【課題】安定で繰り返し用いることが可能であって、且つ触媒として用いた場合に高い収率を実現可能な、新規なパラジウム錯体固体、及びそれを用いた錯体触媒、並びにその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結されてなる配位子とパラジウム(II)化合物との配位結合によるパラジウム錯体が集合してなる1μm〜100μmの大きさの三次元構造体であり、X線回折試験(XRD)において2θ≦10°の範囲にピークを備えることを特徴とするパラジウム錯体固体、並びにその合成及び応用に関する。
プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結されてなる配位子とパラジウム(II)化合物との配位結合によるパラジウム錯体が集合してなる1μm〜100μmの大きさの三次元構造体であり、X線回折試験(XRD)において2θ≦10°の範囲にピークを備えることを特徴とするパラジウム錯体固体。
前記スペーサ基が、途中にエーテル酸素や環状構造を含んでもよい、炭素数2以上の2価以上の炭化水素鎖である請求項1〜3のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体。
炭素−炭素カップリング反応における触媒として請求項1〜5のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体を用いる化学反応工程を備えることを特徴とする化合物の製造方法。
パラジウム(II)化合物を含む溶液と、プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結された配位子を含む溶液と、を混合し、これらの錯体固体を沈殿させて得ることを特徴とするパラジウム錯体固体の製造方法。
請求項8〜12のいずれか1項記載の製造方法によりパラジウム錯体固体を得る工程を備え、この工程で得たパラジウム錯体固体をパラジウム錯体触媒とすることを特徴とするパラジウム錯体触媒の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記プリン誘導体骨格とパラジウムとの配位結合を利用する分子設計を基に、安定で繰り返し用いることが可能であって、且つ触媒として用いた場合に高い収率を実現可能な、新規なパラジウム錯体固体、及びそれを用いた錯体触媒、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、一分子中に、パラジウムに対して高い配位能を備えたテオフィリン、テオブロミン等といったプリン誘導体骨格を有する残基を複数備えた化合物を配位子とし、これをパラジウム(II)化合物に配位させて錯体を形成させたところ、大きさが1μm〜100μmの三次元構造をもち、X線回折試験(XRD)において2θ≦10°の範囲にピークを備える不溶の固体が生成することを見出した。この固体を透過電子顕微鏡(SEM)で観察すると、ナノシート又はナノリボンといった二次元のナノ構造体が折り重なって集合した三次元構造体を形成していることが観察され、固体のまま溶液中に添加して鈴木・宮浦カップリング反応を実施したところ、高い収率で反応が進行するばかりか、反応後の溶液から濾過操作により容易に回収できることがわかった。本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、以下のようなものを提供する。
【0009】
[1]本発明は、プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結されてなる配位子とパラジウム(II)化合物との配位結合によるパラジウム錯体が集合してなる1μm〜100μmの大きさの三次元構造体であり、X線回折試験(XRD)において2θ≦10°の範囲にピークを備えることを特徴とするパラジウム錯体固体である。
【0010】
[2]また本発明は、上記三次元構造体が、無数のナノシート又はナノリボン状の構造が折り重なって集合した階層構造を備えることを特徴とする[1]項記載のパラジウム錯体固体である。
【0011】
[3]また本発明は、上記残基が、下記一般式(1)で表す、キサンチン骨格を有する基である[1]項又は[2]項記載のパラジウム錯体固体である。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0012】
[4]また本発明は、上記スペーサ基が、途中にエーテル酸素や環状構造を含んでもよい、炭素数2以上の2価以上の炭化水素鎖である[1]項〜[3]項のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体である。
【0013】
[5]また本発明は、上記配位子が、下記一般式(2)又は(3)で表す構造を備える[1]項〜[4]項のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体である。
【化2】
(上記一般式(2)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基であり、X
1は、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数2つ以上のアルキレン基である。上記一般式(3)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基であり、各X
