【解決手段】積層鉄心の製造方法は、薄板状の母材の少なくとも一方の主面に絶縁皮膜が設けられた複数の鉄心部材を得ることと、主面において母材が部分的に露出するように、絶縁皮膜の部分的な除去処理を主面側からすることと、母材が露出した露出領域に接合部を配置しつつ接合部によって複数の鉄心部材を接合することとを含む。
前記複数の鉄心部材はそれぞれ、環状のヨーク部と、前記ヨーク部に交差する方向に前記ヨーク部から延び、且つ、スロットとなる空間を形成しつつ前記ヨーク部の周方向において隣り合うように並ぶ複数のティース部とを含み、
除去処理をすることは、前記複数の鉄心部材が積層された積層体の最上層又は最下層を構成する最外層の鉄心部材の前記主面であって、前記スロットの周縁をなす領域に対し、前記主面側から前記絶縁皮膜の部分的な除去処理をすることを含み、
前記複数の鉄心部材を接合することは、
前記複数の鉄心部材が積層された前記積層体の前記スロット内に中子部材を挿入することと、
前記スロットと前記中子部材との間の充填空間に溶融樹脂を充填して、前記スロットの内壁面と、前記最外層の鉄心部材のうち前記母材の露出した前記露出領域とに、前記接合部として機能する樹脂部を形成することとを含む、請求項1に記載の方法。
除去処理をすることの後で且つ前記複数の鉄心部材を接合することの前に、前記露出領域における前記母材に対して表面改質処理又は粗面化処理をすることをさらに含む、請求項2又は3に記載の方法。
除去処理をすることは、前記複数の鉄心部材の少なくとも一方の前記主面であって、前記鉄心部材の外周縁又は内周縁をなす領域に対し、前記主面側から前記絶縁皮膜の部分的な除去処理をすることを含み、
前記複数の鉄心部材を接合することは、前記複数の鉄心部材が積層された積層体の積層方向において隣り合う前記鉄心部材の前記母材同士を前記露出領域を介して接合するように、前記接合部として機能する溶接部を前記積層体の外周面又は内周面に形成することを含む、請求項1に記載の方法。
除去処理することは、前記主面側に配置されたマスク部材を介して、前記絶縁皮膜の部分的な除去処理を前記主面側からすることを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。
【0012】
≪実施形態の概要≫
[1]本実施形態の一つの例に係る積層鉄心の製造方法は、薄板状の母材の少なくとも一方の主面に絶縁皮膜が設けられた複数の鉄心部材を得ることと、主面において母材が部分的に露出するように、絶縁皮膜の部分的な除去処理を主面側からすることと、母材が露出した露出領域に接合部を配置しつつ接合部によって複数の鉄心部材を接合することとを含む。
【0013】
本実施形態の一つの例に係る積層鉄心の製造方法では、主面において母材が部分的に露出するような、絶縁皮膜の部分的な除去処理が、複数の鉄心部材が積層された積層体の外周面側からではなく母材の主面側から行われる。そのため、鉄心部材の外周縁近傍におけるごく僅かな領域ではなく、接合部との接合が好適に行える所望の領域を、除去処理により露出領域とすることができる。換言すれば、母材の主面からの露出領域が大きいほど、隣り合う鉄心部材間での絶縁性が保たれずに電気的に導通したり、母材の錆、腐食等の原因となったりといった状況が生ずるので、従来は絶縁皮膜をできる限り除去しないようにすることが当業者間の認識であったところ、本実施形態の一つの例に係る積層鉄心の製造方法では、あえて絶縁皮膜の部分的な除去処理を主面側から行い、その後に露出領域に接合部を配置することで、上記の状況を回避しつつ複数の鉄心部材の接合を図ったものである。従って、接合部を介して複数の鉄心部材をより確実に接合することが可能となる。
【0014】
[2]上記第1項に記載の方法において、複数の鉄心部材はそれぞれ、環状のヨーク部と、ヨーク部に交差する方向にヨーク部から延び、且つ、スロットとなる空間を形成しつつヨーク部の周方向において隣り合うように並ぶ複数のティース部とを含み、除去処理をすることは、複数の鉄心部材が積層された積層体の最上層又は最下層を構成する最外層の鉄心部材の主面であって、スロットの周縁をなす領域に対し、主面側から絶縁皮膜の部分的な除去処理をすることを含み、複数の鉄心部材を接合することは、複数の鉄心部材が積層された積層体のスロット内に中子部材を挿入することと、スロットと中子部材との間の充填空間に溶融樹脂を充填して、スロットの内壁面と、最外層の鉄心部材のうち母材の露出した露出領域とに、接合部として機能する樹脂部を形成することとを含んでもよい。この場合、接合部として機能する樹脂部は、スロットの内壁面に形成される部分(「主部」と称することがある。)と、最外層の鉄心部材のうち母材の露出した露出領域に形成される部分(「端部」と称することがある。)とを含む。そのため、端部は母材と強力に接合される。従って、積層体を構成する複数の鉄心部材が積層体の積層方向において拡がろうとする力(「スプリングバック力」ともいう。)が端部に付与されても、端部が母材に対してより強固に付着される。その結果、端部と主部との間における割れ等を抑制しつつ、樹脂部を介して複数の鉄心部材をいっそう確実に接合することが可能となる。
【0015】
[3]上記第1項に記載の方法において、除去処理をすることは、複数の鉄心部材の少なくとも一方の主面に対し、主面側から絶縁皮膜の部分的な除去処理をすることを含み、複数の鉄心部材を接合することは、接合部として機能する接着剤を露出領域に供給することと、複数の鉄心部材同士を一つずつ積層することで、接着剤を介して複数の鉄心部材を接着することとを含んでもよい。ところで、接着剤を絶縁皮膜に対して供給して鉄心部材同士を接着することも考えられる。しかしながら、接着剤と絶縁皮膜との間には互いの組成に応じた相性の良否が存在し、接着剤と絶縁皮膜との間で十分な接着力が得られない懸念がありうる。そのため、接着剤と絶縁皮膜との間で接着力が得られるような接着剤及び絶縁皮膜の組成を検討する作業が生ずる場合がある。これに対し、第3項に記載の方法によれば、接着剤が母材に直接供給される。そのため、接着剤と絶縁皮膜との間の相性を考慮することなく、接着剤を介して複数の鉄心部材同士をいっそう確実に接合することが可能となる。
【0016】
[4]上記第2項又は第3項に記載の方法は、除去処理をすることの後で且つ複数の鉄心部材を接合することの前に、露出領域における母材に対して表面改質処理又は粗面化処理をすることをさらに含んでもよい。この場合、樹脂部又は接着剤と露出領域との接合性能が、化学的又は物理的に高められる。そのため、複数の鉄心部材をさらに確実に接合することが可能となる。
