特開2019-80975(P2019-80975A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-80975(P2019-80975A)
(43)【公開日】2019年5月30日
(54)【発明の名称】体腔液処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20190510BHJP
【FI】
   A61M1/00 190
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-17729(P2019-17729)
(22)【出願日】2019年2月4日
(62)【分割の表示】特願2017-133554(P2017-133554)の分割
【原出願日】2017年7月7日
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】五反田 裕也
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA20
4C077BB02
4C077CC02
4C077DD05
4C077EE10
4C077HH15
4C077HH16
4C077JJ08
4C077JJ16
4C077JJ25
4C077KK25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】期待される量の濃縮腹水等の体腔液が得られる構成の体腔液処理装置を提供する。
【解決手段】体腔液処理装置1は、体腔液中の特定の物質を選択的に除去するろ過器11と、ろ過器によってろ過された体腔液を濃縮する濃縮器110と、濃縮器で濃縮された濃縮体腔液を回収して貯留する濃縮体腔液バッグ111と、濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液を濃縮器に再循環させる再循環装置62と、濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液の液量を測定する液量測定装置150と、濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液の液量が第1の所定量に到達したらろ過動作を停止させ、濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液を再循環装置により濃縮器に再循環させ、濃縮体腔液の液量が第2の所定量になるまで濃縮したら、ろ過動作を再開させる制御装置50と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者体腔内または原体腔液バッグに貯留された原体腔液をろ過し、ろ過された体腔液から水分を除去して濃縮体腔液を生成する体腔液処理装置であって、
前記体腔液中の特定の物質を選択的に除去するろ過部材を備えるろ過器と、
前記ろ過器によってろ過された体腔液を濃縮する濃縮器と、
前記濃縮器で濃縮された濃縮体腔液を回収して貯留する濃縮体腔液バッグと、
前記濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液を前記濃縮器に再循環させる再循環装置と、
前記濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液の液量を測定する液量測定装置と、
前記濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液の液量が第1の所定量に到達したらろ過動作を停止させ、前記濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液を前記再循環装置により前記濃縮器に再循環させ、当該濃縮体腔液の液量が第2の所定量になるまで濃縮したら、ろ過動作を再開させる制御装置と、
を備える、体腔液処理装置。
【請求項2】
前記液量測定装置は、前記濃縮体腔液バッグの液量を、前記濃縮体腔液を前記濃縮体腔液バッグに流通させるポンプのポンプ流量×時間から算出するものであることを特徴とする請求項1に記載の体腔液処理装置。
【請求項3】
前記液量測定装置は、前記濃縮体腔液バッグの重量を測定する重量計を含むことを特徴とする請求項1に記載の体腔液処理装置。
【請求項4】
前記濃縮体腔液バッグの液量は、前記重量計の測定値を元に定義することを特徴とする請求項3に記載の体腔液処理装置。
【請求項5】
前記濃縮器の下流側に配置され、前記濃縮体腔液を前記濃縮体腔液バッグに送り出す濃縮ポンプをさらに備えており、
