【解決手段】回転子コアにおける複数の積層板のうち少なくとも2つは、収納空間212よりも外周側に形成された基部230を有する磁極部220と、磁極部220に接続されたブリッジ部242とを有する。磁極部220は、周方向に複数設けられており、周方向に隣り合う一対の磁極部220の基部230の間には、第1空間部240が形成されている。周方向に隣り合う一対の磁極部220の中間に位置して第1空間部240に接するq軸外周部244は、基部230よりも内周側に設けられている。基部230は、第1空間部240に接する側面部241と、側面部241よりも外周側に設けられかつ側面部241に対して周方向に突出する突起部222とを有する。ブリッジ部242は、側面部241よりも内周側に配置されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1から
図3を用いて、本発明の第1の実施形態に係る回転子コアを備えた永久磁石式回転電機1の構成を説明する。
図1は、第1の実施形態に係る永久磁石式回転電機1の回転面内断面図である。
図2は、第1の実施形態に係る回転子20の断面図である。
図3は、第1の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、
図1の点線で囲ったX部を拡大して示した図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の永久磁石式回転電機1は、外周側に略環状の固定子10を配置し、内周側に略円柱状の回転子20を配置した、14極18スロット集中巻の永久磁石式回転電機である。固定子10と回転子20の間にはエアギャップ30が設けられている。固定子10は、固定子コア100、コアバック110および複数の巻線140を有しており、エアギャップ30を介して回転子20と対向して配置されている。
【0019】
固定子10は、例えば次のようにして形成される。まず、電磁鋼板の分割打ち抜きコアを積層した積層体により、T形のティース130を形成する。次に、ティース130に電線を巻き回して巻線140を形成した後、複数のティース130および巻線140を円環に組み、図示しないハウジングに焼嵌めまたは圧入して一体化する。このようにして、固定子10が形成される。
【0020】
また、
図2に示すように、本実施形態の回転子20は、電磁鋼板を積層した鉄心である回転子コア200と、回転軸となるシャフト300とを有する。回転子コア200の外周には、周方向に14極の磁極部220が設けられている。磁極部220の各々は、固定子10との対向面を形成して磁極外周面となる磁極円弧221の両端に突起部222が設けられるとともに、永久磁石210が収納されるV字形の収納空間212が設けられている。収納空間212には、矩形の永久磁石210が各磁極部220について2個ずつ挿入されて配置されている。
【0021】
図3に示すように、周方向に隣接する一対の磁極部220の間には、磁極円弧221に対して窪んだ形状の第1空間部240が形成されている。第1空間部240と収納空間212の間には、ブリッジ部242が形成されている。なお
図3では、収納空間212に収納される2個の永久磁石210の一方を第1永久磁石210a、他方を第2永久磁石210bとして示している。ブリッジ部242は、磁極部220に接続されると共に、第1空間部240の底に位置するq軸方向のコア最外周部244(以下、q軸外周部244と称する)にも接続されている。すなわち、ブリッジ部242は、磁極部220とq軸外周部244とを繋ぐように形成されている。
【0022】
磁極部220は、収納空間212から外径側に向かって径方向に突出する基部230を有する。基部230は、前述のように、磁極円弧221の両端に突起部222を有する。なお
図3では、一方の突起部222を第1突起部222a、他方の突起部222を第2突起部222bとして示している。さらに基部230は、ブリッジ部242との接続部分である一対の接続部243と、第1空間部240に接する一対の側面部241とを有している。側面部241は、突起部222(第1突起部222a、第2突起部222b)よりも径方向で内周側にそれぞれ配置されている。すなわち、突起部222は側面部241よりも外周側に設けられており、側面部241に対して周方向に突出している。一方、ブリッジ部242とq軸外周部244は、側面部241よりも径方向で内周側に配置されている。第1空間部240は、突起部222、ブリッジ部242およびq軸外周部244に面している。
【0023】
q軸外周部244は、周方向に隣接する一対の磁極部220の中間に位置しており、基部230よりも径方向で内周側に設けられている。q軸外周部244は、周方向に隣接する一対の磁極部220にそれぞれ接続されている2つのブリッジ部242の間に挟まれて配置されている。
【0024】
一般的に、回転電機において発生するトルクリップルは、磁石磁界と巻線磁界による回転力の脈動であるため、エアギャップにおける双方の磁界が正弦波状であれば生じない。エアギャップ長の短い埋め込み磁石式の回転電機では、ステータは表面磁石式と同様の構成であるので、巻線に正弦波電流を課した際に生じるステータからの磁界は、エアギャップにおいて正弦波状になる。一方、ロータについては、ステータに近い部分ほどロータコアに磁石磁束が通りやすいため、ロータコアの外周部における磁極形状によっては、ロータからの磁界が正弦波状から外れてしまうことがある。このような場合に、トルクリップルが大きくなりうると考えられる。
【0025】
例えば、磁極形状が蒲鉾状である場合、磁極端部でパーミアンスが急激に変化し、磁極端部で磁界の通りにくさと通りやすさの変化が極端に生じる。そのため、磁極端部付近のエアギャップの磁界の変化が大きくなり、ロータからの磁界が正弦波状から外れ、トルクリップルが大きくなると考えられる。これは、特にエアギャップ長が短い場合に顕著である。また、磁極端部のブリッジがステータに近い場合にも、ブリッジを通って磁界がエアギャップに出るため、ロータからの磁界が正弦波状から外れ、トルクリップルが大きくなると考えられる。また、q軸方向のコア最外周部がステータに近い場合にも、そこに磁界が通ってしまうため、ロータからの磁界が正弦波状から外れ、トルクリップルが大きくなると考えられる。
【0026】
ロータからの磁界を正弦波状に近づけるためには、適切な磁極形状を採用することが重要である。しかしながら、磁極円弧の半径や磁極幅は、コギングトルクの低減要求に応じて決まるために変更が難しい。また、高トルク化の要求に応じてエアギャップ長を短くすると、ロータ形状による磁界への影響が増加して、トルクリップルが増加しやすくなる。また、磁石がV字型に埋め込まれた埋め込み磁石式(VIPM)回転電機のように、磁石の極性を有する面の面積を大きく取れる構造の回転電機では、1つの磁極を通過する磁束量が多くなる。そのため、前述のような磁極形状による磁界への影響、すなわち、蒲鉾形状の磁極端部や、磁極端部のブリッジや、q軸方向のコア最外周部がステータに近いことによる磁界への影響が、大きくなると思われる。このため、ロータからの磁界を正弦波状に近づけるには、磁極端部付近および磁極間の空間における形状の工夫が重要と考えられる。
