【解決手段】 面上に並べられた多数のプリズム部10は、屈折させた光を照射領域最外部R1に照射する第一のプリズム部10Aと、光軸Aを挟んで第一のプリズム部10Aとは反対側に位置する第二のプリズム部10Bとを含み、第二のプリズム部10Bは、光軸Aを挟んで反対側の照射領域最外部R1に光を照射する。第二のプリズム部10Bの屈折面は、照射領域最外部Rに入射する光の波長の光軸Aに垂直な方向における分布が、第一のプリズム部10Bから照射領域最外部R1に入射する光の光軸Aに垂直な方向における波長の分布に対して逆になるよう与えられている。
請求項1乃至4いずれかに記載のフレネルレンズと、当該フレネルレンズの光軸に対して垂直な方向で見た際に点光源とみなせる光源とを備えたことを特徴とする照明装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周知のように光の屈折には波長依存性があり、この点が製品の性能において問題となることがある。この問題は、結像性能の観点では色収差と呼ばれるが、フレネルレンズを採用した製品でも波長依存性が問題となることがある。即ち、フレネルレンズを構成する各プリズム部は、通常のプリズムと同様に波長分散(色分散)作用が生じており、この影響が出てしまうことがある。
【0005】
例えば、光源の出射側にフレネルレンズを配置して所望のパターンで照明する照明装置が広く知られている。この種の照明装置では、照射パターンの周縁の部分で虹色の光が視認されることがある。フレネルレンズの各プリズム部では、波長分散によって各波長の光が異なる角度で出射する。この場合、照射面では隣り合うプリズム部からの光が重なり合うため、特に問題とはならないが、照射パターンの最外部では、端部のプリズム部からの光のみであって光の重なりが無いか又は少なくなるので、プリズムによる分光の場合と同様に各色の光が分かれた状態で視認され易くなる。このような照射状態は、特に性能上問題がない場合でも見栄えが悪いので改良すべきとされることが多い。また、製品の外観検査用の照明装置のように各波長の光が十分に均一に混ざり合った状態で照射することが要求される分野では、技術的な観点からも問題となり得る。
【0006】
通常のレンズでは、凸レンズと凹レンズとを組み合わせた色消しレンズの構成が広く知られており、この構造が採用されている製品も多い。上述したフレネルレンズにおいてもこの構造を採用することが可能である。即ち、色消しレンズにおける凸レンズと凹レンズとをそれぞれフレネルレンズで構成すれば良い。しかしながら、この構造では、フレネルレンズが二枚必要になってしまい、コンパクト化というフレネルレンズの特徴が減殺されることになってしまう。
本願の発明は、このような課題を解決するために為されたものであり、コンパクト化というフレネルレンズの特徴を減殺することなく波長分散の問題を解決し、各種製品に搭載された場合でも性能や見栄えの点で問題を招くことのないフレネルレンズを提供し、またそのようなフレネルレンズの優位性を活かした製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、多数のプリズム部を面上に並べて成り、光を屈折させて所定の形状の照射領域に照射するフレネルレンズであって、
多数のプリズム部は、屈折させた光を照射領域最外部に照射する第一のプリズム部と、光軸を挟んで第一のプリズム部とは反対側に位置する第二のプリズム部とを含んでおり、
第二のプリズム部は、光を屈折させて光軸を挟んで反対側の照射領域最外部に照射するプリズム部であり、
第二のプリズム部の屈折面は、照射領域最外部に入射する光の波長の光軸に垂直な方向における分布が、第一のプリズム部から照射領域最外部に入射する光の光軸に垂直な方向における波長の分布に対して逆になるよう与えられた屈折面であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記多数のプリズム部は、第三のプリズム部を含んでおり、
第三のプリズム部は、前記第二のプリズム部が他のプリズム部とともに全体として所定のレンズ作用を為す形状であった場合に照射する位置を照射する形状となっているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記多数のプリズム部は、第三のプリズム部を含んでおり、
