特開2019-5(P2019-5A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2019-5細胞培養容器、細胞培養容器の製造方法、並びに細胞シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-5(P2019-5A)
(43)【公開日】2019年1月10日
(54)【発明の名称】細胞培養容器、細胞培養容器の製造方法、並びに細胞シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20181207BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20181207BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20181207BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20181207BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20181207BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20181207BHJP
   A61L 27/42 20060101ALI20181207BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20181207BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20181207BHJP
   C12N 1/02 20060101ALN20181207BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
   A61L27/14
   A61L27/50
   A61L27/16
   A61L27/10
   A61L27/38 300
   A61L27/38
   A61L27/42
   A61L27/44
   C12N5/071
   C12N1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-114878(P2017-114878)
(22)【出願日】2017年6月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
【住所又は居所】東京都新宿区市谷加賀町一丁目1番1号
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
【住所又は居所】山形県山形市小白川町1丁目4−12
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】照沼 淳子
(72)【発明者】
【氏名】高本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】干場 隆志
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC11
4B029DG08
4B029GA01
4B029GB09
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AC20
4B065BC03
4B065BC11
4B065BC41
4B065BD09
4B065CA44
4C081AB01
4C081AB11
4C081AB31
4C081AB36
4C081BA01
4C081BA12
4C081BA13
4C081BB01
4C081BB03
4C081CA082
4C081CD34
4C081DA02
4C081EA02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、毒性の問題が少なく、細胞シートを容易に回収することができる細胞培養容器を提供することである。
【解決手段】本発明は、細胞シートを形成するために用いられる細胞培養容器であって、基材と、該基材上に、下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性及び抗血栓性を有する温度応答性高分子を含むポリマー層と、を含む細胞培養容器である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞シートを形成するために用いられる細胞培養容器であって、
基材と、
該基材上に、下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性及び抗血栓性を有する温度応答性高分子を含むポリマー層と、
を含む細胞培養容器。
【請求項2】
前記温度応答性高分子が、式(I):
【化1】
[式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチル基又はエチル基であり、mは、2又は3であり、nは、繰り返し数を示す]
で表される繰返し単位を含む、請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記温度応答性高分子が、Rが水素原子であり、Rがエチル基であり、かつmが2である繰返し単位と、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、かつmが2である繰返し単位と、を含む、請求項2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記温度応答性高分子の下限臨界溶液温度が、37℃以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記ポリマー層の膜厚が、200nm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記基材が、細胞接着性を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項7】
