【課題】従来における課題解決のために誘電率を向上させるといったことは主たる目的とせず、絶縁耐電圧性能を向上させるとともに、漏れ電流を減少させることによって、耐久性と効率を向上させた誘電エラストマートランスデューサ用の誘電エラストマー材料の提供を課題とする。
【解決手段】チタン酸バリウムと、表面活性剤と、有機分散剤と、有機溶媒と、を混合してチタン酸バリウムスラリーを得る混合工程と、該混合工程で得られた前記チタン酸バリウムスラリーに超音波による衝撃を与えて分散の均一化を図る超音波処理工程と、該超音波処理工程で得られた前記チタン酸バリウムスラリーを誘電エラストマーに配合する配合工程と、前記配合工程により得られた前記チタン酸バリウムスラリーを乾燥する乾燥工程と、からなる手段を採用する。
誘電エラストマートランスデューサ(20)に用いられる誘電エラストマー(10)に、有機分散剤(14)により表面修飾した誘電体粒子(11)を分散状態で含有させたことを特徴とする誘電体粒子含有誘電エラストマー(1)。
前記誘電エラストマー(10)に分散状態で含有される前記誘電体粒子(11)がチタン酸バリウム(12)であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体粒子含有誘電エラストマー(1)。
前記誘電エラストマー(10)に分散状態で含有される前記チタン酸バリウム(12)の粒径が5nmから500nmであり、平均粒径を50nmとしたことを特徴とする請求項2に記載の誘電体粒子含有誘電エラストマー(1)。
前記誘電エラストマー(10)に分散状態で含有される前記チタン酸バリウム(12)の配合比率が1.0wt%から50.0wt%の範囲内であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の誘電体粒子含有誘電エラストマー(1)。
前記混合工程(A)における混合条件が、ビーズミルを用い、5mm以下のビーズを使用し、アジテータの周速が3m/sから15m/sで行なうことを特徴とする請求項5に記載の誘電体粒子含有誘電エラストマーの製造方法(2)。
前記超音波処理工程(B)による分散処理が周波数を18kHzから200kHzの超音波を10秒以上照射させたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の誘電体粒子含有誘電エラストマーの製造方法(2)。
【背景技術】
【0002】
従来から、誘電エラストマートランスデューサの研究開発が進められている。係る誘電エラストマートランスデューサは、2つの電極間に誘電エラストマーを挟んだ構造を有し、この2つの電極間に電圧を印加すると電極同士をクーロン力で引き合わされ、誘電エラストマーが伸張し、印加を止めることによって収縮させる動作を利用するものであり、電気的エネルギーを機械的エネルギーへと変換する変換器である。近年では人工筋肉などにも利用されるようになり、今後、益々利用の途は広がりを見せる技術といえる。
【0003】
しかしながら、誘電エラストマートランスデューサの性能は、誘電エラストマーの伸縮量や伸縮力に大きく影響され、大きな機械的エネルギーを得るためには高い電圧の印加が必要となり、耐久性や漏れ電流の問題が生じている。また、誘電率を高くしても、電極への電圧印加による誘電エラストマーの伸びがあまり増加せず、場合によっては却って減少することもある。
【0004】
そこで、このような問題を解決すべく、従来からも種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、発明の名称を「誘電アクチュエータ」とする技術が開示されている(特許文献1参照)。具体的には、「印加電圧に対する変異量の大きな誘電アクチュエータを提供する」ことを課題とし、その解決手段は、「弾性高誘電材料部が弾性絶縁材料部によって挟持されており、さらにその外側から電極で挟持された構造となり、弾性高誘電材料部の基材はシリコーンゴムからなり、導電性を付与するためにグラファイト粉が混合されている」というものである。
【0005】
また、特許文献2には、発明の名称を「誘電膜およびそれを用いたトランスデューサ」とする技術が公開されている(特許文献2参照)。具体的には、「柔軟で比誘電率が大きく薄膜化しても絶縁破壊度が大きい誘電膜を提供する」ことを課題とし、エラストマーと誘電粒子とを含み、基準直線当りの平均個数と、各粒子の大きさの平均値と、単位領域当りのエラストマーの面積割合を特定するものである。
【0006】
