【実施例】
【0034】
図1は、本発明に係る自動痰吸引システムに用いる吸引カテーテルの先端部構成の一例を説明する模式図である。同図(a)は吸引カテーテル2の先端部21を正面右斜め方向からみた模式図、同図(b)は同図(a)を矢印A方向からみた正面図、同図(c)は同図(a)をY−Y線でZ−Z方向に沿って切断した断面図である。
【0035】
図1に示した吸引カテーテル2は、その先端部21に2個の切欠き23を形成してある。この切欠き23は当該先端部21の外壁周りの2以上の個所で、その始端が開口され、この開放部が吸引孔22の開口端を共有して、それぞれ当該吸引カテーテル2の先端部21から吸引カテーテル2の長手後端方向(後端部)に延在して形成されている。この切欠き23は一方が気道の内壁に密着した場合を考慮し、吸引カテーテルの周方向の異なる位置に2以上の複数設けるのが好ましい。しかし、多すぎると吸引孔の意味が無くなるので、2個とするのが現実的である。
【0036】
切欠き23の深さD(吸引カテーテルの長さ方向サイズ)は、当該吸引カテーテルの吸引孔22の内径と同じ程度とするのを目安とする。深さサイズが深か過ぎると痰検知効率や吸引効率が低下し、また吸引カテーテルの強度が下がってしまい、逆に、深さサイズが小さい(浅い)と気道の粘膜を損傷させる恐れが増してしまう。
【0037】
また、切欠き23の幅Wのサイズは大きい(幅が広い)方が痰の密着性がよく、陽圧による痰検知の面から好ましい。しかし、Wのサイズが大き過ぎると吸引孔の形成理由がなくなる。
【0038】
実用性を考えて、吸引カテーテル2の吸引孔22の断面積をSとし、前記切欠きの開口端の前記吸引カテーテル2の断面方向幅W、長手方向奥行きDについて、S≒W×Dとするのが好ましい。こうすることで、先端部の吸引孔が気道内壁に完全に埋まった場合でも、切欠きを介して痰の吸引が可能となり、かつ陽圧印加時の圧力変化の検知が可能となる。
【0039】
図2は、本発明に係る吸引カテーテルの先端部構成の他例を説明する模式図である。ここでは、切欠き23を吸引カテーテル2の半径方向の対向する2か所に形成した。同図(a)は切欠き23の後端部側の幅が若干広くなった形状としたものである。そして、切欠きの後端部27側での後端壁26を吸引カテーテルの外壁側で後端部27方向に傾斜させてある。切欠きの内壁を親水性とすることで、痰の盛り上がりが切欠きに指向し、痰の検知が容易になる。
また、痰の膜28が付着しても後端部にいくにつれてこの膜が消滅し、痰の検知に影響を及ぼさない効果がある。
【0040】
図2(b)は切欠きの後端部27側での後端壁26を吸引カテーテルの内壁側で後端部27方向内側に傾斜させてある。陽圧印加時の空気流が切欠き周辺で乱流となって痰検知に影響するのを回避できる。
図2(c)は切欠きの形状を不定形としたもので、図示は楕円あるいは円を連結した形状とした例を示す。
この形状とした効果は、前記の形状を組み合わせたものとなる。なお、
図2に示した切欠きの形状を種々組み合わせ、痰検知効果、その吸引効果を試行錯誤で最良の切欠き形状とすることもできる。
【0041】
図3は、本発明に係る吸引カテーテルの先端部構成のさらに他例を説明する模式図である。この吸引カテーテルは、その先端部に有する吸引孔22の端部は、先端部21の外周縁および内周縁が共に外側に凸状の丸面取りされた形状を有せしめた。
【0042】
吸引カテーテル2の先端部21の外周縁および内周縁は共に外側に凸状の丸面取りされた形状としたときの前記外周縁の曲率半径をr1とし、内周縁の曲率半径をr2としたとき、r1≦r2とした。これにより、吸引孔での痰吸い込み断面積が拡大することで吸引効果が向上する。また、吸引孔22を形成した先端部21が気道内壁に接触することによるダメージを回避することができる。
【0043】
図4は、本発明に係る自動痰吸引システムに用いる吸引カテーテルの先端部に形成する吸引孔と切欠きの他の例を説明する断面模式図である。同図(a)は
