【課題】電流フィードバックを行うことなくPWM駆動制御を行う同期電動機の制御装置において、いずれの回転速度領域においても前記同期電動機を安定して駆動させることができる構成を得る。
【解決手段】制御装置1は、トルククランプ値を設定するトルククランプ生成部40と、回転速度指令及び前記トルククランプ値に基づいて、モータ2に流れる電流をフィードバックすることなく、電圧指令を生成する指令生成部10と、PWM信号生成部20と、インバータ部30と、を備える。トルククランプ生成部40は、モータ2の回転速度の始動領域では、前記トルククランプ値としての始動時制限値を設定し、モータ2の前記始動領域以外の領域では、前記トルククランプ値としての通常時制限値を設定する。前記始動時制限値は、前記始動領域の回転速度において、前記通常時制限値よりも大きく且つモータ2を継続して回転可能なトルククランプ値よりも大きい。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0029】
[実施形態1]
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態1に係る制御装置1の概略構成を示すブロック図である。この制御装置1は、モータ2(同期電動機)に流れる電流のフィードバックを行うことなく、入力指令としての回転速度指令に基づいてPWM信号を生成し、該PWM信号を用いてモータ2を駆動制御する。また、制御装置1は、前記PWM信号を生成するための電圧指令を算出する際に、トルク(出力トルク関連値)の制限値(トルククランプ値)を考慮する。
図2は、制御装置1において、回転速度指令から電圧指令を生成するまでの構成を示すブロック図である。
【0030】
なお、本実施形態では、モータ2は、三相交流モータであるが、モータ2はどのような構成のモータであってもよい。モータ2の構成は、従来の構成と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0031】
図1に示すように、制御装置1は、指令生成部10と、PWM信号生成部20と、インバータ部30(駆動制御部)と、トルククランプ生成部40(制限値設定部)と、電気角速度算出部50と、回転速度検出部60とを備える。回転速度検出部60は、モータ2の図示しない回転子の回転位置を検出する位置センサ2aから出力された位置センサ信号に基づいて、モータ2の回転速度N_FBの信号を出力する。
【0032】
電圧指令生成部10は、制御装置1に入力される回転速度指令N
*(入力指令)及び回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度N_FBに基づいて、q軸電圧指令vq
*及びd軸電圧指令vd
*を生成する。生成されたq軸電圧指令vq
*及びd軸電圧指令vd
*は、PWM信号生成部20に入力される。
【0033】
指令生成部10は、トルク指令生成部11と、電流指令設定部12と、電圧指令算出部13とを有する。
【0034】
トルク指令生成部11は、制御装置1に入力される回転速度指令N
*と回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度N_FBとの差である回転速度偏差ΔNを小さくするような暫定トルク指令を生成する。この暫定トルク指令を求める方法は、PI制御など、従来のトルク指令の生成方法と同様なので、詳しい説明を省略する。なお、トルク指令生成部11をPI制御器によって構成する場合、積分器にワインドアップ(積分飽和現象)を防ぐ機能を付加することにより、飽和状態から復帰するまでの時間を短縮することができ、制御の応答性を向上できる。
【0035】
また、トルク指令生成部11は、前記暫定トルク指令を用いて、トルククランプ生成部40から出力されるトルククランプ値T_clampを越えないようにトルク指令T
*を生成する。トルククランプ値T_clampは、トルククランプ値の正の範囲の上限を決める正側トルククランプ値と、トルククランプ値の負の範囲における絶対値の上限を決める負側トルククランプ値とを含む。
【0036】
なお、トルク指令生成部11は、トルククランプ値T_clampとして、後述の第2トルククランプ生成部42で生成されたトルククランプ値が入力された場合には、電流指令設定部12の後述の電流指令生成部14に対し、トルク指令T
*として、電流指令生成部11で許容されている許容入力範囲内のトルク指令T1
*を出力する(
図2参照)。
【0037】
ここで、トルククランプ生成部40について簡単に説明すると、トルククランプ生成部40は、回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度N_FBを用いて、トルククランプ値T_clampを生成し、トルク指令生成部11に対してトルククランプ値T_clampを出力する。すなわち、トルククランプ生成部40は、モータ2の回転速度N_FBに応じて、トルク指令T
*を制限する制限値(トルククランプ値)を生成する。トルククランプ生成部40は、モータ2の回転速度における低速領域から中速領域では、トルククランプ値T_clampを、それ以外の領域のトルククランプ値T_clampよりも大きく且つモータ2を継続して回転可能な値よりも大きな値に設定する。
【0038】
詳しくは後述するが、本実施形態のトルククランプ生成部40は、第1トルククランプ生成部41と(第1制限値生成部)、第2トルククランプ生成部42(第2制限値生成部)と、トルククランプ選択部43(制限値選択部)とを有する。
【0039】
第1トルククランプ生成部41は、モータ2の特性に合わせて設定されたTN曲線(トルクと回転速度との関係)で表される従来のトルククランプ値(第1トルククランプ値、第1制限値)を生成する。
【0040】
第2トルククランプ生成部42は、PWM駆動制御における電圧指令ベクトルの大きさの最大値v
Limit*及び電圧指令の関係式と、以下の(1)、(2)式の電圧方程式とから得られる(3)式を用いて、トルククランプ値(第2トルククランプ値、第2制限値)を生成する。なお、v
Limit*は、どのような値に設定してもよいが、例えば、PWM制御においてモータ2に印加される電圧指令ベクトルの大きさの最大値である。v
Limit*は、モータ2の各回転速度で固定値であれば、回転速度毎に異なる値であってもよい。
【0041】
vq
*=R・iq
*+ωe・Ld・id
*+ωe・Ke/Pn (1)
vd
*=R・id
*−ωe・Lq・iq
* (2)
(v
Limit*)
2=(R・id
*−ωe・Lq・iq
*)
2
+(R・iq
*+ωe・Ld・id
*+ωe・Ke/Pn)
2 (3)
【0042】
ここで、Rは巻線抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、ωeは電気角速度、Keは誘起電圧定数、Pnは極対数である。
【0043】
トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ生成部41によって生成された第1トルククランプ値、及び、第2トルククランプ生成部42によって生成された第2トルククランプ値のうち、絶対値が大きい値を、トルククランプ値T_clampとして出力する。このトルククランプ値T_clampは、上述のとおり、トルク指令生成部11に入力される。