【0017】
[5]上記第1項に記載の方法において、除去処理をすることは、複数の鉄心部材の少なくとも一方の主面であって、鉄心部材の外周縁又は内周縁をなす領域に対し、主面側から絶縁皮膜の部分的な除去処理をすることを含み、複数の鉄心部材を接合することは、複数の鉄心部材が積層された積層体の積層方向において隣り合う鉄心部材の母材同士を露出領域を介して接合するように、接合部として機能する溶接部を積層体の外周面又は内周面に形成することを含んでもよい。第5項の方法によれば、主面側から絶縁皮膜の部分的な除去処理が行われるので、積層体の外周面側から絶縁皮膜を除去する場合と比較して、より広い露出領域が形成される。そのため、複数の鉄心部材の各露出領域を溶接することで、煤煙、ブローホール等の発生を抑制しつつ、溶接部を介して複数の鉄心部材をいっそう確実に接合することが可能となる。
【0018】
[6]上記第1項〜第5項のいずれか一項に記載の方法において、除去処理をすることは、レーザ光の照射処理、ブラスト処理、又は薬品の供給処理を主面に対してすることを含んでもよい。
【0019】
[7]上記第1項〜第6項のいずれか一項に記載の方法において、除去処理をすることは、絶縁皮膜を構成する有機成分及び無機成分の双方を主面から部分的に除去することを含んでもよい。この場合、露出領域において絶縁材料の殆どが除去された状態となる。そのため、接合部を介して複数の鉄心部材をいっそう確実に接合することが可能となる。
【0020】
[8]上記第1項〜第7項のいずれか一項に記載の方法において除去処理することは、主面側に配置されたマスク部材を介して、絶縁皮膜の部分的な除去処理を主面側からすることを含んでもよい。この場合、マスク部材を介した除去処理により、露出領域を精度よく形成することが可能となる。
【0021】
≪実施形態の例示≫
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0022】
<第1実施形態>
[固定子積層鉄心の構成]
まず、
図1〜
図5を参照して、固定子積層鉄心1Aの構成について説明する。固定子積層鉄心1Aは、固定子(ステータ)の一部である。固定子は、固定子積層鉄心1Aに巻線が取り付けられたものである。固定子が回転子(ロータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。
【0023】
固定子積層鉄心1Aは、積層体2と、複数の樹脂部3(接合部)とを備える。積層体2は、円筒形状を呈している。すなわち、積層体2の中央部分には、中心軸Axに沿って延びる貫通孔2aが設けられている。貫通孔2a内には、回転子が配置可能である。
【0024】
積層体2は、ヨーク部4と、複数のティース部5とを有する。ヨーク部4は、円環状を呈しており、中心軸Axを囲むように延びている。ヨーク部4の径方向(以下、単に「径方向」という。)における幅、内径、外径及び厚さはそれぞれ、モータの用途及び性能に応じて種々の大きさに設定しうる。
【0025】
積層体2(ヨーク部4)の外周面には、複数の凹溝6(
図1では6つの凹溝)が設けられている。複数の凹溝6は、ヨーク部4の周方向(以下、単に「周方向」という。)において、設定された間隔で並んでいる。凹溝6は、積層体2の外周面から中心軸Ax側に向けて窪んでいる。凹溝6は、積層体2の積層方向(以下、単に「積層方向」という。)において、積層体2の一端面から他端面にかけて直線状に延びている。
【0026】
各ティース部5は、ヨーク部4の内縁から中心軸Ax側に向かうように径方向(ヨーク部4に対して交差する方向)に沿って延びている。すなわち、各ティース部5は、ヨーク部4の内縁から中心軸Ax側に向けて突出している。積層体2においては、48個のティース部5がヨーク部4に一体的に形成されている。各ティース部5は、周方向において、略等間隔で並んでいる。隣り合うティース部5の間には、巻線(図示せず)を配置するための空間であるスロット7が画定されている。
【0027】
各ティース部5は、
図2及び
図3に詳しく示されるように、基端部5aと、開放端部5bとを含む。基端部5aは、ヨーク部4から延びており、上方から見て矩形状を呈している。開放端部5bは、基端部5aに対して中心軸Ax側の端部に設けられている。開放端部5bは、ティース部5のうち中心軸Ax側の先端部でもある。開放端部5bは、周方向において隣り合う他の開放端部5bと離間している。そのため、周方向において隣り合う開放端部5b同士の間には、積層方向に延びるスリット状の開口(スロット開口)8が画定されている。スロット7は、開口8と連通している。
【0028】
開放端部5bは、周方向において基端部5aよりも突出している。すなわち、開放端部5bは、基端部5aよりも幅広であり、周方向において基端部5aよりも外方に位置する一対の突出部5cを有している。突出部5cは、台形状を呈している。突出部5cの内壁面F1は、径方向に沿って開口8に向かうにつれて、周方向において隣り合う他のティース部5に近づいている。すなわち、突出部5cの内壁面F1は、ティース部5の延在方向(径方向)に対して傾斜している。換言すれば、開放端部5bは、ティース部5の延在方向に対して傾斜する傾斜面である内壁面F1を有している。
【0029】
積層体2は、複数の打抜部材W(鉄心部材)が積み重ねられて構成されている。打抜部材Wは、後述する電磁鋼板ES(金属板;被加工板)が所定形状に打ち抜かれた板状体であり、積層体2と対応する形状を呈している。積層体2は、いわゆる転積によって構成されていてもよい。「転積」とは、打抜部材W同士の角度を相対的にずらしつつ、複数の打抜部材Wを積層することをいう。転積は、主に積層体2の板厚偏差を相殺することを目的に実施される。転積の角度は、任意の大きさに設定してもよい。
【0030】
打抜部材Wは、
図5に詳しく示されるように、薄板状の母材W1と、絶縁皮膜W2とを含む。絶縁皮膜W2は、母材W1の両主面である上面S1及び下面S2に形成されている。一方、絶縁皮膜W2は、母材W1の端面S3には形成されていない。これは、打抜部材Wが電磁鋼板ESから打ち抜かれて形成されたものであり、打ち抜きによる電磁鋼板ESの破断面が打抜部材Wの端面S3をなしているためである。絶縁皮膜W2の厚さは、例えば、0.5μm〜2.0μm程度であってもよい。
【0031】
本実施形態においては、
図5に示されるように、打抜部材Wのうち積層体2の最上層を構成する打抜部材Wtop(第1の鉄心部材)の上面S1の一部領域に絶縁皮膜W2が形成されていない。すなわち、当該領域は母材W1が露出する露出領域Rexをなしている。露出領域Rexは、本実施形態において、打抜部材Wtopの上面S1のうちスロット7の周縁に沿って延びている(