【0027】
以上の検討から、永久磁石式回転電機におけるトルクリップルの低減には、次の構成の採用が有効であることが確認された。
(1)磁極端部のパーミアンスの急激な変化を抑制するため、磁極端部に突起部を形成する。これにより、突起部の磁気抵抗が大きいことを利用して、磁極端部付近のエアギャップの磁界の変化を緩やかにすることができる。
(2)ブリッジ部をステータから径方向内側に離す。これにより、ブリッジ部を通して磁界がエアギャップに出ることを防止することができる。
(3)q軸方向のコア最外周部をステータから径方向内側に離す。これにより、q軸方向のコア最外周部を通して磁界がエアギャップに出ることを防止することができる。
(4)突起部とブリッジ部の間に側面部を設け、ブリッジ部とq軸方向のコア最外周部を側面部より径方向内側として、これらを突起部から径方向内側に離す。これにより、突起部を通る磁界がブリッジ部とq軸方向のコア最外周部を経由して供給されることを防止することができる。
【0028】
なお、上記(4)の構成を採用しないと、ブリッジ部またはq軸方向のコア最外周部から突起部を経由した磁界がエアギャップに供給されやすくなる。すると、突起部を通る磁界がブリッジ部またはq軸方向のコア最外周部を通る磁界とともに変動し、ブリッジ部またはq軸方向のコア最外周部からの磁界がエアギャップに供給されるのと同様になるため、トルクリップル低減の障害になる。そのため、上記(4)の構成もトルクリップルの低減に必要となる。
【0029】
以上の構成により、磁極端部からエアギャップへ通る磁界を、ほぼ基部から突起部を経由する磁界のみとすることができる。その結果、突起部の磁気抵抗が大きいために、磁極端部付近のエアギャップにおけるロータからの磁界がなだらかになり、正弦波状に近づけることが可能になると考えられる。
【0030】
図1〜
図3で説明した本実施形態の永久磁石式回転電機1の構成は、以上の検討結果を踏まえて決定されたものである。すなわち、側面部241の存在により、ブリッジ部242とq軸外周部244が突起部222(第1突起部222a、第2突起部222b)に近づかないように配置されている。これにより、永久磁石210(第1永久磁石210a、第2永久磁石210b)により生じた磁界がブリッジ部242もしくはq軸外周部244を経由して突起部222に供給されにくくなっている。その結果、磁極部220からエアギャップ30へ通る磁界は、ほぼ基部230から突起部222を経由する磁界のみとなる。したがって、突起部222の磁気抵抗が大きいために、磁極部220付近のエアギャップ30における回転子20からの磁界がなだらかになり、正弦波状に近づけることが可能になる。これは、エアギャップ長を短縮できるIPM回転電機において好適である。特に、本実施形態の永久磁石式回転電機1のように、1つの磁極を通過する磁束量を多くできるVIPM構造の回転電機において好適である。
【0031】
なお、量産時の制約等により、突起部222の先端には一定以上の厚さが必要である。本実施形態では、例えば、突起部222の根本側の厚さを、電磁鋼板の厚さの40%以上になるように形成することが好ましい。
【0032】
以上で説明したような形状の磁極部220および第1空間部240を用いることにより、トルクリップルの低減に優れたロータコアである回転子コア200と、それを用いた回転子20および永久磁石式回転電機1とを得ることができる。
【0033】
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算した結果、エアギャップ長を0.5mmとした場合には、トルクリップルが0.76%と計算された。これに対して、
図4に示すような蒲鉾型の磁極形状を有する一般的なIPM構造の回転電機を比較例1として、この比較例1の特性を磁場解析により計算した結果、トルクリップルが1.93%と計算された。なお、
図4は、比較例1に係る回転子の断面の磁極付近の拡大図である。また、上記のトルクリップルの計算結果は、固定子10、回転子20、および、エアギャップ30の磁束分布と、エアギャップ30の電磁応力とを、有限要素法による磁界解析でそれぞれ計算し、回転角に対応するトルクを算出することにより得られたものである。
【0034】
これにより、本実施形態の構成によれば、トルクリップルを十分に小さくできることが分かる。さらに加えて、エアギャップ長を短縮でき、そのため磁石使用量に対するトルク出力を大きくできることも分かる。
【0035】
なお、本実施形態の永久磁石式回転電機1をEPS装置に用いることで、車室内に伝搬する振動や騒音を抑制できる。また、その他の自動車用電動補機装置、たとえば電動ブレーキを行う自動車用電動補機装置に適用することでも、振動や騒音を抑制することが可能である。さらには、本実施形態の永久磁石式回転電機1の採用は自動車分野に限定されず、低振動化が好ましい産業用の永久磁石式回転電機全般にも適用可能である。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、
図5Aおよび
図5Bを用いて、本発明の第2の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。
図5Aは、第2の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第1の実施形態で説明した
図3と対応している。
図5Bは、第2の実施形態における突起端部付近の拡大図であり、基部230のうち第2突起部222bを含む部分を拡大して示した図である。なお、第1の実施形態と共通の部分は説明を一部省略する。
【0037】
本実施形態の永久磁石式回転電機1における磁極部220は、
図5Aおよび
図5Bに示すような構造を有している。この構造では、第1の実施形態と同様に、磁極部220は第1突起部222aと第2突起部222bを有するが、これらの形状が第1の実施形態とは異なっている。具体的には、
図5Aおよび
図5Bに示すように、第1突起部222aの端部と第2突起部222bの端部である第2突起端部225bとを結ぶ仮想線分を第1線分250と定義すると、第2突起端部225bと側面部241との間の面は、第1線分250よりも外径側に位置している。これにより、第1線分250と第2突起部222bの間に、第1線分250に面する空間251が設けられるように、第2突起部222bが形成されている。なお、第1突起部222aも同様の形状を有している。
【0038】
図6は、本発明による実施例1、2と比較例1とのトルクリップルの相違を説明する図である。
図6では、