【0044】
また、トルククランプ選択部43は、前記第1トルククランプ値及び前記第2トルククランプ値のうちいずれを選んだかという情報を、トルク選択信号T_selとして、電流指令設定部12に出力する。
【0045】
トルククランプ生成部40の詳しい構成は、後述する。
【0046】
図1に示すように、電流指令設定部12は、トルク指令生成部11で生成されたトルク指令T
*と回転速度検出部60から出力されたモータ2の回転速度N_FBとを用いて、q軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*を生成する。本実施形態では、これらのq軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*が、指令信号に対応する。
【0047】
詳しくは、
図2に示すように、電流指令設定部12は、電流指令生成部14(第1指令信号生成部)と、トルク/電流変換部15(第2指令信号生成部)と、q軸電流選択部16(指令信号選択部)と、d軸電流選択部17(指令信号選択部)とを有する。電流指令生成部14及びトルク/電流変換部15は、それぞれ、トルク指令生成部11から出力されたトルク指令T
*を用いて、q軸電流指令及びd軸電流指令を生成する。q軸電流選択部16は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selに基づいて、電流指令生成部14で生成されたq軸電流指令及びトルク/電流変換部15で生成されたq軸電流指令のうち、一方のq軸電流指令を選択する。d軸電流選択部17は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selに基づいて、電流指令生成部14で生成されたd軸電流指令及びトルク/電流変換部15で生成されたd軸電流指令のうち、一方のd軸電流指令を選択する。
【0048】
電流指令生成部14は、例えばテーブル等を用いて、トルク指令生成部11から出力されたトルク指令T
*に基づいてq軸電流指令及びd軸電流指令を生成する。本実施形態では、電流指令生成部14で生成されたq軸電流指令及びd軸電流指令が、第1指令信号に対応する。電流指令生成部14の構成は、従来の構成と同様なので、詳しい説明を省略する。
【0049】
なお、既述のとおり、トルククランプ値T_clampとして、第2トルククランプ生成部42で生成された第2トルククランプ値が入力された場合には、電流指令生成部14には、トルク指令T
*として、電流指令生成部11で許容されている許容入力範囲内のトルク指令T1
*が入力される。
【0050】
トルク/電流変換部15は、トルク指令生成部11から出力されたトルク指令T
*に基づいてq軸電流指令及びd軸電流指令を生成する。本実施形態では、トルク/電流変換部15で生成されたq軸電流指令及びd軸電流指令が、第2指令信号に対応する。トルク/電流変換部15には、トルク指令T
*として、トルククランプ値T_clampによってクランプ処理されたトルク指令T2
*が入力される。
【0051】
トルク/電流変換部15では、q軸電流指令を、モータ2の出力トルクの算出式(後述の(9)式)において出力トルクにトルク指令T2
*を代入することによって得られる以下の(4)式によって求める。
【0052】
iq
*=T2
*/Pn{φ+(Ld−Lq)・id
*} (4)
【0054】
また、トルク/電流変換部15では、d軸電流指令は、後述するように第2トルククランプ生成部42で上述の(3)式をq軸電流指令について解くために用いたd軸電流指令をそのまま用いる。
【0055】
q軸電流選択部16は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selが第1トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、電流指令生成部14で生成されたq軸電流指令を選択する。q軸電流選択部16は、トルククランプ選択部41から出力されたトルク選択信号T_selが第2トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、トルク/電流変換部15で生成されたq軸電流指令を選択する。q軸電流選択部16は、選択したq軸電流指令を、q軸電流指令iq
*として電圧指令算出部13に出力する。
【0056】
d軸電流選択部17は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selが第1トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、電流指令生成部14で生成されたd軸電流指令を選択する。d軸電流選択部17は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selが第2トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、トルク/電流変換部15で生成されたd軸電流指令を選択する。d軸電流選択部17は、選択したd軸電流指令を、d軸電流指令id
*として電圧指令算出部13に出力する。
【0057】
電圧指令算出部13は、q軸電流指令iq
*、d軸電流指令id
*及び後述の電気角速度算出部50で算出された電気角速度ωeを用いて、上述の(1)式及び(2)式の電圧方程式によって、q軸電圧指令vq
*及びd軸電圧指令vd
*を算出する。
【0058】
PWM信号生成部20は、電圧指令算出部13で算出されたq軸電圧指令vq
*及びd軸電圧指令vd
*に基づいて、PWM駆動制御のためのPWM信号を生成する。このPWM信号は、インバータ部30に入力されて、インバータ部30の図示しないスイッチング素子の駆動制御に用いられる。
【0059】
なお、PWM信号生成部20及びインバータ部30の各構成は、従来のPWM駆動制御における各構成と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0060】
電気角速度算出部50は、回転速度検出部60から出力されたモータ2の回転速度N_FBから電気角速度ωeを算出する。電気角速度算出部50で算出された電気角速度ωeは、電圧指令算出部13に入力される。なお、電気角速度算出部50の構成も、従来のモータ制御装置における構成と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0061】
(トルククランプ生成部)
次に、トルククランプ生成部40の構成を、
図2を用いて詳細に説明する。
【0062】
トルククランプ生成部40は、モータ2の回転速度N_FBに応じて、トルク指令T
*を制限するトルククランプ値を生成する。トルククランプ生成部40は、モータ2の回転速度における低速領域から中速領域では、前記トルククランプ値を、それ以外の領域のトルククランプ値よりも大きく且つモータ2を継続して回転可能な値よりも大きな値に設定する。
【0063】
具体的には、トルククランプ生成部40は、第1トルククランプ生成部41と、第2トルククランプ生成部42と、トルククランプ選択部43とを有する。
【0064】