また、特許文献3には、発明の名称を「絶縁性組成物、絶縁性物品、それらの調整方法及び電気ケーブルアクセサリ」とする技術が開示さている(特許文献3参照)。具体的には、「約70〜100体積部のポリマー材料と、約5〜30体積部のセラミック充填剤と、約0.1〜5体積部の架橋剤と、約0〜6体積部の導電性粉末と、約0〜6体積部のZnOウィスカーと、を含み、前記セラミック充填剤が、該セラミック充填剤の約0.1wt%〜約4wt%の量の二官能性カップリング剤で表面処理されている」というものである。
【0007】
しかしながら、上記何れに記載された文献も、誘電エラストマーに誘電体粒子を混合して誘電率を大きくする技術であるが、誘電体粒子を誘電エラストマーに混合させると誘電エラストマーが硬くなって伸張し難くなり、場合によっては却って伸縮量が減少するという問題もあり、前記何れの先行技術も解決には至っていない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1の実施形態について、図面及び表を用いて説明する。本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1及び誘電体粒子含有誘電エラストマーの製造方法2は、チタン酸バリウム12を誘電エラストマー10に分散状態で含有させて成ることを最大の特徴とするものである。なお、本発明において数値その他範囲を「〜」を用いて表した場合は、数値範囲の上限も下限も両方とも数値範囲内に入るものとする。
【0021】
図1は、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1を用いた誘電エラストマートランスデューサ20の基本構成断面図である。
図1に示すように、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1は、誘電エラストマー10に誘電体粒子11を分散させて成るものである。以下、本発明に用いる誘電エラストマー10及び誘電体粒子11についてそれぞれ説明する。
【0022】
誘電エラストマー10は、高誘電率材料として多種多様な種類が存在するが、一般的には弾性を有するゴム状物質またはゴム等のエラストマーであり、シリコーン樹脂系エラストマーやアクリル樹脂系エラストマー等が考えられる。具体的には、アクリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、塩化ビニル系エラストマー、アミド系エラストマー、ポリ塩化ビニル(PVC)等を材料として用いることができる。
【0023】
また、誘電エラストマー10の種類について分類すると、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー、及びエネルギー線硬化性エラストマーに分けられる。係る分類のうち何れかに限定されるものではなく、例えば、熱可塑性エラストマーでは、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アミド系エラストマー、及びエステル系エラストマー等の多くの種類が存在する。なお、塩化ビニル系エラストマーは、例えばポリ塩化ビニル(PVC)等である。
【0024】
また、熱硬化性エラストマーの種類においても、前記熱可塑性エラストマーと同様に多くの種類が存在し、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルゴム、エピクロロヒドリンゴム等があり、特にこれらの何れかに限定されるものではない。
【0025】
なお、エネルギー線硬化性エラストマーは、シリコーンゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム等の他、エポキシ樹脂のように通常は弾性を有していなくてもエネルギー線により弾性を持たせることが可能な材料等がある。これらは任意のエネルギー線のうち何れか1種類または2種類以上を用いて硬化されるエラストマーであり、エネルギー線の種類は特に限定されるものではないが、例えば電磁波や放射線等であり、より具体的にはガンマ線や電子線等の電離放射線や、電波、紫外線、赤外線等の非電離放射線等である。
【0026】
誘電エラストマー10は、厚みや大きさを使用目的に応じて適宜決定するものであり、例えばアクチュエータとして使用する場合であれば、機械的な動力として求められる出力に必要な電気的エネルギーを変換する変換器としての機能を発揮する厚みや大きさを必要とする。また、誘電エラストマー10の耐久性については、電子線架橋によって作られた誘電エラストマー10は、それ以前の熱架橋や紫外線架橋等によって作られた誘電エラストマー10と比べて耐久性が高いことが既に本発明者らによって確認されている。
【0027】
