(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-81255(P2019-81255A)
(43)【公開日】2019年5月30日
(54)【発明の名称】積層体、弾性フィルムの製造方法、弾性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 25/08 20060101AFI20190510BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20190510BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20190510BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20190510BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20190510BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20190510BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20190510BHJP
【FI】
B32B25/08
B32B27/00 A
B32B27/32 E
B29C55/02
B29K23:00
B29L7:00
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-208414(P2017-208414)
(22)【出願日】2017年10月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】天野 詠一
(72)【発明者】
【氏名】粟村 洋紀
【テーマコード(参考)】
4F100
4F210
【Fターム(参考)】
4F100AK02A
4F100AK02C
4F100AK03B
4F100AK62A
4F100AK62C
4F100AK64B
4F100AK66B
4F100AL09B
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA15
4F100EH20
4F100EJ37A
4F100EJ37B
4F100EJ37C
4F100GB72
4F100JA13B
4F100JK06
4F100JK07B
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F210AA09H
4F210AA12
4F210AG01
4F210AG03
4F210AH63
4F210AH66
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC01
4F210QC05
4F210QG01
4F210QG11
4F210QG15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備え、脆弱層が破断するまで延伸した後に弾性フィルムとして用いられる積層体において、脆弱層と弾性層の密着性が良好な積層体及び該積層体を用いて、均一拡張性に優れ、脆弱層が脱落することのない弾性フィルムを製造する方法の提供。
【解決手段】脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備える積層体において、前記脆弱層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成され、前記弾性層がオレフィン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物から形成される積層体。環状オレフィン系樹脂がノルボルネンとエチレンの共重合体及び/又はテトラシクロドデセンとエチレンの共重体であり、オレフィン系エラストマーがエチレン及び/又はC4〜8のα−オレフィンとのランダム共重合体である、積層体。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備える積層体において、
前記脆弱層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成され、前記弾性層がオレフィン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物から形成されることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記オレフィン系エラストマーが、プロピレンと、エチレン及び/又は炭素数4〜8のα−オレフィンとのランダム共重合体であって、エチレン及び/又は炭素数4〜8のα−オレフィンの含有量が6重量%以上、ASTM D1505に準拠して測定される密度が885kg/m3以下であることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記環状オレフィン系樹脂が、ノルボルネンとエチレンの共重合体及び/又はテトラシクロドデセンとエチレンの共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の積層体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層体から成る、脆弱層が破断するまで延伸した後に弾性フィルムとして用いられる積層体。