【解決手段】本発明の成形用シートは、活性エネルギー線硬化性モノマーとナノセルロースとを含む硬化性組成物の硬化物からなる成形用シートであって、破断点伸びが50%以上であるものである。
前記ナノセルロースが、セルロースナノクリスタル及びセルロースナノファイバーからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の成形用シート。
活性エネルギー線硬化性モノマーとナノセルロースとを含む成形用硬化性組成物であって、前記成形用硬化性組成物の硬化物は、破断点伸びが50%以上である、成形用硬化性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態を用いて詳細に説明する。
[成形用シート]
本発明の成形用シートは、活性エネルギー線硬化性モノマーとナノセルロースとを含む硬化性組成物の硬化物からなるものであり、破断点伸びが50%以上となるものである。成形用シートは、ナノセルロースを充填材として使用すると充填材に起因して発生するクラックが抑制されるが、破断点伸びを50%未満とすると、ナノセルロースを使用しても成形時の引き伸ばしなどによりクラックが発生する。
【0012】
成形時に発生するクラックをより抑制する観点から、破断点伸びは、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。また、破断点伸びは、その上限が特に限定されないが、後述する鉛筆硬度を適切な範囲にしやすくするために、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下である。
【0013】
また、成形用シートは、鉛筆硬度がF以上の硬さであることが好ましい。成形用シートは、鉛筆硬度がF以上であると、耐傷付き性を優れたものにすることが可能である。耐傷付き性をより向上させる観点から、鉛筆硬度は、H以上がより好ましい。また、鉛筆硬度の上限は、特に限定されないが、破断点伸びを所望の範囲に調整しやすくするために、4H以下が好ましく、3H以下がさらに好ましい。
【0014】
破断点伸びは、成形用シートが破断する時の成形用シートの伸びを示すものであり、後述する積層シートの状態で測定しても理論上は同じ値になるものである。したがって、基材と成形用シートとを備える積層シートなどの場合のように、積層シートが破断点伸びを測定できるように全体として伸長可能な場合には、後述する実施例で示すように積層シートの状態で測定するとよい。
また、破断点伸びは、成形用シート単体である場合には、成形用シート単体を後述する実施例記載の測定方法で測定することで得ることができる。また、積層シートが伸長しない場合など積層シートの状態では成形用シートの破断点伸びを測定できない場合には、成形用シートを他の部材から剥離して成形用シート単体にした状態で測定すればよい。このとき、他の部材から剥離できない等により破断点伸びを測定できない場合には、同じ組成の硬化性組成物を基材に塗布した後、同じ条件で硬化させて成形用シートを形成することで積層シートを用意し、その積層シートにより破断点伸びを測定することも可能である。
なお、破断点伸びの詳細な測定条件などは、後述する実施例に記載されるとおりである。
また、鉛筆硬度は、成形用シート表面の硬度を後述する各実施例で実施した方法に従って測定するとよい。
【0015】
また、本発明の成形用シートは、特に限定されないが、透明性が必要とされる用途などでは、初期ヘイズが低いほうがよい。具体的には、成形用シートの初期ヘイズは、好ましくは12%未満、より好ましくは7%未満である。また、初期ヘイズは、その下限は特に限定されないが、実用的には0.1%以上である。なお、初期ヘイズは、JIS K7105(1981)に準拠して測定したものである。
【0016】
(活性エネルギー線硬化性モノマー)
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性モノマーは、重合性の不飽和基を有するモノマーである。不飽和基としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基が挙げられ、これらの中では(メタ)アクリロイル基が好ましい。
なお、本明細書においては、活性エネルギー線硬化性モノマーとは、硬化性組成物において重合される化合物を意味し、繰り返し単位を1つのみ有するモノマーのみならず、繰り返し単位を2以上有するオリゴマー、ポリマーも包含する。また、(メタ)アクリロイル基とは、「アクリロイル基」及び「メタクリロイル基」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0017】
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性モノマーは、従来公知の活性エネルギー線硬化性モノマーが使用できるが、モノマー単体の重合体の破断点伸びが50%以上であるモノマーを1つまたは2つ以上混合して用いることもできる。また、例えば破断点伸びが50%未満のものと、50%以上のものを混合してその混合モノマーの重合体の破断点伸びが50%以上となるようにしたものも使用できる。
また、活性エネルギー線硬化性モノマーは、モノマー単体の重合体の破断点伸びが50%以上となるモノマーが、主成分(例えば、活性エネルギー線硬化性モノマー全量に対して80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)となるように構成されることが好ましい。
