特開2019-5742(P2019-5742A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 財團法人工業技術研究院の特許一覧

特開2019-5742多分岐カチオン性ホスホニウム塩、これを用いた正浸透抽出物、および正浸透海水淡水化プロセス
<>
  • 特開2019005742-多分岐カチオン性ホスホニウム塩、これを用いた正浸透抽出物、および正浸透海水淡水化プロセス 図000103
  • 特開2019005742-多分岐カチオン性ホスホニウム塩、これを用いた正浸透抽出物、および正浸透海水淡水化プロセス 図000104
  • 特開2019005742-多分岐カチオン性ホスホニウム塩、これを用いた正浸透抽出物、および正浸透海水淡水化プロセス 図000105
  • 特開2019005742-多分岐カチオン性ホスホニウム塩、これを用いた正浸透抽出物、および正浸透海水淡水化プロセス 図000106
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-5742(P2019-5742A)
(43)【公開日】2019年1月17日
(54)【発明の名称】多分岐カチオン性ホスホニウム塩、これを用いた正浸透抽出物、および正浸透海水淡水化プロセス
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/00 20060101AFI20181214BHJP
   C07C 309/30 20060101ALI20181214BHJP
   C07C 65/10 20060101ALI20181214BHJP
   C07C 53/18 20060101ALI20181214BHJP
   C07F 9/54 20060101ALI20181214BHJP
【FI】
   B01D61/00 500
   C07C309/30
   C07C65/10
   C07C53/18
   C07F9/54
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2018-106103(P2018-106103)
(22)【出願日】2018年6月1日
(31)【優先権主張番号】106118071
(32)【優先日】2017年6月1日
(33)【優先権主張国】TW
(31)【優先権主張番号】107116774
(32)【優先日】2018年5月17日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】陳 意君
(72)【発明者】
【氏名】徐 美玉
(72)【発明者】
【氏名】何 雅惠
(72)【発明者】
【氏名】陳 凱▲キ▼
【テーマコード(参考)】
4D006
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006KA33
4D006KD30
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB03
4D006PB08
4D006PC80
4H006AA03
4H006AB80
4H006BJ50
4H006BM10
4H006BM71
4H006BN30
4H006BS10
4H006BS30
4H050AA03
4H050AB80
(57)【要約】      (修正有)
【課題】正浸透抽出物である多分岐カチオン性ホスホニウム塩の提供。
【解決手段】式(I)で表される構造を有する多分岐カチオン性ホスホニウム塩。

式中、R、R、およびRの各々は独立に直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であり、Xは有機または無機アニオンであり、かつZは式(IIb)または式(IIc)で表される構造を有する。CC{CHOCO[CH]a★}(IIb)、C{CHOCO[CH]a★}(IIc)式中、aは1〜15の整数である。式(IIb)および(IIc)において、Zは星印(★)により示された位置で[P(R)(R)(R)]に連結し、nは3〜4の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正浸透抽出物であって、
式(I)で表される構造を有する多分岐カチオン性ホスホニウム塩と、
【化1】
水と、
を含んでなり、
式中、R、R、およびRの各々は独立に直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であり、
は有機または無機アニオンであり、
Zは、式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)、または式(IId)で表される構造を有すし、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
式中、aは1〜15の整数であり、
式(IIa)〜(IId)において、Zは星印(★)により示された位置で[P(R)(R)(R)]に連結し、
nは2〜4の整数であり、
前記正浸透抽出物の濃度が5wt%以上である正浸透抽出物。
【請求項2】
はCHSO、I、CFCOO、SCN、BF、CFSO、PF、FeCl
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
であり、このうちRは−CHCOOHまたは−(CH−NHであり、RおよびRはHまたはCHであり、Rは−CH(CH、−(CH−CH(CH、−CH(CH)−CH−CH、または−CH−Cであり、RはCHまたはHである、請求項1に記載の正浸透抽出物。
【請求項3】
、R、およびRの各々は独立にC〜Cアルキル基であり、aは3〜8の整数である、請求項1に記載の正浸透抽出物。
【請求項4】
多分岐カチオン性ホスホニウム塩が式(III)で表される構造を有する、請求項1に記載の正浸透抽出物。
【化17】
(式中、Rは直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基である。)
【請求項5】
前記正浸透抽出物の浸透圧が、前記正浸透抽出物の質量モル濃度(mass molar concentration)の増加に伴って単調増加する、請求項1に記載の正浸透抽出物
【請求項6】
前記多分岐カチオン性ホスホニウム塩が、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(p−トルエンスルホナート)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(p-toluenesulfonate))(P2−TOS)、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホナート)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium)di(2,4,6-trimethyl-benzenesulfonate))(P2−TMBS)、トリメチロールプロパントリス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]トリ(p−トルエンスルホナート)(trimethylolpropane tris[(tri-n-butylphosphonium)butyrate] tri(p-toluenesulfonate)(P3−TOS)、1,2−エタンジオールビス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート](1,2-ethanediol bis[(tri-n-butylphosphonium)butyrate])(P2a−TOS)、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(サリチル酸)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(salicylic