【解決手段】床シートを切断するために用いる工具であって、上側プレート部材11は、上下方向に貫通した貫通路を有し、シート切断部13は、上側プレート部材11の長尺方向に対して略垂直方向に切断できるように配置されている刃部15と、刃部15が下側プレート部材12の底面よりも高い位置と低い位置に移動できるように上下移動可能な状態で刃部15を支持するホルダー部16とを含み、貫通路に沿って水平移動可能な状態で上側プレート部材上に搭載されており、下側プレート部材は、刃部の可動範囲に対応しながら上下方向に貫通した貫通路を有し、床シート端辺の形状に沿って水平移動できるように、シート端辺に沿わせるためのガイド部17が、連結されている反対の他端部近傍に設けられていることを特徴とする床シート切断工具に係る。
【背景技術】
【0002】
建築物の室内の床面の施工に際しては、複数の床シートを互いに突き合わせながら床面上に敷設される。この場合、敷設する床シートにおいて、その隣接する床シートの形状に合致した形状となるように切断加工されて用いられる。
【0003】
従来より、このような特定の形状に切断加工する際は、
図14に示すように、ケガキ針32及びガイド33を備えた工具31を用い、テンプレート(見本)となる床シート61aの端面63にガイド33を当接させるとともに、切断する床シート61bをケガキ針32の先端が当たるように配置する。次いで、
図15に示すように、工具31を前記端面63の形状に沿って矢印方向に手でスライドさせることにより、床シート61aの表面上にケガキ針による線状の溝部(引っ掻き傷)30が形成される。その後、形成された溝部30に沿ってカッター、はさみ等で床シート61bを切断し、前記端面63に沿った形状を創り出すことができる。このような加工は、一般的に「落とし込み」、「重ね落とし」等と呼ばれている。
【0004】
この場合、ケガキ針による溝部の形成と、その溝部に沿った切断とを同時に行うことができれば、より高い再現性をもって端面形状を形成できるほか、施工時間の短縮等も図ることができる。このため、両工程を同時に実施できる工具が種々提案されている。
【0005】
例えば、カッターと、カッターを固定するカッター台と、シートをかける部材とを有する重ね落としのための工具が知られている(特許文献1)。
【0006】
また、比較的長尺な本体と、前記本体の頭部に回転自在に設けられ基準面に当合するローラと、前記本体の長手方向に形設され上下が開放する長孔と、前記長孔に案内され移動可能な摺動体と、前記摺動体を本体に固定するための固定具と、前記摺動体に脱着可能に且つ本体の下面からの突出量が可変自在に取り付けられる刃体とから構成したことを特徴とするシート類切断具も提案されている(特許文献2)。
【0007】
その他にも、前後方向に長尺の摺動孔が穿設された装着板と、この装着板よりも短寸で先端下方にガイド片が突設されたガイド板を互いの後端において間隔をあけて平行にかつ装着板を上にして連結し、前記装着板に摺動孔の任意の位置で固定できる取付部材を装着し、この取付部材に前記摺動孔を貫通しかつ刃先が装着板とガイド板の間に位置するカッターを取着し、更に取付部材下方に突出長さ自在のケガキ針を具備してなる落し込み用具が知られている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の工具では、カッターの可動範囲が限られているため、床シートの厚み、大きさ又は形状によっては適用できない場合が生じる。
【0010】
特許文献2のシート類切断具では、本体とガイド体の2つの部材を使用時に連結することになるが、その連結の仕方によっては床シートを切断できない場合が生じる。すなわち、例えば床シートが比較的厚いと切断するために相当の圧力が本体に加わることになるが、それにより連結部が破損したり、ぐらついて正確に切断できないことが起こり得る。
【0011】
特許文献3の長尺シート切断器では、市販のカッターを備え付けるものであるが、このような市販品では厚めの床シートを切断することが困難であるほか、そのカッターの大きさ等によっては切断時の視界を遮る等の支障をもたらすおそれがある。
【0012】
よって、本発明の主な目的は、床シートの厚み、大きさ、形状等に関係なく、より確実かつ正確に床シートを切断できる工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する工具を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の床シート切断工具に係る。
