(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-80720(P2019-80720A)
(43)【公開日】2019年5月30日
(54)【発明の名称】介護用補助装置
(51)【国際特許分類】
A61G 7/14 20060101AFI20190510BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20190510BHJP
【FI】
A61G7/14
B25J11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-209279(P2017-209279)
(22)【出願日】2017年10月30日
(71)【出願人】
【識別番号】317010820
【氏名又は名称】株式会社ファインテクノス
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078949
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 勝美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 星羅
(72)【発明者】
【氏名】大西 公平
(72)【発明者】
【氏名】太田 喜久子
(72)【発明者】
【氏名】下野 誠通
(72)【発明者】
【氏名】溝口 貴弘
【テーマコード(参考)】
3C707
4C040
【Fターム(参考)】
3C707AS38
3C707BS10
3C707BS26
3C707CS05
3C707CV08
3C707CW08
3C707CX01
3C707CX03
3C707HS27
3C707HT02
3C707JT09
3C707KS21
3C707KX15
3C707XK07
3C707XK08
3C707XK25
3C707XK33
4C040AA06
4C040AA08
4C040HH04
4C040JJ03
4C040JJ07
4C040JJ10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】介護者にかかる大なる負担を軽減するとともに、使用者にはストレスを与えず、人間がする介護作業と同等の適宜な力で介護作業をすること。
【解決手段】夫々独立に昇降する一のアーム部11と他のアーム部12とからなる。アーム部11とアーム部12とが同一の共通軸9に回動自在に設けられる。共通軸が設けられる支持アーム7にアーム部11を昇降せしめる操作側の双方向制御部13とアーム部12を昇降せしめる作業側の双方向制御部21が設けられる。各双方向制御部13、21は同一の構成からなる。アーム部11とアーム部12のいずれか一方が使用者の胸部を支持し、他方が使用者の大腿部乃至臀部を支持する。運動制御情報の伝達を双方向的に実現することができるから、人間等の外部環境の影響により介護用補助装置に発生する外乱に対し、介護者が即応すること、即ち、適度な力で迅速に対応することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々独立に昇降する一のアーム部と他のアーム部とからなる介護用補助装置であって、いずれか一方が操作側のアーム部となり、他方が作業側のアーム部となり、
上記一のアーム部と上記他のアーム部とが同一の共通軸に回動自在に設けられ、
上記共通軸が設けられる支持アームに一のアーム部を昇降せしめる操作側の双方向制御部と他のアーム部を昇降せしめる作業側の双方向制御部が設けられ、
上記操作側の双方向制御部と作業側の双方向制御部とが同一の構成からなることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項2】
請求項1記載の介護用補助装置において、上記一のアーム部と上記他のアーム部のいずれか一方が使用者の胸部を支持し、他方が使用者の大腿部乃至臀部を支持することを特徴とする介護用補助装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の介護用補助装置において、上記操作側の双方向制御部がモータと、該モータと同軸の伝動手段とからなり、上記作業側の双方向制御部がモータと、該モータと同軸の伝動手段とからなり、これら一対の双方向制御部が運動制御情報の伝達を並行的にされることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項4】