2は、それぞれ独立に、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数1以上のアルキレン基であり、Aは、芳香環又は置換されたメタンを表し、Aが芳香環の場合、nは2〜6の整数を表し、Aが置換されたメタンの場合、nは2〜4の整数を表す。このAが芳香環の場合、当該芳香環は、複数の芳香環が共有結合で連結されたものであってもよい。)
【0014】
[6]本発明は、[1]項〜[5]項のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体を含んでなる、炭素−炭素カップリング反応用の錯体触媒でもある。
【0015】
[7]本発明は、炭素−炭素カップリング反応における触媒として[1]項〜[5]項のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体を用いる化学反応工程を備えることを特徴とする化合物の製造方法でもある。
【0016】
[8]本発明は、パラジウム(II)化合物を含む溶液と、プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結された配位子を含む溶液と、を混合し、これらの錯体固体を沈殿させて得ることを特徴とするパラジウム錯体固体の製造方法でもある。
【0017】
[9]また本発明は、上記残基が、下記一般式(1)で表す、キサンチン骨格を有する基である[8]項記載のパラジウム錯体固体の製造方法である。
【化3】
(上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0018】
[10]また本発明は、上記スペーサ基が、途中にエーテル酸素や環状構造を含んでもよい、炭素数2以上の2価の炭化水素鎖である[8]項又は[9]項記載のパラジウム錯体固体の製造方法である。
【0019】
[11]また本発明は、上記配位子が、下記一般式(2)又は(3)で表す構造を備える[8]項〜[10]項のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体の製造方法である。
【化4】
(上記一般式(2)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基であり、X
1は、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数2以上のアルキレン基である。上記一般式(3)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基であり、X
2は、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数1以上のアルキレン基であり、Aは、芳香環又は置換されたメタンを表し、Aが芳香環の場合、nは2〜6の整数を表し、Aが置換されたメタンの場合、nは2〜4の整数を表す。このAが芳香環の場合、当該芳香環は、複数の芳香環が共有結合で連結されたものであってもよい。)
【0020】
[12]また本発明は、上記パラジウム(II)化合物が塩化パラジウム(II)である[8]項〜[11]項のいずれか1項記載のパラジウム錯体固体の製造方法である。
【0021】
[13]本発明は、[8]項〜[12]項のいずれか1項記載の製造方法によりパラジウム錯体固体を得る工程を備え、この工程で得たパラジウム錯体固体をパラジウム錯体触媒とすることを特徴とするパラジウム錯体触媒の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、安定で繰り返し用いることが可能であって、且つ触媒として用いた場合に高い収率を実現可能な、新規なパラジウム錯体固体、及びそれを用いた錯体触媒、並びにその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のパラジウム錯体固体の一実施形態、炭素−炭素カップリング反応用の錯体触媒の一実施形態、化合物の製造方法の一実施態様、パラジウム錯体固体の製造方法の一実施態様、及びパラジウム触媒の製造方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
<パラジウム錯体固体>
まずは、本発明のパラジウム錯体固体の一実施形態について説明する。本発明のパラジウム錯体固体は、プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結されてなる配位子とパラジウム(II)化合物との配位結合によるパラジウム錯体が集合してなる1μm〜100μmの大きさの三次元構造体であり、X線回折試験(XRD)において2θ≦10°の範囲にピークを備えることを特徴とする。
【0026】
プリン誘導体骨格は、その骨格に含まれるイミダゾール環における無置換の窒素(プリン骨格における7位の窒素)の孤立電子対がパラジウムに対して高い配位能を有しており、パラジウム原子に対する単座配位子として機能する。パラジウム(II)化合物は平面4配位であり、よく知られるPdCl
