特開2019-77900(P2019-77900A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2019-77900Mn−W−Cu−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-77900(P2019-77900A)
(43)【公開日】2019年5月23日
(54)【発明の名称】Mn−W−Cu−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190426BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20190426BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20190426BHJP
   C04B 35/45 20060101ALI20190426BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C04B35/495
   C04B35/01 600
   C04B35/45
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-203521(P2017-203521)
(22)【出願日】2017年10月20日
(11)【特許番号】特許第6377230号(P6377230)
(45)【特許公報発行日】2018年8月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳一
(72)【発明者】
【氏名】加守 雄一
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029DC05
4K029DC09
(57)【要約】
【課題】異常放電が抑制され、かつ、安定した成膜を可能にするMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】Mnと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含み、かつ、Znを成分組成に含まないMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットであって、相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が9×10−4Ω・cm以下であるスパッタリングターゲット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含むMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットであって、
相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が9×10−4Ω・cm以下であるスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Mnと、Wと、Cuと、の合計100原子%に対して、Mnが4原子%〜40原子%であり、Wが10原子%〜70原子%であり、Cuが10原子%〜40原子%である請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を、前記成分組成にさらに含む請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の合計の含有率が、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、8原子%〜70原子%である請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
相対密度が、94%以上である請求項1から4いずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載のMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
マンガン含有粉末と、タングステン含有粉末と、銅含有粉末と、を含む混合粉末を、10時間以上湿式混合する混合工程と、
前記混合工程の後、前記混合粉末を750℃超の温度で焼結する焼結工程と、を含む製造方法。
【請求項7】
前記マンガン含有粉末がマンガン酸化物粉末であり、前記タングステン含有粉末が金属タングステン粉末であり、前記銅含有粉末が金属銅粉末である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末が、Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体又は化合物からなる粉末をさらに含む請求項6又は7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、光情報記録媒体の記録層の形成に有用な、Mn−W−Cu−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光情報記録媒体(光ディスク)の分野において、取り扱うデータの増大等に伴い、光ディスクの大容量化が求められている。光ディスクは、読み込み専用と記録型とに大別され、記録型はさらに追記型と書き換え型との2種類に細分される。追記型の記録層材料として、従来は有機色素材料が広く検討されてきたが、近年の大容量化に伴い、無機材料も広く検討されるようになっている。
【0003】
無機材料を用いた有用な記録方式として、分解温度の低い無機酸化物を含む記録層にレーザー光を照射することにより、記録層の物性が変化し、それに伴い光学定数が変化することを利用した記録方式がある。無機酸化物材料としては、パラジウム酸化物が実用化されているが、Pdは貴金属であり材料コストが高いため、パラジウム酸化物に代わり安価な材料コストで実現できる記録層の開発が望まれている。
【0004】
安価な材料コストで十分良好な記録特性が得られるものとして、マンガン酸化物系材料からなる記録層が開発されている。例えば、特許文献1では、Mn−W−Zn−Cu−O系記録層等のマンガン酸化物と複数種の無機元素を含む記録層、及びその記録層を形成するために用いるスパッタリングターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/183277号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のマンガン酸化物とW等の複数の無機元素とからなる記録層を形成するためのスパッタリング法として、それぞれの元素からなる複数のスパッタリングターゲットを用いる多元スパッタ法と、複数の元素を含有する1枚の複合スパッタリングターゲットを用いる方法とがある。特許文献1では、多元スパッタ法が開示されているが、装置が大型化しコストアップ要因になる上、組成ずれが生じやすい欠点がある。そのため、1枚の複合スパッタリングターゲットを用いたスパッタリングが好ましい。また、生産性の観点から、高周波スパッタリングよりも、直流(DC)スパッタリングを用いることが望ましい。
