【解決手段】このワニスは、樹脂と、平均粒子径の異なる2種類の麟片状の充填材を含み、平均粒子径の小さい充填材の平均粒子径が300〜400nmであり、平均粒子径の大きい充填材の平均粒子径が10〜20μmであり、平均粒子径の小さい充填材の比表面積が200〜500m
/gであり、平均粒子径の小さい充填材と平均粒子径の大きい充填材の比表面積の比が1.6〜2.7であり、充填材の充填率が7.0〜7.4重量%である、ことを特徴とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術ではワニスの厚みを厚くすれば絶縁性は良くなるが、反面、以下の問題が生じる。特許文献1では、水和アルミナを添加し難燃性や機械特性を改善しているが、難燃性を発揮するためにはワニス全体の60重量%以上の添加が必要で、その結果、機械強度は改善されるが、可とう性及び耐クラック姓は劣り、熱衝撃や振動などでクラックが入る危険性がある。
【0005】
回転機は小型化や軽量化が求められているが、無機充填材を多く添加するため、ワニスの比重が大きくなり、ワニス付着量も多いため、製品自体が重くなる。
【0006】
特許文献2では、無機充填材の充填率は45〜53重量%([wt%])あり熱衝撃や振動等でクラックが入る。
【0007】
破砕もしくは球状充填材では、粒子径によらずワニスに添加すると、充填材が沈降してしまう問題がある。沈降を防止するために、破砕もしくは球状充填材と、比表面積の大きな充填材(以下、沈降防止材と呼ぶこともある)を用いる方法があるが、破砕もしくは球状充填材の添加量が少な過ぎると、沈降防止材の効果が得られない問題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑み、絶縁に必要な厚みを確保しつつ、可撓性、耐クラック性を確保したワニスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記で述べたように、コイルの絶縁性と回転機の軽量化とを考慮すれば、ワニスを望ましい厚さとする必要がある。
【0010】
充填材を樹脂に加えることで、絶縁性は向上するが、充填率が高くなると粘度が高くなりワニスの厚みが増す。一方、充填材を加えることについて、充填材の沈降の問題が生ずる。充填材の沈降が生じれば、可撓性、耐クラック性に望ましくない影響を与える。
【0011】
まず、ワニスを好適な厚みとするには、充填率をある程度低い範囲で調整する必要がある。(充填率が高くなると粘度が高くなり、ワニスの厚みが厚くなるため)
【0012】
しかし、充填材1種だけを添加するだけでは充填材が沈降する。沈降防止のため、沈降防止材を加えても、所望の充填率(比較的低い)の範囲では効果がない。
【0013】
そこで本発明は、沈降防止材として機能する所定の粒子径をもつ2種類の充填材をつかい、かつ両充填材の比表面積の比及び粒子径の関係を調整するとともに、主剤である樹脂を含めたワニス全体に占める充填材の適切な重量比を追求することにより、所望の絶縁性、可撓性を得るに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係るワニスは、樹脂と、平均粒子径の異なる2種類の充填材を含み、平均粒子径の小さい充填材(以下、充填材Aと呼ぶこともある)の平均粒子径が350±50nmであり、平均粒子径の大きい充填材(以下、充填材Bと呼ぶこともある)の平均粒子径が15±5μmであり、充填材Aの比表面積が200〜500m
2/gであり、充填材Aと充填材Bの比表面積の比が1.6〜2.7であり、充填材の充填率が7.0〜7.4重量%であることを特徴とする。
【0015】
このような構成とすれば、ワニスを好適な厚み(100〜150μm)とすることができ、必要な絶縁性を確保しながら、充填材の沈降性、可撓性、耐クラック性を改善することができる。
【0016】
この場合、沈降をより効果的に防止するためには、鱗片状の形状である、充填材を使うことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以上説明した構成であるから、絶縁に必要な厚みを確保しつつ、可撓性、耐クラック性を確保したワニスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の一実施形態について表を参照して説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0019】
<ワニス>
本実施形態のワニスは、樹脂と、平均粒子径の異なる2種類の充填材を含み、充填材Aの平均粒子径が350±50nmであり、充填材Bの平均粒子径が15±5μmであり、充填材Aの比表面積が200〜500m
2/gであり、充填材Aと充填材Bの比表面積の比が1.6〜2.7であり、充填材の充填率が7.0〜7.4重量%であることを特徴とする。
【0020】