2のような化合物では、塩酸水溶液等の塩化物イオンの存在する水溶液中、2つの配位座が空いている。ここで、パラジウム原子に対して単座配位子として機能するプリン誘導体骨格である残基の2個をスペーサ基で連結して1分子の2座配位子とした場合、その配位子は、分子内で1個のパラジウム原子に対して2座配位子として機能したり、配位子分子とパラジウム原子とが交互に繋がるように配位してなる錯体ポリマーを形成したり、複数個のパラジウム原子を架橋しつつリング状のオリゴマーを形成したりする等、様々なパターンのパラジウム錯体を形成することが考えられる。特に、プリン誘導体骨格を有する2個の残基を連結するスペーサ基が炭化水素鎖のような疎水性のものであれば、極性溶媒中でこのような錯体を形成させた場合に、疎水基同士のファンデルワールス力等の作用を駆動力として独特なパッキングをした結晶が生成すると考えられる。本発明は、上記のようなアイデアのもとで完成されたものであり、本発明のパラジウム錯体固体は、大きさが1μm〜100μmの三次元構造体であり、上記のような独特なパッキングに基づいて、X線回折試験(XRD)における2θ≦10°の範囲にピークを備える。
【0027】
プリン誘導体骨格を備えた残基とは、その基の構造の一部としてプリン骨格を有する1価の基である。このようなプリン誘導体骨格としては、キサンチン骨格が好ましく挙げられ、特には、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチン等の化合物から誘導されるものが挙げられる。より好ましくは、上記プリン誘導体骨格を備えた残基として、下記一般式(1)で表すキサンチン骨格そのものからなる基を挙げることができる。
【0029】
上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等を挙げることができ、これらの中でもメチル基を好ましく挙げることができる。特に、R
1及びR
2の両方がメチル基である場合には、一般式(1)で表す残基は下記化学式(1A)で表すテオフィリンから誘導されるものであり、R
1が水素原子でR
2がメチル基である場合には、一般式(1)で表す残基は下記化学式(1B)で表すテオブロミンから誘導されるものであり、いずれの場合も合成上有利である。
【0031】
スペーサ基としては、2つ以上の上記プリン誘導体骨格を備えた残基を連結することのできるものであればよい。例えば、2個のプリン誘導体骨格を備えた残基を連結するならばスペーサ基は2価の基であればよいし、3個のプリン誘導体骨格を備えた残基を連結するならばスペーサ基は3価の基であればよいし、4個以上のプリン誘導体骨格を備えた残基を連結するならばスペーサ基は4価以上の基であればよい。
【0032】
より好ましい形態として、スペーサ基としては、途中にエーテル酸素や環状構造を含んでもよい、炭素数2以上の2価以上の炭化水素鎖であることが挙げられる。この炭化水素鎖としては、脂肪鎖、脂肪環、芳香環等から形成されるものが挙げられ、これらを組み合わせて形成されてもよい。スペーサ基が主として脂肪鎖から形成されれば、そのスペーサ基は柔軟なものになり、スペーサ基が主としてビフェニル等の芳香環から形成されれば、そのスペーサ基は剛直なものになる。スペーサ基の柔軟性や剛直性は、形成されるパラジウム固体錯体の微細構造に影響を与えると考えられ、これらを適宜調節して所望する微細構造を備えたパラジウム錯体固体を得ることができる。炭化水素鎖の途中にはエーテル酸素が含まれてもよく、炭化水素鎖がこれを含むことにより、さらにスペーサ基の柔軟性を高めることができる。
【0033】
プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結された配位子のより具体的な例として、下記一般式(2)又は(3)に表すものを挙げることができる。下記一般式(2)又は(3)に含まれるプリン誘導体骨格における7位の窒素原子(イミダゾール環における無置換の窒素原子)のそれぞれがパラジウム原子に対する単座配位子として機能するので、例えば下記一般式(2)で表す配位子は、パラジウム原子に対する二座配位子になり、下記一般式(3)で表す配位子は、パラジウム原子に対するn座配位子となる。これら各配位子は、分子内で1つのパラジウム原子に対する多座配位子として機能することもできるし、二又は複数のパラジウム原子に対する架橋配位子として機能することもできる。
【0035】
上記一般式(2)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等を挙げることができ、これらの中でもメチル基を好ましく挙げることができる。X
1は、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数2以上のアルキレン基である。このようなアルキレン基としては、エチレン基(−(CH
2)
2−)、プロピレン基(−(CH
2)
3−)、ブチレン基(−(CH
2)
4−)、ペンチレン基(−(CH
2)
5−)、ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)、ヘプチレン基(−(CH
2)
7−)、オクチレン基(−(CH
2)
8−)、ノニレン基(−(CH
2)
9−)、デシレン基(−(CH
2)
10−)、ウンデシレン基(−(CH
2)
11−)、ドデシレン基(−(CH
2)
12−)、オキシエチレン基、ポリオキシエチレン基、オキシプロピレン基、ポリオキシプロピレン基等を挙げることができる。なお、X
1に含まれる炭素数の上限は特にないが、一応の目安として、炭素数40程度が挙げられ、炭素数30程度がより好ましく挙げられ、炭素数20程度がさらに好ましく挙げられ、炭素数12程度がさらに好ましく挙げられる。また、X
