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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-69906(P2019-69906A)
(43)【公開日】2019年5月9日
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20190412BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20190412BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20190412BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190412BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20190412BHJP
   A61P 33/10 20060101ALI20190412BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20190412BHJP
   C07H 17/08 20060101ALN20190412BHJP
【FI】
   A61K31/7048
   A61K9/19
   A61K47/34
   A61K9/14
   A61K9/08
   A61P33/10
   A61K47/04
   C07H17/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-195571(P2017-195571)
(22)【出願日】2017年10月6日
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(71)【出願人】
【識別番号】511097186
【氏名又は名称】株式会社 先端医療開発
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】大村 智
(72)【発明者】
【氏名】花木 秀明
(72)【発明者】
【氏名】砂塚 敏明
(72)【発明者】
【氏名】福田 宏太郎
(72)【発明者】
【氏名】池本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】金城 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】尾形 望嘉
(72)【発明者】
【氏名】原 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】平野 隆
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C057BB03
4C057DD01
4C057KK25
4C076AA12
4C076AA30
4C076BB01
4C076CC31
4C076DD23
4C076DD23D
4C076EE24E
4C076EE24N
4C076FF14
4C076FF15
4C076FF32
4C076FF34
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA14
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA43
4C086MA44
4C086MA52
4C086NA02
4C086NA11
4C086ZB39
(57)【要約】
【課題】有効成分の水への溶解性を高めて、有効成分の生体への吸収性を向上させることができる医薬組成物を提供する。
【解決手段】医薬組成物は、アベルメクチン又はイベルメクチンを含有する凍結乾燥物を含み、凍結乾燥物は、乳酸・グリコール酸共重合体を含む。当該凍結乾燥物はナノ粒子であって、ナノ粒子のD50の値が、200nm以下である、こととしてもよい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アベルメクチン又はイベルメクチンを含有する凍結乾燥物を含み、
前記凍結乾燥物は、
乳酸・グリコール酸共重合体を含む、
医薬組成物。
【請求項2】
前記凍結乾燥物はナノ粒子であって、
該ナノ粒子のD50の値が、
200nm以下である、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
生理食塩水をさらに含み、
前記凍結乾燥物は、
イベルメクチンを含有し、
前記生理食塩水に溶解している前記イベルメクチンの濃度が、1.0μg/mL以上である、