図1と同様の吸引孔22に同じく切欠き23を3個形成した例を示す。この形状でも、3つの切欠きの幅Wと奥行きDの合計が吸引孔22の面積と略同等とするのが望ましい。
【0044】
図4(b)では吸引孔22の断面を楕円形とし、壁の厚みが厚い部分に2つの切欠き23を形成した。また、同図(c)では吸引孔22の断面を断面が4枚羽根に類似した形状とし、やはり壁の厚みが厚い部分に2つの切欠き23を形成した。そして、同図(d)では吸引孔22の断面を三角形とし、三角形の斜面の部分に計3つの切欠き23を形成した。これらの吸引孔22の断面形状、切欠きの数と位置を組み合わせることもできる。
【0045】
図5は、吸引カテーテルのさらに他の構成を説明する断面模式図で、痰の検出手段である痰センサを内蔵させた構成例である。現行の痰吸引用のカテーテルは使い捨てである。カテーテルに痰センサを内蔵させるとコスト高となり、現実的でない。しかし、ここに提案する構造は極めてシンプルであり、量産できれば使い捨て品として十分対応できると考える。
【0046】
図5の(a)は光学センサを用いたもの、同図(b)はインピーダンス(抵抗、誘電率、容量の何れか又はそれらの組み合わせ)変化を利用したものを示す。同図(a)は一対のフォトセンサを用いた例で、吸引カテーテル2の先端部21の吸引孔22の内壁に設けた第1のフォトセンサ30と、その後端部に所定の間隔を以って設けた第2のフォトセンサ31で構成される。
【0047】
第1のフォトセンサ30は発光/受光ダイオード30aと当該吸引孔の反対側の内壁に設けた反射膜(又は光吸収膜)30bとからなる。また、第2のフォトセンサ30も同様に発光/受光ダイオード31aと反射膜(又は光吸収膜)31bからなる。痰が発光/受光ダイオード30aと反射膜30bの間を通るとき、発光/受光ダイオード31aからの光は反射膜(又は光吸収膜)31bに達せず、発光/受光ダイオード30aの出力に変化が生じる。痰が発光/受光ダイオード31aと反射膜31bの間を通るときも同様である。制御手段17は、この出力の変化で痰の通過を検知する。
【0048】
図5(b)はインピーダンス変化を利用したもので、吸引カテーテル2の先端部21の吸引孔22の内壁に対向して設けた第1のセンサ32(第1の電極対32aと32b)、その後端部に所定の間隔を以って当該吸引孔22の内壁に対向して設けた第2のセンサ33(電極対33aと33b)で構成される。この構成で、第1のセンサ32の第1の電極対32aと32bの間に痰が存在すると、両電極間のインピーダンス(抵抗値、容量、誘電率など)が変化する。制御手段17は、このインピーダンスの変化で痰の通過を検知する。
【0049】
なお、図示したようなデスクリートな部品の埋め込みに代えて、これらのフォトセンサを、センサ出力導体と共にカテーテル本体の内壁あるいは外壁に薄膜成膜技術で連続形成し、出力信号をサンプリング読み出しすることで痰の有無を検出できる。
【0050】
次に、上記した痰の検出方法と吸引カテーテルを用いた自動痰吸引システムの実施例を説明する。
図6は本発明に係る自動痰吸引システムの実施例の構成を説明する模式図である。
図6において、参照符号1は痰を吸引する患者を示す。この実施例では、患者1の腹部には呼吸検知手段16としての加速度センサが取り付けられており、患者の呼気状態(「呼」)と吸気状態(「吸」)を検出して「呼」のタイミングと「吸」のタイミングを制御手段17に伝える。制御手段17は中央演算装置(所謂、CPU)とメモリ(RAM/ROM)及び各種のインターフェース(I/F)で構成される。メモリには、本実施例の痰吸引システムが実行する手順(ソフトウエア)、基準データのルックアップテーブルなどが格納されている。
【0051】
患者の気管(気道)には吸引カテーテル2が挿入されている。吸引カテーテルの系統には当該吸引カテーテルの内圧を検出する圧力検出手段としての圧力センサ18が設置されている。ここでの圧力センサ18は半導体薄膜方式のデバイスを使用する。その設置場所は吸引カテーテル2から痰の吸引チューブ6a−6b−6cを通して回収容器8に至る経路で吸引カテーテル2の内圧を検知できる個所であれば、適宜の場所でよい。