1. 床シートを切断するために用いる工具であって、
(1)上側プレート部材、下側プレート部材及びシート切断部を含み、
(2)上側プレート部材と下側プレート部材とは、互いに上下に配置され、かつ、上下方向に隙間を確保しながら一端部で互いに連結されており、
(3)上側プレート部材は、上下方向に貫通した貫通路を有し、
(4)シート切断部は、
(4−1)上側プレート部材の長尺方向に対して略垂直方向に切断できるように配置されている刃部と、当該刃部が下側プレート部材の底面よりも高い位置と低い位置に移動できるように上下移動可能な状態で当該刃部を支持するホルダー部とを含み、
(4−2)前記貫通路に沿って水平移動可能な状態で上側プレート部材上に搭載されており、
(5)下側プレート部材は、
(5−1)当該刃部の可動範囲に対応しながら上下方向に貫通した貫通路を有し、
(5−2)床シート端辺の形状に沿って水平移動できるように、床シート端辺に沿わせるためのガイド部が、前記連結されている反対の他端部近傍に設けられている、
ことを特徴とする床シート切断工具。
2. 前記ホルダー部は、厚み方向に貫通しかつ上下方向に伸びる貫通溝が形成され、該貫通溝に沿って上下移動可能である、前記項1に記載の床シート切断工具。
3. 上側プレート又は下側プレートの前記他端部が、上側プレート又は下側プレート部材の他端部よりも突き出ている、前記項1又は2に記載の床シート切断工具。
4. 刃部が諸刃である、前記項1〜3のいずれかに記載の床シート切断工具。
5. ガイド部は、シート端辺を少なくとも2ヶ所で支持する、前記項1〜4のいずれかに記載の床シート切断工具。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、床シートの厚み、大きさ、形状等に関係なく、より確実かつ正確に床シートを切断できる工具を提供することができる。
【0016】
特に、本発明の工具では、刃が上下方向及び水平方向の任意の位置で固定することができ、なおかつ、下側プレート部材の底面よりも高い位置と低い位置に移動できるように上下移動可能な状態で当該刃部を支持するホルダー部を備えているので、比較的厚みのある床シートであっても、刃部を床シートの厚み方向に完全に突き刺すことができる結果、確実に床シートを所望の形状に切断することができる。
【0017】
このため、本発明の工具によれば、床シートの厚み等に関係なく、上側のシート端部が下側のシートの端部の形状とほぼ同一の形状を容易に作り出すことができる。これにより、2枚の床シートどうしを突き合わせ、継ぎ目処理によって、2枚のシート端部をより確実に隙間なく接合させることができ、外観に優れた床面を施工することが可能である。
【0018】
また、刃部として諸刃を使用すれば、本発明の工具を往復させながら床シートを切断できるため、切り残しをなくし、作業効率を高めることができる。しかも、切断面も比較的平滑にすることができるので、その後の床シートどうしの接合にも好適である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.床シート切断工具
本発明の床シート切断工具(本発明工具)は、床シートを切断するために用いる工具であって、
(1)上側プレート部材、下側プレート部材及びシート切断部を含み、
(2)上側プレート部材と下側プレート部材とは、互いに上下に配置され、かつ、上下方向に隙間を確保しながら一端部で互いに連結されており、
(3)上側プレート部材は、上下方向に貫通した貫通路を有し、
(4)シート切断部は、
(4−1)上側プレート部材の長尺方向に対して略垂直方向に切断できるように配置されている刃部と、当該刃部が下側プレート部材の底面よりも高い位置と低い位置に移動できるように上下移動可能な状態で当該刃部を支持するホルダー部とを含み、
(4−2)前記貫通路に沿って水平移動可能な状態で上側プレート部材上に搭載されており、
(5)下側プレート部材は、
(5−1)当該刃部の可動範囲に対応しながら上下方向に貫通した貫通路を有し、
(5−2)床シート端辺の形状に沿って水平移動できるように、床シート端辺に沿わせるためのガイド部が、前記連結されている反対の他端部近傍に設けられている、
ことを特徴とする。
【0021】