前記基材が、ガラス又はプラスチックを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養容器の製造方法であって、
前記温度応答性高分子を含む溶液を用意する工程と、
前記溶液を基材上に配置する工程と、
前記基材上の前記溶液を乾燥させ、前記温度応答性高分子を含むポリマー層を形成する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞培養容器を用いて細胞シートを製造する方法であって、
前記ポリマー層の上に、細胞を播種する工程と、
前記細胞を培養し、細胞シートを形成する工程と、
前記ポリマー層を該温度応答性高分子の下限臨界溶解温度未満に冷却し、前記細胞シートを回収する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項10】
下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性及び抗血栓性を有する温度応答性高分子を含む溶液を用意する工程と、
前記溶液を基材上に配置する工程と、
前記基材上の前記溶液を乾燥させ、前記温度応答性高分子を含むポリマー層を形成する工程と、
前記ポリマー層の上に、細胞を播種する工程と、
前記細胞を培養し、細胞シートを形成する工程と、
前記ポリマー層を該温度応答性高分子の下限臨界溶解温度未満に冷却し、前記細胞シートを回収する工程と、
を含む細胞シートの製造方法。
【請求項11】
前記細胞をコンフルエントに達するまで培養する、請求項9又は10に記載の細胞シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞培養容器、細胞培養容器の製造方法、並びに細胞シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療技術の一つとして、細胞を移植する手法がある。移植のための細胞の形態としては、細胞をシート状に培養して得られる細胞シートが挙げられる。細胞シートは、細胞間結合で細胞同士が連結されたシート状の細胞集合体である。また、細胞シートはシャーレなどの基材上で細胞を培養することにより形成することができる。
【0003】
細胞シートを作製する方法として、例えば、温度応答性を有する高分子を利用した方法が知られている。この方法では、細胞がその表面上で培養される培養層として、温度応答性高分子の層が基材上に形成されている容器が用いられる。この温度応答性高分子は、細胞培養温度(例えば37℃)では細胞が接着する表面特性を有するため、細胞をその表面に接着させながら培養して細胞シートを形成することができる。一方、温度応答性高分子の温度を低くすると、温度応答性高分子のコンフォメーションが変化し、細胞がその表面に接着できなくなる。そのため、細胞シートを形成した後に温度応答性高分子の温度を下げることにより、細胞シートを表面から剥がして回収することができる。細胞シートを作製する他の方法としては、例えば、トリプシンを用いて接着タンパク質を分解することで細胞シートを回収する方法も知られている。しかし、その方法では細胞へのダメージが懸念される。したがって、そのようなダメージを誘発しない、温度応答性高分子を利用した方法が望ましいと考えられている。
【0004】
例えば、特許文献1では、水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性高分子が被覆されたA領域と、細胞と親和性の低い高分子が被覆されているB領域の2領域を有する細胞培養基材が開示されている。また、温度応答性高分子としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−131275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にて用いられる温度応答性高分子としてのポリN−イソプロピルアクリルアミドは、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)の重合体であり、このN−イソプロピルアクリルアミドは、人体に対して急性毒性を有することが知られている。ポリN−イソプロピルアクリルアミドの重合体においては毒性は知られてない。しかし、培養層としてポリN−イソプロピルアクリルアミドを有する容器で細胞シートを作製した場合、残存モノマーやポリN−イソプロピルアクリルアミドからの溶出モノマーが細胞シートに取り込まれる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、細胞シートを容易に回収することができる新規な細胞培養容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様を、以下に示す。
【0009】
(1) 細胞シートを形成するために用いられる細胞培養容器であって、
基材と、
該基材上に、下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性及び抗血栓性を有する温度応答性高分子を含むポリマー層と、
を含む細胞培養容器。
(2) 前記温度応答性高分子が、式(I):
【化1】
[式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチル基又はエチル基であり、mは、2又は3であり、nは、繰り返し数を示す]
で表される繰返し単位を含む、(1)に記載の細胞培養容器。
(3) 前記温度応答性高分子が、Rが水素原子であり、Rがエチル基であり、かつmが2である繰返し単位と、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、かつmが2である繰返し単位と、を含む、(2)に記載の細胞培養容器。
