【解決手段】実装基板は、回路基板と接続器とを備える。回路基板は、マイクロ波集積回路素子が搭載される実装表面を有し、マイクロ波集積回路素子は第1および第2のアンテナ入出力端子を含む複数の端子を有する。接続器は、第1および第2のアンテナ入出力端子を導波路装置に接続する。接続器は、第1のアンテナ入出力端子に接続される第1の導電体部分と、第2のアンテナ入出力端子に接続される第2の導電体部分と、第1の導電体部分の端面と第2の導電体部分の端面とが対向する帯状間隙とを有している。帯状間隙は、第1の導電体部分の端面と第2の導電体部分の端面との間の距離が局所的に短くなる幅狭部を有する。接続器は、幅狭部の電磁界を導波路装置の導波路に結合する。
マイクロ波集積回路素子が搭載される実装表面を有する回路基板であって、前記マイクロ波集積回路素子は第1および第2のアンテナ入出力端子を含む複数の端子を有している、回路基板と、
前記第1および第2のアンテナ入出力端子を導波路装置に接続する接続器と、
を備え、
前記回路基板は、
前記複数の端子のうちの前記第1および第2のアンテナ入出力端子とは異なる端子に接続される配線を有しており、
前記接続器は、
前記第1のアンテナ入出力端子に接続される第1の導電体部分と、
前記第2のアンテナ入出力端子に接続される第2の導電体部分と、
前記第1の導電体部分の端面と前記第2の導電体部分の端面とが対向する帯状間隙と、
を有しており、
前記帯状間隙は、前記第1の導電体部分の前記端面と前記第2の導電体部分の前記端面との間の距離が局所的に短くなる幅狭部を有し、
前記接続器は、前記幅狭部の電磁界を前記導波路装置の導波路に結合する、実装基板。
前記接続器は、前記第1の導電体部分の前記端面から前記第2の導電体部分の前記端面に向かって突出する第1の凸部、および、前記第2の導電体部分の前記端面から前記第1の導電体部分の前記端面に向かって突出する第2の凸部の少なくとも一方を有しており、
前記帯状間隙の前記幅狭部は、前記第1の凸部と前記第2の導電体部分の前記端面との間隙、前記第2の凸部と前記第1の導電体部分の前記端面との間隙、および、前記第1の凸部と前記前記第2の凸部との間隙、の少なくとも1つとして規定される、請求項1または2に記載の実装基板。
前記第1の導電体部分および前記第2の導電体部分を含む一枚の金属プレートを有しており、前記帯状間隙は、前記金属プレートを貫通するスリットまたは貫通孔である、請求項1から7のいずれかに記載の実装基板。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<用語>
「マイクロ波」は、周波数が300MHzから300GHzまでの範囲にある電磁波を意味する。「マイクロ波」のうち、周波数が30GHzから300GHzまでの範囲にある電磁波を「ミリ波」と称する。真空中における「マイクロ波」の波長は、1mmから1mの範囲にあり、「ミリ波」の波長は、1mmから10mmの範囲にある。
【0017】
「マイクロ波IC(マイクロ波集積回路素子)」は、マイクロ波帯域の高周波信号を生成または処理する半導体集積回路のチップまたはパッケージである。「パッケージ」は、マイクロ波帯域の高周波信号を生成または処理する1個または複数個の半導体集積回路チップ(モノリシックICチップ)を含むパッケージである。単一の半導体基板の上に1個以上のマイクロ波ICが集積化された場合には、特に「モノリシックマイクロ波集積回路」(MMIC)と呼ばれる。本開示では、「マイクロ波IC」を「MMIC」と称する場合があるが、これは一例である。単一の半導体基板の上に1個以上のマイクロ波ICが集積化されることは必須ではない。また、ミリ波帯域の高周波信号を生成または処理する「マイクロ波IC」を「ミリ波IC」と称する場合がある。
【0018】
「IC実装基板」は、マイクロ波ICが搭載された状態の実装基板を意味し、構成要素として、「マイクロ波IC」と「実装基板」とを備えている。単なる「実装基板」は、実装用の基板を意味し、マイクロ波ICが搭載されていない状態にある。
【0019】
「導波路モジュール」は、「マイクロ波IC」が搭載されていない状態の「実装基板」と「導波路装置」とを備える。これに対して、「マイクロ波モジュール」は、「マイクロ波ICが搭載された状態の実装基板(IC実装基板)」と「導波路装置」とを備える。
【0020】
本開示の実施形態を説明する前に、以下の各実施形態で使用される導波路装置の基本構成と動作原理とを説明する。
【0021】
<導波路装置>
前述のリッジ導波路は、人工磁気導体として機能し得るワッフルアイアン構造中に設けられている。このような人工磁気導体を本開示に基づいて利用するリッジ導波路(以下、WRG:Waffle−iron Ridge waveGuideと称する場合がある。)は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。また、このようなリッジ導波路を利用することにより、アンテナ素子(放射素子)を高密度に配置することが可能である。以下、そのような導波路構造の基本的な構成および動作の例を説明する。
【0022】
人工磁気導体は、自然界には存在しない完全磁気導体(PMC: Perfect Magnetic Conductor)の性質を人工的に実現した構造体である。完全磁気導体は、「表面における磁界の接線成分がゼロになる」という性質を有している。これは、完全導体(PEC: Perfect Electric Conductor)の性質、すなわち、「表面における電界の接線成分がゼロになる」という性質とは反対の性質である。完全磁気導体は、自然界には存在しないが、人工的な周期構造によって実現され得る。人工磁気導体は、その周期構造によって定まる特定の周波数帯域において、完全磁気導体として機能する。人工磁気導体は、特定の周波数帯域(伝搬阻止帯域)に含まれる周波数を有する電磁波が人工磁気導体の表面に沿って伝搬することを抑制または阻止する。このため、人工磁気導体の表面は、高インピーダンス面と呼ばれることがある。
【0023】
従来知られている導波路装置、たとえば(1)国際公開第2010/050122号、(2)米国特許第8803638号、(3)欧州特許出願公開第1331688号、(4)Kirino et al., "A 76 GHz Multi-Layered Phased Array Antenna Using a Non-Metal Contact Metamaterial Waveguide", IEEE Transaction on Antennas and Propagation, Vol. 60, No. 2, February 2012, pp 840-853、(5)Kildal et al., "Local Metamaterial-Based Waveguides in Gaps Between Parallel Metal Plates", IEEE Antennas and Wireless Propagation Letters, Vol. 8, 2009, pp84-87 に開示されている導波路装置では、行および列方向に配列された複数の導電性ロッドによって人工磁気導体が実現されている。このようなロッドは、ポストまたはピンと呼ばれることもある突出部である。これらの導波路装置のそれぞれは、全体として、対向する一対の導電プレートを備えている。一方の導電プレートは、他方の導電プレートの側に突出するリッジと、リッジの両側に位置する人工磁気導体とを有している。リッジの上面(導電性を有する面)は、ギャップを介して、他方の導電プレートの導電性表面に対向している。人工磁気導体の伝搬阻止帯域に含まれる波長を有する電磁波(信号波)は、この導電性表面とリッジの上面との間の空間(ギャップ)をリッジに沿って伝搬する。
【0024】
図1は、このような導波路装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。
図1では、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。図示されている導波路装置100は、対向して平行に配置されたプレート状の第1の導電部材110および第2の導電部材120を備えている。第2の導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
【0025】
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0026】
図2Aは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。
図2Aに示されるように、導電部材110は、導電部材120に対向する側に導電性表面110aを有している。導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは平面である必要は無い。
【0027】
図3は、わかりやすさのため、導電部材110と導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波路装置100では、
図1および
図2Aに示したように、導電部材110と導電部材120との間隔は狭く、導電部材110は、導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
【0028】
再び
図2Aを参照する。導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも表面(上面および側面)が導電性を有していればよい。また、導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面を電気的に短絡していればよい。言い換えると、導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電性表面を有していればよい。
【0029】
導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。
図3からわかるように、この例における導波部材122は、導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なる値を有していてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110aに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要は無く、導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
【0030】
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波路装置100内を伝搬する電磁波(以下、「信号波」と称することがある。)の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の径、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の間隙の大きさによって調整され得る。
【0031】
次に、
図4を参照しながら、各部材の寸法、形状、配置等の例を説明する。
【0032】
図4は、
図2Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。本明細書において、導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(たとえば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλoとする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。
図4に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置等の例は、以下のとおりである。
【0033】
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
【0034】
(2)導電性ロッドの基部から導電部材110の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
【0035】
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電部材110と導電部材120との間隔に相当する。たとえば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの電磁波が伝搬する場合、信号波の波長は3.8934mmから3.9446mmの範囲さを持つ。したがって、この場合λmは前者となるので、導電部材110と導電部材120との間隔λm/2は、3.8934mmよりも小さく設定される。導電部材110と導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、導電部材110と導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、導電部材110と導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、導電部材110および/または導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していても良い。他方、導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