図7参照)。ただし、露出領域Rexは、打抜部材Wtopの上面S1のうち開放端部5bの周縁には構成されていない(同参照)。打抜部材Wのうち積層体2の最下層を構成する打抜部材Wbottom(第2の鉄心部材)の下面S2の一部領域にも打抜部材Wtopと同様に絶縁皮膜W2が形成されていない。当該領域は母材W1が露出する露出領域Rexをなしている。
【0032】
複数の樹脂部3はそれぞれ、スロット7内に一つずつ設けられている。具体的には、樹脂部3は、
図2〜
図5に示されるように、主部3aと、端部3bとを含む。主部3aは、スロット7のうち開放端部5bよりも内側(ヨーク部4側)の内壁面F2を覆うように配置されている。すなわち、主部3a(樹脂部3)は、開放端部5bの内壁面を覆っておらず、開放端部5b及び開口8を閉塞していない。さらには、主部3a(樹脂部)は、積層体2(ティース部5)の内周面も覆っていない。主部3aの厚さは、樹脂部3の誘電率と、固定子積層鉄心1が用いられる電動機の使用電圧とに基づいて適宜設定してもよい。主部3aの厚さは、例えば、突出部5cの突出量よりも小さくてもよく、0.2mm程度であってもよい。この場合、主部3aは、周方向において開放端部5b(突出部5c)よりも突出していない。
【0033】
端部3bは、積層方向において主部3aの上端及び下端にそれぞれ一体的に設けられており、内壁面F2から積層体2の端面(ヨーク部4の端面F3及びティース部5の端面F4)に回り込んでいる。端部3bは、積層方向において端面F3,F4よりも外方に突出していると共に、端面F3,F4を部分的に覆っている。すなわち、端面F3,F4はそれぞれ、樹脂部3で覆われた被覆領域R1と、樹脂部3で覆われていない非被覆領域R2とを有する(
図4参照)。本実施形態においては、端面F4(ティース部5)における非被覆領域R2は、ティース部5の延在方向(積層体2の径方向)に沿って直線状に延びている。そのため、ティース部5において、周方向において隣り合う樹脂部3の端部3b同士は接続されていない。なお、周方向において隣り合う樹脂部3の端部3b同士が接続されていてもよい。
【0034】
端部3bは、
図5に詳しく示されるように、打抜部材Wtop,Wbottomの露出領域Rex上に配置されている。すなわち、端部3bは、打抜部材Wtop,Wbottomの露出した母材W1と接合されている。端部3bの大きさは、露出領域Rexと略同じであってもよいし、露出領域Rexよりも僅かに小さくてもよいし、露出領域Rexよりも僅かに大きくてもよい。端部3bの大きさが露出領域Rexと略同じである場合、母材W1が端部3bによって完全に覆われるので母材W1の酸化等を抑制することができると共に、端部3bが絶縁皮膜W2と殆ど重なり合わないので端部3bが絶縁皮膜W2と重なり合う箇所を起点として端部3bが打抜部材Wから剥がれてしまうことを抑制することができる。
【0035】
本実施形態では、樹脂部3の角部が面取りされている。そのため、樹脂部3のうち内壁面F2から端面F3,F4に回り込む角部についても、面取りされている。面取りの形状としては、R面取りであってもよいし、C面取りであってもよいし、当該角部が削られた状態であれば、例えば台形状、階段状等の他の形状であってもよい。あるいは、ティース部5に取り付けられる巻線の形状に沿うように、樹脂部3の主部3a又は端部3bが、ティース部の延在方向において凹部と凸部とが交互に並んだ凹凸状を呈していてもよい。
【0036】
[固定子積層鉄心の製造装置]
続いて、
図6を参照して、固定子積層鉄心1の製造装置100について説明する。
【0037】
製造装置100は、帯状の金属板である電磁鋼板ESから固定子積層鉄心1を製造するための装置である。製造装置100は、アンコイラー110と、送出装置120と、打抜装置130と、レーザ照射装置200、樹脂充填装置300と、コントローラ140(制御部)とを備える。
【0038】
アンコイラー110は、コイル状に巻回された帯状の電磁鋼板ESであるコイル材111が装着された状態で、コイル材111を回転自在に保持する。送出装置120は、電磁鋼板ESを上下から挟み込む一対のローラ121,122を有する。一対のローラ121,122は、コントローラ140からの指示信号に基づいて回転及び停止し、電磁鋼板ESを打抜装置130に向けて一方向に間欠的に順次送り出す。
【0039】
コイル材111を構成する電磁鋼板ESは、金属製の母材W1の両主面に絶縁皮膜W2が形成されたものである。母材W1をなす金属としては、例えば、無方向性電磁鋼板用の金属材料(フルプロセス材、セミプロセス材等)、方向性電磁鋼板用の金属材料(高磁束密度材、普通材等)が挙げられる。絶縁皮膜W2は、絶縁性有機材料で構成されていてもよいし、絶縁性無機材料で構成されていてもよいし、絶縁性有機材料及び絶縁性無機材料の混在物により構成されていてもよい。絶縁皮膜W2の組成としては、例えば、JIS C 2557:2014に規定される各種規格の皮膜が挙げられる。電磁鋼板ESには、プレス加工油(スタンピングオイルともいう。)が塗布されていてもよい。
【0040】
電磁鋼板ESの厚さは、例えば0.1mm〜0.5mm程度であってもよい。電磁鋼板ESの厚さは、より優れた磁気的特性を有する固定子積層鉄心1を得る観点から、例えば0.1mm〜0.3mm程度であってもよい。
【0041】
打抜装置130は、コントローラ140からの指示信号に基づいて動作する。打抜装置130は、送出装置120によって間欠的に送り出される電磁鋼板ESを順次打ち抜き加工して打抜部材Wを形成する機能と、打ち抜き加工によって得られた打抜部材Wを順次積層して積層体2を製造する機能とを有する。
【0042】
積層体2は、打抜装置130から排出されると、打抜装置130とレーザ照射装置200との間を延びるように設けられたコンベアCvに載置される。コンベアCvは、コントローラ140からの指示に基づいて動作し、積層体2をレーザ照射装置200に送り出す。なお、打抜装置130とレーザ照射装置200との間において、積層体2はコンベアCv以外によって搬送されてもよい。例えば、積層体2は、コンテナに載置された状態で、人手によって搬送されてもよい。
【0043】
レーザ照射装置200は、積層体2にレーザ光を照射して、打抜部材Wの絶縁皮膜W2を部分的に除去する機能を有する。レーザ照射装置200は、
図6に示されるように、載置台201と、マスク部材202と、レーザ光源203とを備える。
【0044】