誘電体粒子11は、強誘電性を呈する添加物の全てを意味しており、チタン酸バリウム12のみならず、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3)のような強誘電体を広く含むものであって、特にこれらに限定されるものではなく、外部に電場がなくても電気双極子が整列しており、かつ双極子の方向が電場によって変化できる物質を指すものである。但し、本発明の説明においては主としてチタン酸バリウム12を用いて説明する。
【0028】
チタン酸バリウム12は、基本的に粒子の大きさや形状(略球状)が一定で、粒度分布が狭く、また、結晶性が高く、分散性に優れた粒子が求められる。但し、微細化に伴ってサイズ効果と呼ばれる結晶性の低下という問題があるため、結晶性を比較的大きく取りやすい合成法である、固相法や蓚酸塩法によるチタン酸バリウム12がより望ましい。
【0029】
チタン酸バリウム12は、BaTiO3、BaTi2O5、Ba2TiO4等の酸化チタン(IV)と酸化バリウムとからなる化合物であり、BaTiO3は常温では正方晶で強誘電体となるが、常温から高温にかけて相転移し立方晶となるものである。
【0030】
また、誘電体粒子11の誘導体には、例えば、チタン酸バリウム12のうちの一部の金属原子が他の金属原子により置換された化合物もあり、係るチタン酸バリウム12のうちの一部とは、Aサイトであるバリウム(Ba)のうちの一部、又はBサイトであるチタン(Ti)のうちの一部であり、バリウム及びチタンのそれぞれの一部でもよい。前記他の金属原子とは、チタン及びバリウム以外の金属原子であり、例えば、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ジスプロシウム(Dy)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、スズ(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及び白金(Pt)等である。
【0031】
表面活性剤13は、界面活性剤と同種の特性を備え、誘電体粒子11の表面に付着して界面張力を低下させて接触角を小さくし、有機溶媒15と粉体との濡れを改善することで分散性を向上させる効果がある。また、表面活性剤13は、例えば、耐熱性に優れたシリコーン系が用いられ、望ましくは、ポリエーテル変性シリコーン活性剤が用いられる。
【0032】
有機分散剤14は、分散を行なう際に添加され、分散機能を発現させる薬剤の総称であり、分散を容易に行い、安定した優れたスラリーを得るために重要な働きをする添加剤である。本発明では、有機分散剤14を用い、粒子の表面に吸着した分散剤によって、粒子同士の接近を防ぎ、分散体を安定化させる。また、有機分散剤14は、アニオン系が望ましく、特に吸着基にカルボン酸を有するものが良い。
【0033】
有機溶媒15は、誘電体粒子11を取り込むための溶液であり、特に限定されるものではないが、例えば2−プロパノールなどを示すことができる。また、誘電エラストマー10にスチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム等の非極性エラストマーを使用する際は、トルエンやヘキサン等に代表される低極性溶媒が好ましく、誘電エラストマー10の種類に応じて有機溶剤15は適宜選択される。
【0034】
図2は、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1に電圧を印加していない無電加状態を示す説明図であり、
図3は、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1に電圧供給された電圧印加状態を示す説明図である。
【0035】
誘電エラストマートランスデューサ20は、誘電エラストマー10に誘電体粒子11を含有させた本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1を利用するものであり、図示した通り、誘電エラストマー10の両面に電極22を備え、電圧の印加による伸張と、電圧を取り除くことによる収縮によって、電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換するトランスデューサとして、アクチュエータ等の駆動力として用いることもできるものである。また、これとは逆に機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換する発電装置とし実用的な利用への可能性も有するものである。
【0036】
電圧供給手段24は、電圧を制御可能な電源を用いて適切な電圧を印加することを可能とするものを用いる。電極22の素材には、カーボンを好適に使用することができるが、電極22として通常用いられる材料を用いて形成すればよく、特にカーボンに限定されるものではない。アクチュエータ等への応用例については省略し、以下、
