【実施例1】
【0023】
<自公転式気相成膜装置への適用例>・・・まず、
図2〜
図5を参照して、自公転式気相成膜装置10について説明する。
図2は、自公転式気相成膜装置を示す断面図である。
図3は、対向面部材の凹凸形状の一例を示す平面図である。
図4は、前記
図3を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た断面図である。
図5は、対向面部材の凹凸形状の他の例を示す平面図である。
【0024】
まず、本例の自公転式気相成膜装置10の基本的構成は、上述した従来技術(
図16及び
図17)と同様である。すなわち、
図2に示すように、自公転式気相成膜装置10では、チャンバ110は、チャンバ部材102を通る冷却水104により水冷されている。前記チャンバ110は、プロセスガス(ないし材料ガス)導入部106,対向面温度制御ガス導入部150,パージガス導入部160及び排気部108A,108Bを備えている。そして、チャンバ110内に、成膜用の基板120及び基板ホルダ122を載置するサセプタ124と、前記基板120に対向する対向面21を有する対向面部材20が適宜配置され、これらサセプタ124と対向面部材126の間に成膜空間(フローチャネル)130が形成されている。前記サセプタ124は、回転軸140を中心として回転し、前記基板ホルダ122は、基板120の中心を軸として回転する機構が設けられている。
【0025】
本発明では、上記構成に加え、前記対向面部材20の上側(チャンバ部材102側)に凹凸形状22を設けている。前記対向面部材20は、凹凸形状22の凸部24が、水冷されたチャンバ部材102に接触するように設置し、凹部26には、対向面温度制御ガスを流通することとしている。
【0026】
凹凸形状22の形態の一つの例としては、
図3に示すように、島状(あるいはドット状)の凸部24を多数施した形態がある。前記
図3を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た断面が
図4に示されており、凸部24と凹部26が規則的に配置されている。なお、
図3では、凸部24の平面形状は円形であるが、例えば、四角形などにしても効果は同様であるので、任意の形状としてよい。また、凸部24の配置については、
図3では、格子状の周期的な配置としているが、温度の均一性が担保される配置であれば、どのような配置としてもよい。また、島状の形状でなくても、
図5に示す対向面部材20Aのように、中央の開口部28から、外縁に向けて、徐々に幅が広くなるような凹部26Aが、放射状に配置された形状としてもよい。この場合、凸部24Aも、放射状となる。
【0027】
<横型気相成膜装置への適用例>・・・次に、
図6〜
図8を参照して、横型気相成膜装置50への適用例を説明する。
図6は、横型気相成膜装置を示す断面図である。
図7及び
図8は、対向面部材の凹凸形状の一例を示す図である。本例の横型気相成膜装置50の基本的構成は、上述した従来技術(
図18及び
図19)と同様である。すなわち、
図6に示すように、自公転式気相成膜装置50では、チャンバ210は、チャンバ部材202を通る冷却水204により水冷されている。前記チャンバ210は、プロセスガス導入部206,対向面温度制御ガス導入部250,パージガス導入部260及び排気部208を備えている。そして、チャンバ210内に、成膜用の基板220とそれを載置するサセプタ222と、前記基板220に対向する対向面61を形成する対向面部材60が適宜配置され、これらサセプタ222と対向面部材226の間に成膜空間(フローチャネル)230が形成される。以上の構造の横型気相成膜装置200では、サセプタ222が回転軸240を中心として回転する機構のみが設けられている。
【0028】
本発明では、上記構成に加え、前記対向面部材60の上側(チャンバ部材202側)に凹凸形状62を設けている。前記対向面部材60は、凹凸形状62の凸部64が、水冷されたチャンバ部材202に接触するように設置し、凹部66には、対向面温度制御ガスを流通することとしている。前記凹凸形状62の具体的なパターンとしては、例えば、
図7に示すように、格子状に周期的に凸部64を配置した形状がある。
図7を#B−#B線に沿って切断し矢印方向に見た断面は、前記
図4と同じである。また、
図8に示す対向面部材60Aのように、プロセスガスの流れる方向に延長した複数の凸部64Aを、平行に設けるようにしてもよい。この場合、複数の凹部66Aも平行な配置となる。
【0029】