第三のプリズム部は、前記第二のプリズム部が前記照射領域最外部に光を照射する際の照射距離とは異なる照射距離において照射領域最外部に光を照射するプリズム部であり、
第三のプリズム部の屈折面は、当該照射領域最外部に入射する光の波長の光軸に垂直な方向における分布が、第一のプリズム部から当該照射領域最外部に入射する光の光軸に垂直な方向における波長の分布に対して逆になるよう与えられた屈折面であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記多数のプリズム部は、第三のプリズム部を含んでおり、
第三のプリズム部は、前記第二のプリズム部が他のプリズム部とともに全体として所定のレンズ作用を為す形状であった場合に照射する位置を照射する形状となっているとともに、
第三のプリズム部は、前記第二のプリズム部が前記照射領域最外部に光を照射する際の照射距離とは異なる照射距離において照射領域最外部に光を照射するプリズム部であり、
第三のプリズム部の屈折面は、当該照射領域最外部に入射する光の波長の光軸に垂直な方向における分布が、第一のプリズム部から当該照射領域最外部に入射する光の光軸に垂直な方向における波長の分布に対して逆になるよう与えられた屈折面であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項1乃至4いずれかに記載のフレネルレンズと、当該フレネルレンズの光軸に対して垂直な方向で見た際に点光源とみなせる光源とを備えた照明装置であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、太陽光を集光するフレネルレンズと、フレネルレンズによる集光位置に配置された太陽電池とを備えた太陽光発電装置であって、
フレネルレンズは、多数のプリズム部を面上に並べて成るものであり、
多数のプリズム部は、正面で見た際に左側において光軸から最も遠い位置に位置する左端プリズム部と、右側において光軸から最も遠い位置に位置する右端プリズム部とを含んでおり、
左端プリズム部の屈折面は、屈折して出射する光が波長分散した際の波長分散の幅が太陽電池の受光面において当該受光面の幅以上となる屈折面であり、
右端プリズム部の屈折面は、屈折して出射する光が波長分散した際の波長分散の幅が太陽電池の受光面において当該受光面の幅以上となる屈折面であり、
左端プリズム部の屈折面と右端プリズム部の屈折面とは、太陽電池の受光面において波長分散の向きが互いに逆となるように太陽光を屈折させる屈折面であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、光源と、光源からの光を前方に投影する投影レンズとを備えた車両用前照灯であって、
投影レンズは、多数のプリズム部で形成されたフレネルレンズより成るものであり、
フレネルレンズの各プリズム部の一方の面は、全体として所定のレンズ作用を為すレンズ面であり、他方の面は透過型の回折格子面であるという構成を有する。
【発明の効果】
【0008】
以下に説明する通り、本願の請求項1記載の発明によれば、照射領域最外部で波長分散補償が行われるので、虹色の照射パターンは視認されなくなる。このため、見栄えが悪くなったり、波長依存性の問題が生じたりすることがなくなる。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、波長分散補償に起因した照度の不均一化が防止される。
また、請求項3記載の発明によれば、上記効果に加え、異なる照射距離での照射領域最外部の波長分散補償が実現され、異なる照射距離において、見栄えが悪くなったり波長依存性の問題が生じたりすることがないという効果が得られる。
また、請求項4記載の発明によれば、上記効果に加え、波長分散補償に起因した照度の不均一化が防止される。加えて、異なる照射距離での照射領域最外部の波長分散補償が実現され、異なる照射距離において、見栄えが悪くなったり波長依存性の問題が生じたりすることがないという効果が得られる。
また、請求項5記載の発明によれば、上記各効果が発揮される照明装置が提供される。
また、請求項6記載の発明によれば、各プリズム部からの光について波長分散がキャンセルされ、受光面内での分光スペクトル分布のばらつきが防止される。このため、局所的な発電性能の低下による全体の発電効率の悪化の問題を解決した構成が防止される。