(4) 前記温度応答性高分子の下限臨界溶液温度が、37℃以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞培養容器。
(5) 前記ポリマー層の膜厚が、200nm以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞培養容器。
(6) 前記基材が、細胞接着性を有する、(1)〜(5)のいずれかに記載の細胞培養容器。
(7) 前記基材が、ガラス又はプラスチックを含む、(1)〜(6)のいずれかに記載の細胞培養容器。
(8) (1)〜(7)のいずれかに記載の細胞培養容器の製造方法であって、
前記温度応答性高分子を含む溶液を用意する工程と、
前記溶液を基材上に配置する工程と、
前記基材上の前記溶液を乾燥させ、前記温度応答性高分子を含むポリマー層を形成する工程と、
を含む、製造方法。
(9) (1)〜(7)のいずれかに記載の細胞培養容器を用いて細胞シートを製造する方法であって、
前記ポリマー層の上に、細胞を播種する工程と、
前記細胞を培養し、細胞シートを形成する工程と、
前記ポリマー層を該温度応答性高分子の下限臨界溶解温度未満に冷却し、前記細胞シートを回収する工程と、
を含む、製造方法。
(10) 下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性及び抗血栓性を有する温度応答性高分子を含む溶液を用意する工程と、
前記溶液を基材上に配置する工程と、
前記基材上の前記溶液を乾燥させ、前記温度応答性高分子を含むポリマー層を形成する工程と、
前記ポリマー層の上に、細胞を播種する工程と、
前記細胞を培養し、細胞シートを形成する工程と、
前記ポリマー層を該温度応答性高分子の下限臨界溶解温度未満に冷却し、前記細胞シートを回収する工程と、
を含む細胞シートの製造方法。
(11) 前記細胞をコンフルエントに達するまで培養する、(9)又は(10)に記載の細胞シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、細胞シートを容易に回収することができる新規な細胞培養容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態に係る細胞培養容器の構成例を示す概略断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る細胞シートの製造方法を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、細胞シートを形成するために用いられる細胞培養容器であって、基材と、該基材上に、下限臨界溶液温度を有すると共に細胞接着性及び抗血栓性を有する温度応答性高分子を含むポリマー層と、を含む細胞培養容器である。
【0013】
本明細書中で使用される「細胞接着性」は、特段別に記載がない限り、細胞が接着することができる性質を意味する。本明細書中で使用される「抗血栓性」は、血栓を形成し難い性質を意味する。
【0014】
本実施形態において、上記温度応答性高分子は、好ましくは、下記式(I):
【化2】
[式中、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、メチル基又はエチル基であり、mは、2又は3であり、nは、繰り返し数を示す]
で表される繰返し単位を含む温度応答性高分子である。この温度応答性高分子を用いることにより、毒性の問題が少なく、細胞シートを容易に回収することができる細胞培養容器を提供することができる。
【0015】
本実施形態で用いる温度応答性高分子は、生体適合性を有する。式(I)において、R、R、mは、主鎖の炭素原子毎に独立していてもよい。
【0016】
上記式(I)で表される繰返し単位を含む温度応答性高分子は、WO2004/087228号パンフレットに開示されており、当該ポリマーは、表1に示すように「中間水」と定義される水分子を含有可能な所定の水和構造を有することにより、生体由来の物質に接触した際に、例えば血小板等の血球成分の接着が抑制される等の生体適合性を示すことが確認されている。同時に、それぞれのポリマー構造に応じて決まる相転移温度(下限臨界溶液温度(LCST))が存在し、当該温度未満の温度域においてはポリマー分子が水溶性を示す一方で、当該相転移温度以上の温度域においてはポリマー分子が非水溶性となることが確認されている。なお、表1におけるポリマーA〜Fは上記WO2004/087228号パンフレットに記載されるものであり、本実施形態における式(I):
【化3】
におけるR、R、mをそれぞれ表中に示す構造とする繰り返し単位のみからなるホモポリマーである。また、表1に示すLCSTは、各ポリマーが純水中において示すLCSTである。WO2004/087228号パンフレットに記載されるポリマーにおいて、下限臨界溶液温度(LCST)が存在する理由は明らかで無いが、主鎖および側鎖に含まれる疎水性基と、側鎖に含まれるエチレングリコールユニット等に起因する親水性基とのバランスに起因して、温度に応じて疎水性基の部分、或いは親水性基の部分が外部に露出する一種の相変態を生じる結果として、所定の温度以上で疎水的な特性を示すポリマーが、当該温度以下で親水的となって水溶性を示すものと考えられる。LCSTは、そのポリマー構造と共に、周囲の環境が有する極性等によって変化するものであるため、等張液などの各種の溶質を含む水溶液中では、その成分や濃度に応じて数℃程度、LCSTが低下する傾向が見られる。
【0017】
【表1】
【0018】
表2には、上記ポリマーA〜Fを構成する繰り返し単位を、それぞれ50%ずつ含むコポリマー(共重合体)が有するLCSTを示す。表2に示されるように、式(I)で表される繰り返し単位を含むコポリマーは、当該コポリマーを構成する各繰り返し単位のみからなるホモポリマーが有するLCSTの中間的なLCSTを示すことが確認されており、これを利用して式(I)に含まれる繰り返し単位を含むコポリマーとすることにより、適宜のLCSTを有するポリマーを得ることが可能である。この際に、上記ホモポリマーFのように、ホモポリマーとした際には顕在的なLCSTを有しない繰り返し単位であっても、コポリマーとした際にLCSTを示す繰り返し単位が存在することから、このような繰り返し単位は0℃未満の温度に潜在的なLCSTを有するものと考えられる。