acid))(P2−SA)、または1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(トリフルオロ酢酸)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(trifluoroacetic acid))(P2−TFA)である、請求項1に記載の正浸透抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年6月1日に出願された台湾特許出願第106118071号、および台湾特許出願第106118071号の一部継続である2018年5月17日に出願された台湾特許出願第107116774号に基づいていると共に、これらの優先権を主張し、これら開示の全体が参照することにより本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、多分岐カチオン性ホスホニウム塩、これを用いた正浸透抽出物、および正浸透海水淡水化プロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
人口の増加、急速な産業の発達、および環境の変化に伴って、世界は深刻な淡水資源の不足に直面している。この世界的な危機に対処すべく、より多くの国々が海水淡水化技術を開発し始めている。現在、海水淡水化に一般的に用いられている技術には、多段フラッシュ式蒸留(multi-stage flash distillation,MSF)、低温多重効用蒸留(low-temperature multi-effect distillation,MED)、および逆浸透(RO)が含まれる。しかしながら、これらの技術は通常、高コスト、高エネルギー消費、および低水生成量などの欠点を有する。
【0004】
近年、正浸透(FO)海水淡水化技術が広く試験されるようになっている。正浸透の原理によれば、正浸透海水淡水化技術は、浸透圧の高い駆動溶液(DS)を用いて海水を分離すると共に淡水を得る。正浸透海水淡水化技術は、例えばそのより低いコスト、より低いエネルギー消費、およびより高い水生成量のような、他の技術に比べて優れる点を有するが、低コストの水生成プロセスを真に達成するためには、依然として適した駆動溶液が要される。
【0005】
一般に、ポリマー材料は、溶解性および高粘度に関する問題を有するため、ポリマー材料を用いて高濃度溶液を調製する(formulate)ことは難しい。よって、溶液の浸透圧をより高めることができない。低分子量のポリマー材料はより望ましい溶解度を有し、かつ調製されて高濃度溶液を作ることができるが、その浸透圧は依然として十分ではない。
【0006】
多くの駆動溶液は十分に高い浸透圧を有し得る;しかし、高エネルギー消費のために、実際の推進(promotion)には適さない。例えば、二酸化炭素を導入することによって駆動溶液の溶解度または浸透圧を高めると、駆動溶液をリサイクルするときに二酸化炭素を除去するため60℃以上に加熱する追加のプロセスが必要となる。故に、より高いエネルギー消費が必要になる。さらに、磁気ナノ粒子が駆動溶液として用いられると共に、磁気分離によりリサイクルされて駆動溶液の再循環を実現することが報告されている。しかしながら、実際には、凝集した磁性粒子は再び容易には分散しない。また、磁気ナノ粒子を除去するのも困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第20130180919A1号明細書
【0008】
【特許文献2】米国特許出願公開第20130240444 A1号明細書
【0009】
【特許文献3】中国特許第104994938号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示の1つの目的は新規な駆動溶液(抽出物(extract))材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記およびその他の目的を達成するため、本開示の実施形態は、式(I)で表される構造を有する多分岐カチオン性ホスホニウム塩を提供する。
【0012】
【化1】
【0013】
式(I)中、R、R、およびRの各々は独立に直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であり、Xは有機または無機アニオンであり、かつZは式(IIb)または式(IIc)で表される構造を有する。
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
式中、aは1〜15の整数である。式(IIb)および(IIc)において、Zは星印(★)により示された位置で[P(R)(R)(R)]に連結し、このうちnは3〜4の整数である。
【0017】
本開示の別の実施形態は、式(III)で表される構造を有する多分岐カチオン性ホスホニウム塩を提供する。
【0018】
【化4】
【0019】
式(III)中、Rは直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であり、Xは有機または無機アニオンであり、かつZは式(IIb)または式(IIc)で表される構造を有する。
【0020】
【化5】
【0021】
【化6】
【0022】
式中、aは1〜15の整数である。式(IIb)および(IIc)において、Zは星印(★)により示された位置で[P(R)]に連結し、このうちnは3〜4の整数である。
【0023】
本開示の別の実施形態は、多分岐カチオン性ホスホニウム塩および水を含む正浸透抽出物を提供する。多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、式(I)で表される構造を有する。
【0024】
【化7】
【0025】
式中、R、R、およびRの各々は独立に直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であり、Xは有機または無機アニオンであり、Zは式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)、または式(IId)で表される構造を有する。
【0026】
【化8】
【0027】
【化9】
【0028】
【化10】
【0029】
【化11】
【0030】
式中、aは1〜15の整数であり、式(IIa)〜(IId)において、Zは星印 (★)により示された位置で[P(R)(R)(R)]に連結し、このうちnは2〜4の整数である。正浸透抽出物の濃度は5wt%以上である。
【0031】
本開示の別の実施形態は、半透膜の両側に上記した正浸透抽出物および純水をそれぞれ準備する工程と、正浸透(FO)モデルを用いて海水を脱塩する工程と、を含む正浸透海水淡水化プロセスを提供する。
【発明の効果】
【0032】
本開示により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩を用いて抽出物を調製すると、それは容易にリサイクルされ、かつエネルギー消費が低いという利点を備える。さらに、本開示により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩を用いて抽出物を調製すると、水流束(water flux)が有効に高まり、これにより水生成率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
添付の図面を参照にしながら、以下の実施形態において詳細に説明する。添付の図面を参照として、下記の詳細な説明および実施例を読むことにより、本発明をより十分に理解することができる。
図1図1はP2−TOSの実際に得られた浸透圧およびイオン性液体(IL)濃度のデータのグラフを示している。
図2図2はP2−TMBSの実際に得られた浸透圧およびイオン性液体(IL)濃度のデータのグラフを示している。