載置台201は、コンベアCvを介して打抜装置130から搬送された積層体2を載置する機能を有する。
【0045】
マスク部材202は、積層体2が載置台201に載置された状態で、積層体2よりも上方に位置している。マスク部材202は、板形状を呈している。マスク部材202には、
図7に示されるように、複数の開口部202aが設けられている。各開口部202aはそれぞれ、積層体2の各露出領域Rexに対応する位置に設けられている。各開口部202aの形状は、積層体2の各露出領域Rexの形状と略同じである。レーザ光は、開口部202aを通過可能であるが、開口部202aでない部分において遮られる。
【0046】
レーザ光源203は、マスク部材202の上方に配置されている。レーザ光源203は、マスク部材202に向けて下方にレーザ光を照射するように構成されている。レーザ光源203は、載置台201に対して相対的に移動可能に構成されていてもよい。すなわち、レーザ光源203が図示しない駆動機構により載置台201に対して移動可能であってもよいし、載置台201が図示しない駆動機構によりレーザ光源203に対して移動可能であってもよいし、レーザ光源203及び載置台201の両者が図示しない駆動機構によって移動可能であってもよい。特に、レーザ光の照射範囲が小さく且つレーザ光の精密なスキャンが可能であれば、マスク部材202を介さずに、レーザ光源203からのレーザ光が直接積層体2に照射されてもよい。あるいは、レーザ光源203からのレーザ光の照射範囲が大きく、マスク部材202の全ての開口部202aに対して一度にレーザ光を照射可能である場合には、レーザ光源203及び載置台201の双方が移動しなくてもよい。
【0047】
レーザ光源203としては、例えば、固体レーザ(YAGレーザ、ファイバレーザ等)、ガスレーザ(CO
2レーザ等)などが挙げられる。レーザ光源203から照射されるレーザ光は、例えば、レーザクリーニング用のパルス発振レーザ光であってもよい。レーザ光源203から照射されるレーザ光の出力は、絶縁皮膜W2を除去するが母材W1を溶融させない程度の出力であり、例えば20W〜500W程度であってもよい。絶縁皮膜W2が絶縁性無機材料を含んでいる場合には、レーザ光が照射された箇所において、絶縁性無機材料が完全に除去されていてもよいし、絶縁性無機材料が若干残存していてもよい。
【0048】
樹脂充填装置300は、充填空間V1(後述する)に溶融状態の樹脂を充填し、積層体2を構成する打抜部材W同士を接続する機能を有する。樹脂充填装置300は、
図8に示されるように、下型310と、複数の案内シャフト320と、複数の位置決めピン330と、一対のオーバーフロープレート340と、複数の中子部材360と、下側カルプレート370と、上側カルプレート380と、上型390とを備える。
【0049】
下型310は、矩形状を呈する板状部材である。下型310は、載置された積層体2を保持するように構成されている。下型310には、複数の挿入穴311と、複数の挿入穴312と、複数の挿入穴313と、挿通ポスト314とが設けられている。
【0050】
挿入穴311は、案内シャフト320の外形に対応する形状を有しており、挿入された案内シャフト320を保持する。挿入穴312は、挿入穴311よりも下型310の中心部側に位置している。挿入穴312は、位置決めピン330に対応する形状を有しており、挿入された位置決めピン330を保持する。挿入穴313は、挿入穴312よりも下型310の中心部側に位置している。挿入穴313は、中子部材360に対応する形状を有しており、挿入された中子部材360を保持する。挿通ポスト314は、下型310の中心部に位置しており、下型310から上方に向けて突出している。挿通ポスト314は、円柱形状を呈しており、貫通孔2aに対応する外形を有する。
【0051】
各案内シャフト320は、下側カルプレート370及び上型390を上下方向に案内する機能を有する。各位置決めピン330はそれぞれ、挿入穴312に保持された状態で、下型310に載置された積層体2の凹溝6と係合可能に構成されている。そのため、位置決めピン330は、積層体2を下型310に対して位置決めする機能を有する。
【0052】
オーバーフロープレート340(以下では、単に「プレート340」と表記する。)は、円環状を呈する薄板である。プレート340には、一つの貫通孔341と、複数の貫通孔342と、複数の貫通孔343とが設けられている。貫通孔341は、円形状を呈しており、プレート340の中心部に位置している。貫通孔341は、貫通孔2aの径(挿通ポスト314の径)と同程度かそれよりも若干大きくてもよい。
【0053】
各貫通孔342はそれぞれ、位置決めピン330に対応する位置に設けられており、位置決めピン330に対応する形状を有している。各貫通孔343は、貫通孔342よりも内側において、貫通孔341を囲むように略等間隔で円状に並んでいる。各貫通孔343はそれぞれ、下型210に載置された状態の積層体2の各スロット7に対応する位置に設けられている。貫通孔343は、中子部材360に対応する形状を有し且つ中子部材360よりも一回り大きい。そのため、プレート340は、位置決めピン330によって案内され、上下方向にスライド可能である。
【0054】
中子部材360は、略台形状の底面を有する四角柱形状を呈しており、スロット7に対応する外形を有している。中子部材360の外形は、スロット7よりも一回り小さい。
【0055】
下側カルプレート370(以下では、単に「プレート370」と表記する。)は、矩形状を呈する板状部材である。プレート370には、一つの貫通孔371と、複数の貫通孔372と、複数の貫通孔373と、複数の貫通孔374と、複数の貫通孔375とが設けられている。貫通孔371は、円形状を呈しており、プレート370の中心部に位置している。貫通孔371は、貫通孔2aの径(挿通ポスト314の径)と同程度かそれよりも若干大きくてもよい。
【0056】
貫通孔372は、案内シャフト320の外形に対応する形状を有している。貫通孔373は、貫通孔372よりもプレート370の中心部側に位置している。貫通孔373は、位置決めピン330に対応する形状を有している。貫通孔374は、貫通孔373よりもプレート370の中心部側に位置している。貫通孔374は、中子部材360に対応する形状を有している。そのため、プレート370は、案内シャフト320、位置決めピン330及び中子部材360によって案内され、上下方向にスライド可能である。貫通孔375は、貫通孔373,374の間に設けられている。
【0057】
