【解決手段】健康特性の評価方法であって、精漿中のテストステロン、亜鉛、酸化ストレスマーカー及びクレアチンからなる群から選択される少なくとも1種の成分を測定する工程と、前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度に基づいて前記精漿の提供者の健康特性を評価する工程と、を備えるようにする。
前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度と前記少なくとも1種の精漿中濃度について予め決定された基準値とを比較することにより、前記健康特性を評価する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
前記閾値は、加齢レベル、妊孕レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルからなる群から選択される少なくとも1種の前記健康特性に関連付けられて設定されている、請求項4に記載の方法。
前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度と前記少なくとも1種の精漿中濃度について少なくとも1種の成分について予め設定された目標値とを比較することにより、前記健康特性を評価する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
前記目標値は、加齢レベル、妊孕レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルからなる群から選択される健康特性に関連付けられて設定されている、請求項6に記載の方法。
前記健康支援情報は、前記提供者の妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルからなる群から選択される少なくとも1種の健康特性に関する健康目的に応じた情報である、請求項11に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書の開示は、健康特性の評価方法及びその利用等に関する。本明細書に開示される健康特性の評価方法(以下、本評価方法ともいう。)及び評価システムによれば、精漿中における特定成分の濃度を取得することで、妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルなどの健康特性を評価することができる。
【0009】
例えば、精液は、血液などに比べて、非侵襲的に取得できて、かつ、妊孕レベルに直接関連する精子を含有する。このため、精漿中の特定成分濃度は、妊孕レベルなどの男性固有の健康特性をより直接的に反映しうる。また、精漿中の特定成分濃度は、精漿提供者の全身的な加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルも反映しうると考えられる。これらのことから、精漿中の、すなわち、亜鉛、テストステロン、酸化ストレスマーカー及びクレアチンからなる群から選択される少なくとも1種の濃度の測定により、男性としての健康特性を感度及び精度良く評価できる。とりわけ、精漿中の特定成分濃度を測定することで精漿提供者の精液の健康特性(精液年齢)を種々の観点、例えば、妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルの観点から、容易に評価することができる。
【0010】
例えば、精漿中の亜鉛濃度及びテストステロン濃度が高いほど、全精子数(射精あたりの精液に含まれる全精子数)が高いことがわかった。従来、精液中の精子などの運動性や形態等が妊孕能力と関連付けられてきていたが、本評価方法によれば、精子数や精液量などの従来の測定項目を省略しても、精漿中の亜鉛濃度やテストステロン濃度から、妊孕レベルを簡易に評価することができる。
【0011】
また、精漿中のテストステロン及びクレアチンの各濃度は、提供者の年齢が増大するにつれて低下する傾向があることがわかった。このことから、これら3成分から選択される1種又は2種の成分の精漿中濃度によれば、提供者の加齢レベルや男らしさレベルを簡易に評価することができる。
【0012】
また、精漿中の酸化ストレスマーカーは提供者の年齢が増大するにつれて増大する傾向があることがわかった。このことから、この成分の精漿中濃度によれば、提供者の加齢レベルを評価することができる。また、酸化ストレスマーカー自体は酸化ストレスレベルを示すことから、提供者の酸化ストレスレベルを評価することができる。
【0013】
さらに、本明細書によれば、精漿中の特定成分濃度に基づく健康特性の評価結果に基づいて、精漿提供者の健康支援情報を取得する、健康支援方法やシステムも提供される。以下、本評価方法及びその利用等につき、各種実施形態について説明する。
【0014】
(健康特性の評価方法)
本明細書に開示される健康特性の評価方法は、精漿中のテストステロン、亜鉛、ストレスマーカー及びクレアチンからなる群から選択される少なくとも1種の成分を測定する工程(以下、精漿中成分の測定工程ともいう。)を備えることができる。かかる工程を備えることで、精漿中濃度に基づいて、精漿提供者の健康特性を簡易に評価することができる。
【0015】
本評価方法の測定対象は、精漿である。精漿とは、精液から精子を除いた残余成分である。精漿は、例えば、精嚢、前立腺などを含んでいる。精漿は、従来、妊孕力等については着目されていなかったが、本発明者らによれば、精漿中の特定成分と妊孕レベル等との関係を取得することに至り、精漿の測定対象としての有用性を知得した。
【0016】
本評価方法は、精漿を測定対象とするが、精漿は後述のとおり、精液の一部である。したがって、通常は、精液を検体とし、測定工程に先立って精液から精子を除去して精漿を分離する。また、精子の併存下でも、特定成分の測定が可能な場合には、精子併存下での精漿(すなわち、精液である。)を測定対象とすることもできる。なお、その場合には、本明細書において、精漿中濃度とあるのは、精液中濃度として置き換えることができる。
