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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-82041(P2019-82041A)
(43)【公開日】2019年5月30日
(54)【発明の名称】合成構造部材、及び、複合梁材
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/293 20060101AFI20190510BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20190510BHJP
   E04C 5/10 20060101ALI20190510BHJP
   E01D 101/28 20060101ALN20190510BHJP
   E01D 101/30 20060101ALN20190510BHJP
【FI】
   E04C3/293
   E01D1/00 G
   E04C5/10
   E01D101:28
   E01D101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-209712(P2017-209712)
(22)【出願日】2017年10月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】米田 達則
(72)【発明者】
【氏名】田島 久嗣
(72)【発明者】
【氏名】栗山 浩
(72)【発明者】
【氏名】街道 浩
(72)【発明者】
【氏名】藤林 博明
【テーマコード(参考)】
2D059
2E163
2E164
【Fターム(参考)】
2D059AA11
2E163FA12
2E163FF12
2E164AA01
2E164AA31
2E164CA02
2E164DA12
(57)【要約】
【課題】容易に製造することができ、また、コンクリートと鋼材とが強固に結合(一体化)され、極めて高い曲げ剛性を期待できる合成構造部材、複合梁材、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】突起(拘束手段)が内側面に形成された筒状の鋼殻部2の内側に、プレストレスト・コンクリートからなるコンクリート部3を配置して合成構造部材1を構成する。プレストレスト・コンクリートからなるコンクリート部3は、鋼殻部の内側へ膨張コンクリートを打設して硬化させるという方法、或いは、予め形成しておいたプレストレスト・コンクリートのブロック4を鋼殻部2の内側へ挿入し、このブロック4と鋼殻部2の隙間にグラウト5を充填するという方法等によって形成する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突起及び/又は凹部からなる拘束手段が内側面に形成された筒状の鋼殻部と、その内側に配置されたプレストレスト・コンクリートからなるコンクリート部とによって構成され、
拘束手段によって鋼殻部とコンクリート部が一体化されていることを特徴とする合成構造部材。
【請求項2】
請求項1に記載の合成構造部材を製造する方法であって、
鋼殻部の内側へ膨張コンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成するとともに、コンクリート部にプレストレスを導入することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の合成構造部材を製造する方法であって、
予め形成しておいたプレストレスト・コンクリートのブロックを鋼殻部の内側へ挿入し、
ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の合成構造部材を製造する方法であって、
シースを形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部内に挿入し、
シースに内挿させたPC鋼材を緊張させた状態で定着することにより、コンクリート・ブロックにプレストレスを導入し、
コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の合成構造部材を製造する方法であって、
鋼殻部として、コンクリート充填口を有し、端部プレートによって長手方向両端部がそれぞれ閉塞された箱形のものを使用し、
鋼殻部を長手方向延長側へそれぞれ引っ張って緊張させ、この状態でコンクリート充填口から鋼殻部内へコンクリートを打設し、
コンクリートの硬化後、緊張力を開放することにより、鋼殻部の内側で硬化したコンクリートにプレストレスを導入することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項6】
突起及び/又は凹部からなる拘束手段が内側面に形成された筒状の鋼殻部と、その内側に配置されたコンクリート部とによって構成され、
拘束手段によって鋼殻部とコンクリート部が一体化されていることを特徴とする合成構造部材。
【請求項7】
請求項6に記載の合成構造部材を製造する方法であって、
鋼殻部の内側にコンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の合成構造部材を製造する方法であって、