図3図3はP3−TOSの実際に得られた浸透圧およびイオン性液体(IL)濃度のデータのグラフを示している。
図4図4はP2a−TOSの実際に得られた浸透圧およびイオン性液体(IL)濃度のデータのグラフを示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の開示は、提示された内容の異なる特徴を実施するための多くの異なる実施形態または実施例を提示する。本開示を簡潔とするために、特定の構成要素および配置の例が以下に述べられる。これらは、当然に、単なる例に過ぎず、限定されることは意図されていない。例えば、以下の記載における第1の特徴の第2の特徴上方または上への形成には、第1の特徴と第2の特徴とが直接に接触して形成される実施形態が含まれ得ると共に、第1の特徴と第2の特徴とが直接に接触し得ないように、第1の特徴と第2の特徴との間に追加の特徴が形成される実施形態も含まれ得る。さらに、本開示では、各種実施例において参照番号および/または文字を繰り返すことがある。この繰り返しは簡潔かつ明確とする目的でするものであって、それ自体が記載される各種実施形態および/または構成間の関係を示すことはない。
【0035】
本開示の実施形態によれば、本開示は、正浸透プロセス時において抽出物として用いることのできる多分岐カチオン性ホスホニウム塩を提供する。例えば、多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、海水淡水化プロセス時において正浸透抽出物として用いることができる。しかし、本開示により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩の用途はこれに限定はされない。調製された抽出物の濃度および浸透圧が調節されさえすれば、多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、正浸透の原理に従った他の分離プロセスにおいて抽出物として用いることができる。例えば、それは、廃水処理、濃縮および精製、抽出、塩水脱塩、発電などに適用することもできる。
【0036】
本開示は、化学合成法を用いてテトラブチルホスホニウム p-トルエンスルホナート(tetrabutylphosphonium p-toluenesulfonate)[P4444][TOS]のカチオン部分を修飾し、多分岐カチオン性ダイマー(P2)または多分岐カチオン性トリマー(P3)のような多分岐カチオン性オリゴマーを合成する。
【0037】
本開示の1実施形態において、式(I)で表される構造を有する多分岐カチオン性ホスホニウム塩が提供される。
【0038】
【化12】
【0039】
本開示のいくつかの実施形態において、R、R、およびRの各々は独立に直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であってよく、かつZは式(IIb)または式(IIc)で表される構造を有していてよい。
【0040】
【化13】
【0041】
【化14】
【0042】
式中、aは1〜15の整数である。式(IIb)および(IIc)において、Zは星印(★)により示された位置で[P(R)(R)(R)]に連結し、このうちnは3〜4の整数である。
【0043】
本開示のいくつかの実施形態において、式(I)中のXは、一価を有する有機または無機アニオンであってよい。例えば、XはCHSO、I、CFCOO、SCN、BF、CFSO、PF、FeCl
【0044】
【化15】
【0045】
【化16】
【0046】
【化17】
【0047】
【化18】
【0048】
【化19】
【0049】
【化20】
【0050】
【化21】
【0051】
【化22】
【0052】
【化23】
【0053】
【化24】
【0054】
【化25】
【0055】
であってよく、このうちRは−CHCOOHまたは−(CH−NHであってよく、RおよびRはHまたはCHであってよく、Rは−CH(CH、−(CH−CH(CH、−CH(CH)−CH−CH、または−CH−Cであってよく、RはCHまたはHであってよい。
【0056】
式(I)において、中心構造Zが異なるアニオンと共に配されると、合成された多分岐カチオン性ホスホニウム塩は異なる特性を備えるようになり得る。適したアニオンは必要に応じて選択可能である。
【0057】
本開示の1実施形態において、式(I)中のX
【0058】
【化26】
【0059】
であってよい。RおよびRがいずれもHである実施形態では、Xはp−トルエンスルホニル(TOS)である。RおよびRがいずれもCHである実施形態では、Xはトリメチルベンゼンスルホナート(trimethylbenzenesulfonate,TMBS)である。
【0060】
本開示の1実施形態において、式(I)中のR、R、およびRの各々は独立にC〜Cアルキル基である。本開示の別の実施形態では、式(I)中のR、R、およびRの各々は独立にC〜Cアルキル基である。
【0061】
本開示の1実施形態において、式(IIb)および(IIc)中のaは3〜8の整数であり得る。
【0062】
本開示の1実施形態において、式(III)で表される構造を有する多分岐カチオン性ホスホニウム塩が提供される。
【0063】
【化27】
【0064】
本開示のいくつかの実施形態において、Rは直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であってよく、Xは有機または無機アニオンであってよく、かつZは式(IIb)または式(IIc)で表される構造を有していてよい。
【0065】
【化28】
【0066】
【化29】
【0067】
式中、aは1〜15の整数である。式(IIb)および(IIc)において、Zは、星印(★)により示された位置で[P(R)]に連結し、このうちnは3〜4の整数である。
【0068】
本開示のいくつかの実施形態において、式(III)中のXは、一価を有する有機または無機アニオンであってよい。例えば、Xは、CHSO、I、CFCOO、SCN、BF、CFSO、PF、FeCl
【0069】
【化30】
【0070】
【化31】
【0071】
【化32】
【0072】
【化33】
【0073】
【化34】
【0074】
【化35】
【0075】
【化36】
【0076】
【化37】
【0077】
【化38】
【0078】
【化39】
【0079】
【化40】
【0080】
であってよく、このうちRは−CHCOOHまたは−(CH−NHであってよく、RおよびRはHまたはCHであってよく、Rは−CH(CH、−(CH−CH(CH、−CH(CH)−CH−CH、または−CH−Cであってよく、RはCHまたはHであってよい。
【0081】
本開示の実施形態において、多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、
【0082】
【化41】
【0083】
であってよく、このうち、RはC〜Cアルキル基であってよく、XはCHSO、CFCOO、CFSO
【0084】
【化42】
【0085】
【化43】
【0086】
【化44】
【0087】
【化45】
【0088】
【化46】
【0089】
【化47】
【0090】
【化48】
【0091】
【化49】
【0092】
【化50】
【0093】
であってよく、このうちRはCHCOOHまたは−(CH−NHであってよく、RおよびRはHまたはCHであってよく、Rは−CH(CH、−(CH−CH(CH、−CH(CH)−CH−CH、または−CH−Cであり、RはCHまたはHであってよい。
【0094】
本開示の1実施形態において、多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、トリメチロールプロパントリス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート] トリ(p−トルエンスルホナート)(trimethylolpropane tris[(tri-n-butylphosphonium)butyrate] tri(p-toluenesulfonate))(P3−TOS)であり得る。その化学式は次のとおりである。