【0052】
吸引カテーテル2の後端部はコネクタ2aで吸引チューブ6aに着脱可能に接続される。吸引チューブ6a−6b−6cの経路には後述する痰検知手段3が取り付けられており、この痰検知手段3による痰の有無(痰吸引の完了を含む)の検知信号は制御手段17に転送される。制御手段17は、痰吸引手段である痰吸引ポンプ7と痰回収容器8を備えた痰吸引ユニットと補助呼吸手段15を備えた補助呼吸ユニット(人工呼吸ユニット)を切換える切換弁5を駆動する制御信号を生成し、これを切換弁駆動回路51に与える。
【0053】
吸引カテーテル2を接続した吸引チューブに接続された痰検知手段3の後端部は分岐管4で2つに分岐し、それぞれが痰吸引ユニットと補助呼吸ユニットに接続している。分岐管4で分岐した一方は痰吸引チューブ6cを通して回収容器8に至る。痰吸引時には、痰吸引手段の痰吸引ポンプ7が回収容器8の内圧を減圧するように動作する。
【0054】
分岐管4で分岐した他方は空気導入管9aで混合器10に接続されている。混合器10は加湿器12からの霧水を補助呼吸手段15から空気導入管9b,9cを通って導入された空気(酸素リッチな空気でよい)に混合して当該空気を規定の湿度に調整する。符号11、13は逆止弁である。符号14は電磁弁で、電磁弁駆動回路141で駆動される。また、ディスプレイモニター19は、本システムの動作状況を表示すると共に、画面上から必要に応じてシステムのパラメータ設定を行うタッチ入力機能を備えている。
【0055】
図7は、本発明に係る自動痰吸引システムにおける吸引痰検知手段の一例の説明図である。この吸引痰検知手段3は、
図6に示したように、本実施例では吸引チューブ6bと分岐管4の間に設置されている。吸引チューブ6の先端部61の近傍に設置された第1のセンサP1と後端部62側に所定の間隔で設置された第2のセンサP2で構成される。
【0056】
痰20が陰圧により時間t1で吸引チューブ6の先端部61から後端部後端部62に移動し、時間t2で痰20’として第2のセンサP2が検知することで痰が吸引されたことが判断される。その後に第1のセンサP1と第2のセンサP2の何れにも検知信号がない場合は、制御手段17は「吸引すべき痰は存在しない」と判断する。
【0057】
最初の「呼」の期間に、依然として第1のセンサP1と第2のセンサP2の検知信号がある場合、制御手段17は次の「呼」のタイミングでさらなる痰吸引を行う。
【0058】
上記した痰吸入カテーテルを用いた本実施例の痰自動吸引システムにおいて、看護師等は、後端部を痰吸引チューブ6bに嵌合し、仰臥した患者の口腔又は鼻腔からその気管(気道)内に吸引カテーテル2の先端部を直接挿入する。そして、陽圧を導入して痰の存在位置を検出し、検出した位置でカテーテルの先端部を止め、次の陰圧導入で存在する痰を吸引カテーテルの先端部に有する吸引孔から吸引して前記後端部に接続された痰吸引手段により体外に排出する。痰の検知タイミング、吸引タイミングは制御手段17に有する操作手順に従って自動で行う。
【0059】
この作業では、先ず腹部に設置した呼吸検知手段16で患者1の呼気と吸気のタイミングを監視する。本実施例では、この呼吸検知手段16として加速度センサを用いたが、これに限らず、距離センサ(腹部あるいは胸部の上下移動の距離を検出)、傾斜角センサ(腹部あるいは胸部の上下移動に伴うセンサの傾きを検出)、その他の既存の呼吸センサを使用できる。本実施例では、加速度センサの出力信号を制御手段17に転送し、基準の呼吸パターンとの比較で「呼」と「吸」のタイミングを判断する。
【0060】
次に、看護師等は痰の存在し易い咽頭部まで吸引カテーテル2の先端部21を挿入する。この状態で、補助呼吸を施す。補助呼吸は振動換気法を用いる。この補助呼吸では、補助呼吸のための換気チューブを兼ねる吸引カテーテル2から酸素又は所定の酸素濃度の空気を患者の呼吸よりも高頻度で供給する。痰の吸引処置では肺内の酸素濃度が低下し患者に負担を与えるが、本実施例では吸引カテーテルを介して補助呼吸を行うため、患者の負担(酸素不足による呼吸数の増大など)を大幅に軽減できる。