上側カルプレート380(以下では、単に「プレート380」と表記する。)は、円環状を呈する板状部材である。プレート380には、一つの貫通孔381と、複数の貫通孔382と、複数の貫通孔383と、複数の凹溝384が設けられている。貫通孔381は、円形状を呈しており、プレート380の中心部に位置している。貫通孔381は、貫通孔2aの径(挿通ポスト314の径)と同程度かそれよりも若干大きくてもよい。
【0058】
貫通孔382は、プレート380の中心部側(貫通孔381寄り)に位置している。貫通孔382は、中子部材360に対応する形状を有している。各貫通孔383はそれぞれ、プレート370,380が重なり合った状態で、各貫通孔375と対応する位置に設けられている。各凹溝384は、対応する貫通孔375と連通するように、プレート380の表面に形成されている。
【0059】
上型390は、矩形状を呈する板状部材である。上型390には、複数の挿入穴391と、複数の貫通孔392が設けられている。挿入穴391は、案内シャフト320の外形に対応する形状を有している。挿入穴391には、案内シャフト320の上端部が挿入される。各貫通孔392は、プレート380の各凹溝384に対応する位置に設けられている。
【0060】
コントローラ140は、例えば、記録媒体(図示せず)に記録されているプログラム又はオペレータからの操作入力等に基づいて、送出装置120、打抜装置130、レーザ照射装置200及び樹脂充填装置300をそれぞれ動作させるための指示信号を生成し、当該指示信号をこれらの装置に送信する機能を有する。
【0061】
[固定子積層鉄心の製造方法]
続いて、
図9を参照して、固定子積層鉄心1Aの製造方法について説明する。まず、積層体2を形成する。具体的には、コントローラ140の指示に基づいて、送出装置120によって電磁鋼板ESを打抜装置130に送り出し、打抜装置130によって電磁鋼板ESの被加工部位を所定形状に打ち抜く。これにより、打抜部材Wが形成される。この打抜加工を繰り返すことにより、複数の打抜部材Wが所定枚数積層されて、一つの積層体2が製造される。
【0062】
続いて、コントローラ140の指示に基づいて、打抜装置130から排出された積層体2をコンベアCvがレーザ照射装置200まで搬送する。積層体2が載置台201上に載置されると、コントローラ140がレーザ光源203に指示して、レーザ光源203からレーザ光が積層体2に対して照射される。具体的には、レーザ光は、マスク部材202の開口部202aを介して、打抜部材Wtopの上面S1に照射される。これにより、打抜部材Wtopの上面S1に複数の露出領域Rexが形成される。このとき、打抜部材Wtopの周囲に付着しているスタンピングオイルも、レーザ光によって露出領域Rexから除去される。
【0063】
続いて、図示しない反転機構(例えばロボットハンド)又は人手により、積層体2の上下が反転された状態で、積層体2が載置台201に載置される。その後、コントローラ140がレーザ光源203に指示して、レーザ光源203からレーザ光が積層体2に対して照射される。具体的には、レーザ光は、マスク部材202の開口部202aを介して、打抜部材Wbottomの下面S2に照射される。これにより、打抜部材Wbottomの下面S2に複数の露出領域Rexが形成される。このとき、打抜部材Wbottomの周囲に付着しているスタンピングオイルも、レーザ光によって露出領域Rexから除去される。
【0064】
続いて、図示しない搬送機構(例えばロボットハンド)又は人手により、積層体2を樹脂充填装置300まで搬送する。樹脂充填装置300においては、積層体2が搬送されるまでに、下型310に積層体2を載置するための準備が行われる。具体的には、挿入穴311,312,313にそれぞれ案内シャフト220、位置決めピン330及び中子部材360が取り付けられる。次に、プレート340を下型310上に載置する。具体的には、貫通孔341に挿通ポスト314が挿通され、各貫通孔342,343にそれぞれ位置決めピン330及び中子部材360が挿通されるように、プレート340を下型310に向けて降下させる。このとき、プレート340の各貫通孔343は挿入穴313と一つずつ重なり合う。
【0065】
続いて、準備完了済の下型310上に積層体2を載置する。具体的には、積層体2の貫通孔2aに挿通ポスト314が挿通され、各凹溝6に位置決めピン330がそれぞれ係合されるように、積層体2を下型310及びプレート340に向けて降下させる。このとき、積層体2の各スロット7はそれぞれ貫通孔343と重なり合う。
【0066】
続いて、積層体2上にプレート340を載置する。これにより、積層体2は一対のプレート340で挟持され、積層体2の各端面はプレート340のうち貫通孔343を除く領域で覆われる。
【0067】
続いて、各スロット7内にそれぞれ中子部材360を挿入する。すなわち、積層方向において連通している挿入穴313、貫通孔343及びスロット7内に、一つの中子部材260が配置される。このとき、中子部材360のうち積層体2のヨーク部4寄りの外周面は、スロット7の内壁面F2と離間している。中子部材360のうち積層体2の開口8寄りの外周面は、開放端部5bの内壁面と当接しており、開口8を閉塞している。そのため、中子部材360とスロット7の内壁面F1との間には充填空間V1が形成されている。
【0068】
充填空間V1は、その上下においてプレート340の貫通孔343と連通している。すなわち、貫通孔343と中子部材260とで囲まれる空間が、充填空間V1と連通する充填空間V2として機能する。本実施形態では、充填空間V2は、露出領域Rexと対向するように充填空間V1から連続的に拡がっている。
【0069】
次に、積層体2及びプレート340上にプレート370,380及び上型390を載置する。これにより、下方から上方にかけて順に、充填空間V2、充填空間V1、充填空間V2、貫通孔375、貫通孔383、凹溝384及び貫通孔392が連通する。このとき、積層体2を構成する打抜部材W同士の間の隙間を低減する目的で、図示しないアクチュエータ等により、下型310及び上型390を介して積層体2に荷重が付与されてもよい。
【0070】
次に、
