【課題】デフケースのケース本体に作業窓を設けた差動装置において、リングギヤが外周部に溶接されるデフケースのフランジ部にガス抜き通路を設けても、通路周辺部での応力集中を回避して耐久性を高める。
【解決手段】フランジ部Fは、デフケースの軸線X1と直交する投影面で見て、軸線X1と作業窓Hの、ケース周方向で一方側及び他方側の各内端He1,He2とをそれぞれ通る一対の仮想直線L1,L2で挟まれた領域Aの外側に位置する第1フランジ部F1と、領域Aに位置する第2フランジ部F2とを含み、ガス抜き通路55は、第2フランジ部F2の、第1フランジ部F1との境界部から周方向に離間した所定領域Zと、第1フランジ部F1とのうちの少なくとも一方にのみ配置され、所定領域Zは、スラスト荷重がフランジ部Fに対し倒れ応力を生じさせるよう作用したときに、所定領域Zに存するガス抜き通路55の周辺部での応力集中を回避可能な領域である。
中空のケース本体(11)、及び前記ケース本体(11)の外周面に一体に突設した環状のフランジ部(F)を有して、所定の軸線(X1)回りを回転可能なデフケース(10)と、
前記ケース本体(11)内に収容されるデフ機構(20)と、
前記ケース本体(11)内への前記デフ機構(20)の組み込みを許容すべく、前記フランジ部(F)の、前記軸線(X1)に沿う方向で一方側において前記ケース本体(11)に設けられる作業窓(H)と、
動力源に連なる駆動ギヤ(31)と噛合して該駆動ギヤ(31)からの動力を前記デフケース(10)に伝えるリングギヤ(R)とを備えており、
前記リングギヤ(R)は、前記駆動ギヤ(31)との噛合により前記軸線(X1)に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯部(Rag)を有し、
前記フランジ部(F)の外周部は、前記リングギヤ(R)の内周面に溶接(w)で接合される接合部(51)と、前記リングギヤ(R)の内周面に嵌合される嵌合面部(52)と、前記接合部(51)及び前記嵌合面部(52)間に位置し且つ前記リングギヤ(R)の内周面との間で閉塞空間(S)を形成する空間形成部(53)とを有し、
前記閉塞空間(S)を前記デフケース(10)の外面に連通させるガス抜き通路(55)が前記フランジ部(F)に設けられる差動装置において、
前記フランジ部(F)は、前記軸線(X1)と直交する投影面で見て、該軸線(X1)と前記作業窓(H)の、前記デフケース(10)の周方向で一方側及び他方側の各内端(He1,He2)とをそれぞれ通る一対の仮想直線(L1,L2)で挟まれた領域(A)の外側に位置する第1フランジ部(F1)と、前記領域(A)に位置する第2フランジ部(F2)とを含み、
前記ガス抜き通路(55)は、前記第2フランジ部(F2)の、前記第1フランジ部(F1)との境界部から前記周方向に離間した所定領域(Z)と、前記第1フランジ部(F1)とのうちの少なくとも一方にのみ配置され、
前記所定領域(Z)は、前記スラスト荷重が前記フランジ部(F)に対し、該フランジ部(F)の前記軸線(X1)側への倒れに抗する応力を生じさせるように作用したときに、該所定領域(Z)に存する前記ガス抜き通路(55)の周辺部での応力集中を回避可能な領域であることを特徴とする差動装置。
中空のケース本体(11)、及び前記ケース本体(11)の外周面に一体に突設した環状のフランジ部(F)を有して、所定の軸線(X1)回りを回転可能なデフケース(10)と、
前記ケース本体(11)内に収容されるデフ機構(20)と、
前記ケース本体(11)内への前記デフ機構(20)の組み込みを許容すべく、前記フランジ部(F)の、前記軸線(X1)に沿う方向で一方側において前記ケース本体(11)に設けられる作業窓(H)と、
動力源に連なる駆動ギヤ(31)と噛合して該駆動ギヤ(31)からの動力を前記デフケース(10)に伝えるリングギヤ(R)とを備えており、
前記リングギヤ(R)は、前記駆動ギヤ(31)との噛合により前記軸線(X1)に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯部(Rag)を有し、