請求項3記載の介護用補助装置において、上記各伝動手段が、夫々、上記共通軸に軸着され、かつモータの軸と同軸の減速機により減速された動力を夫々のアーム部に伝達するプーリ及びベルトとからなることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4記載の介護用補助装置において、各アーム部の入力軸側のモータに設けられるエンコーダとは別のエンコーダが各アーム部の出力軸側にも設けられることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが昇降自在であることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが回転自在であることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが一の方向に移動可能であることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが一の方向及び該一の方向に直交する方向に移動可能であることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが傾斜する一の方向に移動可能であることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記各アーム部が両持ちの押圧バーからなることを特徴とする介護用補助装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項10のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記各アーム部が片持ちの押圧バーからなることを特徴とする介護用補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は懸架型の介護用補助装置に関し、さらに詳しくは先端運動制御理論を応用した介護用補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年我が国では、高齢者社会に伴う介護需要の増加が問題となっている。厚生労働省のデータによると、現在の日本国内の要介護者数が約622万人であるのに対し、介護人材数は約170万人と少なく、介護人材の人員不足が問題視されている。また、厚生労働省は2025年までには介護人材を少なくとも253万人まで増加させなければ、介護需要を満たすことが出来ないとの発表をしている。現状推移シナリオによる2025年次の介護人材の供給見込みは215万人弱となっており、需要ギャップの37万人強の補充を踏まえ、人材確保に向けた取り組みを早急に行うべきであると言われている。
【0003】
加えて、現在一般的に行われている要介護者を抱きかかえての動作支援は、介護者の肩や腰へ大きな負担を与えてしまうことが知られている。これらの諸問題は日本に限られた話ではなく、近い将来、世界各国において同様の問題を抱える可能性は大いにありえる。
【0004】
従来の動作支援装置は、主に、介護者の負担軽減を目的としたものであり、介護者に装着させて使用するため、装着により関節の動かせる範囲が装置の可動範囲に拘束されてしまい、適した介護動作を取れない難があった。また四六時中の装着は困難であるところ、取外し中における要介護者の排泄動作等には結局装着しないで対応していた。さらに装着時も介護者を支える骨や筋肉に限界があるため、限界を超えた力(トルク)を発生させることはできないし、またマシンの誤作動があると、装着しているため介護者にとり危険を回避することが困難であった。
【0005】
また、人間等の外部環境の影響により補助装置に外乱が発生した場合、これに有効に対応することができず、介護補助の力が不足したり、逆に過剰になったりしていた。前者の場合は介護者の肩や腰へ大きな負担を与えてしまう危険があり、後者の場合は要介護者(以下、「使用者」という)に力が加わりすぎ危険であった。
【0006】
ところで、先端運動制御理論によれば、双方向制御を用いることで、操作対象物の位置と操作対象物に作用する力を制御することができる。これを応答性よく実現し、力検出器を不要とした特許文献1に示すような基本理論および技術例もある。
【0007】
