特開2019-80036(P2019-80036A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-80036(P2019-80036A)
(43)【公開日】2019年5月23日
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20190426BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20190426BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20190426BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F1/153 108
   H01F27/255
   H01F1/153 133
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-113180(P2018-113180)
(22)【出願日】2018年6月13日
(11)【特許番号】特許第6504730号(P6504730)
(45)【特許公報発行日】2019年4月24日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0136768
(32)【優先日】2017年10月20日
(33)【優先権主張国】KR
(71)【出願人】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】クォン、サン キュン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ハン ウール
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、チャン ハク
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BB03
5E041BD03
5E070AA01
5E070AB03
5E070BB02
5E070BB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粉末状のFe系ナノ結晶粒合金を有するコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品100は、コイル部103が内部に配置された本体101と、コイル部に接続された外部電極120、130とを含む。本体は、内部にFe系ナノ結晶粒合金からなる金属粒子を含む。Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて1つ又は2つのピークを有し、2つのピークを有する場合、1次ピークの大きさが2次ピークより小さい形態である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル部が内部に配置された本体と、
前記コイル部に接続された外部電極とを含み、
前記本体は、内部にFe系ナノ結晶粒合金からなる金属粒子を含み、
前記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて1つ又は2つのピークを有し、2つのピークを有する場合、1次ピークの大きさが2次ピークより小さい、コイル部品。
【請求項2】
前記1次ピークは、前記2次ピークの80%以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記1次ピークは、前記2次ピークの50%以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記1次ピークは、前記2次ピークの20%以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記金属粒子は、前記Fe系ナノ結晶粒合金からなるナノ結晶粒を含み、前記ナノ結晶粒の大きさは、20〜50nmである、請求項1から4のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記Fe系ナノ結晶粒合金は、Fe(100−a−x−y−z−p−q)CoSiCuの組成式で表され、ここで、0≦a≦0.5、2≦x≦17、6≦y≦15、0<z≦5、0.5≦p≦1.5、0≦q≦8を満たし、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択される少なくとも1種の元素である、請求項1から5のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記Fe系ナノ結晶粒合金が1つのピークを有する場合、前記ピークは、600〜800℃である、請求項1から6のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記Fe系ナノ結晶粒合金が2つのピークを有する場合、前記1次ピークは、400〜550℃である、請求項1から6のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記2次ピークは、600〜800℃である、請求項8に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルテレビ、携帯電話、ノートブックコンピュータなどの電子機器の小型化及び薄型化に伴い、これらの電子機器に適用されるコイル部品にも小型化及び薄型化が要求されており、このような要求に応えるために、様々な形態の巻線タイプ又は薄膜タイプのコイル部品の研究開発が活発に行われている。