【0007】
しかし、マンガン酸化物とW等の複数の無機元素とからなる複合スパッタリングターゲット中には、WMnO等の絶縁粒が含まれやすい。DCスパッタリングでは、複合スパッタリングターゲットに直流電圧をかけるため、複合スパッタリングターゲット中の絶縁粒の影響により十分な導電性が得られない場合、異常放電(アーキング)が発生するおそれがある。この成膜中の異常放電により、記録層にダメージが与えられ、歩留まり低下の原因となる。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、DCスパッタリングであっても、異常放電が抑制され、かつ、安定した成膜を可能にするMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、Mnと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含むMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットであって、相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が9×10−4Ω・cm以下であるスパッタリングターゲットを提供する。
【0010】
前記成分組成は、Mnと、Wと、Cuと、の合計100原子%に対して、Mnが4原子%〜40原子%であり、Wが10原子%〜70原子%であり、Cuが10原子%〜40原子%であってもよい。
【0011】
前記スパッタリングターゲットは、Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を、前記成分組成にさらに含んでもよい。
【0012】
前記Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の合計の含有率は、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、8原子%〜70原子%であってもよい。
【0013】
前記スパッタリングターゲットは、相対密度が94%以上であってもよい。
【0014】
また本発明は、前記Mn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットの製造方法であって、マンガン含有粉末と、タングステン含有粉末と、銅含有粉末と、を含む混合粉末を、10時間以上湿式混合する混合工程と、前記混合工程の後、前記混合粉末を750℃超の温度で焼結する焼結工程と、を含む製造方法を提供する。
【0015】
前記マンガン含有粉末がマンガン酸化物粉末であり、前記タングステン含有粉末が金属タングステン粉末であり、前記銅含有粉末が金属銅粉末であってもよい。
【0016】
前記混合粉末は、Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体又は化合物からなる粉末をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、DCスパッタリングであっても、異常放電が抑制され、かつ、安定した成膜を可能にするMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について詳しく説明する。
【0019】
[Mn−W−Cu−O系スパッタリングターゲット]
本実施形態に係るMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットは、Mnと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含み、相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が9×10−4Ω・cm以下である。以下、本実施形態に係るMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットを単に「ターゲット」と称する。
【0020】
本実施形態に係るターゲットの成分比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、Mnと、Wと、Cuと、の合計100原子%に対して、Mnが4原子%〜40原子%であり、Wが10原子%〜70原子%であり、Cuが10原子%〜40原子%であってもよい。
【0021】
本実施形態に係るターゲットは、必要に応じて、その他の成分組成を含んでいてもよい。他の元素を適宜含有させることで、例えば、情報記録媒体の記録層形成のためにターゲットを用いる場合、記録層の透過率、反射率、及び記録感度を調整することができる。元素としては、例えば、Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。
【0022】
上記Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する場合、その合計の含有率は、例えば、ターゲットの構成元素のうち、O(酸素)を除いた構成元素の合計100原子%に対して、8原子%〜70原子%とすることができる。
【0023】
なお、Znを含有しない方が、Znを含有するターゲットに比べ容易にターゲットの相対密度を上げることができる。このため、ターゲットにZnが含まれないことが好ましい。
【0024】
ターゲットの成分組成は、X線回折法により評価する。ターゲットのX線回折スペクトルの取得は、常法に従い行うことができる。例えば、株式会社リガク製のSmartLabを用いて、ターゲット表面をθ−2θスキャンして、スペクトルを取得すればよい。X線回折の測定条件はターゲットに応じて適宜定まり、例えば以下の条件の範囲内から選択することができる。
X線源:Cu−Kα線
出力設定:20kV〜100kV、10mA〜100mA
測角範囲:2θ=5°〜80°
スキャン速度:1°〜4°(2θ/min)、連続スキャン
発散スリット:0.5°〜2°
散乱スリット:0.5°〜2°
受光スリット:0.1mm〜0.5mm
【0025】
ターゲットの成分組成の主な回折ピークは、以下の範囲で検出される。
Wの回折ピーク:40.26°±0.3°、58.27°±0.3°
MnWOの回折ピーク:29.8°±0.3°、30.23°±0.3°
MnOの回折ピーク:35.16°±0.3°、40.99°±0.3°、59.18°±0.3°
Cuの回折ピーク:43.47°±0.3°、50.67°±0.3°
【0026】
本実施形態に係るターゲットが高密度であることを示す指標として、本明細書では相対密度を用いることとする。ターゲットの相対密度は、90%以上であり、好ましくは94%以上である。ターゲットの相対密度は高いほど好ましい。