図9に示されるように、各貫通孔392に樹脂ペレットPを配置する。樹脂ペレットPは、円柱状を呈する固体状の樹脂である。続いて、各貫通孔392内にプランジャ393を一つずつ挿入する。この状態で、コントローラ140が、上型390に内蔵されたヒータ(図示せず)を動作させると共に、プランジャ393を動作させる。これにより、溶融状態となった樹脂ペレットPがプランジャ393によって押し出され、当該溶融樹脂が、貫通孔392、凹溝384、貫通孔383、貫通孔375、充填空間V2、充填空間V1、充填空間V2の順に充填される。その後、成形時の加熱による化学変化で溶融樹脂が固化することにより、充填空間V1,V2内に樹脂部3が形成される。このとき、積層体2を構成する打抜部材W同士は、樹脂部3によって接続されて一体化される。こうして、積層体2のスロット7の内壁面F2及び打抜部材Wtop,Wbottomの露出領域Rexに樹脂部3が設けられた固定子積層鉄心1Aが完成する。
【0071】
[作用]
ところで、打抜部材Wは電磁鋼板ESから打ち抜かれてなることから、打抜部材Wの上面S1及び下面S2には絶縁皮膜W2が存在するものの、破断面である打抜部材Wの端面S3には絶縁皮膜W2がほとんど存在していない。すなわち、積層体2の外周面を当該外周面側から見たときに、当該外周面に露出する絶縁皮膜W2はごく僅かである。そのため、特許文献1のようにレーザ光源203からのレーザ光を積層体2の外周面側から照射すると、
図16に示されるように、絶縁皮膜W2のうち打抜部材Wの外周縁近傍のごく僅かな部分しか除去されない。
【0072】
しかしながら、以上のような第1実施形態では、上面S1及び下面S2において母材W1が部分的に露出するような、絶縁皮膜W2の部分的な除去処理が、積層体2の外周面側からではなく母材W1の上面S1及び下面S2側から行われる。そのため、打抜部材Wの外周縁近傍におけるごく僅かな領域ではなく、樹脂部3(端部3b)との接合が好適に行える所望の領域を、除去処理により露出領域Rexとすることができる。従って、樹脂部3を介して複数の打抜部材Wをより確実に接合することが可能となる。
【0073】
第1実施形態では、スロット7と中子部材360との間の充填空間V1,V2に溶融樹脂を充填して、スロット7の内壁面F1と露出領域Rexとに樹脂部3を形成している。接合部として機能する樹脂部3は、スロット7の内壁面F1に形成される主部3aと、露出領域Rexに形成される端部3bとを含む。そのため、端部3bは母材W1と強力に接合される。従って、積層体2を構成する複数の打抜部材Wが積層体2の積層方向において拡がろうとする力(スプリングバック力)が端部3bに付与されても、端部3bが母材W1に対してより強固に付着される。その結果、端部3bと主部3aとの間における割れ等を抑制しつつ、樹脂部3を介して複数の打抜部材Wをいっそう確実に接合することが可能となる。
【0074】
第1実施形態では、レーザ光源203からのレーザ光が、マスク部材202の開口部202aを介して積層体2に照射される。そのため、露出領域Rexを精度よく形成することが可能となる。
【0075】
<第2実施形態>
[固定子積層鉄心の構成]
まず、
図10を参照して、固定子積層鉄心1Bの構成について説明する。固定子積層鉄心1Bが固定子積層鉄心1Aと異なる点は、積層体2の積層方向において隣り合う加工板10(鉄心部材)同士が樹脂部3ではなく接着剤20(接合部)によって接着されている点である。以下では、第1実施形態との相違点について主として説明する。
【0076】
積層体2は、
図11に示される積層体30から仮カシメ部31が除去されたものである。換言すれば、積層体30は、積層体2の凹溝6に仮カシメ部31が嵌合している状態のものである。積層体30は、複数の打抜部材Wが積み重ねられてなる。すなわち、打抜部材Wは、積層体30と対応する形状を呈している。換言すれば、打抜部材Wは、仮カシメ部31に対応する仮カシメ片41が加工板10の凹溝6に嵌合している状態のものである。ただし、打抜部材W同士は接着剤20によって接合されていない。
【0077】
仮カシメ片41と加工板10の凹溝6との間には、切断線CLが設けられている。各切断線CLは、例えば、電磁鋼板ESを切り曲げ加工又は打ち抜き加工した後、切り曲げ部分又は打ち抜き部分をプッシュバックして、元の電磁鋼板ESに圧入することにより、形成されてもよい。電磁鋼板ESが切り曲げ加工又は打抜き加工されると、切り曲げ部分又は打ち抜き部分が塑性変形して若干延びるので、当該部分が元の電磁鋼板ESへ圧入されると、当該部分と元の電磁鋼板ESとは、人手では簡単に外れない程度にしっかりと嵌まり合う。
【0078】
積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、仮カシメ片41を介して、仮カシメ片41に設けられた仮カシメ42によって締結されている。仮カシメ部31は、仮カシメ片41が積み重ねられた積層体であるともいえる。
【0079】
[固定子積層鉄心の製造方法]
続いて、固定子積層鉄心1Bの製造方法について説明する。なお、固定子積層鉄心1Bの製造装置100は、樹脂充填装置300に代えて接着剤供給装置を備える。
【0080】
まず、積層体30を形成する。具体的には、コントローラ140の指示信号に基づいて、送出装置120によって電磁鋼板ESを打抜装置130に送り出し、打抜装置130によって電磁鋼板ESの被加工部位を所定形状に打ち抜く。これにより、打抜部材Wが形成される。この打抜加工を繰り返すことにより、複数の打抜部材Wが互いに仮カシメ42によって締結されながら所定枚数積層されて、一つの積層体30が製造される。
【0081】
打抜装置130から積層体30が排出されると、図示しない除去装置により積層体30から仮カシメ部31が除去される。例えば、除去装置は、積層体30のうち固定子積層鉄心1Bとなる部分を固定し、仮カシメ部31に対して積層方向にピストン等で力を付与する。これにより、積層体30から仮カシメ部31が取り除かれ、隣り合う加工板10同士が締結されていない状態で複数の加工板10が積層された仮積層体が形成される。
【0082】
続いて、コントローラ140の指示に基づいて、仮積層体をコンベアCvがレーザ照射装置200まで搬送する。レーザ照射装置200においては、仮積層体から加工板10が一枚ずつ取り出され、加工板10の両主面(上面S1及び下面S2)に対して、マスク部材202を介して、レーザ光源203からレーザ光が照射される。
【0083】
図12に示されるように、第2実施形態に係るマスク部材202は、ヨーク部4の周方向に沿って所定間隔に並ぶ複数の開口組202bを含む。各開口組202bはそれぞれ、ティース部5の延在方向に沿って一列に並ぶ複数の開口部202aによって構成されている。従って、マスク部材202を介してレーザ光源203からレーザ光が加工板10の主面(上面S1又は下面S2)に照射されると、ティース部5の延在方向に沿って一列に並ぶ複数の露出領域Rexが、加工板10の主面に複数組形成される。このとき、加工板10の周囲にスタンピングオイルが付着している場合には、レーザ光によって露出領域Rexからスタンピングオイルが除去される。なお、積層体2の最上層をなす加工板の上面S1及び積層体2の最下層をなす加工板の下面S2には他の加工板10が接着されないので、これらの面には、レーザ光が照射されず、露出領域Rexが形成されなくてもよい。