また、請求項7記載の発明によれば、上記効果に加え、フレネルレンズを投影レンズとして採用しているので、全体として軽量となり、構造がコンパクト化する。この点は、車両の軽量化、コンパクト化に貢献し、燃費向上等の効果をもたらす。また、波長分散の解消により色むらの発生が抑制されているので、前方の照明状態の見栄えが悪くなったり色むらで見づらくなったりする問題がない。この際、フレネルレンズの非レンズ面を回折格子面とすることで波長分散を解消させるので、さらなる軽量化、コンパクト化が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、第一の実施形態のフレネルレンズの正面断面概略図である。
実施形態のフレネルレンズ1は、多数のプリズム部10を面上に並べて成るものであり、各プリズム部10における光の屈折作用により全体としてレンズ作用を為すものである。「面上に並べて成る」は、各プリズム部10がある仮想的な面に沿って連なっているという意味であり、この面は、この実施形態では平面であるが、曲面の場合もある。以下、この仮想面を主面という。フレネルレンズ1は全体としてシート状であり、各プリズム部10は、シートの一方の側に位置する入射面11と、他方の側に位置する出射面12とを有する。
【0011】
フレネルレンズ1では、光軸という概念が観念される。
図1に示すように、光軸Aは、主面Sに対して垂直な軸である。各プリズム部10は、光軸に対して所定の位置に所定の形状で形成されることで所定のレンズ作用を全体として為す。この実施形態では、いわゆるサーキュラーフレネルであり、各プリズム部10は、光軸Aを中心とした同心円状に形成されている。
【0012】
この実施形態では、フレネルレンズ1は、照明装置に使用されることが想定されている。以下の説明は、照明装置の発明の実施形態の説明でもある。
図1に示すように、照明装置は、光源2とフレネルレンズ1とを備えており、光源2からの多波長の光をフレネルレンズで屈折させて所定の形状の照射領域Rに照射するものとなっている。光源2は、この実施形態では点光源であり、光軸A上に配置される。フレネルレンズ1は、点光源である光源2からの光の広がりを小さくし、所定の照射領域Rに照射するものとして採用される。
【0013】
図1では、フレネルレンズ1は、光源2からの光を平行光にして照射領域Rに照射するものとして描かれているが、これは一例であり、少し集光しながら小さい照射領域Rに照射する場合もあるし、少し広げながら大きな照射領域Rに照射する場合もある。
この実施形態のフレネルレンズ1は、平凸レンズと等価なレンズ作用を為すものである。即ち、各プリズム部10の入射面11は主面Sと平行な平坦面であり、出射面12は凸面を細かく分割した各面に近似させた斜面となっている。
【0014】
このようなフレネルレンズ1は、上述した波長分散の問題を解消させる構造を有している。以下、この点について説明する。
この実施形態のフレネルレンズは、平凸レンズと等価なものであるので、
図1に示すように、最も外側(最も光軸Aから離れた位置)に位置するプリズム部(以下、第一のプリズム部という。)10Aから出射する光は、照射領域Rの最も外側の位置(以下、照射領域最外部)R1に照射される。そして、従来のフレネルレンズでは、第一のプリズム部10Aからの光による照射領域最外部R1が、波長分散によって虹色の照射状態となる。
【0015】
この実施形態では、第一のプリズム部10Aにおける波長分散を補償するため、第一のプリズム部10Aに対して光軸Aを挟んで反対側に位置する第二のプリズム部10Bにおいて特別の構成を採用している。
図1に示すように、光軸Aが上下方向となるようにフレネルレンズ1が配置されたとすると、第二のプリズム部10Bは、通常の設計では、そのほぼ直下の位置に光が到達するように出射面の角度が選定される。しかしながら、この実施形態では、線L
2で示すように、第二のプリズム部10Bは、光軸Aを挟んで反対側の照射領域最外部R1を照射するよう出射面12の角度が選定されている。
【0016】
第一のプリズム部10Aから出射されて照射領域最外部R1に照射される光をL
1とすると、第二のプリズム部10Bから出射される光L
