表面処理装置は、固気二相流を噴射するためのノズル組立体と、ノズル組立体が収納され、内部に表面処理室を形成する筐体と、を含む。ノズル組立体は、噴射材を吸引する噴射材吸引口とこの吸引した噴射材を圧縮空気と共に噴出する噴出口を備えたノズル本体と、少なくとも一旦側が前記ノズル本体に挿入されたエアノズルであって、他端に圧縮空気を発生させる圧縮空気発生源と連結されたエアノズルと、を含む。そして、圧縮空気発生源とエアノズルとの経路には、圧縮空気を加熱するための加熱機構が設けられている。
前記エアノズルは先端に圧縮空気噴射口が設けられており、前記圧縮空気供給源と接続された側から前記圧縮空気噴射口に向かう経路は、該圧縮空気噴射口側に位置する縮径端に向かって連続的に縮径する第一の加速部と、さらに圧縮空気噴射口側にある拡径端に向かって縮径端より連続して拡径する第二の加速部と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の表面処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、噴射材を被加工物に向けて効率よく噴射して、被加工物の表面を処理することができる表面処理装置及びこの表面処理装置を用いた表面処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、圧縮空気と混合された噴射材を固気二相流として被加工物に衝突させて被加工物の表面を処理するための表面処理装置である。表面処理装置は、固気二相流を噴射するためのノズル組立体と、ノズル組立体が収納され、内部に表面処理室を形成する筐体と、を含む。ノズル組立体は、ノズル本体とエアノズルとを含む。ノズル本体は、噴射材を吸引する噴射材吸引口と、吸引した噴射材をノズル組立て体の内部に設けられている混合室にて圧縮空気と共に噴出する噴出口を備える。エアノズルは、少なくとも一旦側が前記ノズル本体に挿入されており、他端に圧縮空気を発生させる圧縮空気発生源と連結されている。そして、圧縮空気発生源からエアノズルへの空気の供給経路には、圧縮空気を加熱するための加熱機構が設けられている。
【0008】
本発明の別の側面は、これらの表面処理装置による表面処理方法である。表面処理方法は、次の工程を含む。
(1)圧力空気発生源により発生した圧縮空気を加熱する工程。
(2)圧縮空気をノズル本体の内部で噴射して、ノズル本体の内部に設けられている混合室内を負圧にする工程。
(3)噴射材が貯留されているタンクに連結されている噴射材吸引口から混合室に向かう経路を通って噴射材を混合室に吸引して圧縮空気と混合する工程。
(4)混合室から前記噴射口に向かう経路を通って、混合された圧縮空気と噴射材を固気二相流として噴射する工程。
そして、(1)の工程において圧縮空気を、100〜500℃に加熱する。
【0009】
圧縮空気を加熱することで、圧縮空気の流速が速くなる。また、砥粒はその性状や雰囲気によって凝集する場合があるが、加熱によって粒子同士の付着力を弱めて凝集体を解砕することができる。これらの相乗効果により、噴射材を効率よく噴射することができるので、表面処理能力を向上させることができる。
【0010】
本発明の一実施形態は、エアノズルにおける圧縮空気の経路である。エアノズルは先端に圧縮空気噴射口が設けられており、前記圧縮空気供給源と接続された側から前記圧縮空気噴射口に向かう経路は、該圧縮空気噴射口側に位置する縮径端に向かって連続的に縮径する第一の加速部と、さらに圧縮空気噴射口側にある拡径端に向かって縮径端より連続して拡径する第二の加速部と、を含んでもよい。圧縮空気は縮径により加速され、その後拡径によってさらに加速される。即ち、この構成により圧縮空気の流速が速くなるので、ひいては固気二相流の流速を速くすることができ、表面処理能力を向上させることができる。
【0011】
本発明の一実施形態は、第二の加速部の距離を、第一の加速部の距離以上としてもよい。第二の加速部を通過する圧縮空気が壁面に沿って流れるようにすることで、効率よく加速することができる。
【0012】