図4に示したような蒲鉾型の磁極形状を有する一般的な構造のIPM回転電機を比較例1として、この比較例1と本発明による実施例1および実施例2とのトルクリップルおよびコギングトルクを示すと共に、実施例2のトルクを1としたときの比較例1および実施例1のトルク比を示している。
図6に示す各例でのトルクリップルおよびコギングトルクの値は、固定子10、回転子20、および、エアギャップ30の磁束分布と、エアギャップ30の電磁応力とを、有限要素法による磁界解析でそれぞれ計算し、回転角に対応するトルクを算出することにより得られたものである。なお、実施例1は、
図3に示した磁極構造を有する第1の実施形態の永久磁石式回転電機1に相当し、実施例2は、
図5Aに示した磁極構造を有する第2の実施形態の永久磁石式回転電機1に相当する。
【0039】
エアギャップ長を0.5mmとした場合、
図6に示すように、実施例1のトルクリップルは0.56%、実施例2のトルクリップルは0.68%であるため、いずれも十分に小さく、トルクリップル低減という本発明の目的を達成できることが分かる。一方、これらに比べて、比較例1のトルクリップルは1.9%と大きいため、本発明の目的を達成することが困難であることが分かる。
【0040】
また、
図6に示すように、実施例1のコギングトルクは0.4mN・mであり、実施例2のコギングトルクは0.3mN・mであるため、コギングトルクも十分に小さいことが分かる。これに対して、比較例1のコギングトルクは2.34mN・mであり、製造誤差の影響等を考慮すると、コギングトルクの低減が不十分であることが分かる。さらに、
図6に示すように、実施例2を基準としたトルク比は、実施例1ではほぼ1であるが、比較例1では0.68となっている。これにより、比較例1では小型でトルク出力が大きいという目的を達成することが困難であることが分かる。
【0041】
比較例1のような従来の構造による回転電機では、第1および第2の実施形態で説明した突起部222が磁極に設けられていないため、磁極端部で磁界の通りにくさと通りやすさの変化が極端に生じる。特にエアギャップが小さいときは、磁極端部付近の磁界の変化が大きくなる。その結果、ロータからの磁界が正弦波状から外れてしまい、トルクリップルが大きくなると考えられる。一方、実施例1および実施例2では、突起部222を設けることで、比較例1と比べてトルクリップルを低減している。
【0042】
以上の比較検討から、実施例1および実施例2の構成は、トルクリップル、コギングトルク、トルク比、の何れの面でも優れており、効果のあることが示された。すなわち、本発明による永久磁石式回転電機1の構造は、トルクリップル低減に有効な構造である。
【0043】
なお、本実施形態についても第1の実施形態と同様に、本実施形態の永久磁石式回転電機1をEPS装置に用いることで、車室内に伝搬する振動や騒音を抑制できる。また、その他の自動車用電動補機装置、たとえば電動ブレーキを行う自動車用電動補機装置に適用することでも、振動や騒音を抑制することが可能である。さらには、本実施形態の永久磁石式回転電機1の採用は自動車分野に限定されず、低振動化が好ましい産業用の永久磁石式回転電機全般にも適用可能である。
【0044】
(第3の実施形態)
次に、
図7Aを用いて、本発明の第3の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。
図7Aは、第3の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第1、第2の実施形態でそれぞれ説明した
図3、5と対応している。なお、第1、第2の実施形態と共通の部分は説明を一部省略する。
【0045】
第1の実施形態で説明した永久磁石式回転電機1は、14極18スロット集中巻の回転電機であったが、本実施形態の永久磁石式回転電機1は、10極60スロット分布巻の回転電機である。本実施形態の固定子10は、例えば次のようにして形成される。まず、電磁鋼板の一体打ち抜きコアを積層したステータコア積層体により、内周側に放射状のティース130を複数形成する。次に、各ティース130に巻線を巻き回して巻線140を形成した後、図示しないハウジングに焼嵌めまたは圧入して一体化する。このようにして、固定子10が形成される。
【0046】
本実施形態の永久磁石式回転電機1における磁極部220は、
図7Aに示すように、第2の実施形態と同様の構造を有している。すなわち、磁極部220は第1突起部222aと第2突起部222bを有し、第1突起部222aおよび第2突起部222bの端部と側面部241との間の面は、第1線分250よりも外径側にそれぞれ位置している。これにより、第1線分250と第1突起部222aおよび第2突起部222bとの間にそれぞれ空間が設けられるように、第1突起部222aおよび第2突起部222bが形成されている。
【0047】
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、トルクリップルが0.82%であった。これにより、10極60スロット分布巻の回転電機においても、トルクリップルが小さいという特性を得ることができることが分かる。また、コギングトルクについても0.3mN・mと十分に小さくできる。したがって、14極18スロット集中巻以外の極スロット組合せや巻線方式においても効果を有することが確認できた。なお、上記のトルクリップルとコギングトルクは、エアギャップ長を0.7mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0048】
(第4の実施形態)
次に、
図7Bを用いて、本発明の第4の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。本実施形態の永久磁石式回転電機1は、第3の実施形態と同様に、10極60スロット分布巻の回転電機である。
図7Bは、第4の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第1〜第3の実施形態でそれぞれ説明した
図3、5、7Aと対応している。なお、第1〜第3の実施形態と共通の部分は説明を一部省略する。
【0049】
本実施形態の永久磁石式回転電機1における磁極部220は、
図7Bに示すように、第1の実施形態と同様の構造を有している。すなわち、磁極部220は、
図3に示したのと同様の形状である第1突起部222aおよび第2突起部222bを有する。
【0050】
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、トルクリップルが0.85%であった。これにより、10極60スロット分布巻の回転電機においても、トルクリップルが小さいという特性を得ることができることが分かる。また、コギングトルクについても0.8mN・mと十分に小さくできる。したがって、14極18スロット集中巻以外の極スロット組合せや巻線方式においても効果を有することが確認できた。なお、上記のトルクリップルとコギングトルクは、エアギャップ長を0.7mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0051】