【0095】
【化51】
【0096】
本開示のいくつかの実施形態において、多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、下限臨界溶液温度(lower critical solution temperature, LCST)を有する感温材料である。多分岐カチオン性ホスホニウム塩の相変化温度(Tc)は5〜60℃であり得る。修飾されたカチオン部分のために、本開示において合成される多分岐カチオン性ホスホニウム塩の下限臨界溶液温度(LCST)は室温に近い。よって、本開示では、抽出物中の多分岐カチオン性ホスホニウム塩および水は、低温で液−液相分離(liquid -liquid phase separation)または固−液相分離(solid-liquid phase separation)を用いることにより分離することができ、これは低エネルギー消費のプロセスである。また、多分岐カチオン性ホスホニウム塩は感温材料でもあるため、温度の変化によって容易にリサイクルおよび再利用され得る。言い換えると、得られた本開示の多分岐カチオン性ホスホニウム塩のLCSTよりも高い温度でありさえすれば、多分岐カチオン性ホスホニウム塩は水に溶解しなくなり、水層(aqueous layer)中に残留する多分岐カチオン性ホスホニウム塩が減る。よって、相分離後、より多くの純水を得ることができ、かつ多分岐カチオン性ホスホニウム塩が効率よくリサイクルされ得る。加えて、本開示では、多分岐カチオン性ホスホニウム塩をリサイクルするために、加熱プロセスを行って高温にする必要はないため、エネルギー消費が低減される。
【0097】
本開示の別の実施形態は、上述の多分岐カチオン性ホスホニウム塩および水を含む正浸透抽出物を提供する。正浸透抽出物の浸透圧は、正浸透抽出物の質量モル濃度 (mass molar concentration) の増加に伴って単調増加する。しかし、正浸透抽出物の浸透圧と質量モル濃度とは線形関係にない。
【0098】
本開示のいくつかの実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は式(I)で表される構造を有する。
【0099】
【化52】
【0100】
式中、R、R、およびRの各々は独立に直鎖または分岐鎖C〜C10アルキル基であり、Xは有機または無機アニオンであり、Zは式(IIa)、式(IIb)、式(IIc)または式(IId)で表される構造を有する。
【0101】
【化53】
【0102】
【化54】
【0103】
【化55】
【0104】
【化56】
【0105】
式中、aは1〜15の整数であり、式(IIa)〜(IId)において、Zは星印(★)により示された位置で[P(R)(R)(R)]に連結し、このうちnは2〜4の整数である。Xは上述の式(I)で定義された通りであってよい。
【0106】
本開示のいくつかの実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、
【0107】
【化57】
【0108】
【化58】
【0109】
【化59】
【0110】
であってよく、式中、Xは上述の式(I)で定義された通りであってよい。
【0111】
本開示の1実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、 1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(p−トルエンスルホナート)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(p-toluenesulfonate))(P2−TOS)であり得る。その化学式は次のとおりである。
【0112】
【化60】
【0113】
本開示の1実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホナート)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(2,4,6-trimethyl-benzenesulfonate))(P2−TMBS)であり得る。その化学式は次のとおりである。
【0114】
【化61】
【0115】
本開示の1実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、トリメチロールプロパントリス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]トリ(p−トルエンスルホナート)(trimethylolpropane tris[(tri-n-butylphosphonium)butyrate] tri(p-toluenesulfonate)(P3−TOS)であり得る。その化学式は次のとおりである。
【0116】
【化62】
【0117】
本開示の1実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、1,2−エタンジオールビス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート](1,2-ethanediol bis[(tri-n-butylphosphonium)butyrate])(P2a−TOS) であり得る。その化学式は次のとおりである。
【0118】
【化63】
【0119】
本開示の1実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(サリチル酸)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(salicylic acid))(P2−SA)であり得る。その化学式は次のとおりである。
【0120】
【化64】
【0121】
本開示の1実施形態において、正浸透抽出物中に含まれる多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(トリフルオロ酢酸)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(trifluoroacetic acid))(P2−TFA)であり得る。その化学式は次のとおりである。
【0122】
【化65】
【0123】
本開示のいくつかの実施形態において、上述した正浸透抽出物の濃度は5wt%以上である。本開示のいくつかの実施形態において、正浸透抽出物は正浸透海水淡水化技術に適用され得る。このとき、正浸透抽出物濃度は、例えば30wt%、50wt%、または60wt%よりも高いものであり得る。正浸透抽出物の濃度は特定の範囲に限定されないという点に留意しなければならない。当該濃度下にある正浸透抽出物の浸透圧が原料液体(例えば、海水、たんぱく質、産業廃水、農業または生活廃水)の浸透圧よりも高いものでさえあれば、通常は正浸透抽出物の効果は現れ得る。一般に、正浸透抽出物の浸透圧と原料液体の浸透圧との差が大きいほど、抽出効果がより優れる。故に、高濃度の水溶液を抽出物として使用すると、より優れた抽出効果が得られる。しかし、コストの観点から、当該濃度下にある正浸透抽出物の浸透圧が原料液体の浸透圧よりも高いものでさえあれば、本開示において用いることができる。本開示の実施形態により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TOSを例にとると、P2−TOSはそれ自体が液体溶液であり、よって100wt%の濃度で直接抽出物として用いることができる。ただし、望ましいP2−TOS水溶液の濃度は、浸透圧の値に基づいて任意に決めることができる。
【0124】