第1トルククランプ生成部41は、モータ2の特性に合わせて設定されたTN曲線で表される従来のトルククランプ値(第1トルククランプ値)を生成する。すなわち、第1トルククランプ生成部41は、従来のモータ制御装置におけるトルククランプ生成部と同様の構成を有する。
【0065】
図3に、第1トルククランプ生成部41によって生成される第1トルククランプ値の一例を示す。また、
図4に、第1トルククランプ値を用いて生成された電圧指令から得られる電圧指令ベクトルの大きさを示す。
図4に示すように、モータ2の低速領域から中速領域では、電圧指令ベクトルの大きさは、モータ2の回転速度に対して比例している。
【0066】
なお、
図3及び
図4において、回転速度の正は、モータ2の正回転の回転速度を意味し、回転速度の負は、モータ2の逆回転の回転速度を意味する。また、
図3において、トルククランプ値の正は、正側トルククランプ値を意味し、トルククランプ値の負は、負側トルククランプ値を意味する。
【0067】
第2トルククランプ生成部42は、PWM駆動制御における電圧指令ベクトルの大きさの最大値v
Limit*に対応するトルクを用いて、トルククランプ値(第2トルククランプ値)を生成する。具体的には、既述のとおり、以下の(3)式を用いて、トルククランプ値(第2トルククランプ値)を生成する。
【0068】
vq
*=R・iq
*+ωe・Ld・id
*+ωe・Ke/Pn (1)
vd
*=R・id
*−ωe・Lq・iq
* (2)
(v
Limit*)
2=(R・id
*−ωe・Lq・iq
*)
2
+(R・iq
*+ωe・Ld・id
*+ωe・Ke/Pn)
2 (3)
【0069】
なお、上述の(3)式は、電圧指令ベクトルの大きさを表す以下の(5)式に、(1)式及び(2)式を代入することにより、求められる。
【0070】
(v
Limit*)
2=(vd
*)
2+(vq
*)
2 (5)
【0071】
第2トルククランプ生成部42は、上述の(3)式を解いて、q軸電流指令を求めた後、対応するトルククランプ値を求める。以下で、まず、上述の(3)式からq軸電流指令を求める方法について説明する。
【0072】
なお、上述の(3)式において、q軸電流指令を求める際に、d軸電流指令をゼロまたは固定値にする。この理由は、以下のとおりである。
【0073】
モータ2の回転速度における始動領域(低速領域から中速領域)においてモータ2の出力トルクを確保するために、第2トルククランプ生成部42で生成される第2トルククランプ値は、主にモータ2の始動領域で使われる。モータ2の低速領域から中速領域では、d軸電流指令を制御して弱め界磁制御を行う必要がないため、上述のように、第2トルククランプ生成部42で第2トルククランプ値を生成する際にd軸電流指令をゼロまたは固定値としても問題ない。
【0074】
なお、d軸電流指令は、モータ2の全速度領域において同一の値でなくてもよい。すなわち、上述の(3)式からq軸電流指令を求める際に固定値であれば、モータ2の回転速度によって異なる値であってもよい。
【0075】
上述の(3)式において、R・id
*=a、ωe・Lq=b、ωe・Ld・id
*=c、ωe・Ke/Pn=dとすると、(3)式は、下式のように表される。
【0076】
(v
Limit*)
2=(a−b・iq
*)
2+(R・iq
*+c+d)
2 (6)
【0077】
この式を、q軸電流指令について整理すると、下式のように表される。
【0078】
(R
2+b
2)×(iq
*)
2
+{2×(c・R+d・R−a・b}×(iq
*)
+{a
2+c
2+2c・d+d
2−(v
Limit*)
2}=0 (7)
【0079】
上式において、R
2+b
2=A、c・R+d・R−a・b=B、a
2+c
2+2c・d+d
2−(v
Limit*)
2=Cとすると、(7)式は、下式のように表される。
【0080】
A×(iq
*)
2+2B×(iq
*)+C=0 (8)
【0081】
この(8)式におけるq軸電流指令の解は、iq
*=(−B±√(B
2−A・C))/Aとなる。すなわち、正側のq軸電流指令をiq_pos
*とし、負側のq軸電流指令をiq_neg
*とした場合に、(8)式の解は、以下のとおりである。
【0082】
iq_pos
*=(−B+√(B
2−A・C))/A
iq_neg
*=(−B−√(B
2−A・C))/A
【0083】
なお、B
2−A・C<0のときには、iq_pos
*及びiq_neg
*は、それぞれゼロとする。
【0084】
以上によって、電圧指令ベクトルの最大値であるv
Limit*に応じたq軸電流指令が得られる。得られたq軸電流指令から、トルクの算出式である(9)式を用いて、以下のように正側のトルククランプ値(正側トルククランプ値)及び負側のトルククランプ値(負側トルククランプ値)を算出する。
【0085】
Te=Pn・φ・iq+Pn(Ld−Lq)id・iq (9)
【0086】
ここで、Teは、モータ2の出力トルクである。
【0087】
上述の(9)式に、求めたiq_pos
*及びiq_neg
*を代入することにより、電圧指令ベクトルの最大値であるv
Limit*に応じた第2トルククランプ値の正側トルククランプ値Te_pos2及び負側トルククランプ値Te_neg2を求める。
【0088】
Te_pos2
=Pn{φ・iq_pos
*+(Ld−Lq)id
*・iq_pos
*} (10)
Te_neg2
=Pn{φ・iq_neg
*+(Ld−Lq)id
*・iq_neg
*} (11)
【0089】
なお、(10)式及び(11)式のid
*には、q軸電流指令を求める際に、d軸電流指令として設定された値(ゼロまたは固定値)を代入する。
【0090】
これにより、第2トルククランプ値を生成することができる。なお、第2トルククランプ値の絶対値は、PWM駆動制御におけるモータ2の電圧指令ベクトルの大きさの最大値に対応するトルククランプ値以下である。
【0091】
ところで、上述の(3)式には、電気角速度ωeが含まれているため、上述の(10)式及び(11)式で算出される第2トルククランプ値は、モータ2の回転速度に依存して変動する値である。よって、第2トルククランプ生成部42では、モータ2の回転速度に応じて第2トルククランプ値を更新する必要がある。
【0092】
そのため、第2トルククランプ生成部42は、モータ2の回転速度に応じて第2トルククランプ値を生成可能に構成されている。すなわち、第2トルククランプ生成部42は、回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度に応じて、演算周期毎に(10)式及び(11)式の計算を行うように構成されている。これにより、モータ2の回転速度の変化に対して、第2トルククランプ値をリアルタイムで求めることができる。
【0093】
なお、第2トルククランプ生成部42は、モータ2の正回転時の最高速度と逆回転時の最高速度との範囲内で所定の速度間隔毎に(10)式及び(11)式を用いて予め計算した結果を含むテーブルから、モータ2の回転速度に応じた第2トルククランプ値を読み込むように構成されていてもよい。これにより、上述のようにリアルタイムで第2トルククランプ値を計算する構成に比べて、制御装置1における演算量を少なくすることができる。
【0094】
図5に、第2トルククランプ生成部42によって生成される第2トルククランプ値の一例を示す。