【0017】
精漿は、精液を遠心分離した上清として、あるいは、精液を、精子を通過しないフィルターでろ過したろ液として取得することができる。したがって、精液を検体として取得し、精漿を測定対象とするときには、測定工程に先だって、あるいは測定工程の一部として、精液から精子を除去して精漿を取得する工程を適宜実施することができる。
【0018】
(精漿中成分の測定工程)
精漿中成分としては、テストステロン、亜鉛、ストレスマーカー及びクレアチンからなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。かかる成分中、好ましくは2種以上であり、より好ましくは3種以上であり、さらに好ましくは4種である。
【0019】
(テストステロン)
テストステロンは、アンドロゲンに属するステロイドホルモンの一種である。テストステロンの測定は、公知の方法で測定することができるが、簡便性や精度等を考慮すると、抗原抗体反応を利用して測定することが好ましい。例えば、抗テストステロン抗血清、抗テストステロン抗体を用いたELISA法を採用することができる。かかるELISA法を実施するためのキットは、商業的に容易に入手可能である。
【0020】
精漿中テストステロン濃度は、精漿提供者におけるテストステロンレベルを反映しているものと考えられる。したがって、男性機能(男性更年期障害、性機能不全等)の評価に有用である。また、本明細書によれば、精漿中のテストステロン濃度は、加齢とともに減少し、同テストステロン濃度が増大すると、全精子数及び妊孕レベルが増大することが開示される。したがって、精漿中テストステロン濃度は、精漿提供者の加齢レベル、総精子数、妊孕レベルの評価に有用である。
【0021】
(亜鉛)
亜鉛は、金属原子である。亜鉛の測定は、特に限定するものではないが、例えば、x線蛍光法、原子吸光法、5−Br−PAPS(5−Br−PAPS:2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピル−N−スルホプロピルアミノ)フェノールナトリウム)による呈色法等により測定することができる。
【0022】
精漿中亜鉛濃度は、精漿提供者における亜鉛レベルを反映しているものと考えられる。したがって、男性機能(男性更年期障害、性機能不全等)の評価に有用である。また、本明細書によれば、精漿中の亜鉛濃度は、加齢とともに減少し、同亜鉛濃度が増大すると、全精子数及び妊孕レベルが増大することが開示される。したがって、精漿中亜鉛濃度は、精漿提供者の加齢レベル、総精子数、妊孕レベルの評価に有用である。
【0023】
(酸化ストレスマーカー)
酸化ストレスマーカーは、生体内の代謝物の酸化を指標とするマーカーであり、一般に、生体内の酸化ストレスの指標となる物質である。酸化ストレスマーカーとしては、種々のマーカーが知られている。特に限定するものではないが、酸化ストレスマーカーとしては、例えば、8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OHdG)などのDNA酸化マーカー、8−OHdG、ヘキサノルイジン(HEL)、4−HNE(4−ヒドロキシノネナ−ル)、イソプラスタン、マロンジアルデヒド、過酸化脂質、酸化LDLなどの脂質酸化マーカー、カルボキシメチルリジン、糖化アルブミン、ベントシジン、メチルグリオキサール、デオキシグルコソンなどの糖酸化マーカー、ジチロシン、カルボニル化タンパク質などのタンパク質酸化マーカー、ニトロチロシンなどのNOストレスマーカー等が挙げられる。なかでも、精漿における酸化ストレスマーカーとしては、8−OHdGであることが好ましい。
【0024】
8−OHdGなどの酸化ストレスマーカーは、いずれも商業的に利用されており、公知の方法で測定することができるが、簡便性や精度等を考慮すると、抗原抗体反応を利用して測定することが好ましい。例えば、8−OHdGの場合、抗8−OHdG抗血清、抗8−OHdG抗体を用いたELISA法を採用することができる。かかるELISA法を実施するためのキットは、商業的に容易に入手可能である。
【0025】
精漿中の8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度は、精漿提供者における酸化ストレスレベルを反映しているものと考えられる。したがって、男性機能(男性更年期障害、性機能不全等)の評価に有用である。また、本明細書によれば、精漿中の8−OHdG濃度は、加齢とともに増大し、同8−OHdG濃度が増大すると、テストステロン濃度が低下することが開示される。したがって、精漿中8−OHdG濃度は、精漿提供者の加齢レベルの評価に有用である。
【0026】
(クレアチン)
クレアチンは、1−メチルグアニジノ酢酸(あるいはメチルグリコシアミン)である。クレアチンは、クレアチンキナーゼの働きによりクレアチンリン酸となり、筋肉のエネルギー源として重要であり、筋肥大等に有用であると考えられている。
【0027】
クレアチンは、公知の方法で測定することができるが、簡便性や精度等を考慮すると、発色法によることが好ましい。かかる発色法としては、特に限定するものではないが、例えば、酵素法による発色法を用いることができる。かかる発色法を実施するためのキットは、商業的に容易に入手可能である。
【0028】
本評価方法においては、これらの成分のうち1成分又は2成分以上を測定することができる。精漿中のクレアチン濃度は、精漿提供者におけるクレアチンレベルを反映しているものと考えられる。本明細書によれば、精漿中のクレアチン濃度は、加齢とともに低下することが開示される。したがって、精漿中クレアチン濃度は、精漿提供者の加齢レベルの評価に有用である。
【0029】
これらの成分のうち、本評価方法によれば、亜鉛濃度を測定することが好ましい。亜鉛濃度を測定することにより、特に、総精子数や精液量の測定によらなくても精漿提供者の妊孕レベルを評価することができる。
【0030】
また、これらの成分のうち、テストステロン濃度及びクレアチン濃度を測定することが好ましい。これらは、精漿提供者の加齢レベルの評価に有用である。
