【実施例】
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]ヒト肺癌細胞株(NCI−H1299)におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%の非働化(56℃、30分処理)したウシ胎児血清を含むRPMI−1640培地(以下、10%FBS−RPMI1640培地と略す)(NACALAI TESQUE,INC.)に溶解し、200mmol/Lのメトホルミン(最終濃度20mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し5mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.5mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト肺癌由来細胞株NCI−H1299はAmerican Type Culture Collection(ATCC)(カタログ番号CRL−5803、Cancer
Res. 1992;52(9 Suppl):2732s−2736s)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 20mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.5mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 20mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.5mmol/L
継代培養しているNCI−H1299細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を1×10
6cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレート(IWAKI)の各ウエルに0.5mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をダルベッコ変法リン酸緩衝生理食塩水(D−PBS)で2回洗浄し、細胞溶解バッファ(Cell Signaling Technology,Inc.)を用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量をELISAキット(Cell Signaling Technology,Inc.)カタログ番号7854を用いて定量した。細胞抽出液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイ(Pierce)を用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群
に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した(
図1)。
7)結論
NCI−H1299細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗的併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示した。
【0036】
[実施例2]ヒト膵臓癌細胞株(AsPC−1)におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、200mmol/Lのメトホルミン(最終濃度20mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し2mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.2mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト膵臓癌由来細胞株AsPC−1は大日本製薬株式会社(現DSファーマバイオメディカル株式会社、In Vitro. 1982;18:24−34)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 20mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 20mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
継代培養しているAsPC−1細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を1×10
6cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに0.5mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELISAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した(
図2)。
7)結論
AsPC−1細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗的併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示す。
【0037】
[実施例3]ヒト肺線維芽細胞株(WI−38)における、メトホルミン誘導乳酸産生に対するジヒドロケルセチンの抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、200mmol/Lのメトホルミン(最終濃度20mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し10mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度1mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト肺線維芽細胞由来細胞株WI−38はATCC(カタログ番号CCL−75、Exp. Cell Res. 25:585−621,1961)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日にジヒドロケルセチンを加えて1時間培養後、更にメトホルミンを加えて6時間培養後、培地を回収し、培地中に含まれる乳酸濃度を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 20mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン及びメトホルミン併用群:メトホルミン 20mmol/L+ジヒドロケルセチン 1mmol/L
継代培養しているWI−38細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを24wellマルチウエル培養プレート(IWAKI)の各ウエルに0.5mLずつ分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。各ウエルにジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加え1時間培養後、メトホルミンを所定の濃度含む培地を加え、さらに6時間培養後に各ウエルの培養上清を分取した。分取した培地は分画分子量10kDaのフィルターに通しろ液を分取後、Lactate Assay Kit II(BioVision)カタログ番号K627−100を用いて乳酸濃度を測定した。培養上清分取後の細胞は、D−PBSで2回洗浄後、細胞溶解バッファを加えて全細胞溶解液を調製した。全細胞溶解液中の蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルの乳酸濃度を蛋白濃度で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
ジヒドロケルセチンのメトホルミン誘導乳酸産生量に対する影響を評価する目的で、培地中乳酸濃度に関してメトホルミン単独群と併用群との間で、Studentのt検定を行った。併用群の値がメトホルミン単独群に比較して有意に低い場合に、ジヒドロケルセチンは産生量に対して抑制効果ありとした。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
メトホルミンは、WI−38細胞からの乳酸産生を誘導した。ジヒドロケルセチンはメトホルミンが誘導した乳酸産生を有意に抑制した(
図3)。
7)結論
WI−38細胞において、メトホルミン誘導乳酸産生に対するジヒドロケルセチンの抑制効果が認められた。これは、ジヒドロケルセチンがメトホルミン投与による乳酸アシドーシスのリスクを減らすという臨床での有用性を示した。
【0038】
