自車両が現在走行中の車線の位置を特定することができる。なお、超広帯域無線は一例である。他の無線による電波を利用してもよい。また、レーザレーダを用いてもよい。
【0187】
アレーアンテナAAは、一般的な車載用ミリ波アレーアンテナであり得る。本応用例における送信アンテナTxは、ミリ波を送信波として車両の前方に放射する。送信波の一部は、典型的には先行車両である物標によって反射される。これにより、物標を波源とする反射波が発生する。反射波の一部は、到来波としてアレーアンテナ(受信アンテナ)AAに到達する。アレーアンテナAAを構成している複数のアンテナ素子の各々は、1個または複数個の到来波に応答して、受信信号を出力する。反射波の波源として機能する物標の個数がK個(Kは1以上の整数)である場合、到来波の個数はK個であるが、到来波の個数Kは既知ではない。
【0188】
図18の例では、レーダシステム510はアレーアンテナAAも含めて一体的にリアビューミラーに配置されるとした。しかしながら、アレーアンテナAAの個数および位置は、特定の個数および特定の位置に限定されない。アレーアンテナAAは、車両の後方に位置する物標を検知できるように車両の後面に配置されてもよい。また、車両の前面または後面に複数のアレーアンテナAAが配置されていても良い。アレーアンテナAAは、車両の室内に配置されていても良い。アレーアンテナAAとして、各アンテナ素子が上述したホーンを有するホーンアンテナが採用される場合でも、そのようなアンテナ素子を備えるアレーアンテナは車両の室内に配置され得る。
【0189】
信号処理回路560は、受信アンテナRxによって受信され、送受信回路580によって前処理された受信信号を受け取り、処理する。この処理は、受信信号を到来波推定ユニットAUに入力すること、
または、受信信号から二次信号を生成して二次信号を到来波推定ユニットAUに入力すること、を含む。
【0190】
図20の例では、信号処理回路560から出力される信号および画像処理回路720から出力される信号を受け取る選択回路596が物体検知装置400内に設けられている。選択回路54は、信号処理回路560から出力される信号および画像処理回路52から出力される信号の一方または両方を走行支援電子制御装置520に与える。
【0191】
図21は、本応用例におけるレーダシステム510のより詳細な構成例を示すブロック図である。
【0192】
図21に示すように、アレーアンテナAAは、ミリ波の送信を行う送信アンテナTxと、物標で反射された到来波を受信する受信アンテナRxとを備えている。図面上では送信アンテナTxは1つであるが、特性の異なる2種類以上の送信アンテナが設けられていてもよい。アレーアンテナAAは、M個(Mは3以上の整数)のアンテナ素子11
1、11
2、・・・、11
Mを備えている。複数のアンテナ素子11
1、11
2、・・・、11
Mの各々は、到来波に応答して、受信信号S
1、S
2、・・・、S
M(
図21)を出力する。
【0193】
アレーアンテナAAにおいて、アンテナ素子11
1〜11
Mは、例えば、固定された間隔を置いて直線状または面状に配列されている。到来波は、アンテナ素子11
1〜11
Mが配列されている面の法線に対する角度θの方向からアレーアンテナAAに入射する。このため、到来波の到来方向は、この角度θによって規定される。
【0194】
1個の物標からの到来波がアレーアンテナAAに入射するとき、アンテナ素子11
1〜11
Mには、同一の角度θの方位から平面波が入射すると近似できる。異なる方位にあるK個の物標からアレーアンテナAAにK個の到来波が入射しているとき、相互に異なる角度θ
1〜θ
Kによって個々の到来波を識別することができる。
【0195】
図21に示されるように、物体検知装置400は、送受信回路580と信号処理回路560とを含む。
【0196】
送受信回路580は、三角波生成回路521、VCO(Voltage−Controlled−Oscillator:電圧制御可変発振器)582、分配器583、ミキサ584、フィルタ585、スイッチ586、A/Dコンバータ587、制御器588を備える。本応用例におけるレーダシステムは、FMCW方式でミリ波の送受信を行うように構成されているが、本開示のレーダシステムは、この方式に限定されない。送受信回路580は、アレーアンテナAAからの受信信号と送信アンテナTAのための送信信号とに基づいて、ビート信号を生成するように構成されている。
【0197】