前記濃縮体腔液バッグの液量は、前記重量計の測定値を元に制御された前記濃縮ポンプの流量を元に、ポンプ流量×時間から算出されることを特徴とする請求項3に記載の体腔液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
難治性腹水症の治療法として、患者から腹水を取り出し、当該腹水から細菌やがん細胞などの病因物質を除去し、アルブミンなどの有用成分を残した状態で除水し、当該濃縮液を体内に戻す腹水ろ過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)がある。
【0003】
かかる治療法には、一般的に腹水処理装置が用いられている。この腹水処理装置には、腹水バッグと、ろ過器と、濃縮器と、濃縮腹水バッグをこの順番で直列的に接続し、落差或いはポンプにより腹水を流して腹水をろ過、濃縮するものが用いられている。ろ過器には、中空糸膜などのろ過膜が用いられている。
【0004】
また、このような腹水処理装置として、ろ過から再循環に自動で移行するシステムを備えたものが公開されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−188427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ろ過から再循環に自動で移行するシステムにおいては、各ポンプの誤差等により期待している量の濃縮腹水が得られないことがあるという問題がある。
【0007】
また、濃縮腹水バッグの最大量はろ過バッグより小さく、すべてろ過してから再循環を行うと、除水の具合によっては濃縮腹水バッグに入りきらず破裂する恐れがあった。
【0008】
そこで、本発明は、期待される量の濃縮腹水等の体腔液が得られる構成とした体腔液処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る体腔液処理装置は、患者体腔内または原体腔液バッグに貯留された原体腔液をろ過し、ろ過された体腔液から水分を除去して濃縮体腔液を生成する体腔液処理装置であって、
体腔液中の特定の物質を選択的に除去するろ過部材を備えるろ過器と、
ろ過器によってろ過された体腔液を濃縮する濃縮器と、
濃縮器で濃縮された濃縮体腔液を回収して貯留する濃縮体腔液バッグと、
濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液を濃縮器に再循環させる再循環装置と、
濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液の液量を測定する液量測定装置と、
濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液の液量が第1の所定量に到達したらろ過動作を停止させ、濃縮体腔液バッグに貯留された濃縮体腔液を再循環装置により濃縮器に再循環させ、当該濃縮体腔液の液量が第2の所定量になるまで濃縮したら、ろ過動作を再開させる制御装置と、
を備える、体腔液処理装置である。
【0010】
通常、濃縮体腔液バッグの量自体が制御されることはなく、あらかじめサイズが決まっている濃縮体腔液バッグが用いられるのに対し、実際に得られる濃縮体腔液の量は、ポンプの吐出し量の違いやこれに伴う送液量の差、患者の体格、原腹水量、腹水の性状、濃縮器の性能、処理状況、処理時間など複数の要因に応じてさまざまである。しかし、目標体腔液処理量(原腹水バッグに収容された腹水を処理する場合であれば当該原腹水バッグの総量(すなわち目標原腹水処理量)のこと)に到達するためには、このような種々の要因にかかわらず、濃縮体腔液バッグの量に応じて可能な限り多量の濃縮体腔液を得ることが理想的である。この点、上記態様の体腔液処理装置によれば、濃縮体腔液バッグの貯留測定量をモニタリングしつつ、濃縮体腔液からさらに水分を除去して期待量が得られるよう調整することができる。
【0011】
上記態様の体腔液処理装置において、液量測定装置は、濃縮体腔液バッグの液量を、濃縮体腔液を濃縮体腔液バッグに流通させるポンプのポンプ流量×時間から算出するものであってもよい。
【0012】
上記態様の体腔液処理装置において、液量測定装置は、濃縮体腔液バッグの重量を測定する重量計を含んでいてもよい。
【0013】
上記態様の体腔液処理装置において、濃縮体腔液バッグの液量は、重量計の測定値を元に定義することを特徴とする請求項3に記載の体腔液処理装置。
【0014】
上記態様の体腔液処理装置は、濃縮器の下流側に配置され、濃縮体腔液を濃縮体腔液バッグに送り出す濃縮ポンプをさらに備えており、