図2及び
図3を用い、動作について説明する。
【0037】
電極22は、誘電エラストマートランスデューサ20において誘電エラストマー10の両面に配置し、電圧を印加するための電極22であり、係る電極22を介してクーロン力K1を誘電エラストマー10に作用させるものである。
図3に示すように、電圧供給手段24から電極22に電圧が供給されることにより、対向する2つの電極22には、クーロン力K1(符号K1で示す矢印の方向の力)によって互いに引きつけ合う力が発生する。これにより、誘電エラストマー10は、2つの電極22に押しつぶされることになり、伸張方向K2へ伸張することになる。
【0038】
この際、2つの電極22に印加する電圧の大きさによって、係る電極22に発生するひきつけ合う力も変化し、誘電エラストマー10の伸びる量も変化する。そして、電圧供給手段24からの電圧の供給を停止することにより、2つの電極22に発生していた互いに引きつけ合う力も消滅する。これにより、誘電エラストマー10は、自らの弾性力により形状を回復し、
図3に示すように伸びた状態から、
図2に示すような伸びる前の状態に戻る。なお、係る変化によって得られる力は、両極間の距離に反比例し、印加する電圧の二乗に比例して発生する。また、電極面積と誘電率の大きさに比例する。従って、誘電率の向上を図ることも必要であるが、大きな電圧を加えることによる耐圧の向上が、よりトランスデューサとしての性能向上を図る上で、重要なポイントとなる。
【0039】
以下に、誘電性高分子を動作させるために生じる圧力pとバイアス電圧Vbとの関係式を下記に示す。
【0041】
という式1の関係が成立するので、バイアス電圧Vbを上昇させるとともに、ポリマーの厚さtを薄くすることができることにより、誘電高分子を動作させるために生じる圧力pは、バイアス電圧Vbの二乗及び厚さtの逆数の二乗に比例して増大するので従来に比べてきわめて性能の良い駆動が可能になる。
【0042】
更に、発電デバイスとしては、発電エネルギーEは、誘電エラストマー10の静電容量の変化と関係しており、
【0044】
の式2で表される。ここで、C1及びC2は、それぞれ伸張及び収縮した状態における誘電高分子の静電容量であり、Vbはバイアス電圧である。発電エネルギーは、より大きな伸張・収縮により増加し、バイアス電圧Vbの二乗で増加するので従来に比べてきわめて性能の良い発電が可能になるとともに、絶縁耐電圧が上昇することによって、従来と同じバイアス電圧で動作させた場合では、負担が少なくなるため、寿命が向上する。
【0045】
このように、誘電エラストマートランスデューサ20は、電圧の変化を形状の変化に変換することができ、人工筋肉等様々な製品に応用することができるが、大きな駆動力を発生させるためには、前記両極間距離を広げて伸縮量を得るとともに、印加する電圧を大きくする必要がある。しかしながら、電圧を大きくすると両極間に挟持される誘電エラストマー10が絶縁破壊を起こしやすくなり、誘電体粒子11にチタン酸バリウム12を用いたて誘電エラストマー10に含有させた本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1の優れた耐圧性能が必要となる。
【0046】
図4は、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1についての絶縁耐電圧性能試験を行なう絶縁耐電圧性能試験装置30の全体構成を示す構成説明図である。
【0047】
絶縁耐電圧性能試験装置30は、高圧電圧計31と、高圧電源32と、高圧電流計33と、オシロスコープ(電圧電流モニター)34と、タイマー35と、高圧スイッチ36とから構成され、試験は大きな試験片の表面に放電し、絶縁体が導体となる構造変化が生ずるまで段階的に電圧を高めていき、破壊されない最も高い電圧を測定するものである。
【0048】
高圧電圧計31は、電圧を測定する装置であり、印加する電圧が高いため高電圧用のものを用いる。
【0049】
高圧電源32は、絶縁耐電圧性能試験装置30に必要な電源を供給する装置であり、試験片が破壊するまで200V間隔で電圧を上昇させる装置である。
【0050】
高圧電流計33は、電流を測定する装置であり、流れる電流自体は低いものの、電圧が高いため、漏れ電流の測定には電流が安定した状態で測定する必要があるため、高電圧に対応した電流計を用いることが望ましい。
【0051】
オシロスコープ(電圧電流モニター)34は、絶縁破壊が発生したと判断するための状態を測定する測定装置であり、高圧電源32からの段階的な電圧の上昇に伴い、各電圧毎での安定した状態から計測される絶縁破壊の有無を測定する装置である。