本願発明はかかる先端運動制御理論を介護分野に応用しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4696307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は上記背景より、介護時に介護者にかかる大なる負担を軽減するとともに、使用者にはストレスを与えず、人間がする介護作業と同等の適宜な力で介護作業をすることができる介護用補助装置を供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的達成のため、本願発明による介護用補助装置は、夫々独立に昇降する一のアーム部と他のアーム部とからなる介護用補助装置であって、いずれか一方が操作側のアーム部となり、他方が作業側のアーム部となり、上記一のアーム部と上記他のアーム部とが同一の共通軸に回動自在に設けられ、上記共通軸が設けられる支持アームに一のアーム部を昇降せしめる操作側の双方向制御部と他のアーム部を昇降せしめる作業側の双方向制御部が設けられ、上記操作側の双方向制御部と作業側の双方向制御部とが同一の構成からなることを特徴とする。
また、請求項1記載の介護用補助装置において、上記一のアーム部と上記他のアーム部のいずれか一方が使用者の胸部を支持し、他方が使用者の大腿部乃至臀部を支持することを特徴とする。
また、請求項1又は請求項2記載の介護用補助装置において、上記操作側の双方向制御部がモータと、該モータと同軸の伝動手段とからなり、上記作業側の双方向制御部がモータと、該モータと同軸の伝動手段とからなり、これら一対の双方向制御部が運動制御情報の伝達を並行的にされることを特徴とする。
また、請求項3記載の介護用補助装置において、上記各伝動手段が、夫々、上記共通軸に軸着され、かつモータの軸と同軸の減速機により減速された動力を夫々のアーム部に伝達するプーリ及びベルトとからなることを特徴とする。
また、請求項3又は請求項4記載の介護用補助装置において、各アーム部の入力軸側のモータに設けられるエンコーダとは別のエンコーダが各アーム部の出力軸側にも設けられることを特徴とする。
また、請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが昇降自在であることを特徴とする。
また、請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが回転自在であることを特徴とする。
また、請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが一の方向に移動可能であることを特徴とする。
また、請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが一の方向及び該一の方向に直交する方向に移動可能であることを特徴とする。
また、請求項1乃至請求項7のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記支持アームが傾斜する一の方向に移動可能であることを特徴とする。
また、請求項1乃至請求項10のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記各アーム部が両持ちの押圧バーからなることを特徴とする。
また、請求項1乃至請求項10のいずれか一記載の介護用補助装置において、上記各アーム部が片持ちの押圧バーからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願発明による介護用補助装置によれば、運動制御情報の伝達を双方向的に実現することができるから、人間等の外部環境の影響により介護用補助装置に発生する外乱に対し、介護者が即応し、適度な力で迅速に対応することができる。
【0012】
人間がする介護作業と同等の適宜な力で介護作業をすることができるので、介護時に介護者にかかる大なる負担を軽減することができ、また使用者には無用のストレスを与えない効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本願発明による介護用補助装置の一実施の形態を示す正面視一部断面図である。
【
図6】
図1の使用例を示し、(A)は座位の状態を示す側面図、(B)は立位の状態を示す側面図である。
【
図7】
図1の他の使用例を示し、(A)は立位の状態を示す側面図、(B)は歩行の状態を示す側面図である。
【
図8】
図1のさらに他の使用例を示し、(A)は歩行の状態を示す側面図、(B)は段差歩行の状態を示す側面図である。
【