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層体を、少なくとも一方向に、3%以上延伸し、脆弱層の少なくとも一部を破断することを特徴とする弾性フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層体を、少なくとも一方向に、3〜10%延伸し、脆弱層の少なくとも一部を破断することを特徴とする弾性フィルムの製造方法。
【請求項7】
脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備え、脆弱層が破断した弾性フィルムにおいて、
前記脆弱層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成され、前記弾性層がオレフィン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物から形成されることを特徴とする弾性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おむつや生理用品などの衛材分野、スポーツウェアーや下着等の衣料分野等において好適に用いられる弾性フィルムを得るための積層体に関する。詳しくは、脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備える積層体であって、脆弱層が破断するまで延伸することにより弾性フィルムとなる積層体に関する。また該積層体を用いた弾性フィルムの製造方法に関する。
尚、本明細書において、「積層体」は脆弱層が破断する前のフィルムを指し、「弾性フィルム」は積層体の脆弱層が破断した後のフィルムを指す。また「活性化」とは、積層体を延伸して脆弱層を破断し、弾性フィルムとする工程を意味する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性エラストマーを用いた弾性フィルムについて、多くの提案がなされている。熱可塑性エラストマーは特有のベタツキを示すものが多く、該樹脂を主成分とする単層のフィルムは、成形加工用のロールや搬送用のロールに貼り付き製膜できないことがあった。製膜できた場合であっても、該フィルムをロール巻にして保管すると、フィルム同士がブロッキングし、繰り出しができないことがあった。更に、該フィルムは、衛材や衣料等の直接皮膚に触れる部材に使用すると、肌触りが悪く、使用者にベタツキ感を与えることがあった。
【0003】
特許文献1には、弾性層(特許文献1「エラストマー層」に相当)とスキン層からなる積層体を延伸することによって得られる微細組織表面を有する弾性フィルム(エラストマー積層体)が、摩擦係数が低く触感も良いことが開示されている。
特許文献1では、弾性層を形成する樹脂(熱可塑性エラストマー)としてスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、又はスチレン/エチレン/ブタジエン(SIS、SBS、又はSEBS)ブロックコポリマーが特に有用とされている。また他の有用なエラストマー組成物として、ポリウレタンエラストマー、エチレンコモノマー等を包含するもの等が例示されている。
またスキン層を形成する樹脂として、オレフィン系エラストマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン又はエチレン−プロピレンコポリマー等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルデンフルオリド、ポリアクリレート等が例示されている。
【0004】
特許文献2にも、弾性層(特許文献2「弾性樹脂組成物から成るコア層」に相当)とスキン層とから構成された積層体(フィルム状前駆体)を延伸して得られる表面にひだ状の凹凸形状を備える弾性フィルム(延伸多層フィルム)が開示されている。
特許文献2では、弾性層に含まれる樹脂としてエチレン−αオレフィン共重合体エラストマー、オレフィン結晶−エチレンブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体等のオレフィン系エラストマーを採用している。