【0019】
【表2】
【0020】
式(I)で表される繰返し単位を所定以上の割合で含むことにより、表1、2に示すように中間水を含有可能であることにより抗血栓性を示す一方で、その構造に応じた下限臨界溶液温度を示すコポリマーとすることが可能である。この際に、コポリマーを構成する繰り返し単位の全てが式(I)で表されるものであることが、中間水の含有量やLCSTの調整が容易な点でより好ましいが、その目的等に応じて、コポリマーには式(I)で表される以外の繰り返し単位を含むことが可能である。
【0021】
本実施形態で用いる温度応答性高分子としては、水中におけるLCSTが37℃以下のものが好ましく使用され、0℃以上37℃以下のものがより好ましく使用され、0℃以上35℃以下のものがさらに好ましく使用される。また、冷却時のポリマーの溶解速度を高める観点や、過度の冷却による細胞の活性低下を防止する観点からは、温度応答性高分子のLCSTが5℃以上、より好ましくは10℃以上であることが望ましい。一方、特に細胞を培養する際には、培養中における培養液へのポリマーの溶解を確実に防止する観点から、温度応答性高分子のLCSTが35℃以下、より好ましくは30℃以下であることが望ましい。
【0022】
式(I)で表される繰返し単位においては、表1に記載のLCSTや中間水量に示されるとおり、式(I)中のR、R及びmに応じて、LCSTや中間水量を変化することが可能である。一般に、Rをメチル基から水素、Rをエチル基からメチル基とするなど各部位の親水性が増加するに従ってLCSTが高温側に変移し、含有できる中間水の量が増加する傾向が見られる。また、親水性を示すと考えられるエチレングリコール部(C−O)の繰り返し数(m)を2から3に増加することによってもLCSTが高温側に変移し、含有できる中間水の量が増加する傾向が見られる。本実施形態に係る細胞シートの製造方法においては、このような各繰り返し単位の構造が固有に有する特性を利用して、特に細胞シートを回収する水溶液中におけるLCSTが好ましい温度範囲になるように複数種の式(I)で表される繰り返し単位を含むコポリマーを合成して使用することが好ましい。
【0023】
本実施形態で用いる温度応答性高分子は、典型的には、下記式(II)で表される構造から選択される少なくとも1種のモノマーを用いて調製することができ、より具体的には、当該モノマーを含む溶液に適切な開始剤を添加し、ランダム重合、イオン重合、光重合若しくはマクロマーなどを利用した重合の一般的な方法によって重合させることにより調製することができる。重合反応を行う温度は、40〜100℃が好ましく、60〜90℃がより好ましく、70〜80℃がさらに好ましい。重合反応を行う圧力は常圧であることが好ましい。重合反応は、それぞれのモノマーを混合してランダム共重合を行ってもよく、あるいは、それぞれのモノマーをある程度重合してから両者を混合して行うブロック共重合でもよい。温度応答性高分子の全構成単位中の式(II)のモノマーに由来する構成単位の量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0024】
【化4】
上記式(II)中、R、R及びmの定義は、式(I)と同様である。
【0025】
重合反応において、溶媒は、特に制限されるものではないが、例えば、脂肪族又は芳香族の有機溶媒であり、より具体的には、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、オルト−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ペンタンなどの脂肪族炭化水素が挙げられ、ジオキサンなどのエーテル系溶媒が好ましい。
【0026】
なお、表1、2に記載したLCSTは、以下の通りに測定した値である。まず、Milli−Q水(純水)中に各ポリマーを1.0wt%の濃度で溶解させて高分子溶液を調製する。この高分子溶液500μLをマイクロセルに入れ、V−630型分光光度計(日本分光株式会社)を用いて波長500nmの可視光での透過率を測定しながら、0.5℃/minの速度で温度を上昇させる。各ポリマーの析出により高分子溶液の光透過率が高分子を溶解させていないMilli−Q水の透過率の50%となった際の温度をLCSTとして測定する。本発明で用いる温度応答性高分子のLCSTはこの方法と同様にして測定することができる。LCSTは、周囲の環境が有する極性などによって変化し、等張液などの各種の溶質を含む水溶液中では、その成分や濃度に応じてLCSTが2〜5℃程度、低下する傾向が見られる。また、表1、2に記載した中間水の量は、それぞれのポリマーについて以下の測定方法により測定されたものである。飽和含水させた各ポリマーを−100℃程度まで冷却した後に室温まで再加熱する過程において観察される−40℃近辺の発熱と、−20〜0℃の間で見られる吸熱の量から、当該ポリマーに含有される中間水の重量を求める。そして、中間水の重量を当該ポリマーの乾燥重量で除して中間水の量を計算する。
【0027】