【0061】
補助呼吸を行った後、腹部の加速度センサ16により患者の呼気のタイミングを検知する。補助呼吸を一旦中止し、痰検知のため、痰が吹き飛ばない程度の陽圧で吸引カテーテルから一定流量の酸素(空気)を供給する。痰を吸引しているとき以外は吸引を行わずに酸素を供給することで患者の負担を軽減する。
【0062】
看護師等は、痰の吸引をしつつ吸引カテーテルをゆっくりと引き抜くが、吸引カテーテルから一定量の酸素供給をしている状態で、痰が先端部に接触すると、吸引カテーテルの内圧が変化する。この変化を利用して自動で痰を検知する。このように、痰の吸引は吸引カテーテル2を痰の位置まで挿入してから当該吸引カテーテル2を引き抜きながら行うのが望ましい。
【0063】
上記したように、制御手段17は、陽圧の変化で痰の存在を検知すると、自動的に陰圧に切換えて痰の吸引を開始するようにシステムを制御する。そして、
図7で説明した検知手段で痰がないことが検知されるか、呼気が終了したタイミングで吸引も自動的に終了させ、次の痰検知のための陽圧に切り替える。これを繰り返す。
【0064】
なお、痰が多くてその呼気タイミングでの吸引がし切れない場合は次の呼気のタイミングに合わせてその痰を吸引するが、2回目の呼気タイミングの終了時点で吸引を自動的に一旦停止する。このような事態では、呼吸検知手段16で検知される患者の呼吸数が乱れてくるので、再度、高頻度振動換気法(高頻度ジェット換気法等)で補助呼吸を施す。患者の呼吸が正常に戻った時点で痰の吸引の検知と吸引を行う。患者の呼吸をできるだけ妨げないようにするため、上記の作業は10秒から15秒以内に終了するように制御手段を設定しておくか、あるいは看護師等が随時終了するようにする。
【0065】
以下、本実施例の構成についてさらに説明する。吸引カテーテル2は補助呼吸手段15の換気チューブを兼ねている。吸引カテーテル2の先端部21には吸引孔22の周縁の一部を共有して当該先端部に吸引カテーテルの外壁と内壁に連通する開口部を形成した切欠き23を有する。そして、後端部27には痰吸引手段7と補助呼吸手段15とを切り替える切換弁5を備える。痰検知手段3と共に、吸引カテーテル2の内圧を検知する圧力検出手段18である圧力センサを有する。
【0066】
制御手段17は、呼吸検知手段16の検知信号に基づいて当該呼吸検知手段が検出した呼気のタイミングで圧力検出手段18の検知信号に応じて痰吸引手段7により吸引して体外に排出する如く切換弁5を制御する。
【0067】
また、制御手段17は、呼吸検知手段16が検知した吸気のタイミングで切換弁5を痰吸引手段7側に切換えて補助呼吸手段15から吸引カテーテル2に空気(酸素リッチな空気)を送って陽圧を与える。痰の有無により呼吸検知手段16の圧力が変化する。“痰有り”の検知信号があって、呼吸検知手段が出力する呼気のタイミングで切換弁5を痰吸引手段7側に切換える。
【0068】
また、“痰無し”の検知信号で切換弁5を補助呼吸手段15側に切換える。その後の吸引カテーテル2内に吸引すべき痰20の存在の有無の検知は、吸引チューブ経路に設置された痰検知手段により行う。前記したように、予め設定した期間内でのセンサの検知信号の両出力が共に“有り”で吸引すべき痰の有無を検知し、両方の出力が“無し”の場合は痰の吸引操作を停止する。
【0069】
呼吸検知手段16としては、患者1の腹部に設置される加速度センサが好適であるが、これに限定されるものではなく、患者の呼吸(呼気と吸気)のタイミングを検出する手段であれば、既知のセンサを適用できることは前記したとおりである。
【0070】
なお、吸引カテーテル2の吸引孔22の内壁に、外壁よりも強い撥水性を持たせることで、吸引される痰が前記吸引孔の内壁に濡れ残るのを抑制することができる。また、逆に、吸引カテーテルの吸引孔の内壁に外壁よりも強い親水性を付与することで、吸引される痰が吸引孔の内壁を迅速に濡れ移動するようにすることもできる。