図5では、説明のために第2トルククランプ値の0近傍を拡大しているため、第2トルククランプ値の絶対値が大きい領域の図示を省略している。
図5に示すように、モータ2の回転速度が小さくなるほど、第2トルククランプ値は大きい。なお、第2トルククランプ値の絶対値は、PWM駆動制御におけるモータ2の電圧指令ベクトルの大きさの最大値に対応するトルククランプ値以下である。
【0095】
また、
図6に、第2トルククランプ値を用いて生成された電圧指令から得られる電圧指令ベクトルの大きさを示す。
図6に示すように、電圧指令ベクトルの大きさは、v
Limit*で一定である。
【0096】
なお、
図5及び
図6において、回転速度の正は、モータ2の正回転の回転速度を意味し、回転速度の負は、モータ2の逆回転の回転速度を意味する。また、
図5において、トルククランプ値の正は、正側トルククランプ値を意味し、トルククランプ値の負は、負側トルククランプ値を意味する。
【0097】
トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ生成部41によって生成された第1トルククランプ値、及び、第2トルククランプ生成部42によって生成された第2トルククランプ値のうち、絶対値が大きい値を、トルククランプ値T_clampとして出力する。詳しくは、トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ生成部41によって生成された正側トルククランプ値及び第2トルククランプ生成部42によって生成された正側トルククランプ値のうち、絶対値が大きい正側トルククランプ値を選択して出力する。また、トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ生成部41によって生成された負側トルククランプ値及び第2トルククランプ生成部42によって生成された負側トルククランプ値のうち、絶対値が大きい負側トルククランプ値を選択して出力する。これらの選択されたトルククランプ値は、
図1におけるトルククランプ値T_clampとして、トルク指令生成部11に出力される。
【0098】
また、トルククランプ選択部43は、前記第1トルククランプ値及び前記第2トルククランプ値のうちいずれを選択したかという情報を、トルク選択信号T_selとして、電流指令設定部12に出力する。例えば、トルククランプ選択部43は、前記第1トルククランプ値を選択した場合には、トルク選択信号T_selとして“0”の信号を出力し、前記第2トルククランプ値を選択した場合には、トルク選択信号T_selとして”1“の信号を出力する。
【0099】
なお、トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42のうち正側トルククランプ値を選択したトルククランプ生成部と、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42のうち負側トルククランプ値を選択したトルククランプ生成部とが異なる場合には、回転速度指令N
*とモータ2の回転速度N_FBとの回転速度偏差ΔNに基づいて、いずれのトルククランプ生成部に対応する信号をトルク選択信号T_selとして出力するかを決定する。
【0100】
すなわち、トルククランプ選択部43は、回転速度偏差ΔNが負であった場合、モータ2の回転速度N
*が回転速度指令N_FBを超過しているため、モータ2に負のトルクを出力させるように、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42のうち負側トルククランプ値を選択したトルククランプ生成部に対応する信号を、トルク選択信号T_selとして出力する。
【0101】
一方、トルククランプ選択部43は、回転速度偏差ΔNが正であった場合、モータ2の回転速度N_FBが回転速度指令N
*に達していないため、モータ2に正のトルクを出力させるように、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42のうち正側トルククランプ値を選択したトルククランプ生成部に対応する信号を、トルク選択信号T_selとして出力する。
【0102】
図7に、トルククランプ選択部43によって第1トルククランプ値及び第2トルククランプ値のうち絶対値が大きい値を選択した場合のトルククランプ値の一例を示す。
図7では、説明のためにトルククランプ値の0近傍を拡大しているため、トルククランプ値の絶対値が大きい領域の図示を省略している。
【0103】
また、
図8に、
図7に示すトルククランプ値を用いて生成された電圧指令から得られる電圧指令ベクトルの大きさを示す。
【0104】
なお、
図7及び
図8において、回転速度の正は、モータ2の正回転の回転速度を意味し、回転速度の負は、モータ2の逆回転の回転速度を意味する。また、
図7において、トルククランプ値の正は、正側トルククランプ値を意味し、トルククランプ値の負は、負側トルククランプ値を意味する。
【0105】
図7に示すように、モータ2の回転速度における低速領域から中速領域では、第2トルククランプ値がトルククランプ値T_clampとして選択され、モータ2の高速領域では、第1トルククランプ値がトルククランプ値T_clampとして選択されている。それに合わせて、
図8に示すように、電圧指令ベクトルの大きさも、モータ2の低速領域から中速領域では、第2トルククランプ値を用いて生成された電圧指令から得られる電圧指令ベクトルの大きさであり、モータ2の高速領域では、第1トルククランプ値を用いて生成された電圧指令から得られる電圧指令ベクトルの大きさである。
図7において、トルククランプ値の絶対値は、PWM駆動制御におけるモータ2の電圧指令ベクトルの大きさの最大値に対応するトルククランプ値以下である。
【0106】
ここで、モータ2の回転速度における低速領域から中速領域が、モータ2の始動領域である。すなわち、前記始動領域は、
図7において、第2トルククランプ値がトルククランプ値T_clampとして選択される領域である。また、モータ2の回転速度における低速領域から中速領域においてトルククランプ値T_clampとして選択される第2トルククランプ値が、始動時制限値であり、モータ2の回転速度における高速領域においてトルククランプ値T_clampとして選択された第1トルククランプ値が、通常時制限値である。
【0107】
本実施形態の構成により、
図7に示すように、モータ2の回転速度における前記始動領域では、トルククランプ値を、それ以外の領域のトルククランプ値よりも大きくすることができる。しかも、前記始動領域におけるトルククランプ値を、モータ2を継続して回転可能な値よりも大きな値、すなわちモータ2を加速可能な値に設定することができる。
【0108】
また、本実施形態の構成により、
図8に示すように、モータ2の全回転速度領域において、v
Limit*以上の電圧ベクトルを生成できる。
【0109】
このように、本実施形態のトルククランプ生成部40を用いてトルククランプ値を生成することにより、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42でそれぞれ生成されたトルククランプ値から、モータ2の回転速度に応じて合成されたトルククランプ値が得られる。よって、モータ2の低速領域から中速領域では、高速領域に比べて、トルククランプ値を大きくすることができるとともに、トルククランプ値を、モータ2を継続して回転可能な値よりも大きな値、すなわちモータ2を加速可能な値に設定することができる。