【0027】
なお、相対密度とは、ターゲットの原料粉が100%充填されたと仮定して計算した場合の仮想密度に対する、原料分を焼結した後の実測密度である。相対密度を計算するために、まず、ターゲットの寸法測定及び重量測定を行い、実測密度を算出する。次に、以下の計算式を用いて相対密度を算出する。
相対密度(%)=(焼結体の実測密度/仮想密度)×100
【0028】
また、本実施形態に係るターゲットが低抵抗であることを示す指標として、本明細書では比抵抗を用いることとする。ターゲットの比抵抗は、9×10−4Ω・cm以下であり、好ましくは8×10−4Ω・cm以下であり、より好ましくは6×10−4Ω・cmである。ターゲットの比抵抗は低いほど好ましい。
【0029】
ターゲットの比抵抗は、抵抗率計を用い測定することができる。例えば、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製のMCP−T610)を用い測定する。
【0030】
なお、本実施形態に係るターゲットの形状は何ら限定されることはなく、円盤状、円筒状、四角形板状、長方形板状、正方形板状等の任意の形状とすることができ、ターゲットの用途に応じて適宜選択することができる。また、ターゲットの幅及び奥行きの大きさ(円形の場合には直径)についても、mmオーダー〜mオーダー程度の範囲で、ターゲットの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、ターゲットが円形の場合、一般的には直径50mm〜300mm程度である。厚みについても同様であるが、一般的には1mm〜20mm程度である。
【0031】
本実施形態に係るターゲットが、前述の相対密度と、比抵抗との両方の条件を満足することで、DCスパッタリングに供した際に、異常放電の発生を抑制することができるターゲットとなることが、本発明者によって確認された。さらに、いずれか一方の条件を満足するだけでは、異常放電の発生を十分に抑制することはできないことも確認された。また、ターゲットは、特に、光情報記録媒体の記録層の形成に有用であるが、用途は何ら限定されるものではない。
【0032】
[Mn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットの製造方法]
次に、本実施形態に係るターゲットの製造方法を説明する。本実施形態に係る製造方法は、混合工程と、焼結工程と、を含む。
【0033】
まず、混合工程にて、マンガン含有粉末と、タングステン含有粉末と、銅含有粉末と、を含む混合粉末を、10時間以上湿式混合する。
【0034】
マンガン含有粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、Mnの単体又は化合物からなる粉末等が挙げられる。中でも、マンガン酸化物が好ましい。マンガン酸化物としては、例えば、Mn、Mn、MnO、MnO、MnO、Mn等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記マンガン酸化物の中でも、焼結温度と融点との関係よりMnが好ましい。
マンガン含有粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、3μm〜7μm程度とすることができる。
【0035】
タングステン含有粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Wの単体からなる金属タングステン粉末等が挙げられる。
タングステン含有粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、2μm〜5μm程度とすることができる。
【0036】
銅含有粉末としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Cuの単体からなる金属銅粉末等が挙げられる。
銅含有粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば、1μm〜4μm程度とすることができる。
【0037】
また、製造するスパッタリングターゲットの所望の目的に応じて、上記マンガン含有粉末、タングステン含有粉末、及び銅含有粉末以外のその他の粉末を、混合粉末に含ませてもよい。その他の粉末としては、例えば、Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体又は化合物からなる粉末が挙げられる。
【0038】
湿式混合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来公知のボールミル装置を用いた湿式混合方法等が挙げられる。
【0039】
湿式混合時間は、10時間以上とする。混合時間を10時間以上とすることにより、十分に混合粉末を混合することができる。特に、マンガン含有粉末としてマンガン酸化物を用いる場合、焼結中のマンガン酸化物の固相反応を促進して、焼結後の酸化マンガンの結晶相の残留を抑制することに繋がる。混合時間は、12時間以上とすることが好ましく、16時間以上とすることがより好ましく、20時間以上とすることがさらに好ましい。24時間混合すると、混合の効果は飽和する。
【0040】
次に焼結工程にて、混合粉末を750℃超の温度で焼結する。
焼結法としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不活性ガス雰囲気中でのホットプレス、熱間等方圧加圧法(HIP法;Hot Isostatic Pressing)等が挙げられる。
【0041】
混合粉末を750℃超の温度で焼結することにより、焼結後の酸化マンガン等の絶縁体の結晶相の残留を抑制することができる。焼結温度は、たとえば、800℃以上であってもよく、850℃以上であってもよく、900℃以上であってもよい。
【0042】
焼結時間は特に限定されず、適宜選択することが可能であり、一般的に行われる1時間〜6時間程度の焼結時間とすればよい。
【0043】
また、焼結時に加える圧力についても、特に限定されず、適宜調整することができるが、200kgf/cm程度が好ましい。なお、1kgf/cmは、98.1kPaに相当する。
【0044】
以上の工程を経て相対密度が90%以上、かつ、比抵抗が9×10−4Ω・cm以下のMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0045】
なお、本実施形態に係る製造方法は、上記混合工程及び焼結工程以外にも、他の工程を含んでもよい。他の工程としては、例えば、スパッタリングターゲットの形状を形成するために行われる、混合粉末の成形工程が挙げられる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