【0003】
コイル部品の小型化及び薄型化にあたっては、このように小型化及び薄型化を図りながらも、従来と同等の特性を実現することが重要である。このような要求を満たすためには、磁性物質が充填されるコアにおいて磁性物質の比率を増加させなければならないが、インダクタ本体の強度、絶縁性による周波数特性の変化などの理由でその比率を増加させることに限界がある。
【0004】
コイル部品を製造する一例として、磁性粒子や樹脂などが混合されたシートをコイルに積層して加圧することにより本体を実現する方法が用いられている。従来、磁性粒子としてフェライトが多く用いられていたが、近年、透磁率や飽和磁束密度などの特性に優れたFe系金属粉末を用いる試みがなされている。しかし、このようなFe系金属粉末はナノ結晶粒の大きさを制御することが難しいことから、粉末よりは金属リボンの形態で多く用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の様々な目的のうちの1つは、粉末状のFe系ナノ結晶粒合金を有するコイル部品を提供することにあり、上記Fe系ナノ結晶粒合金は優秀かつ安定した磁気特性を有する。このようなコイル部品は、高い透磁率とDCバイアス(bias)特性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する方法として、本発明は、一例により、コイル部品の新規な構造を提案し、具体的には、コイル部が内部に配置された本体と、上記コイル部に接続された外部電極とを含み、上記本体は、内部にFe系ナノ結晶粒合金からなる金属粒子を含み、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて1つ又は2つのピークを有し、2つのピークを有する場合、1次ピークの大きさが2次ピークより小さい形態である。
【0007】
一実施形態において、上記1次ピークは、上記2次ピークの80%以下であってもよい。
【0008】
一実施形態において、上記1次ピークは、上記2次ピークの50%以下であってもよい。
【0009】
一実施形態において、上記1次ピークは、上記2次ピークの20%以下であってもよい。
【0010】
一実施形態において、上記金属粒子は、上記Fe系ナノ結晶粒合金からなるナノ結晶粒を含み、上記ナノ結晶粒の大きさは、20〜50nmであってもよい。
【0011】
一実施形態において、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、Fe(100−a−x−y−z−p−q)CoSiCuの組成式で表され、ここで、0≦a≦0.5、2≦x≦17、6≦y≦15、0<z≦5、0.5≦p≦1.5、0≦q≦8を満たし、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択される少なくとも1種の元素であってもよい。
【0012】
一実施形態において、上記Fe系ナノ結晶粒合金が1つのピークを有する場合、上記ピークは、600〜800℃であってもよい。
【0013】
一実施形態において、上記Fe系ナノ結晶粒合金が2つのピークを有する場合、上記1次ピークは、400〜550℃であってもよい。
【0014】
一実施形態において、上記2次ピークは、600〜800℃であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一例によるコイル部品においては、優秀かつ安定した磁気特性を有する粉末状のFe系ナノ結晶粒合金を活用することにより、透磁率とDCバイアス特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電子機器に適用されるコイル部品の例を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態によるコイル部品を概略的に示す斜視図である。
図3図2のI−I'線断面図である。
図4図3のコイル部品において本体領域を拡大して示す図である。
図5図4の金属粒子に含まれる結晶粒を示す模式図である。
図6】比較例1によるFe系ナノ結晶粒合金の発熱特性を示す示差走査熱量グラフである。
図7】比較例2によるFe系ナノ結晶粒合金の発熱特性を示す示差走査熱量グラフである。
図8】比較例3によるFe系ナノ結晶粒合金の発熱特性を示す示差走査熱量グラフである。
図9】実施例によるFe系ナノ結晶粒合金の発熱特性を示す示差走査熱量グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために拡大縮小表示(又は強調表示や簡略化表示)がされることがあり、図面において同一の符号で示される要素は同一の要素である。
【0018】
電子機器
図1は電子機器に適用されるコイル部品の例を概略的に示す図である。
【0019】