図11】(A)(B)は、本願発明による介護用補助装置の一実施の形態の機能を説明するために用いる図であり、(A)は座位姿勢の概略側面図、(B)は立位姿勢の概略側面図、(C)は対比例を示す概略側面図、(D)は同立位姿勢の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本願発明による介護用補助装置1の一実施の形態を示す。なお、便宜上同一の機能を奏する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0015】
図1乃至
図5において、1はベースであり、天井3(
図2乃至
図4に示す)に架設されるレール5に一の方向(
図2、
図3、
図4の矢印方向)に移動可能に設けられる。2は旋回モータである。7は支持アームであり、上記ベース1に回転自在に、かつ回動動作により昇降自在に設けられる。8は該支持アーム7を駆動するモータである。9は上記支持アーム7の共通軸であり、該共通軸9に、一対のアーム部11、12が設けられる。アーム部11、アーム部12は夫々独立に動き、回動動作により各独立に昇降する。上記アーム部の一方が操作側のアーム部となり、他方が作業側のアーム部となる。
本実施例では上方に位置する外側のアーム部が操作側アーム部11となり、下方に位置する内側のアーム部が作業側アーム部12となる。上記操作側アーム部11は一対のアーム11a、11bからなり、先端部に該アーム11a、11bに固着され使用者の胸部を支持する押圧バー11cが設けられる。上記作業側アーム部12は一対のアーム12a、12bからなり、先端部に該アーム12a、12bに固着され使用者の大腿部乃至臀部を支持する押圧バー12cが設けられる。上記支持アーム7内に各独立に運動制御される操作側の双方向制御部13及び作業側アーム部12を昇降せしめる作業側の双方向制御部21が設けられる。
【0016】
上記操作側の双方向制御部13と作業側の双方向制御部21とは同一の構成からなる。即ち、操作側の双方向制御部13はモータ14と、該モータ14と同軸に軸着された減速機16、該減速機16を介してモータ14に軸着される伝動手段17とからなる。該伝動手段17はモータ14の軸に軸着される駆動プーリ17aと、上記共通軸9に軸着される従動プーリ17bと、両プーリ17a、17b間に掛け渡されたベルト17cとからなり、減速された動力を共通軸9に伝達する。作業側の双方向制御部21はモータ22と、該モータ22と同軸に軸着された減速機24、該減速機24を介してモータ22に軸着される伝動手段25とからなる。該伝動手段25はモータ22の軸に軸着される駆動プーリ25aと、上記共通軸9に軸着される従動プーリ25bと、両プーリ25a、25b間に掛け渡されたベルト25cとからなり、減速された動力を共通軸9に伝達する。これら一対の双方向制御部13、21は並列に接続され、情報の伝達が併行してなされる。15は操作側の双方向制御部13のモータ14に付設されたエンコーダであり、23は作業側の双方向制御部21のモータ22に付設されたエンコーダであり、ともに操作側の入力軸側エンコーダ18(
図9に示す)又は作業側の入力軸側エンコーダ26(
図9に示す)とは別に各出力軸側に設けられる。32は入力軸側のギヤであり、入力軸側のモータ31と同軸に設けられる。33はモータ31に設けられるエンコーダである。
【0017】
図5は本願発明による双方向制御部13、21の概略構成図である。操作側の双方向制御部13と作業側の双方向制御部21とは図示しない電源に対し並列に接続され、情報の伝達が併行してなされる。操作側の双方向制御部13は、上記電源から、電磁接触器37を経てモータドライバ38に接続され、該モータドライバ38より、エンコーダ15が付設されたモータ14に接続される。一方作業側の双方向制御部21は、上記電源から、電磁接触器39を経てモータドライバ40に接続され、該モータドライバ40より、エンコーダ23が付設されたモータ22に接続される。上記モータドライバ38、40は、夫々、コンピュータ43の中枢運動制御部41に接続されている。一方、モータドライバ38、40には、上記した操作側の双方向制御部13及び作業側の双方向制御部21が接続されている。なお、各双方向制御部13、21の電源は共通であっても、別々のものであってもよい。
【0018】
操作側となる一方のアーム部11、12に外乱力が作用した場合、駆動力が減速されて減速機16(24)より操作側となる一方の双方向制御部13(21)に伝動されるから、そのアナログ出力電圧による信号が夫々上記モータドライバ38(40)に出力される。この信号が中枢運動制御部41に入力され、電力の変化として出力されるので、この電力の変化を中枢運動制御部41にて検出することにより、操作側となる一方のモータ14(22)のトルクが制御され、これに伴い作業側となる他方のモータ22(14)が動作し、操作側及び作業側の力が調整される。なお、本段落において()内の符号は、外乱力がアーム部12に作用した場合を表わす。