また特許文献2では、スキン層を形成する樹脂としてオレフィン系樹脂(ポリオレフィン熱可塑性樹脂)が採用されており、具体的にはエチレン、プロピレン及び1−ブテンから選ばれる1種の単独重合体、プロピレン及び1−ブテンから選ばれる2種以上の共重合体、エチレン、プロピレン及び1−ブテンから選ばれる1種以上とα−オレフィンとの共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が例示されている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示された弾性フィルムは、いずれも弾性層のハンドリング性を向上させるために、弾性層の表面にスキン層を設けて積層体を製膜し、該積層体を大きく延伸することによりスキン層を塑性変形させ、弾性フィルムを得るものである。スキン層が塑性変形した後の弾性フィルムは、弾性層のみの弾性フィルムと近似した伸縮特性を示す。
しかしながらスキン層を塑性変形させるためには、積層体を大きく延伸する必要があった。特許文献2に開示されたフィルムは、伸張破断倍率の50〜90%延伸する。そのため、延伸設備が大型化する、延伸に時間を要するといった問題があった。
【0006】
特許文献3は、弾性層(特許文献3「エラストマー重合体フィルム層」に相当)と脆弱層(脆い重合体フィルム)とからなる積層体(非ブロッキング性多層フィルム)に関する発明である。該フィルムは延伸(活性化)により脆弱層が破砕され、弾性フィルム(活性化された非ブロッキング性多層フィルム)となる。
特許文献3では、弾性層に含まれる樹脂(エラストマー重合体)として、ビニルアリーレン類と共役ジエン単量体類とのブロック共重合体類、天然ゴム類、ポリウレタンゴム類、ポリエステルゴム類、エラストマー性ポリオレフィン類とポリオレフィンブレンド類、エラストマー性ポリアミド類等が例示されている。
また脆弱層を形成する樹脂としてはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、他のアクリル酸エステル重合体、ポリエステル類、ポリカーボネート類が例示されており、更には該樹脂として高度の結晶性を持つ重合体が要求されることが開示され、高結晶性ポリスチレンが好ましい旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平5−501386
【特許文献2】特開2003−311884
【特許文献3】特表2008−540192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に開示された弾性フィルムは、特許文献3
図6(a)に開示されたように、フィルム表面に形成される亀裂が不規則なものであった。これは弾性層と脆弱層の密着強度にムラがある為と思われる。弾性層と脆弱層の密着強度が安定していないと、積層体を延伸する際や、延伸後の弾性フィルムを使用する際に、脆弱層の一部が弾性層から脱落し、弾性フィルムや該フィルムを使用する環境を汚染する恐れがある。
【0009】
本発明は、脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備え、脆弱層が破断するまで延伸した後に弾性フィルムとして用いられる積層体において、脆弱層と弾性層の密着性が良好な積層体の提供を課題とする。また該積層体を用いて、均一拡張性に優れ、脆弱層が脱落することのない弾性フィルムを製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、おむつや生理用品などの衛材分野、スポーツウェアーや下着等の衣料分野等において求められる弾性は、オレフィン系エラストマーにより達成できることを見出し、弾性層にオレフィン系エラストマーを用いることとした。また非晶性樹脂は脆く、延伸により破断し易いことを見出し、脆弱層に非晶性樹脂を用いることとした。
しかしながら、非晶性樹脂の多くはガラス転移温度が高く、オレフィン系エラストマーと同時に加工することが困難であった。またオレフィン系エラストマーとの密着性も悪く、脆弱層が脱落する問題を解消することはできなかった。そこで、非晶性樹脂の中でも、ガラス転移温度が比較的低く、またオレフィン系エラストマーとの密着性も良好な環状オレフィン系樹脂を脆弱層に用いることとした。
【0011】
即ち、本発明によると上記課題を解決する為の手段として、脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備える積層体において、前記脆弱層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成され、前記弾性層がオレフィン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物から形成されることを特徴とする積層体が提供される。
また前記オレフィン系エラストマーが、プロピレンと、エチレン及び/又は炭素数4〜8のα−オレフィンとのランダム共重合体であって、エチレン及び/又は炭素数4〜8のα−オレフィンの含有量が6重量%以上、ASTM D1505に準拠して測定される密度が885kg/m3以下であることを特徴とする前記積層体が提供される。
また前記環状オレフィン系樹脂が、ノルボルネンとエチレンの共重合体及び/又はテトラシクロドデセンとエチレンの共重合体であることを特徴とする前記積層体が提供される。