信号処理回路560は、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536を備える。信号処理回路560は、送受信回路580のA/Dコンバータ587からの信号を処理し、検出された物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を示す信号をそれぞれ出力するように構成されている。
【0198】
まず、送受信回路580の構成および動作を詳細に説明する。
【0199】
三角波生成回路581は三角波信号を生成し、VCO582に与える。VCO582は、三角波信号に基づいて変調された周波数を有する送信信号を出力する。
図22は、三角波生成回路581が生成した信号に基づいて変調された送信信号の周波数変化を示している。この波形の変調幅はΔf、中心周波数はf0である。このようにして周波数が変調された送信信号は分配器583に与えられる。分配器583は、VCO582から得た送信信号を、各ミキサ584および送信アンテナTxに分配する。こうして、送信アンテナは、
図22に示されるように三角波状に変調された周波数を有するミリ波を放射する。
【0200】
図22には、送信信号に加えて、単一の先行車両で反射された到来波による受信信号の例が記載されている。受信信号は、送信信号に比べて遅延している。この遅延は、自車両と先行車両との距離に比例している。また、受信信号の周波数は、ドップラー効果により、先行車両の相対速度に応じて増減する。
【0201】
受信信号と送信信号とを混合すると、周波数の差異に基づいてビート信号が生成される。このビート信号の周波数(ビート周波数)は、送信信号の周波数が増加する期間(上り)と、送信信号の周波数が減少する期間(下り)とで異なる。各期間におけるビート周波数が求められると、それらのビート周波数に基づいて、物標までの距離と、物標の相対速度が算出される。
【0202】
図23は、「上り」の期間におけるビート周波数fu、および「下り」の期間におけるビート周波数fdを示している。
図23のグラフにおいて、横軸が周波数、縦軸が信号強度である。このようなグラフは、ビート信号の時間−周波数変換を行うことによって得られる。ビート周波数fu、fdが得られると、公知の式に基づいて、物標までの距離と、物標の相対速度が算出される。本応用例では、以下に説明する構成および動作により、アレーアンテナAAの各アンテナ素子に対応したビート周波数を求め、それに基づいて物標の位置情報を推定することが可能になる。
【0203】
図21に示される例において、各アンテナ素子11
1〜11
Mに対応したチャンネルCh
1〜Ch
Mからの受信信号は、増幅器によって増幅され、対応するミキサ584に入力される。ミキサ584の各々は、増幅された受信信号に送信信号を混合する。この混合により、受信信号と送信信号との間にある周波数差に対応したビート信号が生成される。生成されたビート信号は、対応するフィルタ585に与えられる。フィルタ585は、チャンネルCh
1〜Ch
Mのビート信号の帯域制限を行い、帯域制限されたビート信号をスイッチ586に与える。
【0204】
スイッチ586は、制御器588から入力されるサンプリング信号に応答してスイッチングを実行する。制御器588は、例えばマイクロコンピュータによって構成され得る。制御器588は、ROMなどのメモリに格納されたコンピュータプログラムに基づいて、送受信回路580の全体を制御する。制御器588は、送受信回路580の内部に設けられている必要は無く、信号処理回路560の内部に設けられていても良い。つまり、送受信回路580は信号処理回路560からの制御信号にしたがって動作してもよい。または、送受信回路580および信号処理回路560の全体を制御する中央演算ユニットなどによって、制御器588の機能の一部または全部が実現されていても良い。
【0205】
フィルタ585の各々を通過したチャンネルCh
1〜Ch
Mのビート信号は、スイッチ586を介して、順次、A/Dコンバータ587に与えられる。A/Dコンバータ587は、サンプリング信号に同期してスイッチ586から入力されるチャンネルCh
1〜Ch
Mのビート信号を、サンプリング信号に同期してデジタル信号に変換する。
【0206】
以下、信号処理回路560の構成および動作を詳細に説明する。本応用例では、FMCW方式によって、物標までの距離および物標の相対速度を推定する。レーダシステムは、以下に説明するFMCW方式に限定されず、2周波CWまたはスペクトル拡散などの他の方式を用いても実施可能である。
【0207】