【0084】
続いて、主面に露出領域Rexが形成された加工板10は、図示しない搬送装置又は人手により、接着剤供給装置に搬送される。接着剤供給装置は、一つの加工板10の上面S1に形成された露出領域Rexに接着剤20をスポット状に供給する。接着剤供給装置は、続いて一つの加工板10が搬送されると、当該後続の加工板10を、一つ前の加工板10の上に積み重ねる。これにより、後続の加工板10の下面S2に形成された露出領域Rexと、一つ前の加工板10の上面S1に形成された露出領域Rexとが、接着剤20を介して接合される。接着剤供給装置は、これらの作業を加工板10の一つ一つに対して繰り返し行う。これにより、隣り合う加工板10同士が接着剤20によって接合されて、固定子積層鉄心1Bが完成する。
【0085】
接着剤供給装置による接着剤20の供給範囲は、露出領域Rexよりも大きくてもよいし、露出領域Rexと略同等であってもよいし、露出領域Rexよりも小さくてもよい。接着剤供給装置による接着剤20の供給範囲が露出領域Rexよりも大きい場合、露出領域Rexの全体が確実に接着剤20で覆われるので、打抜部材W同士の絶縁状態を確保することが可能となる。接着剤供給装置による接着剤20の供給範囲が露出領域Rexよりも小さい場合、接着剤20の供給後に複数の加工板10が加圧されても、接着剤20が露出領域Rexからはみ出し難くなる。
【0086】
[作用]
第2実施形態においても、上面S1及び下面S2において母材W1が部分的に露出するような、絶縁皮膜W2の部分的な除去処理が、積層体2の外周面側からではなく母材W1の上面S1及び下面S2側から行われる。そのため、加工板10の外周縁近傍におけるごく僅かな領域ではなく、接着剤20との接合が好適に行える所望の領域を、除去処理により露出領域Rexとすることができる。従って、接着剤20を介して複数の打抜部材Wをより確実に接合することが可能となる。
【0087】
第2実施形態においても、レーザ光源203からのレーザ光が、マスク部材202の開口部202aを介して加工板10に照射される。そのため、露出領域Rexを精度よく形成することが可能となる。
【0088】
第2実施形態では、接着剤20が母材W1に直接供給される。そのため、接着剤20と絶縁皮膜W2との間の相性を考慮することなく、接着剤20を介して複数の加工板10同士をいっそう確実に接合することが可能となる。
【0089】
<第3実施形態>
[固定子積層鉄心の構成]
まず、
図13を参照して、固定子積層鉄心1Cの構成について説明する。固定子積層鉄心1Cが固定子積層鉄心1Aと異なる点は、積層体2の積層方向において隣り合う打抜部材W(鉄心部材)同士が樹脂部3ではなく溶接部50(接合部)によって接着されている点である。以下では、第1実施形態との相違点について主として説明する。
【0090】
溶接部50は、積層体2の積層方向において凹溝6に沿って延びるように、凹溝6内に形成されている。すなわち、溶接部50は、積層体2の外周面に形成されている。露出領域Rexは、各打抜部材Wのうち凹溝6の近傍に形成されている。そのため、溶接部50は、露出領域Rexを介して、積層体2の積層方向において隣り合う打抜部材Wの母材W1同士を接合している。第3実施形態では、積層体2の積層方向において隣り合う打抜部材W同士は、ティース部5に設けられたカシメ部60によっても互いに接合されている。
【0091】
[固定子積層鉄心の製造方法]
続いて、固定子積層鉄心1Cの製造方法について説明する。なお、固定子積層鉄心1Cの製造装置100は、樹脂充填装置300に代えて溶接装置を備える。
【0092】
まず、積層体2を形成する。具体的には、コントローラ140の指示信号に基づいて、送出装置120によって電磁鋼板ESを打抜装置130に送り出し、打抜装置130によって電磁鋼板ESの被加工部位を所定形状に打ち抜く。これにより、打抜部材Wが形成される。この打抜加工を繰り返すことにより、複数の打抜部材Wが所定枚数積層されて、一つの積層体2が製造される。
【0093】
続いて、コントローラ140の指示に基づいて、打抜装置130から排出された積層体2をコンベアCvがレーザ照射装置200まで搬送する。レーザ照射装置200においては、積層体2から打抜部材Wが一枚ずつ取り出され、打抜部材Wの両主面(上面S1及び下面S2)に対して、マスク部材202を介して、レーザ光源203からレーザ光が照射される。
【0094】
図14に示されるように、第3実施形態に係るマスク部材202は、ヨーク部4の周方向に沿って所定間隔に並ぶ複数の開口部202aを含む。各開口部202aは、打抜部材Wの凹溝6に対応する位置に設けられている。従って、マスク部材202を介してレーザ光源203からレーザ光が加工板10の主面(上面S1又は下面S2)に照射されると、打抜部材Wの主面のうち凹溝6の近傍に露出領域Rexが形成される。このとき、打抜部材Wの周囲にスタンピングオイルが付着している場合には、レーザ光によって露出領域Rexからスタンピングオイルが除去される。
【0095】
続いて、主面に露出領域Rexが形成された打抜部材Wは、再び積層されつつカシメ部60によって接合され、積層体2とされる。当該積層体2は、図示しない搬送装置又は人手により、溶接装置に搬送される。溶接装置は、積層体2の凹溝6に沿って溶接を行うことにより、積層体2の積層方向において隣り合う打抜部材Wの母材W1同士を露出領域Rexを介して接合する。これにより、隣り合う打抜部材W同士が溶接部50によって接合されて、固定子積層鉄心1Cが完成する。
【0096】
溶接装置は、レーザ溶接装置であってもよいし、TIG溶接装置であってもよい。溶接装置がレーザ溶接装置である場合、レーザ照射装置200のレーザ光源203と同じレーザ光源を、母材W1が溶融する程度まで出力を高めた状態で用いてもよい。
【0097】
溶接装置による溶接部50の形成範囲は、露出領域Rexよりも僅かに大きくてもよいし、露出領域Rexと略同等であってもよいし、露出領域Rexよりも小さくてもよい。溶接装置による溶接部50の形成範囲が露出領域Rexよりも小さい場合、煤煙、ブローホール等の発生がいっそう抑制される。
【0098】
[作用]