本発明の一実施形態は、被加工物を冷却するための機構を更に備えてもよい。固気二相流も加熱されていることによる被加工物の高温化の影響を抑えることができるので、幅広く表面処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面または一実施形態により、固気二相流の流速を速くでき、且つ噴射材の凝集を防ぐことができるので、効率よく表面処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による表面処理装置を説明する。なお、本文中「上下左右方向」は特に断りのない限り図中の方向を指す
【0016】
図1は、一実施形態に係る表面処理装置01の一部を破断して示す正面図である。表面処理装置01は、繊維強化プラスチック製のワークW(被加工物)に噴射材を投射し、ワークWに孔を形成する装置である。
図1に示すように、表面処理装置01は、筐体10、定量供給機構20、分離機構30、吸引機構40、制御装置50、ノズル組立体60、加熱機構70を備えている。
【0017】
筐体10はその内部に処理室Rを画成している。筐体10の正面には扉11が設けられており、その扉11を開けることで作業者が処理室Rにアクセスすることができるようになっている。処理室Rには、ノズル固定治具12、処理テーブル13及び移動機構14が設けられている。
【0018】
ノズル固定治具12は、ノズル組立体60を保持するための機構であり、高さ方向に沿ってノズル組立体60を移動可能である。したがって、ノズル固定治具12は、ノズル組立体60とワークWとの間の距離を自在に調整できるように構成されている。
【0019】
移動機構14は、筐体10の下部に設けられた架台15上に設けられており、ノズル組立体60の下方に配置されている。一実施形態では、移動機構14は、多数の貫通孔が形成された板状体であってもよい。移動機構14にこのような貫通孔が形成されていることで、ノズル組立体60より噴射された噴射材を筐体10の底部に向けて通過させることができる。
【0020】
移動機構14上には、処理テーブル13が設けられており、その上に載置されたワークWを支持する。処理テーブル13はワークWを載置できればよいが、後述のように固気二相流が加熱された状態であるので、ワークWを冷却する機能を設けてもよい。
図2は一実施形態で用いた処理テーブルの平面断面図である。
図2では、処理テーブル13の内部に冷却管13aを張り巡らせ、冷却管に冷却媒体(例えば水)を流すことでワークWを冷却する構成とした。
【0021】
移動機構14は、例えばモータの駆動力によって、処理テーブル13及び当該処理テーブル13上に支持されたワークWを水平方向に搬送できるようになっている。例えば、移動機構14は、水平方向に延び、且つ、互いに直交するX方向及びY方向(
図5参照)に沿ってワークWを移動させるX−Yステージである。
【0022】
処理室Rの上部には、定量供給機構20が設けられている。定量供給機構20は、貯留ホッパ21及び搬送路22を含んでおり、貯留ホッパ21内の噴射材を搬送路22を介してノズル組立体60に定量で供給する。なお、定量供給機構20は、一定量の噴射材をノズル組立体60に供給することができればその構造は限定されない。例えば、定量供給機構20としては、スクリュフィーダ、振動フィーダ、テーブルフィーダを用いることができる。
図1に示す実施形態では、定量供給機構20としてスクリュフィーダを用いている。
【0023】
定量供給機構20の貯留ホッパ21の上方には、分離機構30が設けられている。分離機構30は、定量供給機構20の貯留ホッパ21に連結されている。分離機構30は、略逆角錐形状を有しており、使用済みの噴射材を回収し、再使用可能な噴射材と粉塵とに分級する。この分離機構30には、第一の輸送管P1の一端が接続されている。第一の輸送管P1の他端は、筐体10の底部に接続されている。したがって、処理室R内の空間と定量供給機構20内の空間とは第一の輸送管P1を介して連続している。なお、
図1に示す実施形態では、分離機構30としてサイクロン式分級機を用いているが、分離機構30としては、その他の風力式分級機、スクリーン式分級機等、任意の分級機を用いることができる。
【0024】