活性エネルギー線硬化性モノマーとしては、重量平均分子量、重合性の不飽和基の数、モノマーの種類などを適宜選択して破断点伸びを50%以上とすることが可能である。
活性エネルギー線硬化性モノマーにおいて、重合性の不飽和基の数は、2個以上であることが好ましく、また、15個以下が好ましく、10個以下がさらに好ましい。
【0018】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性モノマーとしては、具体的には、ウレタン(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、上記以外にも、各種アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである(メタ)アクリレートや、重合性の不飽和基を有する、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂なども挙げられる。これら活性エネルギー線硬化性モノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中では、鉛筆硬度及び破断点強度の両方を高くする観点から、ウレタン(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレートが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレートがより好ましい。
本発明の活性エネルギー線硬化性モノマーは、好ましくはオリゴマーであり、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300以上、より好ましくは1000以上、また、好ましくは100000以下、より好ましくは50000以下、さらに好ましくは20000以下である。
【0019】
ウレタン(メタ)アクリレートは、分子中にウレタン結合と、(メタ)アクリロイル基とを有する化合物である。ウレタン(メタ)アクリレートの好ましい具体例としては、分子中に(好ましくは複数の)イソシアネート基を有するイソシアネート化合物に対して、分子中に水酸基と(好ましくは複数個の)(メタ)アクリル基を有する化合物を反応させて得られる構造を有する化合物;複数個の水酸基を有する化合物にジイソシアネート化合物やトリイソシアネート化合物を反応させ、得られた化合物の未反応イソシアネート基に、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の分子中に水酸基と(メタ)アクリル基を有する化合物を反応させて得られる構造を有する化合物などが挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、好ましくはオリゴマーであり、その重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300以上、より好ましくは1000以上、また、好ましくは50000以下、より好ましくは20000以下である。また、ウレタン(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基の数が、好ましくは2個以上であり、また、10個以下であることが好ましく、より好ましくは5個以下である。
【0020】
また、アクリル(メタ)アクリレートの好ましい具体例としては、(メタ)アクリレートの重合体の側鎖に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するものなどが挙げられる。側鎖に(メタ)アクリロイル基を有するアクリル(メタ)アクリレートを使用することで高い破断点伸びを確保しやすくなる。アクリル(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、また好ましくは100000以下、より好ましくは70000以下である。また、アクリル(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の数は、好ましくは2個以上、また、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下である。
なお、重量平均分子量とは、GPCにより測定したポリスチレン換算値である。例えば、測定装置としては、東ソー株式会社製「GPC HLC−8220」を用い、カラムには「Shodex LF−404」を2本直列で接続して使用し、検出器には示差屈折率(RI)検出器を使用し、標準ポリスチレンとして、Agilent Technologies製の「Easical Type PS−2ポリスチレン」(分子量範囲580〜364,000)を用いることができる。
【0021】
活性エネルギー線硬化性モノマーは、硬化性組成物の主成分となるものであり、硬化性組成物の固形分基準で、通常、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。また、その上限は、特に限定されないが、ナノセルロースを所定量以上含有させるために、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、96質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