【0031】
また、これらの成分のうち、テストステロン濃度を測定することが好ましい。テストステロン濃度が高いと総精子数が増大するため、精漿提供者の妊孕レベルの評価に有用である。
【0032】
また、8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度を測定することは、睡眠時間などの生活習慣を反映する場合もある点において好ましい。また、亜鉛濃度を測定することは、食事の傾向(肉類の多食傾向、魚類の多食傾向)を反映する場合もある点において好ましい。
【0033】
また、テストステロン濃度及び8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度を測定することも好ましい。テストステロン濃度は加齢とともに低下し、8−OHdG濃度は加齢により増大する。したがって、両者を測定することで、高い精度で精漿提供者の加齢レベルを評価することができる。また、テストステロン濃度は、総精子数、すなわち、妊孕レベルと相関し、8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度は、精子含有環境である精漿の酸化ストレスの指標であることから、精子含有環境の酸化ストレスレベルを評価することができる。
【0034】
(スペルミン)
スペルミンは、細胞分裂やタンパク質合成に関わる物質の一つである。細胞の新陳代謝に係わっていると考えられている。
【0035】
(健康特性の評価工程)
本評価方法は、少なくとも1種の成分の精漿中濃度に基づいて精漿の提供者の健康特性を評価する工程を備えることができる。評価工程における評価対象は、前記測定工程で測定した全ての成分の精漿中濃度としてもよいし、その一部であってもよい。評価対象となる精漿中濃度は、精漿提供者の意図あるいは評価方法が対象とする健康特性に応じて適宜決定される。
【0036】
評価工程は、例えば、取得した精漿中濃度と当該成分について予め取得している、特定の健康特性に関連付けられた基準濃度とを比較することにより、精漿提供者の健康特性を評価することができる。基準濃度は、加齢レベル、妊孕レベル及び酸化ストレスレベルからなる群から選択される少なくとも1種の前記健康特性に関連付けられて1種又は2種以上の成分について設定されている。
【0037】
(亜鉛)
例えば、本明細書によれば、精漿中亜鉛濃度は、総精子数と強く相関しているため、WHO(世界保健機構)によって定められた妊孕力の基準となる精液中の総精子数(3.9×10
7cells以上)となる精漿中亜鉛の基準濃度を定めることができる。WHO基準の妊孕力を有していることが肯定的に評価できる精漿中亜鉛濃度としては、特に限定するものではないが、例えば、9.4mg/dl以上であり、また例えば、9.5mg/dl以上であり、また例えば、10mg/dl以上であり、また例えば、12mg/dl以上であり、また例えば、14mg/dl以上である。なお、これらの濃度は、いずれも、5−Br−PAPSによる呈色法か当該方法と同等以上の精度及び正確性の測定方法によることが好ましい。
【0038】
(テストステロン)
また例えば、本明細書によれば、精漿中のテストステロン濃度は、精液中の総精子数と強く相関しているため、WHO(世界保健機構)によって定められた妊孕力の基準となる精液中の総精子数(3.9×10
7cells以上)となる精漿中テストステロンの基準濃度を定めることができる。測定工程によって得られた精漿中のテストステロン濃度と基準濃度とを比較することにより、妊孕力の有無、妊孕力が高い若しくはWHO基準に対する割合(例えば、120%など)、低い若しくはWHO基準に対する割合(例えば、90%など)などの程度である精漿提供者の妊孕レベルを評価することができる。
【0039】
かかる精漿中テストステロンの基準濃度は、WHO基準の変更のほか、設定すべき妊孕力やデータ数の増大等により変動しうるし、あるいは適宜設定することができる。
【0040】
また例えば、本明細書によれば、精漿中のテストステロン濃度は、加齢とともに低下し、加齢と逆相関しているため、例えば、各年代、各年齢などの基準年齢に関連付けて精漿中のテストステロンの基準濃度を定めることができる。測定工程によって得られた精漿中のテストステロン濃度と基準濃度とを比較することにより、精漿提供者の精漿に基づく年齢が、当該提供者の実年齢相当である、実年齢より若い若しくはマイナス何歳である、実年齢よりも老化している若しくはプラス何歳であるなどという加齢レベルを評価することができる。
【0041】
かかる精漿中テストステロンの基準濃度は、データ数の増大等により変動しうるし、あるいは適宜設定することができる。かかる基準濃度は、特に限定するものではないが、例えば、20才代で2150pg/mlであり、また例えば、30才代で1500pg/mlであり、また例えば、40才代で1500pg/mlであり、また例えば、50才代で1350pg/mlである。なお、これらの濃度は、いずれも、ELISA法か当該方法と同等以上の精度及び正確性の測定方法によることが好ましい。
【0042】
また例えば、本明細書によれば、精漿中のテストステロンの濃度は、それ自体、精漿提供者のテストステロンレベル、すなわち、男性らしさレベルの指標でもある。したがって、精漿中のテストステロン濃度を、各年代、各年齢などの基準年齢に関連付けて精漿中の酸化ストレスマーカーの基準濃度を定めることができる。測定工程によって得られた精漿中の酸化ストレスマーカー濃度と実年齢の基準濃度とを比較することにより、精漿提供者の精漿に基づく酸化ストレスが、当該提供者の実年齢相当である、実年齢の酸化ストレスに対する割合(%)や実年齢プラス何歳あるいはマイナス何歳などとして評価することができる。
【0043】
(酸化ストレスマーカー)