【0036】
図2Aで示される例において、導電性表面120aは平面であるが、本開示の実施形態はこれに限られない。たとえば、
図2Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であっても良い。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状をもつ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。このような構造であっても、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、
図2Bに示す装置は、本開示の実施形態における導波路装置として機能し得る。
【0037】
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110aまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間を往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。
【0038】
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、たとえばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の帯状間隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、たとえばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
【0039】
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していても良い。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要は無く、単純な規則性を示さずに分散して配置されていても良い。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、導電部材120上の位置に応じて変化していて良い。
【0040】
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要は無く、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
【0041】
さらに、導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、たとえば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
【0042】
導電性ロッド124の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、たとえば、λo/4に設定され得る。
【0043】
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(たとえばλm/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
【0044】
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの距離がλm/2以上となるからである。
【0045】
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110aとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110aとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、たとえばλm/16以上とすることが好ましい。
【0046】
導電性表面110aと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110aとロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)を用いてたとえばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
【0047】
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって接続する必要もない。
【0048】
図5Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。
図5Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110aおよび導波面122aに対して垂直である。
【0049】
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙を伝搬する。
図5Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、
図5Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
【0050】
図5Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
【0051】
図5Bは、参考のため、中空導波管130の断面を模式的に示している。
図5Bには、中空導波管130の内部空間132に形成される電磁界モード(TE
10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管130の内部空間132の幅は、波長の半分に設定されている。中空導波管130の内部空間132の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
【0052】
図5Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
【0053】
図5Dは、参考のため、2つの中空導波管130を並べて配置した導波路装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管130は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管130を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間132の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管130の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
【0054】
これに対して、人工磁気導体を備える導波路装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアレーアンテナへの給電に好適に用いられ得る。
【0055】
上述の構造を有する導波路装置と、MMICを搭載した実装基板とを接続して、高周波信号のやりとりを行うためには、MMICの端子と導波路装置の導波路とを効率的に結合することが求められる。
【0056】
前述したように、ミリ波帯域のような、30GHzを超える周波数領域では、マイクロストリップ線路を伝搬するときの誘電体損失が大きくなる。それにもかかわらず、従来は、実装基板上に設けたマイクロストリップ線路にMMICの端子を接続することが行われてきた。このことは、導波路装置の導波路そのものがマイクロストリップ線路ではなく、導波管によって実現されている場合であっても同様であった。すなわち、MMICの端子と導波管との間にマイクロストリップ線路が介在する接続が行われてきた。
【0057】
図6Aは、ミリ波MMIC(ミリ波IC)の裏面における端子の配置(ピン配置)の例を示す平面図である。図示されているミリ波IC2の裏面には、多数の端子20が行および列状に配列されている。これらの端子20は、第1のアンテナ入出力端子20aおよび第2のアンテナ入出力端子20bを含む。図示されている例では、第1のアンテナ入出力端子20aが信号端子として機能し、第2のアンテナ入出力端子20bがグランド端子として機能する。複数の端子20のうち、アンテナ入出力端子20a、20b以外の端子は、たとえば電源端子、制御信号端子、および信号入出力端子である。
【0058】
図6Bは、
図6Aに示されるアンテナ入出力端子20a、20bをミリ波IC2のフットプリントよりも外側の領域に引き出すための配線パターン40の例を模式的に示す平面図である。このような配線パターン40は、不図示の誘電体基板上に形成されており、マイクロストリップ線路を介して導波路装置の導波管に接続される。
図6Bに示される例では、4チャネルのミリ波信号がミリ波IC2のアンテナ入出力端子20a、20bから入出力され得る。なお、この例では、ミリ波IC2の端子20が誘電体基板上の配線パターン40に直接に接続されているが、ボンディングワイヤを介して端子20と配線パターン40との接続も行われ得る。ミリ波などの周波数の高い高周波信号が配線パターン40およびマイクロストリップ線路を伝搬するとき、誘電体基板による大きな損失が発生する。たとえば約76GHz帯のミリ波がマイクロストリップ線路を伝搬するとき、誘電体損失によって線路長1mmあたりで約0.4dBの減衰が発生し得る。
【0059】
このように従来技術では、MMICと導波路装置との間にはマイクロストリップ線路などの配線が介在するため、ミリ波帯域で大きな誘電体損失が発生していた。
【0060】
以下に説明する新規な接続構造を採用すると、上述の損失の低減を大きく抑制することができる。
【0061】
以下、本開示の実施形態による実装基板、および当該実装基板を備える各種のモジュール、レーダ装置、およびレーダシステムの構成例を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。たとえば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明においては、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0062】
<実施形態>
図7Aは、本開示におけるマイクロ波モジュール1000の概略的な全体構成の例を示す平面模式図である。図示されているマイクロ波モジュール1000は、ミリ波MMIC(ミリ波IC)2が搭載された実装基板1と、ミリ波IC2に接続された接続器6とを備えている。この接続器6は、マイクロストリップ線路を介することなく、ミリ波IC2を上述の導波路装置に接続する機能および構造を有している。
図7Aには示されていない導波路装置の導波路は、接続器6に結合する。接続器6の詳細は後述する。
【0063】
図7Bは、マイクロ波モジュール1000の他の態様を示す平面模式図である。このマイクロ波モジュール1000は、フレキシブルプリント配線基板(FPC)の一部である回路基板4を備えており、回路基板4からは柔軟性を持つ配線部4bが延びている。この例における接続器6は、回路基板4とは別の部品であり、誘電体ベース45に支持されている。
図7Aおよび
図7Bは、あくまでも本開示における実施形態の例を示しており、この例に限定されない。
【0064】
図8Aは、本開示の限定的ではない例示的な実施形態における実装基板1の一部を模式的に示す上面図である。
図8Bおよび
図8Cは、それぞれ、ミリ波IC2が搭載された状態にある実装基板1の一部を模式的に示す断面図である。
図8Bは、
図8AのB−B線における断面を示し、
図8Cは、
図8AのC−C線における断面を示している。
図9は、実装基板1の一部、ミリ波IC2、および導波路装置100の一部を模式的に示す斜視図である。
図9では、わかりやすさのため、実装基板1、ミリ波IC2、および導波路装置100が互いにZ方向に離れた状態で記載されている。
【0065】
実装基板1は、ミリ波IC2が搭載される実装表面4aを有する回路基板4を含む。ミリ波IC2は、たとえば、約76GHz帯の高周波信号を生成、処理するマイクロ波集積回路素子である。この例における実装表面4aは、XY面に平行である。ミリ波IC2は、
図8Bに示されるように、第1のアンテナ入出力端子20aおよび第2のアンテナ入出力端子20bを含む複数の端子20を有している。本実施形態において、第1のアンテナ入出力端子20aおよび第2のアンテナ入出力端子20bの一方は信号端子として機能し、他方はグランド端子として機能する。複数の端子20は、他に、電源端子および信号入出力端子などの種々の端子を含み得る。
【0066】