また、分離機構30には、第二の輸送管P2の一端が接続されている。第二の輸送管P2の他端は、吸引機構40に接続されている。吸引機構40は、処理室Rを負圧にして処理室Rの外部に噴射材が漏出しないようにすると共に、噴射された噴射材を含む粒子を吸引するための機構である。吸引機構40は、第二の輸送管P2を介して分離機構30(サイクロン式分級機)において分級された軽い粒子(再使用に適さないサイズとなった噴射材、ワークWの切削粉)を回収する。また、吸引機構40は、分離機構30の内部空間を負圧にし、筐体10の底部に集められた使用済みの噴射材を分離機構30に移送する機能を有している。
【0025】
制御装置50は、プロセッサ、記憶部、入力装置、表示装置等を備えるコンピュータであり、表面処理装置01の各部を制御する。一実施形態では、制御装置50は、移動機構14、定量供給機構20、吸引機構40、加熱機構70、電磁弁VL1及びバルブVL2に制御信号を送出し、移動機構14の動作、定量供給機構20の動作、吸引機構40の動作、電磁弁VL1の開閉、などを制御する。制御装置としては、パーソナルコンピュータなどの各種演算装置、プログラマルロジックコントローラ(PLC)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)などのモーションコントローラ、高機能携帯端末及び高機能携帯電話等を用いることができる。
【0026】
ノズル組立体60は、ワークWに噴射材を噴射するための機構であり、
図3に示すように、ノズル本体61と、このノズル本体61の内部に圧縮空気を噴射するエアノズル62と、を備えている。
【0027】
ノズル本体61は、ノズルホルダ61aと、このノズルホルダ61aの一端側(
図3では下端面側)より挿嵌して固定された円筒形状の噴射ノズル61bを備えている。このノズル本体61のノズルホルダ61aの他端側(
図3では上端面側)には、エアノズル62が挿嵌して固定される。ノズル本体61の内部のエアノズル62の下端と噴射ノズル61bの上端の近傍には、ノズル本体61の内部の空間を形成する混合室64が設けられている。
【0028】
ノズルホルダ61aの上部には、噴射材を吸引するための噴射材吸引口63が設けられており、噴射材ホースH2を介して定量供給機構20に連結されている。また、噴射材吸引口63から混合室64に向かう経路である第一の経路F1が形成されている。
【0029】
噴射ノズル61bには、その下端に固気二相流を噴射するための円形の噴射口65が形成され、さらに、混合室64から噴射口65に向かう経路である第二の経路F2が形成されている。
【0030】
ノズル本体61において、上述した噴射材吸引口63、第一の経路F1、混合室64、第二の経路F2、噴射口65は、連通されている。
【0031】
エアノズル62は、円筒形状であり、その内部には圧縮空気の経路である第三の経路F3が形成され、さらに、圧縮空気が噴射される先端(
図3における下端)に圧縮空気噴射口62aが、他端(
図3における上端)に圧縮空気導入口62bが、それぞれ設けられている。圧縮空気導入口62bと圧縮空気噴射口62aは連通しており、圧縮空気が流れる第二の経路F2を形成している。一実施形態における第二の経路F2は、連続した径を持つ圧縮空気導入部62cと、この圧縮空気導入部62cと連通し先端に向かって徐々に縮径する第一の加速部62dと、この第一の加速部62dに連通し圧縮空気噴射口62aに向かって徐々に拡径する第二の加速部62eと、を備えている。なお、圧縮空気導入部62cと第一の加速部62dと第二の加速部62eとは同一軸心上に配置されている。
【0032】
圧縮空気導入口62bはエア配管H1を介して圧縮空気供給源Cと連結されており、圧縮空気供給源の作動により圧縮空気噴射口62aから圧縮空気が噴射されるようになっている。圧縮空気噴射口62aは混合室64に位置するように、ノズルホルダ61aに挿嵌して固定されている。圧縮空気導入部62cより導入された圧縮空気は、第一の加速部62dにて圧縮されて加速された後、第二の加速部62eで徐々に膨張されることでさらに加速され、圧縮空気噴射口62aより噴射される。圧縮空気を高速で噴射できるので、噴射口65より噴射される固気二相流の噴射速度も速くなる。その結果、表面処理能力が向上するので、効率よく表面処理を行うことができる。エアノズル62には、エア配管H1を介してコンプレッサCが連結されている。なお、一実施形態では、エアノズル52とコンプレッサCとの間には、電磁弁VL1及びバルブVL2が設けられていてもよい。