(ナノセルロース)
ナノセルロースは、セルロールを化学的、物理的にナノサイズまで解繊されたものであり、その平均幅が1nm以上100nm以下程度、平均長さが100nm以上100μm以下程度となるものである。ナノセルロースの製造に使用するセルロース原料としては、特に限定されないが、木材などの木材系セルロース、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースなどの非木材系天然セルロース、レーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロース、紙およびパルプが生産された後に残される残余セルロースなどが挙げられる。
【0023】
ナノセルロースとしては、セルロースナノクリスタル(CNC)、セルロースナノファイバー(CNF)が挙げられる。これらはいずれ一方を単独で使用してもよいし、両方を混合して使用してもよい。セルロースナノクリスタルは、典型的にはセルロースの高純度単結晶であり、細長の結晶ロッド状ナノ粒子からなるものである。セルロースナノクリスタルの平均幅は、例えば1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上であり、また、例えば50nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。また、平均長さは例えば100nm以上、好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上、また、例えば10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下のものである。
セルロースナノファイバーは、典型的には交互の結晶セグメント及びアモルファスセグメントからなるものであり、細長い紐状となるものである。セルロースナノファイバーは、例えば、平均幅1nm以上100nm以下で、平均長さが例えば10μmより大きく、好ましくは15μm以上、また、好ましくは100μm以下となるものである。
なお、平均幅及び平均長さは、例えば、電子顕微鏡で50個のナノセルロースを観察して、それぞれの幅及び長さを測定して相加平均を求めることで算出可能である。
【0024】
セルロースナノクリスタルは、例えば、セルロースの結晶ドメインを残しつつアモルファスドメインを選択的に分解させ、結晶ドメインを単離することで得ることができる。ア
モルファスドメインの選択的な分解は、例えば、セルロースの水分散液に、硫酸水溶液などの酸性水溶液を加え、60℃以下の環境下で攪拌することで行うことができる。また、セルロースとしては、各種のセルロース原料を精製して得た高純度セルロースなどを使用することが好ましい。
セルロースナノクリスタルの製造方法は、より詳細には、例えばWO2012/014213号、特表2017−506678号公報、特表2013−536896号公報にも開示される。
【0025】
セルロースナノファイバーは、高圧ホモジナイザー法、水中対向衝突法、グラインダー法、ボールミル法、2軸混練法などの機械処理により製造してもよいし、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル(TEMPO)等のN−オキシル化合物を用いた酸化処理によって製造してもよいが、酸化処理により製造したものが好ましい。TEMPO等により酸化処理した酸化セルロースは、シングルナノファイバーとしてナノ分散化することが可能であるため、硬化性組成物中に均一に分散させやすくなる。
【0026】
本発明では、ナノセルロースとして、セルロースナノクリスタルを使用することが好ましい。セルロースナノクリスタルを使用すると、鉛筆硬度、破断点伸びを良好にしつつ、成形用シートのヘイズを低くすることが可能になる。そのため、成形用シートの透明性を高めて、後述する被積層材料の外観を良好にすることが可能になる。また、成形用シートを、後述する装飾層を有する積層シートに使用する場合などに好適である。
【0027】
また、ナノセルロースは、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノールなどの有機溶媒(分散媒)中に分散させたものを使用することが好ましい。有機溶媒中に分散させたナノセルロースを、上記した活性エネルギー線硬化性モノマーに配合すると、ナノセルロースを活性エネルギー線硬化性モノマー中に分散させやすくなる。
【0028】
ナノセルロースの含有量は、成形用シート全量に対して(すなわち、硬化性組成物の固形分基準で)1質量%以上が好ましく、また、10質量%以下が好ましい。1質量%以上とすることで、ナノセルロースによって鉛筆硬度を高くして、耐傷付き性を向上させることが可能である。また、ナノセルロースの含有量を10質量%以下とすることで、含有量に応じた効果を発揮させることが可能になるとともに、破断点伸びやヘイズが低下することも防止する。
また、鉛筆硬度及び破断点伸びをより良好にする観点から、ナノセルロースの含有量は、2質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上が最も好ましい。また、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。また、ナノセルロースの含有量を例えば4質量%以上6質量%以下にした上で、上記したようにセルロースナノクリスタルを使用すると、ヘイズを低くしたまま、破断点伸び、鉛筆強度を良好にすることが可能になる。