請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アベルメクチン(avermectin)は、土壌中の放線菌の一種ストレプトマイセス・アベルメクチニウス(Streptomyces avermitilis)によって産生される、18員環ラクトン(マクロライド)化合物の一群である。アベルメクチンとしては、4組8種の化合物(A1a、A1b、A2a、A2b、B1a、B1b、B2a及びB2b)が知られている。アベルメクチンは、駆虫活性及び殺虫活性を有する。
【0003】
イベルメクチン(ivermectin)は、アベルメクチンに基づいて合成された化合物である。イベルメクチンは、イベルメクチンB1aと、イベルメクチンB1bと、を含む混合物である。イベルメクチンは駆虫薬として、腸管糞線虫症、疥癬及び毛包虫症等の治療に使用される。アベルメクチン及びイベルメクチンは、錠剤又は液剤としてヒト又は動物の駆虫薬として広く使用されている。
【0004】
アベルメクチン及びイベルメクチンは、水及び生理食塩水にほとんど溶解しない。このため、アベルメクチン及びイベルメクチンを溶解させた注射製剤とする場合、適切な溶媒を使用する必要がある。例えば、特許文献1には、薬剤としてのイベルメクチン、ゴマ油、オレイン酸エチル及びベンジルアルコールを含む注射製剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−503029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された注射製剤のように種々の溶媒を混合した溶媒混合物では、保存状態によっては、溶媒混合物中のイベルメクチン自体の安定性、並びに溶媒の物性変化及び異なる溶媒間の相互作用等による品質の低下が懸念される。また、当該注射剤を大量に生体に投与した場合、生体内に溶媒が蓄積し、副作用が現れるおそれがある。
【0007】
また、設備等の制限により、品質を保持しながら上述のような注射製剤を保管できない環境下では、投与直前に生理食塩水に懸濁されたアベルメクチン等を生体に投与することがある。しかし、生理食塩水に懸濁されたアベルメクチン等は、溶解していないため、生体への吸収性が低く、生体内で投与量に見合った薬効が得られないおそれがある。一方、錠剤としてアベルメクチン等を経口投与しても、水に対して難溶性であるために、血中への吸収性が十分であるとは言えない。アベルメクチン等を有効成分として含む医薬組成物において、有効成分の水への溶解性及び生体への吸収性の向上が求められている。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、有効成分の水への溶解性を高めて、有効成分の生体への吸収性を向上させることができる医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の観点に係る医薬組成物は、
アベルメクチン又はイベルメクチンを含有する凍結乾燥物を含み、
前記凍結乾燥物は、
乳酸・グリコール酸共重合体を含む。
【0010】
この場合、前記凍結乾燥物はナノ粒子であって、
該ナノ粒子のD50の値が、
200nm以下である、
こととしてもよい。
【0011】
また、上記本発明の観点に係る医薬組成物は、
生理食塩水をさらに含み、
前記凍結乾燥物は、
イベルメクチンを含有し、
前記生理食塩水に溶解している前記イベルメクチンの濃度が、1.0μg/mL以上である、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有効成分の水への溶解性を高めて、有効成分の生体への吸収性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られたアベルメクチン封入ナノ粒子(Ave−NP)の粒度分布を示す図である。
図2】実施例1で得られたイベルメクチン封入ナノ粒子(Ive−NP)の粒度分布を示す図である。
図3】Ive−NPに関する生理食塩水に対する溶解濃度を示す図である。
図4】Ave−NPからのアベルメクチン(Ave)の溶出率等を示す図である。
図5】Ive−NPからのイベルメクチン(Ive)の溶出率等を示す図である。
図6】経口投与されたAve−NPの生体での吸収性試験の結果を示す図である。(A)はAve原体を投与したマウスにおけるAveの血中濃度の経時変化を示す図である。(B)はAve−NPを投与したマウスにおけるAveの血中濃度の経時変化を示す図である。(C)はAve原体を投与したマウス及びAve−NPを投与したマウスそれぞれにおけるAveの血中濃度の時間曲線下面積(AUC)を示す図である。