回路基板4は、ミリ波IC2が有する複数の端子20のうちの第1および第2のアンテナ入出力端子20a、20bとは異なる端子20cに接続される配線パターン40を有している。配線パターン40の典型例は、高周波信号以外の信号線や電源線等である。なお実施態様によっては、マイクロストリップ線路またはコプレーナ線路である場合もある。図には、簡単のため、回路基板4の全体ではなく一部が示されている。回路基板4のうちで図示されていない領域に拡がる部分には、他の電子部品が搭載され得る。1つの回路基板4に複数のミリ波IC2が実装されてもよい。他の電子部品としては、フィルタなどの高周波回路素子に限られず、たとえば演算回路または信号処理回路を実現した他の集積回路チップまたはパッケージが実装されてもよい。配線パターン40の一部は、回路基板4の図示されていない部分に延び、回路基板4に搭載される不図示の他の電子部品に接続され得る。
【0067】
図8Aでは、ミリ波IC2の端子20a、20b、20cが記載されており、上面図におけるミリ波IC2の輪郭が破線で模式的に示されている。
図8Aでは、説明の都合上、7個の端子20のみが記載されているが、
図6Aおよび
図6Bを参照しながら説明したように、ミリ波IC2の典型例は、8個以上の多数の端子20を備えている。端子20の形状および位置は、図示されている例に限定されない。端子20の具体的な構造は、特に限定されず、ハンダボール、電極パッド、またはメタルリードの形態をとり得る。端子20は、配線パターン40、および後述する接続器6に直接に接続していても良いし、他の導電部材(不図示)を介して間接的に接続されていても良い。端子20と配線パターン40との間には、たとえば、導電性接着剤、ボンディングワイヤ、ハンダなどの不図示の導電体が介在し得る。
【0068】
本実施形態で使用される回路基板4は、高周波回路技術を用いて製造される高周波プリント基板のような公知の高周波基板の任意の構成を採用し得る。回路基板4は、内部配線およびビアなど多層配線構造を有していても良いし、内部抵抗、内部インダクタ、内部グランド層などの内蔵された(embedded)回路要素を有していても良い。回路基板4の裏面が、そのまま導波路装置100における第1の導電部材110の導電性表面110a(
図2A参照)として機能するように、回路基板4の裏面に金属層を設けてもよい。あるいは、回路基板4の裏面側に、導波路装置100における第1の導電部材110を回路基板4から離して配置してもよい。
【0069】
実装基板1は、ミリ波IC2における第1および第2のアンテナ入出力端子20a、20bを導波路装置100に接続する接続器6を備えている。図示されている接続器6は2個であるが、接続器6の個数は、2個に限定されず、単数であっても良いし、3個以上であってもよい。個々の接続器6は、第1のアンテナ入出力端子20aに接続される第1の導電体部分60aと、第2のアンテナ入出力端子20bに接続される第2の導電体部分60bとを有している。図示されている例において、第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bは、Y軸方向に並走して延びており、Y軸方向の両方の端部で2つの導電体部分60aおよび60bは接続、つまり短絡している。後述のように、導電体部分60aおよび60bの間には帯状間隙66が規定される。導電体部分60aおよび60bがY軸方向の両方の端部で短絡しているため、帯状間隙66はXY平面上では閉じた領域として形成されている。導電体部分60a、60bは、たとえば金、銅、アルミニウムなどの金属材料から形成され得る。導電体部分60a、60bは、多層構造を有していても良い。たとえば本体が銅から形成され、かつ、本体の表面が金層によって被覆されていても良い。
【0070】
上述したように、本実施形態における第1のアンテナ入出力端子20aおよび第2のアンテナ入出力端子20bの一方は信号端子として機能し、他方はグランド端子として機能する。このため、接続器6の第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bは、XY面に沿って延びる平行2線導波路(終端短絡型)を構成する。不平衡型の場合、信号端子およびグランド端子は、それぞれ、SIG端子およびGND端子と表記される。SIG端子およびGND端子には、それぞれ、振幅が同じで極性の反転した信号が入出力される。一方、ミリ波IC2が一対の信号端子S((S(+)/S(−))を有している平衡型の場合、一対のSIG(+)端子およびSIG(−)端子には、それぞれ、振幅が同じで極性の反転した信号が能動的に入出力される。この場合、GND端子には、SIG(+)端子の電位とSIG(−)端子の電位の中間電位が与えられる。
【0071】
一例として図示されている実施形態において、
図8Aの左側に位置する接続器6は、X軸の負方向に延びる左側の導波部材122が作る導波路に結合する。
図8Aの右側に位置する接続器6は、X軸の正方向に延びる右側の導波部材122が作る導波路に結合する。導波部材122は、
図8Aに示されるように、少なくとも接続器6と結合する箇所で接続器6と交差するように配置されている。
【0072】
なお、
図8Aでは、簡単のため、導波部材122の両側に配列されているロッド124の記載は省略されている。
【0073】
本実施形態では、第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bは誘電体のベース45によって支持されている。この例におけるベース45は、回路基板4のベースとしても機能している。ベース45は、たとえばポリテトラフルオロエチレン(フッ素樹脂)などの樹脂材料から形成され得る。ベース45にはスリット(貫通孔)が設けられており、第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bは、それぞれ、このスリットの内壁面を覆っている。第1の導電体部分60aと第2の導電体部分60bとの間には帯状間隙66が存在する。この帯状間隙66は、
図8Aに示されるように、ミリ波IC2が配置される領域(破線で囲まれた矩形領域)から、実装表面4aに平行な方向(図の例ではY軸方向)に延びている。
【0074】
図8Bおよび
図8Cに示されるように、帯状間隙66において、第1の導電体部分60aの端面64aと第2の導電体部分60bの端面64bとが対向している。帯状間隙66の内部には空気が存在している。空気の比誘電率は約1.0であり、真空に近い誘電率を有している。帯状間隙66は、第1の導電体部分60aの端面64aと第2の導電体部分60bの端面64bとの間の距離が局所的に短くなる幅狭部66Nを有している。幅狭部66Nを含む帯状間隙66を有する接続器6は、たとえば金属薄板のエッチング加工、または打ち抜き加工によって形成され得る。そのような形成方法によると、接続器6は、第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bを含む一枚の金属プレートとして得られる。帯状間隙66は、金属プレートを貫通するスリットまたは貫通孔である。
【0075】
幅狭部66Nは、
図8Aおよび
図8Cに示されるように、導波部材122の導波面122aに近接して対向している。ベース45の裏面の一部または全部は、第1の導電部材110として機能する金属層で覆われている。図示されている例において、この金属層(第1の導電部材110)は、第1の導電体部分60aの端面64aおよび第2の導電体部分60bの端面64bと連続したパターンを有しているが、これらのパターンが連続している必要はない。
【0076】
図8Cに示される例において、各導波部材122の一端には、複数の導電性ロッド124が並び、チョーク構造150が形成されている。チョーク構造150は、先端が開放された導波部材(リッジ)122の端部と、そのリッジ122の端部の延長方向に並ぶ、高さが約λo/4(λo/2未満)の複数の導電性ロッドを含む。このチョーク構造150に含まれるリッジの長さは、リッジ導波路における電磁波の波長λgとするとき、典型的にはλg/4である。但しこの長さは、このリッジを含む周辺導波路のインピーダンス状態により適宜変更され得る。チョーク構造150に含まれるリッジの長さは、例えばλg/8等の値をとることができる。このチョーク構造150により、導波部材122の一端から電磁波が漏洩することを抑制でき、効率よく電磁波を伝送することができる。
【0077】
第1の導電体部分60aの端面64a、および第2の導電体部分60bの端面64bのZ軸方向におけるサイズには特に制限はない。
【0078】
本開示においては、ミリ波IC2が生成するマイクロ波信号の周波数帯域のうちで最も高い周波数を持つ電磁波の自由空間中における波長をλmとし、この周波数帯域の中心周波数を持つ電磁波の自由空間中における波長をλ0とする。ミリ波IC2のアンテナ入出力端子20a、20bから接続器6に高周波信号が入力されると、入力位置において、接続器6の第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bが励振される。そのため、第1の導電体部分60aの端面64aと第2の導電体部分60bの端面64bとの間に高周波電界が誘起される。そしてこの電界に直交する高周波磁界が誘起されることで、端面64aと端面64bとにより構成される平行2線導波路の間にある空間(帯状間隙66)に高周波の電磁界が形成され、この平行2線導波路に沿って高周波信号が伝搬する。この高周波電磁波は自由空間における波長(λ0,λm)を有している。図示される向きに配置されている接続器6の場合、帯状間隙66における電磁界の電界成分の方向は、主として、X軸方向に平行である。電界の強度は、帯状間隙66の幅(この例では、X軸方向のサイズ)に反比例する。このため、幅狭部66Nにおける電界強度は、帯状間隙66における他の領域の電界強度よりも局所的に高くなる。このため、幅狭部66Nに生じる高周波の電磁界が導波路装置100の導波路に強く結合される。
【0079】
逆に、高周波信号波が導波路装置100の導波路を伝搬してきたときは、接続器6の幅狭部66Nにおいて、導波路装置100の導波路における高周波電磁界が第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bを励振する。すると、第1の導電体部分60aの端面64aと第2の導電体部分60bの端面64bとの間にある空間(帯状間隙66)に高周波電磁界が形成され、平行2線導波路に沿って高周波信号が伝搬する。こうして、ミリ波IC2のアンテナ入出力端子20a、20bに高周波信号が入力されることになる。
【0080】
このように、本実施形態における接続器6の第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60b、より正確には、第1の導電体部分60aの端面64aと第2の導電体部分60bの端面64bが平行2線導波路を規定する。このような平行2線導波路に挟まれた空間は、上述したように、空気で満たされ、真空に近い比誘電率を持つため、誘電損失を小さく抑えることができる。
【0081】
図10Aおよび
図10Bを参照して、接続器6の詳細を説明する。
図10Aおよび
図10Bは、接続器6の第1および第2の導電体部分60a、60bの形状およびサイズの例を説明するための平面図である。
図10Aおよび
図10Bは、同じ形状の接続器6を記載している。同じ接続器6を2枚の図面に分けて記載した理由は、図面中の引出し線の錯綜を避け、見やすくするためである。
【0082】
本実施形態において、帯状間隙66の幅狭部66Nは、
図10Bに示すように、第1の導電体部分60aの端面64aから第2の導電体部分60bの端面64bに向かって突出する第1の凸部68aと、第2の導電体部分60bの端面64bから第1の導電体部分60aの端面64aに向かって突出する第2の凸部とを有している。帯状間隙66は、幅狭部66Nを規定する第1の凸部68aおよび第2の凸部68bによって第1幅広部66aと第2幅広部66bとに分かれている。信号波の導波路における波長をλgとするとき、第1の凸部68aおよび第2の凸部68bのサイズL10(Y軸方向の長さ)は、たとえばλ0/4〜λ0/8の範囲に設定され得るが、これより小さくてもよい。また、幅狭部66Nにおける第1の導電体部分60aの端面64aから第2の導電体部分60bの端面64bまでの距離W0は、たとえばλ0/4〜λ0/8の範囲に設定され得るが、これより小さくてもよい。車載用途で用いられる約76GHzのミリ波においては、その波長が約4mmであり、その1/8では約0.5mmとなる。
【0083】
本開示においては、X軸方向に関する第1幅広部66aの幅W1および第2幅広部66bの幅W2は、それぞれ、λm/2未満である。また、Y軸方向に関する第1幅広部66aの長さL11および第2幅広部66bの長さL12は、それぞれ、λm/2未満である。L11およびL12が、それぞれ、λ0/4のとき、自由空間波長λ0の電磁波について基本モードの共振が生じ、幅狭部66Nにおける電磁界の結合効率が最も高くなる。L11=L12=λ0/4のとき、幅狭部66Nの位置で信号電圧の振幅が最大になる。伝搬する高周波信号の中心周波数がたとえば約76GHzのとき、λ0/4は約1mmである。
【0084】
図10Aにおいて、帯状間隙66のうち、第1の導電体部分60aの終端Ea(第2の導電体部分60bの終端Eb)から第1幅広部66aまでの長さLTには特に制約が無い。長さLTは任意の値を有し得る。
図10Bには、帯状間隙66のうち、終端Ea(Eb)から第1幅広部66aまでの部分が参照符号「66c」によって示されている。この部分間隙66cは、直線的に延びている必要は無く、たとえばXY平面内において屈曲していても良い。更に部分間隙66cは、ベース45の表面または実装表面4aに沿って平行に配置されるが、これに限定されない。具体的な詳細構造は図示しないが、