また、本実施形態で用いる温度応答性高分子は、式(I)で示される複数の繰り返し単位を組み合わせたコポリマーであってもよく、他の構造の繰り返し単位を式(I)に示す繰り返し単位と組み合わせたコポリマーであってもよい。その際に、当該他の構造の繰り返し単位としては、必ずしも単独で中間水を含有してLCSTを示すポリマーを与える繰り返し単位や、水溶性のポリマーを与える繰り返し単位である必要はなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜の繰り返し単位を含むコポリマーとすることが可能である。極性を示す極性基を含む繰り返し単位を式(I)に示す繰り返し単位と組み合わせてコポリマーを調製すると、当該極性の影響で式(I)に示す繰り返し単位が本来示す挙動が阻害され、中間水の含有が阻害される傾向がある。そのため、極性基を含む繰り返し単位の割合に応じて含有される中間水の量が減少し、LCSTがより低くなる傾向が見られる。このような傾向は、本実施形態で用いるポリマーのLCSTを調整する点で有用である。上記温度応答性高分子(コポリマー)における各繰り返し単位間の配置は特に制限がなく、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーなどの形態で使用することができる。特に、ブロックコポリマー若しくはグラフトコポリマーの形態とすることで、ポリマー鎖を部分的に不溶化して、LCST未満の温度に冷却した際にポリマー鎖の一部が基材に接着した状態とすることで、ポリマー表面に接着していた細胞シートは水性媒体中に放出しつつ、ポリマー自身の水性媒体中への溶解を防止することができる。
【0028】
式(I)に示す繰り返し単位と他の構造の繰り返し単位を組み合わせるために、上記式(II)で表される構造から選択されるモノマーと重合可能なモノマーとしては、重合によって得られるコポリマーが0〜37℃の温度範囲にLCSTを有するコポリマーを生成するものであることが好ましい。このようなモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、n−ブチルアクリルアミド、i−ブチルアクリルアミド、ヘキシルアクリルアミド、ヘプチルアクリルアミドなどのアルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドなどのN,N−ジアルキルアクリルアミド、アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレートなどのアミノアルキルアクリレート、ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレートなどのジアミノアルキルアクリレート、メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミドなどのN,N−ジアルキルメタクリルアミド、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレートなどのアミノアルキルメタクリレート、ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレートなどのジアミノアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアルキルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート、メトキシ(メタ)アクリレートなどのアルコキシ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、プロピレンなどが挙げられる。また、本発明で使用するポリマーの中間水含有量とLCSTを独立して調整する観点からは、上記式(II)で表される構造から選択されるモノマーに対して、中間水を含有せずにLCSTを示す(メタ)アクリルアミド化合物、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのN―アクリル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N―ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、1−(1−オキサ−2−プロペニル)−ピロリジンなどのN−ヘテロ環状基置換(メタ)アクリルアミド誘導体などを用いることが可能である。
【0029】
式(I)において、Rが水素原子であり、Rがエチル基であり、かつmが2であることが好ましい。また、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、かつmが2であることが好ましい。
【0030】
本実施形態で用いる温度応答性高分子は、Rが水素原子であり、Rがエチル基であり、かつmが2である繰返し単位と、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、かつmが2である繰返し単位と、を含むことが好ましい。また、温度応答性高分子は、Rが水素原子であり、Rがエチル基であり、かつmが2である繰返し単位と、Rが水素原子であり、Rがメチル基であり、かつmが3である繰返し単位と、を含むことが好ましい。
【0031】
本実施形態で用いる温度応答性高分子の数平均分子量は、10,000〜300,000であることが好ましい。
本実施形態において、温度応答性高分子は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0032】
本実施形態において、ポリマー層の表面が、細胞が培養される表面である培養面となることが好ましい。つまり、細胞はポリマー層の表面に接着することが好ましい。
【0033】
本実施形態におけるポリマー層は、上記温度応答性高分子を主成分として含む。ポリマー層における上記温度応答性高分子の含有量は、総固形分中、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることがより特に好ましい。ポリマー層は、上記温度応答性高分子の他に、添加剤などを含んでもよい。添加剤としては、例えば、他の高分子、可塑剤などが挙げられる。
【0034】
ポリマー層の厚さは、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。ポリマー層の厚さは、例えば、1nm以上であり、10nm以上であることが好ましく、16nm以上であることがより好ましい。また、ポリマー層の厚さは、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。ポリマー層の厚さを200nm以下とすることにより、細胞の伸展性を向上させることができ、その結果、培養面上に亘って均一に形成された細胞シートを効果的に得ることができる。