予め形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部の内側に挿入し、コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項9】
垂直なウェブ及び水平なフランジを有する鋼材と、請求項1又は請求項6に記載の合成構造部材とによって構成される複合梁材であって、
請求項1又は請求項6合成構造部材が、鋼材のウェブ及び/又はフランジに固定されていることを特徴とする複合梁材。
【請求項10】
請求項9に記載の複合梁材を製造する方法であって、
請求項1又は請求項6に記載の合成構造部材の鋼殻部を、ウェブ及び/又はフランジに対して固定することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の複合梁材を製造する方法であって、
請求項2〜5のいずれかに記載の方法によって製造した請求項1に記載の合成構造部材の鋼殻部、又は、請求項7〜8のいずれかに記載の方法によって製造した請求項6に記載の合成構造部材の鋼殻部を、ウェブ及び/又はフランジに対して固定することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【請求項12】
垂直なウェブ、水平なフランジ、及び、筒状の鋼殻部を有する鋼材と、コンクリート部とによって構成される複合梁材であって、
鋼殻部が、突起及び/又は凹部からなる拘束手段を内側面に有するとともに、ウェブ及び/又はフランジの一部を利用して構成され、
コンクリート部が、鋼殻部の内側に配置され、拘束手段によって鋼殻部と一体化されていることを特徴とする複合梁材。
【請求項13】
請求項12に記載の複合梁材を製造する方法であって、
拘束手段が内側となる向きで形成されたL字型鋼板を、ウェブ及びフランジに対して固定することによって筒状の鋼殻部を形成し、
鋼殻部の内側にコンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の複合梁材を製造する方法であって、
拘束手段が内側となる向きで形成されたL字型鋼板を、ウェブ及びフランジに対して固定することによって筒状の鋼殻部を形成し、
予め形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部の内側に挿入し、コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【請求項15】
コンクリート部が、プレストレスト・コンクリートによって構成されていることを特徴とする、請求項12に記載の複合梁材。
【請求項16】
請求項15に記載の複合梁材を製造する方法であって、
鋼殻部の内側へ膨張コンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成するとともに、コンクリート部にプレストレスを導入することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の複合梁材を製造する方法であって、
予め形成しておいたプレストレスト・コンクリートのブロックを鋼殻部の内側へ挿入し、
ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【請求項18】
請求項15に記載の複合梁材を製造する方法であって、
シースを形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部内に挿入し、
シースに内挿させたPC鋼材を緊張させた状態で定着することにより、コンクリート・ブロックにプレストレスを導入し、
コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物の梁材等として用いられる構造部材に関し、特に、鋼材とコンクリートとによって構成される合成構造部材、及び、これを利用した複合梁材、並びに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、垂直なウェブの上端及び下端にフランジをそれぞれ溶接したI型断面の鋼材が、構造物の梁材(例えば、建築物の梁材、或いは、橋梁の桁材等)として広く利用されている。このようなI型断面の鋼材において、より長いスパンで、或いは、より大きな荷重を支持させることができるように、耐荷重性能の向上を図るべく、鋼材とプレストレスト・コンクリート(PC)とを組み合わせて、複合的な構造(複合梁材)とすることが知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−254975号公報
【特許文献2】特開2017−137720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されているような従来の合成構造材は、PC部と鋼材との間のずれ拘束性が低く、十分な連結性能が得られないという問題があり、また、特許文献2に示されているような従来の複合梁材は、製造に際して非常に手間がかかり、製造効率の点で問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術における問題を解決しようとするものであって、従来の合成構造部材と比較して、容易に製造することができ、また、コンクリートと鋼材とが強固に結合(一体化)され、極めて高い曲げ剛性を期待できる合成構造部材、複合梁材、及び、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る合成構造部材は、突起及び/又は凹部からなる拘束手段が内側面に形成された筒状の鋼殻部と、その内側に配置されたプレストレスト・コンクリートからなるコンクリート部とによって構成され、拘束手段によって鋼殻部とコンクリート部が一体化されていることを特徴としている。