図1を参照すると、電子機器には各種電子部品が用いられることが分かり、例えば、アプリケーションプロセッサを中心として、DC/DC、Comm.プロセッサ、WLAN BT/WiFi FM GPS NFC、PMIC、バッテリ、SMBC、LCD AMOLED、オーディオコーデック、USB 2.0/3.0 HDMI(登録商標)、CAMなどが用いられる。ここで、これらの電子部品間には、ノイズ除去などを目的として各種コイル部品がその用途に応じて適切に適用されるが、例えば、パワーインダクタ(Power Inductor)1、高周波インダクタ(HF Inductor)2、通常のビーズ(General Bead)3、高周波用ビーズ(GHz Bead)4、コモンモードフィルタ(Common Mode Filter)5などが挙げられる。
【0020】
具体的には、パワーインダクタ(Power Inductor)1は、電気を磁場の形で貯蔵することで出力電圧を維持して電源を安定させるなどの用途で用いられる。また、高周波インダクタ(HF Inductor)2は、インピーダンスをマッチングして必要な周波数を確保したり、ノイズ及び交流成分を遮断するなどの用途で用いられる。さらに、通常のビーズ(General Bead)3は、電源ライン及び信号ラインのノイズを除去したり、高周波リップルを除去するなどの用途で用いられる。さらに、高周波用ビーズ(GHz Bead)4は、オーディオに関連する信号ライン及び電源ラインの高周波ノイズを除去するなどの用途で用いられる。さらに、コモンモードフィルタ(Common Mode Filter)5は、ディファレンシャルモードでは電流を通過させ、コモンモードノイズのみを除去するなどの用途で用いられる。
【0021】
電子機器は、スマートフォン(Smart Phone)が代表的であるが、これに限定されるものではなく、例えば、個人情報端末(personal digital assistant)、デジタルビデオカメラ(digital video camera)、デジタルスチルカメラ(digital still camera)、ネットワークシステム(network system)、コンピュータ(computer)、モニタ(monitor)、テレビ(television)、ビデオゲーム(video game)、スマートウォッチ(smart watch)などでもあり得る。これらの他にも、通常の技術者によく知られている他の様々な電子機器などであってもよいことは言うまでもない。
【0022】
コイル部品
以下、本発明のコイル部品について説明するにあたって、便宜上、インダクタ(Inductor)の構造を例に挙げて説明するが、前述したように、他の様々な用途のコイル部品にも本実施形態で提案するコイル部品を適用できることは言うまでもない。
【0023】
図2は本発明の一実施形態によるコイル部品の外形を概略的に示す斜視図である。図3図2のI−I'線断面図である。また、図4図3のコイル部品において本体領域を拡大して示す図であり、図5図4の金属粒子に含まれる結晶粒を示す模式図である。
【0024】
図2及び図3を参照すると、本発明の一実施形態によるコイル部品100は、コイル部103が内部に配置された本体101と外部電極120、130とを主な要素として含む構造である。
【0025】
本体101は、コイル部103を含み、図4に示す形態のように、金属粒子111を含むものでもよい。具体的には、金属粒子111が樹脂などからなるベース112に分散した形態であってもよい。この場合、金属粒子111は、Fe系ナノ結晶粒合金からなるが、例えば、Fe−Si−B−Nb−Cu系合金からなるものであってもよく、Fe系ナノ結晶粒合金の組成については後述する。また、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて1つのピークのみを有するか又は2つのピークを有するが、2つのピークを有する場合、1次ピークの大きさが2次ピークより小さい特性を有し、このような特性を有する場合、ナノ結晶粒の大きさや相(phase)などが適切に制御されることから、インダクタへの使用に適した磁気特性を示す。合金粉末の発熱特性についても詳細は後述する。
【0026】
コイル部103は、コイル部品100のコイルから発現する特性により電子機器内で様々な機能を果たす。例えば、コイル部品100は、パワーインダクタであってもよく、この場合、コイル部103は、電気を磁場の形で貯蔵することで出力電圧を維持して電源を安定させる役割などを果たす。この場合、コイル部103を形成するコイルパターンは、支持部材102の両面上にそれぞれ積層された形態であってもよく、支持部材102を貫通する導電性ビアを介して電気的に接続されるようにしてもよい。コイル部103は、螺旋(spiral)状に形成されてもよいが、その螺旋状の最外側には、外部電極120、130との電気的な接続のために、本体101の外部に露出する引出部Tを含むようにしてもよい。コイル部103を形成するコイルパターンは、当該技術分野で用いられるめっき工程、例えばパターンめっき、異方めっき、等方めっきなどの工程で形成してもよく、これらの工程のうち複数の工程を用いて多層構造に形成してもよい。
【0027】
コイル部103を支持する支持部材102は、ポリプロピレングリコール(PPG)基板、フェライト基板、金属系軟磁性基板などで形成されてもよい。この場合、支持部材102の中央領域には貫通孔が形成されてもよく、上記貫通孔には磁性材料が充填されてコア領域Cを形成するようにしてもよいが、このようなコア領域Cは本体101の一部を構成する。このように、磁性材料が充填された形態でコア領域Cを形成することにより、コイル部品100の性能を向上させることができる。