1は、途中に分枝を有してもよい。
【0037】
上記一般式(3)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等を挙げることができ、これらの中でもメチル基を好ましく挙げることができる。各X
2は、それぞれ独立に、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数1以上のアルキレン基である。このようなアルキレン基としては、メチレン基(−CH
2−)、エチレン基(−(CH
2)
2−)プロピレン基(−(CH
2)
3−)、ブチレン基(−(CH
2)
4−)、ペンチレン基(−(CH
2)
5−)、ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)、ヘプチレン基(−(CH
2)
7−)、オクチレン基(−(CH
2)
8−)、ノニレン基(−(CH
2)
9−)、デシレン基(−(CH
2)
10−)、ウンデシレン基(−(CH
2)
11−)、ドデシレン基(−(CH
2)
12−)、オキシエチレン基、ポリオキシエチレン基、オキシプロピレン基、ポリオキシプロピレン基等を挙げることができる。なお、X
2に含まれる炭素数の上限は特にないが、一応の目安として、炭素数40程度が挙げられ、炭素数30程度がより好ましく挙げられ、炭素数20程度がさらに好ましく挙げられ、炭素数12程度がさらに好ましく挙げられる。また、X
2は、途中に分枝を有してもよい。Aは、芳香環又は置換されたメタンを表し、Aが芳香環の場合、nは2〜6の整数を表し、Aが置換されたメタンの場合、nは2〜4の整数を表す。「Aが芳香環」とは「Aが芳香環を含む基」との意味であり、そのような芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル骨格(2個のベンゼン環が単結合で結合された構造)等を挙げることができる。
【0038】
上記配位子として、さらに具体的には、下記の化学式で表すものを例示することができる。しかし、本発明で用いられる配位子は、以下に例示されるものに限定されることはない。
【0043】
上記各化学式に付した名称のうち、C4〜C12、又はC4−t〜C12−tはスペーサ基がアルキレン基の配位子であり、Cの後に付した数字はアルキレン基に含まれる炭素の数を意味する。また、上記各化学式のうち、PH、BPH、TRIS及びHXKIS、並びにPH−t、BPH−t、TRIS−t及びHXKIS−tはスペーサ基が芳香環を含む配位子である。これらのうち、PH、TRIS及びHXKIS、並びにPH−t、TRIS−t及びHXKIS−tは芳香環がベンゼン環であり、BPH及びBPH−tは芳香環がビフェニル骨格である。また、上記各化学式に付した名称のうち、末尾に「−t」を有するものは、テオブロミンから誘導された配位子であり、無印のものは、テオフィリンから誘導された配位子である。スペーサ基がアルキレン基である配位子は柔軟な構造を備えるのに対して、スペーサ基が芳香環である配位子は剛直な構造を備える。以下の説明では、便宜上、上記の化学式に付した名称に「配位子」の語を付して、その配位子の名称とする。例えば、上記C7の化学式で表す配位子のことを「C7配位子」と呼ぶ。
【0044】
本発明で用いられる配位子は、比較的簡単な有機合成手段により得ることができる。そのような方法の一例を挙げれば、臭素原子のようなハロゲン元素を両端に有するアルキレン化合物やアラルキレン化合物に、塩基の存在下、テオフィリン又はテオブロミンを反応させる方法を挙げることができる。この反応は、例えば溶媒をメタノールとして数日にわたって加熱還流させることで完結させることができる。
【0045】
パラジウム(II)化合物は、本発明のパラジウム錯体固体を構成する錯体の中心金属となるパラジウムの供給源である。パラジウム(II)化合物としては、上記配位子が配位可能な2以上の配位座を有するものであれば特に限定されないが、そのような化合物の中でも塩化パラジウム(II)(PdCl
2)が好ましく採用される。塩化パラジウム(II)は、固体状態において、各パラジウム中心に4個の塩素原子が平面四配位形構造の形で配位し、それぞれの塩素原子がさらに別のパラジウム中心にも配位した架橋構造をとっており、それがポリマー状に連続しているので、そのままの形では溶媒に溶けない。その一方で、塩酸水溶液等のように、塩化物イオンを含む水溶液にはPdCl
42−の形でポリマー状の構造が分解して溶解する。本発明において、上記錯体と錯形成するパラジウム(II)化合物としては、このように溶媒に可溶化されたものが好ましく用いられる。このようなパラジウム(II)化合物としては、塩化パラジウム(II)の塩酸水溶液が好ましく例示される。その際の塩酸水溶液の濃度は、1N(1mol/L)であることを例示できる。
【0046】
上記配位子とパラジウム(II)化合物とを極性有機溶媒、又は水を含有する極性有機溶媒中で反応させることにより、本発明のパラジウム錯体固体が得られる。このような合成方法の一例として、まず、PdCl
2の1N塩酸水溶液を用意し、これと上記配位子の溶液とを混合して室温で静置する方法を挙げることができる。このときの溶液としては、例えばメタノールやエタノール等のアルコール溶液を挙げることができる。このように室温で混合溶液を静置することにより、徐々に固体が析出して沈殿物が形成される。室温での静置期間としては、1日〜1ヶ月程度を挙げることができるが、固体の析出状況を観察しながら適宜調節すればよい。得られた沈殿を濾過により採取し、これをアルコールで洗浄して乾燥させることにより、本発明のパラジウム錯体固体が得られる。なお、上記では、PdCl