【0007】
この合成構造部材は、鋼殻部の内側へ膨張コンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成するとともに、コンクリート部にプレストレスを導入することによって、又は、予め形成しておいたプレストレスト・コンクリートのブロックを鋼殻部の内側へ挿入し、ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することによって、製造することができる。
【0008】
また、この合成構造部材は、シースを形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部内に挿入し、シースに内挿させたPC鋼材を緊張させた状態で定着することにより、コンクリート・ブロックにプレストレスを導入し、コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することによって、又は、鋼殻部として、コンクリート充填口を有し、端部プレートによって長手方向両端部がそれぞれ閉塞された箱形のものを使用し、鋼殻部を長手方向延長側へそれぞれ引っ張って緊張させ、この状態でコンクリート充填口から鋼殻部内へコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後、緊張力を開放することにより、鋼殻部の内側で硬化したコンクリートにプレストレスを導入することによっても、製造することができる。
【0009】
本発明に係るもう一つの合成構造部材は、突起及び/又は凹部からなる拘束手段が内側面に形成された筒状の鋼殻部と、その内側に配置されたコンクリート部とによって構成され、拘束手段によって鋼殻部とコンクリート部が一体化されていることを特徴としている。
【0010】
この合成構造部材は、鋼殻部の内側にコンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成することによって、又は、予め形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部の内側に挿入し、コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することによって、製造することができる。
【0011】
本発明に係る複合梁材は、垂直なウェブ及び水平なフランジを有する鋼材と、上記のような合成構造部材とによって構成され、合成構造部材が、鋼材のウェブ及び/又はフランジに固定されていることを特徴としている。
【0012】
本発明に係るもう一つの複合梁材は、垂直なウェブ、水平なフランジ、及び、筒状の鋼殻部を有する鋼材と、コンクリート部とによって構成され、鋼殻部が、突起及び/又は凹部からなる拘束手段を内側面に有するとともに、ウェブ及び/又はフランジの一部を利用して構成され、コンクリート部が、鋼殻部の内側に配置され、拘束手段によって鋼殻部と一体化されていることを特徴としている。
【0013】
この複合梁材は、拘束手段が内側となる向きで形成されたL字型鋼板を、ウェブ及びフランジに対して固定することによって筒状の鋼殻部を形成し、鋼殻部の内側にコンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成することによって、又は、予め形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部の内側に挿入し、コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することによって、製造することができる。
【0014】
また、この複合梁材は、鋼殻部の内側へ膨張コンクリートを打設し、硬化させることにより、コンクリート部を鋼殻部内に形成するとともに、コンクリート部にプレストレスを導入することによって、又は、予め形成しておいたプレストレスト・コンクリートのブロックを鋼殻部の内側へ挿入し、ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することによって、又は、シースを形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部内に挿入し、シースに内挿させたPC鋼材を緊張させた状態で定着することにより、コンクリート・ブロックにプレストレスを導入し、コンクリート・ブロックと鋼殻部の隙間にグラウトを充填することによっても、製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る合成構造部材、及び、複合梁材は、従来の構造部材よりも高い曲げ剛性を期待することができ、しかも、簡単にかつ安価に製造することができる。このため、建築構造物における梁材(柱間)の長支間化、梁材高さの小寸法化を実現でき、超高層建築や大空間建築の梁材として利用する場合において特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る合成構造部材1の端部の斜視図である。