[実施例4]ヒト肝臓癌細胞株(HuH−7)におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、50mmol/Lのメトホルミン(最終濃度5mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し2mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.2mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト肝臓癌由来細胞株HuH−7はヒューマンサイエンス研究資源バンク(Cancer Res.1982;42(9):3858−63)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 5mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 5mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
継代培養しているHuH−7細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに1mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELISAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
結果を表1に示す。
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した。
【0039】
【表1】
【0040】
7)結論
HuH−7細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示した。
【0041】
[実施例5]ヒト乳癌細胞株(MDA−MB−231)におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、50mmol/Lのメトホルミン(最終濃度5mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し2mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.2mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト乳癌由来細胞株MDA−MB−231はATCC(J Natl Cancer Inst.1974;53(3):661−74)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 5mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 5mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
継代培養しているMDA−MB−231細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに1mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELISAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
結果を表2に示す。
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した。
【0042】
【表2】
【0043】
7)結論
MDA−MB−231細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示した。
【0044】
[実施例6]ヒト前立腺癌細胞株(22Rv1)におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチ
ン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、100mmol/Lのメトホルミン(最終濃度10mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し2mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.2mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト前立腺癌由来細胞株22Rv1はATCC(In Vitro Cell Dev
Biol Anim.1999;35(7):403−9)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 10mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 10mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
継代培養している22Rv1細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに1mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELISAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
結果を表3に示す。
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した。
【0045】
【表3】
【0046】
7)結論
22Rv1細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示した。
【0047】
[実施例7]ヒト胆管癌細胞株(HuH−28)におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、200mmol/Lのメトホルミン(最終濃度20mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し2mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.2mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト胆管癌由来細胞株HuH−28はヒューマンサイエンス研究資源バンク(Res Exp Med (Berl).1988;188(5):367−75)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 20mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 20mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
継代培養しているHuH−28細胞をトリプシンで解離し、培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに1mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELI
SAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
結果を表4に示す。
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した。
【0048】
【表4】
【0049】
7)結論
HuH−28細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示した。
【0050】
[実施例8]ヒト卵巣癌細胞株(Caov−3)におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、200mmol/Lのメトホルミン(最終濃度20mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し2mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.2mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト卵巣癌由来細胞株Caov−3はATCC(GYNECOL ONCOL.1994;53(1):70−7)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液
中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 20mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 20mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.2mmol/L