2の1N塩酸水溶液を用いたが、Pd(II)化合物はPdCl
2に限定されることはないし、溶媒も、Pd(II)化合物を溶解することができる極性溶媒(水と混和可能な溶媒)であれば特に限定されない。
【0047】
次に、本発明の錯体固体の微細構造について説明する。上記C7配位子とPdCl
2との反応で得られた錯体固体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を
図1に示す。
図1は、C7配位子とPdCl
2との反応で得られた錯体固体の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は倍率が1000倍の画像を表し、(b)は倍率が5000倍の画像を表し、(c)は倍率が10000倍の画像を表し、(d)は倍率が30000倍の画像を表す。
【0048】
図1(a)に示すように、本発明の錯体固体は、大きさが1μm〜100μm程度の三次元構造を有する固体であることがわかる。とりわけ多くの固体は大きさが10〜50μm、特には大きさが10〜20μm程度であるが、多くの場合、配位子の種類に応じて1μm〜100μm程度の範囲の大きさとなる。これを拡大すると、
図1(b)及び(c)に示すように、イガグリ状の微細構造を有することが示され、さらに拡大すると、
図1(d)に示すように、本発明のパラジウム錯体固体は、無数(すなわち複数)のナノシート又はナノリボン状の構造が折り重なって集合した階層構造を備えることがわかる。なお、ここでいう大きさとは、一個の固体において、長さの最も大きくなる部分の大きさを意味する。これは、例えば、球状固体であれば径に相当し、楕円体状固体であれば長径に相当する。
【0049】
次に、倍率を30000倍としたときのC4配位子〜C12配位子又はBPH配位子とPdCl
2との反応で得られた錯体固体のSEM画像を
図2に示す。
図2は、倍率を30000倍としたときのC4配位子〜C12配位子又はBPH配位子とPdCl
2との反応で得られた錯体固体のSEM画像であり、(a)はC4配位子を用いたときの画像であり、(b)はC5配位子を用いたときの画像であり、(c)はC6配位子を用いたときの画像であり、(d)はC8配位子を用いたときの画像であり、(e)はC9配位子を用いたときの画像であり、(f)はC7配位子を用いたときの画像であり、(g)はC10配位子を用いたときの画像であり、(h)はC11配位子を用いたときの画像であり、(i)はC12配位子を用いたときの画像であり、(j)はBPH配位子を用いたときの画像である。
【0050】
図2(a)〜(j)に示すように、いずれの配位子を用いた場合も、その配位子とPdCl
2との錯体固体は、無数のナノシート又はナノリボン状の構造が折り重なって集合した階層構造を備えることがわかる。そして、このような折り重なった階層構造を備えることから、いずれの錯体固体も単位質量あたりで非常に大きな表面積を有することが理解される。
【0051】
次に、C5配位子又はC7配位子とPdCl
2との反応で得られた錯体固体の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を
図3に示す。
図3は、C5配位子又はC7配位子とPdCl
2との反応で得られた錯体固体の透過型電子顕微鏡画像であり、(a)はC5配位子を用いたときの画像であり、(b)はC7配位子を用いたときの画像である。
【0052】
図3(a)及び(b)に示すように、パラジウム原子の存在を示す黒い点がほぼ均等に存在していることがわかり、本発明のパラジウム錯体固体の構造内にはPd原子が均等に分布していることが理解される。
【0053】
また、C10配位子とPdCl
2との反応で得られた錯体固体について熱重量測定(TG)を行ったところ、300℃付近から500℃付近まで質量の減少が続いた後、残質量が15.89%となったところで質量減少が停止した。この錯体固体の組成はC
24H
34Cl
2N
8O
4Pdであり、これがPdのみとなったときの残質量理論値は15.79%と計算されるところ、上記TGの結果はこの理論値と良く一致していると言える。このことから、上記の配位子とパラジウム原子との間で錯体が形成されていることが確認された。
【0054】
次に、本発明のパラジウム錯体固体の結晶性について知見を得るために、C7〜C12配位子のいずれかとPdCl
2との反応で得られた錯体固体のX線回折試験(XRD)を行った。その結果を
図4に示す。
図4は、C7〜C12配位子のいずれかとPdCl
2との反応で得られた錯体固体のX線回折試験(XRD)の結果を示すチャートである。
【0055】