本開示の別の実施形態は、半透膜の両側に上記した正浸透抽出物および純水をそれぞれ準備する工程と、正浸透(FO)モデルを用いて海水を脱塩する工程と、を含む正浸透海水淡水化プロセスを提供する。
【0125】
本開示により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、カチオン部分が修飾されているため、より大きい分子量を有するが、粘度は低い。よって、 それを高濃度溶液に調製し、調製された抽出物に高い浸透圧を持たせることができる。また、本開示により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、より低い相変化温度を有するため、使用の過程で容易にリサイクルすることができ、かつエネルギー消費が低い。加えて、本開示により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩を抽出物として用いると、水流束が有効に増加し得ると共に、水生成率が高まり得る。
【0126】
以下に、作製例、比較例、および実施例を詳細に記述して、本開示により提供される多分岐カチオン性ホスホニウム塩およびそれから調製される抽出物の特徴を説明する。
【0127】
[作製例1]
1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジブロミド(P2−TOS)
【0128】
先ず、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジブロミド(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium)dibromide)(以下、略してP2−Brと呼ぶ)を合成した:
(1)トリブチルホスフィン(tributylphosphine)80g(0.4mol)および1,8−ジブロモオクタン(1,8-dibromooctane)48.9g(0.18 mol)を500mLの丸底瓶中に入れた。次いで、無水アセトン150mLを加え、40℃で48時間攪拌した。
(2)反応が完了した後、その反応溶液をエーテル1.5L中にゆっくりと滴下した。濾過後、白色の固体粉末が得られ、次いで、それをエーテルで数回洗浄した。
(3)洗浄した白色の固体を乾燥し、117gの生成物P2−Brを得た。
【0129】
次に、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(p−トルエンスルホナート)(以下、略してP2−TOSと呼ぶ)を合成した:
(1)P2−Br2.67g(3.7mmol)およびナトリウムp−トルエンスルホナート(sodium p-toluenesulfonate)(TOS−Na)1.57g(8.1mmol)を脱イオン水13g中に溶解し、室温で24時間攪拌した。
(2)反応が完了した後、その反応混合物を酢酸エチル10mLで2回抽出した。上方の酢酸エチル層を収集し、脱イオン水20mLで3回洗浄して精製した。
(3)洗浄した有機層を30℃で減圧濃縮し、1.6gの生成物P2−TOSを得た。
【0130】
生成物P2−TOSをNMRで測定した(1H−NMR,400MHz in DO)で測定した:0.81(t,18H,CCH−),1.09(m,4H,−CH−), 1.1〜1.5(m,32H,−CH−),1.9〜2.1(t,16H,PCH−),2.25(s,6H,Ar−CH),7.21(d,4H,ArH),7.58 (d,4H,ArH)。生成物P2−TOSは下記の化学式を有する。
【0131】
【化66】
【0132】
[作製例2]
1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホナート)(P2−TMBS)
【0133】
1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホナート)(以下、略してP2−TMBSと呼ぶ)を合成した:
(1)P2−Br10g(14.7mmol)およびナトリウム2,4,6−トリメチル−ベンゼンスルホナート(sodium 2,4,6-trimethyl-benzensulfonate)(TMBS−Na)6.8g(29.6mmol)を脱イオン水40g中に溶解し、室温で24時間撹拌した。
(2)反応が完了した後、酢酸エチル20mLを加えて抽出した。
(3)有機層を収集し、30℃で減圧濃縮して、生成物P2−TMBS12.4gを得た。
【0134】
生成物P2−TMBSをNMRで測定した(H−NMR,400MHz in DO):0.8(t,18H,CCH−),1.09(m,4H,−CH−),1.1〜1.5(m,32H,−CH−),1.9〜2.0(t,16H,PCH−),2.12(s,6H,Ar−CH),2.25(s,12H,Ar−CH),6.88(s,4H,ArH)。生成物P2−TMBSは下記の化学式を有する。
【0135】
【化67】
【0136】
[作製例3]
トリメチロールプロパントリス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]トリ(p−トルエンスルホナート)(P3−TOS)
【0137】
先ず、トリメチロールプロパントリス(4−ブロモブチラート)(trimethylolpropane tris(4-bromobutyrate))を合成した:
(1)トリメチロールプロパン(trimethylolpropane)1g(8.3mmol)を50mLの丸底瓶中に入れ、無水テトラヒドロフラン(THF)20mL中に溶解した。次いで、NaH(60%)1.1gをゆっくりと加え、室温にて2時間、攪拌子で攪拌した。次いで、4−ブロモブチリルクロリド(4-bromobutyryl chloride)5g(27mmol)を室温でその溶液中に滴下し、一晩反応させた。
(2)反応が完了した後、その反応混合物を濃縮してから、エーテル20mLを加えた。その混合物をろ過して固体を除去した。得られたろ液を水50mLで3回洗浄し、次いで回転蒸発(rotary-evaporated)して乾燥した。生成物であるトリメチロールプロパントリス(4−ブロモブチラート)3.4gを得た。
【0138】
次に、トリメチロールプロパントリス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]トリブロミド(trimethylolpropane tris[(tri-n-butylphosphonium)butyrate] tribromide)(以下、略してP3−Brと呼ぶ)を合成した:
(1)トリブチルホスフィン(tributylphosphine)1.14g(5.6mmol)およびトリメチロールプロパントリス(4−ブロモブチラート) 1.06g(1.8mmol)を50mLの丸底瓶中に入れた。次いで、無水アセトン10mLを加え、40℃で24時間攪拌した。
(2)反応が完了した後、その反応溶液を濃縮した。水20mLを加え、エーテル50mLを加えて3回洗浄した。その反応液を濃縮した後、1.9gの生成物P3−Brを得た。
【0139】
次に、トリメチロールプロパントリス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]トリ(p−トルエンスルホナート)(trimethylolpropane tris[(tri-n-butylphosphonium)butyrate] tri(p-toluenesulfonate)(以下、略してP3−TOSと呼ぶ)を合成した:
(1)P3−Br3g(2.5mmol)およびナトリウムp−トルエンスルホナート(TOS−Na)1.5g(7.7mmol)を脱イオン水55g中に溶解し、室温で24時間撹拌した。
(2)反応が完了した後、その反応溶液を酢酸エチル15mLで1回抽出した。
(3)有機層を収集し、30℃で減圧濃縮し、2.5gの生成物P3−TOSを得た。
【0140】