本発明工具の実施形態の一例を
図1に示す。また、
図1のA方向からみた構成を
図2に示す。
図1のB方向からみた構成を
図3に示す。さらに、
図1のC方向からみた構成を
図4に示す。
【0022】
図1に示すように、本発明工具10は、その基本構成として上側プレート部材11、下側プレート部材12及びシート切断部13を含む。
【0023】
従って、本発明の効果を妨げない限り、これら以外の部材又は部品を備えていても良い。例えば、
図1に示すように、下側プレート部材12の底面側に、切断する床シート表面の保護、切断時の滑り性の向上等を目的として樹脂製又はゴム製の表面層19が設けられていても良い。表面層19に用いられる樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、スチレン/アクリル系共重合体、シリコン樹脂又はその変性品、フッ素樹脂等が挙げられる。これらは単独で併用しても良いし、複数の樹脂を混合して併用しても良い。これらのうち、ポリ塩化ビニルは耐久性と加工性の点で優れており、フッ素樹脂又はシリコン樹脂は、摩擦係数が少なく、滑らせやすいので優れている。滑らせやすさの観点から摩擦係数の少ないものが良いので、樹脂の表面にフッ素樹脂、シリコン樹脂等の摩擦係数の少ない樹脂をコーティングしても良い。また、樹脂は、床シートを円形状に切断するためのニードル用貫通孔21が形成されていても良い。さらに、
図1に示すように、ケガキ針18を備えていても良い。
【0024】
上側プレート部材11と下側プレート部材12とは、互いに上下に配置され、かつ、上下方向に隙間を確保しながら一端部で互いに連結されている。この場合、上側プレート部材11と下側プレート部材12とは、連結部材で互いに連結されている構造であっても良いし、あるいは両者が一体的に成形された構造であっても良い。
【0025】
また、上側プレート部材11と下側プレート部材12とは、
図1〜
図4に示すように、互いに上下に配置されている。より具体的には、上側プレート部材11の中心線X1と、下側プレート部材12の中心線X2とが実質的に重なり合うように、高さ方向に一定の間隔hを設けながら配置される。前記間隔hは、施工する床シートの種類等に応じて適宜設定できるが、通常は5〜10mm程度とすることが好ましい。また、
図1の切断工具では、間隔hは一定であるが、例えば一端部14から他端部11a,12aに向かうに従って間隔hが大きくなるような構造等とすることもできる。
【0026】
上側プレート部材
本発明工具では、
図2に示すように、上側プレート部材11は、上下方向に貫通した貫通路11bを有する。これは、シート切断部13が水平方向に移動するためのレールとして機能するとともに、その刃部15を下方に突出させるための突出口としても機能する。従って、これらの機能を発揮できる限りは、貫通路11bの形状及び大きさは特に制限されないが、レールとしての機能を果たすため、その形状としては、例えば
図2のように略矩形(略長方形)であることが好ましい。
【0027】
上側プレート部材における別の実施形態として、例えば
図6に示すような形状も採用することができる。
図6に示す上側プレート部材11は、貫通路11bの一方が開放されたコの字状となっている。このような構造を採用することによって、切断部13の可動範囲を広げることができる結果、床シート切断時の作業性(自由度)を高めることができる。
【0028】
図2では、上側プレート部材11の他端部11bは、先端の方に向かって尖ったような形状になっている。すなわち、
図2のような形状の先端部とすることにより、壁面の形状を転写しながら床シートを切断する際において、壁面の形状をより正確にトレースすることが可能となる。先端部の角度は、限定的でなく、通常は10〜150度の範囲と設定可能であるが、これに限定されない。また、前記先端部は角状になっていても良いが、先端部に丸みを帯びた形状であることが好ましい。先端部は壁面に接する部分になるが、先端部が丸みを有していることで、より円滑に壁面上を滑らせることが可能となる。
【0029】