【0028】
外部電極120、130は、本体101の外部に形成されて引出部Tに接続されるように形成されてもよい。外部電極120、130は、電気伝導性に優れた金属を含むペーストを用いて形成してもよく、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、スズ(Sn)、銀(Ag)などを単独で含むか又はそれらの合金などを含む導電性ペーストであってもよい。また、外部電極120、130上にめっき層(図示せず)をさらに形成してもよい。この場合、上記めっき層は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びスズ(Sn)からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含んでもよく、例えば、ニッケル(Ni)層とスズ(Sn)層が順次形成されるようにしてもよい。
【0029】
前述したように、本実施形態において、金属粒子111は、Fe系ナノ結晶粒合金からなり、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて1つ又は2つのピークを有し、2つのピークを有する場合、1次ピークの大きさが2次ピークより小さい形態である。すなわち、低い温度の結晶化エネルギーが高い温度で発生する結晶化エネルギーより小さい形態である。この場合、図5に示す形態のように、金属粒子111はナノ結晶粒140を含み、ナノ結晶粒140の大きさ(d)は約20〜50nmである。
【0030】
また、Fe系ナノ結晶粒合金は、飽和磁束密度などの特性に優れ、粉末状の製造に適した組成範囲を有するように選択されてもよい。具体的には、上記Fe系ナノ結晶粒合金は、Fe(100−a−x−y−z−p−q)CoSiCuの組成式で表され、ここで、0≦a≦0.5、2≦x≦17、6≦y≦15、0<z≦5、0.5≦p≦1.5、0≦q≦8を満たし、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択される少なくとも1種の元素であってもよい。
【0031】
本発明者らの研究によれば、同じ組成及び大きさを有するFe系ナノ結晶粒合金の粉末であっても、実際の結晶粒の析出態様が異なり、それにより得られたコイル部品のインダクタンスや効率が異なり、その様相は合金粉末の発熱特性の測定から分かることが確認された。すなわち、Fe系ナノ結晶粒合金粉末は、組成や大きさだけでは発現する特性を正確に予測することが困難であり、熱分析により発熱特性を明らかにすることにより、インダクタに適用する際にインダクタンスなどの特性を十分に予測することができた。
【0032】
これについて比較例1〜3と実施例を参照して説明する。図6図9は実験に用いられたFe系ナノ結晶粒合金の発熱特性を示す示差走査熱量グラフである。ここで、図6図8はそれぞれ比較例1〜3を、図9は実施例を示す図である。まず、本発明者らが実験に用いた各サンプルの具体的な組成はFe73.5Si15.5NbCuであり、各サンプルは同じ組成を有するが微細構造が異なる。
【0033】
このように微細構造が異なる各サンプルで合金粉末を製造し、それらの熱分析を行った。熱分析は、TA Instrument社の製品SDT600を用いて行い、1分当たり40℃の速度で昇温させながら測定を行った。また、合金粉末が酸化しないようにアルゴン(Ar)雰囲気で測定を行った。その結果、各比較例と実施例において合金粉末の発熱特性が異なったが、それはそれぞれの粉末においてナノ結晶粒の含量や分布などが異なるからであると理解できる。
【0034】
下記表1は各比較例と実施例により製造されたインダクタの特性(インダクタンス、効率)、合金粉末の結晶粒の大きさ、熱分析時の結晶化エネルギー(W/g)をまとめて示すものである。ここで、インダクタンスは、巻回数と磁性体の透磁率によって決定され、インピーダンス分析器を用いて評価することができる。同じ体積、巻回数の場合、透磁率が高いほどインダクタンスは増加する。効率は、例えば、回路の前後の電圧と電流の変化量を測定して評価することもでき、B−H分析器などの評価装置を用いて測定したコア損失値を用いて計算することもできる。
【0035】
【表1】
【0036】
まず、比較例1の場合、2つの著しい発熱ピークがみられ、1次ピークの方が2次ピークより大きい。このような熱分析の結果から、比較例1はナノ結晶粒が非常に微量含まれるか存在しない合金の特性を示すことが分かる。すなわち、比較例1は実質的に非晶質特性を有する。この場合、500℃付近の1次発熱ピークでは、α−Fe(Si)が形成される過程で高い結晶化エネルギーが発生し、600℃付近の2次発熱ピークでは、Fe−B化合物が形成される過程で相対的に低い結晶化エネルギーが発生すると判断される。
【0037】