【0029】
(その他の添加剤)
硬化性組成物は、さらに光重合開始剤、ナノセルロース以外の充填材、レベリング剤、消泡剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、湿潤分散剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤などのその他の添加剤を含有していてもよい。
光重合開始剤としては、活性エネルギー線が照射された際にラジカルを発生するものであればよく、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などを用いることができる。光重合開始剤の添加量は、活性エネルギー線硬化性モノマー100質量部に対して例えば0.1質量部以上10質量部以下である。光重合開始剤は例えば活性エネルギー線として紫外線を使用する場合に使用することが好ましい。
【0030】
硬化性組成物は、希釈溶媒で適宜希釈されていてもよい。使用する希釈溶媒は、上記した活性エネルギー線硬化性モノマーに対して不活性で、かつ活性エネルギー線硬化性モノマーを溶解できる有機溶媒であれば特に限定されないが、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−エトキシプロパノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
また、ナノセルロースとして分散媒に分散したものを使用する場合、その分散媒も希釈溶媒を構成する。硬化性組成物は、硬化性組成物における固形分が例えば5質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、また、例えば50質量%以下、好ましくは30質量%以下となるように希釈されるとよい。
【0031】
成形用シートは、特に限定されないが、例えば剥離シートや、後述する基材、装飾層などに硬化性組成物を塗布し、適宜乾燥などした後、活性エネルギー線を照射することで形成するとよい。硬化性組成物の塗布方法は、特に限定されないが、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、コンマコート法、リバースロールコート法、ディップコート法、ダイコート法、オフセット法、スプレー法などが挙げられる。
成形用シートは、単体からなる場合には、剥離シート上に形成した後、剥離シートから剥離するとよい。剥離シートとしては、後述する基材と同様のものを使用するとよい。
硬化性組成物に照射される活性エネルギー線としては、電子線、紫外線などが挙げられるが、電子線が好ましい。また、活性エネルギー線の照射線量は、例えば3Mrad以上、好ましくは4Mrad以上であり、また、例えば15Mrad以下、好ましくは10Mrad以下である。
【0032】
本発明の成形用シートは、シート単体のもののみならず、後述する積層シートのように、他の部材に積層されたものも包含される。また、一般的に厚さ200μm未満のものをフィルムというが、本発明のシートは、そのように厚さが比較的薄く一般的にフィルムと呼ばれるものも包含する。
本発明の成形用シートの厚さは、坪量で例えば0.5g/m
2以上、好ましくは1g/m
2以上、さらに好ましくは2g/m
2以上、また、例えば100g/m
2以下、好ましくは50g/m
2以下、さらに好ましくは25g/m
2以下となる。坪量をこれら範囲内とすることで、成形用シートを必要以上に厚くすることなく、例えばハードコート層としての機能を発揮することが可能になる。
【0033】
本発明の成形用シートは、各種材料(以下、「被積層材料」ともいう)の表面上に積層されて使用されるものであるが、その際、被積層材料の形状に合わせて、少なくとも一部が引き伸ばされて成形されるものである。本発明の成形用シートは、上記したように破断点伸びが高いため、成形時に引き伸ばされても、クラックが生じることが防止される。ここで、被積層材料は、特に限定されないが、各種樹脂、ゴムなどが挙げられる。被積層材料に使用される樹脂又はゴムは、射出成形などにより各種成形品に加工される。また、樹脂は、例えば樹脂ガラスに使用されるものでもよい。
【0034】
本発明の成形用シートは、被積層材料とともに一体成形されることが好ましい。すなわち、成形用シートが被積層材料に積層された状態で、それらが一体となって所望の形状に成形され、成形品に加工されることが好ましい。また、成形用シートは、例えば、金型内に配置され、金型内に射出された射出樹脂(被積層材料)と一体化され、射出樹脂とともに所望の形状に成形されることがより好ましい。成形用シートは、成形用シート単体で使用されてもよいが、後述するように、他の部材と積層体(積層シート)を構成して、積層体の構成で使用されることが好ましい。
【0035】
また、本発明の成形用シートは、例えばハードコート層を形成するためのシートである。ハードコート層は、各種部材の表面を保護するための表面保護層である。本発明の成形用シートは、鉛筆硬度が高いので、ハードコート層として使用することで各種材料の耐傷付き性を良好にすることが可能になる。
【0036】
[成形用硬化性組成物]