(第5の実施形態)
次に、
図8Aから
図9を用いて、本発明の第5の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。本実施形態の永久磁石式回転電機1は、第1、第2の実施形態と同様に、14極18スロット集中巻の回転電機である。
図8A、8B、8D、8Eおよび8Fは、第5の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第1〜第4の実施形態でそれぞれ説明した
図3、5、7A、7Bと対応している。
図8Cは、第5の実施形態に係る回転子20の軸方向端面の断面図である。なお、第1〜第4の実施形態と共通の部分は説明を一部省略する。
【0052】
本実施形態の永久磁石式回転電機1における回転子コア200は、第1の実施形態で説明したように、複数の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される。この複数の電磁鋼板は、
図8Aに示す形状のものと、
図8Bに示す形状のものとに分類される。以下では、
図8Aに示す形状の電磁鋼板を「第1板」、
図8Bに示す形状の電磁鋼板を「第2板」とそれぞれ称する。すなわち、本実施形態の回転子コア200は、第1板および第2板がそれぞれ複数ずつ積層されて構成されている。第1板および第2板は、軸方向締結部261によって軸方向に互いに締結されている。
【0053】
図8Aに示すように、第1板は、第1の実施形態で説明したのと同様の磁極構造を有している。すなわち、第1板の磁極部220は、
図3に示したのと同様の形状である第1突起部222aおよび第2突起部222bを有しており、第1空間部240と収納空間212の間に形成されたブリッジ部242と接続部243において接続されている。一方、
図8Bに示すように、第2板では第1空間部240と収納空間212の間にブリッジ部242が形成されていない。そのため、磁極部220とq軸外周部244の間には、収納空間212と第1空間部240の間を貫通する開口部が形成されている。なお、第1板と第2板とは別々の製造工程で製造されるものであってもよいし、第1板からブリッジ部242を切除することで第2板を製造してもよい。
【0054】
図8Cに示すように、本実施形態の回転子コア200の軸方向端面には、ブリッジ部242を有する第1板が配置されている。
図8Cにおいて、第1の実施形態で説明した
図2の断面図との違いは、磁極部220に軸方向締結部261がそれぞれ設けられている点である。回転子コア200を構成する複数の電磁鋼板、すなわち複数の第1板および第2板は、軸方向締結部261に挿入される図示しない締結シャフトにより、軸方向に互いに締結して積層されている。そのため、第1板のブリッジ部242により、収納空間212に収納された永久磁石210が回転面内で保持され、回転子コア200の積層体と連結されている。
【0055】
本実施形態の回転子コア200では、回転時の強度に問題のない範囲であれば、第1板を減らして第2板を増加することにより、ブリッジ部242を経由する磁束の漏れを低減して、トルクを増加させることができる。但し、組立て時の積厚調整のために軸方向端面の積層板を1枚取り除く場合があるため、組立て開始時の軸方向端部における第1板の積層数は、少なくとも一方の端部において2枚以上であることが望ましい。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の回転子コア200は、複数の第1板および第2板が軸方向に締結積層された構造を有している。ここで、第1板と第2板の違いは、ブリッジ部242の有無のみである。そのため、本実施形態の回転子コア200では、
図8Dに示すように、ブリッジ部242が部分的に連結されて、軸方向に厚さを持つ3次元的な構造になっている。なお、
図8Dでは、破線で示した部分連結ブリッジ部242Aにより、部分連結されたブリッジ部242の軸方向への射影を表している。磁極部220は、部分接続部243Aにおいて、この部分連結ブリッジ部242Aと接続されている。
【0057】
本実施形態によれば、ブリッジ部242を部分連結ブリッジ部242Aとしたことで、この部分における磁束漏れが減少する。そのため、第1の実施形態と同じトルクを同じ積層厚で得る際に、永久磁石210の極性面の幅を小さくできるため、磁石量をより低減することが可能である。
【0058】
なお、本実施形態の回転子コア200では、永久磁石210の飛散防止のために、少なくとも第2板において収納空間212と第1空間部240の間を貫通している開口部を覆うことができるカバーを設けることが好ましい。例えば、
図8Eに示すように、磁極部220および第1空間部240を含む回転子コア200の表面を全周方向に覆うカバー265を用いることができる。このカバー265の材質には、例えば非磁性の金属または合成樹脂を使用することができる。また、例えば
図8Fに示すように、第1空間部240に接着剤や合成樹脂を塗布し、これをカバー265として用いることもできる。この場合、第1空間部240に隣接する回転子20の軸方向端部にも接着剤や合成樹脂を塗布し、各磁極部220の周囲を覆う形状として固化することが好ましい。これにより、接着剤や合成樹脂で構成されたカバー265のはく離を防止して、永久磁石210の飛散防止が可能になる。また、回転子20の軸方向端面における永久磁石210の表面またはカバー265の表面の少なくとも一方は、エンドプレートを配置して覆うこととしてもよい。これにより、さらなる永久磁石210の飛散防止が可能になる。
【0059】
図9は、第5の実施形態に係る回転子コア200における第1板と第2板の軸方向の配置例を示す図である。
図9では、
図8DのA-A'断面における第1板と第2板の配置例を示している。
【0060】
本実施形態の磁極部220は、
図8Dに示したように、ブリッジ部242が部分的に連結された部分連結ブリッジ部242Aを有している。そのため、A-A'断面における第1板と第2板の配置は、例えば
図9に示すようになっている。
図9では、第1板262が軸方向の両端部において複数枚ずつ配置されると共に、両端部以外では一定間隔で配置されている。この一定間隔で配置された第1板262の間には、第2板263が複数枚ずつ配置されている。すなわち、回転子コア200を構成する複数の積層板における第1板262の積層比率は、軸方向の中心部よりも両端部のほうが高くなっており、両端部を除いた部分では、第1板262の積層比率が均等になるように、第1板262および第2板263が配置されている。また、第1板262は第2板263よりも配置数が少なく、第2板263においてブリッジ部242が設けられていない部分が、第1空間部240と収納空間212とを貫通する開口部264を形成している。