図2図2は、図1に示す鋼殻部2の一方の端部の斜視図である。
図3図3(1)は、従来のRC構造の構造部材21の断面図であり、図3(2)は、図1に示す合成構造部材1の断面図である。
図4図4は、図1に示すコンクリート部3におけるプレストレス導入方法の説明図である。
図5図5は、本発明の第4実施形態に係る合成構造部材の製造方法の説明図であって、図5(1)は、鋼殻部2及びブロック4の長手方向に沿った断面図、図5(2)は、長手方向と直交する断面図である。
図6図6は、本発明の第6実施形態に係る合成構造部材の製造方法の説明図であって、端部プレート6によって閉塞された鋼殻部2の一方の端部の切欠斜視図である。
図7図7は、本発明の第7実施形態に係る複合梁材12の断面図である。
図8図8は、本発明の第8実施形態に係る複合梁材12の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、「合成構造部材」として実施することができるほか(第1〜2実施形態)、「合成構造部材の製造方法」として実施することができる(第3〜6実施形態)。また、この合成構造部材を用いた「複合梁材」、及び、「複合梁材の製造方法」(第7〜8実施形態)として実施することもできる。以下、図面に沿って、本発明の各実施形態について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る合成構造部材1の端部の斜視図である。本実施形態の合成構造部材1は、図示されているように、鋼殻部2(密閉鋼管)と、コンクリート部3とによって構成されている。鋼殻部2は、長手方向と直交する断面が矩形状を呈する筒状(管状)に形成されており、コンクリート部3は、この筒状の鋼殻部2の内側に配置され、鋼殻部2と一体化されている。
【0019】
図2は、図1に示す鋼殻部2の端部の斜視図である。図示されているように、鋼殻部2は、内側面に突起2a(なまこ型)が多数形成されている。これらの多数の突起2aは、鋼殻部2と、その内側に配置されるコンクリート部3との摩擦抵抗を増大させるための手段(拘束手段)として機能する。尚、突起2aの形状や構造は、図示されているような「なまこ型」のものには限定されない。また、突起2aの代わりに、或いは、突起2aとともに、多数の凹部(図示せず)を形成することによって、鋼殻部2の内側面を凹凸形状とし、鋼殻部2とコンクリート部3との摩擦抵抗を増大させる拘束手段として機能するように構成してもよい。
【0020】
鋼殻部2は、例えば、四枚の縞鋼板(高さ2〜5mm程度のなまこ型の突起2aが多数形成された鋼板)を、突起2aが内側となる向きで角筒状に組み、隣接する縞鋼板の長手側縁同士を溶接することによって製造することができる。また、二枚の縞鋼板を、長手方向と直交する断面がL字型となるように、かつ、突起2aが内側となる向きでそれぞれ折り曲げ、それらを角筒状に組み、突き合わせた長手側縁同士を溶接するという方法によっても(或いは、その他の方法によっても)、鋼殻部2を製造することができる。
【0021】
コンクリート部3は、鋼殻部2内に配置されている。上述の通り、鋼殻部2の内側面には多数の突起2aが形成されており、鋼殻部2内に配置されたコンクリート部3は、それらの突起2aによって鋼殻部2に拘束されることになる。つまり突起2aは、コンクリート部3に対し、長手方向について高い拘束力(ずれ拘束性)を発揮する。また、コンクリート部3は、鋼殻部2内に密閉された状態で鋼殻部2と一体化されている。このため、本実施形態の合成構造部材1においては、従来の構造部材よりも高い曲げ剛性を期待することができる。
【0022】
この点について詳細に説明すると、図3(1)に示すようなRC構造(コンクリート23内部に鉄筋22(或いは鋼板)が埋め込まれた構造)の構造部材21において、図示されているような曲げ引張力が作用した場合、コンクリート23には、歪みによってクラックCが形成される可能性がある。このクラックCにおけるコンクリート23のひび割れ幅(W)は、鉄筋22付近の部位よりも下面側の方が大きくなる。歪みが発生した場合、その曲率半径は、鉄筋22付近の部位よりも、コンクリート23の下面側の方が大きくなるからである。そして、クラックCが進行すると、コンクリート片が脱落してしまい(図3(1)の右側に示すクラックC’参照)、この場合、クラックCの形成前と比較して、曲げ剛性が著しく低下してしまうことになる。
【0023】
一方、本実施形態の合成構造部材1においては、図3(2)に示すように、長手方向へ引張力が作用した場合や、曲げ引張力が作用することによって、コンクリート部3にクラックCが形成されたとしても、鋼殻部2の内側面の突起2aによって鋼殻部2とコンクリート部3とが密着して摩擦抵抗が飛躍的に増大することにより(密着効果)、また、コンクリート部3が鋼殻部2内に密閉されることにより(密閉効果)、コンクリート部3が鋼殻部2の歪み分布に追従し、作用する引張力に抵抗することができ、従って、クラックCの形成後においても、クラックCの形成前と同等の曲げ剛性を継続的に維持することができる。また、コンクリート部3におけるひび割れ幅を小さく制御でき、クラックCの進行を抑制し、コンクリート片の脱落を回避することができる。