<各部の素材>・・・次に、各部の材質について説明する。チャンバ材質の例としては、一般的によく使われるステンレスでもよいし、良好な熱伝導率が必要であれば、アルミニウムなどを用いてもよい。サセプタあるいは基板ホルダには、グラファイトなどのカーボン系の材料が好適である。仮に成膜対象が窒化物系であり、アンモニアをプロセスガスで用いる場合は、カーボン材を用いるとアンモニアにより腐食されるため、この場合は、炭化珪素、窒化ホウ素、タンタルカーバイドなどのアンモニア耐性のある物質により被覆されたカーボン材料を用いるのがよい。対向面部材としては、サセプタと同様にカーボン材料、あるいは上述したように他材料で被覆されたカーボン材料が好適であるが、他に石英、各種セラミック、各種金属材料なども、プロセス環境下での耐性があれば使用可能である。
【0030】
<シミュレーション>・・・本発明を実施するにあたり重要な設計要素となるのは、対向面部材における基板に対向する領域において、該領域の全体面積(以下単に「全体」とする)に対する凸部(接触部)の面積比と凸部の高さである。また、凹凸の周期は対向面表面の温度分布に関係するため、これも設計パラメータの一つである。これらの設計パラメータの性質は、以下のシミュレーション例の中で詳細に説明する。
【0031】
先に述べたように、全体に対する凸部の面積比は、対向面温度の制御可能温度にとって重要である。凸部の面積比が大きくなるほど制御温度の下限は低くなり、制御可能範囲は小さくなるものと考えられる。また、凸部の高さについては、高さが低いほど対向面温度は低くなり、高ければ逆に高くなると考えられるので、所望の対向面温度を得るためのパラメータとして使える可能性がある。そこで本実施例では、あるシミュレーションモデルを設定し、凸部の面積比及び凸部高さを変化させて、これらのパラメータが対向面温度に及ぼす影響について検討した。また、対向面裏面の凹凸形状により対向面表面(サセプタ及び基板に対向する側)の温度分布が形成されると考えられるので、対向面表面の温度分布に関しても検討を行った。
【0032】
本シミュレーションでは、本発明の一形態である横型気相成膜装置に、溝タイプの凹凸を対向面裏面に施した形態(
図8に類する形態)を想定することとする。
図9(a)及び(b)は、本シミュレーションを行う領域を決定するための説明図である。一般的な自公転式気相成膜装置や横型気相成膜装置は、水平方向に広がった形状を有するため、実質的な水平方向の熱の移動はほぼ無視できる。すると凹凸形態の周期性を考慮すれば、溝の伸長方向に垂直な半周期分の二次元モデルを解けば十分と考えられる。更に付け加えれば、実質的な横方向の熱移動が無視できることを考慮すれば、該モデルによる結論は、他の実施形態にも適用可能であると推察される。なお、シミュレーションを適用した領域(シミュレーション領域68)は、
図9(b)に太い破線で示された領域である。
【0033】
図10は、本シミュレーションモデルの詳細を示す断面図である。同図に示した各寸法は、実際のMOCVD法において用いられる一般的な寸法となっている。すなわち、サセプタないし基板220から対向面61までの距離(つまり成膜空間の高さ)は15mm、凹凸構造を含む対向面部材60Aの全体の厚みは10mm、チャンバ部材202の厚みは10mmであり、チャンバ部材202の片側は冷却水204に接している。対向面部材60Aとチャンバ部材202の表面に間には、必ず熱的接触抵抗が生じる。接触抵抗の起源は、接触する二つの物体間に必ず生じるミクロな空隙であるので、本シミュレーションでは、0.01mmの空隙が対向面部材60Aとチャンバ部材202の間に存在するものとしてこれを表現した。これは経験的に妥当な数値と考えられる。なお、接触抵抗は、現実には部材の表面粗さなどによりある程度調整が可能である。
【0034】
モデル各部の物性値は、一般に開示されている各材料の物性を元に、以下のように設定した。
(1)サセプタ(基板220)からの放射率はカーボン系材料を想定し、0.85とした。
(2)成膜領域である空間の熱伝導率は、通常キャリアガスとして最もよく使われる水素を想定して、0.235W/m/sとした。
(3)対向面部材60Aはカーボン系材料を想定して、放射率0.85及び熱伝導率100W/m/sとした。
(4)対向面温度制御ガスが流通する領域(凹部66A)は、水素及び窒素の2パターンについて実施し、その際それぞれ0.235及び0.034の熱伝導率を設定した。
(5)チャンバ部材202は、ステンレスを想定して放射率0.4、熱伝導率17W/m/sとした。
(6)温度境界条件に関しては、高温側はサセプタ(基板220)表面であり、これを1050℃とし、低温側はチャンバ部材102と冷却水204の界面であり、これを40℃とした。
【0035】
上記の物性のうち、カーボン系部材の部分は、例えば、他材料により被覆されている場合でも、被覆の厚みは薄いため、熱伝導率はカーボン材のそれと変わらないとみなしてよい。また、放射率に関しては、炭化珪素被覆はカーボン材とほぼ同じであり、窒化ホウ素被覆も被覆厚みが小さければ、カーボンの放射率と大きく変わらない。つまり、これらの材料使用の下では、現実にもシミュレーションとほぼ同様の結果が得られるものと考えられる。