【0061】
本実施形態によれば、ブリッジ部242を経由する磁束の漏れを低減してトルクを増加させつつ、軸方向端部における回転子コア200の剛性を高めて、一体化された回転子コア200の強度を確保することができる。なお、本実施形態では全積層板中での第1板の積層数の比率を0.15としたが、他の比率としてもよい。
【0062】
(第6の実施形態)
次に、
図10を用いて、本発明の第6の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。
図10は、第6の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第5の実施形態で説明した
図8Dと対応している。本実施形態の回転子コア200は、第5の実施形態で説明したのと同様に、ブリッジ部242を有する第1板と、ブリッジ部242を有しない第2板とが、それぞれ複数ずつ積層されて構成されている。すなわち、
図10に示すように、ブリッジ部242が部分的に連結されて、軸方向に厚さを持つ3次元的な構造になっている。なお、
図10では、破線で示した部分連結ブリッジ部242Aにより、部分連結されたブリッジ部242の軸方向への射影を表している。磁極部220は、部分接続部243Aにおいて、この部分連結ブリッジ部242Aと接続されている。
【0063】
また、本実施形態の永久磁石式回転電機1において、磁極部220は、
図10に示すように、第2および第3の実施形態と同様の構造を有している。すなわち、磁極部220は第1突起部222aと第2突起部222bを有し、第1突起部222aおよび第2突起部222bの端部と側面部241との間の面は、第1線分250よりも外径側にそれぞれ位置している。これにより、第1線分250と第1突起部222aおよび第2突起部222bとの間にそれぞれ空間が設けられるように、第1突起部222aおよび第2突起部222bが形成されている。
【0064】
本実施形態の構成では、第5の実施形態と同様に、ブリッジ部242を部分連結ブリッジ部242Aとしたことで、この部分における磁束漏れが減少する。そのため、第2の実施形態と同じトルクを同じ積厚で得る際に、永久磁石210の極性面の幅を小さくできるため、磁石量をより低減することが可能である。なお、本実施形態でも第5の実施形態と同様に、
図8E、
図8Fで説明したようなカバー265を設けて、永久磁石210の飛散防止を図ることが好ましい。
【0065】
図11は、本実施形態の回転子コア200を構成する複数の積層板における第1板の積層比率に対するトルク比、コギングトルク、トルクリップルの比較を示す図である。以下では
図11を参照して、本実施形態の効果を説明する。
図11では、第1板の積層比率が1.0、0.5、0.25、0.15のそれぞれの場合でのトルクリップルおよびコギングトルクと、第1板の積層比率が1.0である場合のトルクを1としたときのトルク比とを示している。なお、
図11のトルクリップルとコギングトルクは、エアギャップ長を0.5mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0066】
図11に示すように、トルクリップルについては、第1板の積層比率が1.0である場合の0.83%から、第1板の積層比率が0.15である場合の0.75%まで、第1板の積層比率が小さくなるにつれて低減している。いずれの場合でも、トルクリップルは十分に小さく、本発明の目的を達成できることが分かる。また、トルク比については、第1板の積層比率が1.0の場合と比べて、第1板の積層比率が0.15の場合には1.13であり、第1板の積層比率が小さくなるにつれて上昇している。これにより、本実施形態の回転子コア200は、ブリッジの部分連結の効果によってトルクが増加しており、小型かつ大トルクの永久磁石式回転電機において低トルクリップル化に適した構成であることが分かる。また、コギングトルクについては、第1板の積層比率が1.0である場合の1.17mN・mから、第1板の積層比率が0.15である場合の0.16mN・mまで、第1板の積層比率が小さくなるにつれて低減している。いずれの場合でも、コギングトルクは十分に小さいことが分かる。
【0067】
図12は、本発明による実施例5、6と比較例1とのトルクリップルの相違を説明する図である。
図12では、前述の
図4に示したような蒲鉾型の磁極形状を有する一般的な構造のIPM回転電機を比較例1として、この比較例1と本発明による実施例5および実施例6とのトルクリップルおよびコギングトルクを示すと共に、実施例6のトルクを1としたときの比較例1および実施例5のトルク比を示している。なお、実施例5は、
図8Dに示した磁極構造を有する第5の実施形態の永久磁石式回転電機1に相当し、実施例6は、
図10に示した磁極構造を有する第6の実施形態の永久磁石式回転電機1に相当する。また、
図12に示す各例でのトルクリップルとコギングトルクは、エアギャップ長を0.5mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0068】
図12に示すように、実施例5のトルクリップルは0.63%、実施例6のトルクリップルは0.75%であるため、いずれも十分に小さく、トルクリップル低減という本発明の目的を達成できることが分かる。一方、これらに比べて、比較例1のトルクリップルは1.9%と大きいため、本発明の目的を達成することが困難であることが分かる。
【0069】
また、
図12に示すように、実施例6を基準としたトルク比は、実施例5ではほぼ1であるのに対して、比較例1では0.68となっている。これにより、比較例1と比べて、実施例5および実施例6では、小型でトルク出力が大きな永久磁石式回転電機を実現できることが分かる。さらに、
図12に示すように、実施例5のコギングトルクは0.43mN・mであり、実施例6のコギングトルクは0.17mN・mであるため、いずれも十分に小さいことが分かる。これに対して、比較例1のコギングトルクは2.34mN・mであり、製造誤差の影響等を考慮すると、コギングトルクの低減が不十分であることが分かる。
【0070】
以上説明したように、本発明による実施例5および実施例6の構成は、一般的な構成に対して大きな効果を有する。
【0071】
図15は、本発明による実施例5、6と比較例2、3とのトルクリップルの相違を説明する図である。
図15では、
図13、14に示すような磁極形状を有するIPM回転電機をそれぞれ比較例2、3として、これらの比較例2、3と本発明による実施例5および実施例6とのトルクリップルおよびコギングトルクを示すと共に、実施例6のトルクを1としたときの比較例2、3および実施例5のトルク比を示している。
図13に示す比較例2は、磁石が周方向と略平行に配置され、磁極部の両端に突起を有している。