図21に示される例において、信号処理回路560は、メモリ531、受信強度算出部532、距離検出部533、速度検出部534、DBF(デジタルビームフォーミング)処理部535、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、相関行列生成部538、物標出力処理部539および到来波推定ユニットAUを備えている。前述したように、信号処理回路560の一部または全部がFPGAによって実現されていてもよく、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合によって実現されていてもよい。メモリ531、受信強度算出部532、DBF処理部535、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、および到来波推定ユニットAUは、それぞれ、別個のハードウェアによって実現される個々の部品であってもよいし、1つの信号処理回路における機能上のブロックであってもよい。
【0208】
図24は、信号処理回路560がプロセッサPRおよびメモリ装置MDを備えるハードウェアによって実現されている形態の例を示している。このような構成を有する信号処理回路560も、メモリ装置MDに格納されたコンピュータプログラムの働きにより、
図21に示す受信強度算出部532、DBF処理部535、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、相関行列生成部538、到来波推定ユニットAUの機能が果たされ得る。
【0209】
本応用例における信号処理回路560は、デジタル信号に変換された各ビート信号を受信信号の二次信号として、先行車両の位置情報を推定し、推定結果を示す信号を出力するよう構成されている。以下、本応用例における信号処理回路560の構成および動作を詳細に説明する。
【0210】
信号処理回路560内のメモリ531は、A/Dコンバータ527から出力されるデジタル信号をチャンネルCh
1〜Ch
Mごとに格納する。メモリ531は、例えば、半導体メモリ、ハードディスクおよび/または光ディスクなどの一般的な記憶媒体によって構成され得る。
【0211】
受信強度算出部532は、メモリ531に格納されたチャンネルCh
1〜Ch
Mごとのビート信号(
図22の下図)に対してフーリエ変換を行う。本明細書では、フーリエ変換後の複素数データの振幅を「信号強度」と称する。受信強度算出部532は、複数のアンテナ素子のいずれかの受信信号の複素数データ、または、複数のアンテナ素子のすべての受信信号の複素数データの加算値を周波数スペクトルに変換する。こうして得られたスペクトルの各ピーク値に対応するビート周波数、すなわち距離に依存した物標(先行車両)の存在を検出することができる。全アンテナ素子の受信信号の複素数データを加算すると、ノイズ成分が平均化されるため、S/N比が向上する。
【0212】
物標、すなわち先行車両が1個の場合、フーリエ変換の結果、
図23に示されるように、周波数が増加する期間(「上り」の期間)および減少する期間(「下り」の期間)に、それぞれ、1個のピーク値を有するスペクトルが得られる。「上り」の期間におけるピーク値のビート周波数を「fu」、「下り」の期間におけるピーク値のビート周波数を「fd」をする。
【0213】
受信強度算出部532は、ビート周波数毎の信号強度から、予め設定された数値(閾値)を超える信号強度を検出することによって、物標が存在していることを判定する。受信強度算出部532は、信号強度のピークを検出した場合、ピーク値のビート周波数(fu、fd)を対象物周波数として距離検出部533、速度検出部534へ出力する。受信強度算出部532は、周波数変調幅Δfを示す情報を距離検出部533へ出力し、中心周波数f0を示す情報を速度検出部534へ出力する。
【0214】
受信強度算出部532は、複数の物標に対応する信号強度のピークが検出された場合には、上りのピーク値と下りのピーク値とを予め定められた条件によって対応づける。同一の物標からの信号と判断されたピークに同一の番号を付与し、距離検出部533および速度検出部534に与える。
【0215】
複数の物標が存在する場合、フーリエ変換後、ビート信号の上り部分とビート信号の下り部分のそれぞれに物標の数と同じ数のピークが表れる。レーダと物標の距離に比例して、受信信号が遅延し、
図22における受信信号は右方向にシフトするので、レーダと物標との距離が離れるほど、ビート信号の周波数は、小さくなる。
【0216】
距離検出部533は、受信強度算出部532から入力されるビート周波数fu、fdに基づいて、下記の式により距離Rを算出し、物標引継ぎ処理部537へ与える。