また前記積層体から成る、脆弱層が破断するまで延伸した後に弾性フィルムとして用いられる積層体が提供される。
【0012】
また前記積層体を、少なくとも一方向に、3%以上延伸し、脆弱層の少なくとも一部を破断することを特徴とする弾性フィルムの製造方法が提供される。
また積層体を、少なくとも一方向に、3〜10%延伸し、脆弱層の少なくとも一部を破断することを特徴とする弾性フィルムの製造方法が提供される。
また脆弱層、弾性層、脆弱層を順に備え、脆弱層が破断した弾性フィルムにおいて、前記脆弱層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成され、前記弾性層がオレフィン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物から形成されることを特徴とする弾性フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層体は、脆弱層が破断し易い為、弾性フィルムを活性化する際に大きく延伸する必要がない。また脆弱層と弾性層との密着性が良好である為、弾性フィルムを製造する際や、弾性フィルムを使用する際に、脆弱層が弾性層から脱落し難い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の積層体のヒステリシス曲線である。
【
図2】実施例2の積層体のヒステリシス曲線である。
【
図3】比較例1の積層体のヒステリシス曲線である。
【
図4】比較例2の積層体のヒステリシス曲線である。
【
図5】比較例3の積層体のヒステリシス曲線である。
【
図6】比較例4の積層体のヒステリシス曲線である。
【
図7】実施例1、比較例1、比較例3のS−S曲線である。
【
図8】実施例2、比較例2、比較例4のS−S曲線である。
【
図9】実施例2記載の積層体(活性化前)表面の非接触式表面粗さ測定機による表面測定結果である。
【
図10】非接触式表面粗さ測定機により、実施例2記載の積層体を100%延伸した状態で表面を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は以下の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲において、種々の形態をとることができる。
【0016】
[弾性層]
本発明の弾性層はオレフィン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物から形成される。オレフィン系エラストマーは、加熱すると流動し、常温では良好なゴム弾性を発現する樹脂である。オレフィン系エラストマーはソフトで柔らかな触感を示し、後述する環状オレフィン系樹脂との密着性が良好である。
尚、本発明において、「主成分とする」とは、樹脂組成物を構成する樹脂成分のうち、構成比率が50質量%以上であることを意味するものであり、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。また「ゴム弾性」とは、樹脂をフィルム状に成形し、50%(もとの長さの1.5倍)、好ましくは100%(もとの長さの2.0倍)引き伸ばしても、応力を除けば、概ねもとの長さに戻る(もとの長さの115%未満、好ましくは110%未満、更に好ましくは105%未満に戻る)性質を意味する。
【0017】
オレフィン系エラストマーは、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂からなるハードセグメントと、ゴム成分や軟質樹脂から成るソフトセグメントから構成される樹脂で、ハードセグメントとソフトセグメントがブレンドされた単純ブレンドタイプ、ハードセグメントとソフトセグメントとが架橋した動的架橋タイプ、ハードセグメントとソフトセグメントが重合した重合タイプ等がある。本発明ではいずれのオレフィン系エラストマーも採用することができるが、弾性フィルムの柔軟性を考慮すると、重合タイプを採用することが望ましい。
【0018】
重合タイプのオレフィン系エラストマーとしては、常温(20℃)でゴム弾性を発現するオレフィン系樹脂を例示することができる。具体的には、エチレン−αオレフィン共重合体(エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体等)や、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体(プロピレン−ブテン共重合体等)、プロピレン−エチレン−αオレフィン共重合体等を例示することができる。中でも、コモノマー成分が6重量%以上、好ましくは10重量%を超えるプロピレンと、エチレン及び/又は炭素数4〜8のα−オレフィンとのランダム共重合体は、非晶質部分が豊富であり、フィルム化した際に低荷重で伸長することができ、弾性に優れる為、本発明の弾性層として特に適する。
【0019】