濃縮体腔液バッグの液量は、重量計の測定値を元に制御された濃縮ポンプの流量を元に、ポンプ流量×時間から算出されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、期待される量の濃縮腹水等の体腔液が得られる構成とした体腔液処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施の形態における腹水処理装置の構成の概略を示す説明図である。
図2】再濃縮工程の腹水処理装置の様子を示す説明図である。
図3】回収工程の腹水処理装置の様子を示す説明図である。
図4】洗浄工程の腹水処理装置の様子を示す説明図である。
図5】腹水処理装置における腹水濃縮の処理工程の一例を示すフローチャートである。
図6】腹水処理装置における腹水濃縮の処理工程中の濃縮腹水の貯留量の推移例を示すグラフである。
図7】第2の実施の形態における腹水処理装置の構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、限定するものではない。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る体腔液処理装置としての腹水処理装置1の構成の概略を示す説明図である。腹水処理装置1は、患者から直接取り出された原腹水、または患者から採取されて原腹水バッグ10に収容された原腹水をろ過し、ろ過された腹水から水分を除去して濃縮腹水を生成する装置である。
【0019】
腹水処理装置1は、ろ過器11と、第1のライン12と、第2のライン13と、第3のライン14と、第1の圧力測定装置16と、第2の圧力測定装置17と、ポンプ18と、第1の開閉装置19と、上流開閉装置21と、制御装置50、等を備えている。この腹水処理装置1は、ろ過処理を行うろ過システム(ろ過部)2と、濃縮処理を行う濃縮システム(濃縮部)3とに分けられる(図1等参照)。
【0020】
ろ過器11は、例えば円筒形状とされており、長手方向の両端部に通液口11a、11bを有し、側面に2つの通液口11c、11dを有している。また、ろ過器11は、例えば細菌やがん細胞などの所定の病因物質を除去し、アルブミンなどの所定の有用成分を通過させるといったように、腹水中の特定の物質を選択的に除去することができる中空糸膜などのろ過膜70を備えている。ろ過膜70の内側領域は、通液口11a、11bに通じ、ろ過膜70の外側領域は、通液口11c、11dに通じている。
【0021】
第1のライン12は、原腹水バッグ10とろ過器11を接続している。第1のライン12の下流側の端部は、ろ過器11の通液口11aに接続されている。
【0022】
第2のライン13は、ろ過器11と濃縮システム3の後述の濃縮器110を接続している。第2のライン13の上流側の端部は、ろ過器11の通液口11cに接続されている。
【0023】
第3のライン14は、一端がろ過器11の通液口11bに接続されている。第3のライン14の他端は、例えば図示しない排液部に接続されている。
【0024】
ろ過器の接続は逆であってもよい。すなわち第1のライン12の下流側の端部は、ろ過器11の通液口11cに接続され、第2のライン13はろ過器11の通液口11aに接続され、第3のライン14は通液口11dに接続されていてもよい。通常、血液浄化に用いられるろ過器は、プライミングボリュームの観点からろ過膜の内側に血液を流し、外側にろ過することで血液のプライミングボリュームを低減させるが、体腔液処理の場合においては、体腔液の量や組成に応じた処理法を適宜選択すればよい。例えばろ過器11のろ過膜70の内側から外側に向かってろ過を行う場合、膜が詰まった場合に行う膜洗浄(洗浄液をろ過膜70の外側から内側に向かって流通させる)における洗浄効果が期待され、ろ過器11のろ過膜70の外側から内側に向かってろ過を行う場合、ろ過膜70の表面積が内側から外側に流す場合に比べ大きくなるためろ過器11の膜寿命向上に寄与することが期待される。なお、第1〜第3のライン12〜14には、軟質性のチューブが用いられている。
【0025】
第1の圧力測定装置16は、第1のライン12における圧力を測定できるように設けられ、ろ過器11のろ過膜70の一次側(入口側)の圧力を測定する。ここで第1の圧力測定装置16は、原腹水バッグ10とろ過器11の落差圧を利用して圧力値を測定せずとも把握できる場合には省略することもできる。第2の圧力測定装置17は、第4のライン15における圧力を測定できるように設けられ、ろ過器11のろ過膜70の二次側(出口側)の圧力を測定する。第1の圧力測定装置16と第2の圧力測定装置17の圧力測定結果は、制御装置50に出力される。ここで第2の圧力測定装置17は第2のライン13上に配置されていてもよく、ろ過器11のろ過膜70の二次側(出口側)を測定できるものであれば配置を限定するものではない。