【0110】
したがって、モータ2の始動領域を含む領域において、モータ2により大きな電圧指令を入力することができ、モータ2を安定して加速させることができる。よって、モータ2を安定して駆動させることができる。
【0111】
(電圧指令生成の動作)
次に、電圧指令生成の動作を、
図9を用いて説明する。
図9は、トルククランプ生成部40及び指令生成部10による電圧指令生成の動作を示すフローチャートである。
【0112】
図9に示すフローがスタートする(START)と、ステップS1で、トルククランプ生成部40の第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42が、それぞれ、回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度N_FBを取得する。
【0113】
続くステップS2では、第1トルククランプ生成部41が第1トルククランプ値を生成するとともに、第2トルククランプ生成部42が第2トルククランプ値を生成する。なお、第1トルククランプ生成部41は、第1トルククランプ値として、正側トルククランプ値及び負側トルククランプ値を生成する。第2トルククランプ生成部42は、第2トルククランプ値として、正側トルククランプ値及び負側トルククランプ値を生成する。その後、ステップS3からS5において、トルククランプ選択部43が、第1トルククランプ値及び第2トルククランプ値のうち、絶対値が大きい値をトルククランプ値T_clampとして選択して、トルク指令生成部11に出力する。
【0114】
具体的には、ステップS3で、トルククランプ選択部43は、第2トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の絶対値よりも大きいかどうかを判定する。なお、トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ値の正側トルククランプ値の絶対値と、第2トルククランプ値の正側トランククランプ値の絶対値とを比較するとともに、第1トルククランプ値の負側トルククランプ値の絶対値と、第2トルククランプ値の負側トランククランプ値の絶対値とを比較する。
【0115】
トルククランプ選択部43は、ステップS3で第2トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の絶対値よりも大きいと判定した場合(YESの場合)には、ステップS4で、第2トルククランプ値を、トルククランプ値T_clampとして選択する。
【0116】
具体的には、トルククランプ選択部43は、第2トルククランプ値の正側トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の正側トルククランプ値の絶対値よりも大きい場合には、第2トルククランプ値の正側トルククランプ値を、正側のトルククランプ値T_clampとして出力する。また、トルククランプ選択部43は、第2トルククランプ値の負側トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の負側トルククランプ値の絶対値よりも大きい場合には、第2トルククランプ値の負側トルククランプ値を、負側のトルククランプ値T_clampとして出力する。
【0117】
一方、トルククランプ選択部43は、ステップS3で第2トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の絶対値以下であると判定した場合(NOの場合)には、ステップS5で、第1トルククランプ値を、トルククランプ値T_clampとして選択する。
【0118】
具体的には、トルククランプ選択部43は、第2トルククランプ値の正側トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の正側トルククランプ値の絶対値以下の場合には、第1トルククランプ値の正側トルククランプ値を、正側のトルククランプ値T_clampとして出力する。また、トルククランプ選択部43は、第2トルククランプ値の負側トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の負側トルククランプ値の絶対値以下の場合には、第1トルククランプ値の負側トルククランプ値を、負側のトルククランプ値T_clampとして出力する。
【0119】
トルククランプ選択部43は、ステップS4,S5でトルククランプ値T_clampを選択した後、第1トルククランプ値及び第2トルククランプ値のうちいずれの値を選択したかという情報を、トルク選択信号T_selとして出力する。
【0120】
なお、トルククランプ選択部43は、回転速度指令N
*と回転速度検出部60から出力されたモータ2の回転速度N_FBとの回転速度偏差ΔNが負であった場合、モータ2の回転速度N_FBが回転速度指令N
*を超過しているため、モータ2に負のトルクを出力させるように、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42のうち負側トルククランプ値を選択したトルククランプ生成部に対応する信号を、トルク選択信号T_selとして出力する。
【0121】
一方、トルククランプ選択部43は、回転速度偏差ΔNが正であった場合、モータ2の回転速度N_FBが回転速度指令N
*に達していないため、モータ2に正のトルクを出力させるように、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42のうち正側トルククランプ値を選択したトルククランプ生成部に対応する信号を、トルク選択信号T_selとして出力する。
【0122】
ステップS6では、トルク指令生成部11が、回転速度偏差ΔNと、ステップS4,S5でトルククランプ選択部43から出力されたトルククランプ値T_clampとに基づいて、トルク指令T
*を生成する。
【0123】
続くステップS7では、電流指令生成部14及びトルク/電流変換部15が、それぞれ、トルク指令生成部11で生成されたトルク指令T
*に基づいて、q軸電流指令及びd軸電流指令を生成する。電流指令生成部14及びトルク/電流変換部15でそれぞれ生成されたq軸電流指令は、q軸電流選択部16に出力され、電流指令生成部14及びトルク/電流変換部15でそれぞれ生成されたd軸電流指令は、d軸電流選択部17に出力される。
【0124】
なお、トルク指令生成部11から電流指令生成部14に入力されるトルク指令は、電流指令生成部14で許容されている許容入力範囲内のトルク指令T1
*である。トルク指令生成部11からトルク/電流変換部15に入力されるトルク指令は、トルク指令T
*と同じトルク指令T2
*である。
【0125】
その後、ステップS8からS10で、q軸電流選択部16は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selに基づいて、電流指令生成部14またはトルク/電流変換部15で生成されたq軸電流指令のうちいずれか一方を選択する。また、ステップS8では、d軸電流選択部17は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selに基づいて、電流指令生成部14またはトルク/電流変換部15で生成されたd軸電流指令のうちいずれか一方を選択する。