継代培養しているCaov−3細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに1mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELISAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
結果を表5に示す。
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した。
【0051】
【表5】
【0052】
7)結論
Caov−3細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示した。
【0053】
[実施例9]ヒト膵臓癌細胞株(AsPC−1)におけるメトホルミンとジヒドロケルセ
チンの併用によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、15、30及び60mmol/Lのメトホルミン(最終濃度1.5、3及び6mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し3mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.3mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト膵癌由来細胞株AsPC−1は、DSファーマバイオメディカル株式会社より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 1.5、3及び6mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.3mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 1.5、3及び6mmol/L+ジヒドロケルセチン 0
.3mmol/L
継代培養しているAsPC−1細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに1mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにメトホルミンを所定の濃度含む培地、ジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地又はメトホルミンとジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。37℃、5%CO
2の条件下で24時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELISAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
併用群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量に対する影響を評価する目的で、併用群と各単剤処理群の間で、それぞれDunnett検定を行った。各単剤処理群に対して併用群に有意差が認められた場合、メトホルミン単独群(1、2群)とジヒドロケルセチン単独群(3、4群)の間の相乗効果を評価する目的で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
結果を表6〜8に示す。
メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用により、各単独化合物群よりもリン酸化4E−BP1相対蛋白量を有意に強く抑制した。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
7)結論
AsPC−1細胞において、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による増殖関連シグナル伝達経路抑制の相乗併用効果が認められた。これは、がん化学療法におけるメトホルミンとジヒドロケルセチンとの併用の有用性を示した。
【0058】
[実施例10]ヒト肺線維芽細胞株(WI−38)における、メトホルミン誘導乳酸産生に対するジヒドロケルセチンの抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ラセミ体のジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチン)は、Bionet社から、光学活性ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン)はSIGMA社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは10%FBS−RPMI1640培地に溶解し、200mmol/Lの
メトホルミン(最終濃度20mmol/L)を調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し10mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度1mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト肺線維芽細胞由来細胞株WI−38はATCC(カタログ番号CCL−75、Exp.Cell.Res,25:585−621,1961)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日にジヒドロケルセチンを加えて1時間培養後、更にメトホルミンを加えて6時間培養後、培地を回収し、培地中に含まれる乳酸濃度を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 1mmol/L
(3)メトホルミン単独群:メトホルミン 20mmol/L
(4)併用群:メトホルミン 20mmol/L+ジヒドロケルセチン 1mmol/L
継代培養しているWI−38細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2.5×10
5cells/mLに調製した。これを24wellマルチウエル培養プレート(IWAKI)の各ウエルに0.5mLずつ分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。これにジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加え1時間培養後、メトホルミンを所定の濃度含む培地を加え、6時間培養後に各ウエルの培養上清を分取した。分取した培地は分画分子量10kDaのフィルターに通しろ液を分取後、Lactate Assay Kit II(BioVision)カタログ番号K627−100を用いて乳酸濃度を測定した。培養上清分取後の細胞は、D−PBSで2回洗浄後、細胞溶解バッファを加えて全細胞溶解液を調製した。全細胞溶解液中の蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルの乳酸濃度を蛋白濃度で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
ジヒドロケルセチンのメトホルミン誘導乳酸産生量に対する影響を評価する目的で、培地中乳酸濃度に関して対照群とジヒドロケルセチン単独群、及び対照群とメトホルミン単独群との間で、それぞれStudentのt検定を行った。また、補正された乳酸産生量に関してジヒドロケルセチンとメトホルミンの併用の影響を評価する目的で、ジヒドロケルセチン単独群(1、2群)とメトホルミン単独群(3、4群)の間で、2元配置分散分析(両側)(two−way ANOVA(two−tailed))(要因:群及び濃度)を行った。ジヒドロケルセチン単独群の補正された乳酸産生量が対照群に比較して有意である場合に、乳酸産生に対する抑制効果を有すると判定された。メトホルミン単独群の補正された乳酸産生量が対照群に比較して有意である場合に、乳酸産生に対する誘導効果を有すると判定された。併用群とメトホルミン単独群の間の補正された乳酸産生量の差が、対照群とジヒドロケルセチン単独群の補正された乳酸産生量の差よりも有意に大きい場合に、ジヒドロケルセチンは乳酸産生量に対する抑制効果を有すると定義された。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute
Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
ラセミ体及び光学活性のジヒドロケルセチンは共に、対照群と比べてWI−38からの乳酸産生を抑制した。メトホルミンは、細胞からの乳酸産生を誘導した。ラセミ体及び光学活性のジヒドロケルセチンは共にメトホルミンが誘導した乳酸産生を有意に抑制した(ラセミ体;
図4、光学活性;
図5)。
7)結論
