特開2019-81726(P2019-81726A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-81726(P2019-81726A)
(43)【公開日】2019年5月30日
(54)【発明の名称】エラスターゼ活性阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/67 20060101AFI20190510BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20190510BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20190510BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20190510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190510BHJP
【FI】
   A61K8/67
   A61Q19/08
   A61K31/375
   A61P17/00
   A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-209551(P2017-209551)
(22)【出願日】2017年10月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228729
【氏名又は名称】日本サーファクタント工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301068114
【氏名又は名称】株式会社コスモステクニカルセンター
(72)【発明者】
【氏名】横田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】笹村 亮
(72)【発明者】
【氏名】矢作 彰一
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD641
4C083BB51
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC06
4C083CC07
4C083DD27
4C083DD30
4C083DD31
4C083EE12
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA18
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA28
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】皮膚の弾力維持に重要な真皮組織マトリックス構造の構成成分であるコラーゲンやエラスチンの分解酵素であるエラスターゼの活性阻害剤の提供。
【解決手段】アスコルビン酸およびその誘導体を有効成分として含有するエラスターゼ活性阻害剤である。アスコルビン酸およびその誘導体としては、ジパルミチン酸アスコルビルやテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等のアスコルビン酸アルキルエステル、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、3−O−セチルアスコルビン酸等のアスコルビン酸アルキルエーテル等が挙げられ、特に好ましくは油溶性のアスコルビン酸誘導体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸およびその誘導体を有効成分とするエラスターゼ活性阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸およびその誘導体を有効成分とするエラスターゼ活性の阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
老化皮膚において真皮組織では、コラーゲン線維の減少と線維束の脆弱化、エラスチン線維の消失と無配向エラスチンの増加、プロテオグリカンの増加が生じ、さらに酸化タンパク質であるカルボニルタンパク質が真皮上層部に、最終糖化生成物がエラスチンに蓄積する。また、真皮内の微小循環系の変化としてはしわの重篤度に合わせて、血管、リンパ管の存在頻度の低下が観察され、真皮組織内には多くの好中球、マクロファージ、肥満細胞の浸潤が観察される(非特許文献1)。特に、皮膚におけるしわの形成は老化の兆候として広く認知されているが、しわ形成部位では皮膚の粘弾性が低下していることが報告されており、エラスチンがシワ形成に関与することが報告されている(非特許文献2)。
エラスチンの構造消失は、エラスチン分解酵素の発現亢進により説明される。このエラスチンの分解酵素エラスターゼは線維芽細胞により産生されるMMP型のエラスターゼと好中球に由来するエラスターゼの関与が報告されている(非特許文献1)。すなわち、皮膚の弾力を保ち、老化による皮膚のしわやたるみを防止するためには、これらエラスターゼの活性を阻害し、エラスチンの分解を防ぐことが重要である。
【0003】
エラスターゼの活性阻害剤としては、モモ種子抽出物(特許文献1)、ウコン、セイヨウノコギリソウ、ゼニアオイ、タイム、ヤーコン、ローズヒップ(特許文献2)、スイートピー花抽出物(特許文献3)等の植物抽出物、リンジン、ヘスペリジン、ルチン(特許文献4)、フィトエン及び/又はフィトフルエン(特許文献5)、ウロリチン類(特許文献6)等がその効果について、既にいくつかの報告がなされているが、植物抽出物は季節や産地により品質のばらつきがあり、化粧料や外用剤の品質管理が難しいなどの問題がある。さらに、抗老化剤として広く認知されているビタミンAは光老化によるコラーゲン産生低下の改善をするほか、表皮においてヒアルロン酸産生を促進する作用によるしわの改善作用が報告されている(非特許文献2)。しかしながら、ビタミンAもまた熱、光、酸化に対して弱く、非常に不安定な成分であることから、化粧料や外用剤への配合に対しては、安定に配合するための特殊な製剤化技術が必要であり、汎用性に乏しい現状にある。またビタミンAは、痒疹や紅斑といった皮膚刺激等が起こりやすく、広く化粧料に配合する場合には、その安全性に問題があり、安全性及び安定性に優れた、汎用性の高いエラスターゼ活性阻害剤が求められている。
ところで、アスコルビン酸及びその誘導体については、抗酸化作用、美白作用、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用等の機能を持つことが知られているが、エラスターゼ活性阻害作用に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−335235号公報
【特許文献2】特開2002‐205950号公報
【特許文献3】特開2006‐282617号公報
【特許文献4】WO2009/116450号公報
【特許文献5】特開2016‐011259号公報
【特許文献6】特開2017‐031108号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】正木仁、抗老化素材のレビュー、日本香粧品学会誌 Vol.37, No.1, pp.11-16(2013)