【0035】
ポリマー層は、基材の上に直接配置されることが好ましい。基材は、細胞培養容器の外壁の少なくとも一部を構成することが望ましい。
【0036】
基材表面にポリマー層を形成する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、浸漬法、スプレー法、スピンコート法等により基材表面にポリマー液を配置した後、溶媒を除去(乾燥)する方法が挙げられる。ポリマー液は、均一性の観点から、バーコーターを用いて塗布することが好ましい。
【0037】
基材の材料は、特に制限されるものではなく、例えば、ガラス又はプラスチックを用いることができる。プラスチックとしては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又はアクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂としては、汎用性の観点から、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましい。
【0038】
基材は細胞接着性を有することが好ましい。基材が細胞接着性を有する場合、ポリマー層への細胞の接着性を向上することができる。この場合、ポリマー層が薄いほど、ポリマー層への細胞の接着性に対する基材の細胞接着性の影響が大きくなることが分かっている。そのため、ポリマー層の厚さは、好ましくは200nm以下であり、好ましくは100nm以下であり、好ましくは70nm以下であり、好ましくは60nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、好ましくは40nm以下である。ポリマー層の厚さを200nm以下とすることにより、細胞の接着性を向上させることができるとともに細胞の伸展性も向上することができる。その結果、培養面上に亘って均一に形成された細胞シートを効果的に得ることができる。また、ポリマー層の厚さは、好ましくは1nm以上であり、好ましくは5nm以上であり、好ましくは10nm以上である。なお、基材の細胞接着性は、例えば、基材上に細胞シートを形成される対象細胞を播種し、対象細胞が基材に接着して増殖するか否かを調べることで判断することができる。
【0039】
基材は、細胞接着性の観点から、親水性処理面を有するプラスチックを含んで構成されることが好ましい。プラスチックとしては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又はアクリル樹脂などが挙げられる。親水性処理は、プラスチックの表面を親水性に改質できる処理であれば特に制限されるものではない。そのような表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、電子線照射処理、又はレーザー処理などが挙げられる。親水性処理面を有する基材は、市販されているものを用いてもよく、例えば、NuncTM細胞培養ディッシュ(商品名、Thermo Fisher Scientific社製)、Falconセルカルチャーディッシュ(Corning社製)、細胞培養用シャーレ(住友ベークライト社製)、又は組織培養用ディッシュ(旭硝子社製)として市販されている。また、親水性処理面を有する基材は、例えば、親水性処理が施されていない未処理のプラスチック製の基材に親水性処理を施すことにより用意することもできる。未処理の基材としては、例えば、NuncTMペトリディッシュ(商品名、Thermo Fisher Scientific社製)、Falconペトリディッシュ(Corning社製)、浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト社製)、又は無処理ディッシュ(旭硝子社製)を用いることができる。親水性処理により、プラスチック表面に存在する親水性官能基(例えばヒドロキシ基やカルボニル基)が増えるものと考えられる。本実施形態において、プラスチック製の基材の表面が親水性処理されることにより、細胞の接着性を向上させることができる。基材の表面が親水性処理されていることにより、培養液中に含まれるタンパク質などの細胞間マトリックスの材料となる栄養素が接着面に集まり易くなり、結果として、未処理の基材を用いる場合に比べて細胞の接着性が向上するものと考えられる。この形態において、ポリマー層の厚さは、好ましくは200nm以下であり、好ましくは100nm以下であり、好ましくは70nm以下であり、好ましくは60nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、好ましくは40nm以下である。ポリマー層の厚さを100nm以下とすることにより、細胞の接着性を向上させることができる。また、ポリマー層の厚さは、好ましくは1nm以上であり、好ましくは5nm以上であり、好ましくは10nm以上である。
【0040】
なお、基材の細胞接着性の度合いに関し、以下に記載される方法に従って測定される基材表面の細胞接着率が、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
【0041】