図4に示すように、本発明のパラジウム錯体固体では、XRDにおいて2θ≦10°の範囲でピークが観察された。通常の結晶では、規則的な原子配置の存在に基づいてより高い角度(すなわち10°を超える角度)にピークが表れる。このような高い角度のピークは原子間距離がÅレベルの場合に観察されるものであり、このような結晶の場合には2θ≦10°の範囲にピークは観察されない。2θ≦10°に現れるピークは、通常の結晶のようなÅレベルの周期構造ではなく、1〜2nmレベルの周期構造の存在を示唆するものである。このことから、本発明のパラジウム錯体固体がラメラ(層状)構造を有し、nmレベルとなるラメラ構造の層間距離に応じた周期構造に基づいて、2θ≦10°の範囲にピークが観察されたものと考えられる。そして、そのピークは、配位子のスペーサ基に含まれる炭化水素鎖の長さ(Cの数)が大きくなるほど低角に現れているので、この炭化水素鎖が長くなるのに応じてラメラ構造の層間距離が長くなっていることが示唆される。このように、スペーサ基に含まれる炭化水素鎖の長さが層間距離を決定する要素となっていることから、本発明のパラジウム錯体固体は、ラメラ構造の折り返し部分にパラジウム原子が存在し、スペーサ基に含まれる炭化水素鎖が層構造を形成しているものと推察される。
【0056】
本発明のパラジウム錯体固体の対照として、単座配位子であるベンジルテオフィリンをPdCl
2に配位させた下記化学式に表す錯体固体を合成し、その錯体固体をSEMで観察した。その画像を
図5に示す。
図5は、単座配位子であるベンジルテオフィリンとPdCl
2との反応で得られた錯体固体の走査型電子顕微鏡画像であり、(a)は倍率が1000倍の画像を表し、(b)は倍率が5000倍の画像を表し、(c)は倍率が10000倍の画像を表し、(d)は倍率が30000倍の画像を表す。
【0058】
図5(a)〜(d)に示すように、単座配位子であるベンジルテオフィリンをPdCl
2へ配位させて錯体固体を得たとしても、その錯体固体は、本発明の錯体固体のように複雑な内部構造を備えた三次元構造とはならず、平滑な表面をもつ板状の結晶となることが理解される。
【0059】
<炭素−炭素カップリング反応用の錯体触媒>
上記パラジウム錯体固体を含んでなる、炭素−炭素カップリング反応用の錯体触媒もまた本発明の一つである。炭素−炭素カップリング反応とは、炭素−炭素結合を生成させる化学反応であり、例えば、有機ホウ素化合物とハロゲン化アリールとの間で炭素−炭素結合を生成させる鈴木・宮浦カップリング反応が例示される。この種の化学反応では、触媒としてパラジウム錯体触媒が用いられる。このパラジウム錯体触媒としては、多くの場合、3価のリン配位子であるホスフィン配位子がパラジウムに配位したものが用いられ、これを溶媒に溶解させて均一系で化学反応が実行される。しかしながら、配位子であるホスフィンは容易に酸化されて5価のリン化合物となり、そのような酸化を受けたパラジウム錯体触媒はもはや錯体として機能しなくなるので、触媒を高回転で使用しようとする場合には、反応系内の脱酸素を完全に行うなどといった細心の注意を払う必要がある。また、上記のように、ホスフィン配位子がパラジウムに配位した錯体触媒は、溶媒に溶解された均一系で用いられるので、溶液中から回収して再利用するのが困難である。
【0060】
これに対して、本発明の錯体触媒は、大きな表面積を有する不溶性の固体であり、ホスフィン配位子を有するものでもないので取り扱いが容易である。その一方で、本発明の錯体触媒を用いて炭素−炭素カップリング反応を水や極性有機溶媒中、不均一系で実行したときに高収率でこれを実行することができ、しかも不均一系なので、反応後に濾過という単純な操作により錯体触媒を回収して再利用することも可能である。
【0061】
既に述べたように、本発明の錯体触媒は、上記パラジウム錯体固体を含んでなる。特には、上記パラジウム錯体固体そのものを錯体触媒とすることが好ましい。
【0062】
<化合物の製造方法>
炭素−炭素カップリング反応における触媒として上記パラジウム錯体固体を用いる化学反応工程を備えることを特徴とする化合物の製造方法もまた、本発明の一つである。上記炭素−炭素カップリング反応用の錯体触媒の項で述べたように、本発明のパラジウム錯体固体は、炭素−炭素カップリング反応用の優秀な触媒として機能する。そこで、本発明の化合物の製造方法は、そのような特性を利用して、炭素−炭素カップリング反応における触媒として上記パラジウム錯体固体を用いた化学反応工程を備えるものである。
【0063】
本発明の化合物の製造方法は、従来から行われてきた炭素−炭素カップリング反応において、その反応に用いるパラジウム錯体触媒を本発明のパラジウム錯体固体に置き換えたものである。多くの場合、本発明の化合物の製造方法では、これまでと同様の条件でそのような反応を実行できるが、必要に応じて反応条件を適宜調節してもよい。
【0064】
<パラジウム錯体固体の製造方法>
上記パラジウム錯体固体の製造方法、すなわちパラジウム(II)化合物を含む溶液と、プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の残基がスペーサ基で連結された配位子を含む溶液と、を混合し、これらの錯体固体を沈殿させて得ることを特徴とするパラジウム錯体固体の製造方法も本発明の一つである。これについては、上記パラジウム錯体固体の説明で述べた通りなので、ここでの詳細な説明を省略する。
【0065】
上記プリン誘導体骨格を備えた残基としては、下記一般式(1)で表す基を好ましく挙げることができる。
【0067】
上記一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等を挙げることができ、これらの中でもメチル基を好ましく挙げることができる。特に、R
1及びR
2の両方がメチル基である場合には、一般式(1)で表す残基は下記化学式(1A)で表すテオフィリンから誘導されるものであり、R
1が水素原子でR
2がメチル基である場合には、一般式(1)で表す残基は下記化学式(1B)で表すテオブロミンから誘導されるものであり、いずれの場合も合成上有利である。