また例えば、本明細書によれば、精漿中の8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度は、加齢とともに増大し、加齢と相関しているため、例えば、各年代、各年齢などの基準年齢に関連付けて精漿中の8−OHdGなどの酸化ストレスマーカーの基準濃度を定めることができる。測定工程によって得られた精漿中の酸化ストレスマーカー濃度と基準濃度とを比較することにより、精漿提供者の精漿に基づく年齢についてのテストステロン濃度の場合と同様の態様で加齢レベルを評価することができる。
【0044】
かかる精漿中8−OHdGの基準濃度は、データ数の増大等により変動しうるし、データ数の増大等により変動しうる。かかる基準濃度としては、特に限定するものではないが、例えば、20才代で17ng/mlであり、また例えば、30才代で18ng/mlであり、また例えば、40才代で22ng/mlであり、また例えば、50才代で26ng/mlである。なお、これらの濃度は、いずれも、ELISA法か当該方法と同等以上の精度及び正確性の測定方法によることが好ましい。
【0045】
また例えば、本明細書によれば、精漿中の8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度は、それ自体、精漿提供者の酸化ストレスレベルでもあり、また、精液中の精子に対する酸化ストレスレベルの指標ともなる。したがって、精漿中の8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度を、妊孕力他などと関連付けて設定して評価することも可能である。例えば、各年代、各年齢などの基準年齢に関連付けて精漿中の酸化ストレスマーカーの基準濃度を定めることができる。測定工程によって得られた精漿中の酸化ストレスマーカー濃度と実年齢の基準濃度とを比較することにより、精漿提供者の精漿に基づく酸化ストレスが、当該提供者の実年齢相当である、実年齢の酸化ストレスに対する割合(%)や実年齢プラス何歳あるいはマイナス何歳などとして評価することができる。
【0046】
(クレアチン)
また例えば、本明細書によれば、精漿中のクレアチン濃度は、加齢とともに低下し、加齢と逆相関しているため、例えば、各年代、各年齢などの基準年齢に関連付けて精漿中のクレアチンの基準濃度を定めることができる。測定工程によって得られた精漿中のクレアチン濃度と基準濃度とを比較することにより、精漿提供者の精漿に基づく年齢が、当該提供者の実年齢相当である、実年齢より若い若しくはマイナス何歳である、実年齢よりも老化している若しくはプラス何歳であるなどという加齢レベルを評価することができる。
【0047】
かかる精漿中クレアチンの基準濃度は、データ数の増大等により変動しうるし、あるいは適宜設定することができるが、例えば、20才代で0.65nmol/μlであり、また例えば、30才代で0.45nmol/μlであり、また例えば、40才代で0.4nmol/μlであり、また例えば、50才代で0.4nmol/μlである。なお、これらの濃度は、いずれも、酵素法による発色法又は当該方法と同等以上の精度及び正確性の測定方法によることが好ましい。
【0048】
また例えば、本明細書によれば、精漿中のクレアチンの濃度は、それ自体、精漿提供者のクレアチンレベルでもあるが、当該レベルは、すなわち、男らしさレベルの指標でもある。したがって、精漿中のクレアチン濃度を、上記のように各年代、各年齢などの基準年齢に関連付けて精漿中のクレアチンの基準濃度を定めることができる。測定工程によって得られた精漿中のクレアチン濃度と実年齢の基準濃度とを比較することにより、精漿提供者の精漿に基づく男らしさレベルが、当該提供者の実年齢相当である、実年齢の男らしさレベルに対する割合(%)や実年齢プラス何歳あるいはマイナス何歳などとして評価することができる。
【0049】
(スペルミン)
また例えば、本明細書によれば、精液中のスペルミン濃度は、精漿中亜鉛濃度と性正の相関があるため、精漿中亜鉛と同様に妊孕力の基準となる濃度を設定することができる。なお、スペルミンは、実施例において説明する液体クロマトグラフィー法(検出:ESI−MS、ESI−MS/MS、蛍光等)が可能であるほか、一般的なHPLC法の他、LC−MS法、LC−MS/MS法、ELISA法、呈色法が挙げられる。
【0050】
なお、以上の説明では、いずれも、妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルについて、例えば、WHOの妊孕力基準や予めこれら成分の精漿中濃度を取得した被験者の年齢に関連付けた基準値と比較して評価したが、他の評価態様としては、例えば、精漿提供者である評価方法の被験者毎に目標の妊孕レベル(亜鉛濃度や総精子数)や、目標とする年代あるいは年齢の加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルに対応する濃度を基準値として用いて評価してもよい。すなわち、測定によって得られた精漿中濃度と予め設定された目標値である基準値とを比較して評価してもよい。こうすることで、例えば、健康増進の動機付けを付与することができる。
【0051】
また、以上の説明では、評価工程は、予め設定した基準値と比較するなどとしたが、これに限定するものではなく、例えば、妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルについての被験者の経時的変化、すなわち、被験者自身の過去の、直近の、あるいは一定期間(例えば、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月又は1年など)前の測定値を基準値として、当該基準値に対する傾向(改善、維持、向上又は低下傾向など)を評価する工程であってもよい。
【0052】
評価工程では、例えば、妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルのうちから、適宜目的等に合致した1又は2以上のレベルを評価することができる。男性固有の健康特性としては、少なくとも妊孕レベルを評価することが好ましく、適宜男らしさレベルも評価することができる。また、加齢レベル及び酸化ストレスレベルは、総合的に男性固有の健康特性を評価するのに好適であるほか、いわゆる健康評価に有用である。