【0026】
ポンプ18は、第2のライン13に設けられている。ポンプ18には、例えばチューブを扱いてチューブ内の腹水を圧送する正回転及び逆回転可能なチューブポンプが用いられている。なお、ポンプ18は、停止時に第2のライン13を閉鎖するものでもあり、開閉装置(流量調整装置)としても機能する。
【0027】
第1の開閉装置19は、例えば開閉バルブであり、第3のライン14に設けられている。または第1の開閉装置19は常に閉塞している閉塞部であってもよい。
【0028】
上流開閉装置21は、例えば開閉バルブであり、第1のライン12に設けられている。
【0029】
制御装置50は、例えばCPU、メモリ等を有するマイクロコンピュータである。制御装置50は、ポンプ18、第1の開閉装置19、上流開閉装置21、第1の圧力測定装置16、第2の圧力測定装置17、濃縮システム3等の各装置の動作、さらには、後述する濃縮ポンプ115等の装置の動作を制御して腹水処理を実行できる。また、制御装置50は、後述する液量測定装置150による測定結果等を受信する。制御装置50は、例えば予めメモリに記憶されたプログラムを実行して腹水処理を実施できる。
【0030】
濃縮システム3は、濃縮器110と、濃縮腹水貯留部としての濃縮腹水バッグ111と、濃縮ライン112と、排水ライン113と、循環ライン114と、濃縮ポンプ115と、第3の圧力測定装置117と、第4の圧力測定装置118等を有し、さらに、液量測定装置150を有している。
【0031】
濃縮器110は、例えば円筒形状を有している。濃縮器110は、長手方向の両端部に通液口110a、110bを有し、側面に2つの通液口110c、110dを有している。例えば濃縮器110の通液口110aには、第2のライン13が接続されている。
【0032】
濃縮器110は、例えば第2のライン13から供給されたろ過腹水から水分を除去してろ過腹水を濃縮する中空糸膜などの濃縮膜120を備えている。濃縮膜120の内側領域は、通液口110a、110bに通じ、濃縮膜120の外側領域は、通液口110c、110dに通じている。なお、本実施の形態において通液口110dは閉鎖されている。
【0033】
濃縮腹水バッグ111は、濃縮器110で濃縮された濃縮腹水を回収して収容可能な容器の一種である。濃縮ライン112は、濃縮器110の通液口110bと濃縮腹水バッグ111を接続している。排水ライン113は、一端が濃縮器110の通液口110cに接続され、他端が図示しない排水部に接続されている。
【0034】
循環ライン114は、例えば濃縮腹水バッグ111と第2のライン13を接続している。循環ライン114は、第2のライン13のポンプ18よりも上流側(ろ過器11側)に接続されている。循環ライン114には、例えば開閉バルブからなる開閉装置119が設けられている。濃縮ライン112、排水ライン113及び循環ライン114には、例えば軟質性のチューブが用いられている。
【0035】
濃縮ポンプ115は、例えば濃縮ライン112の濃縮器110の下流側に配置され、濃縮腹水を濃縮腹水バッグ111に送り出す。濃縮ポンプ115には、例えばチューブポンプが用いられている。濃縮ポンプ115は排水ライン113に配置されていてもよい。
【0036】
第3の圧力測定装置117は、例えば第2のライン13における圧力を測定できるように設けられ、濃縮器110の濃縮膜120の一次側(入口側)の圧力を測定する。第4の圧力測定装置118は、排水ライン113に設けられ、濃縮器110の濃縮膜120の二次側(出口側)の圧力を測定する。なお、第4の圧力測定装置118は濃縮器110と排水ライン113の末端との落差圧を利用して圧力値を測定せずとも把握できる場合には省略することもできる。第3の圧力測定装置117と第4の圧力測定装置118の圧力測定結果は、制御装置50に出力される。制御装置50は、濃縮システム3の濃縮ポンプ115と、ポンプ18と、第3の圧力測定装置117と、第4の圧力測定装置118等の各装置の動作を制御して腹水処理を実行できる。
【0037】
濃縮システム3においては、濃縮腹水バッグ111に貯留された濃縮腹水を濃縮器110に再循環させる装置(再循環装置)が構成されている。例えば本実施形態の腹水処理装置1においては、上述した循環ライン114、濃縮ポンプ115、ポンプ18等によって再循環用のシステム(本明細書では再循環装置と呼び、図中では符号62で示す)が構成されている。