2は、光軸Aを挟んで反対側からの光であるため、波長分散の無向きが逆となる。即ち、
図1に示すように、第一のプリズム部10Aからの光L
1による照射パターンでは、光軸Aに近い順にλ
1,λ
2,・・・,λ
n−1,λ
n(λ
1<λ
2<・・・<λ
n−1<λ
n)であるのに対し、第二のプリズム部10Bからの光L
2による照射パターンでは、光軸Aから近い順にλ
n,λ
n−1,・・・λ
2,λ
1であり、ちょうど逆の関係になる。このため、色消しによる色消しと同様の状態となり、照射領域最外部R1において虹色の照射パターンは視認されなくなる。
【0017】
尚、第一のプリズム部10Aとも第二のプリズム部10Bとも光軸Aを中心として同心円周状に延びているので、
図1に示すように、正面視では、第二のプリズム部10Bのうち左側の部分からの光L
2は照射領域最外部R1のうちの右側の部分を照射して色消しを行い、第二のプリズム部10Bのうちの右側の部分からの光L
2は照射領域最外部R1のうちの左側の部分を照射して色消しを行う。
実施形態のフレネルレンズ1は、光源2からの光の拡散を抑えて照射領域Rに光が照射されるように光を屈折させるが、この際、上記のように照射領域最外部R1では色消しが行われるので、虹色の照射パターンは視認されなくなる。このため、見栄えが悪くなったり、波長依存性の問題が生じたりすることがなくなる。
尚、各実施形態において、フレネルレンズ1は、アクリル樹脂のようなプラチック製であり、板材を加熱しながら金型で挟み込んで成型する熱間プレス等の方法により製作される。
【0018】
次に、第二の実施形態のフレネルレンズについて説明する。
図2は、第二の実施形態のフレネルレンズの正面断面概略図である。
第二の実施形態では、周辺部に位置する複数のプリズム部10Aについて波長分散の補償が行われるようになっている。即ち、
図2に示すように、この実施形態では、虹色の照射パターンが現れる照射領域最外部R1に対しては、周辺部の複数個のプリズム部(以下、第一の群のプリズム部という。)10Aからの光が到達する設計となっている。
【0019】
そして、この実施形態においても、光軸Aを挟んで第一の群のプリズム部10Aとは反対側に位置するプリズム部10Bにおいて照射領域最外部R1の波長分散を補償する設計が行われるが、その設計は、複数のプリズム部(以下、第二の群のプリズム部)10Bに対して行われている。即ち、出射する光L
2が照射領域最外部R1を照射するよう第二の群のプリズム部10Bの各出射面12が設計されている。
【0020】
この実施形態でも、照射領域最外部R1において波長分散の影響で見栄えが悪くなったり、波長依存性の問題が生じたりすることがなくなる。第二の実施形態の構成は、レンズ全体としての焦点距離や照射距離等の影響で色収差の影響が周辺部の比較的広い領域において生じてしまう場合に採用される。
【0021】
尚、
図2に示す例では、第一の群のプリズム部10Aの数と第二の群のプリズム部10Bの数は同じであったが、異なる数の場合もある。1個の第一のプリズム部10Aに対して複数個の第二のプリズム部10Bを波長分散補償用とする場合もあるし、複数個の第一のプリズム部(第一の群のプリズム部)10Aに対して1個の第二のプリズム部10Bとする場合もある。
【0022】
次に、第三の実施形態のフレネルレンズについて説明する。
図3は、第三の実施形態のフレネルレンズの正面断面概略図である。
第三の実施形態のフレネルレンズは、第一第二の実施形態のフレネルレンズを改良し、照射領域Rにおける照度の均一性を向上させ、異なる照射距離においても波長分散補償の効果が得られるようにしている。
【0023】
具体的に説明すると、第三の実施形態のフレネルレンズは、第一の実施形態と同様に第一のプリズム部10Aによる照射領域最外部R1の波長分散を補償する第二のプリズム部10Bを備えている。
図3に示すように、第二のプリズム部10Bによる波長分散補償効果は、照射距離D
1において得られる。
第一第二の各プリズム部10に加え、第三の実施形態のフレネルレンズは、第三のプリズム部10Cを含んでいる。第三のプリズム部10Cは、第二のプリズム部10Bを本来の形状であった場合に照射する位置を照射する形状となっている。「本来の形状」とは、他のプリズム部10とともにフレネルレンズ全体として特定のレンズ作用を為す形状という意味である。この実施形態では平凸レンズであるので、平凸レンズを成す一つのセグメントとしての形状が「本来の形状」である。