【0024】
尚、本実施形態の合成構造部材1は、例えば、鋼殻部2の内側にコンクリートを打設し、鋼殻部2内で硬化させることによって簡単に製造することができ、この場合、封緘養生の効果により、コンクリートの乾燥収縮を低減できる。また、本実施形態の合成構造部材1は、鋼殻部2内にコンクリート・ブロックを挿入し、隙間にグラウトを充填するという方法によっても製造することができる。
【0025】
(第2実施形態)
上記第1実施形態の合成構造部材1は、内側面に多数の突起2a(拘束手段)を有する鋼殻部2と、その内側に配置されたコンクリート部3とによって構成されるものであるのに対し、本実施形態の合成構造部材1は、鋼殻部2内に配置されるコンクリート部3が、プレストレスト・コンクリート(PC)によって構成されていることを特徴としており、第1実施形態の合成構造部材1よりも更に高い曲げ剛性を期待することができる。従って、この合成構造部材1を建築梁材として用いた場合、梁材(柱間)を長支間化することができ、及び/又は、梁材の高さ寸法をより小さく設計することが可能となる。これらの効果は、超高層建築や大空間建築の梁材として利用する場合において特に有効である。
【0026】
(第3実施形態)
上記第2実施形態の合成構造部材1(内側面に多数の突起2a(拘束手段)を有する鋼殻部2と、その内側に配置されたプレストレスト・コンクリートからなるコンクリート部3とによって構成された合成構造部材1)は、例えば、鋼殻部2の内側へ「膨張コンクリート」を打設し、鋼殻部2内で硬化させることによって製造することができる。
【0027】
より具体的に説明すると、膨張コンクリートは、打設後、硬化するまでの間にその体積が膨張するという特性を有しており、例えば、図4(1)に示すように、長手方向以外の方向を密閉する鋼殻24の内部に膨張コンクリート23を打設すると、硬化する過程でコンクリートの体積が膨張することになる。従って、鋼殻24の内側面が平滑である場合(内側面に拘束手段が形成されていない場合)、図4(2)に示すように、コンクリート23が、鋼殻24の外側(長手方向の延長側)へ膨出することになる。
【0028】
一方、図2に示すように、内側面に多数の突起2a(拘束手段)が形成された鋼殻部2の内部に膨張コンクリートを打設した場合、硬化する過程で膨張しようとするコンクリートが(即ち、コンクリートの膨張力が)、鋼殻部2内の突起2aによって拘束されるとともに、鋼殻部2の大きな断面積で拘束され、コンクリートが鋼殻部2の外側へ膨出することなく、鋼殻部2内に留まった状態で硬化することになる。
【0029】
このため、膨張コンクリートを鋼殻部2内で硬化させて形成したコンクリート部3は、図4(3)において破線で示す部分(図4(2)に示すコンクリート23のうち、鋼殻24の外側へ膨出した部分に相当する部分)が、機械的な圧縮力を用いて鋼殻部2内に押し戻された場合と同様に、プレストレス(ケミカル・プレストレス)が導入された状態となる。また、鋼殻部2内で膨張コンクリートを硬化させることにより、コンクリート部3の外側面を鋼殻部2の内側面に密着させ、コンクリート部3と鋼殻部2とを一体化させることができる。
【0030】
(第4実施形態)
上記第2実施形態の合成構造部材1は、図5(1)に示すように、予め形成しておいたプレストレスト・コンクリートのブロック4を鋼殻部2内に挿入し、図5(2)に示すように、ブロック4と鋼殻部2の隙間にグラウト5(セメント系、又は、樹脂系のグラウト等)を充填して、鋼殻部2内にコンクリート部3を形成し、鋼殻部2と一体化させるという方法によって製造することもできる。
【0031】
尚、プレストレスト・コンクリートのブロック4の製造に際しては、既知のプレストレス導入方法(PC鋼材を緊張させた状態でコンクリートを打設し、硬化後にPC鋼材の緊張力を開放するプレテンション方式や、硬化したコンクリートの内部に設けられたシースにPC鋼材を挿通し、緊張させ、その状態で定着させるポストテンション方式等)を適宜採用することができる。
【0032】
(第5実施形態)
上記第2実施形態の合成構造部材1は、シースを形成しておいたコンクリート・ブロックを鋼殻部内に挿入し、シースに内挿させたPC鋼材を緊張させた状態で定着し(つまり、ポストテンション方式のプレストレス導入方法を鋼殻部内で実行し)、隙間にグラウトを充填して、コンクリート部と鋼殻部と一体化させるという方法(図示せず)によって製造することもできる。
【0033】
(第6実施形態)
上記第2実施形態の合成構造部材は、図2に示す鋼殻部2の代わりに、図6に示すような鋼殻部2、より詳細には、上面に開口部(コンクリート充填口2b)を有し、端部プレート6によって長手方向両端部がそれぞれ閉塞された箱形の鋼殻部2を用いて製造することもできる。(尚、図6においては、便宜上、端部プレート6の左半部のみが表示され、右半部については表示が省略されている。)
【0034】
具体的には、図6に示す鋼殻部2の端部プレート6(及び、図示しない反対側の端部プレート)にゲビン7を取り付け、それらのゲビン7を、例えば150t程度の力で鋼殻部2の長手方向延長側へそれぞれ引っ張って鋼殻部2を緊張させ、この状態でコンクリート充填口2bから鋼殻部2内へコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後(圧縮強度が所定値に達した後)、緊張力を開放する。これにより、鋼殻部2の内側で硬化したコンクリート(コンクリート部3)にはプレストレスが導入され、箱形の鋼殻部2には引っ張り力が残留する。