図7】経口投与されたIve−NPの生体での吸収性試験の結果を示す図である。(A)はIve原体を投与したマウスにおけるIveの血中濃度の経時変化を示す図である。(B)はIve−NPを投与したマウスにおけるIveの血中濃度の経時変化を示す図である。(C)はIve原体を投与したマウス及びIve−NPを投与したマウスそれぞれにおけるIveの血中濃度のAUCを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態)
本発明に係る実施の形態について説明する。本実施の形態に係る医薬組成物は、アベルメクチン(以下、略称「Ave」でも示される)又はイベルメクチン(以下、略称「Ive」でも示される)を含有する凍結乾燥物を含む。
【0015】
Aveは、アベルメクチンA1a、A1b、A2a、A2b、B1a、B1b、B2a及びB2bの少なくともいずれ1種を含む。例えば、B1a及びB1bの化学式は、次の化学式におけるRがそれぞれエチル基及びメチル基で示される。
【0016】
【化1】
【0017】
Iveは、イベルメクチンB1a(22,23−ジヒドロアベルメクチンB1a)及びイベルメクチンB1b(22,23−ジヒドロアベルメクチンB1b)の混合物である。IveにおけるイベルメクチンB1aとイベルメクチンB1bとの組成比は、イベルメクチンB1aが80重量%以上を占め、残りがイベルメクチンB1bである。イベルメクチンB1a及びB1bの化学式は、次の化学式におけるRがそれぞれエチル基及びメチル基で示される。
【0018】
【化2】
【0019】
上記凍結乾燥物は、乳酸・グリコール酸共重合体(ポリラクチドグリコライド共重合体ともいう。以下、単に「PLGA」という)を含む。PLGAは、例えば1:99〜99:1、好ましくは75:25、より好ましくは3:1の割合で、乳酸又はラクチドと、グリコール酸又はグリコライドと、からなるコポリマーである。PLGAは、任意のモノマーから公知の方法で合成してもよいし、市販のPLGAを使用してもよい。市販のPLGAとしては、例えばPLGA7520(乳酸:グリコール酸=75:25、平均重量分子量20,000、和光純薬社製)が挙げられる。乳酸及びグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%であるPLGAは非晶質であり、アセトン等の有機溶媒に可溶である点で好ましい。
【0020】
上記凍結乾燥物は、凍結乾燥によって得られる固形状物であれば、その態様は特に限定されない。凍結乾燥物がAve又はIve(以下「Ave等」ともいう)を含有するとは、Ave等が凍結乾燥物に内包又は封入されてもよく、Ave等が凍結乾燥物に内包又は封入され、かつAve等の一部が凍結乾燥物の表面に露出していてもよい。
【0021】
好ましくは、凍結乾燥物はナノ粒子である。特に好ましくは、当該ナノ粒子は、生体への刺激又は毒性が低く、かつ投与後分解して代謝される性質を備える生体適合性粒子である。ナノ粒子の粒径は、1000nm未満で、例えば2.5〜900nm、好ましくは25〜500nm又は50〜300nm、より好ましくは100〜200nm、さらに好ましくは150〜190nm、特に好ましくは160〜180nmである。
【0022】
ナノ粒子の粒径は、ふるい分け法、沈降法、顕微鏡法、光散乱法、レーザー回折・散乱法、電気的抵抗試験、透過型電子顕微鏡による観察、及び走査型電子顕微鏡による観察等で測定できる。粒径は粒度分布計で測定してもよい。粒径は、測定方法に応じて、ストーク相当径、円相当径及び球相当径で表すことができる。また、粒径は、複数の粒子を測定対象として、平均で表した平均粒径、体積平均粒径及び面積平均粒径等であってもよい。また、粒径は、レーザー回折・散乱法等の測定に基づく個数分布等から算出される平均粒径であってもよい。
【0023】
好適には、ナノ粒子の粒径は、粒子の集団の全体積を100%とした累積カーブにおける50%となる点の粒径である50%径(D50)で表される。累積カーブ及びD50は、市販の粒度分布計を用いて求めることができる。例えば、ナノ粒子のD50の値は、1000nm未満である。例えば、ナノ粒子のD50の値は、2.5〜900nm、好ましくは25〜500nm又は50〜300nm、より好ましくは100〜200nm、さらに好ましくは150〜190nm、特に好ましくは160〜180nmであってもよい。好適には、ナノ粒子のD50の値は200nm以下である。粒度分布計としては、例えば、NIKKISO Nanotrac Wave−EX150(日機装社製)が挙げられる。
【0024】
上記ナノ粒子は、表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾されてもよい。例えば、上記ナノ粒子の製造に、PLGAのPEG修飾体を用いることで、表面がPEGで修飾されたナノ粒子が得られる。ナノ粒子の表面がPEGで修飾されることで、ナノ粒子の血中安定性が向上する。
【0025】