WI−38細胞において、メトホルミン誘導乳酸産生に対するジヒドロケルセチンの抑制効果がラセミ体及び光学活性のジヒドロケルセチン共に認められた。これは、ジヒドロ
ケルセチンがメトホルミン投与による乳酸アシドーシスのリスクを減らすという臨床での有用性を示した。
【0059】
[実施例11]ヒト膵臓癌細胞株(AsPC−1)におけるジヒドロケルセチン単剤によるがん細胞増殖関連シグナル伝達経路抑制効果(in vitro)
1)被験物質
ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し5及び10mmol/Lのジヒドロケルセチン(最終濃度0.5及び1mmol/L)を調製した。
3)細胞
ヒト膵臓癌由来細胞株AsPC−1は大日本製薬株式会社(現DSファーマバイオメディカル株式会社、In Vitro.1982;18:24−34)より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
細胞播種翌日に被験物質を添加し6時間培養後、細胞を回収し、調製した全細胞溶解液中に含まれるリン酸化4E−BP1相対蛋白量を測定し、評価した。それぞれの群(N=3)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1%エタノール含有培地
(2)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.5mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 1mmol/L
継代培養しているAsPC−1細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を1×10
6cells/mLに調製した。これを12wellマルチウエル培養プレートの各ウエルに0.5mL分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日に、各ウエルにジヒドロケルセチンを所定の濃度含む培地を加えた。6時間培養後に各ウエルの細胞をD−PBSで2回洗浄し、細胞溶解バッファを用いて全細胞溶解液を調製した。遠心後、上清を分取し、リン酸化4E−BP1(Thr37/Thr46)相対蛋白量を実施例1と同様にELISAキットを用いて定量した。全細胞溶解液中の総蛋白濃度はBCAプロテインアッセイを用いて測定し、各ウエルのリン酸化4E−BP1相対蛋白量を総蛋白量で補正した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
リン酸化4E−BP1相対蛋白量に対するジヒドロケルセチンの用量依存性を評価する目的で、直線回帰分析を行った。その結果、用量依存性が認められたので、対照群と単剤処理群との間でWilliams検定(片側)を行った。その結果、0.5mmol/L
以上のジヒドロケルセチンによる有意なリン酸化4E−BP1相対蛋白量の抑制作用が認められた。ジヒドロケルセチン単独群のリン酸化4E−BP1相対蛋白量が、対照群に比較して有意である場合に、該量に対する抑制効果を有すると判定された。分析にはSAS
Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
ジヒドロケルセチンは、リン酸化4E−BP1相対蛋白量に対して用量依存的な抑制効果を示した(
図6)。
7)結論
AsPC−1細胞において、ジヒドロケルセチン単剤による用量依存的な増殖関連シグナル伝達経路抑制効果が認められた。これは、がん化学療法におけるジヒドロケルセチンの有用性を示した。
【0060】
[実施例12]ヒト膵癌細胞株(AsPC−1)における、メトホルミンとジヒドロケルセチンの併用による癌幹細胞表面マーカー発現抑制効果(in vitro)
1)被験物質
メトホルミンは和光純薬工業株式会社から購入したものを使用した。ジヒドロケルセチン((2R,3R)−ジヒドロケルセチン及び(2S,3S)−ジヒドロケルセチンのラセミ体)は、Bionet社から購入したものを使用した。ゲムシタビンは、Toronto Research Chemicals Inc.社から購入したものを使用した。
2)被験物質の調製
メトホルミンは蒸留水に溶解した後、10%FBS−RPMI−1640培地で希釈し、15mmol/Lのメトホルミンを調製した。ジヒドロケルセチンは、エタノールに溶解した後、培地で希釈し0.3mmol/Lのジヒドロケルセチンを調製した。ゲムシタビンは、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した後、培地で希釈し100nmol/Lのゲムシタビンを調製した。
3)細胞
ヒト膵癌由来細胞株AsPC−1は、DSファーマバイオメディカル株式会社より入手した。細胞は10%FBS−RPMI1640培地を用いて、37℃、5%CO
2の条件下で培養した。
4)被験物質の添加及び測定
それぞれの群(N=10)を下記のように処理した。
(1)対照(媒体コントロール)群:1.5%蒸留水、0.3%エタノール及び0.1%DMSO含有培地
(2)メトホルミン単独群:メトホルミン 15mmol/L
(3)ジヒドロケルセチン単独群:ジヒドロケルセチン 0.3mmol/L
(4)メトホルミン・ジヒドロケルセチン併用群:メトホルミン 15mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.3mmol/L
(5)ゲムシタビン単独群:ゲムシタビン 100nmol/L
(6)メトホルミン・ジヒドロケルセチン・ゲムシタビン併用群:メトホルミン 15mmol/L+ジヒドロケルセチン 0.3mmol/L+ゲムシタビン 100nmol/L
継代培養しているAsPC−1細胞をトリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。この細胞懸濁液の細胞密度を血球計数器で測定し、細胞密度を2×10
4cells/mLに調製した。これを6wellマルチウエル培養プレート(IWAKI)の各ウエルに3mLずつ分注し、37℃、5%CO
2の条件下で一夜培養した。翌日、培地を各被験物質を所定の濃度含む培地に交換し、該細胞を72時間培養後、トリプシンで解離し、新鮮培地に懸濁した。FACS(fluorescence activated cell sorting)バッファで洗浄後、細胞をFITC標識した抗ヒトCD44抗体及びAPC標識した抗ヒトCD24抗体で染色し、4℃で30分処理した。その後、FACSバッファで細胞を洗浄し、40ミクロンメッシュのフィルターに通した後、フローサイトメーター(日本ベクトンディッキンソン)にて、CD44及びCD24二重陽性細胞の割合を測定した。
5)統計解析
結果は、平均値(MEAN)±標準偏差(SD)で示した。
CD44及びCD24二重陽性細胞の割合に対する、メトホルミンとジヒドロケルセチンの各単独処理群及び併用群の影響を評価する目的で、対照群と各薬剤の単独群及び併用群の間で、対応のない二元配置分散分析(unpaired two−way ANOVA)を行った。CD44及びCD24二重陽性細胞の割合に対する、ゲムシタビン単独群の影響を評価する目的で、対照群とゲムシタビン単独群の間で、Studentのt検定を行った。また、ゲムシタビン単独群のCD44及びCD24二重陽性細胞の割合に対する、ゲムシタビン、メトホルミン及びジヒドロケルセチン併用群の影響を評価する目的で
、ゲムシタビン単独群とゲムシタビン、メトホルミン及びジヒドロケルセチン併用群との間で、Studentのt検定を行った。分析にはSAS Software Release 9.3(SAS Institute Japan)を用いた。p値が0.05未満の場合に統計的に有意差ありとした。
6)結果
ジヒドロケルセチン単独群及びメトホルミンとジヒドロケルセチンの併用群は、AsPC−1細胞のCD44及びCD24二重陽性細胞の割合を、対照群に比べて有意に低下させた。ゲムシタビン単独群は、AsPC−1細胞のCD44及びCD24二重陽性細胞の割合を、対照群に比べて有意に増加させた。CD44及びCD24二重陽性細胞の割合のゲムシタビン単独添加による増加は、メトホルミン及びジヒドロケルセチンの補充的な添加により、有意に抑制された(
図7)。
7)結論
膵臓がん幹細胞として決定されたCD44及びCD24二重陽性細胞の割合の評価後、膵癌細胞株AsPC−1において、ジヒドロケルセチン単独添加及びメトホルミンとジヒドロケルセチン併用添加により有意な低下が認められた。一方、ゲムシタビンにより二重陽性細胞の割合の有意な増加が認められた。また、上記CD44及びCD24二重陽性細胞のゲムシタビン単独添加による増加が、メトホルミン及びジヒドロケルセチンとの併用添加により有意に低下する作用が認められた。これらの結果から、ゲムシタビン治療に関連する、がん幹細胞の増加による再発リスクの増大という臨床上の問題が、ゲムシタビンとジヒドロケルセチンの併用あるいはゲムシタビン、メトホルミン及びジヒドロケルセチンの併用により解決される可能性が示唆された。