オレフィン系エラストマーの密度は、JIS−K7112−1999の水中置換法に基づいて測定した場合、910kg/m
3以下であることが好ましく、特に900kg/m
3以下であることが好ましい。オレフィン系エラストマーが上述した非晶質部分が豊富なプロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜8のα−オレフィンとのランダム共重合体である場合、その密度は890kg/m
3以下、好ましくは870kg/m
3以下、特に850kg/m
3以下であることが好ましいプロピレンとエチレン及び/又は炭素数4〜8のα−オレフィンとのランダム共重合体は、密度が高くになるにつれ、結晶性が高くなり、得られる弾性フィルムの均一拡張性や復元性が低下する傾向にある。
【0020】
弾性層は、オレフィン系エラストマーのみから構成されていてもよいが、インフレーション成形やTダイ成形における成形性を考慮する場合には、オレフィン系エラストマーに他の熱可塑性樹脂を配合して用いることができる。弾性層に含有されてもよいオレフィン系エラストマー以外の熱可塑性樹脂としては、オレフィン系エラストマー以外のオレフィン系樹脂、飽和又は不飽和ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、及びこれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。中でもオレフィン系エラストマー以外のオレフィン系樹脂(例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン又はプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体等)は、オレフィン系エラストマーとの相溶性が良好であるため、弾性層に配する樹脂として適する。弾性層に含まれるオレフィン系エラストマーと他の熱可塑性樹脂の重量割合は70〜100重量%:30〜0重量%が望ましく、特に80〜100重量%:20〜0重量%が好ましい。オレフィン系エラストマーの重量割合が70重量%を下回ると得られるフィルムの弾性が低下する。
【0021】
弾性層の厚さは、弾性フィルムの用途に応じ適宜決定すればよい。しかしながら弾性層が厚くなり過ぎると得られる弾性フィルムが引き伸ばし難くなり、弾性層が薄くなり過ぎると弾性フィルムのフィット感が低下する。よって弾性層は10〜200μmが好ましく、特に20〜150μmが好ましく、更には40〜100μmが好ましい。
【0022】
[脆弱層]
本発明の積層体は二つの脆弱層を備えるが、該脆弱層はいずれも環状オレフィン系樹脂を主成分とする。本発明にかかる環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン単独重合体(COP)あるいは環状オレフィン共重合樹脂(COC)である。
【0023】
環状オレフィン単独重合体(COP)、環状オレフィン共重合体(COC)を構成する環状オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどの単環式オレフィン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、エチルテトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕トリデカ−2,4,6,11−テトラエンなどの多環式オレフィン、などが挙げられる。これらの環状オレフィンは、それぞれ単独であるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0024】
環状オレフィン共重合樹脂(COC)を構成する環状オレフィン以外の他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。
【0025】
脆弱層を形成する樹脂組成物には、上述した環状オレフィン系樹脂を一種あるいは複数種選択して用いることができるが、弾性層との密着性を考慮すると、環状オレフィン共重合体(COC)を主成分とすることが好ましく、特にノルボルネンとエチレンの共重合体及び/又はテトラシクロドデセンとエチレンの共重合体を主成分とすることが好ましい。
【0026】
脆弱層を形成する樹脂組成物は、副成分として他の樹脂を含むことができる。該副成分は特に限定されるものではないが、環状オレフィン系樹脂が環状オレフィン共重合体(COC)である場合、共重合成分と同種の樹脂を副成分として含むと、相溶性に優れる。
本発明の積層体は脆弱層を二層備えるが、二つの脆弱層は環状オレフィン系樹脂を主成分とする樹脂組成物から形成されていれば、同じ樹脂組成物から形成されていても、異なる樹脂組成物から形成されていても良い。
【0027】
脆弱層の厚さは特に限定されないが、活性化の際の破断性を考慮すると、20μm以下が好ましく、15μm以下が特に好ましい。また積層体を製造する際に、弾性層が成形加工用のロールや搬送用のロールに貼り付くことを防止する為には、脆弱層は1.5μmを超えることが好ましく、更には3μmを超えることが好ましい。