【0052】
タイマー35は、所定時間毎に200V上昇させるための時間を測定する装置である。
【0053】
高圧スイッチ36は、オンにすることで被測定物に電圧を印加し、急激に過大な電流が流れた時に絶縁破壊が発生したと判断し、電源供給をオフにする。
【0054】
耐圧評価は、前記の絶縁耐電圧性能試験装置30を用い、段階破壊法による絶縁破壊電圧試験により行った。係る試験方法は、自由に動き回れる電荷担体をほとんど持たない絶縁体に高電圧を負荷することにより、絶縁体内に電荷担体が急増して導体になる構造変化が生ずるまで高電圧を負荷して測定する試験方法により評価を行なうものである。絶縁破壊電圧の評価には、まず短時間破壊法で得られた絶縁破壊が起こる電圧を基準とし、その約40%の電圧から段階的に200V毎に電圧を上げて行き、破壊するまで続けて破壊しなかった最大電圧から評価するものであり、下記の表1に示すように、誘電エラストマー10にチタン酸バリウム12を5wt%含有させた方が、チタン酸バリウム12を含有させないものと比較して明らかに耐圧性能が向上していることを確認した。
【0055】
以下に、シリコーン系の誘電エラストマー10にチタン酸バリウム12を含有させたものと、含有させていない同種のシリコーン系の誘電エラストマー10のみと比較した絶縁耐電圧性能についての実験結果を下記表1から表3に示す。なお、表内のBTはチタン酸バリウム12を意味する。
【0059】
上記表1から表3に、本発明の誘電体粒子含有誘電エラストマー1に係る主材である樹脂に誘電体粒子11の配合比率を変化させたものなどについて、それぞれの誘電率を測定し、また、係る装置により誘電体粒子11を配合しないもの、その他、配合比率を変化させたものを行った実験結果から、誘電体粒子11の有無が耐圧性能に影響するか否かの結果を示す。実際の実験では、基準となる含有0wt%から50wt%まで計測し、50wt%以上については表3において示す通り、途中から破線で示した部分は予測値として示したものである。次に、耐圧テストに用いた主材にはシリコーンを用い、誘電粒子にチタン酸バリウム12を5wt%含有させたものと、まったく含有させないシリコーンのみで実験を行ったものとの比較を上記表1に示す。
【0060】
表1から表3に示す通り、誘電エラストマー10の特性を利用して誘電エラストマー10に誘電体粒子11を含ませると、全く含ませないものと比較して明らかに耐圧が向上していることが分かる。また、その配合比率についても1wt%から50wt%の範囲内で耐圧性能が向上していることが分かる。より具体的には、配合比率が0%のときの場合と比較して、5wt%、10wt%、30wt%、50wt%の何れの割合においても大きく耐圧性能は向上した。
【0061】
更に詳しくは、チタン酸バリウム12を含有させたほうが5,400Vと高く、含有させないほうでは4,800Vで破壊してしまった。従って、表1から表3は、わずかな配合であっても誘電体粒子11を含有させたほうが、耐圧性能が向上することを示している。なお、50wt%以降は、予想に基づく結果であるが、チタン酸バリウム12の配合比率が大きくなると、チタン酸バリウム12自体の硬さにより主材の伸長及び伸縮に影響し、主材の変形を阻害することにもなりかねない。好適な結果として、耐圧を向上させるには、少なくとも1wt%から50wt%の範囲においては良好な効果を示し、より好ましくは10wt%から30wt%の範囲内で特にその優れた効果を発揮するものといえる。
【0062】
図5は、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマー1の比誘電率測定において使用した誘電率測定装置40の構成説明図である。
【0063】
誘電率測定装置40は、インピーダンス・アナライザー41と、テストフィクスチャ42と、主電極43と、被試験体44と、対電極45とから構成される。
【0064】
インピーダンス・アナライザー41は、2端子の受動素子であるインダクタやコンデンサ、或いは抵抗などの特性を測定する装置であり、能動素子であるトランジスタの寄生容量を測定する際に使用される装置である。
【0065】
テストフィクスチャ42は、インピーダンス・アナライザー41を用いた誘電率評価に用いられる端子である。
【0066】
主電極43は、インピーダンス・アナライザー41を動作させるための電源装置、及びテストフィクスチャ42へ高電圧を供給する装置である。
【0067】
被試験体44は、本実験において外形50mm×50mm、厚さ100μmの薄板のものを用いた。
【0068】
対電極45は、エッジ容量から生じる測定誤差を除去するためにガード電極を用いる3端子構成のものを用いた。