図9において、例えば+Z方向あるいは−Z方向に屈曲しても良い。
【0085】
ミリ波IC2における第1のアンテナ入出力端子20aの接続中心点Caから第1の導電体部分60aの終端Eaまでの距離L3aはλ0/2未満であり、第2のアンテナ入出力端子20bの接続中心点Cbから第2の導電体部分60bの終端Ebまでの距離L3bも、λ0/2未満である。距離L3aおよびL3bがそれぞれλ0/4のとき、高周波信号は部分間隙66cの+Y側端部で全反射する。これにより、接続部6は、最も高い効率でミリ波IC2の端子20a、20bに結合される。
【0086】
マイクロ波集積回路素子におけるアンテナ入出力端子20a、20bと接続器6における導電体部分60a、60bとの接続がボンディングワイヤによって行われる場合、接続中心点Ca、Cbは、導電体部分60a、60b上において、ボンディングワイヤが導電体部分60a、60bに接続している部分の中心である。
【0087】
上記の実施形態における帯状間隙66は、幅狭部66Nにおいて、第1の凸部68aおよび第2の凸部68bの両方を有している(ダブルリッジ構造)が、本開示の実施形態は、この例に限定されない。
図10Cに例示する通り、第1の凸部68aおよび第2の凸部68bのいずれか一方の存在により、幅狭部66Nを実現できる(シングルリッジ構造)。また、幅狭部66Nは、直線的に突出したリッジ構造ではない曲線的な形状によっても実現され得る。
【0088】
図11は、接続器6の帯状間隙66が有する幅狭部66Nにおける電気力線(電界)によって導波路装置100の導波路に生じた電気力線を模式的に示す断面図である。導波部材122の延びる方向は、少なくとも幅狭部66Nに対向する位置において、幅狭部66Nに生じる電気力線の向きに平行に設定されている。幅狭部66Nに生じる電気力線(電界)の方向に対して、導波部材122の延びる方向が小さな角度で交差していても良い。ただし、この交差角度は小さい方が好ましい。交差角度の大きさに応じて伝送ロスが生じるためである。この伝送ロスを見込んで、接続器6と導波路装置100とを結合させてもよい。たとえば交差角度が30度以下であれば、当該伝送ロスは許容され得る場合がある。
【0089】
図10Bに示す例を用いて言い換える。導波路122は、幅狭部66Nの直下(Z方向)の位置において幅狭部66Nと対向する。導波路122が延びる方向(X方向)と、帯状間隙66が延びる方向(Y方向)とは、当該対向する位置において交差していればよい。「交差」は非平行であることを意味する。
図10Bの例のような、直交する場合には限られない。たとえば交差角度は60以上90度未満であってもよい。
【0090】
図11では、不図示のマイクロ波集積回路素子を覆うように配置された人工磁気導体カバー80が記載されている。この人工磁気導体カバー80は、接続器6におけるスリット状の帯状間隙66を伝搬する高周波信号がZ軸の正方向へ漏えいすることを防止する。また、後述するように、この人工磁気導体カバー80がミリ波IC2を覆っていれば、ミリ波IC2からの電磁波漏洩を抑制することもできる。
【0091】
図12Aは、ミリ波IC2の裏面における端子20a、20b、20cの配置の一部を模式的に示す平面図である。この例において、第1のアンテナ入出力端子20a、第2のアンテナ入出力端子20b、および他の端子20cは、中心間距離Pで行および列状に配列されている。この例では、矩形領域の3辺に複数の第2のアンテナ入出力端子20bが配置され、これらはミリ波IC2のグランド端子を構成し、その矩形領域の中央部に1個または2個の第1のアンテナ入出力端子20aが位置している。
【0092】
図12Bは、
図12Aのミリ波IC2に対する接続器6の配置の例を模式的に示す平面図である。この例において、各接続器6の第1の導電体部分60aには1つの端子20aが接続され、第2の導電体部分60bには1つの端子20bが接続される。
図12Bにおける複数の端子20のうち、接続器6に接続している端子20は、黒い円で示されている。なお、
図12Bでは、各接続器6に結合する導波路の導波部材122が模式的に示されている。なおミリ波IC2の端子20aは、高周波信号が能動的に作用している端子である。一方端子20bはこのICのグランドラインに接続されており、複数の端子20bはグランドとして相互に繋がっている。従って
図12Bの接続器6の第2の導電体部分60b側に、図においてハッチングで示されている端子20b、すなわち、接続器6に接続している黒い円の端子20b以外の端子20b、が存在する場合、これらハッチングされた端子20bは、接続器6の第2の導電体部分60b側に接続していても良いし、接続していなくとも良い。しかし接続器6の第1の導電体部分60a側に、ハッチングされた端子20bがある場合、電気的な接触が生じないように両者は絶縁される。他方、端子20cはこれら以外の信号端子であり、接続器6との電気的な接触が生じないように両者は絶縁される。なお、各導波部材122の両側には、人工磁気導体を構成する複数のロッドが配列されているが、簡単のため、図示は省略されている。
【0093】
<接続器の変形例>
以下、
図13A〜
図18Bを参照しながら、接続器6の変形例を説明する。
【0094】
図13Aの例において、誘電体のベース45に支持された一枚の金属層60が第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bを含んでいる。金属層60の厚さは、たとえば5〜100μmの範囲に設定され、ベース45の厚さは、たとえば0.1〜1mmの範囲に設定される。金属層60が十分な剛性を持つ場合、ベース45の一部または全部は省略されてもよい。ベース45は、回路基板4のベースの一部であってもよい。言い換えると、回路基板4の一部に金属層60が形成され、それによって接続器6が実現されていても良い。
【0095】
このように、第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bがベース45上に位置する金属層60から形成されている場合、誘電損失を低減するという観点から、ベース45は、帯状間隙66と連通する貫通孔45aを有していることが好ましい。また、実装表面4aの法線方向から視たとき、帯状間隙66の幅狭部66Nはベース45の貫通孔45aの内部に位置していることが好ましい。
【0096】
図13Aの例では、金属層60は、ベース45の上面に存在し、貫通孔45aの側面(内壁面)には存在しない。このような場合、導波部材122の導波面122aから第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bまでの距離は、ベース45の厚さよりも大きい。導波部材122の導波面122aから第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bまでの距離を短くするためには、ベース45を薄くすることが好ましい。
【0097】
なお、ベース45の貫通孔45aの側面の少なくとも一部を金属層60で覆い、それによって導波部材122の導波面122aから第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bまでの距離を短縮してもよい。
【0098】
図13Bは、貫通孔45aの側面に第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bを設けた構成例を示している。この例では、貫通孔45aの側面全体が金属層によって覆われているが、側面の一部のみが金属層によって覆われていても良い。
図13Bには示されていないが、マイクロ波IC2の端子20に接続される位置では、第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bはベース45の上面に拡がっていることが好ましい。
図13Aおよび
図13Bに示される金属層60は、たとえばメッキ法によって形成され得る。
【0099】
図14は、他の変形例を示す。
図14の例では、第1の導電体部分60aおよび第2の導電体部分60bを含む金属層60が自立的な剛性を持つ金属薄板(金属プレート)から構成されている。この金属層60の厚さは、たとえば0.1〜2.0mmの範囲に設定され得る。図示されている例において、金属層60を構成する金属薄板は、回路基板4と少なくとも部分的に重なるように積層されている。
図14の例における金属層60は、導波路装置100における導電部材110としての機能を果たすことができる。この例における金属層60の裏面は、導電部材110の導電性表面110aでもある。帯状間隙66の形成は、金属薄板のエッチング加工、打ち抜き加工などによって行われ得る。金属層60の厚さは一様である必要は無く、強度を高めるためのリッジまたは枠構造が金属層60の外周部に設けられていても良い。
【0100】
図15は、さらに他の変形例を示す。
図15の例では、剛性を有する金属薄板から構成される金属層60が、回路基板4とは重なり合うことなく、回路基板4と同一面内に配置されている。回路基板4の裏面には、導電部材110として機能する他の金属層が形成されている。
【0101】
図16Aは、さらに他の変形例を示す。
図16Bは、わかりやすさのため、この変形例における実装基板1の部品である回路基板4と、接続器6を実現する金属層60とをZ方向に離した状態で記載した図である。図示されるように、この変形例では、回路基板4に複数のスルーホール45xが設けられており、金属薄板から形成された金属層60が回路基板4の裏面側に配置されている。回路基板4のスルーホール45xにより、マイクロ波IC2の端子20を金属層60の所定位置に接続することができる。スルーホール45xは、導電体が埋め込まれたビアであってもよい。この金属層60は、導電部材110としても機能する。
【0102】
図17Aおよび
図17Bは、さらに他の変形例を示す。この例では、金属薄板を加工して製造された接続器6が誘電体のベース45に取り付けられている。このベース45は、回路基板4のベースを兼ねている。
図17Bに示されるように、誘電体のベース45には貫通孔(開口)45aが設けられている。金属製の接続器6は、この貫通孔45aに重なるようにベース45に固定される。接続器6の全体が金属から形成されている必要はない。接続器6は、図示されているような形状を有する基部と、そのような基部の表面を被覆する金属層とから構成されていても良い。
【0103】
図18Aおよび
図18Bは、さらに他の変形例を示す。
図18Aの例でも、金属薄板を加工して製造された接続器6が誘電体のベース45に取り付けられている。
図18Bに示されるように、誘電体のベース45には、対向する2個の凸部を有する貫通孔(開口)45aが設けられている。金属製の接続器6は、この貫通孔45aに重なるようにベース45に固定される。この例の接続器6も、図示される形状を有する基部と、そのような基部の上面または全面を被覆する金属層とから構成されていても良い。
【0104】
図19Aは、導波路装置100における導波部材122およびロッド124の配置例を示す平面図であり、
図19Bは、
図19Aの導波部材122が規定する導波路に接続される接続器6の配置例を示す平面図である。
図19Aの導波路装置100の上に、
図19Bの接続器6を備える実装基板1が配置される。この配置関係は、2つの導波部材122の端部において、接続器6における帯状間隙66の幅狭部66Nが対向するように決定される。
【0105】
図20および
図21は、それぞれ、接続器6の他の配置例を示す平面図である。
図20の例では、導波部材122が屈曲している。一方、
図21の例では、第1の導電体部分60aと第2の導電体部分60bとの間の帯状間隙66が屈曲するスリット形状を有している。帯状間隙66は一方向に延びても良いし、屈曲していてもよい。導波部材122の形状および位置に合わせて帯状間隙66の形状は多様であり得る。
【0106】
図22は、ミリ波IC2の+Z方向側にも、ワッフルアイアン構造を有する人工磁気導体カバー80を設けたマイクロ波モジュール1000の断面構成例を示す。人工磁気導体カバー80における導電部材120’から−Z方向に、複数の導電性ロッド124’が延びている。導電部材120’および複数の導電性ロッド124’の形状およびサイズなどの構成要件は、
図4を参照しながら説明した構成要件と同じである。ミリ波IC2の上下(Z方向)に、導電性ロッド124を有する導電部材120と、導電性ロッド124’を有する導電部材120’とを配置することにより、電磁波の漏れを大きく低減できる。
【0107】
図22の例では、実装基板1が備える回路基板4の内部にグランド電位の内部導電部材(グランド層)110cが設けられている。このグランド層100cが人工磁気導体カバー80に必要な導電性表面として機能する。このため、導電性ロッド124’の先端部から内部導電部材110cまでの距離L2’、および、導電性ロッド124’の基部から内部導電部材110cまでの距離L4を所定の範囲内に設定する必要がある。
【0108】
なお、この例では、ミリ波IC2が人工磁気導体カバー80に完全に覆われているが、本開示はこの例に限定されない。電磁波の遮蔽効果を得ようとする位置または領域においては、実装基板1における回路基板4の実装表面4aに導電体のパターンを設けてもよい。この導電体のパターンは、内部導電部材110cに代わり、複数の導電性ロッド124’とともに人工磁気導体を形成する。