本発明の成形用硬化性組成物は、上記した成形用シートを形成するためのものであり、以上説明した硬化性組成物からなるものである。したがって、本発明の成形用硬化性組成物は、活性エネルギー線硬化性モノマーとナノセルロースとを含むものである。また、成形用硬化性組成物の硬化物は、破断点伸び及び鉛筆硬度が上記した成形用シートと同じであり、すなわち、破断点伸びは50%以上、好ましくは60%以上、より好ましく70%以上である。また、破断点伸びは、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下である。さらに、成形用硬化性組成物の硬化物の鉛筆硬度は、F以上の硬さであることが好ましく、H以上がより好ましい。また、鉛筆硬度は、4H以下が好ましく、3H以下がさらに好ましい。
なお、成形用硬化性組成物の硬化物の破断点伸び及び鉛筆硬度とは、後述する実施例記載の方法により、基材の上に、成形用硬化性組成物の硬化物からなる成形用シートを形成して積層シートを得て、実施例記載の方法に従って測定したものである。
さらに、成形用硬化性組成物の硬化物の初期ヘイズも同様であり、透明性が必要とされる用途などでは、好ましくは12%未満、より好ましくは7%未満、また、実用的には0.1%以上である。成形用硬化性組成物の硬化物の初期ヘイズは、坪量4g/m
2となる厚みの成形用シートを作製して、その成形用シートに対して測定したものである。
【0037】
[積層シート]
本発明の積層シートは、基材と、基材の一方の面に設けられるハードコート層とを備えるものである。ハードコート層は、上記した成形用シートからなるものである。すなわち、ハードコート層は、上記した硬化性組成物の硬化物からなる。
基材は、成形用シート(ハードコート層)が被積層材料に積層された後に、剥離されてもよいし、剥離されずに成形用シートとともに被積層材料の表面層を構成してもよい。
また、積層シートは、基材と、ハードコート層に加えて、装飾層、接着層などを備えていてもよい。
【0038】
(基材)
積層シートに使用する基材としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの各種の樹脂材料からなる樹脂シート、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、グラシン紙、コート紙などの紙基材、セロハンなどのセルロース系シート、あるいはこれらの2以上の複合体などを適宜使用すればよい。
また、基材は、ハードコート層などから剥離する必要がある場合には、基材の表面にシリコーン樹脂などにより剥離処理が施されていてもよい。さらに、基材と、ハードコート層、装飾層などとの密着性を高くするために、基材の表面に適宜易接着性処理が施されてもよい。
【0039】
(装飾層)
装飾層は、被積層材料を加飾する層である。装飾層は、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキッド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。また、金属発色させる場合には、アルミニウム、チタン、ブロンズ等の金属粒子やマイカに酸化チタンをコーティングしたパール顔料などを用いることもできる。
上記のように樹脂をバインダーとする場合には、装飾層は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などにより形成するとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。
【0040】
また、装飾層は、金属薄膜からなるもの、あるいは上記樹脂バインダーを用いて形成した印刷膜と、金属薄膜との組み合わせからなるものでもよい。金属薄膜は、真空蒸着法、スパッターリング法、イオンプレーティング法、鍍金法などで形成する。表現したい金属光沢色に応じて、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金または化合物を使用する。
【0041】
(接着層)
接着層は、積層シートを被積層材料に接着させるための層である。接着層は、感熱性接着剤、感圧性接着剤などの接着剤により構成されればよい。また、接着層は、積層シートの全面に設けられてもよいし、部分的に設けられてもよい。
また、接着剤の材料は、被積層材料の材質に応じて適宜変更すればよいが、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂などを使用すればよい。
接着層は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法により形成すればよい。接着層は、装飾層、ハードコート層、基材などの上に直接印刷、コートして形成してもよい。また、接着層は、剥離シートの剥離処理面に形成した後、装飾層、ハードコート層、又は基材などの上に転写してもよい。
【0042】
(積層シートの層構成)
図1〜4は、積層シートの好ましい実施形態を示す。以下、それぞれ第1〜第4の実施形態の積層シート11A〜11Dとして説明する。
図1に示すように、第1の実施形態の積層シート11Aは、基材21の一方の面に、ハードコート層22、装飾層24、及び接着層23がこの順に設けられるものである。また、
図2に示すように、第2の実施形態の積層シート11Bは、第1の実施形態において装飾層24が省略されたものであり、基材21の一方の面に、ハードコート層22、及び接着層23がこの順に設けられるものである。