【0024】
第三のプリズム部10Cは、第二のプリズム部10Bが本来の形状である場合に照射距離D
1において照射する領域に光を照射する形状となっている。
図3から解るように、第三のプリズム部10Cは、第二のプリズム部10Bを波長分散補償用としたことから生じる局所的な照度低下を補償するものとなっている。このため、波長分散補償を行いつつ照度の不均一化が抑制される。
【0025】
また、第三のプリズム部10Cは、異なる照射距離D
2において波長分散補償を行うのに兼用される形状となっている。即ち、第三のプリズム部10Cからの光L
3は、照射距離D
2において、照射領域最外部R1を照射する。このため、第三の実施形態の実施形態の照射距離D
2においても波長分散による問題が解決される。
【0026】
さらに、図示は省略するが、この実施形態のフレネルレンズは、第三のプリズム部10Cが本来の形状である場合に照射する位置に光を照射する第四のプリズム部を含んでいる。第四のプリズム部は、第三のプリズム部10Cに起因する照度低下を補償するとともに、照射距離D
2よりも長い照射距離において照射領域最外部R1の波長分散補償を行う形状となっている。
【0027】
各プリズム部10の上記作用は、出射面12の角度を光軸Aに対して適宜の角度とすることで達成される。第三の実施形態では、波長分散補償に起因した照度の不均一化が防止されるとともに異なる照射距離での照射領域最外部R1の波長分散補償を実現している。このため、波長分散の問題がない均一な照射パターンでの光照射を実現したり、任意の照射距離を選んで照射する際に照射領域最外部R1での波長分散を防止したりすることが可能となっている。
【0028】
上述した第一から第三の実施形態のフレネルレンズにおいて、各プリズム部10は光軸Aを中心とする同心円周状であるとしたが、互いに平行に延びる直線状(リニアフレネル)の場合もある。リニアフレネルの場合、光軸Aは各プリズム部10が延びる方向に平行な面状となる。また、フレネルレンズ全体の形状としては、円形以外に方形等の場合もあり得る。全体の形状が円形以外の場合で各プリズム部が同心円周状の場合、外側に位置するプリズム部が完全な円周状でない場合があり得るが、この場合、第一のプリズム部は、完全な円周状であるプリズム部のうちの最も外側のプリズム部である。
尚、第一から第三の実施形態において、第二のプリズム部10Bや第三のプリズム部10Cによる波長分散補償作用は、各入射面11の設計で実現される場合もある。即ち、出射面12を平坦面とし、入射面11を適宜の角度の斜面とすることでも実現できる。
【0029】
次に、太陽光発電装置の発明の実施形態について説明する。
図4は、実施形態の太陽光発明装置の正面断面概略図である。
図4に示す太陽光発電装置は、太陽電池3と、太陽光を集光して太陽電池に照射するフレネルレンズ1と、フレネルレンズ1と太陽電池3の間に配置されたコーン素子4を備えている。
フレネルレンズ1は、この実施形態では、同心円周状の多数のプリズム部10から成るサーキュラーフレネルである。フレネルレンズ1は、全体としては平凸レンズのような集光作用を為すレンズである。
【0030】
コーン素子4は、フレネルレンズ1による集光効率を高めるために配置されている。コーン素子4は、円錐状の部材の下半分を逆さにしたような形状及び配置の光学素子である。コーン素子4は、プリズムのように内部が詰まった素子(コーンレンズ)であり、周面での全反射を利用して光の利用効率を高めるものである。この他、筒状に形成されて内面が反射面とされた素子がコーン素子として配置される場合もある。
【0031】
第四の実施形態の太陽光発電装置は、波長分散の問題を解消して太陽電池3の性能を最大限に発揮させるための構成を採用している。以下、この点について
図4及び
図5を参照して具体的に説明する。
図5は、太陽光発電装置における波長分散の問題について示した正面概略図である。
周知のように、太陽電池3の発電特性には波長依存性がある。ピーク波長その他の波長依存性は材料により異なるものの、太陽電池3の受光面の各点では均一な分光スペクトル分布であることが好ましい。均一な分光スペクトル分布とは、各スペクトルの強度は異なるが、その異なり方(分布)が各点で均一であるということである。受光面内で局所的に分光スペクトル分布が異なると、各点で発電特性が異なることになり、太陽電池3全体として性能が低下し易い。