【0033】
なお、第一の加速部62dを通過した圧縮空気の流れは、第二の加速部62eにおける壁面に沿って流れるのが、最も効率よく加速することができる。
【0034】
圧縮空気噴射口62aより圧縮空気が噴射されると、この噴射流は周囲の空気を巻き込みながら直進するため、混合室64は負圧となり、吸引力が発生する。この吸引力により、貯留ホッパ21内に蓄えられた噴射材が搬送路22及び噴射材ホースH2を介して第一の経路F1をとおり混合室64に吸引される。混合室64に到達した噴射材は圧縮空気と混合され、第二の経路F2を通り固気二相流として噴射口65からワークWに向けて噴射される。噴射材は噴射材吸引口63より混合室64に向かって吸引される。混合室64に到達した噴射材は、圧縮空気と混合され、この混合された圧縮空気と噴射材はより固気二相流として噴射される。ここで、吸引力は圧縮空気噴射口62aと噴射ノズル61bの内壁面との距離によって大きさが変わるので、最適な吸引力となるようにエアノズル62を上下方向に移動させて調整し、図示しないボルト等でノズルホルダ61aに固定する。しかし、距離が短すぎると混合された噴射材が噴射ノズル61bに移動する流れが阻害される。一実施形態のエアノズル62は、第一の加速部62dと第二の加速部62eとにより圧縮空気が十分に加速されており噴射速度が速いので、周囲の空気を巻き込む力が向上している。その結果、混合室64で発生する吸引力が強くなるので、圧縮空気噴射口62aと混合室64の壁面との距離を長くしても噴射材を吸引するための十分な吸引力を得ることができる。即ち、一実施形態のエアノズル62を用いることで、固気二相流の噴射速度の向上と噴射材の噴射量の増加とを実現できるので、表面処理の効率を向上させることができる。
【0035】
一実施形態の構成を有するノズル組立体60は、噴射材を連続して噴射することができるので、長時間にわたって連続してワークWを加工することができる。なお、固気二相流の噴射速度と噴射材の吸引力を満足すれば、第三の経路F3の別の実施形態としてもよい。別の実施形態では、第二の加速部62eの代わりに、第一の加速部62dと連通し、圧縮空気噴射口62aに向かって同径である整流部を設けてもよい。
【0036】
ノズルから噴射される噴射材としては、金属又は非金属のショットやグリッドやカットワイヤ、セラミックス系粒子(アルミナ系、炭化珪素系、ジルコン系、等)、天然石の粒子(エメリー、珪石、ダイヤモンド、等)、植物系粒子(くるみの殻、桃の種、杏の種、等)、樹脂系粒子(ナイロン、メラミン、ユリア、等)等が例示される。
【0037】
加熱機構70は、圧縮空気供給源Cからエアノズル62への空気の供給経路に接続される。加熱機構70は、圧縮空気を所定の温度に加熱できればその構成は特に問わない。一実施形態では、圧縮空気が通過可能な管体の周囲に発熱体が固定されている構成とした。
【0038】
次に、一実施形態の表面処理装置01を用いて表面処理を行う方法について説明する。
【0039】
<S1:表面処理装置の準備>
表面処理装置01を準備する工程(S1)では、(a)噴射材のセット、(b)固気二相流の噴射速度の調整、(c)ワークWのセット、(d)ノズル組立体60とワークWとの間の距離の調整、(e)移動機構の動作条件の設定、(f)定量供給機構20の動作条件の設定、(g)加熱温度の設定、が行われる。
【0040】
(a)噴射材のセット
まず吸引機構40を作動させ、処理室Rが吸引される。次いで、扉11の施錠を解除して扉11を開放し、例えば作業者によって所定量の噴射材を処理室R内に投入する。次いで、吸引機構40の吸引力によって、第一の輸送管P1及び分離機構30を介して噴射材が定量供給機構20の貯留ホッパ21に移送される。その後、扉11を閉め、施錠する。なお、吸引機構40の吸引によって処理室R内は負圧となるので、処理室R内には外部と連通するように設けられた吸引孔(図示せず)から外気が流入する。