次に、他の比較例と実施例の合金は、微細構造が調節されてナノ結晶粒を含んでいるが、熱分析の結果やインダクタンスなどの特性に明確に区別される程度の違いがあった。具体的には、比較例2(図7)の熱分析を行った結果、2つのピークが現れたが、1次ピークの大きさと2次ピークの大きさがほぼ同じであった。比較例2の場合、分析の結果、ナノ結晶粒の大きさが20nmレベルであったが、実施例に比べて効率が低いという問題があり、これは粉末中に含まれるナノ結晶粒の発生量が少ないからであると説明できる。また、比較例3(図8)の場合、発熱ピークが観察されておらず、ナノ結晶粒の大きさが25nmレベルであったが、インダクタンスや効率などの特性が良好でなく、比較例4のサンプルも、比較例3と類似の結果を示した。これは、比較例3及び4のサンプルの場合、Fe−B化合物が多数形成されることにより透磁率が低下して損失が大きくなったからであると説明できる。
【0038】
実施例1においては、図9のグラフに示す形態のように、約600℃付近で単一のピーク、すなわち1つの発熱ピークのみ現れた。500℃付近ではピークがなく、600℃でのみピークが現れたことから、α−Fe(Si)相が多量存在し、Fe−B化合物はないか微量存在することが分かり、このような合金ではインダクタンスと効率のどちらも優れていた。同様に、1次ピーク(10W/g)が2次ピーク(20W/g)より小さい実施例2においても、比較例に比べて優れた効率を示した。実施例2の示差走査熱量(DSC)グラフは、比較例2(図7)のグラフと類似の形態を有することができ、1次ピークは、400〜550℃の範囲で現れる。
【0039】
前述した実験結果から、粉末状のFe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて単一のピークを有する場合、インダクタンスと効率に優れていることが分かり、この場合、粉末に含まれるナノ結晶粒の大きさは約20〜50nmレベルであった。この場合、実施例においては、上記単一のピークが600℃であったが、より一般的には、上記単一のピークは600〜800℃の範囲を有する。
【0040】
また、前述した粉末状のFe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて必ずしも単一のピークを有するわけではなく、2つのピークを有することもある。ただし、この場合も、1次ピークの大きさが2次ピークより小さくなければならず、具体的には、上記1次ピークは、上記2次ピークの80%以下であってもよい。また、上記1次ピークは、上記2次ピークの50%以下であってもよく、最も好ましくは、上記1次ピークは、上記2次ピークの20%以下であってもよい。このような熱特性を有する合金粉末の場合、Fe−B化合物が含まれないか、極めて微量含まれており、磁気特性に優れている。ここで、Fe系ナノ結晶粒合金が2つのピークを有する場合、異なる相の析出に関する発熱特性を一般化して説明すると、上記1次ピークは400〜550℃であってもよく、また、上記2次ピークは600〜800℃であってもよい。
【0041】
このように、本実施形態で提案するFe系ナノ結晶粒合金は、α−Fe(Si)相が多量存在することから、α−Fe(Si)相の析出時に発生する1次ピークがないか非常に低い特性を示す。これとは異なり、Fe系ナノ結晶粒合金は、Fe−B化合物を含まないか極めて微量含むことから、Fe−B化合物の析出時に発生する2次ピークが相対的に大きい特性を示す。また、このようなFe系ナノ結晶粒合金は、粉末状に製造した場合にナノ結晶粒を含み、優秀かつ安定した磁気特性を示すことができる。さらに、それにより実現されたコイル部品においては、高い透磁率とDCバイアス特性を示すことができる。
【0042】
本発明は、前述した実施形態及び添付の図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲に限定されるものである。よって、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で様々な形態の置換、変形及び変更が可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1 パワーインダクタ
2 高周波インダクタ
3 通常のビーズ
4 高周波用ビーズ
5 コモンモードフィルタ
100 コイル部品
101 本体
102 支持部材
103 コイル部
111 金属粒子
112 ベース
120、130 外部電極
140 ナノ結晶粒
C コア領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2019年2月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル部が内部に配置された本体と、
前記コイル部に接続された外部電極とを含み、
前記本体は、内部にFe系ナノ結晶粒合金からなる金属粒子を含み、
前記Fe系ナノ結晶粒合金は、示差走査熱量(DSC)グラフにおいて1つピークを有し、前記ピークは、600〜800℃である、コイル部品。
【請求項2】
前記金属粒子は、前記Fe系ナノ結晶粒合金からなるナノ結晶粒を含み、前記ナノ結晶粒の大きさは、20〜50nmである、請求項に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記Fe系ナノ結晶粒合金は、Fe(100−a−x−y−z−p−q)CoSiCuの組成式で表され、ここで、0≦a≦0.5、2≦x≦17、6≦y≦15、0<z≦5、0.5≦p≦1.5、0≦q≦8を満たし、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wから選択される少なくとも1種の元素である、請求項1または2に記載のコイル部品。