【0035】
この方法によって合成構造部材を製造する場合、コンクリート部3を形成するための専用のコンクリート型枠が不要となるほか、プレストレスを導入するためのPC鋼材も不要となるため、製作コストを低減できる。また、プレストレスの導入に膨張コンクリートを用いる場合、ベースコンクリートに添加される膨張材の性能によって、設計の自由度が制限されることになり、また、PC鋼材を用いる場合には、コンクリート断面の大きさに対してPC鋼材の配置制限を受けるため、導入量に制限があるが、本実施形態の方法によれば、鋼殻部2や、その内側に形成されるコンクリート部3の断面について設計の自由度が高く、また、プレストレスの導入量に限界はなく、導入量を自由に選択することができる。
【0036】
従って、超高層建築や大空間建築において柱間の長支間化が求められるような場合でも、鋼殻部2やコンクリート部3の断面を必要なだけ大きく設計することにより、かつ、鋼殻部2に与える緊張力を必要なだけ大きく調整することにより、大梁材の耐震設計に必要な曲げ剛性を得ることが可能となる。
【0037】
(第7実施形態)
本発明の第1実施形態、及び、第2実施形態として説明した合成構造部材1は、それ自体で、建築構造物における構造材(梁材、斜材等)として使用することもできるが、I型断面の鋼材と組み合わせて結合することにより、「複合梁材」として構成することもできる。この場合、I型断面の鋼材のみで梁材を構成する場合よりも著しく曲げ剛性を向上させることができる。
【0038】
例えば、図7に示すように、I型断面の鋼材8(垂直なウェブ9と、その上端及び下端に固定された水平な上フランジ10及び下フランジ11とからなる鋼材)を用意し、下フランジ11の左右の上面に合成構造部材1を一つずつ載置するとともに、合成構造部材1の側面をそれぞれウェブ9に当接させ、ウェブ9と合成構造部材1の上面との入隅B1、及び、下フランジ11の端縁11aと合成構造部材1の下面との入隅B2をそれぞれ溶接する。このような方法でI型断面の鋼材8と合成構造部材1とを一体化させることにより、極めて高い曲げ剛性を有する複合梁材12を製造することができる。
【0039】
この方法による場合、I型断面の鋼材8と合成構造部材1とを、個別に(分割して)製作することができるため、それらを並行して同時に製作することにより、製作の所要時間を短縮することができる。
【0040】
(第8実施形態)
上記第7実施形態の複合梁材12は、予め製造しておいた合成構造部材1をI型断面の鋼材8に対して固定して一体化させたものであるが、I型断面の鋼材の一部を利用して、図2に示す鋼殻部2に相当する要素を形成し、その内側にコンクリート部を配置することによって、I型断面の鋼材と合成構造部材とを一体化させた複合梁材を製造することもできる。
【0041】
具体的には、図8の左側に示すように、一枚の縞鋼板を、長手方向と直交する断面がL字型となるように、かつ、突起2aが内側となる向きで折り曲げて形成したL字型鋼板13(又は、二枚の縞鋼板を、突起2aが内側となる向きでL字型に組み、隣接する縞鋼板の長手側縁同士を溶接して形成したL字型鋼板)を、I型断面の鋼材8の下フランジ11の上方(図8において破線で示す位置)に配置し、L字型鋼板13の二つの端縁13a,13bを、下フランジ11及びウェブ9に対してそれぞれ溶接する。
【0042】
そうすると、図8の右側に示すように、L字型鋼板13と、下フランジ11と、ウェブ9の下部9aとからなる筒状の鋼殻部2を、I型断面の鋼材8の下部において形成することができる。そして、この鋼殻部2の内側にコンクリート部3を配置して、鋼殻部2と一体化させる。このような方法によっても、I型断面の鋼材8と合成構造部材1とが一体化された、極めて高い曲げ剛性を有する複合梁材12を製造することができる。
【0043】
尚、本実施形態のように、I型断面の鋼材8の一部(ウェブ9及び下フランジ11等)を利用して鋼殻部2を形成する場合、上記第7実施形態のように、I型断面の鋼材8とは別に鋼殻部2を形成し、これをI型断面の鋼材8に対して固定して一体化して複合梁材12を製造する場合よりも、鋼殻部2を安価に製造することができ、複合梁材12自体の製造コストを更に縮減できる。
【0044】
尚、コンクリート部3をプレストレスト・コンクリートによって構成する場合には、上記第3〜5実施形態において説明したプレストレス導入方法等を適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1:合成構造部材、
2:鋼殻部、
2a:突起、
2b:コンクリート充填口、
3:コンクリート部、
4:ブロック、
5:グラウト、
6:端部プレート、
7:ゲビン、
8:I型断面の鋼材、
9:ウェブ、
9a:下部、
10:上フランジ、
11:下フランジ、
11a:端縁、
12:複合梁材、
13:L字型鋼板、
13a,13b:端縁、
21:構造部材、
22:鉄筋、
23:コンクリート、
24:鋼殻、
C,C’:クラック、
B1,B2:入隅、
W:ひび割れ幅
図1
図2
図3
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図7
図8