【0041】
(b)固気二相流の噴射速度の調整
例えば、表面処理装置01の制御装置50が操作され、圧縮空気をノズル組立体60に供給する経路に設けられた電磁弁VL1が「開」に設定され、定量供給機構20が「ON」に設定される。このような設定により、噴射材がノズル組立体60に供給され、ノズル組立体60から噴射される。ノズル組立体60から噴射材が噴射される際に、圧縮空気の供給圧力を調整するバルブVL2の開度を調整し、噴射材の噴射速度を調整する。
【0042】
(c)ワークのセット
噴射速度を調整後、制御装置50を操作し、電磁弁VL1を「閉」に、定量供給機構20を「OFF」に設定する。このような設定により、ノズル組立体60からの噴射材の噴射が停止する。その後、扉11を開放し、処理テーブル13上にワークWが載置し、固定する。
【0043】
(d)ノズル組立体とワークとの間の距離の調整
表面処理装置01の次いで、ノズル固定治具12を操作することでノズル組立体60とワークWとの間の距離及び角度が調整される。その後、扉11を閉め、施錠する。
【0044】
(e)移動機構の動作条件の設定
移動機構14の動作条件とは、移動機構14の移動の軌跡(
図5におけるX方向、Y方向の距離)、移動速度、及び走査回数等である。制御装置50を操作し、これらの条件を入力する。
【0045】
(f)定量供給機構の動作条件の設定
定量供給機構20により所定量の噴射材がノズル組立体60に供給される。供給量が多いと表面処理能力が向上するが、多すぎると噴射材ホースH2若しくは混合室64に噴射材が滞留し、次第に噴射材を噴射できなくなる。制御装置50を操作し、適正な噴射材供給量となるよう、定量供給機構の動作条件を入力する。
【0046】
(g)加熱温度の設定
加熱機構70と圧縮空気供給源Cとの経路に、温度計Tが配置されており、圧縮空気の温度を監視できる。制御装置50を操作し、圧縮空気の温度が所定の温度となるよう、定量供給機構の動作条件を入力する。圧縮空気の温度は、低すぎると加熱による効率の向上が少なく、高すぎると噴射材が変性(軟化や表面の酸化等)する場合もある。これらを考慮して適宜設定する。例えば、セラミックス質の噴射材を使用した場合は、100〜500℃の範囲から選択してもよい
【0047】
<S2:表面処理工程>
表面処理を行う表面処理工程(S3)では、制御装置50を操作すると、まず電磁弁VL1を「開」にする信号が発せられ、圧縮空気がノズル組立体60に供給される。次いで、加熱手段を「ON」にする作動する信号が発せられる。圧縮空気の温度が所定の温度に上昇したら、定量供給機構20を「ON」にする信号が発せられ、ノズル組立体60から噴射材が噴射される。次いで、移動機構14を「ON」にする信号が発せられ、ワークWが水平方向(
図5におけるXY方向)に移動するように移動機構14が作動する。例えば、ワークWを、+Y方向に所定距離だけ走査→+X方向に所定距離(ピッチ)だけ走査→−Y方向に所定距離だけ走査→+X方向に所定距離(ピッチ)だけ走査、の動作を繰り返すことで、
図5に示すように噴射領域AがワークWに対して櫛歯状の軌跡Tを描くように移動する。これにより、ワークWの全面に略均一に噴射材を衝突される。一実施形態では、この動作を複数回行ってもよい。なお、ノズル組立体60の噴射口は長方形状の平面形状を有していてもよい。噴射領域Aを大きくすることができるので、ワークWの表面処理の効率を向上させることができる。
【0048】
ここで、一実施形態の表面処理方法は圧縮空気が加熱されているので、従来の表面処理方法に比べて固気二相流の噴射速度を速くすることができる。噴射速度の向上は表面処理効率の向上に繋がるので、一実施形態の表面処理方法は従来の表面処理方法に比べて表面処理能力が優れている。また、別の側面では、同じ固気二相流の噴射速度を得たい場合、一実施形態の表面処理方法では圧縮空気供給源からの流量を少なくすることができるので、圧縮空気供給源Cを小型化することができる、若しくは圧縮空気供給源Cを動作するためのエネルギーを低くすることができる。
【0049】