【0069】
上記スペーサ基としては、途中にエーテル酸素や環状構造を含んでもよい、炭素数2以上の2価の炭化水素鎖を挙げることができる。これについても既に説明した通りである。
【0070】
上記配位子としては、下記一般式(2)又は(3)で表す構造を備えたものを好ましく挙げることができる。
【0072】
上記一般式(2)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等を挙げることができ、これらの中でもメチル基を好ましく挙げることができる。X
1は、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数2以上のアルキレン基である。このようなアルキレン基としては、エチレン基(−(CH
2)
2−)、プロピレン基(−(CH
2)
3−)、ブチレン基(−(CH
2)
4−)、ペンチレン基(−(CH
2)
5−)、ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)、ヘプチレン基(−(CH
2)
7−)、オクチレン基(−(CH
2)
8−)、ノニレン基(−(CH
2)
9−)、デシレン基(−(CH
2)
10−)、ウンデシレン基(−(CH
2)
11−)、ドデシレン基(−(CH
2)
12−)、オキシエチレン基、ポリオキシエチレン基、オキシプロピレン基、ポリオキシプロピレン基等を挙げることができる。なお、X
1に含まれる炭素数の上限は特にないが、一応の目安として、炭素数40程度が挙げられ、炭素数30程度がより好ましく挙げられ、炭素数20程度がさらに好ましく挙げられ、炭素数12程度がさらに好ましく挙げられる。また、X
1は、途中に分枝を有してもよい。
【0073】
上記一般式(3)中、各R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等を挙げることができ、これらの中でもメチル基を好ましく挙げることができる。各X
2は、それぞれ独立に、途中にエーテル酸素を含んでもよい炭素数1以上のアルキレン基である。このようなアルキレン基としては、メチレン基(−CH
2−)、エチレン基(−(CH
2)
2−)、プロピレン基(−(CH
2)
3−)、ブチレン基(−(CH
2)
4−)、ペンチレン基(−(CH
2)
5−)、ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)、ヘプチレン基(−(CH
2)
7−)、オクチレン基(−(CH
2)
8−)、ノニレン基(−(CH
2)
9−)、デシレン基(−(CH
2)
10−)、ウンデシレン基(−(CH
2)
11−)、ドデシレン基(−(CH
2)
12−)、オキシエチレン基、ポリオキシエチレン基、オキシプロピレン基、ポリオキシプロピレン基等を挙げることができる。なお、X
2に含まれる炭素数の上限は特にないが、一応の目安として、炭素数40程度が挙げられ、炭素数30程度がより好ましく挙げられ、炭素数20程度がさらに好ましく挙げられ、炭素数12程度がさらに好ましく挙げられる。また、X
2は、途中に分枝を有してもよい。Aは、芳香環又は置換されたメタンを表し、Aが芳香環の場合、nは2〜6の整数を表し、Aが置換されたメタンの場合、nは2〜4の整数を表す。「Aが芳香環」とは「Aが芳香環を含む基」との意味であり、そのような芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル骨格(2個のベンゼン環が単結合で結合された構造)等を挙げることができる。
【0074】
上記パラジウム(II)化合物としては、塩化パラジウム(II)(PdCl
2)が好ましく挙げられる。PdCl
2は塩化物イオンを含む水溶液に可溶なので、そのような水溶液にPdCl
2を溶解させて溶液としたものを用いればよい。より具体的には、1N塩酸水溶液にPdCl
2を溶解させて溶液としたものを好ましく挙げることができる。
【0075】
上記配位子の溶液と上記パラジウム(II)化合物の溶液を混合し、室温で1日〜1ヶ月程度静置することにより、パラジウム錯体固体が析出し沈殿する。このとき、配位子の当量数(2座配位子であれば当量数は2となる。)と、パラジウム(II)化合物の当量数(PdCl
2であれば配位座が2つ存在するので当量数は2となる。)とを考慮して、両者の混合割合を決定する。一例として、2座の配位子とPdCl
2とを用いて反応させる場合には、2.5mmol/LのPdCl
2の1NHCl溶液(25mL)と5mmol/Lの配位子のエタノール溶液(25mL)とを混合することを挙げることができる。沈殿した固体は、濾別により採取される。得られた固体をアルコールで洗浄及び乾燥することで、触媒として利用可能なパラジウム錯体固体が得られる。
【0076】
<パラジウム錯体触媒の製造方法>
上記パラジウム錯体固体の製造方法によりパラジウム錯体固体を得る工程を備え、この工程で得たパラジウム錯体固体をパラジウム錯体触媒とすることを特徴とするパラジウム錯体触媒の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0077】
既に説明したように、このような製造方法で得られたパラジウム錯体触媒は、特に炭素−炭素カップリング反応用の触媒として好ましく用いることができるが、このパラジウム錯体触媒は、他の反応用の触媒としても好ましく用いることが可能である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