【0053】
評価工程では、妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルからなる群から選択される1又は2以上のレベルの評価を総合して、例えば、総合評価として、精液年齢などとして男性固有の健康特性として評価してもよい。例えば、1又は2以上のレベルについての評価結果を5段階評価手法などでポイント化して、これらのポイントの総和あるいは、適宜係数を付与した上での総和をして総合的に評価することができる。
【0054】
また、かかる総合評価とともにあるいは総合評価を伴わないで、個々のレベルを必要に応じてポイント化などして個別評価してもよい。
【0055】
本評価方法は、病院等でなく自宅等で採取した精液を郵送等により、本評価方法を実施する評価機関に提供する態様での実施のほか、当該評価機関や病院等で採取した精液について、当該場所で評価する態様等での実施が可能である。特に、本評価方法は、採取の自由度や選択性が高く、医療従事者と対面することなく検体を提供できる点においても有用である。
【0056】
また、本評価方法は、被験者は、個別に、郵送、メール、あるいは特定ウエブサイトに設けられた個人アカウントにおいて評価結果を取得することができるように構成することもできる。すなわち、本評価方法が、評価結果を、秘密を確保可能に媒体に出力する工程を備えることにより、一層、個人的かつ任意のタイミングで評価を受けることができる。
【0057】
本評価方法では、例えば、精液採取後、例えば、15℃以上35℃以下で1時間以上7日間経過後であっても、精漿中の亜鉛濃度、8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度、テストステロン濃度及びクレアチン濃度を高い精度と正確性で測定することができる。
【0058】
本評価方法では、精液量、全精子数、精子の運動性、精子数及び精子の形態などの、フレッシュな精液を要する検査項目であって、しかも、煩雑かつ熟練の必要な測定を簡略化又は省略して実施しても、健康特性の評価を十分に行うことができる。
【0059】
(健康支援方法)
本明細書に開示される健康支援方法(以下、単に、本支援方法ともいう。)は、精漿中のテストステロン、亜鉛、酸化ストレスマーカー及びクレアチンからなる群から選択される少なくとも1種の成分を測定する工程と、前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度に基づいて前記精漿の提供者の健康特性を評価する工程と、前記健康特性の評価結果に基く健康支援情報を取得する工程と、を備えることができる。本支援方法によれば、健康特性の評価結果に基づく精漿提供者の健康支援情報を取得できるため、精漿提供者の健康特性を改善、維持又は向上させることができる。
【0060】
本支援方法における成分測定工程、評価工程は、本評価方法における測定工程及び評価工程と同様の態様で実施することができる。
【0061】
(健康支援情報の取得工程)
健康支援情報提供工程は、健康特性の評価結果に基づく健康支援情報を取得する工程である。健康特性の評価結果は、精漿提供者の妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルからなる群から選択される1種又は2種以上である。どの評価結果に基づく健康支援情報を提供するかは、被験者の健康目的などに適宜応じて設定される。
【0062】
健康特性の評価結果に基づく健康支援情報は、健康特性の評価結果に基づく自己の健康特性を改善、維持又は向上させることができる情報とすることができる。かかる支援情報の種類としては、例えば、摂取する栄養成分に関する栄養関連情報、生活習慣(睡眠、運動等)に関する生活習慣関連情報等が挙げられる。
【0063】
栄養関連情報としては、例えば、精漿中の亜鉛濃度が不十分又は低い等により、妊孕レベルが不十分又は低下傾向等である場合、亜鉛の摂取を開始又は増加を提案する内容を含むことができる。より具体的には、亜鉛含有サプリや亜鉛を多く含有する食品の摂取を促進する内容が挙げられる。また、本明細書によれば、肉を多食するほど、精漿中の亜鉛濃度が増大することが開示されている。このため、例えば、栄養関連情報として、肉料理を増やす、主体とするなどの内容を含むことができる。
【0064】
また、例えば、栄養関連情報としては、精漿中のクレアチン濃度やテストステロン濃度が不十分又は低下傾向であって加齢レベルが実年齢よりマイナス又は低下傾向等にある場合、クレアチンの摂取を開始又は増加を提案する内容を含むことができる。より具体的には、クレアチン含有サプリ等やアミノ酸を多く含有する食品の摂取を促進する内容が挙げられる。さらには、一般的に酸化ストレスを低減させると考えられる抗酸化サプリの摂取の開始又は増加を提案する内容を含むことができる。さらには、テストステロン補充療法についての検討の必要性を喚起する内容を含むことができる。
【0065】
また、例えば、精漿中の8−OHdGなどの酸化ストレスマーカー濃度が増大又は増加傾向であって加齢レベルが実年齢よりマイナス又は低下傾向等にある場合(又は酸化ストレスレベルがマイナス又は増大傾向等にある場合)、抗酸化サプリの摂取の開始又は増加を提案する内容を含むことができる。また、本明細書によれば、睡眠時間が長いほど、例えば、好ましくは5時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは7時間以上、なお好ましくは8時間以上であると、精漿中の8−OHdG濃度が低下することが開示されている。このため、例えば、生活習慣関連情報として、睡眠時間を長くするなど休養をすすめるなど内容を含むことができる。
【0066】
こうした健康支援情報は、得られた評価結果、例えば、各種成分の精漿中濃度、各種成分の精漿中濃度から一定の基準によって変換されたポイント及び総合ポイント等に関連付けた健康支援情報のデータベースとして、例えば、コンピュータなどの制御手段、内部メモリ、外部メモリ又はクラウドに予め記憶しておくことができる。例えば、妊孕レベルに関し、被験者の精漿中亜鉛濃度が基準値から一定割合低い場合には、肉量を増大するなどの栄養関連情報とし、さらに低い場合には、亜鉛サプリなどの摂取を開始等するなどの栄養関連情報を関連付けして記憶しておくことができる。