【0028】
[積層体]
本発明の積層体の製造方法は特に限定されるものではなく、熱ラミネート法、押出ラミネート法等、従来公知の製膜法を採用することができる。しかしながら、生産性や、脆弱層と弾性層の密着性を考慮すると、インフレーション共押出法、あるいはTダイ共押出法によることが望ましい。具体的には、環状オレフィン系樹脂を主成分とする脆弱層形成用の樹脂組成物と、オレフィン系エラストマーを主成分とする弾性層用の樹脂組成物を、別々の押出機に供給し、環状或いは線状の押出機から同時に押し、フィルム状に成形することが望ましい。
【0029】
積層体における各層の厚さの割合は特に限定されるものではないが、活性化後の弾性フィルムの伸縮性能を考慮すると、脆弱層を所期の性能が発揮できる範囲内でなるべく薄くし、弾性層の厚さの割合を高くすることが望ましい。具体的には脆弱層:弾性層:脆弱層=1:4:1〜1:30:1であることが望ましく、特に1:6:1〜1:25:1であることが好ましい。
尚、脆弱層を薄くすると、積層体を製造する際に、その一部において脆弱層が十分に行き渡らずに、途切れる恐れがある。このような問題を解決する為には、脆弱層を形成する樹脂のMFRを、弾性層を形成する樹脂のMFRよりも高くするとよい。
【0030】
本発明の積層体は、脆弱層によりブロッキング性が改善されているが、更にブロッキング性を改善し、スリップ性を高める為には、脆弱層にアンチブロッキング剤を配合するとよい。また積層体の表面にエンボス加工を施すことも効果的である。
本発明の積層体を構成する各層には本発明の目的を損なわない範囲において、通常熱可塑性樹脂に使用する公知の酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性剤、可塑剤、充填剤、着色剤などの添加剤を配合することができる。
【0031】
[弾性フィルム]
上述した積層体を、脆弱層の少なくとも一部が破断するまで延伸すれば、積層体は活性化され、弾性フィルムとなる。本発明の積層体は、脆弱層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする為、大きく延伸することなく積層体を活性化することができる。具体的には積層体を少なくとも一方向に3%以上(もとの長さの1.03倍以上)、好ましくは3〜10%延伸すれば、脆弱層は概ね破断し、積層フィルムは活性化する。
【0032】
積層体を延伸する方法は特に限定されず、フィルムをチャックで掴んで延伸するテンター延伸法や、低速ロール群と高速ロール群からなるロールの回転速度を変化させて延伸するロール延伸法等、公知の延伸方法を採用することができる。また積層体を延伸するタイミングも特に限定されるものではなく、例えばおむつや生理用品などの衛材や、スポーツウェアーや下着等の衣料等に組み込む直前で延伸を行うとよい。
また本発明の積層体を活性化せずに製品に組み込み、製品を使用する者が、例えば手で延ばす等して活性化しても良い。
積層体を延伸する際は、常温(10〜30℃、好ましくは20℃前後)で行うことが望ましい。加熱された状態で積層体を延伸すると、脆弱層が破断し難い。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき、本発明の効果を詳細に説明する。尚、各フィルムの評価は以下の試験により行った。また引張試験機は島津製作所社製オートグラフAG−ISを使用した。
<伸縮試験>
初めにフィルムを幅15mmの矩形に切り出して試験片を作成する。尚、フィルムの流れ方向(以下、「MD」と称す)の伸縮試験を行う際は、フィルムのMDが試験片の測定方向となるように、フィルムの幅方向(以下、「TD」と称す)の伸縮試験を行う際はフィルムのTDが試験片の測定方向となるようにする。
次いで、試験片を引張試験機に装着する。このときチャック間距離を40mmにする。
該試験片を200mm/minの速度で300%(チャック間距離が160mmになるまで)伸長し、次いで200mm/minの速度でチャック間距離が40mmに戻るまで試験片の伸長を戻す。再度、試験片を200mm/minの速度で300%伸長し、200mm/minの速度でチャック間距離が40mmまで戻し、応力と歪みの関係(ヒステリシス曲線)を測定する。
尚、各実施例、比較例の評価結果(
図1乃至6)において、一度目の伸縮時に観測される応力と歪みの関係は破線で、二度目の伸縮時のものは実線で記す。
【0034】
<引張試験>
JIS K7127(1989)に規定される4号型試験片を、引張試験機に装着する。チャック間距離は40mmとする。
次いで、JIS K7161:2014に準拠し、該試験片を50mm/minの速度で20%(チャック間距離が48mmになるまで)伸長し、フィルムの歪みと応力の関係(S−S曲線)を測定する。
【0035】
[実施例1]