本実施の形態に係る医薬組成物は、生理食塩水をさらに含んでもよい。生理食塩水とは、塩化ナトリウムを0.9w/v%含有する食塩水を意味する。この場合、好ましくは、上記凍結乾燥物は、イベルメクチンを含有し、生理食塩水に溶解しているイベルメクチンの濃度が1.0μg/mL以上、1.0〜100μg/mL、1.5〜90μg/mL、5〜70μg/mL又は10〜60μg/mLである。また、生理食塩水に溶解しているイベルメクチンの濃度は、1〜3μg/mL、5〜15μg/mL又は60〜90μg/mLであってもよい。
【0026】
上記凍結乾燥物の製造方法としては、公知の任意の製造方法を採用できる。凍結乾燥物は、Ave等及びPLGAを有機溶媒等の適切な溶媒に懸濁して得られた懸濁液から溶媒を除去し、公知の方法で凍結乾燥したものである。好ましくは、溶媒の除去では、減圧下で溶媒が留去される。
【0027】
本実施の形態に係る凍結乾燥物としてのナノ粒子は、例えば水中エマルジョン法で製造できる。水中エマルジョン法では、PLGAが溶解する良溶媒と、PLGAが溶解しない貧溶媒の2種類の溶媒を用いる。良溶媒には、PLGAが溶解し、かつ貧溶媒へ混和する有機溶媒を用いる。良溶媒及び貧溶媒の種類は、特に限定されない。
【0028】
貧溶媒としては、水が挙げられる。貧溶媒として水を用いる場合、水に界面活性剤を添加してもよい。例えば、界面活性剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)が好ましい。PVA以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0029】
良溶媒としては、低沸点かつ難水溶性の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン及びトルエン等が挙げられる。好ましくは、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトンのみ又はアセトンとエタノールとの混合液が用いられる。
【0030】
水中エマルジョン法では、まず、良溶媒中にPLGA及びAve等を溶解後、PLGAとAve等とを含む良溶媒を、撹拌下で貧溶媒中に滴下する。これにより、良溶媒が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の乳化が起き、良溶媒のエマルジョン滴が形成される。
【0031】
さらに良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散するため、エマルジョン滴内のPLGA及びAve等の溶解度が低下する。最終的には、Ave等を含有する球形結晶粒子であるナノ粒子が生成する。その後、良溶媒である有機溶媒を遠心分離又は減圧留去し、ナノ粒子粉末を得る。得られた粉末は、そのまま、又は必要に応じて凍結乾燥等により再分散可能な凝集粒子に複合化される。
【0032】
Ave等を含有するナノ粒子は、強制薄膜式マイクロリアクターを用いて製造されてもよい。強制薄膜式マイクロリアクターを用いる場合、まず、互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面間に、上述の良溶媒と貧溶媒とを導入する。これにより形成される薄膜流体中で、良溶媒と貧溶媒とを混合し、Ave等を含有するナノ粒子を、薄膜流体中に析出させる。強制薄膜式マイクロリアクターとしては、好ましくはULREA SS−11(エム・テクニック社製)が用いられる。
【0033】
上記凍結乾燥物におけるAve等の含有率は特に限定されず、好ましくは0.01〜99重量%、0.1〜50重量%、0.5〜40重量%、1〜30重量%、3〜20重量%又は5〜10重量%である。ここでのAve等の含有率は、凍結乾燥物の重量に対するAve等の重量の割合である。含有率は、所定重量の凍結乾燥物から抽出されたAve等の重量を定量し、凍結乾燥物の重量に対するAve等の重量の割合を算出することで求められる。
【0034】
好適には、上記凍結乾燥物としてのナノ粒子におけるAveの含有率は、0.01〜99重量%、1〜30重量%、2〜20重量%、5〜15重量%、6〜12重量%又は9〜10重量%である。好適には、上記凍結乾燥物としてのナノ粒子におけるIveの含有率は、0.01〜99重量%、1〜30重量%、3〜20重量%、4〜15重量%、5〜10重量%又は6〜7重量%である。
【0035】
なお、凍結乾燥物としてのナノ粒子におけるAve等の含有率を高めるため、貧溶媒にカチオン性高分子を添加してもよい。カチオン性高分子としては、キトサン並びにキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース及びポリエチレンイミン、ポリビニルアミン並びにポリアリルアミン等のポリアミノ化合物等が挙げられる。
