【実施例】
【0043】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0044】
(実施例1:Ave−NP及びIve−NPの調製)
以下のように、抗生物質(Ave等)を封入したナノ粒子を調製した。Ave−NPの調製では、まず、0.39gのPLGA(PLGA75020、乳酸:グリコール酸=75:25、平均分子量20,000、和光純薬工業社製)と、0.1gのAveとを、アセトン40g及びエタノール20gの混合溶媒に溶解したポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液を、40℃、400rpmで撹拌した0.5w/w%ポリビニルアルコール溶液(日本合成化学工業株式会社製)120g中にペリスタポンプを介して4rpmで滴下し、Ave−NPの懸濁液を得た。得られた懸濁液から溶媒を減圧下で留去した後、凍結乾燥して1.2gのAve−NPを得た。
【0045】
Ive−NPの調製では、まず、0.39gのPLGA(PLGA75020、乳酸:グリコール酸=75:25、平均分子量20,000、和光純薬工業社製)と、0.1gのIveとを、アセトン40g及びエタノール20gの混合溶媒に溶解したポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液を、40℃、400rpmで撹拌した0.5w/w%ポリビニルアルコール溶液120g中にペリスタポンプを介して4rpmで滴下し、Ive−NPの懸濁液を得た。得られた懸濁液から溶媒を減圧下で留去した後、凍結乾燥して1.0gのIve−NPを得た。
【0046】
Ave−NP及びIve−NPの粒度分布を次のように評価した。Ave−NP及びIve−NPをそれぞれチューブに量りとり、各チューブにミリQ水を加えて、1mg/mLに調整した。各チューブをボルテックスミキサーで30秒間撹拌後、5分間超音波処理を行った。ミリQ水を対照とし、Ave−NP及びIve−NPの粒度分布をNIKKISO Nanotrac Wave−EX150(日機装社製)で測定した。
【0047】
Ave−NPにおけるAveの含有率を次のように評価した。まず、標準溶液を調製した。10mgのAveを量りとり、10mLのアセトニトリルを加えて溶解し、標準原液(1mg/mL)とした。調製した標準原液をアセトニトリルで段階希釈し、標準溶液とした。
【0048】
試料溶液の調製では、Ave−NPをミリQ水で1mg/mLに調製した。ボルテックスミキサーで30秒間撹拌後、30分間超音波処理し試料原液とした。試料原液1.0mLにアセトニトリルを加え10mLとした。この液を20℃、10,000×gで15分間遠心分離した。遠心後の上澄み液を、ポアサイズ0.2μmのフィルタを用いてろ過し、得られたろ液を試料溶液とした。試料溶液についてはn=3で試験を実施した。標準溶液及び試料溶液を下記HPLCの条件1にて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、標準溶液の検量線から試料溶液中のAve−NPにおけるAveの含有率を計算により求めた。
【0049】
HPLCの条件1
機器:Shimadzu 10A series(島津製作所社製)
検出:Shimadzu ELSD−LT
ゲイン:8
ドリフト温度:40℃
ガス圧力:350kPa(実測358kPa)
ネブライザーガス:N
2
カラム:Shodex Asahipak NH2P−504D(150mm×4.6mm)
カラム温度:40℃
移動相:A:水、B:アセトニトリル
B.濃度 75%→69%(8分)69→75%(8分→16分)
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
注入量:20μL
測定時間:16分
【0050】
Ive−NPについても、Ave−NPと同様に標準溶液及び試料溶液を調製し、HPLCを用いてIveの含有率を評価した。
【0051】
(結果)
Ave−NPの粒度分布を
図1に示す。Ave−NPのD
50及びスパン値は、それぞれ170nm及び0.7であった。Ave−NPにおけるAveの含有率は9.3%であった。
図2は、Ive−NPの粒度分布を示す。Ive−NPのD
50及びスパン値は、それぞれ172nm及び1.8であった。Ive−NPにおけるIveの含有率は6.5%であった。
【0052】
(実施例2:Ive−NPの溶解性の検討)
Ive原体及び実施例1で調製したIve−NPの生理食塩水に対する溶解試験を行った。Ive換算で0.5mg/mL、2.0mg/mL及び10.0mg/mLの各濃度になるようにIve−NPを生理食塩水15mLにそれぞれ添加した。また、Ive原体150mgを生理食塩水15mLに添加した。これら試料について、Iveの溶解試験を添加直後(0分後)、5分後及び10分後に行った。
【0053】
溶解試験では、ボルテックスミキサーで試料を30秒間撹拌後、試料から採取した被検液1.5mLをマイクロピペットで採取し、20℃で20,000×g、5分間遠心分離し、得られた上清をポアサイズ0.2μmのフィルタを用いてろ過した。得られたろ液の100μLを、アセトニトリル900μLを用いて10倍に希釈した。さらに、得られたアセトニトリル希釈液1mlを室温で20,000×g、15分間遠心分離し、得られた上清をポアサイズ0.2μmのフィルタを用いてろ過し、下記HPLCの条件2にてHPLCで測定した。別に10mgのIveをアセトニトリルに加え10mLとし、標準原液とした。標準原液をアセトニトリルで希釈し標準溶液とし検量線を作成した。
【0054】
HPLCの条件2
カラム:GL Sciences Inertsustain C18 5μm 250×4.6mm ID.