【0043】
積層シート11A、11Bは、接着層23が被積層材料側に配置されるようにして被積層材料に積層され、接着層23を介して被積層材料に接着される。ここで、基材21は、積層シート11A、11Bが被積層材料に積層された後、ハードコート層22から剥離されるものである。これにより、被積層材料の最外面にハードコート層22が設けられることになり、被積層材料がハードコート層22により保護される。また、第1の実施形態では、被積層材料の表面に装飾層24が設けられ、装飾層24によって装飾が施されるとともに、装飾層24が被積層材料とともにハードコート層22によって保護される。
【0044】
第3の実施形態の積層シート11Cは、
図3に示すように、基材21の一方の面に装飾層24、ハードコート層22がこの順に設けられるとともに、基材21の他方の面に接着層23が設けられるものである。また、第4の実施形態の積層シート11Dは、第3の実施形態において装飾層24が省略されたものであり、
図4に示すように、基材21の一方の面にハードコート層22が設けられるとともに、他方の面に接着層23が設けられるものである。
【0045】
第3及び第4の実施形態の積層シート11C、11Dも、接着層23が被積層材料側に配置されるようにして被積層材料に積層され、接着層23を介して被積層材料に接着される。これにより、被積層材料の最外面にハードコート層22が設けられ、被積層材料がハードコート層22により保護される。また、第3の実施形態では、装飾層24によって装飾が施されるとともに、装飾層24が被積層材料とともにハードコート層22によって保護されることになる。第3及び第4の実施形態において、基材21は、ハードコート層22と、被積層材料の間に配置されることになり、基材21は、ハードコート層22とともに被積層材料の表面層を構成する。
【0046】
本発明の積層シートは、基材、ハードコート層、接着層、及び装飾層以外の層を有してもよい。例えば、ハードコート層と装飾層、ハードコート層と接着層、装飾層と接着層の間などに、層間接着性を向上させるためのプライマー層などが設けられてもよい。また、接着層の表面に剥離シートなどが設けられて接着層が剥離シートにより保護されてもよい。剥離シートは積層シートを使用する前に接着層から剥離されればよい。
【0047】
本発明の積層シートは、上記のように、装飾層を有する場合、成形品、樹脂ガラスなどの表面に装飾を施すことが可能ないわゆる加飾シートとして使用することが可能になる。また、装飾層を有しない場合でも、成形品、樹脂ガラスなどの表面を保護する表面保護シートとして使用することが可能である。
【0048】
本発明の積層シートは、上記したように、被積層材料とともに一体成形されることが好ましい。また、積層シートは、より好ましくは、金型内に配置され、金型内に射出された射出樹脂(被積層材料)と一体化され、射出樹脂とともに所望の形状に成形され、それにより成形品が得られることがより好ましい。その具体例を第1の実施形態の積層シート11Aを例にして
図5を用いて説明する。
【0049】
まず、
図5(A)、(B)に示すように、可動型31と固定型32とからなる射出成形用金型33の内部に、積層シート11Aを配置して射出成形用金型33を組み立てる。次に、
図5(B)に示すように、可動型31に設けたゲート34より射出成形用金型33内に射出樹脂35を射出する。ここで、積層シート11Aは、上記したように接着層23が射出樹脂35側に配置されている。
射出樹脂35は、積層シート11Aを金型33内面に押し付けるとともに、積層シート11Aと一体化される。なお、射出樹脂35の種類は、特に限定されず、射出成形に使用される一般的な樹脂を使用すればよい。積層シート11Aは、射出樹脂35により押し付けられることにより引き伸ばされるが、本発明では、積層シート11Aのハードコート層22の破断点伸びが高いので、ハードコート層22にクラックなどが生じることが防止される。
次いで、射出樹脂35を冷却し、その後、可動型31を移動させて射出成形用金型33を開いて、
図5(C)に示すように積層シート11Aと射出樹脂35が一体になった成形品36を取り出す。なお、積層シート11Aの基材21は成形品から適宜剥離するとよい。
【実施例】
【0050】
本発明を以下に実施例により説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例における各測定条件は、以下のとおりである。
【0051】
[破断点伸び]
2.5cm×10cmの大きさに切り出したサンプルを引張試験機(株式会社島津製作所製「AUTOGRAPH AG−X」)を用いて、チャック間距離5cm、引っ張り速度50mm/分で、引張試験を実施し、成形用シートが破断する伸びを破断点伸びとして測定した。ただし、成形用硬化性組成物の破断点伸びに関しては、基材上に形成した成形用硬化性組成物の塗膜を照射量7Mradの電子線(加速電圧:165kV、ビーム電流2.3mA)で照射して硬化させることで成形用シートを形成し、積層シートを得て測定したものである。
[鉛筆硬度]
JIS K 5600−5−4(1999)に準拠して、荷重500g、速度1.4mm/sの条件で5回測定し、3回以上傷跡が生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を鉛筆硬度とする。