【0126】
具体的には、ステップS8で、q軸電流選択部16及びd軸電流選択部17は、トルク選択信号T_selが第2トルククランプ値に対応しているかどうか、すなわち、トルククランプ選択部43が第2トルククランプ値を選択したかどうかを判定する。
【0127】
ステップS8で、トルククランプ選択部43が第2トルククランプ値を選択したと判定された場合(YESの場合)には、ステップS9で、q軸電流選択部16及びd軸電流選択部17は、トルク/電流変換部15で生成されたq軸電流指令及びd軸電流指令を選択する。一方、ステップS8で、トルククランプ選択部43が第1トルククランプ値を選択したと判定された場合(NOの場合)には、ステップS10で、q軸電流選択部16及びd軸電流選択部17は、電流指令生成部14で生成されたq軸電流指令及びd軸電流指令を選択する。選択されたq軸電流指令及びd軸電流指令は、q軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*として電圧指令算出部13に出力される。
【0128】
その後、ステップS11に進んで、電圧指令算出部13は、q軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*に基づいてq軸電圧指令vq
*及びd軸電圧指令vd
*を算出して出力する。その後、このフローを終了する(END)。
【0129】
ここで、ステップS1が回転速度取得工程に対応し、ステップS2が第1制限値生成工程及び第2制限値生成工程に対応する。また、ステップS3からS5が制限値選択工程に対応し、ステップS7からS10が指令信号出力工程に対応し、ステップS11が電圧指令算出工程に対応する。
【0130】
以上より、本実施形態では、トルク指令を生成する際に用いるトルククランプ値T_clampを、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42によって生成される第1トルククランプ値及び第2トルククランプ値を用いて生成することができる。すなわち、第1トルククランプ生成部41及び第2トルククランプ生成部42によって、前記トルククランプ値をモータ2の回転速度に応じて適切な値に切り替えることができる。
【0131】
したがって、モータ2の回転速度における始動領域では、トルククランプ値を、モータ2の回転を加速可能なトルククランプ値に設定する一方、それ以外の領域では、モータ2の特性に応じたTN曲線のトルククランプ値に設定することが可能になる。これにより、前記始動領域では、トルククランプ値を、それ以外の領域のトルククランプ値よりも大きく且つモータ2を加速可能な値に設定することができる。
【0132】
よって、モータ2に流れる電流を用いることなくPWM駆動制御を行う、いわゆる電流センサレス制御において、モータ2の回転速度における始動領域では、モータ2に対して、モータ2を加速させるような大きな電圧指令を入力することができる。したがって、モータ2の回転速度における始動領域でも、モータ2を速度指令に追従させて駆動させることができる。これにより、いずれの回転速度領域においても、モータ2を安定して駆動させることができる。
【0133】
ところで、一般に、電圧指令を生成するための電流指令は、電流指令テーブルを用いて生成されることが多い。そのため、上述の構成のようにトルククランプ値T_clampを変えるのではなく、前記電流指令テーブルにおいて電流指令を増やすことも考えられる。しかしながら、そのためには、電流フィードバックを行わない電流センサレス制御において、電流フィードバック制御で用いる電流指令テーブルとは全く異なる新たな電流指令テーブルを作成する必要があり、膨大なデータの準備などに多くの労力を必要とする。
【0134】
これに対し、本実施形態のようにモータ2の回転速度における始動領域ではトルククランプ値を変えることにより、従来の電流指令テーブルをそのまま流用することが可能になる。よって、電流フィードバックを行うことなくPWM駆動制御を行うモータ2の制御装置1において、いずれの回転速度領域においてもモータ2を安定して駆動させることができる構成を、簡単な構成によって実現できる。
【0135】
また、本実施形態では、前記第2トルククランプ値は、モータ2の回転速度における始動領域において、PWM駆動制御の電圧指令ベクトルの大きさの最大値に対応するトルククランプ値以下である。これにより、モータ2の回転速度における始動領域において、モータ2に対して最も大きな電圧指令を入力することが可能になる。よって、モータ2を速度指令に対してより確実に追従させることができる。
【0136】
[実施形態2]
図10に、実施形態2に係る制御装置において、回転速度指令から電圧指令を生成するまでの構成をブロック図で示す。この実施形態は、トルククランプ選択部43から出力されるトルク選択信号T_selが電流指令生成部114及びトルク/電流変換部115に入力される点で、実施形態1の構成とは異なる。以下では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0137】
図10に示すように、指令生成部110は、トルク指令生成部11と、電流指令設定部112と、電圧指令算出部13とを有する。指令生成部110では、トルククランプ選択部43から出力されるトルク選択信号T_selは、電流指令生成部114及びトルク/電流変換部115に入力される。
【0138】
電流指令生成部114及びトルク/電流変換部115は、それぞれ、トルク選択信号T_selに応じて、電流指令の生成の要否を判定する。すなわち、トルク選択信号T_selが第1トルククランプ値を選択したことを示す信号である場合には、電流指令生成部114はq軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*を生成する一方、トルク/電流変換部115は電流指令を生成しない。トルク選択信号T_selが第2トルククランプ値を選択したことを示す信号である場合には、トルク/電流変換部115はq軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*を生成する一方、電流指令生成部114は電流指令を生成しない。
【0139】
なお、上述以外の電流指令生成部114の構成は、実施形態1の電流指令生成部14の構成と同様である。同様に、上述以外のトルク/電流変換部115の構成は、実施形態1のトルク/電流変換部15の構成と同様である。よって、電流指令生成部114及びトルク/電流変換部115の詳しい構成については、説明を省略する。
【0140】
本実施形態の構成により、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selによって、電流指令を選択的に生成できるため、実施形態1におけるq軸電流選択部16及びd軸電流選択部17を省略することが可能になる。
【0141】
[実施形態3]