図14に示す比較例3は、磁極部の端部がやや斜めの蒲鉾型形状に形成され、磁極部の間の空間底部がq軸方向に突出したVIPM構造を有している。なお、実施例5、6は、
図12で説明したのと同様である。また、
図15に示す各例でのトルクリップルとコギングトルクは、エアギャップ長を0.5mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0072】
図15に示すように、実施例5のトルクリップルは0.63%、実施例6のトルクリップルは0.75%であるため、いずれも十分に小さく、トルクリップル低減という本発明の目的を達成できることが分かる。一方、これらに比べて、比較例2のトルクリップルは1.1%であり、トルクリップルの低減がやや不十分である。また、比較例3のトルクリップルは2.32%と大きい。そのため、いずれも本発明の目的を達成することが困難であることが分かる。
【0073】
また、
図15に示すように、実施例6を基準としたトルク比は、実施例5ではほぼ1であるのに対して、比較例2では0.79、比較例3では0.85となっている。これにより、比較例2および3と比べて、実施例5および実施例6では、小型でトルク出力が大きな永久磁石式回転電機を実現できることが分かる。さらに、
図15に示すように、実施例5のコギングトルクは0.49mN・mであり、実施例6のコギングトルクは0.17mN・mであるため、いずれも十分に小さいことが分かる。これに対して、比較例2のコギングトルクは1.4mN・m、比較例3のコギングトルクは1.02mN・m、であり、コギングトルクの低減が不十分であることが分かる。
【0074】
以上説明したように、本発明による実施例5および実施例6の構成は、比較例2のように磁極部の両端に突起を有する蒲鉾型の磁極形状や、比較例3のようにq軸方向のコア最外周部が磁極側面部よりも突出した形状の構成に対しても、トルクリップルやコギングトルクの低減に大きな効果を有する。したがって、本発明の目的であるトルクリップルの低減に対して効果的であると共に、小型でトルク出力が大きく、コギングトルクが小さい永久磁石式回転電機を実現可能である。
【0075】
(第7の実施形態)
次に、
図16を用いて、本発明の第7の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。
図16は、第7の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第5の実施形態で説明した
図8Dと対応している。本実施形態の回転子コア200において、磁極部220は、
図16に示すように、第5の実施形態よりも基部230の幅が短縮されている。それ以外の点は、第5の実施形態と同様である。すなわち、
図16に示すように、ブリッジ部242を有する第1板と、ブリッジ部242を有しない第2板とが、それぞれ複数ずつ積層されて構成されることで、ブリッジ部242が部分的に連結されて、軸方向に厚さを持つ3次元的な構造になっている。なお、
図16では、破線で示した部分連結ブリッジ部242Aにより、部分連結されたブリッジ部242の軸方向への射影を表している。磁極部220は、部分接続部243Aにおいて、この部分連結ブリッジ部242Aと接続されている。
【0076】
図19は、本発明による実施例7と比較例4、5とのトルクリップルの相違を説明する図である。
図19では、
図17、18に示すような磁極形状を有するIPM回転電機をそれぞれ比較例4、5として、これらの比較例4、5と本発明による実施例7とのトルクリップルを示すと共に、実施例7のトルクを1としたときの比較例4、5のトルク比を示している。
図17に示す比較例4は、磁極部の両端が突起と一体化されて斜めに形成されたVIPM構造を有している。
図18に示す比較例5は、磁極部の両端が突起と一体化されて蒲鉾型形状に形成されたVIPM構造を有している。なお、実施例7は、
図16に示した磁極構造を有する第7の実施形態の永久磁石式回転電機1に相当する。また、
図19に示す各例でのトルクリップルは、エアギャップ長を0.5mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0077】
図19に示すように、実施例7のトルクリップルは0.74%であるのに対して、比較例4のトルクリップルは1.24%、比較例5のトルクリップルは1.12%である。すなわち、実施例7のトルクリップルは、比較例4、5と比べて約1/1.5倍となっている。そのため、実施例7はトルクリップルが十分に小さく、トルクリップル低減という本発明の目的を達成できることが分かる。一方、比較例4、5では、トルクリップルの低減がやや不十分であり、本発明の目的を達成することが困難であることが分かる。
【0078】
また、
図19に示すように、実施例7を基準としたトルク比は、比較例4では0.97であり、比較例5では0.85である。これにより、比較例4および5と比べて、実施例7では、小型でトルク出力が大きな永久磁石式回転電機を実現できることが分かる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態の回転子コア200では、磁極部220が比較例4、5にはない突起部222(第1突起部222a、第2突起部222b)と側面部241とを有している。この構成により、トルクリップルの低減を実現できることが分かる。
【0080】
図22は、本発明による実施例5と比較例3、6、7とのトルクリップルの相違を説明する図である。
図22では、
図20、21に示すような磁極形状を有するIPM回転電機をそれぞれ比較例6、7として、これらの比較例6、7および前述の
図14に示した比較例3と、第5の実施形態で説明した実施例5とのトルクリップルを示すと共に、実施例5のトルクを1としたときの比較例3、6、7のトルク比を示している。
図20に示す比較例6は、磁極部の間の空間底部がq軸方向に突出したVIPM構造を有している。
図21に示す比較例7は、磁極部の端部がやや斜めの蒲鉾型形状に形成されたVIPM構造を有している。なお、
図22に示す各例でのトルクリップルは、エアギャップ長を0.5mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0081】
図22に示すように、実施例5のトルクリップルは0.63%と十分に小さく、トルクリップル低減という本発明の目的を達成できることが分かる。これに対して、比較例6のトルクリップルは1.18%、比較例7のトルクリップルは1.86%、比較例3のトルクリップルは2.32%である。すなわち、比較例6ではトルクリップルの低減がやや不十分であり、比較例7、3ではトルクリップルが大きく、いずれも本発明の目的を達成することが困難であることが分かる。
【0082】
以上のように、本発明の回転子コア200では、q軸外周部244が側面部241よりも径方向で内周側に配置されていることと、磁極部220が突起部222(第1突起部222a、第2突起部222b)および側面部241を有していることにより、トルクリップルが大きく低減していくことが分かる。