【非特許文献2】Fujimura T et.al., Loss of skin elasticity precedes to rapid increase of wrinkle levels. J Dermatol Sci. 2007 Sep;47(3):233-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮膚の弾力維持に重要な真皮組織マトリックス構造の構成成分であるコラーゲンやエラスチンの分解酵素であるエラスターゼの活性阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エラスターゼの活性阻害剤について鋭意研究した結果、アスコルビン酸およびその誘導体が、エラスターゼの活性を減少させる効果が顕著に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアスコルビン酸およびその誘導体は、エラスターゼの活性阻害作用が顕著であり、これらを配合することで、皮膚のしわ改善やたるみ防止に対して効果を発揮する化粧料や外用剤の提供が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の構成を更に詳細に説明する。
本発明は、アスコルビン酸およびその誘導体を有効成分として含有するエラスターゼ活性阻害剤である。
本発明のアスコルビン酸およびその誘導体としては、ジパルミチン酸アスコルビルやテトラヘキシルデカン酸アスコルビル等のアスコルビン酸アルキルエステル、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、3−O−セチルアスコルビン酸等のアスコルビン酸アルキルエーテル等が挙げられ、特に好ましくは油溶性のアスコルビン酸誘導体である。
【0010】
前記アスコルビン酸およびその誘導体の市販品としては、アスコルビン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)、AA2G(アスコルビン酸グルコシド、林原社製)、NIKKOL VCPMg(アスコルビン酸リン酸マグネシウム、日光ケミカルズ社製)、NIKKOL CP(ジパルミチン酸アスコルビル、日光ケミカルズ社製)やNIKKOL VC−IP(テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、日光ケミカルズ社製)等がありこれを用いることもできるし、特開平6−247956号公報等の方法で合成したものを用いてもよい。さらに、これらのアスコルビン酸およびその誘導体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらアスコルビン酸およびその誘導体は、優れたエラスターゼ活性阻害作用を有し、エラスターゼの過剰な活性化によりもたらされるコラーゲンやエラスチンの分解を抑制し、これが原因で起こる皮膚のシワやたるみの改善に有用である。
【0011】
本発明のエラスターゼ活性阻害剤は、外用剤として用いることが好ましい。本発明のエラスターゼ活性阻害剤の外用剤としての形態では、本発明の効果に影響のない範囲において、通常使用される外用基剤、薬効成分などを配合することができる。外用基剤としては、流動パラフィンやスクワランなどの炭化水素、植物油、ロウ類、合成エステル油、シリコーン系の油相成分、フッ素系の油相成分、高級アルコール類、脂肪酸類、増粘剤、紫外線吸収剤、粉体、顔料、色材、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、多価アルコール、糖、高分子化合物、経皮吸収促進剤、溶媒、酸化防止剤、香料、防腐剤などを任意に配合することができる。薬効成分としては鎮痛消炎剤、殺菌消毒剤、ビタミン類、皮膚軟化剤等を適宜使用できる。本発明の外用剤の剤型は任意であり、油性基剤をベースとするもの、水中油型、油中水型の乳化系基剤をベースとするもの、水をベースとするもののいずれの剤型も任意にとることができる。また用途としては、化粧料の他、皮膚外用剤、医薬用軟こう等に好適に使用できる。その形態は、化粧水、乳液、美容液、クリーム、パック、美容オイル、オイルバーム、軟こう、固形物、ムース等のスキンケア製品、化粧下地やファンデーション、コンシーラー、アイシャドウ、チーク等のメイク製品、リップ製品、ボディ製品といった化粧料および外用剤に配合することができるが、これらに限定されるものではない。本発明のエラスターゼ活性阻害剤の外用剤への配合量は、用途、剤型、配合目的等によって異なり、特に限定されるものではないが、一般的には、アスコルビン酸およびその誘導体として、外用剤中0.01〜100.0質量% が好ましく、より好ましくは0.5〜30.0質量%である。
【実施例】
【0012】
1、試験の概要
アスコルビン酸およびその誘導体の真皮線維芽細胞由来エラスターゼに対する活性阻害作用を確認した。
【0013】
2、実験方法
正常ヒト線維芽細胞は0.5%Triton X−100含有リン酸緩衝液で30分間静置することで細胞を溶解し、これをエラスターゼの粗酵素溶液として用いた。エラスターゼの合成基質としてはスクシニル―L−アラニル―L−アラニル―L−アラニンp−ニトロアニリド(Suc−Ala−Ala−Ala−pNA)を用いて、0.1mol/Lトリス塩酸緩衝液に5mmol/Lの濃度で溶解した。4倍濃度の試験試料を含有する0.1mol/Lトリス塩酸緩衝液、粗酵素溶液、および基質溶液をそれぞれ1:1:2の割合で混合し、暗所で37℃、2時間インキュベーションをした。合成基質がエラスターゼで切断されることにより放出されるp−ニトロアニリンに由来する405nmの吸光度を測定することでエラスターゼ活性の指標とした。
解析は、陰性対象(試料無添加条件)のエラスターゼ活性を100%とした相対値で表した。それぞれのエラスターゼ活性はStudent t検定を用いて有意差検定を行い、陰性対象との差を評価した。
【0014】
3、評価試料
比較品1:EDTA(シグマアルドリッチ社製)
比較品2:レチノイン酸(ビタミンA、東京化成工業社製)
発明品1:アスコルビン酸ナトリウム(L(+)-アスコルビン酸ナトリウム、和光純薬工業社製)
発明品2:アスコルビン酸グルコシド(AA2G、林原社製)
発明品3:アスコルビン酸リン酸マグネシウム(NIKKOL VCPMg、日光ケミカルズ社製)
発明品4:テトラヘキシルデカン酸アスコルビル(NIKKOL VC−IP、日光ケミカルズ社製)
【0015】
4、結果
結果を表1に示した。アスコルビン酸およびその誘導体の処理により、エラスターゼ活性は有意な減少が認められた。アスコルビン酸およびその誘導体のなかでも、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルが同モル濃度の他の試験試料と比較して、最も強いエラスターゼ活性の減少作用が確認された。
【0016】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0017】
アスコルビン酸及びその誘導体がエラスターゼに対して有意な活性阻害作用を示したので、これをエラスターゼ活性阻害剤として使用することで、皮膚の弾力を保ち、加齢によるしわやたるみを防ぐための化粧品ならびに外用剤の提供が可能となる。