【0067】
このようなメモリ等が準備されている場合には、こうしたメモリ等を備えるコンピュータやクラウドにアクセスして、評価結果を入力することによって、適切な健康支援情報を取得でき、当該健康支援情報を被験者に提供することができる。
【0068】
健康支援情報を被験者に提供する場合、種々の態様で提供することができる。提供の形態は、特に限定するものではなく、適宜選択される。例えば、プリンタによる紙出力、メールによる出力、サーバーやクラウドを介した出力等が挙げられる。
【0069】
なお、本明細書に開示される健康特性の評価方法は、例えば、健康特性の評価システムとしても実施できる。例えば、健康特性の評価システムは、精液から精漿を分離する精漿分離手段と、前記精漿中のテストステロン、亜鉛、酸化ストレスマーカー及びクレアチンからなる群から選択される少なくとも1種の成分を測定する測定手段と、前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度に基づいて、前記精液の提供者の健康特性を評価する評価手段と、を備えることができる。かかるシステムにおいて、上記精漿分離手段は、公知の遠心分離装置とし、上記測定手段は、少なくとも1種の上記成分を測定する装置又はキットとし、上記評価手段は、例えば、少なくとも1種の上記成分について取得した精漿中濃度を、健康特性、すなわち、妊孕レベル、加齢レベル、酸化ストレスレベル及び男らしさレベルなどの健康特性を関連付けて評価する制御手段(制御ユニット)を有するコンピュータ、クラウドなどとすることができる。なお、コンピュータ等には、特定の健康特性に関連付けられた各種成分の基準濃度に関する基準濃度情報をデータベースとしてコンピュータ、クラウドに備えることができる。制御ユニットが、基準濃度情報データベースにアクセスすることで、被験者から取得した少なくとも1種の成分の精漿中濃度と基準濃度とを比較するなどすることにより、その比較結果から、被験者の健康特性を取得、すなわち、被験者の健康特性を評価することができる。
【0070】
このような健康特性評価システムは、また、健康特性評価装置としても構成することができる。例えば、遠心分離装置と、少なくとも1種の成分の測定装置と、前記測定装置による測定結果(例えば、呈色など)から得られる前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度を算出し、当該濃度と基準濃度情報データベース中の比較すべき基準濃度とを比較して、被験者の健康特性を取得する制御手段と、必要に応じて当該健康特性を出力する手段と、を備える装置などとして構成できる。
【0071】
さらに、本明細書に開示される健康支援方法は、精液から精漿を分離する精漿分離手段と、精漿中のテストステロン、亜鉛、酸化ストレスマーカー及びクレアチンからなる群から選択される少なくとも1種の成分を測定する測定手段と、前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度に基づいて前記精漿の提供者の健康特性を評価する評価手段と、前記健康特性の評価結果に基づいて、健康支援情報を取得する健康支援情報取得手段と、備える、健康支援システムとしての構成することができる。かかるシステムは、例えば、上記精漿分離手段、上記測定手段、上記評価手段は、健康特性評価システムと同様とすることができ、上記健康支援情報の取得手段は、既述の評価方法や同システムによって得られた評価結果に関連付けられた上記健康支援情報のデータベースにアクセスして、栄養関連情報や生活習慣関連情報などの健康支援情報を取得することができる。
【0072】
このような健康支援システムは、また、健康支援情報取得装置としても構成することができる。例えば、遠心分離装置と、少なくとも1種の成分の測定装置と、前記測定装置による測定結果(例えば、呈色など)から得られる前記少なくとも1種の成分の精漿中濃度を算出し、当該濃度と基準濃度情報データベース中の比較すべき基準濃度とを比較して、被験者の健康特性を取得し、さらに、健康特性の評価結果に基づいて健康支援情報を取得する制御手段と、必要に応じて当該健康支援情報を出力する手段と、を備える装置などとして構成することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0074】
以下の実施例では、23才〜58才までの健康な男性被験者80名に自宅で検体(精液)の採取を依頼した。採取した検体と食事及び生活習慣等に関するアンケートとを株式会社ダンテが受領し、以下の項目について検査を行った。
【0075】
(1)精液量の測定
精液重量を採取容器ごと計測し、空の容器重量を減じる事により精液重量を算出した。精液の比重を1として精液容量に換算した。
(2)精子濃度
改良型Neubauer血球計算盤を用いて、精子数を計測し、それにより、精子濃度を計測した。
(3)精漿中亜鉛濃度
精液を、800gで7分間遠心し、上清を精漿として取得した。精漿中亜鉛を、5−Br−PAPS(2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−(N−プロピル−N−スルホプロピルアミノ)フェノールナトリウム)を用いてキレート錯体を形成させ、当該錯体の可視部の呈色を計測して定量した。測定には、メタロアッセイ亜鉛測定LSキット(メタロジェニックス株式会社製)を用い、当該キットのプロトコールに従った。
(4)精漿中テストステロン濃度
(3)と同様にして精漿を取得し、抗テストステロン抗体を用いた免疫抗体法にてテストステロン濃度を測定した。測定には、テストステロン、ELISAキット(ストリップ プレート)(IBL株式会社製)を用い、当該キットのプロトコールに従った。
(5)精漿中8−OHdG濃度