生成物P3−TOSをNMRで測定した(H−NMR,400MHz in DO)で測定した:0.81(t,30H,CCH−),1.2〜1.5(m,38H,−CH−),1.6〜1.8(br.s,6H,−CH−),1.95〜2.1(m,24H,PCH−),2.26(s,9H,Ar−CH),2.42(m,6H,−CHCO−),4.0(s,6H,−OCH−),7.21(d,6H,ArH),7.58(d,6H,ArH)。生成物P3−TOSは下記の化学式を有する。
【0141】
【化68】
【0142】
[作製例4]
1,2−エタンジオールビス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]ジ(p−トルエンスルホナート))(P2a−TOS)
【0143】
先ず、1,2−エタンジオールビス(4−ブロモブチラート)(1,2-ethanediol bis(4-bromobutyrate))を合成した:
(1)1,2−エタンジオール(1,2-ethanediol)0.795g(12.8mmol)を50mLの丸底瓶中に入れ、無水テトラヒドロフラン(THF)20mL中に溶解した。次いで、NaH(60%)1.23gをゆっくりと加え、室温で2時間攪拌した。次いで、4−ブロモブチリルクロリド5.35g(2.74mmol)を室温でその溶液中に滴下し、一晩反応させた。
(2)反応が完了した後、その反応混合物を濃縮してから、エーテル20mLを加えた。その溶液をろ過して固体を除去した。得られたろ液を水50mLで3回洗浄した。洗浄したろ液を濃縮し、生成物である1,2−エタンジオールビス(4−ブロモブチラート)3gを得た。
【0144】
次に、1,2−エタンジオールビス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]ジブロミド(以下、略してP2a−Brと呼ぶ)を合成した:
(1)トリブチルホスフィン(tributylphosphine)3.2g(15.8mmol)および1,2−エタンジオールビス(4−ブロモブチラート)2.85g(7.9 mmol)を50mLの丸底瓶中に入れた。次いで、無水アセトン10mLを加え、40℃で24時間攪拌した。
(2)反応が完了した後、その反応溶液を濃縮してから、水60mLを加えた。エーテル150mLを加えて3回洗浄した。その溶液を濃縮した後、5gの生成物P2a−Brを得た。
【0145】
次に、1,2−エタンジオールビス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]ジ(p−トルエンスルホナート)(以下、略してP2a−TOSと呼ぶ)を合成した:
(1)P2a−Br5g(6.5mmol)およびナトリウムp−トルエンスルホナート(TOS−Na)2.79g(14.3mmol)を脱イオン水20g中に溶解し、室温で24時間撹拌した。
(2)反応が完了した後、その反応混合物を酢酸エチル25mLで1回抽出した。
(3)有機層を収集し、30℃で減圧濃縮して、3gの生成物P2a−TOSを得た。
【0146】
生成物P2a−TOSをNMRで測定した(1H−NMR,400MHz in DO):0.81(t,18H,CHCH−),1.2〜1.5(m,24H, −CH−),1.6〜1.8(br.s,4H,−CH−),1.95〜2.1(m,16H,PCH−),2.26(s,6H,Ar−CH),2.42(m,4H,−CHCO−),4.2(s,4H,−OCH−),7.21(d,4H,ArH), 7.58(d,4H,ArH)。生成物P2a−TOSは下記の化学式を有する。
【0147】
【化69】
【0148】
[作製例5]
1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(サリチル酸)(P2−SA)
【0149】
先ず、作製例1で記載した方法にしたがってP2−Brを合成した。次に、下記のステップにしたがって、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(サリチル酸)(1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium) di(salicylic acid))(以下、略してP2−SAと呼ぶ)を合成した:
(1)先ず、イオン交換樹脂を用いて、P2−BrをP2−OH(1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジヒドロキシド)((1,8-octanediyl-bis(tri-n-butylphosphonium)dihydroxide))に変換した。P2−OH20g(36.4mmol)およびサリチル酸(SA)10.1g(72.8mmol)を、エタノール3gを含む脱イオン水120g中に溶解した。その混合物を室温で24時間撹拌した。
(2)反応が完了した後、酢酸エチル80mLを加えて抽出した。
(3)有機層を収集し、約16gの生成物P2−SAを得た。
【0150】
生成物P2−SAをNMRで測定した(H−NMR,400MHz in DO;ppm):0.8(t,18H,CH−),1.20(m,4H,−CH−),1.25〜1.45(m,32H,−CH−),1.90〜2.05(m,16H,PCH−),6.81〜6.86(m,4H,ArH),7.32(td,2H,ArH),7.70(dd,2H,ArH)。生成物P2−SAは下記の化学式を有する。:
【0151】
【化70】
【0152】
[作製例6]
1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(トリフルオロ酢酸)(P2−TFA)
【0153】
先ず、作製例1で記載した方法にしたがってP2−Brを合成した。次に、下記のステップにしたがって、1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジ(トリフルオロ酢酸)(以下、略してP2−TFAと呼ぶ)を合成した:
(1)先ず、イオン交換樹脂を用いてP2−BrをP2−OH(1,8−オクタンジイル−ビス(トリ−n−ブチルホスホニウム)ジヒドロキシド)に変換した。P2−OH20g(36.4mmol)およびトリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid)(TFA)8.3g(72.8mmol)を脱イオン水30g中に溶解した。その混合物を室温で24時間撹拌した。
(2)反応が完了した後、酢酸エチル20mLを加えて抽出した。
(3)有機層を濃縮し、約12gの生成物のP2−TFAを得た。
【0154】
生成物P2−TFAをNMRで測定した(H−NMR,400MHz in DO;ppm):0.81(t,18H,CH−),1.23(m,4H,−CH−),1.3〜1.5(m,32H,−CH−),2.0〜2.2(t,16H,PCH−);(19F−NMR,400MHz in DO;ppm):75.54。生成物 P2−TFAは下記の化学式を有する。
【0155】
【化71】
【0156】
[比較例1]
市販のテトラブチルホスホニウムp−トルエンスルホナート)(アルドリッチ 95wt%)[P4444][TOS]を比較例として用いた。
【0157】
[比較例2]
比較例1で合成したP2−BrをNMRで測定した(H−NMR,400MHz in DO;ppm):0.81(t,18H,CH−),1.09(m,4H,−CH−),1.1〜1.5(m,32H,−CH−),1.9〜2.1(t, 16H,PCH−)。P2−Brは下記の化学式を有する。:
【0158】
【化72】
【0159】
[比較例3]
下記のステップにしたがって、1,2−エタンジオールビス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)アセチラート]ジブロミド)(1,2-ethanediol bis[(tri-n-butylphosphonium) acetyrate] dibromide))(以下、略してP2a1−Brと呼ぶ)を合成した:
(1)トリブチルホスフィン1g(4.93mmol)および1,2−エタンジオールビス(ブロモアセチラート)(1,2-ethanediol bis(bromoacetyrate))0.752g(2.47mmol)を100mLの丸底瓶中に入れた。次いで、無水アセトン10mLを加え、40℃で48時間攪拌した。
(2)反応が完了した後、その反応溶液を濃縮した。水40mLを加えると共に、エーテル100mLを加えて3回洗浄した。その反応溶液を濃縮した後、1gの生成物P2a1−Brを得た。
【0160】
生成物P2a1−BrをNMRで測定した(H−NMR,400MHz in DO;ppm):0.8(t,18H,CH−),1.2〜1.6(m,24H,−CH−),2.3〜2.3(m,12H,PCH−),3.52(d,4H,−CH(CO)−),4.4(s,4H,−OCH−)。生成物P2a1−Brは下記の化学式を有する。
【0161】
【化73】
【0162】
[比較例4]
下記のステップにしたがって、トリメチロールプロパントリス[(トリ−n−ブチルホスホニウム)ブチラート]トリブロミド(以下、略してP3−Brと呼ぶ)を合成した:
(1)トリブチルホスフィン1.14g(5.6mmol)およびトリメチロールプロパントリス(4−ブロモブチラート)1.06g(1.8mmol)を50mLの丸底瓶中に入れた。次いで、無水アセトン10mLを加え、40℃で24時間攪拌した。
(2)反応が完了した後、その反応溶液を濃縮した。水20mLを加えると共に、エーテル50mLを加えて3回洗浄した。その反応溶液を濃縮し、1.9gの生成物P3−Brを得た。
【0163】
生成物P3−BrをNMRで測定した(H−NMR,400MHz in DO;ppm):0.81(t,30H,CH−),1.2〜1.5(m,38H,−CH−),1.6〜1.8(br.s,6H,−CH−),1.95〜2.1(m,24H,PCH−),2.42(m,6H,−CHCO−),4.0(s, 6H,−OCH−)。生成物P3−Brは下記の化学式を有する。
【0164】
【化74】
【0165】
[実施例1]粘度の測定
作製例1で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TOS、作製例2で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TMBS、作製例3で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P3−TOS、および作製例4で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2a−TOSを、それぞれ濃度75wt%の水溶液に調製した。粘度計Brookfield DV2TLVCJ0により20℃で粘度を測定した。その結果が表1に示されている。
【0166】
【表1】
【0167】
操作可能とするため、操作の経験によれば、抽出物としての使用に適した材料の粘度は200cp以下であることが好ましい。粘度が高すぎる場合、その材料は、流動上の困難のために、抽出物として用いるのに適さない。ポリマー材料は、高粘度の問題により引き起こされる操作上の困難のために、高濃度で抽出物として用いるのに適していない。本開示の作製例1から4の多分岐カチオン性ホスホニウム塩はカチオンで修飾されているために分子量が大きいということが、表1においてわかる。しかし、それらは、多分岐カチオン性ホスホニウム塩が75wt%の高濃度水溶液に調製されたとき、最も高い粘度はわずか110cpであり、これは依然操作可能な粘度の範囲内である。言い換えると、本開示の作製例1から4の多分岐カチオン性ホスホニウム塩の溶液の粘度は、分子量の増加によって著しく増加するということはない。故に、本開示の作製例1から4の多分岐カチオン性ホスホニウム塩は、粘度が高すぎるため高濃度では抽出物として用いることのできないポリマー材料のようではない。
【0168】
[実施例2]浸透圧の測定
作製例1で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TOS、作製例2で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TMBS、作製例3で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P3−TOS、作製例4で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2a−TOS、作製例5で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−SA、および作製例6で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TFAをそれぞれ濃度の異なる水溶液に調製した。氷点浸透圧計(OSMOMAT 030;GONOTEC)および氷点法を用いて浸透圧を測定した。
【0169】
水溶液の濃度が30wt%よりも大きいと、浸透圧は通常、計器で測定することができないという点に留意すべきである。しかし、濃度が30wt%よりも大きい水溶液の浸透圧を、濃度の低い水溶液の浸透圧測定の結果から、外挿法を用いることにより予測することができる。よって、本開示の以下の実施例では、低濃度における作製例1から4で作製した水溶液の浸透圧をあらかじめ測定しておき、質量モル濃度(mass molar concentration)に関連する浸透圧のシミュレーション関数をプロットした。シミュレーション関数を用いて高濃度における水溶液の浸透圧を予測した。このうち、質量モル濃度(重量モル濃度(molality))と重量パーセント(wt%)間の換算式は:
【0170】
wt%=重量モル濃度×Mw/[(重量モル濃度×Mw)+1000]
【0171】
とした。Mwは水溶液中の溶質の分子量(g/mol)を表す。
【0172】
表2は、異なる濃度の水溶液となるよう調製した作製例1で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TOSの浸透圧を示している。氷点法により測定し、実際に得られたP2−TOSの浸透圧およびIL濃度データのグラフが図1に示されている。
【0173】
【表2】
【0174】
表3は、異なる濃度の水溶液となるよう調製した作製例2で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TMBSの浸透圧を示している。氷点法により測定し、実際に得られたP2−TMBSの浸透圧およびIL濃度データのグラフが図2に示されている。
【0175】
【表3】
【0176】
表4は、異なる濃度の水溶液となるよう調製した作製例3で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P3−TOSの浸透圧を示している。氷点法により測定し、実際に得られたP3−TOSの浸透圧およびIL濃度データのグラフが図3に示されている。
【0177】
【表4】
【0178】
表5は、異なる濃度の水溶液となるよう調製した作製例4で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2a−TOSの浸透圧を示している。氷点法により測定し、実際に得られたP2a−TOSの浸透圧およびIL濃度データのグラフが図4に示されている。
【0179】
【表5】
【0180】