【0032】
フレネルレンズ1で太陽光を集光して太陽光発電を行う装置の場合、フレネルレンズ1は、太陽電池3の受光面の大きさに集光するものが使用される。フレネルレンズ1の各プリズム部10から出射する光は、波長分散しながら太陽電池3に到達する。この場合、
図5に示すように、従来の装置では、フレネルレンズ1の各プリズム部10からの波長分散光は太陽電池3の受光面で若干重なり合うものの、それぞれ別々の(完全には重なり合わない)パターンで照射される。この場合、一つの照射パターン内では光は波長分散しているから、受光面内では、局所的に分光スペクトル分布のばらつきが生じ易い。即ち、太陽光の本来の分光スペクトル分布とは異なる分布の箇所が受光面に出来易い。分光スペクトル分布のばらつきが生じる結果、局所的な発電性能の低下により発電効率が全体に悪くなる。
【0033】
この問題を解決するため、実施形態の太陽光発電装置は、フレネルレンズ1の設計と照射距離とを最適化し、受光面内で波長分散が補償されるように各照射パターンを重ね合わせている。
図4において、正面で見た際に左側において光軸から最も遠い位置に位置するプリズム部を左端プリズム部10Lと呼び、右側において光軸から最も遠い位置に位置するプリズム部10Rを右端プリズム部と呼ぶ。サーキュラーフレネルであるので、左端プリズム部10Lと右端プリズム部10Rは、一つの円周状のプリズム部10の一部である。
【0034】
そして、
図4において、左端プリズム部10Lの光をL
1とし、右端プリズム部10Rの部分からの光をL
2とする。そして、光L
1,L
2は屈折の際に波長分散し、波長に応じて広がりながら太陽電池3を照射する。
図4に、波長分散光L
1の太陽電池3の受光面での上の照射パターンをI
1で示し、波長分散光L
2による照射パターンをI
2で示す。
【0035】
光L
1と光L
2とは、光軸Aを挟んで互いに逆側からの光なので、波長分散の向きも逆である。即ち、光L
1,L
2の分光スペクトルをλ
1,λ
2,・・・,λ
n−1,λ
n(λ
1<λ
2<・・・<λ
n−1<λ
n)とすると、光L
1による照射パターンI
1では、右から左にλ
1,λ
2,・・・,λ
n−1,λ
nとなり、光L
2による照射パターンI
2では左から右にλ
1,λ
2,・・・,λ
n−1,λ
nとなる。このように逆向き波長分散している光が重ね合わされる結果、波長分散がキャンセルされ、分光スペクトル分布は受光面の各点で本来の太陽光のスペクトル分布となって均一化(均質化)される。
【0036】
尚、波長分散光L
1のうち、最も短い波長λ
1の光は最も右側の位置を照射し、最も長い波長λ
nの光は最も左側の位置を照射する。この最も右側の位置と最も左側の位置が分散波長幅であり、
図4に示すように、分散波長幅は太陽電池3の受光面の幅と同じかそれより長い。波長分散光L
2についても左右が逆になるだけで、波長分散幅は太陽電池3の受光面と同じかそれより長い。したがって、太陽電池3の受光面の全域において波長分散が補償され、受光面の各点において均質な光が照射される。
【0037】
上記説明では、左右のL
1,L
2について取り上げたが、左端プリズム部10L及び右端プリズム部10Rは一つの円周状のプリズム部であり、上記関係は、どの方向においても成立している。即ち、両側からの光が互いに重なる結果、波長分散がキャンセルされる。また、最も外側のプリズム部において上記のように両側からの光による照射パターンが完全に重なっているので、その内側の各プリズム部10においても同様に両側からの光による照射パターンは重なっている。即ち、全てのプリズム部10からの光について、波長分散がキャンセルされ、受光面内での分光スペクトル分布のばらつきが防止されている。このため、局所的な発電性能の低下による全体の発電効率の悪化の問題を解決した構成が防止される。但し、波長分散の影響は照射領域の最外部において出易いので、最も外側のプリズム部10において波長分散光が太陽電池3の受光面をカバーしていれば足り、その内側のプリズム部10においてはカバーしていなくても良い。
【0038】