図11に、実施形態3に係る制御装置において、回転速度指令から電圧指令を生成するまでの構成をブロック図で示す。この実施形態では、指令生成部210の構成が、実施形態1における指令生成部10の構成とは異なる。以下では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0142】
図11に示すように、指令生成部210は、q軸電圧指令及びd軸電圧指令を算出した後、トルククランプ選択部43から出力されるトルク選択信号T_selに応じて、q軸電圧指令及びd軸電圧指令をそれぞれ選択する。
【0143】
具体的には、指令生成部210は、トルク指令生成部11と、電流指令設定部212と、電圧指令算出部213とを有する。
【0144】
電流指令設定部212は、電流指令生成部14と、トルク/電流変換部15とを有する。電流指令生成部14及びトルク/電流変換部15は、それぞれ、実施形態1の構成と同様、トルク指令生成部11から出力されたトルク指令に応じて、q軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*を生成する。
【0145】
電圧指令算出部213は、第1電圧指令算出部201(第1指令信号生成部)と、第2電圧指令算出部202(第2指令信号生成部)と、q軸電圧選択部203(指令信号選択部)と、d軸電圧選択部204(指令信号選択部)とを有する。
【0146】
第1電圧指令算出部201は、電流指令生成部14から出力されたq軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*と、電気角速度算出部から出力された電気角速度ωeとに基づいて、q軸電圧指令及びd軸電圧指令を算出する。第2電圧指令算出部202は、トルク/電流変換部15から出力されたq軸電流指令iq
*及びd軸電流指令id
*と、電気角速度算出部から出力された電気角速度ωeとに基づいて、q軸電圧指令及びd軸電圧指令を算出する。本実施形態では、第1電圧指令算出部201及び第2電圧指令算出部202でそれぞれ算出されたq軸電圧指令及びd軸電圧指令が、指令信号に対応する。なお、第1電圧指令算出部201及び第2電圧指令算出部202の構成は、それぞれ、実施形態1における電圧指令算出部13の構成と同様の構成であるため、詳しい説明を省略する。
【0147】
q軸電圧選択部203は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selに基づいて、第1電圧指令算出部201で算出されたq軸電圧指令及び第2電圧指令算出部202で算出されたq軸電圧指令のうち、一方のq軸電圧指令を選択する。
【0148】
具体的には、q軸電圧選択部203は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selが第1トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、第1電圧指令算出部201で生成されたq軸電圧指令を選択する。q軸電圧選択部203は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selが第2トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、第2電圧指令算出部202で生成されたq軸電圧指令を選択する。q軸電圧選択部203は、選択したq軸電圧指令を、q軸電圧指令vq
*として出力する。
【0149】
d軸電圧選択部204は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selに基づいて、第1電圧指令算出部201で算出されたd軸電圧指令及び第2電圧指令算出部202で算出されたd軸電圧指令のうち、一方のd軸電圧指令を選択する。
【0150】
具体的には、d軸電圧選択部204は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selが第1トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、第1電圧指令算出部201で生成されたd軸電圧指令を選択する。d軸電圧選択部204は、トルククランプ選択部43から出力されたトルク選択信号T_selが第2トルククランプ値を選択したことを示す信号の場合には、第2電圧指令算出部202で生成されたd軸電圧指令を選択する。d軸電圧選択部204は、選択したd軸電圧指令を、d軸電圧指令vd
*として出力する。
【0151】
本実施形態の構成によっても、モータ2の回転速度における始動領域では、トルククランプ値を、モータ2の回転を加速可能なトルククランプ値に設定する一方、それ以外の領域では、モータ2の特性に応じたTN曲線のトルククランプ値に設定することが可能になる。よって、モータ2の回転速度における始動領域でも、モータ2を速度指令に追従させて駆動させることができる。これにより、いずれの回転速度領域においても、モータ2を安定して駆動させることができる。
【0152】
[実施形態4]
図12に、実施形態4に係る制御装置において、回転速度指令から電圧指令を生成するまでの構成をブロック図で示す。この実施形態では、指令生成部310の構成が実施形態1における指令生成部10の構成とは異なる。以下では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0153】
モータ2としてSPM(Surface Permanent Magnet Motor)を用いる場合などに、モータ2の全速度領域において、d軸電流をゼロまたは固定値として速度制御を行う場合がある。この場合、電流指令テーブルを用いる必要がないため、実施形態1における電流指令生成部を省略することができる。
【0154】
本実施形態の構成は、上述のような場合において、実施形態1の構成から電流指令生成部を省略した構成である。
【0155】
具体的には、
図12に示すように、指令生成部310は、トルク指令生成部11と、電流指令設定部312と、電圧指令算出部13とを有する。電流指令設定部312は、トルク/電流変換部15を有する。トルク/電流変換部15には、d軸電流指令が固定値の場合には、該d軸電流指令が入力される。トルク/電流変換部15の構成は、実施形態1の構成と同様である。
【0156】
なお、モータ2がSPMの場合、既述の(9)式の右辺第2項で表されるリラクタンストルクをゼロとみなせば、トルク/電流変換部15に対するd軸電流指令の入力が不要である。
【0157】
本実施形態の構成により、d軸電流指令をゼロまたは固定値とする場合には、電流指令設定部312の構成を簡略化することができる。
【0158】
[実施形態5]
図13に、実施形態5に係る制御装置において、回転速度指令から電圧指令を生成するまでの構成をブロック図で示す。この実施形態では、指令生成部410が電流指令設定部を有しない点で、実施形態1における指令生成部10の構成とは異なる。以下では、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
【0159】
上述の実施形態4と同様にd軸電流をゼロまたは固定値とした場合、上述の(9)式におけるiq及びTe以外は、全て定数となる。
【0160】
よって、(9)式において、
Pn{φ+(Ld−Lq)id}=K(定数)