R={C・T/(2・Δf)}・{(fu+fd)/2}
【0217】
また、速度検出部534は、受信強度算出部532から入力されるビート周波数fu、fdに基づいて、下記の式によって相対速度Vを算出し、物標引継ぎ処理部537へ与える。
V={C/(2・f0)}・{(fu−fd)/2}
【0218】
距離Rおよび相対速度Vを算出する式において、Cは光速度、Tは変調周期である。
【0219】
なお、距離Rの分解能下限値は、C/(2Δf)で表される。したがって、Δfが大きくなるほど、距離Rの分解能が高まる。周波数f0が約76GHz帯の場合において、Δfを600メガヘルツ(MHz)程度に設定するとき、距離Rの分解能は例えば0.7メートル(m)程度である。このため、2台の先行車両が併走しているとき、FMCW方式では車両が1台なのか2台なのかを識別することは困難である場合がある。このような場合、角度分解能が極めて高い到来方向推定アルゴリズムを実行すれば、2台の先行車両の方位を分離して検出することが可能である。
【0220】
DBF処理部535は、アンテナ素子11
1、11
2、・・・、11
Mにおける信号の位相差を利用して、入力される各アンテナに対応した時間軸でフーリエ変換された複素データを、アンテナ素子の配列方向にフーリエ変換する。そして、DBF処理部535は、角度分解能に対応した角度チャネル毎のスペクトルの強度を示す空間複素数データを算出し、ビート周波数毎に方位検出部536に出力する。
【0221】
方位検出部536は、先行車両の方位を推定するために設けられている。方位検出部536は、算出されたビート周波数毎の空間複素数データの値の大きさのうち、一番大きな値を取る角度θを対象物が存在する方位として物標引継ぎ処理部537に出力する。
【0222】
なお、到来波の到来方向を示す角度θを推定する方法は、この例に限定されない。前述した種々の到来方向推定アルゴリズムを用いて行うことができる。特に本応用例によれば、先行車両の配置が検知できるため、到来波の個数が既知である。その結果、到来方向推定アルゴリズムによる演算の量を低減して高分解能の方位推定が可能になる。
【0223】
物標引継ぎ処理部537は、今回算出した対象物の距離、相対速度、方位の値と、メモリ531から読み出した1サイクル前に算出された対象物の距離、相対速度、方位の値とのそれぞれの差分の絶対値を算出する。そして、差分の絶対値が、それぞれの値毎に決められた値よりも小さいとき、物標引継ぎ処理部537は、1サイクル前に検知した物標と今回検知した物標とを同じものと判定する。その場合、物標引継ぎ処理部537は、メモリ531から読み出したその物標の引継ぎ処理回数を1つだけ増やす。
【0224】
物標引継ぎ処理部537は、差分の絶対値が決められた値よりも大きな場合には、新しい対象物を検知したと判断する。物標引継ぎ処理部537は、今回の対象物の距離、相対速度、方位およびその対象物の物標引継ぎ処理回数をメモリ531に保存する。
【0225】
信号処理回路560で、受信した反射波を基にして生成された信号であるビート信号を周波数解析して得られるスペクトラムを用い、対象物との距離、相対速度を検出することができる。
【0226】
相関行列生成部538は、メモリ531に格納されたチャンネルCh
1〜Ch
Mごとのビート信号(
図22の下図)を用いて自己相関行列を求める。数5の自己相関行列において、各行列の成分は、ビート信号の実部および虚部によって表現される値である。相関行列生成部538は、さらに自己相関行列Rxxの各固有値を求め、得られた固有値の情報を到来波推定ユニットAUへ入力する。
【0227】
受信強度算出部532は、複数の対象物に対応する信号強度のピークが複数検出された場合、上りの部分および下りの部分のピーク値ごとに、周波数が小さいものから順番に番号をつけて、物標出力処理部539へ出力する。ここで、上りおよび下りの部分において、同じ番号のピークは、同じ対象物に対応しており、それぞれの識別番号を対象物の番号とする。なお、煩雑化を回避するため、
図21では、受信強度算出部532から物標出力処理部539への引出線の記載は省略している。
【0228】
物標出力処理部539は、対象物が前方構造物である場合に、その対象物の識別番号を物標として出力する。物標出力処理部539は、複数の対象物の判定結果を受け取り、そのどちらもが前方構造物である場合、自車両の車線上にある対象物の識別番号を物標が存在する物体位置情報として出力する。また、物標出力処理部539は、複数の対象物の判定結果を受け取り、そのどちらもが前方構造物である場合であって、2つ以上の対象物が自車両の車線上にある場合、メモリ531から読み出した物標引継ぎ処理回数が多い対象物の識別番号を物標が存在する物体位置情報として出力する。