精液を1500g、5分遠心分離して上清を精漿として取得した。精漿中の8−OHdGを、抗8−OHdG抗体を用いた免疫抗体法にて測定した。測定は、以下の方法に従った。
【0076】
<プロテインチップの作製>
常法に従って作製した8−OHdG−BSAを5μg/mLに希釈し、スポット溶液とした。ガラス基板は、睦コーポレーション製のアゾスライドを用いた。武蔵エンジニアリング製スポッターSHOTMASTER 300DS−sを用い、アゾスライド1枚につき、36nLずつ160個スポットを行い、青色光を照射する事により固定化し、プロテインチップを作製した。
【0077】
<プロテインチップによる測定>
ビオチン化抗8−OHdG抗体(1.33μg/mL)3μLと、4倍希釈した精漿検体及びは段階希釈したスタンダード溶液各6μLをそれぞれ混合し、15分間振とうした。この混合液4.7μlを「抗体チップ」に滴下し、湿潤条件下で1時間インキュベートした。「抗体チップ」をTPBS(Tween200 0.01w/v%含有リン酸緩衝食塩水)で2回洗浄後、遠心分離にて水分を排除した。
【0078】
アルカリフォスファターゼラベルストレプトアビジン(KPL製)をTPBSで1000倍希釈した溶液に「プロテインチップ」を浸漬し、1時間振とうした。「プロテインチップ」をTPBSで2回洗浄後、リン酸緩衝食塩水(PBS)でリンスし、遠心分離にて水分を排除した。
【0079】
発光基質としてTropix CDP−Star(ロシュ株式会社製)を用い、検出器としてルミノグラフI(アトー製)を用いて30分間発光を検出した。スタンダードの検出値から検量線を作成し、精漿検体の8−OHdG値を算出した。
(6)精漿中クレアチン濃度
精液検体(無差別に抽出した26検体(年齢24才〜58才)を12,000rpmで30分間遠心分離を行い上清を精漿として取得した。この精漿につき、以下の方法でクレアチン濃度を測定した。測定にはCreatine Colorimetric/Fluorometric Assay Kit(BioVision製)を用い、上記精漿を16倍希釈した精漿検体及び段階希釈したスタンダード溶液をマイクロプレート(IWAKI製)の各ウェルに50μL分注し、上記ウェルにキットの発色液を50μLずつ分注し、37℃で60分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(INFINITE M1000 Pro,Tecan製)を用いて波長を570nmに設定し吸光度を測定した。スタンダードの検出値から検量線を作成し、精漿検体のクレアチン濃度を算出した。
【0080】
(各種成分の精漿中濃度に関する解析結果)
上記各種精漿中濃度を用いた解析結果を
図1〜
図9に示す。
【0081】
(精漿中亜鉛濃度)
精漿中亜鉛濃度についての解析結果を
図1〜
図4に示す。
図1に、被験者の年齢と精漿中亜鉛濃度との関係を示す。
図1に示すように、精漿中亜鉛濃度は、年齢の大小とは関係がないことがわかった。また、
図2に、精液中の総精子数精漿中亜鉛濃度との関係を示す。
図2に示すように、亜鉛濃度の増大に応じて、総精子数が増加することがわかった。さらに、
図3に、WHOで妊孕力の基準となっている総精子数3.9×10
7cellsを充足する検体と充足しない検体(上記基準値未満)の検体の精漿中亜鉛濃度の平均値を比較した結果を示す。
図3に示すように、WHO基準充足群では、精漿中亜鉛濃度は14.6mg/ml以上であり、WHO基準非充足群では、同濃度が9.4mg/mlであった。
【0082】
また、
図4に、食事における肉食性、すなわち、肉中心であるか、魚中心であるかなどと精漿中亜鉛濃度との関係を示す。
図4に示すように、肉を多食するほど、精漿中亜鉛濃度が高いことがわかった。なお、食事は、検体採取日前の7日間における傾向とした。
【0083】
以上の結果から、精漿中亜鉛濃度は、総精子数の良好な指標となること及び例えば、WHO基準で表される妊孕力(妊孕レベル)の良好な指標となることがわかった。また、例えば、総精子数などの妊孕レベルの基準を適宜決定することによって、当該基準に対する精漿中亜鉛濃度を妊孕レベルの基準値として用いうることがわかった。また、精漿中亜鉛濃度は、食事内容によっても変化するため、精漿中亜鉛濃度を高めるため、換言すれば、妊孕レベルを向上させるための生活習慣上のアドバイスが可能であることがわかった。
【0084】
(精漿中テストステロン濃度)
精漿中テストステロン濃度についての解析結果を
図5〜
図6に示す。
図5に、被験者の年齢と精漿中テストステロン濃度との関係を示す。
図5に示すように、精漿中テストステロン濃度は、加齢に伴い低下することがわかった。また、
図6に、精液中の総亜鉛量との関係を示す。
図6に示すように、テストステロン濃度の増大に応じて、総亜鉛量が増加することがわかった。
【0085】
以上の結果から、精漿中テストステロン濃度は、加齢レベルの良好な指標となることがわかった。また、例えば、テストステロン濃度は、総亜鉛量の良好な指標となることもわかった。総亜鉛量は、精子の妊孕力にも関連し、また、テストステロンは男性ホルモンであるから、精漿中のテストステロン濃度は、男らしさの良好な指標となることがわかった。
【0086】
(精漿中8−OHdG濃度)
精漿中8−OHdG濃度についての解析結果を
図7〜
図8に示す。
図7に、被験者の年齢と精漿中8−OHdG濃度との関係を示す。
図7に示すように、精漿中8−OHdG濃度は、加齢に伴い増大することがわかった。また、
図8に、被験者の平均的睡眠時間と精漿中の8−OHdG濃度との関係を示す。
図8に示すように、平均睡眠時間が長いほど、8−OHdG濃度が高く、平均睡眠時間が短いほど8−OHdG濃度が低いことがわかった。なお、食事は、検体採取日前の7日間における平均睡眠時間とした。
【0087】
以上の結果から、精漿中8−OHdG濃度は、加齢レベルの良好な指標となることがわかった。また、例えば、8−OHdG濃度は、平均睡眠時間の良好な指標となることもわかった。8−OHdGは酸化ストレスマーカーであり、平均睡眠時間との関係から明らかなように、酸化ストレスレベルの良好な指標であることがわかった。