【0069】
比誘電率の評価は、係るインピーダンス・アナライザー41を用いた平行板による誘電率測定法による実験から行った。前記平行板法は、2つのテストフィクスチャ42電極の間に、外形50mm×50mm、厚み100μmの被試験体44を挟んでキャパシタを形成し、インピーダンス・アナライザー41により測定した静電容量や損失のベクトル成分から、下記の(式3)により比誘電率を算出した。
【0071】
図6は、本発明に係る誘電体粒子含有誘電エラストマーの製造方法2を示すフローチャートである。
【0072】
混合工程Aは、チタン酸バリウム12と、表面活性剤13と、有機分散剤14と、有機溶媒15とを混合してチタン酸バリウムスラリー50を得る工程である。例えば、商品名を「BT−HP9DX」とする共立マテリアル株式会社のチタン酸バリウム300gと、組織名を「2−プロパノール(2−propanol)分子式C3H8O、示性式CH3CHCH3」とする和光純薬工業の「2−プロパノール」300gと、分子構造中に、親水性基であるポリオキシアルキレン基と疎水性のポリオルガノシロキサン鎖とを有する共重合体からなる、ポリエーテル変性シリコーンである、信越化学工業株式会社製の「KF―6011」0.6gと、主鎖にイオン性基を持ち、グラフト鎖にポリオキシアルキレン鎖を有する多官能櫛型のポリマーからなる分散剤である日油株式会社の「AFB−1521」9gを、粉砕用ビーズとともにビーズミル装置に封入し、平均粒子径を0.03ミクロンから0.8ミクロンのサブミクロンレベルにする分散スラリー化処理後のチタン酸バリウムスラリー50を得る。
【0073】
本発明の要部ともいえる均一な平均粒径に分散した分散状態でチタン酸バリウム12等の誘電体粒子11を誘電エラストマー10に含有させる製造方法において、粒子径が小さくなると粉体同士の付着力が大きくなり、分散性が悪くなる。そこで、本発明に係る製造方法においては、誘電体粒子11同士の付着凝集性を弱める必要があり、ポリマーを用いて粒子表面の改善を行なうことが重要である。
【0074】
係る良好な分散状態とする分散スラリー化処理条件を例示すると、ビーズミル装置を用い、周速を8m/s、運転時間を180minの循環運転を行なう。ビーズと格納容器の壁の衝突に加え、ビーズとビーズによるせん断やビーズへの衝突により、平均粒子径を0.03ミクロンから0.8ミクロンの範囲となるように調整した分散スラリー化処理後のチタン酸バリウムスラリー50を得たものである。係る装置に使用した容器の材質はジルコニアであり、ビーズ径は直径1mm、ビーズ材質は部分安定化ジルコニア、ビーズ重量は400gである。但し、分散スラリー化処理条件は、上記の例示に限定されるものではなく、5mm以下のビーズを使用し、アジテータの周速が3m/sから15m/sであればよい。
【0075】
超音波処理工程Bは、配合工程Cの直前に行う。混合工程Aで得られたチタン酸バリウムスラリー50に超音波による衝撃を与えて経時変化による粒子沈降を解し、均一化の促進を図る工程である。混合工程Aで得られたチタン酸バリウムスラリー50を超音波ホモジナイザーにより20kHzの超音波を120秒間150Wの出力で照射し、超音波による衝撃波を溶液中の物質に繰り返し与えることで圧力差による微小な気泡(キャビテーション)を発生させ、平均粒径を0.03ミクロンから0.8ミクロンの範囲となるように、解砕する。
【0076】
配合工程Cは、超音波処理工程Bで得られたチタン酸バリウムスラリー50を誘電エラストマー10に配合する工程である。塗工法による製膜を例に挙げると、溶剤に溶解した誘電エラストマー10に超音波処理工程Bで得られたチタン酸バリウムスラリー50を添加し均一に撹拌した後、所定の大きさの篩目によりろ過し塗工液を得る。ここで誘電エラストマー10を溶解させるのに使用する溶剤は、誘電エラストマー10の溶解性やチタン酸バリウムスラリー50の分散状態を解さないものから適宜選択され、例えばトルエンがある。また撹拌方法については特に限定されないが、例えばパドル型、プロペラ型等のインペラを用いた撹拌により行うことができる。
【0077】
乾燥工程Dは、配合工程Cにより得られた塗工液(チタン酸バリウムスラリー50と誘電エラストマー10の分散溶液)を乾燥により製膜する工程である。塗工方法に制限はなく、公知の塗工方法、例えばロールコーターやコンマコーター、ナイフコーター、ダイコーター等によって任意の厚みに塗工し、続いてオーブンに導入して乾燥する。乾燥条件は基材フィルム、塗工液の種類等によって選択されるが、例えば基材フィルムとしてPET(ポリエチレンテレフタレート:ペット)フィルム、塗工液の溶媒としてトルエンを用いた場合、60度から130度で5分から30分間乾燥することが好ましい。