【0038】
液量測定装置150は、濃縮腹水バッグ111に貯留された濃縮腹水の液量を測定する装置である。液量測定装置150の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、濃縮腹水が貯留された濃縮腹水バッグ111の重量を計測可能な重量計を備え、該重量計の測定値に基づいて制御された濃縮ポンプ115の流量を元に、ポンプ流量×時間から算出するものであってもよい。
【0039】
液量測定装置150が上記のごとく重量計を備えた装置である場合は、濃縮腹水バッグ111の液量は、当該重量計の測定値を元にして制御することもできる。かかる場合、体積の増加/減少量を元に濃縮腹水バッグ111の液量制御を行う。
【0040】
液量測定装置は濃縮腹水バッグ内の重量または容量がわかるものであれば何でもよく、超音波センサや静電容量センサにより所定の液面の高さを測定し、濃縮腹水バッグ内の容量を計測できるものであってもよい。あるいは、上記と同様に重量計を用い、濃縮腹水バッグ111の既知の重量と濃縮腹水の体積当たり重量から、濃縮腹水バッグ111に貯留された濃縮腹水の液量を算出することもできる。例えば、濃縮腹水バッグ111の容量を計測する(例えば図示はしていない超音波センサや静電容量センサ等を用いる)ことで体積を測定し、重量に換算することもできる。このように重量を元にして濃縮腹水の液量を算出する他、体積測定の結果を利用して容量を算出し、当該算出した容量を元にして制御を行ってもよい。かかる場合、体積の増加/減少量を元に濃縮腹水バッグ111の液量制御を行う。
【0041】
次に、上述の腹水処理装置1を用いて行われる腹水処理の概要について説明する。
【0042】
<ろ過、濃縮工程>
まず、患者から直接取り出された原腹水、または患者から採取した腹水を収容した原腹水バッグ10が第1のライン12に接続される。次に、腹水のろ過、濃縮工程が開始される。第1の開閉装置19が閉鎖され、第2の開閉装置20及び上流開閉装置21が開放された状態で、ポンプ18が正回転し、濃縮ポンプ115が作動する(図1参照)。
【0043】
これにより、原腹水バッグ10の腹水は、第1のライン12を通じてろ過器11に送られる。腹水は、ろ過器11の通液口11aからろ過膜70の入口側(内側領域)に流入し、ろ過膜70を通過して、ろ過膜70の出口側(外側領域)に流出する。このとき、腹水から所定の病因物質が除去される。ろ過膜70の出口側に流出したろ過腹水は、ろ過器11から第2のライン13に流出し、第2のライン13を通って濃縮器110に送られ、濃縮器110の濃縮膜120の入口側に流入する。ここで、ポンプ18と濃縮ポンプ115との間の圧力差(流量差)により、例えばろ過腹水の一部の水分が、濃縮膜120を通過し濃縮膜120の出口側に流出する。これにより、ろ過腹水から水分が除去され、ろ過腹水が濃縮される。濃縮器110で濃縮された濃縮腹水は、濃縮ライン112を通って濃縮腹水バッグ111に収容される。
【0044】
<再濃縮工程>
第1の開閉装置19と上流開閉装置21を閉塞し、開閉装置119を開放した状態で、ポンプ18と濃縮ポンプ115が作動する(図2参照)。これにより、濃縮腹水バッグ111の濃縮腹水が、循環ライン114及び第2のライン13を通じて濃縮器110に送られ、濃縮器110から濃縮ライン112を通って濃縮腹水バッグ111に戻され、循環する。こうして濃縮腹水が再濃縮される。
【0045】
腹水のろ過、濃縮工程において、第1の圧力測定装置16、第2の圧力測定装置17が作動し、ろ過器11のろ過膜70の入口側の圧力、出口側の圧力がモニタリングされている。例えばろ過器11におけるろ過膜70の入口側の圧力P1と出口側の圧力P2の圧力差(P1−P2)(膜間圧力差)が、所定の閾値Dを超えた場合には、ろ過膜70が目詰まりを起こしているとみなし、上流開閉装置21を閉鎖して、腹水のろ過、濃縮工程が停止してもよい。なお、閾値Dは、実験や計算により予め求められ設定される。
【0046】
<ろ過膜の洗浄工程>
原腹水バッグ10に残留している原腹水を処理する場合、ろ過器11の処理能力を、洗浄装置を用いる等して復帰させることもできる。洗浄装置は目詰まりした物質を除去できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば洗浄液貯留部30、洗浄ライン31、洗浄開閉装置32(または洗浄ポンプ32’)等を備え、状況に応じて開閉装置やポンプ等を適宜動作させるものである。洗浄装置によりろ過膜70の出口側から入口側に向かって洗浄液(例えば生理食塩水)を流通させることで、逆ろ過により目詰まりした物質を除去し、再びろ過・濃縮工程を再開することができる。または通液口11aから通液口11b(またはその逆)に向かって洗浄液を流通させることでせん断により目詰まりした物質を除去することもできる。