【0083】
また、
図22に示すように、実施例5を基準としたトルク比は、比較例6では0.98である。すなわち、比較例6は実施例5よりもトルク出力が減少している。また、ブリッジ部が全連結されている比較例7では0.88、比較例3では0.85である。これにより、比較例3および7と比べて、実施例5では、小型でトルク出力が大きな永久磁石式回転電機を実現できることが分かる。
【0084】
(第8の実施形態)
次に、
図23を用いて、本発明の第8の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。
図23は、第8の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第3の実施形態で説明した
図7Aと対応している。
【0085】
本実施形態の永久磁石式回転電機1は、第3の実施形態と同様に、10極60スロット分布巻の回転電機である。また、本実施形態の回転子コア200は、第5の実施形態と同様に、第1板および第2板がそれぞれ複数ずつ積層されて構成されている。すなわち、
図23に示すように、ブリッジ部242を有する第1板と、ブリッジ部242を有しない第2板とが、それぞれ複数ずつ積層されて構成されることで、ブリッジ部242が部分的に連結されて、軸方向に厚さを持つ3次元的な構造になっている。なお、
図23では、破線で示した部分連結ブリッジ部242Aにより、部分連結されたブリッジ部242の軸方向への射影を表している。磁極部220は、部分接続部243Aにおいて、この部分連結ブリッジ部242Aと接続されている。
【0086】
また、本実施形態の永久磁石式回転電機1において、磁極部220は、
図23に示すように、第2および第3の実施形態と同様の構造を有している。すなわち、磁極部220は第1突起部222aと第2突起部222bを有し、第1突起部222aおよび第2突起部222bの端部と側面部241との間の面は、第1線分250よりも外径側にそれぞれ位置している。これにより、第1線分250と第1突起部222aおよび第2突起部222bとの間にそれぞれ空間が設けられるように、第1突起部222aおよび第2突起部222bが形成されている。
【0087】
本実施形態の構成では、第5の実施形態と同様に、ブリッジ部242を部分連結ブリッジ部242Aとしたことで、この部分における磁束漏れが減少する。そのため、第3の実施形態と同じトルクを同じ積厚で得る際に、永久磁石210の極性面の幅を小さくできるため、磁石量をより低減することが可能である。なお、本実施形態でも第5の実施形態と同様に、
図8E、
図8Fで説明したようなカバー265を設けて、永久磁石210の飛散防止を図ることが好ましい。
【0088】
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、トルクリップルが1.0%であった。これにより、10極60スロット分布巻の回転電機においても、トルクリップルが小さいという特性を得ることができることが分かる。また、コギングトルクについても0.4mN・mと十分に小さくできる。したがって、14極18スロット集中巻以外の極スロット組合せや巻線方式においても効果を有することが確認できた。なお、上記のトルクリップルとコギングトルクは、エアギャップ長を0.7mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0089】
(第9の実施形態)
次に、
図24を用いて、本発明の第9の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。
図24は、第9の実施形態に係る回転子20の断面の磁極付近の拡大図であり、第4の実施形態で説明した
図7Bと対応している。
【0090】
本実施形態の永久磁石式回転電機1は、第4の実施形態と同様に、10極60スロット分布巻の回転電機である。また、本実施形態の回転子コア200は、第5の実施形態と同様に、第1板および第2板がそれぞれ複数ずつ積層されて構成されている。すなわち、
図24に示すように、ブリッジ部242を有する第1板と、ブリッジ部242を有しない第2板とが、それぞれ複数ずつ積層されて構成されることで、ブリッジ部242が部分的に連結されて、軸方向に厚さを持つ3次元的な構造になっている。なお、
図24では、破線で示した部分連結ブリッジ部242Aにより、部分連結されたブリッジ部242の軸方向への射影を表している。磁極部220は、部分接続部243Aにおいて、この部分連結ブリッジ部242Aと接続されている。
【0091】
また、本実施形態の永久磁石式回転電機1において、磁極部220は、
図24に示すように、第4の実施形態と同様の構造を有している。すなわち、磁極部220は、第1の実施形態において
図3に示したのと同様の形状である第1突起部222aおよび第2突起部222bを有する。
【0092】
本実施形態の構成では、第5の実施形態と同様に、ブリッジ部242を部分連結ブリッジ部242Aとしたことで、この部分における磁束漏れが減少する。そのため、第4の実施形態と同じトルクを同じ積厚で得る際に、永久磁石210の極性面の幅を小さくできるため、磁石量をより低減することが可能である。なお、本実施形態でも第5の実施形態と同様に、
図8E、
図8Fで説明したようなカバー265を設けて、永久磁石210の飛散防止を図ることが好ましい。
【0093】
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、トルクリップルが1.0%であった。これにより、10極60スロット分布巻の回転電機においても、トルクリップルが小さいという特性を得ることができることが分かる。また、コギングトルクについても0.1mN・mと十分に小さくできる。したがって、14極18スロット集中巻以外の極スロット組合せや巻線方式においても効果を有することが確認できた。なお、上記のトルクリップルとコギングトルクは、エアギャップ長を0.7mmとして、
図6と同じ方法で計算されたものである。
【0094】
(第10の実施形態)
次に、
図25A、25Bを用いて、本発明の第10の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。本実施形態の永久磁石式回転電機1における回転子コア200では、軸方向に積層された第1板および第2板が、
図25A、
図25Bに示すように、第5の実施形態で説明したのとは異なる形状をそれぞれ有している。具体的には、本実施形態の第1板には、
図25Aに示すように、ブリッジ部242が形成されておらず、その代わりに、収納空間212内に永久磁石210を保持するための磁石留め部245が形成されている。磁極部220は、その中央部がブリッジ部242bを介して回転子コア200と接続されている。また、本実施形態の第2板には、