予測値の正確さを確認するため、下記の試験を行った。U形チューブの中間に正浸透(FO)膜を設置し、75wt%のP2−TOS水溶液を一端に入れ、11.2wt%のNaCl水溶液を他端に入れた(この濃度でのNaCl水溶液の浸透圧は海水の浸透圧の約3.2倍である)。温度22℃でしばらく静置した後、75wt% P2−TOS水溶液の液面は上昇し、11.2wt% NaCl水溶液の液面は下降した。このことは、75wt% P2−TOS水溶液が11.2wt% NaCl水溶液(約3.85 Osmol/kg)よりも高い浸透圧を有していることを意味する。外挿法により予測した70wt% P2−TOS水溶液の浸透圧は6.148(Osmol/Kg)であり、これは3.85 Osmol/kgよりも高く、かつ上述の結果と一致していることが、表2においてわかる。外挿法により予測した浸透圧が参考になる(informative)ものであることが示されている。
【0181】
表6は、異なる濃度の水溶液となるよう調製した作製例5で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−SAの浸透圧を示している。
【0182】
【表6】
【0183】
表7は、異なる濃度の水溶液となるよう調製した作製例6で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TFAの浸透圧を示している。
【0184】
【表7】
【0185】
表2〜7の結果によれば、多分岐カチオン性ホスホニウム塩水溶液の濃度の増加に相対的に、浸透圧は増加している。特に、多分岐カチオン性ホスホニウム塩水溶液の浸透圧は、質量モル濃度に伴って単調増加している。しかし、浸透圧と質量モル濃度とは直線関係を有さない。特に、表2より、作製例1で調製した水溶液の濃度が30から40wt%の間であったとき、浸透圧は海水の浸透圧より大きくなり得るということがわかる。よって、それは正浸透抽出物として海水淡水化に用いるのに適している。同様に、表3〜7において、作製例2で調製した水溶液の濃度が40から50wt%の間、作製例3で調製した水溶液の濃度が60から70wt%の間、作製例4で調製した水溶液の濃度が30から40wt%の間、作製例5で調製した水溶液の濃度が40から50wt%の間、作製例6で調製した水溶液の濃度が30から40wt%の間であったとき、浸透圧は海水の浸透圧(1.2 Osmol/Kg)より大きくなり得るということがわかる。よって、それは正浸透抽出物として海水淡水化に用いるのに適している。
【0186】
加えて、異なる原料溶液の浸透圧に基づいて、当業者は、表2〜7に示された結果を参照にし、異なる原料溶液の水抽出プロセスに適用されることとなる、適した多分岐カチオン性ホスホニウム塩の種類、およびその調製される抽出物に適した濃度を選択することができる。
【0187】
[実施例3] 相転移温度の測定
作製例1で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TOS、作製例2で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TMBS、作製例3で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P3−TOS、作製例4で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2a−TOS、作製例5で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−SA、作製例6で得た多分岐カチオン性ホスホニウム塩P2−TFA、および比較例1の[P4444][TOS]、比較例2のP2−Br、比較例3のP2a1−Br、比較例4のP3−Brをそれぞれ異なる濃度で水溶液に調製し、曇り始めるまで溶液をゆっくり昇温した。溶液が曇り始める最低の温度(曇り点温度;Tc)が相転移温度である。測定したTc(℃)の結果が表6に示されている。
【0188】
【表8】
【0189】
表8では、生成物P2−TOSにより作製された水溶液を“作製例1”と表し、生成物P2−TMBSにより作製された水溶液を“作製例2”と表し、生成物P3−TOSにより作製された水溶液を“作製例3”と表し、生成物P2a−TOSにより作製された水溶液を“作製例4”と表し、生成物P2−SAにより作製された水溶液を“作製例5”と表し、生成物P2−TFAにより作製された水溶液を“作製例6”と表し、生成物[P4444][TOS]により作製された水溶液を“比較例1”と表し、生成物P2−Brにより作製された水溶液を“比較例2”と表し、生成物P2a1−Brにより作製された水溶液を“比較例3”と表し、生成物P3−Brにより作製された水溶液を“比較例4”と表した、表8から、40wt%[P4444][TOS]水溶液の相転移温度が約55℃であったことがわかる。それを抽出物として用いた場合、相転移温度が高すぎるため、抽出物をリサイクルするときに、エネルギー消費は増加するであろう。
【0190】
比較すると、同じ濃度条件(40wt%)の下、作製例1〜4で作製した多分岐カチオン性ホスホニウム塩の水溶液の相転移温度は、[P4444][TOS]水溶液の相転移温度より低かった。例えば、作製例1の40wt%水溶液の相転移温度は約39℃であり、作製例2の40wt%水溶液の相転移温度は約26℃であり、作製例4の40wt%水溶液の相転移温度は約41℃であり、作製例3の40wt%水溶液の相転移温度はさらに下がって約15℃であった。加えて、表8から、同じ濃度条件(例えば20〜50wt%)の下、作製例5および6で作製した多分岐カチオン性ホスホニウム塩の水溶液の相転移温度が、[P4444][TOS]水溶液の相転移温度よりも低かったということがわかる。
【0191】
作製例1〜6の水溶液が抽出物として用いられたとき、抽出物のリサイクルが容易となり、かつエネルギー消費が低下したことがわかった。
【0192】
実施例1および2の浸透圧および相転移温度の特性を比較すると、本開示により作製された多分岐カチオン性ホスホニウム塩のうち、作製例1のP2−TOSは、[P4444][TOS]に比べて高い浸透圧、および低い相転移温度を有し、それは最良の効果を有する。以下に、作製例1〜4の多分岐カチオン性ホスホニウム塩を抽出物に調製し、正浸透(FO)の検証を行った。
【0193】
[実施例4]正浸透(FO)の検証
Dow filmtec tw30−3012−500(半透膜)を用いた。面積は8×8cmであり、クロスフローは25cm/sであった。供給液(feed solution)は純水とした。抽出物は75wt% P2−TOS水溶液、75wt% P2−TMBS水溶液、50wt% P2a−TOS水溶液、または70wt%[P4444][TOS]水溶液とした。正浸透の検証を、FOモデルを用いて行った(active layer faced the feed solution, AL−FS)。その結果が表9に示されている。
【0194】
【表9】
【0195】
表9から、抽出物が70wt%[P4444][TOS]水溶液であるとき、水流束はわずか1.31(LMH)であったことがわかる。対照的に、本開示の作製例1で作製した75wt% P2−TOS水溶液の水流束は3.09(LMH)であり、水流束は約2.3倍増加した。作製例2で作製した75wt% P2−TMBS水溶液の水流束は3.04(LMH)であり、水流束は約2.3倍増加した。作製例4で作製した50wt% P2a−TOS水溶液の水流束は2.0(LMH)であり、水流束は約1.5倍増加した。
【0196】
上記実施例の結果により証明されたように、多分岐カチオン性ホスホニウム塩のカチオン部分が修飾されているため分子量が増加するが、抽出物に調製すると、それは、低粘度、高浸透圧、および低相転移温度の特徴を有するようになる。
【0197】
開示された実施形態に様々な修飾および変更を加え得ることは、当業者には明らかであろう。明細書および実施例は単に例示として認められるよう意図されており、本開示の真の範囲は、以下の特許請求の範囲およびそれらの均等物により示される。

図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】
2019005742000001.pdf
2019005742000002.pdf
2019005742000003.pdf
2019005742000004.pdf