とすると、
iq・K=Te (12)
となる。
【0161】
このように、iqとTeは、比例関係を有するため、実施形態1の構成においてトルクをq軸電流に置き換えることが可能である。すなわち、本実施形態では、q軸電流が、出力トルク関連値に対応する。
【0162】
具体的には、
図13に示すように、指令生成部410は、q軸電流指令生成部411と、電圧指令算出部13とを有する。
【0163】
q軸電流指令生成部411は、回転速度指令N
*と回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度N_FBとの回転速度偏差ΔN、及び、後述のq軸電流クランプ生成部440から出力されるq軸電流クランプ値に基づいて、q軸電流指令iq
*を生成する。
【0164】
電圧指令算出部13には、ゼロまたは固定値のd軸電流指令id
*が入力される。電圧指令算出部13は、q軸電流指令生成部411で生成されたq軸電流指令iq
*と、入力されたd軸電流指令id
*とに基づいて、q軸電圧指令vq
*及びd軸電圧指令vd
*を算出する。
【0165】
また、本実施形態では、トルククランプ生成部の代わりに、q軸電流クランプ生成部440(制限値設定部)が設けられている。q軸電流クランプ生成部440は、q軸電流を制限するためのq軸電流クランプ値(制限値)を生成して、該q軸電流クランプ値をq軸電流指令生成部411に出力する。
【0166】
具体的には、q軸電流クランプ生成部440は、第1q軸電流クランプ生成部441(第1制限値生成部)と、第2q軸電流クランプ生成部442(第2制限値生成部)と、q軸電流クランプ選択部443(制限値選択部)とを有する。
【0167】
第1q軸電流クランプ生成部441は、回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度N_FBを用いて、第1q軸電流クランプ値(第1制限値)を生成する。なお、第1q軸電流クランプ生成部441は、第1q軸電流クランプ値として、正側q軸電流クランプ値及び負側q軸電流クランプ値を生成する。この第1q軸電流クランプ値は、実施形態1における第1トルククランプ値に対応する値である。
【0168】
第2q軸電流クランプ生成部442は、回転速度検出部60から出力されるモータ2の回転速度N_FBを用いて、第2q軸電流クランプ値(第2制限値)を生成する。なお、第2q軸電流クランプ生成部442は、第2q軸電流クランプ値として、正側q軸電流クランプ値及び負側q軸電流クランプ値を生成する。この第2q軸電流クランプ値は、実施形態1における第2トルククランプ値に対応する値である。
【0169】
q軸電流クランプ選択部443は、第1q軸電流クランプ生成部441で生成された第1q軸電流クランプ値及び第2q軸電流クランプ生成部442で生成された第2q軸電流クランプ値のうち、絶対値が大きい値を、q軸電流クランプ値として選択して出力する。
【0170】
なお、実施形態1におけるトルククランプ選択部43と同様、q軸電流クランプ選択部443は、第1q軸電流クランプ生成部441によって生成された正側q軸電流クランプ値及び第2q軸電流クランプ生成部442によって生成された正側q軸電流クランプ値のうち、絶対値が大きい正側q軸電流クランプ値を選択して出力する。また、q軸電流クランプ選択部443は、第1q軸電流ククランプ生成部441によって生成された負側q軸電流クランプ値及び第2q軸電流クランプ生成部442によって生成された負側q軸電流クランプ値のうち、絶対値が大きい負側q軸電流クランプ値を選択して出力する。
【0171】
上述のように、iqとTeとは比例関係であるため、制御上、q軸電流クランプ生成部440の各構成は、実施形態1におけるトルククランプ生成部40の各構成と等価である。すなわち、q軸電流クランプ生成部440の各構成は、(12)式によってトルクの代わりにq軸電流を用いる点以外、実施形態1のトルククランプ生成部40と同様の構成を有する。
【0172】
同様に、q軸電流指令生成部411も、実施形態1のトルク指令生成部11と、制御上、等価であり、(12)式によってトルクの代わりにq軸電流を用いる点以外、トルク指令生成部11と同様の構成を有する。
【0173】
本実施形態の構成によっても、モータ2の回転速度の始動領域において、モータ2を速度指令に追従させて駆動させることができる。これにより、いずれの回転速度領域においても、モータ2を安定して駆動させることができる。
【0174】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0175】
前記実施形態1から4では、第2トルククランプ生成部42は、PWM駆動制御における電圧指令ベクトルの大きさの最大値v
Limit*に対応するトルクを用いて、トルククランプ値(第2トルククランプ値)を生成する。しかしながら、トルククランプ値の算出に用いるトルクは、任意に設定された値であってもよい。なお、この場合でも、算出されるトルククランプ値が第1トルククランプ生成部41によって生成されるトルククランプ値よりも大きく且つモータ2の回転を継続するトルククランプ値よりも大きい値になるように、トルククランプ値の計算に用いるトルクを決める必要がある。
【0176】
前記実施形態1から4では、トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ値及び第2トルククランプ値のうち絶対値が大きい値を選択する際に、第2トルククランプ値の絶対値が第1トルククランプ値の絶対値よりも大きいかどうかを判定する。しかしながら、トルククランプ選択部43は、第1トルククランプ値の絶対値が第2トルククランプ値の絶対値よりも大きいかどうかを判定してもよい。
【0177】
前記実施形態1から3では、q軸電流選択部16及びd軸電流選択部17は、トルク選択信号T_selが第2トルククランプ値に対応しているかどうか、すなわち、トルククランプ選択部43が第2トルククランプ値を選択したかどうかを判定する。しかしながら、q軸電流選択部16及びd軸電流選択部17は、トルク選択信号T_selが第1トルククランプ値に対応しているかどうか、すなわち、トルククランプ選択部43が第1トルククランプ値を選択したかどうかを判定してもよい。
【0178】
前記各実施形態では、PWM信号生成部20は、電圧指令算出部13で算出されたq軸電圧指令vq
*及びd軸電圧指令vd
*に基づいて、PWM駆動制御のためのPWM信号を生成する。この場合には、制御装置は、
図1の制御ブロック図における回転速度検出部60からPWM信号生成部20までの信号伝達経路上に、位相を算出する位相算出部(図示せず)を有する。
【0179】
しかしながら、制御装置において、電圧指令生成部算出部で三相の電圧指令を生成し、PWM信号生成部に前記三相の電圧指令が入力されるようにしてもよい。この場合には、制御装置は、例えば、
図1の制御ブロック図における回転速度検出部60から電圧指令算出部13までの信号伝達経路上に、位相を算出する位相算出部を有する。
【0180】
前記各実施形態では、3相交流モータの駆動を制御する制御装置の構成について説明したが、この限りではなく、3相以外の複数相の交流モータの駆動を制御する制御装置に適用してもよい。すなわち、モータは、同期電動機であれば、どのような構成を有していてもよい。