第3実施形態においても、上面S1及び下面S2において母材W1が部分的に露出するような、絶縁皮膜W2の部分的な除去処理が、積層体2の外周面側からではなく母材W1の上面S1及び下面S2側から行われる。そのため、打抜部材Wの外周縁近傍におけるごく僅かな領域ではなく、溶接部50との接合が好適に行える所望の領域を、除去処理により露出領域Rexとすることができる。従って、溶接部50を介して複数の打抜部材Wをより確実に接合することが可能となる。
【0099】
第3実施形態では、主面側(上面S1側又は下面S2側)から絶縁皮膜W2の部分的な除去処理が行われるので、積層体2の外周面側から絶縁皮膜を除去する場合と比較して、より広い露出領域Rexが形成される。そのため、複数の打抜部材Wの各露出領域Rexを積層体2の積層方向において連続的に接合するように溶接することで、煤煙、ブローホール等の発生を抑制しつつ、溶接部50を介して複数の打抜部材Wをより確実に接合することが可能となる。
【0100】
<他の実施形態>
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。例えば、上記の第1及び第2実施形態において、露出領域Rexを形成した後に、露出領域Rexにおける母材W1に対して露出領域Rexの表面改質処理又は粗面化処理を行ってもよい。表面改質処理とは、コロナ放電により打抜部材Wの周囲にプラズマを生成することで、樹脂との結合性を高める官能基を母材W1の表面に形成する処理をいう。粗面化処理とは、化学的又は物理的に母材W1の表面に微細な凹凸を形成する処理をいう。この場合、樹脂部3又は接着剤20と露出領域Rexとの接合性能が、化学的又は物理的に高められる。そのため、複数の打抜部材W又は加工板10をさらに確実に接合することが可能となる。
【0101】
上記の各実施形態ではレーザ光源203からのレーザ光により絶縁皮膜W2を除去していたが、ブラスト処理又は薬品の供給処理により絶縁皮膜W2を除去してもよい。ブラスト処理とは、多数の微小粒子(研磨材)を被加工部に噴射して、当該微小粒子を激しく当該被加工部に衝突させることで、絶縁皮膜W2を除去する処理をいう。薬品の供給処理とは、絶縁皮膜W2を溶解可能な薬品(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)を被加工部に供給して、当該被加工部から絶縁皮膜W2を除去する処理をいう。
【0102】
上記の各実施形態において、ヨーク部4の外周面には、径方向外側に向けて突出する複数の耳金部(図示せず)が一体的に設けられていてもよい。当該耳金部には、積層体2の積層方向において耳金部を貫通する貫通孔が設けられていてもよい。貫通孔は、例えば、固定子積層鉄心1A〜1Cを電動機のハウジング(図示せず)に固定するためのボルトの挿通孔として機能する。耳金部の数(貫通孔の数)は、固定子積層鉄心1の種類等に応じて適宜設定してもよい。
【0103】
上記の各実施形態において、打抜部材W又は加工板10の両主面にレーザ光を照射してもよいし、一方の主面のみにレーザ光を照射してもよい。打抜部材W又は加工板10の両主面にレーザ光を照射する場合には、各主面に対して個々にレーザ光を照射してもよいし、2つのレーザ光源203を用いて両主面に対して同時にレーザ光を照射してもよい。
【0104】
上記の各実施形態では、電磁鋼板ESから打ち抜かれた後の打抜部材W又は加工板10に対して露出領域Rexを形成していたが、電磁鋼板ESからの打抜部材Wの打ち抜き前に、電磁鋼板ESの所定領域に露出領域Rexを形成してもよいし、打抜部材Wの打ち抜き途中に露出領域Rexを形成してもよい。
【0105】
上記の各実施形態では、打抜部材W又は加工板10が積層されて積層体2が構成されていたが、積層体2は、複数のブロック体(鉄心部材)が積層されたものであってもよい。ブロック体は、例えば、複数の打抜部材Wが積層されて一体化されたものである。
【0106】
上記の各実施形態において、打抜部材W又は加工板10同士は、カシメによって互いに接合されていてもよいし、接着剤によって互いに接合されていてもよいし、溶接によって互いに接合されていてもよい。あるいは、上記の第1及び第3の実施形態の積層体2も、積層体30から仮カシメ部31が除去されたものであってもよい。
【0107】
上記の第1実施形態において、樹脂部3は開放端部5b及び開口8を閉塞していてもよい。樹脂部3の端部3bは、最上層の打抜部材Wtopの上面S1と最下層の打抜部材Wbottomの下面S2との双方に形成されていてもよいし、一方に形成されていてもよい。すなわち、端部3bは、打抜部材Wtop,Wbottomの双方に回り込んでいてもよいし、一方に回り込んでいてもよい。
【0108】
上記の第1実施形態において、中子部材360は挿通ポスト314に一体的に設けられていてもよい。
【0109】
上記の第2実施形態において、加工板10同士の接着は打抜装置130の内部で行われてもよい。
【0110】
上記の第2実施形態において、積層体2の積層方向から見たときに、露出領域Rexの位置、すなわち接着剤20の供給位置は、必ずしも重なり合っていなくてもよい。
【0111】
上記の第3実施形態において、打抜部材Wの内周縁近傍に露出領域Rexを形成し、複数の打抜部材Wの溶接を積層体2の内周面側から行ってもよい。
【0112】
上記の各実施形態において、打抜部材Wは、母材W1の一方の主面(上面S1又は下面S2)に絶縁皮膜W2が形成されたものであってもよい。具体的には、第1実施形態の場合、
図15(a)に示されるように、最上層の打抜部材Wtopの上面S1に設けられた露出領域Rexに樹脂部3(端部3b)が配置されている。この場合、最下層の打抜部材Wbottomに樹脂部3(端部3b)が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。第2実施形態の場合、
図15(b)に示されるように、加工板10の上面S1における絶縁皮膜W2に形成された露出領域Rexに接着剤20をスポット状に供給しつつ、加工板10を順次積層することで、固定子積層鉄心1Bを得てもよい。第3実施形態の場合、
図15(c)に示されるように、上面S1における絶縁皮膜W2に露出領域Rexが形成された打抜部材Wを順次積層した後に、隣り合う打抜部材Wの母材W1同士を露出領域Rexを介して溶接することで、複数の打抜部材Wが溶接部50で接合された固定子積層鉄心1Cを得てもよい。
【0113】
固定子積層鉄心1A〜1Cのみならず、本開示に係る積層鉄心の製造方法を回転子積層鉄心に適用してもよい。