【0088】
(精漿中クレアチン濃度)
精漿中クレアチン濃度についての解析結果を
図9に示す。
図9に、被験者の年齢と精漿中クレアチン濃度との関係を示す。
図9に示すように、精漿中クレアチン濃度は、加齢に伴い低下することがわかった。
【0089】
以上の結果から、精漿中クレアチン濃度は、加齢レベルの良好な指標となることがわかった。また、例えば、クレアチンは、それ自体、筋肉増強・再生の良好な指標であることから、精漿中クレアチン濃度は、男らしさレベルの良好な指標であることがわかった。
【実施例2】
【0090】
以下の実施例では、20代〜60代までの健康な男性被験者194名に自宅で検体(精液)の採取を依頼した。採取した検体と身体状態等に関するアンケートを株式会社ダンテが受領し、以下の項目(1)〜(6)について検査を行った。なお、被験者の体重及び身長を予め測定してBMIを取得した。また、アンケート項目は、検体採取時における禁欲期間(日)、飲酒習慣及び喫煙習慣を含んでいた。
【0091】
(1)精液量の測定
実施例1と同様にして行った。
(2)精子濃度
実施例1と同様にして行った。
(3)精漿中亜鉛濃度
実施例1と同様にして行った。
(4)精漿中テストステロン濃度
実施例1と同様にして行った。
(5)精漿中8−OHdG濃度
実施例1と同様にして行った。
(6)精液中のスペルミン濃度
スペルミンは、精液の成分であり、細胞分裂やタンパク質合成に係わる物質である。スペルミンは、J Chromatogr A. 2008 Sep 26;1205(1−2):94−102に記載の、4−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)−7−フルオロ−2,1,3−ベンゾキサジアゾール(DBD−F)を用いる誘導体化によるUPLCによって測定した。すなわち、精液にメタノールを加え、4℃、15000gで20分間遠心分離して得られる除タンパク後の上清を、DBD−Fと反応させて誘導体化した後、UPLCで分析する方法が挙げられる。クロマトグラフ条件は、以下のとおりであった。
液体クロマトグラフ装置:ACQUITYTM Ultra Performance Liquid Chromatography and Micromass LCT PremierTM XE Mass Spectrometer (High sensitivity orthogonal time-of-flight instrument; Waters, Milford, USA)
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 column (1.7μm,100×2.1mm i.d.; Waters)
流速:0.4mL/分
移動相:A;0.1%ギ酸水溶液、B;0.1%ギ酸アセトニトリル溶液(グラジエント条件:B%=20(0分)−60(8分)−90(10分)−98(11分)−98(12分)−20(13分)−20(20分)
検出:550nm(励起波長:450nm)
【0092】
(解析結果)
アンケート項目と上記各評価項目について解析を行った結果を、
図10〜
図16に示す。
【0093】
(精漿中亜鉛濃度と禁欲期間)
禁欲期間と精漿中亜鉛濃度についての解析結果を
図10に示す。
図10に示すように、禁欲期間が増大すると精漿中亜鉛濃度が高まる傾向があることがわかった。
【0094】
(精液中スペルミン濃度と精漿中亜鉛濃度)
精液中スペルミン濃度と精漿中亜鉛濃度とについての解析結果を
図11に示す。
図11に示すように、精液中スペルミン濃度が高いと、精漿中亜鉛濃度が高い傾向があることがわかった。
【0095】
(BMIと精漿中8−OHdG濃度)
BMIと精漿中8−OHdG濃度との関係を
図12に示す。
図12に示すように、BMIが18.5未満の痩せ型、同18.5以上25未満の普通型、同25以上の肥満型で分類すると、BMIが高いほど、すなわち、痩せ型、普通型、肥満型の順で精漿中8−OHdG濃度が低く、酸化ストレスが低い傾向があることがわかった。
【0096】
(BMIと精子濃度)
BMIと精子濃度との関係を
図13に示す。
図13に示すように、BMIが18.5未満の痩せ型、同18.5以上25未満の普通型、同25以上の肥満型で分類すると、BMIが高いほど精漿中亜鉛濃度が高い傾向があることがわかった。また、
図12Bに示すように、BMIが低いほど、すなわち、痩せ型、普通型、肥満型の順で精子濃度が高い傾向があることがわかった。
【0097】
(飲酒習慣と精漿中テストステロン濃度)
飲酒習慣と精漿中テストステロン濃度との関係を
図14に示す。なお、年齢が高いと精漿中テストステロン濃度が低い傾向があるため、共分散分析により年齢の影響を調整した。
図14に示すように、飲酒習慣の有無(有り:週に1日以上、無し:まったく飲まない)で、精漿中テストステロン濃度傾向が異なり、飲酒習慣があると、精漿中テストステロン濃度が高い傾向があることがわかった。
【0098】
(喫煙習慣と精漿中亜鉛濃度及び精漿中8−OHdG濃度)
喫煙習慣と精漿中亜鉛濃度との関係を
図15に示し、喫煙習慣と精漿中8−OHdG濃度との関係を
図16に示す。
図15及び
図16に示すように、喫煙習慣の有無(有り:時々吸う、1日に数本吸う、1日に1箱以上吸う、無し:全く吸わない)で、精漿中亜鉛濃度傾向及び精漿中の8−OHdG濃度が異なり、喫煙習慣があると、精漿中亜鉛濃度及び精漿中8−OHdG濃度が低くなる傾向があることがわかった。
【0099】
以上の結果から、精漿中亜鉛濃度は、総精子数の良好な指標となること及び例えば、WHO基準で表される妊孕力(妊孕レベル)の良好な指標となることがわかった。また、例えば、総精子数などの妊孕レベルの基準を適宜決定することによって、当該基準に対する精漿中亜鉛濃度を妊孕レベルの基準値として用いうることがわかった。また、精漿中亜鉛濃度は、食事内容によっても変化するため、精漿中亜鉛濃度を高めるため、換言すれば、妊孕レベルを向上させるための生活習慣上のアドバイスが可能であることがわかった。