【0019】
次に
図6を参照して便器51への立ち坐りといった支援動作について説明する。まず、
図6(B)に示すように、要介護の使用者Aがトイレの便器51まで来る。このとき使用者Aの胸部には押圧バー11cが当たっており、また大腿部には押圧バー12cが当たっている。即ち、使用者Aはアーム11a、11b及び押圧バー11cにて囲繞されたスペースエリアS(
図1に示す)内に上半身を入れ、胸部が押圧バー11cに当接・支持され、また大腿部が押圧バー12cに当接・支持された状態で、便器51の所定の位置に来る。このとき使用者Aの姿勢は立位となっている。なお、トイレまでの歩行に関しては
図7での説明に譲る。
【0020】
次いで、
図6(A)に示すように、介護者Bの支援動作により使用者Aが便器51に座り、座位の姿勢となる。介護者Bは、操作部となる押圧バー11cに適宜の力つまり外圧をかけ、使用者Aが押圧バー11cに上腕部を支持された状態で、使用者Aを便器51に坐らせる。この過程で使用者Aに円滑に座位の姿勢をとることに支障となる何らかの外乱要因がある場合について考える。例えば、使用者Aが円滑にしゃがみ込めないときは、介護者Bによる押圧バー11cの押圧動作に対抗する力が作業側の押圧バー12cにかかるから、これが外乱情報として操作側アーム部11に伝達される。そこで介護者Bは適宜に加減した力により押圧バー11cをコントロールすることができるので、使用者Aは座位の姿勢をとるに際し痛みや苦痛を感ずることなく坐ることができるのである。これは、介護者Bが操作する操作側の双方向制御部13と使用者Aが当接する作業側の双方向制御部21が同一の構成からなるため、位置制御と力制御が即応的に操作側に伝わり、介護者Bが適宜に加減した力により押圧バー11cをコントロールするためである。
【0021】
座位の姿勢から立位の姿勢に移行するときは、上記とは反対の動作となる。介護者Bは操作部となる押圧バー11cを適宜の力にて押し上げる。すると、作業側の押圧バー12cが使用者Aの臀部乃至大腿部を押し上げるので使用者Aは立位の姿勢をとることができる。この過程においても、使用者Aが円滑に立ち上がれないときは、介護者Bによる押圧バー11cの上方への押圧動作に対抗する力が押圧バー12cにかかるから、これが外乱情報として操作側アーム部11に伝達される。そこで、上述のように、介護者Bは適宜に加減した力により押圧バー11cをコントロールすることができるので、使用者Aは立位の姿勢をとるに際し痛みや苦痛を感ずることなく立ち上がることができるのである。
【0022】
ここでサーボモータによる一般的な制御と本願発明による制御を比較してみる。
位置制御は、現在の座標から指定の座標まで正確に移動・停止ができるという特徴があり、反面、移動中になんらかの外力が発生した場合には指定の座標まで駆動し続けようとする。指定の座標まで移動不可能な場合は、一定時間経過後に異常状態として停止することができる。速度制御は、目標位置が変化した場合でも、時間経過に伴って任意の速度で応答できるという特徴があり、反面、運転中になんらかの外力が発生した場合には目標速度を維持し続けようとする。トルク制御は指定のトルクで運転ができるという特徴があり、反面、運転中に外力が発生しない場合は加速し続けようとする。しかしながら、常に変化する位置、速度、トルクに的確に対応するには、上記した一般的な制御方法を適応するだけでは不十分となってしまい、人体に使用するには危険であり、介護に適用するのが困難である。
これに対し、本願発明による制御は双方向制御を用いることにより、介護者が自身の動作により位置、速度、トルクを時々刻々と任意に変化させることが可能である。これにより人体に適用しても安全上の問題が解消され、介護用に制御、使用することができるのである。
【0023】
またここでアーム部を一対にした理由を述べる。本願発明による応答性のよい制御、つまり先端運動制御理論を用いた双方向制御においては2個の駆動部が必要であり、いずれか一方を一のアーム側とし、他方を他のアーム側とし、位置情報と力情報を双方向に伝送することにより、位置・力制御をすることができる。また位置センサによる力推定を併用することにより、力センサを用いず、位置・力制御をすることができる。(この基本理論に関しては特許第4696307号参照)。
【0024】
当初、