【0109】
このような構成を採用する理由を説明する。いま、ミリ波IC2の厚さを約1mmとする。たとえば、自由空間波長λ
0=4mmの電磁波を発生させようとすると、導電性ロッド124’の基部と導電部材との間隔L4はλ
0/2(約2mm)未満にする必要がある。ミリ波IC2の厚さ(約1mm)を考慮すると、導電性ロッド124’の長さ(高さ)は、1mm未満になる。導電性ロッド124’の先端部と内部導電部材110cとの間の距離L2’は、ミリ波IC2の厚さ以上必要であるから1mmを超える。電磁波の遮蔽効果を実現するためには、導電性ロッド124’の長さ(高さ)をλ
0/4(約1mm)程度に設定し、かつ、距離L2’を可能な限り短くすることが好ましい。導電性ロッド124’の先端部から内部導電部材110cまでの距離L2’を充分に短くするためには、内部導電部材110cに代えて、実装基板1の上面に導電体のパターンを設けることが好適である。
【0110】
ただし、上述の構成を採用した場合であっても、または採用しなかった場合にはなおさら、対向する導電性ロッド124’の先端部とミリ波IC2の表面との間隔は非常に短くなる。つまり、両者が互いに接触する可能性が高まる。
【0111】
図23は、ミリ波IC2と導電性ロッド124’との間に設けられた絶縁樹脂160を示す。なお、
図23には、回路基板4の上面に表面導電部材110dが設けられている例を示している。
【0112】
絶縁樹脂160のような絶縁材料を、導電性ロッド124’の先端部とミリ波IC2の表面との間に設けることにより、両者の接触を防止することが可能になる。
【0113】
ここで、ロッド基部(導電部材120’の導電性表面)と導電層との間隔の条件を検討する。
【0114】
導電部材120’の導電性表面と表面導電部材110dとの間隔L4の条件は、空気層と樹脂層160との間で電磁波が伝搬することによって定在波が立たない条件、即ち半周期以下の位相条件を満たしていることが必要である。表面導電部材110dを設けていない場合には、実装基板1の表面から基板内部の内部導電部材110cに至るまでの誘電体層も考慮する必要がある。
【0115】
いま、絶縁樹脂160の厚さをd、空気層の厚さをa、絶縁樹脂内部の電磁波の波長をλε、空気層の電磁波の波長をλ0とすると、以下の関係が成り立つ必要がある。
【数1】
【0116】
なお導電性ロッド124’の先端部にのみ絶縁樹脂160を置く場合は、導電性ロッド124’の基部(導電部材120’の導電性表面)と表面導電部材110dの間は空気層のみになる。そのときは、導電部材120’の導電性表面と表面導電部材110dとの間隔L4はλ0/2未満であれば良い。
【0117】
絶縁樹脂160として熱伝導率が所定値以上の樹脂を採用すると、ミリ波IC2において発生した熱を導電部材120’に伝達させることができる。これにより、モジュールの放熱効率を向上させることができる。
【0118】
さらに、
図23に示すように、導電部材120’の+Z側の面に直接ヒートシンク170を設けてもよい。ヒートシンク170は、上述した熱伝導率が高い樹脂によって構成されていてもよいし、窒化アルミニウムや窒化ケイ素などの熱伝導率の高いセラミック部材を用いてもよい。これらにより、冷却性能の高いモジュール100を構成できる。ヒートシンク170の形状も任意である。
【0119】
なお、絶縁樹脂160およびヒートシンク170は、
図23に示すように同時に組み込む必要は無い。別個独立に組み込むか否かを決定することができる。
【0120】
<応用例1>
以下、マイクロ波モジュール1000をレーダ装置に応用するための構成を説明する。具体例として、マイクロ波モジュール100と放射素子とを組み合わせたレーダ装置の例を説明する。
【0121】
まず、スロットアレーアンテナの構成を説明する。スロットアレーアンテナにはホーンを設けているが、ホーンの有無は任意である。
【0122】
図24は、放射素子として機能する複数のスロットを有するスロットアレーアンテナ300の構造の一部を模式的に示す斜視図である。このスロットアレーアンテナ300は、二次元的に配列された複数のスロット312および複数のホーン314を有する第1の導電部材310と、複数の導波部材322Uおよび複数の導電性ロッド324Uが配列された第2の導電部材320とを備える。第1の導電部材310における複数のスロット312は、第1の導電部材310の第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に配列されている。
図24は、簡単のため、導波部材322Uの各々の端部または中央に配置され得るポートおよびチョーク構造の記載は省略されている。本実施形態では、導波部材322Uの数は4個であるが、導波部材322Uの数は2個以上であればよい。
【0123】
図25Aは、
図24に示す20個のスロットが5行4列に配列されたアレーアンテナ300をZ方向からみた上面図である。
図25Bは、
図25AのD−D’線による断面図である。このアレーアンテナ300における第1の導電部材310は、複数のスロット312にそれぞれ対応して配置された複数のホーン314を備えている。複数のホーン314の各々は、スロット312を囲む4つの導電壁を有している。このようなホーン314により、指向特性を向上させることができる。
【0124】
図示されるアレーアンテナ300においては、スロット312に直接的に結合する導波部材322Uを備える第1の導波路装置350aと、第1の導波路装置350aの導波部材322Uに結合する他の導波部材322Lを備える第2の導波路装置350bとが積層されている。第2の導波路装置350bの導波部材322Lおよび導電性ロッド324Lは、第3の導電部材340上に配置されている。第2の導波路装置350bは、基本的には、第1の導波路装置350aの構成と同様の構成を備えている。
【0125】
図25Aに示すように、導電部材310は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に直交する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット312を備える。複数の導波部材322Uの導波面322aは、Y方向に延びており、複数のスロット312のうち、Y方向に並んだ4つのスロットに対向している。この例では導電部材310は、5行4列に配列された20個のスロット312を有しているが、スロット312の数はこの例に限定されない。各導波部材322Uは、複数のスロット312のうち、Y方向に並んだ全てのスロットに対向している例に限らず、Y方向に隣接する少なくとも2つのスロットに対向していればよい。隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、たとえば波長λoよりも短く設定される。このような構造とすることで、グレーティングローブの発生を回避できる。隣接する2つの導波面122aの中心間隔は短い程グレーティングローブの影響は現れにくくなるが、λo/2未満とすることは必ずしも好ましくはない。導電部材や導電性ロッドの幅を狭くする必要が生ずるためである。
【0126】
図25Cは、第1の導波路装置350aにおける導波部材322Uの平面レイアウトを示す図である。
図25Dは、第2の導波路装置350bにおける導波部材322Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図から明らかなように、第1の導波路装置350aにおける導波部材322Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2の導波路装置350bにおける導波部材322Lは分岐部および屈曲部の両方を有している。第2の導波路装置350bにおける「第2の導電部材320」と「第3の導電部材340」との組み合わせは、第1の導波路装置350aにおける「第1の導電部材310」と「第2の導電部材320」との組み合わせに相当する。
【0127】
第1の導波路装置350aにおける導波部材322は、第2の導電部材320が有するポート(開口部)345Uを通じて第2の導波路装置350bにおける導波部材322Lに結合する。言い換えると、第2の導波路装置350bの導波部材322Lを伝搬してきた電磁波は、ポート345Uを通って第1の導波路装置350aの導波部材322Uに達し、第1の導波路装置350aの導波部材322Uを伝搬することができる。このとき、各スロット312は、導波路を伝搬していきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット312に入射すると、その電磁波はスロット312の直下に位置する第1の導波路装置350aの導波部材322Uに結合し、第1の導波路装置350aの導波部材322Uを伝搬する。第1の導波路装置350aの導波部材322Uを伝搬してきた電磁波は、ポート345Uを通って第2の導波路装置350bの導波部材322Lに達し、第2の導波路装置350bの導波部材322Lを伝搬することも可能である。第2の導波路装置350bの導波部材322Lは、第3の導電部材340のポート345Lを介して、外部にあるモジュール100(
図X1)に結合され得る。
【0128】
図25Dは、マイクロ波モジュール1000における導波部材122と、第3の導電部材340の導波部材322Lとが接続された構成例を示している。上述の通り、導電部材120のZ方向には実装基板1の接続器6が設けられており、実装基板1上のミリ波IC2によって生成された信号波が、導波部材122上の導波面122aおよび導波部材322L上の導波面を伝搬する。
【0129】
図25Aに示される第1の導電部材310を「放射層」と呼ぶことができる。また、
図25Cに示される第2の導電部材320、導波部材322U、および導電性ロッド324Uの全体を「励振層」と呼び、
図25Dに示される第3の導電部材340、導波部材322L、および導電性ロッド324Lの全体を「分配層」と呼んでも良い。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでも良い。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
【0130】
この例におけるアレーアンテナでは、
図25Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現している。たとえば、
図25Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
【0131】
図25Dに示される例では、導波部材122から導波部材322Lを経て、第2の導電部材320の各ポート345U(
図25C参照)に至るまでの距離が、全て等しい。このため、導波部材122の導波面122aを伝搬し、導波部材322Lに入力された信号波は、第2の導波部材322UのY方向における中央に配置された4つのポート345Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、第2の導電部材320上に配置された4個の導波部材322Uは、同位相で励振され得る。
【0132】
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット312が同位相で電磁波を放射する必要はない。励振層および分配層における導波部材322のネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
【0133】
図25Cに示すように、本実施形態では、複数の導波部材322における隣接する2つの導波面322aの間にはY方向に配列された1列の導電性ロッド324Uしか存在していない。このように形成することにより、その2つの導波面の間は、電気壁だけでなく磁気壁(人工磁気導体)も含まない空間になる。このような構造により、隣接する2つの導波部材322の間隔を短縮することができる。その結果、X方向に隣接する2つのスロット312の間隔も同様に短縮することができる。これにより、グレーティングローブの発生の抑制を図ることができる。
【0134】
本実施形態では、隣接する2つの導波部材の間に電気壁も磁気壁も存在しないため、その2つの導波部材上を伝搬する信号波の混合が生じ得る。しかし、本実施形態において不具合は生じない。本実施形態のスロットアレーアンテナ300は、電子回路310の動作中、隣接する2つの導波路を伝搬する電磁波の位相が、X方向に隣接する2つのスロット312の位置で実質的に同一になるように設計されているためである。本実施形態における電子回路310は、
図25Cおよび
図25Dに示すポート345U、345Lを介して各導波部材322U上の導波路に接続されている。電子回路310から出力された信号波は、分配層で分岐した上で、複数の導波部材322U上を伝搬し、複数のスロット312まで到達する。X方向に隣接する2つのスロット312の位置で信号波の位相を同一にするために、たとえば電子回路から2つのスロット312までの導波路の長さの合計が実質的に等しくなるように設計される。
【0135】
<応用例2:車載レーダシステム>