図25Bに示すように、第1板と同様の磁石留め部245が形成されている。これらの第1板および第2板は、軸方向締結部261によって軸方向に互いに締結されている。
【0095】
本実施形態では、磁極部220の中央部分がブリッジ部242bを介して回転子コア200と接続されている。そのため、磁極部220の両端部分がブリッジ部242を介して回転子コア200と接続されている第5の実施形態と比べて、径方向の引っ張りには強くなるが、周方向の変位には弱くなる。本実施形態では、この点を考慮してブリッジ部242bの幅と数を決定することになる。なお、第5の実施形態と比較すると、本実施形態では収納空間212が中央のブリッジ部242bで二つに分断されており、第1永久磁石210aおよび第2永久磁石210bがブリッジ部242bと磁石留め部245に挟まれて配置される。そのため、これらの磁石の幅がやや小さくなる傾向になる。
【0096】
また、本実施形態では部分連結ブリッジ部242Aが存在しないため、第5の実施形態で説明した
図9の開口部264とは異なり、第1空間部240と収納空間212の間に、軸方向に連続した開口部が形成される。したがって、本実施形態でも第5の実施形態と同様に、
図8E、
図8Fで説明したようなカバー265を開口部を覆うように設けて、永久磁石210の飛散防止を図ることが好ましい。
【0097】
以上説明したように、本発明の各実施形態による回転子コア200の構成は、従来の構成と比較して、トルクリップル、コギングトルク、トルク比、の何れの面でも優れており、効果のあることが示された。すなわち、各実施形態で説明した永久磁石式回転電機1の構造は、トルクリップル低減に有効な構造である。
【0098】
なお、第3〜第10の各実施形態についても、第1、第2の実施形態と同様に、各実施形態の永久磁石式回転電機1をEPS装置に用いることで、車室内に伝搬する振動や騒音を抑制できる。また、その他の自動車用電動補機装置、たとえば電動ブレーキを行う自動車用電動補機装置に適用することでも、振動や騒音を抑制することが可能である。さらには、各実施形態の永久磁石式回転電機1の採用は自動車分野に限定されず、低振動化が好ましい産業用の永久磁石式回転電機全般にも適用可能である。
【0099】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0100】
(1)回転子コア200は、複数の積層板により構成されかつ永久磁石210の収納空間212を形成する。回転子コア200における複数の積層板のうち少なくとも2つは、収納空間212よりも外周側に形成された基部230を有する磁極部220と、磁極部220に接続されたブリッジ部242または242bとを有する。磁極部220は、周方向に複数設けられており、周方向に隣り合う一対の磁極部220の基部230の間には、第1空間部240が形成されている。周方向に隣り合う一対の磁極部220の中間に位置して第1空間部240に接するq軸外周部244は、基部230よりも内周側に設けられている。基部230は、第1空間部240に接する側面部241と、側面部241よりも外周側に設けられかつ側面部241に対して周方向に突出する突起部222とを有する。ブリッジ部242、242bは、側面部241よりも内周側に配置されている。このようにしたので、トルクリップルを十分に低減することができる。
【0101】
(2)第5〜第10の実施形態では、複数の積層板は、磁極部220およびブリッジ部242または242bを有する第1板と、磁極部220を有してブリッジ部242、242bを有しない第2板とを含む。第1板の磁極部220と第2板の磁極部220とは、軸方向に互いに締結されている。このようにしたので、永久磁石210の極性面の幅を小さくし、磁石量を低減することが可能である。
【0102】
(3)第5〜第9の実施形態では、第1板のブリッジ部242は、磁極部220とq軸外周部244を繋いで収納空間212と第1空間部240の間に設けられている。また、第2板の磁極部220とq軸外周部244の間には、収納空間212と第1空間部240の間を貫通する開口部が形成されている。このようにしたので、永久磁石210を収納空間212内に確実に保持しつつ、磁石量の低減が可能である。
【0103】
(4)第10の実施形態では、第1板のブリッジ部242bは、収納空間212を分断して磁極部220に接続されている。また、第1板および第2板の磁極部220とq軸外周部244の間には、収納空間212と第1空間部240の間を貫通する開口部が形成されている。このようにしたので、軸方向に連続した開口部が形成され、さらなる磁石量の低減が可能である。
【0104】
(5)第5の実施形態では、複数の積層板は、軸方向に積層されており、この複数の積層板における第1板の積層比率は、軸方向の中心部よりも両端部のほうが高い。このようにしたので、ブリッジ部242を経由する磁束の漏れを低減してトルクを増加させつつ、軸方向端部における回転子コア200の剛性を高めて、一体化された回転子コア200の強度を確保することができる。
【0105】
(6)回転子20は、第1〜第10のいずれかの実施形態による回転子コア200と、この回転子コア200に固定されたシャフト300と、収納空間212に配置された永久磁石210とを備えて構成される。また、永久磁石式回転電機1は、この回転子20と、複数の巻線140を有して所定のエアギャップ30を介して回転子20と対向して配置された固定子10とを備えて構成される。このようにしたので、トルクリップルを十分に低減した回転電機と、この回転電機に用いられるロータとを実現できる。
【0106】
(7)なお、回転子20は、第5〜第10のいずれかの実施形態による回転子コア200と、この回転子コア200に固定されたシャフト300と、収納空間212に配置された永久磁石210と、前述の開口部を覆うカバー265とを備えて構成してもよい。このようにすれば、磁石量を低減しつつ、永久磁石210の飛散を防止することができる。
【0107】
(8)永久磁石式回転電機1は、たとえば自動車の電動パワーステアリング用モータとすることができる。また、第3、第4、第8、第9の各実施形態で説明したような10極60スロット分布巻、または、第1、第2、第5〜第7、第10の各実施形態で説明したような14極18スロット集中巻の、いずれかの構成を有することができる。したがって、様々な形態の回転電機において本発明を適用可能である。
【0108】
(9)上記のような永久磁石式回転電機1を備え、この永久磁石式回転電機1を用いて、電動パワーステアリングまたは電動ブレーキを行う自動車用電動補機システムを構成してもよい。このようにすれば、振動や騒音を抑制した自動車用電動補機システムを実現できる。
【0109】
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。