図10に示すように、アームが単一のもの(つまり、本願発明の操作側アーム部11又は作業側アーム部12に相当する単一のアーム)につき試作し、実験した。しかしながら、このような一軸性アーム部11’の構成では、使用者が胸部に配された押圧バー11c’に上腕部の力だけで立ち上がることになるため、上腕が押圧バー11c’に押し開かれてしまい、万歳の状態となって立ち上がることが非常に困難となり、最悪の場合転倒してしまうこともあった。一方、
図10に一点鎖線で示す位置に押圧バー11c’を配し使用者Aを押し上げると、上半身が支持されていないため不安定となり、大腿部乃至臀部を押し上げるときの勢いにより転倒リスクが大となり、最悪の場合転倒してしまうこともあった。
【0025】
このように本願発明では、アーム部11、12を単に一対に構成したのではなく、2個のアーム部の動作位置を人体の胸部と大腿部乃至臀部に働くように特定したのである。これにより使用者Aの坐り込み動作や立ち上がり動作のバランスが取り易くなり、姿勢変更に伴う重心移動において、使用者Aの動作が安定化する効果がある。また上記構成とすることにより、胸部乃至上腕部と、大腿部乃至臀部の2個所に力が分散するので、使用者Aがより小さな力で動作することが可能となる。これにより安心感につながる効果もある。さらに使用者Aが立ち上がりに失敗し、坐り込んだときでも、下側のアーム部のさらなる下進が防止されるので、使用者Aがつぶされないで済む。
【0026】
本願発明はいわば2軸性のアーム部というべきものであり、いずれか一のアーム部を操作側とし他を作業側としてもよいから、介護者Bからも使用者Aからもいずれの側からも操作することができる効果がある。よって本願発明によれば、単なる介護だけでなく、
図7及び
図8で述べるような歩行補助やリハビリテーション等、幅広い生活支援や自立支援にも使用できる効果がある。
【0027】
次に
図7を参照して歩行支援動作について説明する。
図7(A)に示すように、使用者Aはアーム11a、11b(
図1に示す)及び押圧バー11cにて囲繞されたスペースエリアS(
図1に示す)内に上半身を入れ、胸部が押圧バー11cに当接・支持され、また大腿部が押圧バー12cに当接・支持された状態で、即ち立位姿勢で立っている。使用者Aは、この状態で、
図7(B)に示すように、介護者Bの支援の下に歩行する。この歩行動作中の重心移動において、使用者Aは上半身が押圧バー11cに支持されるため、バランスが取り易いので、歩行動作が安定化する。また胸部即ち上腕部と、大腿部乃至臀部の2個所に外乱力が分散するので、使用者Aがより小さな力で歩行動作することが可能となる。これにより安心感につながる効果もある。さらにいずれか一のアーム部を操作側とし他を作業側としてもよいから、介護者Bからも使用者Aからもいずれの側からも操作することができる効果がある。
【0028】
なお、操作側アーム部11、作業側アーム部12が支持されるベース1は前進、後進いずれも可能であるから、
図7(B)から
図7(A)に戻ることもできる。戻る際の使用者Aの向きは
図7(B)において左側に向いて歩行してもよいが、リハビリテーション等においては図示例のように右向きのまま逆歩行により戻ることもできる。
【0029】
次に
図8を参照して段差歩行支援動作について説明する。
図8(A)に示すように、使用者Aはアーム11a、11b(
図1に示す)及び押圧バー11cにて囲繞されたスペースエリアS(
図1に示す)内に上半身を入れ、胸部が押圧バー11cに当接・支持され、また大腿部が押圧バー12cに当接・支持された状態で、即ち立位姿勢で立っている。使用者Aは、この状態で、
図8(B)に示すように、介護者Bの支援の下に階段等の段差を歩行する。この段差歩行動作中の重心移動において、使用者Aは上半身が押圧バー11cに支持されるため、バランスが取り易いので、段差歩行動作が安定化する。また胸部乃至上腕部と、大腿部乃至臀部の2個所に外乱力が分散するので、使用者Aがより小さな力で段差歩行動作することが可能となる。これにより安心感につながる効果もある。さらにいずれか一のアーム部を操作側とし他を作業側としてもよいから、介護者Bからも使用者Aからもいずれの側からも操作することができる効果がある。
【0030】
なお、操作側アーム部11、作業側アーム部12が支持されるベース1は前進、後進いずれも可能であるから、
図8(B)から
図8(A)に戻ることもできる。戻る際の使用者Aの向きは
図8(B)において左側に向いて歩行してもよいが、リハビリテーション等においては図示例のように右向きのまま、逆歩行により戻ることもできる。