次に、上述したアレーアンテナを利用する応用例として、アレーアンテナを備えた車載レーダシステムの一例を説明する。車載レーダシステムに利用される送信波は、たとえば76ギガヘルツ(GHz)帯の周波数を有し、その自由空間中の波長λoは約4mmである。
【0136】
自動車の衝突防止システムや自動運転などの安全技術には、特に自車両の前方を走行する1または複数の車両(物標)の識別が不可欠である。車両の識別方法として、従来からレーダシステムを用いた到来波の方向を推定する技術の開発が進められてきた。
【0137】
図26は、自車両500と、自車両500と同じ車線を走行している先行車両502とを示す。自車両500は、上述した実施形態にアレーアンテナを有する車載レーダシステムを備えている。自車両500の車載レーダシステムが高周波の送信信号を放射すると、その送信信号は先行車両502に到達して先行車両502で反射され、その一部は再び自車両500に戻る。車載レーダシステムは、その信号を受信して、先行車両502の位置、先行車両502までの距離、速度等を算出する。
【0138】
図27は、自車両500の車載レーダシステム510を示す。車載レーダシステム510は車内に配置されている。より具体的には、車載レーダシステム510は、リアビューミラーの鏡面と反対側の面に配置されている。車載レーダシステム510は、車内から車両500の進行方向に向けて高周波の送信信号を放射し、進行方向から到来した信号を受信する。
【0139】
本応用例による車載レーダシステム510は、上記の実施形態におけるアレーアンテナを有している。本応用例では、複数の導波部材の各々が延びる方向が鉛直方向に一致し、複数の導波部材の配列方向が水平方向に一致するように配置される。このため、複数のスロットを正面から見たときの横方向の寸法を小さくできる。上述のアレーアンテナを含むアンテナ装置の寸法の一例は、横×縦×奥行きが、60×30×10mmである。76GHz帯のミリ波レーダシステムのサイズとしては非常に小型であることが理解される。
【0140】
なお、従来の多くの車載レーダシステムは、車外、たとえばフロントノーズの先端部に設置されている。その理由は、車載レーダシステムのサイズが比較的大きく、本開示のように車内に設置することが困難であるからである。
【0141】
本応用例によれば、送信アンテナに用いられる複数の導波部材(リッジ)の間隔を狭くすることができるため、隣接する導波部材に対向して設けられる複数のスロットの間隔も狭くすることができる。これにより、グレーティングローブの影響を抑制することができる。たとえば、横方向に隣接する2つのスロットの中心間隔を送信波の波長λoの半分未満(約2mm未満)にした場合にはグレーティングローブは発生しない。スロットの中心間隔を送信波の波長λoの半分よりも大きい場合であっても、一般の車載レーダシステム用送信アンテナと比較すると、隣接するアンテナ素子の間隔を狭くすることができる。これにより、グレーティングローブの影響を抑制できる。なお、グレーティングローブは、アンテナ素子の配列間隔が電磁波の波長の半分よりも大きくなると出現し、アンテナ素子の配列間隔が広がるほど主ローブにより近い方位に現れる。送信アンテナのアレーファクタを調整することにより、送信アンテナの指向性を調整することができる。複数の導波部材上を伝送される電磁波の位相を個別に調整できるように、位相シフタを設けてもよい。位相シフタを設けることにより、送信アンテナの指向性を任意の方向に変更することができる。位相シフタの構成は周知であるため、その構成の説明は省略する。
【0142】
本応用例における受信アンテナは、グレーティングローブに由来する反射波の受信を低減できるため、以下に説明する処理の精度を向上させることができる。以下、受信処理の一例を説明する。
【0143】
図28(a)は、車載レーダシステム510のアレーアンテナAAと、複数の到来波k(k:1〜Kの整数;以下同じ。Kは異なる方位に存在する物標の数。)との関係を示している。アレーアンテナAAは、直線状に配列されたM個のアンテナ素子を有する。原理上、アンテナは送信および受信の両方に利用することが可能であるため、アレーアンテナAAは送信アンテナおよび受信アンテナの両方を含み得る。以下では受信アンテナが受信した到来波を処理する方法の例を説明する。
【0144】
アレーアンテナAAは、様々な角度から同時に入射する複数の到来波を受ける。複数の到来波の中には、同じ車載レーダシステム510の送信アンテナから放射され、物標で反射された到来波が含まれる。さらに、複数の到来波の中には、他の車両から放射された直接的または間接的な到来波も含まれる。
【0145】
到来波の入射角度(すなわち到来方向を示す角度)は、アレーアンテナAAのブロードサイドBを基準とする角度を表している。到来波の入射角度は、アンテナ素子群が並ぶ直線方向に垂直な方向に対する角度を表す。
【0146】
いま、k番目の到来波に注目する。「k番目の到来波」とは、異なる方位に存在するK個の物標からアレーアンテナにK個の到来波が入射しているときにおける、入射角θ
kによって識別される到来波を意味する。
【0147】
図28(b)は、k番目の到来波を受信するアレーアンテナAAを示している。アレーアンテナAAが受信した信号は、M個の要素を持つ「ベクトル」として、数1のように表現できる。
(数1)
S=[s
1,s
2,…,s
M]
T
【0148】
ここで、s
m(m:1〜Mの整数;以下同じ。)は、m番目のアンテナ素子が受信した信号の値である。上付きのTは転置を意味する。Sは列ベクトルである。列ベクトルSは、アレーアンテナの構成によって決まる方向ベクトル(ステアリングベクトルまたはモードベクトルと称する。)と、物標(波源または信号源とも称する。)における信号を示す複素ベクトルとの積によって与えられる。波源の個数がKであるとき、各波源から個々のアンテナ素子に到来する信号の波が線形的に重畳される。このとき、s
mは数2のように表現できる。
【数2】
【0149】
数2におけるa
k、θ
kおよびφ
kは、それぞれ、k番目の到来波の振幅、到来波の入射角度、および初期位相である。λは到来波の波長を示し、jは虚数単位である。
【0150】
数2から理解されるように、s
mは、実部(Re)と虚部(Im)とから構成される複素数として表現されている。
【0151】
ノイズ(内部雑音または熱雑音)を考慮してさらに一般化すると、アレー受信信号Xは数3のように表現できる。
(数3)
X=S+N
Nはノイズのベクトル表現である。
【0152】
信号処理回路は、数3に示されるアレー受信信号Xを用いて到来波の自己相関行列Rxx(数4)を求め、さらに自己相関行列Rxxの各固有値を求める。
【0154】
ここで、上付きのHは複素共役転置(エルミート共役)を表す。
【0155】
求めた複数の固有値のうち、熱雑音によって定まる所定値以上の値を有する固有値(信号空間固有値)の個数が、到来波の個数に対応する。そして、反射波の到来方向の尤度が最も大きくなる(最尤度となる)角度を算出することにより、物標の数および各物標が存在する角度を特定することができる。この処理は、最尤推定法として公知である。
【0156】
次に、
図29を参照する。
図29は、本開示による車両走行制御装置600の基本構成の一例を示すブロック図である。
図29に示される車両走行制御装置600は、車両に実装されたレーダシステム510と、レーダシステム510に接続された走行支援電子制御装置520とを備えている。レーダシステム510は、アレーアンテナAAと、レーダ信号処理装置530とを有している。
【0157】
アレーアンテナAAは、複数のアンテナ素子を有しており、その各々が1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する。上述のように、アレーアンテナAAは高周波のミリ波を放射することも可能である。なお、アレーアンテナAAは、上記の実施形態におけるアレーアンテナに限らず、受信に適した他のアレーアンテナであってもよい。
【0158】
レーダシステム510のうち、アレーアンテナAAは車両に取り付けられる必要がある。しかしながらレーダ信号処理装置530の少なくとも一部の機能は、車両走行制御装置600の外部(たとえば自車両の外)に設けられたコンピュータ550およびデータベース552によって実現されてもよい。その場合、レーダ信号処理装置530のうちで車両内に位置する部分は、車両の外部に設けられたコンピュータ550およびデータベース552に、信号またはデータの双方向通信が行えるように、常時または随時に接続され得る。通信は、車両が備える通信デバイス540、および一般の通信ネットワークを介して行われる。
【0159】
データベース552は、各種の信号処理アルゴリズムを規定するプログラムを格納していても良い。レーダシステム510の動作に必要なデータおよびプログラムの内容は、通信デバイス540を介して外部から更新され得る。このように、レーダシステム510の少なくとも一部の機能は、クラウドコンピューティングの技術により、自車両の外部(他の車両の内部を含む)において実現し得る。したがって、本開示における「車載」のレーダシステムは、構成要素のすべてが車両に搭載されていることを必要としない。ただし、本願では、簡単のため、特に断らない限り、本開示の構成要素のすべてが1台の車両(自車両)に搭載されている形態を説明する。
【0160】
レーダ信号処理装置530は、信号処理回路560を有している。この信号処理回路560は、アレーアンテナAAから直接または間接に受信信号を受け取り、受信信号、または受信信号から生成した二次信号を到来波推定ユニットAUに入力する。受信信号から二次信号を生成する回路(不図示)の一部または全部は、信号処理回路560の内部に設けられている必要はない。このような回路(前処理回路)の一部または全部は、アレーアンテナAAとレーダ信号処理装置530との間に設けられていても良い。
【0161】
信号処理回路560は、受信信号または二次信号を用いて演算を行い、到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている。ここで、「到来波の個数を示す信号」は、自車両の前方を走行する1または複数の先行車両の数を示す信号ということができる。
【0162】
この信号処理回路560は、公知のレーダ信号処理装置が実行する各種の信号処理を実行するように構成されていればよい。たとえば、信号処理回路560は、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などの「超分解能アルゴリズム」(スーパーレゾリューション法)、または相対的に分解能が低い他の到来方向推定アルゴリズムを実行するように構成され得る。
【0163】
図29に示す到来波推定ユニットAUは、任意の到来方向推定アルゴリズムにより、到来波の方位を示す角度を推定し、推定結果を示す信号を出力する。信号処理回路560は、到来波推定ユニットAUが公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力する。
【0164】
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に一つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路560は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されても良い。たとえば、信号処理回路560の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路560は、複数の演算素子(たとえば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(たとえばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路560は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路560は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路560として機能し得る。
【0165】
走行支援電子制御装置520は、レーダ信号処理装置530から出力される各種の信号に基づいて車両の走行支援を行うように構成されている。走行支援電子制御装置520は、所定の機能を発揮するように各種の電子制御ユニットに指示を行う。所定の機能は、たとえば、先行車両までの距離(車間距離)が予め設定された値よりも短くなったときに警報を発してドライバにブレーキ操作を促す機能、ブレーキを制御する機能、アクセルを制御する機能を含む。たとえば、自車両のアダプティブクルーズコントロールを行う動作モードのとき、走行支援電子制御装置520は、各種の電子制御ユニット(不図示)およびアクチュエータに所定の信号を送り、自車両から先行車両までの距離を予め設定された値に維持したり、自車両の走行速度を予め設定された値に維持したりする。
【0166】
MUSIC法による場合、信号処理回路560は、自己相関行列の各固有値を求め、それらのうちの熱雑音によって定まる所定値(熱雑音電力)より大きい固有値(信号空間固有値)の個数を、到来波の個数を示すとして出力する。
【0167】
次に、
図30を参照する。