脆弱層として環状オレフィンとエチレンの共重合体を、弾性層としてプロピレン系エラストマーを用いて、Tダイ共押出法にて、脆弱層/弾性層/脆弱層の三層構成の積層体(40μm)を製膜した。各層の厚さの比は、脆弱層:弾性層:脆弱層=1:23:1とした。得られた積層体の伸縮試験結果を
図1に記す。また積層体の引張試験結果を、比較例1、比較例3の結果と共に、
図7に実線で記す。
【0036】
[実施例2]
積層体の厚さを80μmとした以外は、実施例1と同様にして本発明の積層体を得た。得られた積層体の伸縮試験結果を
図2に記す。また積層体の引張試験結果を、比較例2、比較例4の結果と共に、
図8に実線で示す。
【0037】
[比較例1]
脆弱層として高密度ポリエチレンを用いた以外は、実施例1と同様にして比較の為の積層体を得た。得られた積層体の伸縮試験結果を
図3に記す。また積層体の引張試験結果を、実施例1、比較例3の結果と共に、
図7に破線で示す。
【0038】
[比較例2]
脆弱層として高密度ポリエチレンを用いた以外は、実施例2と同様にして比較の為の積層体を得た。得られた積層体の伸縮試験結果を
図4に記す。また積層体の引張試験結果を、実施例2、比較例4の結果と共に、
図8に破線で示す。
【0039】
[比較例3]
脆弱層としてプロピレン−エチレンランダム共重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較の為の積層体を得た。得られた積層体の伸縮試験結果を
図5に示す。また積層体の引張試験結果を実施例1、比較例1の結果と共に、
図7に一点鎖線で示す。
【0040】
[比較例4]
脆弱層としてプロピレン−エチレンランダム共重合体を用いた以外は、実施例2と同様にして比較の為の積層体を得た。得られた積層体の伸縮試験結果を
図6に示す。また積層体の引張試験結果を実施例2、比較例2の結果と共に、
図8に一点鎖線で示す。
【0041】
[比較例5]
脆弱層として直鎖状低密度ポリエチレンを用いた以外は、実施例1と同様にして比較の為の積層体の製造を試みた。しかしながら積層体製造中に、脆弱層が成形用ロール貼り付き、フィルム状に成形することができなかった。
【0042】
[比較例6]
脆弱層としてプロピレン単独重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして比較の為の積層体の製造を試みた。しかしながら積層体製造中に、脆弱層が成形用ロール貼り付き、フィルム状に成形することができなかった。
【0043】
【表1】
【0044】
図1乃至
図6を見ると、一度目の伸縮(破線)では塑性変形による30〜60%程度の永久歪みが観測されたが、二度目の伸縮(実線)では永久歪みの増加がほとんど観測されなかった。よって弾性層にプロピレン系エラストマーを用いた積層体を延伸した後のフィルム(=弾性フィルム)は、大きく引き伸ばしても歪まず、復元性に優れる。また各ヒステリシス曲線は、MDを測定したものと、TDを測定したものが近似している。よってプロピレン系エラストマーを弾性層に用いた弾性フィルムは、均一拡張性に優れる。
【0045】
また
図7、
図8を見ると、脆弱層が環状オレフィン系樹脂からなる実施例1、2の積層体(実線)は、いずれも伸度3%付近を境として曲線の傾きが大きく変化している。これは伸度3%付近で脆弱層が概ね破断した為である。伸度3%を超える領域において、試験片の伸長に要する荷重は、主に脆弱層の破断していない部分と弾性層の伸長に必要な荷重である。一方、比較例1乃至4の積層体(破線、一点鎖線)は、いずれも伸度20%まで、伸度の増加に伴って荷重がなだらかに増加している。これは伸度20%においても脆弱層が破断していない為と思われる。
また実施例1、2は、比較例1乃至4よりも、S−S曲線の初期の傾きが大きい。よって実施例1、2の積層体は、比較例1乃至4の積層体よりも剛性が高く、ハンドリング性に優れる。
【0046】
実施例2の積層体の表面と、該積層体を100%延伸した弾性フィルム(100%延伸した状態で固定)の表面とを、非接触式表面粗さ測定機により測定した。積層体の測定結果を
図9、弾性フィルムの測定結果を
図10に記す。
本発明の弾性フィルムは、表面が規則正しくダイヤ柄に破断していた。これは弾性層が均一に拡張し、尚且つ弾性層と脆弱層の密着性にムラがなかったためと思われる。本発明の弾性フィルムは、弾性層から脆弱層が剥がれ落ちることがなく、弾性フィルムや、該フィルムを使用する環境を汚染することがない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の積層体を活性化して得られる弾性フィルムは、均一拡張性に優れ、復元率も高く、引張荷重が高すぎない為、おむつや生理用品などの衛材分野、スポーツウェアーや下着等の衣料分野等において好適に用いられる。
また本発明の弾性フィルムは内部ヘイズが1%以下であり、非常に低い。これはオレフィン系エラストマーの結晶化度が低いことに起因するものと思われる。そのため他のフィルムと熱融着したり、ラミネートしたりしても、フィルムの透明性を低下させない。よって、透明性が求められる用途にも好適に用いることができる。