【0036】
本実施の形態に係る医薬組成物が使用される疾患としては、Ave等の公知の対象疾患が挙げられる。当該対象疾患は、寄生虫感染症、例えば、腸管糞線虫症、疥癬及び毛包虫症等の治療に使用される。好適には、医薬組成物は駆虫薬として使用される。当該医薬組成物は、ヒト及び動物に投与される。動物としては、好ましくは哺乳類で、より具体的には、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ及びシカ等があげられる。
【0037】
本実施の形態に係る医薬組成物のヒト及び動物への投与経路は特に限定されない。上記医薬組成物は、外用剤、注射剤及び経口投与剤として用いられるのが好ましい。このとき、医薬組成物は、例えば、薬理的に許容される担体と配合された合剤であってもよい。薬理的に許容される担体は、製剤素材として用いられる各種の有機担体物質又は無機担体物質である。薬理的に許容される担体は、例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、又は液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等として医薬組成物に配合される。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤及び甘味剤等の添加物を用いることもできる。
【0038】
本実施の形態に係る医薬組成物は、既知の方法で製造され、有効成分として0.000001〜99.9重量%、0.00001〜99.8重量%、0.0001〜99.7重量%、0.001〜99.6重量%、0.01〜99.5重量%、0.1〜99重量%、0.5〜60重量%、1〜50重量%又は1〜20重量%の凍結乾燥物を含む。
【0039】
本実施の形態に係る医薬組成物の投与量は、投与対象のヒト又は動物の年齢、体重及び症状等によって適宜決定される。当該医薬組成物は、Ave等が有効量となるように投与される。有効量とは、所望の結果を得るために必要なAve等の量であり、治療又は処置する状態の進行の遅延、阻害、予防、逆転又は治癒をもたらすのに必要な量である。
【0040】
当該医薬組成物の投与量は、典型的には、0.01mg/kg〜1000mg/kg、好ましくは0.1mg/kg〜200mg/kg、より好ましくは0.2mg/kg〜20mg/kgであり、1日に1回、又は複数回投与することができる。また、医薬組成物は、毎日、隔日、1週間に1回、隔週、1ヶ月に1回等の様々な投与頻度で投与してもよい。好ましくは、投与頻度は、医師等により容易に決定される。なお、必要に応じて、上記の範囲外の量を用いることもできる。
【0041】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る医薬組成物は、有効成分としてAve等がPLGAを含む凍結乾燥物に含有されているため、下記実施例2に示すように、水及び生理食塩水へのAve等の溶解性が原体に比べて顕著に増大する。この結果、当該医薬組成物は、原体と比較して、Ave等の生体への吸収性を高めることができる。また、上記の医薬組成物は、下記実施例4に示すように、Aveを含有する凍結乾燥物が経口投与された場合にAveの生体への吸収性を向上させることができる。
【0042】
別の実施の形態では、Ave等を含有する凍結乾燥物を含む医薬組成物を患者又は動物に投与することにより、該患者又は動物の体に寄生する寄生虫を駆除する方法及び寄生虫に起因する疾患の治療又は予防方法が提供される。この場合の投与方法としては、経皮、経口、皮下注射及び静脈注射等が挙げられる。また、別の実施の形態では、アベルメクチン又はイベルメクチンを1.0μg/mL以上の濃度で生理食塩水に溶解する溶解ステップを含む、医薬組成物の製造方法が提供される。
【実施例】
【0043】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0044】
(実施例1:Ave−NP及びIve−NPの調製)
以下のように、抗生物質(Ave等)を封入したナノ粒子を調製した。Ave−NPの調製では、まず、0.39gのPLGA(PLGA75020、乳酸:グリコール酸=75:25、平均分子量20,000、和光純薬工業社製)と、0.1gのAveとを、アセトン40g及びエタノール20gの混合溶媒に溶解したポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液を、40℃、400rpmで撹拌した0.5w/w%ポリビニルアルコール溶液(日本合成化学工業株式会社製)120g中にペリスタポンプを介して4rpmで滴下し、Ave−NPの懸濁液を得た。得られた懸濁液から溶媒を減圧下で留去した後、凍結乾燥して1.2gのAve−NPを得た。