移動相:メタノール:ミリQ水=90:10v/v
流量:1mL/分
波長:UV 254nm
カラムオーブン:30℃
注入量:5μL
【0055】
(結果)
HPLCの測定結果に基づく生理食塩水中のIveの濃度の経時変化を
図3に示す。10mg/mLとなるように生理食塩水に添加したIve原体は生理食塩水に対してほとんど溶解しなかった(0.2〜0.4μg/mL)。Ive原体では、添加したイベルメクチンの0.003〜0.004重量%しか生理食塩水中に溶解しなかった。一方、ナノ粒子化によってIveの溶解性が著しく増加することが示された。
【0056】
詳細には、Iveの濃度で0.5mg/mLとなるようにIve−NPを生理食塩水に添加したところ、0分後、5分後及び10分後の生理食塩水中のIveの濃度は、それぞれ2.7μg/mL、1.7μg/mL及び1.8μg/mLであった。このため、Ive−NPに含有されていたイベルメクチンの0.34〜0.54重量%が該生理食塩水中に溶解していた。
【0057】
Iveの濃度で2mg/mLとなるようにIve−NPを生理食塩水に添加した場合は、0分後、5分後及び10分後の生理食塩水中のIveの濃度は、それぞれ8.5μg/mL、10.3μg/mL及び10.2μg/mLであった。このため、Ive−NPに含有されていたイベルメクチンの0.43〜0.52重量%が該生理食塩水中に溶解していた。
【0058】
Iveの濃度で10mg/mLとなるようにIve−NPを生理食塩水に添加した場合は、0分後、5分後及び10分後の生理食塩水中のIveの濃度は、それぞれ68.1μg/mL、74.6μg/mL及び81.0μg/mLであった。このため、Ive−NPに含有されていたイベルメクチンの0.68〜0.81重量%が該生理食塩水中に溶解していた。
【0059】
(実施例3:Ave−NP及びIve−NPの溶出試験)
上記実施例1で調製したAve−NP及びIve−NPについて、腸液内でのAve及びIveの溶出率を次のように評価した。まず、絶食時の腸液を再現するために人工腸液を調製した。2.18gの人工腸液調製用試薬(セレステ社製)、6.19gのNaCl、3.44gのNaH2PO4、及び0.42gのNaOHを、精製水1000mLに溶解させた。続いて、1N NaOH又は1N HCl水溶液を用いて溶液のpHを6.5に調整し、該溶液を人工腸液とした。
【0060】
Ave原体、Ive原体、実施例1で調製したAve−NP又はIve−NP15mgを人工腸液30mLに添加し、30秒間ボルテックスミキサーで撹拌した。0時間の試料として1mLを採取した後、37℃で振盪し、3、6、24時間後にもそれぞれ1mLを採取した。採取した試料を20℃で15分間、20,000rpmで遠心し、ポアサイズ0.2μmのフィルタでろ過した。ろ液100μLにアセトニトリル900μLを加え、30秒間撹拌した。試料をさらに20℃で15分間、20,000rpmで遠心し、ポアサイズ0.2μmのフィルタでろ過した。得られた試料に含まれるAve等の量を上述の実施例1と同様にHPLC分析で定量した。
【0061】
(結果)
図4は、Ave−NPからのAveの溶出率及び試料に含まれるAve原体に対する溶解していたAve原体の割合を示す。
図5は、Ive−NPの溶出率及び試料に含まれるIve原体に対する試料中に溶解していたIve原体の割合(原体の溶解率)を示す。人工腸液に添加して24時間後、溶解していたAve原体の割合(2.2%)と比べて、Ave−NPの試料には、約13倍の濃度でAveが含まれていた(Ave−PL−NP:29.6%)。また、Ive原体は人工腸液にほとんど溶解しなかったのに対し(0.36%)、Ive−NPからはIveがほぼ100%溶出し、試料中に溶解していた。
【0062】
(実施例4:Ave−NP及びIve−NPの生体での吸収性試験)