【0047】
ろ過膜70の洗浄工程が終了すると、第1の開閉装置19及び洗浄装置が停止され、上流開閉装置21が開放された状態で、ポンプ18が正回転し、濃縮ポンプ115が作動し、腹水のろ過、濃縮工程が再開される。
【0048】
ろ過器11におけるろ過膜70の入口側の圧力P1と出口側の圧力P2の圧力差(P1−P2)が、所定の閾値Dを超えるたびに、腹水のろ過、濃縮処工程が停止され、ろ過腹水の回収工程とろ過膜70の洗浄工程を行うことができる。
【0049】
なお、腹水のろ過、濃縮工程において、第3の圧力測定装置117及び第4の圧力測定装置118が作動し、濃縮器110の濃縮膜120の入口側の圧力、出口側の圧力がモニタリングされる。そして、例えば濃縮器110における濃縮膜120の入口側の圧力P3と出口側の圧力P4の圧力差(P3−P4)が、所定の閾値Fを超えた場合には、濃縮膜120が目詰まりを起こしているとみなされ、腹水のろ過、濃縮工程が停止される。または濃縮ポンプ115の加速/減速を行うことで濃縮工程における処理量を伸ばすこともできる。
【0050】
<腹水処理の処理工程>
続いて、本実施形態の腹水処理装置1の濃縮システム3において行われる腹水濃縮の処理工程をフローチャートとともに説明する(図5図6参照)。
【0051】
なお、以下に説明するフェーズ1(ろ過濃縮フェーズ)では第1の所定量(以下、「目標原腹水処理量」ともいう)、フェーズ2(再濃縮フェーズ)では第2の所定量があらかじめ設定される(図5図6参照)。第1の所定量、第2の所定量とも特になにかに限定される量ではなく、任意に設定可能であるが、例えば、濃縮腹水バッグ111の目標貯留量を理想値の一例である300ccとした場合、第1の所定量(上限)を+100cc(=400cc)、第2の所定量(下限)を−100cc(=200cc)等に設定することができる。
【0052】
(フェーズ1(ろ過濃縮フェーズ))
所定流量にて、ろ過システム2によるろ過の処理と、濃縮システム3による再循環の処理(ろ過・濃縮処理)を実施する(ステップSP1)。このステップSP1では、原腹水をろ過膜70でろ過した後、引き続き後段の濃縮システム3の濃縮器110で除水してから、濃縮ポンプ115で濃縮腹水バッグ111に送り込む。濃縮腹水バッグ111に送り込まれた濃縮腹水の一部は、循環ライン114を通って濃縮器110を再循環し、さらに除水されて濃縮腹水バッグ111に送り込まれる。なおステップSP1においてろ過器11が目詰まりによりSP1が継続不可能になった場合、ろ過膜の洗浄工程を実施し、目詰まりを解消後、ステップSP1を再開してもよい。
【0053】
目標原腹水処理量に到達していない場合(ステップSP2の判断1でNo)、貯留濃縮腹水の液量が第1の所定量に到達したかどうかを判断する(ステップSP3における判断2)。貯留濃縮腹水の液量が第1の所定量に到達した場合(判断2でYes)、ろ過システム2によるろ過処理を停止する(ステップSP4)。
【0054】
(フェーズ2(再濃縮フェーズ))
ろ過システム2によるろ過処理を停止した後は、再濃縮処理を実施して濃縮腹水の除水を行う(ステップSP5)。このステップSP5では、ろ過処理をせずに再濃縮処理のみを実施することから、除水された分、濃縮され、濃縮腹水の液量が減少する。
【0055】
上記のフェーズ2における再濃縮処理により、当該濃縮復水の液量が第2の所定量になるまで(換言すれば、当該濃縮腹水の液量が第2の所定量以下となるまで)濃縮したと判断したら(ステップSP6の判断3にてYes)、再濃縮処理を停止し(ステップSP7)、フェーズ1に戻り、ろ過システム2によるろ過の処理と、濃縮システム3による再循環の処理を再度実施する(ステップSP1)。以降、フェーズ1とフェーズ2を繰り返す(図5図6参照)。
【0056】
また、上記フェーズ1のろ過濃縮フェーズにおいて、目標原腹水処理量(原腹水バッグ10に収容された腹水を処理する場合であれば当該原腹水バッグ10の総量)に到達した場合には(ステップSP2の判断1にてYes)、目標原腹水処理量を処理し終えたか、または洗浄工程による目詰まりの解消ができなくなり、ろ過による目詰まり等によりろ過工程がこれ以上継続できないと判断し、ステップSP8に進む。すなわち、目標原腹水処理量を処理することが理想だが、洗浄工程がない場合、または洗浄によるろ過膜の目詰まり解消ができない場合、それ以上ろ過が継続できないと判断する。ステップSP8では濃縮腹水が目標濃縮量に到達したかどうか判断し(判断4)、到達した場合(ステップSP8の判断4でYes)、治療は終了となる。