[初期ヘイズ]
JIS K7105(1981)に準拠して、成形用シートの初期ヘイズを測定して、以下の評価基準により評価した。
A:初期ヘイズが7%未満
B:初期ヘイズが7%以上12%未満
C:初期ヘイズが12%以上
【0052】
実施例、比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
活性エネルギー線硬化性モノマー(1):ウレタンアクリレート、重量平均分子量(Mw):2400、アクリロイル基の数=3
ナノセルロース分散液(1):硫酸水溶液によりアモルファスドメインを選択的に分解して得られたセルロースナノクリスタルをメチルエチルケトンとメタノールとの混合溶剤(MEK/メタノール=80/20(質量比))に分散させたもの、固形分量3質量%
ナノセルロース分散液(2):TEMPOにより酸化処理して得たセルロースナノファイバーをメタノールに分散させたもの、固形分量1質量%
シリカ分散液:商品名「ELCOM V−8803−25」、日揮触媒化成株式会社製
【0053】
[実施例1]
(硬化性組成物の作製)
表1に示すように、活性エネルギー線硬化性モノマー(1)97質量部と、メチルエチルケトン(MEK)303質量部とを混合して、活性エネルギー線硬化性モノマー希釈液を得た。ディスパー(商品名「EUROSTAR 20 high speed digital」、IKA社製)により回転数1000rpmで攪拌させた活性エネルギー線硬化性モノマー希釈液に、ナノセルロース分散液(1)を100質量部滴下し、滴下終了後さらに10分間攪拌させて硬化性組成物(固形分量:20質量%)を得た。硬化性組成物におけるナノセルロース含有量は、固形分基準で3質量%であった。
【0054】
(成形用シート、及び積層シートの作製)
得られた硬化性組成物を、基材としての易接着性ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「コスモシャインA4100」、東洋紡株式会社製、厚さ100μm)の易接着処理が施された表面に、塗布量が固形分換算で4g/m
2となるように、バーコーター♯20を用いバーコート法により塗布して60℃で3分乾燥させた。次いで、得られた塗膜に電子線照射装置(商品名「EC250/15/180L」、岩崎電気株式会社製)により照射線量7Mradで電子線(加速電圧:165kV、ビーム電流2.3mA)を照射して、基材上に成形用シート(ハードコート層)を形成し、積層シートを得た。積層シートを用いて破断点伸びを測定するとともに、積層シートの成形シート形成側表面の鉛筆硬度を測定し、さらに、成形用シートの初期ヘイズを測定し、成形用シートを評価した。結果を表2に示す。
【0055】
[実施例2、3]
表1に示すように、活性エネルギー線硬化性モノマー(1)、メチルエチルケトン(MEK)、及びナノセルロース分散液(1)の配合量を調整して、硬化性組成物におけるナノセルロース含有量をそれぞれ固形分基準で5質量%、7質量%に調整した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0056】
[実施例4]
活性エネルギー線硬化性モノマー(1)95質量部と、メタノール195質量部とを混合して、活性エネルギー線硬化性モノマー希釈液を得た。実施例1で使用したディスパーにより回転数1000rpmで攪拌させた、活性エネルギー線硬化性モノマー希釈液に、ナノセルロース分散液(2)を500質量部滴下し、滴下終了後さらに10分間攪拌させて硬化性組成物(固形分量:12.7質量%)を得た。硬化性組成物におけるナノセルロース含有量は、固形分基準で5質量%であった。その後、実施例1と同様に、積層シートを作製して、成形用シートを評価した。
【0057】
[比較例1]
実施例1で作製した硬化性組成物の代わりに、活性エネルギー線硬化性モノマー(1)100質量部と、メチルエチルケトン400質量部とを混合して得た、活性エネルギー線硬化性モノマー希釈液を、基材に塗布して積層シートを作製した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0058】
[比較例2]
実施例1で作製した硬化性組成物の代わりに、活性エネルギー線硬化性モノマー(1)50質量部と、メチルエチルケトン325質量部と、シリカ分散液125質量部を混合して得た硬化性組成物(固形分量:20質量%)を用いて、積層シートを作製した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0059】
【表1】
※表1における各数値は、%が質量%を意味し、その他は質量部を意味する。
【0060】
【表2】
【0061】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜4の成形用シートは、ナノセルロースを使用し、かつ破断点伸びが50%以上であったため、硬化されているにもかかわらず、成形時に引き伸ばされてもクラックが生じにくいものとなった。また、鉛筆硬度が相対的に高く耐傷付き性が改善された。
それに対して、比較例1では、ナノセルロースを使用しなかったため、実施例1〜4に比べると、鉛筆硬度が低く耐傷付き性が良好でなかった。また、比較例2では、ナノセルロースの代わりにシリカを使用したため、鉛筆硬度は高くなったが、破断点伸びが低く成形時に引き伸ばされるとクラック等が生じやすいものとなった。