細胞接着率の測定方法:まず、対象細胞を、1.0×10cells/cm〜1.0×10cells/cm(例えば1.0×10cells/cm)の範囲の播種密度で培養面上に播種する。播種密度に関しては、培養面上で細胞がコンフルエントに到達した際に存在する密度よりも少ない播種密度に設定する。また、播種溶液中の細胞濃度は1.0×10cells/cm〜1.0×10cells/cmであることが好ましい。次に、対象細胞の培養における通常の条件(例えば、37℃、約5%のCO濃度、静置)下で培養する。培養時間は、例えば、1〜10時間であり、好ましくは2〜8時間であり、より好ましくは4〜6時間である(例えば3、4又は5時間)。培養後、培地を除去し、培養容器をバッファー(例えばPBSバッファー)で洗浄する。その後、培養面上の接着細胞数をカウントし、得られた細胞数を接着細胞数と定義する。そして、細胞接着率(%)を、式:[(接着細胞数/細胞播種数)×100]によって算出する。接着細胞数の計測方法としては、例えば、接着細胞をトリプシン処理して培養面から剥離させた後、培地で細胞懸濁液を調製し、血球計算盤で細胞数をカウントする方法が挙げられる。
【0042】
細胞接着率の測定において、細胞を培養する培地及び外部環境(例えば、温度、湿度、光周期又はCO濃度)等の培養条件は、使用される細胞の種類に基づき、当該技術分野で通常使用される培養条件を適宜選択することができる。細胞接着率及び倍加時間の測定において、実際に細胞集合体を形成するための培養条件と同様の条件を採用することが好ましい。
【0043】
細胞培養容器の形状は、特に制限されるものではない。細胞培養容器の形状は、ディッシュ型、プレート型又はフラスコ型などの当該技術分野で通常使用される形状であり得る。なお、容器の形状は、所望の細胞シートの形状を考慮して適宜選択することができる。
【0044】
細胞シートは、細胞間を接着する細胞外マトリクスを細胞が形成することによって形成される。細胞シートは、1層または複数層の細胞から形成される細胞集合体である。
【0045】
本実施形態で用いられる細胞培養容器の構成について、図1を参照して説明する。図1は、ディッシュ型の形態を有する本実施形態の細胞培養容器を示す概略断面図である。図1に示される細胞培養容器は、プラスチックなどの基材から構成されるディッシュ型の基材2を有し、該基材2の底面には、本実施形態における温度応答性高分子を含むポリマー層1が形成されている。容器の形状は、特に制限されるものではないが、例えば、シャーレ、フラスコ、ビーカー、ウェルプレートなどの形状であり得る。図1において、基材2は外壁の側壁及び底壁を構成している。容器の内部空間(培養部)には培養液が配置される。また、図1には図示していないが、細胞培養容器は、適切な大きさの蓋を有することができる。細胞培養容器は、該蓋で閉じられた際に、液密になることが好ましい。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0046】
本実施形態の細胞培養容器は、まず、本実施形態における温度応答性高分子を含む溶液を用意し、該溶液を基材上に配置し、該基材上の溶液を乾燥させることにより、作製することができる。上記温度応答性高分子を溶解させる溶媒は、特に制限されるものではなく、例えば、アルコール(例えばエタノール)が挙げられる。
【0047】
図2は、本実施形態の細胞シートの製造工程を説明するための概念図である。図2(A)は、図1の細胞培養容器を示す。図2(B)において、符号3は播種した対象細胞を指し、符号4は培養液を指す。図2(C)において、符号5は、培養して形成された細胞シートを指す。本実施形態において、以下のような工程により細胞シートを作製することができる。まず、上記温度応答性高分子を含む溶液を用意し、該溶液を基材上に配置し、該基材上の溶液を乾燥させることにより、細胞培養容器を作製する。次に、温度応答性高分子を含むポリマー層の上に、細胞を播種し、培養し、細胞シートを形成する。そして、形成された細胞シートは、上記温度応答性高分子を下限臨界溶解温度未満に冷却して培養面から剥がすことにより、回収することができる。
【0048】
本実施形態の細胞シートの製造方法において、所定の細胞充填率が9%以下となるように細胞を培養面上に播種することが好ましい。細胞充填率(%)は、式:[(細胞断面積×播種細胞数/培養面面積)×100]で表される。細胞断面積とは、液中に存在する接着していない細胞(浮遊している細胞)における最大断面積(細胞の断面のうち面積が最大となる断面の断面積)である。通常、細胞は液中で球状であるため、細胞断面積は、一般的に、細胞の中心を通る断面の面積である。細胞充填率の測定において使用する液は、好ましくは細胞シートの製造(培養工程)に用いる培養液である。細胞の直径は、液中の細胞を顕微鏡で観察することにより測定することができる。同一種類の各細胞は、液中においてほぼ同じ径を有するため、複数の細胞の径を測定する必要はないが、好ましくは10〜100個の細胞の平均径を用いて細胞断面積を算出する。細胞培養容器の底部表面の略全体にポリマー層が形成されていることが好ましい。
【0049】
本実施形態の細胞シートの製造方法において、細胞を培養面に播種した後、培養により細胞を増殖させ、コンフルエントに到達させることが好ましい。本明細書において、「コンフルエント」とは、細胞が培養面を覆った状態を言う。
【0050】
細胞の培養時間は、特に制限されるものではなく、細胞シートが形成されるまで培養することができる。細胞シートを形成するためには、播種された細胞が隣接する細胞間に細胞外マトリックスを形成することが必要となる。なお、培養が進むにつれ、細胞間同士の接着力強くなり、細胞シートが収縮する場合がある。
【0051】
対象細胞は、接着性細胞である。接着性細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞などの内皮細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞などの表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞などの上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞などの筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞などの神経細胞、軟骨細胞、又は骨細胞などが挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、或いは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれらの細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞などの多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞などの単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであってもよい。また、細胞は単一種を培養してもよいし、二種以上の細胞を共培養してもよい。