また、従来の表面処理方法では、周囲の湿度もしくは圧縮空気に含まれる水分の影響を受けて、噴射材が凝集した状態で噴射される場合がある。凝集された噴射材での表面処理は、複数のワークWを表面処理した場合のそれぞれのワークWでの表面処理の程度のばらつきに結びつく。一実施形態の表面処理方法では圧縮空気が加熱されているので、圧縮空気中の水分は除去されている。また、周囲の湿度の影響を受けて噴射材が凝集した状態で混合室64に供給されたとしても、熱により凝集力が弱められるので、圧縮空気との混合中もしくは固気二相流中でこの凝集が解砕される。従って、一実施形態の表面処理方法では噴射材が凝集した状態でワークに衝突することを防ぐことができるので、ワークWに対する表面処理の信頼性が向上する。
【0050】
圧縮空気を加熱することによって、固気二相流も加熱される。加熱された固気二相流によってワークWのダメージが懸念される場合は、冷却管13aに冷却媒体を流してワークWを冷却しながら表面処理を施してもよい。
【0051】
<S3:回収工程>
表面処理後のワークWを回収する工程(S3)では、設定した移動機構14の動作が終了すると、加熱機構70を「OFF」、定量供給機構20を「OFF」にする信号がそれぞれ制御装置50より出力され、加熱が停止され、また噴射材の噴射が停止される。この時、圧縮空気はまだノズル組立体60に供給されているので、ノズル組立体60が冷却される。この冷却する工程は適宜設けられる工程であり、省略してもよい。ノズル組立体60が冷却されたら、電磁弁VL1を「閉」にする信号が制御装置50より出力され、ノズル組立体60への圧縮空気の供給が停止する。その後、扉11の施錠を解除して扉11を開放し、ワークWを処理テーブル13から取り外す。そして、ワークWに付着した噴射材及び粉塵をエアブロー等で除去した後、処理室R外に取りだし、一連の表面処理が終了する。
【0052】
次に、一実施形態の表面処理方法により表面処理を行った結果について説明する。以下の説明では、表面処理としてブラスト加工を選択し、フロートガラス板をワークWとしてブラスト加工を行った結果について説明する。
【0053】
ブラスト加工条件は以下の通りである。
噴射材 :アルミナ質(平均粒子径d50=25μm)
噴射圧力 :0.6MPa
噴射材供給量 :200g/min
ノズルとワークとの距離:2.5mm
ワークの移動速度 :200mm/sec
圧縮空気の温度 :室温、200℃
【0054】
ブラスト加工後のワークWの加工断面を、表面粗さ・輪郭形状複合測定機にて観察し、加工深さを測定した。
【0055】
結果を
図6に示す。
図6(A)は圧縮ガスを加熱せず(室温)にブラスト加工を行った場合の断面形状、
図6(B)は圧縮空気を200℃に加熱してブラスト加工を行った場合の断面形状である。室温の圧縮空気でブラスト加工をおこなった場合は約10μmの深さで加工されたのに対し、200℃に加熱した圧縮空気でブラスト加工をおこなった場合は約30μmの深さで加工されていた。即ち、圧縮空気を加熱することで、ブラスト加工能力が向上したことが示された。
【0056】
次に、圧縮空気の温度による噴射速度への影響について調査した。エアノズル62に圧縮空気を供給し、圧縮空気噴射口62a近傍の流速(圧縮空気噴射口62aからの噴射速度とする)をピトー管で計測した。圧縮空気は20℃(室温)〜500℃に調整した。
【0057】
結果を
図7(A)(B)に示す。
図7(A)は圧縮空気の温度による圧縮空気の噴射速度への影響を示しており、横軸は噴射時の圧縮空気の圧力(以降、噴射圧力と記す)、縦軸は圧縮空気噴射口62aからの噴射速度、である。噴射圧力にかかわらず、圧縮空気を加熱することで、噴射速度が上昇していることがわかる。
【0058】
図7(B)は、圧縮空気の温度が室温の場合に対する各温度における噴射速度の上昇割合を示している。
図6(A)と同様、横軸は噴射圧力、縦軸は噴射速度である。50℃の場合、室温に比べて上昇しているが上昇率はいずれの噴射圧力に対しても110%を下回っており、加熱による噴射速度の向上の効果が少なかった。また、400℃に比べて500℃は噴射速度の上昇効果が少なくなっていることがわかる。