上記のような左端プリズム部10Lからの波長分散光L
1と右端プリズム部10Rからの波長分散光L
2の完全な重なりのためには、レンズの設計と照射距離との関係が重要である。具体的な照射距離の一例を示すと、太陽電池3が10mm×10mm程度の場合、照射パターンは直径約10mmとされ、この場合のフレネルレンズの焦点距離は150mm程度で、各プリズム部10のピッチ幅(光軸Aに対して垂直な方向での幅)は0.1〜1mm程度とされる。この場合、照射距離を145〜155mm程度としておくと、上記関係が達成できる。
【0039】
次に、車両用前照灯の発明の実施形態について説明する。
図6は、実施形態の車両用前照灯の側面断面概略図である。
図6に示す車両用前照灯は、投影型であり、光源2と、投影レンズとを備えている。
光源2としては、LEDが採用されている。LEDである光源2は、複数個のものがユニット化されており、ハウジング内に搭載されている。光源ユニット20は、複数個の光源2を搭載したベース部21を含んでおり、ベース部21は、各光源2の点灯回路を含んでいる。
【0040】
複数個の光源2は、横一列に並べられたり、又は縦横に並べられたりして配置されている。ハウジング51内には、リフレクタ52が設けられている。投影レンズは、ハウジング51の内面にホルダー53により取り付けられており、光源2の前方に位置にしている。ハウジング51は、透明な前面カバー511を備えており、各光源2からの光は、リフレクタ52に反射しながら投影レンズにより前方に投射されるようになっている。
【0041】
実施形態の車両用前照灯の大きな特徴点は、投影レンズがフレネルレンズ1より成るものであり、且つそれ自体で色消しの作用を有していることである。具体的に説明すると、フレネルレンズ1は、この実施形態では、非球面レンズである凸レンズをフレネル化したものとなっている。即ち、フレネルレンズ1の各プリズム部10の出射面(レンズ面)12は、非球面レンズの凸面(非球面)を細かく分割して平面化したものとなっている。この実施形態では、非球面レンズの輪郭形状は円形であることを想定しており、したがって、出射面12はサーキュラーフレネルとなっている。
【0042】
そして、フレネルレンズ1の入射面11は、回折格子面となっている。ここでの回折格子面とは、回折格子において格子が形成された面と等価な面という意味である。回折格子面は、この実施形態では、透過型ブレーズド回折格子の格子面となっている。一例を示すと、回折格子面の格子定数は0.01〜1mm程度、ブレーズ角は0〜3度程度である。
【0043】
このようなフレネルレンズ1は、アクリル樹脂のようなプラスチック製であり、成型により製作されている。各光源2からの光は、非球面レンズと等価であるフレネルレンズ1の出射面12により所定のパターンで投影される。この際、フレネルレンズ1の入射面11が平坦面である場合、前述したのと同様に波長分散の影響が出て、投影されたパターンの周縁に虹色のような色むらが生じ易い。特に、LEDを光源2とした場合、放電ランプやハロゲンランプ等を光源2とした場合に比べると小さな点光源となるので、レンズによる光学作用(波長分散作用)が顕著に出やすい。
【0044】
この場合、実施形態の車両用前照灯では、フレネルレンズ1の入射面11が回折格子面となっているので、波長分散が解消され、色むらの発生が抑制される。即ち、入射面11(回折格子面)における波長分散と、出射面(レンズ面)12における波長分散とは向きが逆であるので、波長分散が解消される。解り易く言えば、回折格子面では波長が長いほど良く曲がるが、レンズ面では波長が短いほど良く曲がるので、投影面では互いに相殺されて色むらが無くなるのである。
【0045】
このような実施形態の車両用前照灯は、以下のような顕著な効果を有する。
まず、フレネルレンズ1を投影レンズとして採用しているので、全体として軽量となり、構造がコンパクト化する。この点は、車両の軽量化、コンパクト化に貢献し、燃費向上等の効果をもたらす。
【0046】