【0057】
一方、濃縮腹水が目標濃縮量に到達していない場合(ステップSP8の判断4でNo)、再濃縮処理を実施する(ステップSP9)。その後、第4の圧力測定装置118と第3の圧力測定装置117との差圧を表すP4−P3について、P4−P3≧第4の所定量が成立するかどうかを判断し(ステップSP10)、P4−P3≧第4の所定量であるならば(ステップSP10にてYes)、濃縮腹水が目標濃縮量に到達した、または濃縮膜120の目詰まり等により治療の継続ができないと判断して治療は終了となる。他方、ステップSP10にてP4−P3≧第4の所定量でなければ(ステップSP10にてNo)、ステップSPに戻る。
【0058】
ここまで説明したように、本実施形態の腹水処理装置1においては、第1の所定量と第2の所定量をそれぞれ上限・下限とした所定の範囲を設定しておき、濃縮腹水バッグ111における濃縮腹水の貯留量がその範囲内で増加するフェーズ1と減少するフェーズ2とを繰り返す処理を実行することから、貯留量が期待量を大きく超える事態を回避することができる。別言すれば、第1の所定量を上限(目標値)として、当該上限を超えない範囲で貯留量を増減させるので、操作者の負担を大幅に軽減することができる。これによれば、ポンプの吐出し量の違いやこれに伴う送液量の差、患者の体格、原腹水量、腹水の性状、濃縮器の性能、処理状況、処理時間といった種々の要因の影響を受けることなく、濃縮腹水バッグ111に可能な限り多量の濃縮腹水を得ることが可能となる。したがって、各ポンプの誤差等により期待した量の濃縮腹水が得られないといった事態を回避することができる。また、原腹水のすべてをろ過してから再循環を行うという従前の手順とはまったく異なる処理内容であるため、濃縮腹水が濃縮腹水バッグに入りきらず破裂するという恐れがない。
【0059】
次に本実施の別の実施形態に係る体腔液処理装置としての腹水処理装置1の構成の概略を図7に示す。
【0060】
別の実施形態に係る腹水処理装置1においては、ろ過器11のろ過膜70の一次側(入口側)にポンプ180が設置されており、該ポンプ180によって腹水を加圧し、ろ過器11に向けて押し出す方式となっている。さらにこの形態では、濃縮腹水バッグ111に貯留された濃縮腹水を濃縮器110に再循環させる際、循環ライン114に配置されたポンプ23を用いて加圧し、再循環させる。
【0061】
なお、ここで第2の実施形態として説明したのが、第1の実施形態とは異なる他の好適な一例にすぎないことはいうまでもない。要は、各ラインの接続やポンプの位置に関係なく、残留しているろ過腹水を回収する上で回収液量を所定量にするものであれば、腹水処理装置1の具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0062】
以上の実施の形態において、腹水処理装置1は、原腹水バッグ10に収容された腹水をろ過し、濃縮して濃縮腹水バッグ111に収容するものであったが、患者から直接第1のライン12に腹水を取り出し、ろ過、濃縮するものであってもよい。
【0063】
以上の実施の形態は、腹水を処理する腹水処理装置1に本発明を適用した好適な一例であったが、本発明は、胸水などの他の体腔液を処理する体腔液処理装置にも適用できる。
【0064】
また、上記の実施形態では、ろ過し、濃縮した腹水を濃縮腹水バッグ111に回収する形態を例示したがこれも好適な一例にすぎない。濃縮腹水バッグ111は、濃縮器110で濃縮された濃縮腹水を回収して収容するための容器の一種であって、このようなバッグ以外の容器を回収用に用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、患者体腔内または原体腔液バッグに貯留された現腹水等の原体腔液をろ過し、ろ過された体腔液から水分を除去して濃縮体腔液を生成する体腔液処理装置に適用して好適である。
【符号の説明】
【0066】
1…腹水処理装置(体腔液処理装置)、10…原腹水バッグ(原体腔液バッグ)、11…ろ過器、18…ポンプ、50…制御装置、62…再循環装置、70…ろ過膜(ろ過部材)、110…濃縮器、111…濃縮腹水バッグ(濃縮体腔液バッグ)、115…濃縮ポンプ(ポンプ)、150…液量測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7