上記実施例1で調製したAve−NP及びIve−NPについて、マウスにおける抗生物質の吸収性を評価した。マウス(C57BL/6J、8週齢、雄、日本チャールズ・リバー社製)を取得し、7日間馴化させた。Ave等の投与量として2μg/g(体重)になるように、Ave原体、Ave−NP、Ive原体又はIve−NPを経口投与した。なお、Ave原体及びIve原体は、それぞれ0.5%カルボキシメチルセルロースに分散させて投与した。一方、Ave−NP及びIve−NPはMilliQ水に分散させて投与した。所定時間経過ごとに眼窩静脈より血液を採取した(n=3)。採取した血液を遠心分離し、上清の血漿を得た。
【0063】
得られた血漿100μLにアセトニトリルを200μL加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、さらに超音波処理を行い、遠心分離後、上清を得た。上清をポアサイズ0.2μmのフィルタにかけ、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)測定用試料とした。Ave等の血中濃度を、下記LC/MSの測定条件でLC/MSを用いて測定した。
【0064】
LC/MSの測定条件
装置:1260 Infinity,6430 Triple Quad LC/MS,Agilent Technologies
分析カラム:TSK−GEL ODS 100V,3μm,2×50mm
カラムオーブン温度:40℃
移動相:20mMギ酸アンモニウム:アセトニトリル=30:70
イオン源:ESI
極性:Positive
Nebulizer Pressure:30psi
Drying Gasの流速:5L/分
Drying Gasの温度:250℃
Capillary Voltage:5,000V
【0065】
LC/MSにおける測定対象物質のトランジション等を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
(結果)
図6(A)及び(B)は、それぞれAve原体及びAve−NPを経口投与したマウスにおけるAveの血中濃度を示す。Ave原体投与群においては、投与1時間後にAveが検出され、24時間後にはAveが消失していた。一方、Ave−NP投与群においては2時間後からAveが検出され、24時間後においてもAveは残存していた。Ave原体及びAve−NPのC
maxは、79.4ng/mL及び226.9ng/mLであった。Ave原体及びAve−NPのT
maxは、両方ともに2時間であった。
【0068】
図6(C)に示すように、Ave原体及びAve−NPのAUC(Area Under Curve)を比較すると、経口投与の場合、Ave−NPでは、血中への吸収量がAve原体よりも約2.5倍上昇していた。以上の結果から、Ave原体をPLGAナノ粒子化することによって、溶解性が向上し、徐放性の機能が付与されることが示唆された。
【0069】
図7(A)及び(B)は、それぞれIve原体及びIve−NPを経口投与したマウスにおけるIveの血中濃度を示す。投与1時間後からIveがIve原体投与群及びIve−NP投与群の両方において検出された。Ive原体及びIve−NPのC
maxは、340.5ng/mL及び380.7ng/mLであった。Ive原体及びIve−NPのT
maxは、それぞれ6時間及び2時間であった。このことから、Ive原体をPLGAナノ粒子化することによって、Iveの血中濃度を、Ive原体と比較して、より高い血中濃度に、より早く到達させることが示された。AUCに関しては、
図7(C)に示すように、Ive原体とIve−NPとの間に大きな差は見られなかった。
【0070】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。