【0229】
再び
図20を参照し、車載レーダシステム510が
図20に示す例に組み込まれた場合の例を説明する。画像処理回路720は、映像から物体の情報を取得し、その物体の情報から物標位置情報を検出する。画像処理回路720は、例えば、取得した映像内のオブジェクトの奥行き値を検出して物体の距離情報を推定したり、映像の特徴量から物体の大きさの情報等を検出したりすることにより、予め設定された物体の位置情報を検出するように構成されている。
【0230】
選択回路596は、信号処理回路560および画像処理回路720から受け取った位置情報を選択的に走行支援電子制御装置520に与える。選択回路596は、例えば、信号処理回路560の物体位置情報に含まれている、自車両から検出した物体までの距離である第1距離と、画像処理回路720の物体位置情報に含まれている、自車両から検出した物体までの距離である第2距離とを比較してどちらが自車両に対して近距離であるかを判定する。例えば、判定された結果に基づいて、自車両に近いほうの物体位置情報を選択回路596が選択して走行支援電子制御装置520に出力し得る。なお、判定の結果、第1距離および第2距離が同じ値であった場合には、選択回路596は、そのいずれか一方または両方を走行支援電子制御装置520に出力し得る。
【0231】
なお、物標出力処理部539(
図21)は、受信強度算出部32から物標候補がないという情報が入力された場合には、物標なしとしてゼロを物体位置情報として出力する。そして、選択回路596は、物標出力処理部539からの物体位置情報に基づいて予め設定された閾値と比較することで信号処理回路560あるいは画像処理回路720の物体位置情報を使用するか選択している。
【0232】
物体検知装置400によって先行物体の位置情報を受け取った走行支援電子制御装置520は、予め設定された条件により、物体位置情報の距離や大きさ、自車両の速度、降雨、降雪、晴天などの路面状態等の条件と併せて、自車両を運転しているドライバに対して操作が安全あるいは容易となるような制御を行う。例えば、走行支援電子制御装置520は、物体位置情報に物体が検出されていない場合、予め設定されている速度までスピードを上げるようにアクセル制御回路526に制御信号を送り、アクセル制御回路526を制御してアクセルペダルを踏み込むことと同等の動作を行う。
【0233】
走行支援電子制御装置520は、物体位置情報に物体が検出されている場合において、自車両から所定の距離であることが分かれば、ブレーキバイワイヤ等の構成により、ブレーキ制御回路524を介してブレーキの制御を行う。すなわち、速度を落とし、車間距離を一定に保つように操作する。走行支援電子制御装置520は、物体位置情報を受けて、警告制御回路522に制御信号を送り、車内スピーカを介して先行物体が近づいていることをドライバに知らせるように音声またはランプの点灯を制御する。走行支援電子制御装置520は、先行車両の配置を含む物体位置情報を受けとり、予め設定された走行速度の範囲であれば、先行物体との衝突回避支援を行うために自動的にステアリングを左右どちらかに操作し易くするか、あるいは、強制的に車輪の方向を変更するようにステアリング側の油圧を制御する等を行うことができる。
【0234】
上述の物体検知装置400は、一般的なコンピュータを、上述の各構成要素として機能させるプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、半導体メモリまたはCD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0235】
物体検知装置400では、選択回路596が前回検出サイクルにおいて一定時間連続して検出していた物体位置情報のデータで、今回検出サイクルで検出できなかったデータに対して、カメラで検出したカメラ映像からの先行物体を示す物体位置情報が紐付けされれば、トラッキングを継続させる判断を行い、信号処理回路560からの物体位置情報を優先的に出力するようにしても構わない。
【0236】
信号処理回路560および画像処理回路720の出力を選択回路596に選択するための具体的構成の例および動作の例は、特開2014−119348号公報に開示されている。この公報の内容の全体をここに援用する。
【0237】
上述の車載レーダシステムは一例である。上述したアレーアンテナは、アンテナを利用するあらゆる技術分野において利用可能である。