【0045】
Ive−NPの調製では、まず、0.39gのPLGA(PLGA75020、乳酸:グリコール酸=75:25、平均分子量20,000、和光純薬工業社製)と、0.1gのIveとを、アセトン40g及びエタノール20gの混合溶媒に溶解したポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液を、40℃、400rpmで撹拌した0.5w/w%ポリビニルアルコール溶液120g中にペリスタポンプを介して4rpmで滴下し、Ive−NPの懸濁液を得た。得られた懸濁液から溶媒を減圧下で留去した後、凍結乾燥して1.0gのIve−NPを得た。
【0046】
Ave−NP及びIve−NPの粒度分布を次のように評価した。Ave−NP及びIve−NPをそれぞれチューブに量りとり、各チューブにミリQ水を加えて、1mg/mLに調整した。各チューブをボルテックスミキサーで30秒間撹拌後、5分間超音波処理を行った。ミリQ水を対照とし、Ave−NP及びIve−NPの粒度分布をNIKKISO Nanotrac Wave−EX150(日機装社製)で測定した。
【0047】
Ave−NPにおけるAveの含有率を次のように評価した。まず、標準溶液を調製した。10mgのAveを量りとり、10mLのアセトニトリルを加えて溶解し、標準原液(1mg/mL)とした。調製した標準原液をアセトニトリルで段階希釈し、標準溶液とした。
【0048】
試料溶液の調製では、Ave−NPをミリQ水で1mg/mLに調製した。ボルテックスミキサーで30秒間撹拌後、30分間超音波処理し試料原液とした。試料原液1.0mLにアセトニトリルを加え10mLとした。この液を20℃、10,000×gで15分間遠心分離した。遠心後の上澄み液を、ポアサイズ0.2μmのフィルタを用いてろ過し、得られたろ液を試料溶液とした。試料溶液についてはn=3で試験を実施した。標準溶液及び試料溶液を下記HPLCの条件1にて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、標準溶液の検量線から試料溶液中のAve−NPにおけるAveの含有率を計算により求めた。
【0049】
HPLCの条件1
機器:Shimadzu 10A series(島津製作所社製)
検出:Shimadzu ELSD−LT
ゲイン:8
ドリフト温度:40℃
ガス圧力:350kPa(実測358kPa)
ネブライザーガス:N
カラム:Shodex Asahipak NH2P−504D(150mm×4.6mm)
カラム温度:40℃
移動相:A:水、B:アセトニトリル
B.濃度 75%→69%(8分)69→75%(8分→16分)
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
注入量:20μL
測定時間:16分
【0050】
Ive−NPについても、Ave−NPと同様に標準溶液及び試料溶液を調製し、HPLCを用いてIveの含有率を評価した。
【0051】
(結果)
Ave−NPの粒度分布を図1に示す。Ave−NPのD50及びスパン値は、それぞれ170nm及び0.7であった。Ave−NPにおけるAveの含有率は9.3%であった。図2は、Ive−NPの粒度分布を示す。Ive−NPのD50及びスパン値は、それぞれ172nm及び1.8であった。Ive−NPにおけるIveの含有率は6.5%であった。
【0052】
(実施例2:Ive−NPの溶解性の検討)
Ive原体及び実施例1で調製したIve−NPの生理食塩水に対する溶解試験を行った。Ive換算で0.5mg/mL、2.0mg/mL及び10.0mg/mLの各濃度になるようにIve−NPを生理食塩水15mLにそれぞれ添加した。また、Ive原体150mgを生理食塩水15mLに添加した。これら試料について、Iveの溶解試験を添加直後(0分後)、5分後及び10分後に行った。
【0053】
溶解試験では、ボルテックスミキサーで試料を30秒間撹拌後、試料から採取した被検液1.5mLをマイクロピペットで採取し、20℃で20,000×g、5分間遠心分離し、得られた上清をポアサイズ0.2μmのフィルタを用いてろ過した。得られたろ液の100μLを、アセトニトリル900μLを用いて10倍に希釈した。さらに、得られたアセトニトリル希釈液1mlを室温で20,000×g、15分間遠心分離し、得られた上清をポアサイズ0.2μmのフィルタを用いてろ過し、下記HPLCの条件2にてHPLCで測定した。別に10mgのIveをアセトニトリルに加え10mLとし、標準原液とした。標準原液をアセトニトリルで希釈し標準溶液とし検量線を作成した。
【0054】
HPLCの条件2
カラム:GL Sciences Inertsustain C18 5μm 250×4.6mm ID.