充填材の添加量が少量であっても、添加する充填材全ての比表面積が大きく、沈降が起こりにくい。また、好適な組み合わせとして、充填材の充填率を7.0〜7.4[wt%]にすることにより、十分な絶縁厚みと耐クラック性を有することができる。さらに、充填材Aと充填材Bの比表面積の比を1.6〜2.7にすることにより、充填材が沈降せず、撹拌容易性を有することができる。
【0021】
(樹脂)
この実施形態は、主剤である樹脂に充填材を添加した際の充填材の物理的な粒子径差等によってワニスの厚みと耐クラック性をコントロールしようとするものであるから、主剤である樹脂の種類は基本的に限定されない。
【0022】
(平均粒子径)
ふるい分け法を用い(JIS Z8801)、平均粒子径を求める。この平均粒子径を、顕微鏡法(JIS Z8900−1)を用いて割り出した厚みで割ることによりアスペクト比を求める。アスペクト比から比表面積が割り出される。
【0023】
(充填材)
充填材としては、絶縁性向上のためにフィラーとして用いられるものを適用することができる。特に酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、ルチル、チタニア、ベリリア、ドロマイトのうちから選択される一又はこれらの組合せを用いることができる。
【0024】
(鱗片状)
自然界に存在する鱗片状の充填材を未加工のまま用いている。
【0025】
破砕もしくは球状の充填材では、粒子径によらずワニスに添加すると、充填材が沈降してしまう問題がある。沈降を防止するために、破砕もしくは球状の充填材と、比表面積の大きな充填材(沈降防止材)を用いる方法があるが、破砕もしくは球状充填材の添加量が少な過ぎると、沈降防止材の効果が得られない。
【0026】
上記のように充填材が、1種類だと沈降が起こるため、少なくとも沈降防止材を含め、2種類の充填材を添加する必要がある。また上記より、充填材が粒状であると沈降が起こるため、充填材は大きな比表面積を有する必要がある。
【0027】
好ましくは、沈降防止材を含めた全ての充填材を鱗片状とすれは、充填材が粒状である場合に対して沈降防止の効果を高めることができる。
【0028】
(比表面積)
ある物体について単位質量あたりの表面積である。充填材Aの比表面積は200〜500m
2/gがよく、200m
2/g未満だと絶縁厚みが薄すぎて所望する絶縁性能が得られず、比表面積が500m
2/gより上だとワニスの厚みが大きくなりすぎクラックが発生する。
【0029】
(比表面積の比)
比表面積の比は1.6〜2.7が良い。比率が1.6未満だと充填材同士の粒子径差が小さく、沈降防止効果が無く、比率が2.7より上だと絶縁厚みが厚くなりすぎクラックが発生する。比表面積の比を1.6〜2.7にすることにより、充填材が沈降せず、撹拌容易性を有することができる。
【0030】
(充填率)
また、充填率は(充填材A+充填材Bの総重量)/(樹脂+充填材A+充填材Bの総重量)×100[wt%]によって求める。
【0031】
充填材の充填率は7.0〜7.4[wt%]が良い。充填率が7.0%未満だと、厚みが薄すぎて所望する絶縁性能が得られず、7.4[wt%]より高いと可撓性が失われる。充填材の充填率を7.0〜7.4[wt%]にすることにより、所望の絶縁厚み、可撓性、耐クラック性を有することができる。
【0032】
以上は、ワニスを以下の観点から評価した結果に基づく。
【0033】
(たわみ)
ワニスにより試験片(高さ4×幅10×長さ80mm)を作製し、上部及び下部を約15mm切り取り、JIS K6911−1995の曲げ強さ及び曲げ弾性率にて、試験片破断時のたわみを測定した。たわみが35mm未満では、可撓性、耐クラック性が十分ではなく、35mm以上とすることにより所望の可撓性、耐クラック性が得られる。
【0034】
(沈降性)
試験片(12.5角×高さ120mm)を作製し、上部及び下部を約15mm切り取り、JIS K7112−1999のA法(水中置換法)により密度を求め、沈降性として(下部の密度)/(上部の密度)を計算した。沈降性は1.00が理想的であるが、沈降性が1.03より高いと、可撓性、耐クラック性に問題が生じる。
【0035】
(厚み)
JIS C2103−2013の塗膜の付き方より測定を行った。厚みが100μm未満なら、所望の絶縁性が得られず、150μmを越えると、可撓性、耐クラック性に問題が生じる。
【0036】
実施例
以下、本発明の実施例及び比較例を、表1〜4を参照しつつ説明する。
(ワニス)
【0037】
[実施例1]
樹脂成分として、エポキシ樹脂の主剤(三菱化学製 jER806)、硬化剤(三菱化学製 jER871)、硬化剤(新日本理化製 リカシッドDDSA)、促進剤(旭化成イーマテリアルズ製 ノバキュアHX−3742)を配合比(phr)100対120対240対1で混合したものを用いた。充填材AはSukgyung AT Co.,Ltd.製 シリカ SG−HS300を用いた。充填材Aの平均粒子径(以下単に粒子径とする)350±50nmである。また、充填材Bは日本アエロジル製 アエロジル #200を用いた。充填Bの粒子径は15±5μmである。以下の実施例も同様である。
【0038】