また、波長分散の解消により色むらの発生が抑制されているので、前方の照明状態の見栄えが悪くなったり色むらで見づらくなったりする問題がない。この際、実施形態の車両用前照灯では、フレネルレンズ1の非レンズ面を回折格子面とすることで波長分散を解消させているので、さらなる軽量化、コンパクト化が図られている。回折格子面による波長分散解消の構成としては、フレネルレンズ1とは別に回折格子を設ける構成が通常は考えられる。しかしながら、このようにすると、その分だけ重量が増してしまい、別途ホルダーが必要になるため構造的にも大がかりとなる。実施形態の車両用前照灯では、フレネルレンズ一枚で光の投影と波長分散解消が行えるので、さらなる軽量化、コンパクト化が図られている。
【0047】
また、回折格子による波長分散解消には、第一から第三の実施形態のフレネルレンズ1のような照射距離依存性がない。このため、様々な照射距離で前方を照明する必要がある車両用前照灯にとって特に好適な構成となっている。
尚、車両用前照灯における「車両」は、乗用車やトラック等の各種自動車の他、オートバイや電車車両等も含まれる。
【0048】
また、上記実施形態では、出射面12がレンズ面であり入射面11が回折格子面であったが、その逆でもあっても良いことは勿論である。即ち、上記の例では、光源2の側に凸の非球面レンズの等価な面を入射面11とし、出射面12を回折格子面としても良い。
尚、上記車両用前照灯において、レンズ面はサーキュラーフレネルであったが、リニアフレネルであっても良い。例えば、フレネルレンズ1の各プリズム部10が上下方向に延びて互いに平行なものであっても良く、水平方向に延びて互いに平行なものであっても良い。水平方向の光の広がりを抑えるだけで良いのであれば上下方向に長いリニアフレネルが採用され得るし、上下方向の光の広がりを抑えるだけで良いのであれば、水平方向に長いリニアフレネルが採用され得る。
【0049】
この他、サーキュラーフレネルの変形として、各プリズム部10が同心の楕円形の周状に延びる構造が採用されることもあり得る。例えば、楕円の長軸が水平方向に向いている配置で楕円フレネルが配置され、その非レンズ面を回折格子面とすることがあり得る。この構成は、例えば、LEDを横一列に並べたように光源ユニットの発光部が横長の場合に好適に採用され得る。「楕円」は幾何学的に厳密な意味の楕円には限られず、楕円に近似した形状の場合もあり得る。例えば、二つの半円を直線部で結んだ形状(陸上のランニングトラックの輪郭形状)であっても良い。
【0050】
尚、ハウジング51が前面カバー511を備えていてフレネルレンズ1が露出していない構成は、汚れ付着防止の観点で意義がある。フレネルレンズ1は、表面に細かな凹凸があるので、汚れが付着し易く、また汚れが取りにくい。この実施形態では、非レンズ面もブレーズ型回折格子面であるので、凹凸がある。汚れが付着すると、見栄えが悪い他、照明性能にも影響が出やすい。このため、前面カバー511を設けてフラットな面としておいて汚れの付着を防止したり汚れを取り易くしたりしておき、フレネルレンズ1は外部の露出しない構造としている。
【0051】
上記車両用前照灯では光源2はLEDであり、それとの関係で顕著な意義を有するが、光源2としてはLEDに限らず、放電ランプでも良くハロゲンランプでも良い。また、半導体レーザーのようなレーザー光源が光源2として採用されることもある。この場合も、レーザーとはいえ、ある程度の波長幅の光である場合が多いので、波長分散の問題が生じる場合があり、実施形態の構造のメリットが発揮される。レーザー光源が使用される場合、ビームエキスパンダが光源とフレネルレンズ1との間に配置されることが多い。
【0052】
尚、
図6に示すリフレクタ52等の構造はあくまで一例であり、車種や用途によって適宜変更される。リフレクタ52を使用しない構造もあり得るし、直射光を防止するために光源2の前方にシェードが配置されることもある。シェードが配置される場合、シェードは、光源2とフレネルレンズ1の間に配置される。
【0053】
また、光源2を前方に向けて配置せず、ハウジング51内で反射させてから(全ての光を反射光として)投射する構造が採用されることもあり得る。この場合は、反射して前方に向かう光路上にフレネルレンズ1が配置される。
尚、自動車用前照灯の場合、ハイビームとロービームとが義務づけられているので、ハイビーム用の光源とロービーム用光源とがハウジング内に配置される。この場合、それぞれの光源についてフレネルレンズが配置される場合もあるし、一つのフレネルレンズがハイビーム用の光源とロービーム用の光源をカバーするよう配置されることもあり得る。