図30は、車両走行制御装置600の構成の他の例を示すブロック図である。
図30の車両走行制御装置600におけるレーダシステム510は、受信専用のアレーアンテナ(受信アンテナとも称する。)Rxおよび送信専用のアレーアンテナ(送信アンテナとも称する。)Txを含むアレーアンテナAAと、物体検知装置570とを有している。
【0168】
送信アンテナTxおよび受信アンテナRxの少なくとも一方は、上述した導波路構造を有している。送信アンテナTxは、たとえばミリ波である送信波を放射する。受信専用の受信アンテナRxは、1個または複数個の到来波(たとえばミリ波)に応答して受信信号を出力する。
【0169】
送受信回路580は、送信波のための送信信号を送信アンテナTxに送り、また、受信アンテナRxで受けた受信波による受信信号の「前処理」を行う。前処理の一部または全部は、レーダ信号処理装置530の信号処理回路560によって実行されても良い。送受信回路580が行う前処理の典型的な例は、受信信号からビート信号を生成すること、および、アナログ形式の受信信号をデジタル形式の受信信号に変換することを含み得る。
【0170】
なお、本開示によるレーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、道路または建物に固定されて使用され得る。
【0171】
続いて、車両走行制御装置600のより具体的な構成の例を説明する。
【0172】
図31は、車両走行制御装置600のより具体的な構成の例を示すブロック図である。
図30に示される車両走行制御装置600は、レーダシステム510と、車載カメラシステム700とを備えている。レーダシステム510は、アレーアンテナAAと、アレーアンテナAAに接続された送受信回路580と、信号処理回路560とを有している。
【0173】
車載カメラシステム700は、車両に搭載される車載カメラ710と、車載カメラ710によって取得された画像または映像を処理する画像処理回路720とを有している。
【0174】
本応用例における車両走行制御装置600は、アレーアンテナAAおよび車載カメラ710に接続された物体検知装置400と、物体検知装置400に接続された走行支援電子制御装置520とを備えている。この物体検知装置400は、前述した信号処理装置530に加えて、送受信回路580および画像処理回路720を含んでいる。物体検知装置400は、レーダシステム510によって得られる情報だけではなく、画像処理回路720によって得られる情報を利用して、道路上または道路近傍における物標を検知することができる。たとえば自車両が同一方向の2本以上の車線のいずれかを走行中において、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを、画像処理回路720によって判別し、その判別の結果を信号処理回路560に与えることができる。信号処理回路560は、所定の到来方向推定アルゴリズム(たとえばMUSIC法)によって先行車両の数および方位を認識するとき、画像処理回路720からの情報を参照することにより、先行車両の配置について、より信頼度の高い情報を提供することが可能になる。
【0175】
なお、車載カメラシステム700は、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを特定する手段の一例である。他の手段を利用して自車両の車線位置を特定してもよい。たとえば、超広帯域無線(UWB:Ultra Wide Band)を利用して、複数車線のどの車線を自車両が走行しているかを特定することができる。超広帯域無線は、位置測定および/またはレーダとして利用可能なことは広く知られている。超広帯域無線を利用すれば、路肩のガードレール、または中央分離帯からの距離を特定することが可能である。各車線の幅は、各国の法律等で予め定められている。これらの情報を利用して、自車両が現在走行中の車線の位置を特定することができる。なお、超広帯域無線は一例である。他の無線による電磁波を利用してもよい。また、レーザレーダを用いてもよい。
【0176】
アレーアンテナAAは、一般的な車載用ミリ波アレーアンテナであり得る。本応用例における送信アンテナTxは、ミリ波を送信波として車両の前方に放射する。送信波の一部は、典型的には先行車両である物標によって反射される。これにより、物標を波源とする反射波が発生する。反射波の一部は、到来波としてアレーアンテナ(受信アンテナ)AAに到達する。アレーアンテナAAを構成している複数のアンテナ素子の各々は、1個または複数個の到来波に応答して、受信信号を出力する。反射波の波源として機能する物標の個数がK個(Kは1以上の整数)である場合、到来波の個数はK個であるが、到来波の個数Kは既知ではない。
【0177】
図29の例では、レーダシステム510はアレーアンテナAAも含めて一体的にリアビューミラーに配置されるとした。しかしながら、アレーアンテナAAの個数および位置は、特定の個数および特定の位置に限定されない。アレーアンテナAAは、車両の後方に位置する物標を検知できるように車両の後面に配置されてもよい。また、車両の前面または後面に複数のアレーアンテナAAが配置されていても良い。アレーアンテナAAは、車両の室内に配置されていても良い。アレーアンテナAAとして、各アンテナ素子が上述したホーンを有するホーンアンテナが採用される場合でも、そのようなアンテナ素子を備えるアレーアンテナは車両の室内に配置され得る。
【0178】
信号処理回路560は、受信アンテナRxによって受信され、送受信回路580によって前処理された受信信号を受け取り、処理する。この処理は、受信信号を到来波推定ユニットAUに入力すること、
または、受信信号から二次信号を生成して二次信号を到来波推定ユニットAUに入力すること、を含む。
【0179】
図31の例では、信号処理回路560から出力される信号および画像処理回路720から出力される信号を受け取る選択回路596が物体検知装置400内に設けられている。選択回路54は、信号処理回路560から出力される信号および画像処理回路52から出力される信号の一方または両方を走行支援電子制御装置520に与える。
【0180】
図32は、本応用例におけるレーダシステム510のより詳細な構成例を示すブロック図である。
【0181】
図32に示すように、アレーアンテナAAは、ミリ波の送信を行う送信アンテナTxと、物標で反射された到来波を受信する受信アンテナRxとを備えている。図面上では送信アンテナTxは1つであるが、特性の異なる2種類以上の送信アンテナが設けられていてもよい。アレーアンテナAAは、M個(Mは3以上の整数)のアンテナ素子11
1、11
2、・・・、11
Mを備えている。複数のアンテナ素子11
1、11
2、・・・、11
Mの各々は、到来波に応答して、受信信号S
1、S
2、・・・、S
M(
図32)を出力する。
【0182】
アレーアンテナAAにおいて、アンテナ素子11
1〜11
Mは、たとえば、固定された間隔を置いて直線状または面状に配列されている。到来波は、アンテナ素子11
1〜11
Mが配列されている面の法線に対する角度θの方向からアレーアンテナAAに入射する。このため、到来波の到来方向は、この角度θによって規定される。
【0183】
1個の物標からの到来波がアレーアンテナAAに入射するとき、アンテナ素子11
1〜11
Mには、同一の角度θの方位から平面波が入射すると近似できる。異なる方位にあるK個の物標からアレーアンテナAAにK個の到来波が入射しているとき、相互に異なる角度θ
1〜θ
Kによって個々の到来波を識別することができる。
【0184】
図32に示されるように、物体検知装置400は、送受信回路580と信号処理回路560とを含む。
【0185】
送受信回路580は、三角波生成回路521、VCO(Voltage−Controlled−Oscillator:電圧制御可変発振器)582、分配器583、ミキサ584、フィルタ585、スイッチ586、A/Dコンバータ587、制御器588を備える。本応用例におけるレーダシステムは、FMCW方式でミリ波の送受信を行うように構成されているが、本開示のレーダシステムは、この方式に限定されない。送受信回路580は、アレーアンテナAAからの受信信号と送信アンテナTAのための送信信号とに基づいて、ビート信号を生成するように構成されている。
【0186】
信号処理回路560は、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536を備える。信号処理回路560は、送受信回路580のA/Dコンバータ587からの信号を処理し、検出された物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を示す信号をそれぞれ出力するように構成されている。
【0187】
まず、送受信回路580の構成および動作を詳細に説明する。
【0188】
三角波生成回路581は三角波信号を生成し、VCO582に与える。VCO582は、三角波信号に基づいて変調された周波数を有する送信信号を出力する。
図33は、三角波生成回路581が生成した信号に基づいて変調された送信信号の周波数変化を示している。この波形の変調幅はΔf、中心周波数はf0である。このようにして周波数が変調された送信信号は分配器583に与えられる。分配器583は、VCO582から得た送信信号を、各ミキサ584および送信アンテナTxに分配する。こうして、送信アンテナは、
図33に示されるように三角波状に変調された周波数を有するミリ波を放射する。
【0189】
図33には、送信信号に加えて、単一の先行車両で反射された到来波による受信信号の例が記載されている。受信信号は、送信信号に比べて遅延している。この遅延は、自車両と先行車両との距離に比例している。また、受信信号の周波数は、ドップラー効果により、先行車両の相対速度に応じて増減する。
【0190】
受信信号と送信信号とを混合すると、周波数の差異に基づいてビート信号が生成される。このビート信号の周波数(ビート周波数)は、送信信号の周波数が増加する期間(上り)と、送信信号の周波数が減少する期間(下り)とで異なる。各期間におけるビート周波数が求められると、それらのビート周波数に基づいて、物標までの距離と、物標の相対速度が算出される。
【0191】
図34は、「上り」の期間におけるビート周波数fu、および「下り」の期間におけるビート周波数fdを示している。
図34のグラフにおいて、横軸が周波数、縦軸が信号強度である。このようなグラフは、ビート信号の時間−周波数変換を行うことによって得られる。ビート周波数fu、fdが得られると、公知の式に基づいて、物標までの距離と、物標の相対速度が算出される。本応用例では、以下に説明する構成および動作により、アレーアンテナAAの各アンテナ素子に対応したビート周波数を求め、それに基づいて物標の位置情報を推定することが可能になる。
【0192】
図32に示される例において、各アンテナ素子11
1〜11
Mに対応したチャンネルCh
1〜Ch
Mからの受信信号は、増幅器によって増幅され、対応するミキサ584に入力される。ミキサ584の各々は、増幅された受信信号に送信信号を混合する。この混合により、受信信号と送信信号との間にある周波数差に対応したビート信号が生成される。生成されたビート信号は、対応するフィルタ585に与えられる。フィルタ585は、チャンネルCh
1〜Ch
Mのビート信号の帯域制限を行い、帯域制限されたビート信号をスイッチ586に与える。
【0193】
スイッチ586は、制御器588から入力されるサンプリング信号に応答してスイッチングを実行する。制御器588は、たとえばマイクロコンピュータによって構成され得る。制御器588は、ROMなどのメモリに格納されたコンピュータプログラムに基づいて、送受信回路580の全体を制御する。制御器588は、送受信回路580の内部に設けられている必要は無く、信号処理回路560の内部に設けられていても良い。つまり、送受信回路580は信号処理回路560からの制御信号にしたがって動作してもよい。または、送受信回路580および信号処理回路560の全体を制御する中央演算ユニットなどによって、制御器588の機能の一部または全部が実現されていても良い。
【0194】
フィルタ585の各々を通過したチャンネルCh
1〜Ch
Mのビート信号は、スイッチ586を介して、順次、A/Dコンバータ587に与えられる。A/Dコンバータ587は、サンプリング信号に同期してスイッチ586から入力されるチャンネルCh
1〜Ch
Mのビート信号を、サンプリング信号に同期してデジタル信号に変換する。
【0195】
以下、信号処理回路560の構成および動作を詳細に説明する。本応用例では、FMCW方式によって、物標までの距離および物標の相対速度を推定する。レーダシステムは、以下に説明するFMCW方式に限定されず、2周波CWまたはスペクトル拡散などの他の方式を用いても実施可能である。
【0196】