上側プレート部材11の材質は、床シートの切断が行える限りは制限されず、例えば金属(鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金等)、プラスチックス等のいずれであっても良いが、耐久性に優れることから、金属製であることが好ましい。また、上側プレート部材11の大きさ、厚み等も限定されない。大きさは、手で持って作業するのに適したものであれば良く、一般的には長さ5〜30cm×幅3〜15cmの範囲内にすれば取り扱いに優れ、作業がしやすいので良いが、これに限定されない。厚みは、通常1〜5mmの範囲内で設定できるが、これに制限されない。
【0030】
下側プレート部材
下側プレート部材12は、
図3にも示すように、刃部15の可動範囲に対応しながら上下方向に貫通した貫通路12bを有する。すなわち、貫通路12bは、刃部15の通路としての機能を有する。より具体的には、刃部15により床シートを切断する際には、貫通路12bを通って床シートに到達し、そこに到達した刃部15によって床シートを突き刺し、切断する。
【0031】
また、下側プレート部材12は、床シート端辺の形状に沿って水平移動できるように、シート端辺に沿わせるためのガイド部17が、前記連結されている反対の他端部近傍に設けられている。例えば、
図3では、下側プレート部材12の他端部近傍12aの底面(裏面)に2つのガイド部17が設けられている。
図3においては、下側プレート部材12の他端部近傍12aに幅方向に突き出た部位12cを両側に形成し、
図4に示すように当該部位12c(両端)に2つのガイド部17がそれぞれ設けられているが、このような突出部位12cを形成することなく、下側プレート部材の他端部近傍に設けることもできる。また、
図3〜
図4では、ガイド部は2つ設けられているが、1つ以上であれば特に限定されない。
【0032】
また、2つのガイド部を結ぶ直線が、下側プレート部材12の中心軸に対して略直角になるように両ガイド部が形成されている場合は、その2点を結ぶ直線と床シート端辺を合わせることで下側プレート部材12の中心軸を切断方向に対して直角に当て込むことができるので、より正確なカットが可能となる。特に、刃部15の中心から線対称に等距離となる位置に2つのガイド部が形成されていることが好ましい。このような位置関係とすることによって、本発明工具に力を加えた際にも手ぶれが最小限となり、安定的に位置決めと床シート材の切断を行うことができる。
【0033】
ガイド部の大きさ、形状等も特に限定されないが、底面視の形状は、
図3に示す円形のほか、楕円形等の曲線で形成されていることが好ましい。これによって、ガイド部17と床シート材を摺動させて床シート材を切断する際、床シート材の引っ掛かりを抑制することができ、作業が容易になる。
【0034】
下側プレート部材における別の実施形態として、例えば
図7に示すような形状も採用することができる。
図7に示す下側プレート部材12は、貫通路12bの一方が開放されたコの字状となっている。このような構造を採用することによって、切断部13の可動範囲を広げることができる結果、床シート切断時の作業性(自由度)を高めることができる。
【0035】
下側プレート部材12の材質は、床シートの切断が行える限りは制限されず、例えば金属(鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金等)、プラスチックス等のいずれであっても良いが、耐久性等に優れることから金属製であることが好ましい。また、下側プレート部材12の大きさ、厚み等も限定されない。大きさは、手で持って作業するのに適したものであれば良く、一般的には長さ5〜30cm×幅3〜15cmの範囲内にすれば良いが、これに限定されない。下側プレート部材12の厚みは、通常1〜5mmの範囲内で設定できるが、これに制限されない。
【0036】
シート切断部
シート切断部13は、
図1に示すように、上側プレート部材11の長尺方向に対して略垂直方向に切断できるように配置されている刃部15と、当該刃部15が下側プレート部材12の底面よりも高い位置から低い位置まで移動できるように上下移動可能な状態で当該刃部15を支持するホルダー部16とを含んでいる。そして、前記貫通路11bに沿って水平移動可能な状態で上側プレート部材11上に搭載されている。
【0037】
図1に示すとおり、刃部15は、上側プレート部材11の長尺方向に対して略垂直方向に切断できるような向きでホルダー部16により保持されており、ホルダー部16ごと上下に移動可能になっている。ホルダー部16で刃部15を保持する手段は、特に限定されないが、刃部15を交換できるように脱着可能な状態で固定されていることが望ましい。従って、例えば