【0052】
培養液は、特に制限されるものではなく、例えば、当該技術分野で一般的に用いられる細胞培養用培地を用いることができる。培地としては、例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地及びRPMI1640培地などの基礎培地を用いることができる。基礎培地は、例えば、朝倉書店発行「日本組織培養学会編 組織培養の技術第三版」581頁に記載されている。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清など)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸などを加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)などの市販の無血清培地も用いることができる。最終的に得られる細胞シートの臨床応用を考えると、動物由来成分を含まない培地を使用することが好ましい。
【0053】
本実施形態の細胞シートの製造方法によれば、トリプシン処理などによるダメージを与えずに、容易に剥離することができるため、ダメージがない若しくはほんどない細胞シートを得ることができる。細胞シートを回収する水性媒体としては、回収の目的に応じて適宜選択される水性媒体を用いることができる。得られる細胞シートは、再生医療への利用に適したものである。また、従来技術の細胞シートの製造方法では、細胞シートはほぼインテグリンのみを介して基材に接着しているが、本実施形態の細胞シートの製造方法においては、本ポリマー上では細胞シートはインテグリンだけではなく、非インテグリンも介して接着している。したがって、本実施形態の細胞シートの製造方法によって得られる細胞シートの表面には、インテグリンに加えて、非インテグリンタンパク質も多く存在しており、これにより細胞シートの患部への接着が促され、結果的に細胞シートによる治癒効果が向上すると考えられる。
【実施例】
【0054】
「温度応答性高分子」
本実施例では、以下の温度応答性高分子を用いた。
ポリ2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレートとポリ(2−(2−メトキシエトキシ)エチルメタクリレート)を1:1の比率で共重合させ、ポリ2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート・ポリ(2−(2−メトキシエトキシ)エチルメタクリレート)共重合体を調製した(表2のポリマーAB)。数平均分子量は、26400であった。
【0055】
(実施例1)
基材として、易接着PET(三菱樹脂社製、ダイアホイルT100−E125、厚さ:125μm、寸法:内径18mmφ)を用いた。エタノールを溶媒に用いて上記温度応答性高分子の1重量%溶液を調製し、該高分子溶液をバーコーターを用いて基材上に塗布し、室温で乾燥させ、ポリマー層を形成した。次いで、ポリマー層を形成したフィルム上に内径18mmφのポリカーボネート製リングを接着して細胞培養容器を作製した。また、乾燥後のポリマー層の膜厚を測定したところ、16nmであった。なお、膜厚は以下の通りに算出した。まず、作製した細胞培養容器の断面試料をSEMで観察し、得られたSEM写真から3箇所を選択して膜厚を測定し、その膜厚の平均値を計算した。測定する3箇所は、それぞれの間の距離が少なくとも300nm以上離れるように選択した。
【0056】
2つの細胞培養容器のポリマー層のそれぞれに、ウシ血管内皮細胞(HH)とマウス繊維芽細胞(CCL-92)を、以下の表に示した播種密度になるようにそれぞれ播種した。次いで、細胞を1日以上培養し、細胞シートを形成した。
【0057】
【表3】
【0058】
その後、各細胞培養容器を4℃まで冷却したところ、各細胞シートがポリマー層の表面から離れ、浮遊した。
【0059】
(実施例2)
基材として、OPSフィルム(旭化成社製、厚さ:50μm)にコロナ放電処理を施したものを用いた。エタノールを溶媒に用いて上記温度応答性高分子の1重量%溶液を調製し、該高分子溶液をバーコーターを用いて基材上に塗布し、室温で乾燥させ、ポリマー層を形成した。2つの基材に対して該高分子溶液をそれぞれ異なる塗布量で塗布し、膜厚が異なるポリマー層を有する2つのフィルムを用意した。次いで、ポリマー層を形成したフィルム上に内径18mmφのポリカーボネート製リングを接着して細胞培養容器を作製した。乾燥後のポリマー層の膜厚は、それぞれ、19nm、32nmであった。膜厚は実施例1と同様にして算出した。
【0060】
2つの細胞培養容器のポリマー層のそれぞれにマウス繊維芽細胞(CCL-92)を、播種密度が2×10cells/cmになるように播種した。次いで、細胞を3日間37℃で培養し、細胞シートを形成した。細胞シートが形成されたことを確認した後、各細胞培養容器を4℃まで冷却したところ、各細胞シートがポリマー層の表面から離れ、浮遊した。
【0061】
(比較例1)
基材の上に上記ポリマー層を設けず、基材上に細胞を播種したこと以外は、実施例2と同様にして、細胞シートを形成した。細胞シートが形成された後、細胞培養容器を4℃まで冷却したが、細胞シートは基材表面から離れなかった。
【符号の説明】
【0062】
1 ポリマー層
2 基材
3 対象細胞
4 培養液
5 細胞シート
図1
図2