【0031】
上記実施の形態による介護用補助装置は、
図9に示すように、入力軸側に設けられるエンコーダ18、26とは別のエンコーダ15、23が操作側アーム部11及び作業側アーム部12のモータ14、22の出力軸側にも設けられている。即ち、本願発明では、使用者Aの体重を考慮し、減速比を大(実施例では1/160)として大なるトルクを得る必要があるところ、このようにすると、装置が位置センサによるデリケートな位置情報に依存するため、大なる減速比による数値のズレが生じ、繊細な力の検出をすることができないおそれがある。これを防止するため入力軸側のエンコーダ18、26とは別に出力軸側のエンコーダ15、23を設けたのである。よって、上記実施の形態によれば、使用者Aの微細な力の変化による出力軸の微小な変位も検出することができ、介護者Bによる即応的操作をすることができる。また各アーム部の減速機16、24の摩擦抵抗を考慮すると、入力軸側とは別に出力軸側にもエンコーダ15、23が設けられているため、入力軸、出力軸の相関関係の確認をすることができ、この面からも応答性が一層向上する。図中、19、27は操作側アーム部11又は作業側アーム部の出力軸、20、28は該出力軸19、27と出力軸側のエンコーダ15、23とを連結する連結軸、29、30は各アーム部の上記出力軸側のエンコーダ15、23の回り止めをする台座である。
【0032】
座位姿勢(
図11(A))から立位姿勢(
図11(B))に移行する際、操作側アーム部11と作業側アーム部12とが単に双方向制御されているだけでは重心移動が不自然になるところ、操作側アーム部11と作業側アーム部12の昇降は回動動作aによるため、使用者Aが斜め前方へ移動する動作となり、使用者Aは足の位置がA1のまま実質上動かさずに立ち上がることができる。これに対し、上下動作bによる対比例では、座位姿勢(
図11(C))から立位姿勢(
図11(D))に移行する場合、使用者Aは足の位置を動かさずに立ち上がることは困難であり、足がA2の位置からA3の位置に移動する。よって上記実施の形態による介護用補助装置によれば、動作移動が困難な使用者Aであっても円滑に立ち上がることができる。
【0033】
本願発明による介護用補助装置は上記した実施の形態に限定されない。例えば、操作側アーム部11、作業側アーム部12を回転自在かつ昇降自在に支持する上記共通軸9は、図示のように一の方向にのみ移動可能とするだけでなく、一の方向及び該一の方向に直交する方向にも移動可能とすることもできる。また、操作側アーム部11、作業側アーム部12の押圧バー11c、12cは図示のような両持ち式の他、片持ち式(図示省略)とすることもできる。後者の場合、使用者Aはアームのないスペースから一のアームとバーからなるスペースエリアSに入ることができるので、介護者Bの支援動作なしでも上記スペースエリアSに入り易いという効果がある。さらに、双方向制御部13、双方向制御部21の伝動手段は任意である。
図9ではモータ14、22が減速機16、24及びエンコーダ18、26とともにユニット化されているが、これらモータ14、22、減速機16、24、エンコーダ18、26は夫々単体のものを組み合わせ使用してもよい。また減速機16、24については図示例以外のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明による介護用補助装置は種々の介護に活用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 ベース
2 旋回モータ
3 天井
5 レール
7 支持アーム
8 モータ
9 共通軸
11 操作側アーム部
11a アーム
11b アーム
11c 押圧バー
12 作業側アーム部
12a アーム
12b アーム
12c 押圧バー
13 操作側双方向制御部
14 モータ
15 エンコーダ
16 減速機
17 伝動手段
17a 駆動プーリ
17b 従動プーリ
17c ベルト
18 エンコーダ
19 出力軸
20 連結軸
21 作業側双方向制御部
22 モータ
23 エンコーダ
24 減速機
25 伝動手段
25a 駆動プーリ
25b 従動プーリ
25c ベルト
26 エンコーダ
27 出力軸
28 連結軸
29 台座
30 台座
31 モータ(入力軸側)
32 ギヤ(入力軸側)
33 エンコーダ(入力軸側)
37 電磁接触器
38 モータドライバ
39 電磁接触器
40 モータドライバ
41 中枢運動制御部
43 コンピュータ
51 便器
A 使用者
B 介護者