[本発明に用いる多座配位子の合成]
プリン誘導体骨格を備えた2つ以上の基を、キサンチン骨格の一つであるテオフィリン骨格としたときの配位子の合成方法は、下記化学反応式に示す通りである。これらの中から、スペーサ基として炭素数7のアルキレン基を持つ配位子(C7配位子)の合成方法を下記に示すが、他の配位子についても同様の手順で合成することができる。
【0080】
【化17】
【0081】
300mLナス型フラスコにテオフィリン(0.022mol,3.97g)及びメタノール200mLを加え、70℃のオイルバス中で撹拌して溶解させた。その後、1,10−ジブロモヘプタン(0.01mol,2.63g)、NaI(0.05mol,7.49g)及び炭酸カリウム(0.025mol,3.46g)を加え、70℃で6日間還流させた。その後、溶媒を留去し、乾固した物質をn−ヘキサンで洗浄し、未反応のジブロモヘプタンを除去した。次いでクロロホルム500mLと蒸留水1000mLを加え溶媒抽出を行い、目的物であるC7ジテオフィリン(C7配位子)をクロロホルム相に抽出した。分液後、クロロホルム相に硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、クロロホルムを留去し、白色固体のC7ジテオフィリン(C7配位子)2.21g(収率48.4%)を得た。構造は
1H−NMRにより確認した。
【0082】
【化18】
【0083】
1H−NMR(600MHz,300K,CDCl
3):δ(ppm) 7.53(H−1,2H,s),4.27(H−4,4H,t),3.59(H−2,6H,s),3.41(H−3,6H,s),1.87(H−5,4H,q),1.33(H−6,6H,m)
【0084】
同様な手順により一連の配位子を合成し、
1H−NMRで構造を確認した。
1H−NMRの結果を一覧表にまとめて表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
[本発明のパラジウム錯体固体の合成]
サンプル管に、塩化パラジウムの1N塩酸水溶液(2.5mmol/L,25mL)及び配位子のエタノール溶液(5mmol/L,25mL)を加え、よく混合した後、沈殿物が生成するまで静置した。沈殿物生成後、濾過して固体を採取した後、エタノールで洗浄して乾燥させ、黄色粉末のパラジウム錯体固体を得た。
【0087】
[ベンジルテオフィリン(単座配位子)の合成]
300mLナス型フラスコにテオフィリン(0.0139mol,2.50g)及びメタノール200mLを加え、70℃のオイルバス中で撹拌して溶解させた。その後、塩化ベンジル(0.015mol,1.90g)及び炭酸カリウム(0.015mol,2.07g)を加え、80℃で3時間還流させた。その後、溶媒を留去し、乾固した物質をn−ヘキサンで洗浄し、未反応の塩化ベンジルを除去した。次いでクロロホルム500mLと蒸留水1000mLを加え溶媒抽出を行い、目的物であるベンジルテオフィリン(単座配位子)をクロロホルム相に抽出した。分液後、クロロホルム相に硫酸ナトリウムを加えて脱水した後、クロロホルムを留去し、白色固体のベンジルテオフィリン(単座配位子)1.05g(収率28.0%)を得た。構造は
1H−NMRにより確認した。
【0088】
【化19】
【0089】
1H−NMR(600MHz,300K,CDCl
3):δ(ppm) 7.57(H−1,1H,s),7.35(H−5−6−7,5H,m),5.51(H−4,2H,s),3.59(H−3,3H,s),3.41(H−2,3H,s)
【0090】
[比較例用のパラジウム錯体固体(ベンジルテオフィリンパラジウム錯体)の合成]
サンプル管に、塩化パラジウムの1N塩酸水溶液(2.5mmol/L,25mL)及びベンジルテオフィリンのエタノール溶液(5mmol/L,25mL)を加え、よく混合した後、沈殿物が生成するまで静置した。沈殿物生成後、濾過して固体を採取した後、エタノールで洗浄して乾燥させ、黄色粉末のパラジウム錯体固体を得た。
【0091】
[本発明のパラジウム錯体固体を用いた鈴木・宮浦カップリング反応]
反応管に、フェニルボロン酸(0.75mmol,0.091g)、ブロモベンゼン(0.50mmol,0.052g)、エタノール(2mL)及びC7配位子(2mol%、0.01mmol,6.04g)を加え、室温で5時間反応させた。生成物であるビフェニルを反応溶液から回収して収率を求めたところ、ほぼ100%だった。反応溶液から濾別によりC7配位子を回収して、同様の手順で鈴木・宮浦カップリング反応を5回繰り返し実行したところ、いずれも収率はほぼ100%だった。
【0092】
[比較例のパラジウム錯体固体を用いた鈴木・宮浦カップリング反応]
C7配位子に代えてベンジルテオフィリンパラジウム錯体を用いたこと以外は、上記と同様の手順で鈴木・宮浦カップリング反応を行った。その結果、回収されたビフェニルの収率は約50%だった。
【0093】
上記本発明のパラジウム錯体固体を用いた場合、及び比較例のパラジウム錯体固体を用いた場合のいずれも、錯体固体が溶解されない不均一系の反応条件だったが、固体触媒の表面積の違いによりこのような収率の差が観察されたものと推察される。この結果から、本発明のパラジウム錯体固体が優れた触媒活性を備えることが理解される。