移動相:メタノール:ミリQ水=90:10v/v
流量:1mL/分
波長:UV 254nm
カラムオーブン:30℃
注入量:5μL
【0055】
(結果)
HPLCの測定結果に基づく生理食塩水中のIveの濃度の経時変化を図3に示す。10mg/mLとなるように生理食塩水に添加したIve原体は生理食塩水に対してほとんど溶解しなかった(0.2〜0.4μg/mL)。Ive原体では、添加したイベルメクチンの0.003〜0.004重量%しか生理食塩水中に溶解しなかった。一方、ナノ粒子化によってIveの溶解性が著しく増加することが示された。
【0056】
詳細には、Iveの濃度で0.5mg/mLとなるようにIve−NPを生理食塩水に添加したところ、0分後、5分後及び10分後の生理食塩水中のIveの濃度は、それぞれ2.7μg/mL、1.7μg/mL及び1.8μg/mLであった。このため、Ive−NPに含有されていたイベルメクチンの0.34〜0.54重量%が該生理食塩水中に溶解していた。
【0057】
Iveの濃度で2mg/mLとなるようにIve−NPを生理食塩水に添加した場合は、0分後、5分後及び10分後の生理食塩水中のIveの濃度は、それぞれ8.5μg/mL、10.3μg/mL及び10.2μg/mLであった。このため、Ive−NPに含有されていたイベルメクチンの0.43〜0.52重量%が該生理食塩水中に溶解していた。
【0058】
Iveの濃度で10mg/mLとなるようにIve−NPを生理食塩水に添加した場合は、0分後、5分後及び10分後の生理食塩水中のIveの濃度は、それぞれ68.1μg/mL、74.6μg/mL及び81.0μg/mLであった。このため、Ive−NPに含有されていたイベルメクチンの0.68〜0.81重量%が該生理食塩水中に溶解していた。
【0059】
(実施例3:Ave−NP及びIve−NPの溶出試験)
上記実施例1で調製したAve−NP及びIve−NPについて、腸液内でのAve及びIveの溶出率を次のように評価した。まず、絶食時の腸液を再現するために人工腸液を調製した。2.18gの人工腸液調製用試薬(セレステ社製)、6.19gのNaCl、3.44gのNaH2PO4、及び0.42gのNaOHを、精製水1000mLに溶解させた。続いて、1N NaOH又は1N HCl水溶液を用いて溶液のpHを6.5に調整し、該溶液を人工腸液とした。
【0060】
Ave原体、Ive原体、実施例1で調製したAve−NP又はIve−NP15mgを人工腸液30mLに添加し、30秒間ボルテックスミキサーで撹拌した。0時間の試料として1mLを採取した後、37℃で振盪し、3、6、24時間後にもそれぞれ1mLを採取した。採取した試料を20℃で15分間、20,000rpmで遠心し、ポアサイズ0.2μmのフィルタでろ過した。ろ液100μLにアセトニトリル900μLを加え、30秒間撹拌した。試料をさらに20℃で15分間、20,000rpmで遠心し、ポアサイズ0.2μmのフィルタでろ過した。得られた試料に含まれるAve等の量を上述の実施例1と同様にHPLC分析で定量した。
【0061】
(結果)
図4は、Ave−NPからのAveの溶出率及び試料に含まれるAve原体に対する溶解していたAve原体の割合を示す。図5は、Ive−NPの溶出率及び試料に含まれるIve原体に対する試料中に溶解していたIve原体の割合(原体の溶解率)を示す。人工腸液に添加して24時間後、溶解していたAve原体の割合(2.2%)と比べて、Ave−NPの試料には、約13倍の濃度でAveが含まれていた(Ave−PL−NP:29.6%)。また、Ive原体は人工腸液にほとんど溶解しなかったのに対し(0.36%)、Ive−NPからはIveがほぼ100%溶出し、試料中に溶解していた。
【0062】
(実施例4:Ave−NP及びIve−NPの生体での吸収性試験)