そして、樹脂、比表面積が500[m
2/g]の充填材Aと、比表面積300[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.7で混合しワニスを得た。
【0039】
充填材Aと充填材Bの比表面積の比(以下単に比表面積の比とする)は1.7であり、充填率は7.1であり、沈降性は1.00であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは142[μm]であった。
【0040】
[実施例2]
樹脂、比表面積が500[m
2/g]の充填材Aと、比表面積250[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.5で混合しワニスを得た。比表面積の比は2.0であり、充填率は7.0であり、沈降性は1.00であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは125[μm]であった。
【0041】
[実施例3]
樹脂、比表面積が400[m
2/g]の充填材Aと、比表面積250[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.8で混合しワニスを得た。比表面積の比は1.6であり、充填率は7.2であり、沈降性は1.00であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは115[μm]であった。
【0042】
[実施例4]
樹脂、比表面積が400[m
2/g]の充填材Aと、比表面積150[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.6で混合しワニスを得た。比表面積の比は2.7であり、充填率は7.1であり、沈降性は1.00であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは108[μm]であった。
【0043】
[実施例5]
樹脂、比表面積が200[m
2/g]の充填材Aと、比表面積100[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.8で混合しワニスを得た。比表面積の比は2.0であり、充填率は7.4であり、沈降性は1.01であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは104[μm]であった。
【0044】
[比較例1]
樹脂、比表面積が600[m
2/g]の充填材Aと、比表面積250[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.9で混合しワニスを得た。比表面積の比は2.4であり、充填率は7.3であり、沈降性は1.03であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは163[μm]であった。
【0045】
[比較例2]
樹脂、比表面積が500[m
2/g]の充填材Aと、比表面積150[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.9で混合しワニスを得た。比表面積の比は3.3であり、充填率は7.3であり、沈降性は1.00であり、撓みは12[mm]であり、厚みは157[μm]であった。
【0046】
[比較例3]
樹脂、比表面積が400[m
2/g]の充填材Aと、比表面積300[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.8で混合しワニスを得た。比表面積の比は1.3であり、充填率は7.2であり、沈降性は1.05であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは118[μm]であった。
【0047】
[比較例4]
樹脂、比表面積が400[m
2/g]の充填材Aと、比表面積250[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.4で混合しワニスを得た。比表面積の比は1.6であり、充填率は6.9であり、沈降性は1.03であり、撓みは35[mm]以上であり、厚みは81[μm]であった。
【0048】
[比較例5]
樹脂、比表面積が400[m
2/g]の充填材Aと、比表面積150[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対3.1で混合しワニスを得た。比表面積の比は2.7であり、充填率は7.5であり、沈降性は1.07であり、撓みは16[mm]であり、厚みは155[μm]であった。
【0049】
[比較例6]
樹脂、比表面積が150[m
2/g]の充填材Aと、比表面積80[m
2/g]の充填材Bを重量比で、100対5.0対2.6で混合しワニスを得た。比表面積の比は1.9であり、充填率は7.1であり、沈降性は1.07であり、撓みは17[mm]であり、厚みは79[μm]であった。