図8(a)に示すように、ホルダー用プレート16a,16bで刃部15を挟持し、ボルト、ねじ等のでねじ類23でねじ止めして固定することが好ましい。これにより、刃部が繰り返しの使用により摩耗した場合等は、新しい刃部と容易に交換することもできる。
【0038】
刃部15は、公知又は市販の床シート切断仕様の刃を用いることができる。この場合、刃部15としては、
図8(b)に示すような諸刃を用いることが好ましい。諸刃を用いることにより、いずれの方向からも切断できるので、作業効率が向上し、より確実に床シートを切断することが可能となり、また
図12〜
図13を示して後述するように、床シートを円形に切り抜くことも可能となる。また、作業する職人の利き腕が左右どちらであっても、容易に使いこなすことができる。
【0039】
また、刃部15として諸刃を用いる場合は、左右の刃が略線対称に形成されていることが好ましい。さらに、刃部15の先端は、
図3に示す上側プレート部材11の中心線X1と、下側プレート部材12の中心線X2とに重なり合う位置であることが好ましい。これによって、安定的に位置決めを行うことができるとともに、より確実に床シート材の切断を行うことができる。加えて、シート切断部13を上側プレート部材11の貫通路11bに沿って移動する際に、刃部15軸から外れずに移動していくので、どの位置に移動しても同じように切断作業を行うことができる。その他にも、刃部15を略線対称に形成すると、切断方向をどちらの方向としても同じようにカットしやすくなるうえ、切断部位が点に近くなるので後述の円形切断を行う際にも好適である。
【0040】
ガイド部が2つ以上ある場合、各々のガイド部を結ぶ直線の中心が中心線X1と直交するような位置関係とすることが望ましい。このような位置関係とすることで、床シート端辺をガイド部に合わせた場合に刃部15の中心がガイド部の中心に最も近接した位置になるので、最も安定したカットが可能となり、本発明工具に力を加えた際にも手ぶれが最小限となり、安定的に位置決めと床シート材の切断を行うことができる。
【0041】
また、ホルダー部16は、通常は上下に移動できるような状態で支持部13aに取り付ければ良い。より具体的には、刃部15を上下方向の任意の位置に固定できるように、支持部13aに取り付けることが好ましい。例えば、
図8(b)に示すように、ボルト用貫通孔24をホルダー部16a,16bに形成し、そこにボルト(例えば
図4のボルト22)を通して支持部13aに取り付けることによって、刃部15を任意の高さで固定することが可能となる。
【0042】
シート切断部13は、上側プレート部材11の貫通路11bに沿って水平移動可能な状態で上側プレート部材11上に搭載されている。すなわち、シート切断部13は、貫通路11bをレールとして水平に移動し、任意の箇所で固定することが可能である。このようなレール機構は、公知の手段を採用すれば良い。例えば、支持部13aの断面構成例(上側プレート部材11も示す。)を示す
図5のように、支持部13aの底面の中心部に凸部を形成し、その凸部に支持プレート13bがボルト13cで取り付けられた構成を採用することができる。ボルト13cを緩めることにより、上側プレート部材11をレールとしてシート切断部13を水平移動させることが可能となる。また、ボルト13cを締め付けることにより、任意の箇所でシート切断部13を固定することができる。
【0043】
2.床シート切断工具を用いた施工方法
本発明工具は、従来のケガキ針を有する器具において溝部を形成する際と同様の使い方で床シートを切断することができる。
【0044】
例えば、
図9に示すように、本発明工具10のガイド部17を床シート61aの端辺63に引っ掛ける。他方、切断される床シート61bの縁端部を本発明工具10の上側プレート部材と下側プレート部材の間に挿入し、適当な位置で刃部15を床シート61bに突き刺した状態とする。
【0045】
次いで、
図15において、工具31として本発明工具10を用い、矢印方向に本発明工具10を移動させることによって、床シート61bを順に切断部30に沿って切断することができる。すなわち、本発明工具の進行方向に従って、テンプレートとなる床シート61aの形状に沿ったかたちで床シート61bを切断することができる。この場合、特に刃部15として諸刃を使用していれば、1回の通過で切断が十分でない場合は、本発明工具10を必要部分だけ往復移動させることにより、確実に床シート61bを切断することが可能となる。