上記実施例1で調製したAve−NP及びIve−NPについて、マウスにおける抗生物質の吸収性を評価した。マウス(C57BL/6J、8週齢、雄、日本チャールズ・リバー社製)を取得し、7日間馴化させた。Ave等の投与量として2μg/g(体重)になるように、Ave原体、Ave−NP、Ive原体又はIve−NPを経口投与した。なお、Ave原体及びIve原体は、それぞれ0.5%カルボキシメチルセルロースに分散させて投与した。一方、Ave−NP及びIve−NPはMilliQ水に分散させて投与した。所定時間経過ごとに眼窩静脈より血液を採取した(n=3)。採取した血液を遠心分離し、上清の血漿を得た。
【0063】
得られた血漿100μLにアセトニトリルを200μL加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、さらに超音波処理を行い、遠心分離後、上清を得た。上清をポアサイズ0.2μmのフィルタにかけ、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)測定用試料とした。Ave等の血中濃度を、下記LC/MSの測定条件でLC/MSを用いて測定した。
【0064】
LC/MSの測定条件
装置:1260 Infinity,6430 Triple Quad LC/MS,Agilent Technologies
分析カラム:TSK−GEL ODS 100V,3μm,2×50mm
カラムオーブン温度:40℃
移動相:20mMギ酸アンモニウム:アセトニトリル=30:70
イオン源:ESI
極性:Positive
Nebulizer Pressure:30psi
Drying Gasの流速:5L/分
Drying Gasの温度:250℃
Capillary Voltage:5,000V
【0065】
LC/MSにおける測定対象物質のトランジション等を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
(結果)
図6(A)及び(B)は、それぞれAve原体及びAve−NPを経口投与したマウスにおけるAveの血中濃度を示す。Ave原体投与群においては、投与1時間後にAveが検出され、24時間後にはAveが消失していた。一方、Ave−NP投与群においては2時間後からAveが検出され、24時間後においてもAveは残存していた。Ave原体及びAve−NPのCmaxは、79.4ng/mL及び226.9ng/mLであった。Ave原体及びAve−NPのTmaxは、両方ともに2時間であった。
【0068】
図6(C)に示すように、Ave原体及びAve−NPのAUC(Area Under Curve)を比較すると、経口投与の場合、Ave−NPでは、血中への吸収量がAve原体よりも約2.5倍上昇していた。以上の結果から、Ave原体をPLGAナノ粒子化することによって、溶解性が向上し、徐放性の機能が付与されることが示唆された。
【0069】
図7(A)及び(B)は、それぞれIve原体及びIve−NPを経口投与したマウスにおけるIveの血中濃度を示す。投与1時間後からIveがIve原体投与群及びIve−NP投与群の両方において検出された。Ive原体及びIve−NPのCmaxは、340.5ng/mL及び380.7ng/mLであった。Ive原体及びIve−NPのTmaxは、それぞれ6時間及び2時間であった。このことから、Ive原体をPLGAナノ粒子化することによって、Iveの血中濃度を、Ive原体と比較して、より高い血中濃度に、より早く到達させることが示された。AUCに関しては、図7(C)に示すように、Ive原体とIve−NPとの間に大きな差は見られなかった。
【0070】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、医薬、特には駆虫薬に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7