[スパッタリングターゲットの製造]
<実施例1>
実施例1では、原料粉末として、以下の粉末を用意した。
Mn粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:5μm)
W粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:2μm)
Cu粉末(純度:99.9%以上、平均粒径:1.5μm)
各含有金属の割合が、Mn:W:Cu=30:40:30(原子%)となるように、上記原料粉末を秤量した。秤量した各原料粉末、各原料粉末の合計重量の3倍のジルコニアボール(直径5mm)、及びアルコールを容器に入れ、ボールミル装置にて、湿式混合を12時間行った。混合粉末を乾燥後、目開き500μmの篩にかけた。次いで、上記混合粉末に対し、焼結温度900℃にて2時間、200kgf/cmの圧力を加え、不活性ガス雰囲気中でホットプレスを行い、スパッタリングターゲットを製造した。スパッタリングターゲットの形状は円盤状であり、サイズは直径50mmである。
【0048】
<実施例2>
実施例2では、湿式混合時間を24時間とし、焼結温度を920℃とした以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0049】
<比較例1>
比較例1では、湿式混合時間を2時間とした以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0050】
<比較例2>
比較例2では、焼結温度を750℃とした以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0051】
<比較例3>
比較例3では、湿式混合時間を2時間とし、焼結温度を750℃とした以外は、実施例1と同様の方法でスパッタリングターゲットを作製した。
【0052】
[評価]
上記の実施例1及び2並びに比較例1、2及び3で作製したスパッタリングターゲットについて、相対密度測定、比抵抗測定、異常放電回数の測定、及び結晶相の成分評価を行った。各評価は、以下のように行った。得られた評価結果を表1に示した。
【0053】
<相対密度>
上記の実施例1及び2並びに比較例1、2及び3で作製したスパッタリングターゲットの相対密度を計算するため、スパッタリングターゲットの寸法測定及び重量測定を行い、実測密度を算出した。次に、以下の計算式を用いて相対密度を算出した。
相対密度(%)=(焼結体の実測密度/焼結体の仮想密度)×100
【0054】
<比抵抗>
上記の実施例1及び2並びに比較例1、2及び3で作製したスパッタリングターゲットの比抵抗を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製のMCP−T610)を用い測定した。
【0055】
<異常放電回数の測定>
上記の実施例1及び2並びに比較例1、2及び3で作製したスパッタリングターゲットを、無酸素銅製のバッキングプレートにInはんだで接着した。これらスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、1×10−4Pa以下まで真空排気を行った後、ArガスとOガスとを導入し、装置内圧力を0.3Paとした。酸素の割合(O/Ar+O)は70%とした。DC電源にて電力5W/cmを印加して、30分間スパッタリングを行い、アーキングカウンターによりスパッタリング中の異常放電の回数を測定した。
【0056】
【表1】
【0057】
以上の結果から、相対密度及び比抵抗の両方の条件を満足する実施例1及び2に係るMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットは、異常放電回数が抑制されることが確認された。相対密度及び比抵抗のいずれか一方の条件を満足する比較例1及び2の場合、いずれも満たさない比較例3と比較すると異常放電回数が減少したが、実用化が可能な程度まで抑制できたとは言えない。また、相対密度及び比抵抗は、スパッタリングターゲットの作製条件である混合時間及び焼結温度に影響を受けていることが確認された。
【手続補正書】
【提出日】2018年4月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含み、かつ、Znを成分組成に含まないMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットであって、
相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が9×10−4Ω・cm以下であるスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Mnと、Wと、Cuと、の合計100原子%に対して、Mnが4原子%〜40原子%であり、Wが10原子%〜70原子%であり、Cuが10原子%〜40原子%である請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を、前記成分組成にさらに含む請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の合計の含有率が、Oを除いた構成元素の合計100原子%に対して、8原子%〜70原子%である請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
相対密度が、94%以上である請求項1から4いずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載のMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
マンガン含有粉末と、タングステン含有粉末と、銅含有粉末と、を含む混合粉末を、10時間以上湿式混合する混合工程と、
前記混合工程の後、前記混合粉末を750℃超の温度で焼結する焼結工程と、を含む製造方法。
【請求項7】
前記マンガン含有粉末がマンガン酸化物粉末であり、前記タングステン含有粉末が金属タングステン粉末であり、前記銅含有粉末が金属銅粉末である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末が、Mo、Nb、Mg、Ag、Ru、Ni、Zr、Sn、Bi、Ge、Co、Al、Pd、Ga、Te、V、Si、Ta、Cr、及びTbからなる群より選択される少なくとも1種の元素の単体又は化合物からなる粉末をさらに含む請求項6又は7に記載の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、Mnと、Wと、Cuと、Oと、を成分組成に含み、かつ、Znを成分組成に含まないMn−W−Cu−O系スパッタリングターゲットであって、相対密度が90%以上であり、かつ、比抵抗が9×10−4Ω・cm以下であるスパッタリングターゲットを提供する。