【0046】
また、本発明工具のシート切断部13にケガキ針18を装備している場合は、例えば
図10に示すように、刃部15が床シートに当たらないように上方に固定する一方で、ケガキ針18の先端を床シート61bに突き刺す。その後、
図15の場合と同様に本発明工具10を床シート61aの端辺形状に沿って移動させことにより、従来のケガキ針と同様の機能(ケガキ加工機能等)を発揮することもできる。この場合は、ケガキ針によって床シート61bの表面上に形成された溝部に沿って、別途に用意されたハサミ、カッター等で床シート61bを切断すれば良い。
【0047】
別の使用方法として、例えば
図11に示すように、壁面62の形状を床シート61aに転写する場合も本発明工具10を使用することができる。本発明工具10の上側プレート部材11の他端部(先端)11aを壁面62に当接するとともに、刃部15を床シート61aに突き刺す。次いで、他端部11aを壁面62に当接させながら矢印方向に本発明工具10を移動させると、壁面62の形状をトレースした状態で床シート61aを切断(転写カット)することができる。その結果、壁面62の形状と同様の切断部30を端辺に有する床シートを作り出すことができる。
【0048】
さらに、
図12に示すように本発明工具10の一端部14のいずれかにニードル用貫通孔21を形成したうえでニードル(千枚通し等)26を取り付けた場合は、本発明工具10をサークルカッターとして用い、
図13の平面図のように床シート61aを円形にくり抜くことができる。すなわち、ニードル26の先端を床シート61aに突き刺し、そこを回転軸として本発明工具10を回転移動させることにより、その移動に従って刃部15も円状に移動し、これにより床シート61aが円形に切断されることになる。
【0049】
本発明工具を適用できる床シートは、特に限定されない。材質としては、特に合成樹脂製の床シートに好適である。例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等の各種の合成樹脂を主体とするシートのいずれにも適用することができる。また、床シートの用途も、特に制限されず、例えば家屋・住居、商業施設、医療施設、屋内通路、外廊下、ベランダ、バルコニー等の床シートのいずれにも好適である。本発明工具で適用できる床シートの厚みは、公知又は市販の床シートのいずれにも対応可能であり、とりわけ1〜5mm程度の比較的厚いシートにも適用することができる。
【0050】
本発明工具10は、確実かつ正確に床シートを切断できるので、継ぎ目処理によって、2枚のシート端部をより確実に隙間なく接合させることができる。継ぎ目処理とは、たとえば、シーム液、ジョイントシールド、溶接棒等によって、隣接するシートの縁部を接合することをいう。
【実施例】
【0051】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0052】
実施例1
図1に示すような床シート切断工具を用いて床シートの加工を行った。この工具は、上側プレート部材11と、下側プレート部材12とが、その一端部14において連結部を介して連結されている。これらのいずれの部材も鋼製であり、連結部では接着剤により強固に接合されているが、溶接等で接合されていても良い。
【0053】
上側プレート部材11は、
図1〜
図2に示すように、一端部14付近から他端部11aに延びる略長方形の貫通路11aが形成されている。その他端部11aの先端は、尖った形状を有しており、下側プレート部材よりも長くなっている。別の実施形態としては、下側プレート部材のほうを長くすることもできる。本実施例の床シート切断工具における上側プレート部材11の厚みは、2mmである。
【0054】
下側プレート部材12は、上側プレート部材11の貫通路11bとほぼ同じ形状及び大きさの貫通路12bが形成されている。この貫通路12bを通じて刃部15が下側プレート部材の底面よりも下方まで移動することができるので、厚い床シートでも確実に切断することができる。また、下側プレート部材12の底面の一部又は全体には表面層19としてビニール製品テープが貼着されている。これにより、床シートが下側プレート部材との摩擦により傷むことを防ぐとともに、床シートと下側プレート部材との滑りを向上させることができる。本実施例の床シート切断工具における下側プレート部材12の厚みは2mmであり、表面層19の厚みは1mmである。