【0036】
上記モデル及び物性値を用い、様々な凹凸面積比、凹凸高さに対しシミュレーションを実施した。本シミュレーションは、不透明体である対向面部材60A及びチャンバ部材202内部は熱伝導のみを扱い、透明体である気体で満たされた成膜空間と、対向面部材60Aとチャンバ部材202の間の空隙は、気体を通じた熱伝導に加え、放射による熱移動も計算に入れた。
【0037】
図11に、シミュレーションの結果得られた、ヒータから冷却水に至る部分の温度分布の一例を示す。なお分かりやすいように異なる温度表示スケールで2通り図示した。この例は、凸部面積比は0.5、凸部高さは1mm、対向面温度制御ガスは水素100%の条件で計算した結果である。各条件に対して同様のシミュレーションを実行し、得られた結果から、凸部面積比及び凸部高さが、対向面表面温度に及ぼす影響を
図12〜
図15にまとめた。なお、これらの図において横軸はどれも全体面積に対する凸部(接触部)の面積比(以下「凸部面積比」とする)となっている。
【0038】
図12は、全体面積に対する凸部面積比と対向面温度(℃)(縦軸)の関係を示す図である。なお本図には、対向面温度制御ガスH
2及びN
2双方についての対向面温度が示されている。
図12によれば、予想されるように接触部面積比が小さくなるほど対向面温度は高くなることが分かる。すなわち、面積比を適切に選択することで、任意の対向面温度の制御温度域を得ることができる。200〜250℃とするには凸部面積比0.3〜0.6が適当であることが分かる。
【0039】
図13は、凸部面積比と対向面温度制御幅(℃)(縦軸)の関係を示す図である。同図によると、面積比が小さいほうが制御幅は大きく、その点では好ましい。実際にどの面積比を用いるかは、温度域と制御幅の双方を考慮して、最低の面積比を決定することとなる。また、
図13からは、制御幅は凸部の高さ依存性は小さいことも見て取れる。つまり、凸部の高さを大きくしても、制御幅にはそれほど有利に働かないことが分かる。
【0040】
図14及び
図15は、凸部面積比と対向面表面温度分布の大きさ(℃)(縦軸)の関係を示す図である。
図14は、対向面制御ガスが水素の場合の、
図15は対向面制御ガスが窒素の場合の、対向面温度の最高温度と最低温度の差を示している。当然ながら凸部(接触部)近辺では温度が低く、凹部では温度が高くなる。これによれば、凸部高さが高いほど、対向面表面内の温度差が大きくなる。つまり、凸部高さが高いと、制御幅はさほど変わらず、対向面表面の温度分布が悪くなるということであり、凸部高さは、あまり高くしないほうがよいことが分かる。
図14及び
図15から判断すれば、凸部高さは2mm以下が適当と考えられる。加工精度の観点からは、凸部高さは大きいほど良いが、2mm以上では表面温度分布悪化の弊害が無視できないからである。
【0041】
先に述べたように、窒化物の成膜プロセスの場合、対向面温度は200〜250℃程度が適当である。その条件に合致するためには、
図12〜
図15から、接触部(凸部)の面積比は、0.3〜0.6、凸部の高さは2mm以下が適当であることが分かる。凸部の面積比及び凸部高さの最適値は、対象となる成膜種や対向面部材として用いる材料、あるいは成膜条件等により異なるものの、多くのケースにおいては前記範囲内で設定するのが適当と考えられる。
【0042】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。すなわち、従来方法では大面積にわたり、均一に0.1〜0.2mm程度という狭い空隙幅を実現しなければならないため、精密な加工精度が要求されるところである。それに対し、本発明は、2mm程度という比較的大きな高低差でよいため、加工の難易度が大幅に低減する。したがって、大面積にわたり対向面温度の良好な均一性が低コストで得られることになる。また、従来方法と異なり、チャンバ壁に接触する面積が大きいことから、設置の再現性、安定性が増す。以上のように、本実施例によれば、大面積の対向面であっても、200〜250℃程度の対向面温度が、良好な均一性及び良好な再現性をもって実現可能となる。
【0043】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状,寸法も一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(2)前記実施例では、自公転式気相成膜装置及び横型気相成膜装置を例に挙げて説明したが、本発明は、水平方向の(成膜空間)フローチャネルが形成される反応炉全般に適用可能である。
(3)前記実施例で示した各部の材料や、プロセスガス、対向面温度制御ガス、パージガスも一例であり、同様の効果を奏する範囲内で、適宜変更可能である。
(4)前記実施例で示した凹凸形状も一例であり、同様の効果を奏する範囲内で適宜設計変更可能である。