図32に示される例において、信号処理回路560は、メモリ531、受信強度算出部532、距離検出部533、速度検出部534、DBF(デジタルビームフォーミング)処理部535、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、相関行列生成部538、物標出力処理部539および到来波推定ユニットAUを備えている。前述したように、信号処理回路560の一部または全部がFPGAによって実現されていてもよく、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合によって実現されていてもよい。メモリ531、受信強度算出部532、DBF処理部535、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、および到来波推定ユニットAUは、それぞれ、別個のハードウェアによって実現される個々の部品であってもよいし、1つの信号処理回路における機能上のブロックであってもよい。
【0197】
図35は、信号処理回路560がプロセッサPRおよびメモリ装置MDを備えるハードウェアによって実現されている形態の例を示している。このような構成を有する信号処理回路560も、メモリ装置MDに格納されたコンピュータプログラムの働きにより、
図32に示す受信強度算出部532、DBF処理部535、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、相関行列生成部538、到来波推定ユニットAUの機能が果たされ得る。
【0198】
本応用例における信号処理回路560は、デジタル信号に変換された各ビート信号を受信信号の二次信号として、先行車両の位置情報を推定し、推定結果を示す信号を出力するよう構成されている。以下、本応用例における信号処理回路560の構成および動作を詳細に説明する。
【0199】
信号処理回路560内のメモリ531は、A/Dコンバータ527から出力されるデジタル信号をチャンネルCh
1〜Ch
Mごとに格納する。メモリ531は、たとえば、半導体メモリ、ハードディスクおよび/または光ディスクなどの一般的な記憶媒体によって構成され得る。
【0200】
受信強度算出部532は、メモリ531に格納されたチャンネルCh
1〜Ch
Mごとのビート信号(
図33の下図)に対してフーリエ変換を行う。本明細書では、フーリエ変換後の複素数データの振幅を「信号強度」と称する。受信強度算出部532は、複数のアンテナ素子のいずれかの受信信号の複素数データ、または、複数のアンテナ素子のすべての受信信号の複素数データの加算値を周波数スペクトルに変換する。こうして得られたスペクトルの各ピーク値に対応するビート周波数、すなわち距離に依存した物標(先行車両)の存在を検出することができる。全アンテナ素子の受信信号の複素数データを加算すると、ノイズ成分が平均化されるため、S/N比が向上する。
【0201】
物標、すなわち先行車両が1個の場合、フーリエ変換の結果、
図34に示されるように、周波数が増加する期間(「上り」の期間)および減少する期間(「下り」の期間)に、それぞれ、1個のピーク値を有するスペクトルが得られる。「上り」の期間におけるピーク値のビート周波数を「fu」、「下り」の期間におけるピーク値のビート周波数を「fd」をする。
【0202】
受信強度算出部532は、ビート周波数毎の信号強度から、予め設定された数値(閾値)を超える信号強度を検出することによって、物標が存在していることを判定する。受信強度算出部532は、信号強度のピークを検出した場合、ピーク値のビート周波数(fu、fd)を対象物周波数として距離検出部533、速度検出部534へ出力する。受信強度算出部532は、周波数変調幅Δfを示す情報を距離検出部533へ出力し、中心周波数f0を示す情報を速度検出部534へ出力する。
【0203】
受信強度算出部532は、複数の物標に対応する信号強度のピークが検出された場合には、上りのピーク値と下りのピーク値とを予め定められた条件によって対応づける。同一の物標からの信号と判断されたピークに同一の番号を付与し、距離検出部533および速度検出部534に与える。
【0204】
複数の物標が存在する場合、フーリエ変換後、ビート信号の上り部分とビート信号の下り部分のそれぞれに物標の数と同じ数のピークが表れる。レーダと物標の距離に比例して、受信信号が遅延し、
図33における受信信号は右方向にシフトするので、レーダと物標との距離が離れるほど、ビート信号の周波数は、小さくなる。
【0205】
距離検出部533は、受信強度算出部532から入力されるビート周波数fu、fdに基づいて、下記の式により距離Rを算出し、物標引継ぎ処理部537へ与える。
R={C・T/(2・Δf)}・{(fu+fd)/2}
【0206】
また、速度検出部534は、受信強度算出部532から入力されるビート周波数fu、fdに基づいて、下記の式によって相対速度Vを算出し、物標引継ぎ処理部537へ与える。
V={C/(2・f0)}・{(fu−fd)/2}
【0207】
距離Rおよび相対速度Vを算出する式において、Cは光速度、Tは変調周期である。
【0208】
なお、距離Rの分解能下限値は、C/(2Δf)で表される。したがって、Δfが大きくなるほど、距離Rの分解能が高まる。周波数f0が約76GHz帯の場合において、Δfを600メガヘルツ(MHz)程度に設定するとき、距離Rの分解能はたとえば0.7メートル(m)程度である。このため、2台の先行車両が併走しているとき、FMCW方式では車両が1台なのか2台なのかを識別することは困難である場合がある。このような場合、角度分解能が極めて高い到来方向推定アルゴリズムを実行すれば、2台の先行車両の方位を分離して検出することが可能である。
【0209】
DBF処理部535は、アンテナ素子11
1、11
2、・・・、11
Mにおける信号の位相差を利用して、入力される各アンテナに対応した時間軸でフーリエ変換された複素データを、アンテナ素子の配列方向にフーリエ変換する。そして、DBF処理部535は、角度分解能に対応した角度チャネル毎のスペクトルの強度を示す空間複素数データを算出し、ビート周波数毎に方位検出部536に出力する。
【0210】
方位検出部536は、先行車両の方位を推定するために設けられている。方位検出部536は、算出されたビート周波数毎の空間複素数データの値の大きさのうち、一番大きな値を取る角度θを対象物が存在する方位として物標引継ぎ処理部537に出力する。
【0211】
なお、到来波の到来方向を示す角度θを推定する方法は、この例に限定されない。前述した種々の到来方向推定アルゴリズムを用いて行うことができる。特に本応用例によれば、先行車両の配置が検知できるため、到来波の個数が既知である。その結果、到来方向推定アルゴリズムによる演算の量を低減して高分解能の方位推定が可能になる。
【0212】
物標引継ぎ処理部537は、今回算出した対象物の距離、相対速度、方位の値と、メモリ531から読み出した1サイクル前に算出された対象物の距離、相対速度、方位の値とのそれぞれの差分の絶対値を算出する。そして、差分の絶対値が、それぞれの値毎に決められた値よりも小さいとき、物標引継ぎ処理部537は、1サイクル前に検知した物標と今回検知した物標とを同じものと判定する。その場合、物標引継ぎ処理部537は、メモリ531から読み出したその物標の引継ぎ処理回数を1つだけ増やす。
【0213】
物標引継ぎ処理部537は、差分の絶対値が決められた値よりも大きな場合には、新しい対象物を検知したと判断する。物標引継ぎ処理部537は、今回の対象物の距離、相対速度、方位およびその対象物の物標引継ぎ処理回数をメモリ531に保存する。
【0214】
信号処理回路560で、受信した反射波を基にして生成された信号であるビート信号を周波数解析して得られるスペクトラムを用い、対象物との距離、相対速度を検出することができる。
【0215】
相関行列生成部538は、メモリ531に格納されたチャンネルCh
1〜Ch
Mごとのビート信号(
図33の下図)を用いて自己相関行列を求める。数4の自己相関行列において、各行列の成分は、ビート信号の実部および虚部によって表現される値である。相関行列生成部538は、さらに自己相関行列Rxxの各固有値を求め、得られた固有値の情報を到来波推定ユニットAUへ入力する。
【0216】
受信強度算出部532は、複数の対象物に対応する信号強度のピークが複数検出された場合、上りの部分および下りの部分のピーク値ごとに、周波数が小さいものから順番に番号をつけて、物標出力処理部539へ出力する。ここで、上りおよび下りの部分において、同じ番号のピークは、同じ対象物に対応しており、それぞれの識別番号を対象物の番号とする。なお、煩雑化を回避するため、
図32では、受信強度算出部532から物標出力処理部539への引出線の記載は省略している。
【0217】
物標出力処理部539は、対象物が前方構造物である場合に、その対象物の識別番号を物標として出力する。物標出力処理部539は、複数の対象物の判定結果を受け取り、そのどちらもが前方構造物である場合、自車両の車線上にある対象物の識別番号を物標が存在する物体位置情報として出力する。また、物標出力処理部539は、複数の対象物の判定結果を受け取り、そのどちらもが前方構造物である場合であって、2つ以上の対象物が自車両の車線上にある場合、メモリ531から読み出した物標引継ぎ処理回数が多い対象物の識別番号を物標が存在する物体位置情報として出力する。
【0218】
再び
図31を参照し、車載レーダシステム510が
図31に示す例に組み込まれた場合の例を説明する。画像処理回路720(
図31)は、映像から物体の情報を取得し、その物体の情報から物標位置情報を検出する。画像処理回路720は、たとえば、取得した映像内のオブジェクトの奥行き値を検出して物体の距離情報を推定したり、映像の特徴量から物体の大きさの情報等を検出したりすることにより、予め設定された物体の位置情報を検出するように構成されている。
【0219】
選択回路596は、信号処理回路560および画像処理回路720から受け取った位置情報を選択的に走行支援電子制御装置520に与える。選択回路596は、たとえば、信号処理回路560の物体位置情報に含まれている、自車両から検出した物体までの距離である第1距離と、画像処理回路720の物体位置情報に含まれている、自車両から検出した物体までの距離である第2距離とを比較してどちらが自車両に対して近距離であるかを判定する。たとえば、判定された結果に基づいて、自車両に近いほうの物体位置情報を選択回路596が選択して走行支援電子制御装置520に出力し得る。なお、判定の結果、第1距離および第2距離が同じ値であった場合には、選択回路596は、そのいずれか一方または両方を走行支援電子制御装置520に出力し得る。
【0220】
なお、物標出力処理部539(
図32)は、受信強度算出部32から物標候補がないという情報が入力された場合には、物標なしとしてゼロを物体位置情報として出力する。そして、選択回路596は、物標出力処理部539からの物体位置情報に基づいて予め設定された閾値と比較することで信号処理回路560あるいは画像処理回路720の物体位置情報を使用するか選択している。
【0221】
物体検知装置400によって先行物体の位置情報を受け取った走行支援電子制御装置520は、予め設定された条件により、物体位置情報の距離や大きさ、自車両の速度、降雨、降雪、晴天などの路面状態等の条件と併せて、自車両を運転しているドライバに対して操作が安全あるいは容易となるような制御を行う。たとえば、走行支援電子制御装置520は、物体位置情報に物体が検出されていない場合、予め設定されている速度までスピードを上げるようにアクセル制御回路526に制御信号を送り、アクセル制御回路526を制御してアクセルペダルを踏み込むことと同等の動作を行う。
【0222】
走行支援電子制御装置520は、物体位置情報に物体が検出されている場合において、自車両から所定の距離であることが分かれば、ブレーキバイワイヤ等の構成により、ブレーキ制御回路524を介してブレーキの制御を行う。すなわち、速度を落とし、車間距離を一定に保つように操作する。走行支援電子制御装置520は、物体位置情報を受けて、警告制御回路522に制御信号を送り、車内スピーカを介して先行物体が近づいていることをドライバに知らせるように音声またはランプの点灯を制御する。走行支援電子制御装置520は、先行車両の配置を含む物体位置情報を受けとり、予め設定された走行速度の範囲であれば、先行物体との衝突回避支援を行うために自動的にステアリングを左右どちらかに操作し易くするか、あるいは、強制的に車輪の方向を変更するようにステアリング側の油圧を制御する等を行うことができる。
【0223】
上述の物体検知装置400は、一般的なコンピュータを、上述の各構成要素として機能させるプログラムにより動作させることで実現することができる。このプログラムは、通信回線を介して配布することも可能であるし、半導体メモリまたはCD−ROM等の記録媒体に書き込んで配布することも可能である。
【0224】
物体検知装置400では、選択回路596が前回検出サイクルにおいて一定時間連続して検出していた物体位置情報のデータで、今回検出サイクルで検出できなかったデータに対して、カメラで検出したカメラ映像からの先行物体を示す物体位置情報が紐付けされれば、トラッキングを継続させる判断を行い、信号処理回路560からの物体位置情報を優先的に出力するようにしても構わない。
【0225】
信号処理回路560および画像処理回路720の出力を選択回路596に選択するための具体的構成の例および動作の例は、特開2014−119348号公報に開示されている。この公報の内容の全体をここに援用する。
【0226】
上述の車載レーダシステムは一例である。上述したアレーアンテナは、アンテナを利用するあらゆる技術分野において利用可能である。