【0055】
下側プレート部材12の他端部12aは、幅方向に両側に突出した突出部位12cが形成されており、その底面にガイド部17がそれぞれ設けられている。このように、突出部位を形成することにより、2つのガイド部どうしの間に一定の距離を確保することができるので、テンプレートとなる床シート61aに本発明工具10を引っ掛け、移動する際のぐらつき等を防止し、より安定した状態で切断することが可能となる。
【0056】
この床シート切断工具10では、
図16に示すような形状及び寸法を有する諸刃15を用いた。すなわち、この諸刃15は、長さ8mmの切刃15aと長さ8mm切刃15bを備え、その先端が鋭角になっている全長が20mmの刃体である。諸刃15は、
図8(a)のように2つのホルダー用プレート16a,16bで挟まれて2つのネジ23により固定されている。ネジ止めするためのネジは、1つ以上であれば良い。ホルダー用プレート16a,16bには、
図8(b)に示すように縦長の貫通孔24が両端付近に形成されている。これにより、諸刃15を任意の高さ(位置)に調整することができ、特に下側プレート部材12の底面よりも下方まで諸刃15を突出させることもできる。そして、この中にそれぞれ1つずつボルトを挿入した状態で、
図1又は
図4に示すように支持部13aに形成されたボルト穴に前記ボルトをねじ入れすることにより、諸刃15をシート切断部13に取り付けられる。
【0057】
また、シート切断部13は、上側プレート部材11の貫通路11bをレールとして水平方向に移動・固定することもできる。これは、
図5に示す構造を採用することにより実施することができる。
【0058】
(1)床シートの切断
本発明工具10を用い、床シート61a及び61bとして市販の床シート(製品名「マチュアNW」東リ株式会社製、塩化ビニル系樹脂製、厚み約2mm)の切断(落とし込み)を行った。
図9のように、テンプレートとなる床シート61aと、切断される床シート61bとの2枚を用意し、床シート61aの端辺が直線形状であり、この端辺に本発明工具10のガイド部17を引っ掛けた。本発明工具10の刃部15を床シート61bに突き刺した状態とした。その後、
図15と同様に、前記端辺に沿って本発明工具10をスライドさせながら床シート61bを切断した。切断された床シート61bの切断部は、床シート61aの端辺の形状とほぼ同じ形状になっていた。
【0059】
(2)床シートのケガキ針による溝部成形
本発明工具10を用い、前記(1)と同様の床シートに対してケガキ加工を実施した。本発明工具10の刃部15が床シート61bに当たらないように上方で固定する一方、ケガキ針18を床シート61bに当接させた状態としたうえで、上記(1)の場合と同様にして
図14のようにして本発明工具10をスライドさせた。その結果、床シート61bの表面にケガキ針による溝部が形成された。その溝部は、床シート61aの端辺の形状とほぼ同じ形状を作り出すことができた。
【0060】
(3)床シートの壁面形状の転写・切断
本発明工具10を用い、壁面の形状に沿わせたかたちで床シートの切断を実施した。
図11に示すように、床面に置かれた床シート61aの上に本発明工具10を置き、同時に上側プレート部材11の他端部(先端部)11aを壁面62に当接させるとともに、諸刃15を床シート61aに突き刺した状態とした。次いで、本発明工具10を壁面62に沿わせながら矢印方向に水平移動させることにより、床シート61aの切断を行った。その結果、切断部30において壁面62の形状が転写された床シートを得ることができた。
【0061】
(4)ニードルを利用した床シートの円形切断
本発明工具10を用い、前記(1)と同様の床シートの一部をくり抜く加工を行った。本発明工具10の刃部15を床シート61bに突き刺した状態とした。また、本発明工具10のニードル用貫通孔21に千枚通しのニードル26を通し、本発明工具10の下部プレート部材12からニードル26の先端部が突き出る状態としたうえで、床シート61bに突き刺した状態とした。
図12に示すように、ニードル26の先端を突き刺した部分を中心軸として本発明工具10が回転するように移動させながら床シート61aを切断した。その結果、
図13に示すように、床シート61aから円形部分30を切り取ることができた。