前記フランジ部(F)の外周部は、前記リングギヤ(R)の内周面に溶接(w)で接合される接合部(51)と、前記リングギヤ(R)の内周面に嵌合される嵌合面部(52)と、前記接合部(51)及び前記嵌合面部(52)間に位置し且つ前記リングギヤ(R)の内周面との間で閉塞空間(S)を形成する空間形成部(53)とを有し、
前記閉塞空間(S)を前記デフケース(10)の外面に連通させるガス抜き通路(55)が前記フランジ部(F)に設けられる差動装置において、
前記フランジ部(F)は、前記軸線(X1)と直交する投影面で見て、該軸線(X1)と前記作業窓(H)の、前記デフケース(10)の周方向で一方側及び他方側の各内端(He1,He2)とをそれぞれ通る一対の仮想直線(L1,L2)で挟まれた領域(A)の外側に位置する第1フランジ部(F1)と、前記領域(A)に位置する第2フランジ部(F2)とを含み、
前記ガス抜き通路(55)は、前記第2フランジ部(F2)の、前記周方向で中央部(F2c)と、前記第1フランジ部(F1)とのうちの少なくとも一方にのみ配置されることを特徴とする差動装置。
前記デフケース(10)が、該デフケース(10)の成形用キャビティ(110)を相互間に画成可能な複数の成形型(C1〜C3)により鋳造された、請求項1〜3の何れか1項に記載の差動装置であって、
前記フランジ部(F)の外周部に設けられて前記ガス抜き通路として機能する複数のガス抜き溝(55)を各々成形するための複数の溝成形部(155)の全てが、前記複数の成形型(C1〜C3)の何れか1つに集約して設けられることを特徴とする、差動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示される差動装置のデフケースでは、フランジ部の外周面が、リングギヤの内周面に溶接で接合される接合部と、リングギヤの内周面に圧入して嵌合される嵌合面部と、接合部及び嵌合面部間に位置し且つリングギヤの内周面との間で閉塞空間を形成する空間形成部と、閉塞空間をデフケースの外面に連通させるガス抜き溝(ガス抜き通路)とを有している。この構造では、リングギヤの上記溶接の際に発生するガスを、ガス抜き溝を通してスムーズに排出できるため、溶接不良の発生防止に有効である。
【0005】
ここで、フランジ部のうち、デフケース軸線と直交する投影面で見て該軸線と、作業窓の、デフケース周方向で一方側の内端及び他方側の内端とをそれぞれ通る一対の仮想直線で挟まれた領域の外側に位置する(即ち、周方向で作業窓に対しオフセットした領域にある)ものを第1フランジ部とし、上記領域に位置する(即ち、周方向で作業窓と同じ位置にある)ものを第2フランジ部とした場合に、第1,第2フランジ部に対するケース本体の支持剛性には、作業窓に関係して少なからず高低差がある。即ち、作業窓に対し周方向でオフセットした位置に在ってデフケース本体で強固に支持される第1フランジ部の剛性よりも、作業窓に対応する位置(即ち作業窓と周方向に同一の位置)に在ってデフケース本体による強固な支持が期待できない第2フランジ部の剛性がかなり低くなる。
【0006】
ところで、差動装置の作動中、駆動ギヤからリングギヤに伝えられるスラスト荷重がデフケースのフランジ部に作用すると、そのフランジ部には、スラスト荷重のためにフランジ部がデフケース軸線側に倒れるのに抗する応力が生じる。そのときに、特に第2フランジ部の、第1フランジ部との境界部に比較的近い領域では、第2フランジ部の周方向中央寄りの領域と比べて、第1,第2フランジ部の上記した剛性差に関係して周方向での応力差(換言すれば、第2フランジ部が微小に倒れようとする際の倒れ量の、周方向での変化勾配)が大きくなる。そして、この倒れ量の変化勾配が大きい領域に仮にガス抜き溝を配置した場合には、例えば
図15にも示すように、ガス抜き溝の周方向一端と他端での倒れ量に少なからず差を生じる。従って、その倒れ量の差に因りガス抜き溝の周辺部(特に溝底部)に応力集中が生じ易くなり、デフケースの耐久性を低下させる虞れがある。
【0007】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、デフケースのフランジ部にガス抜き通路を設けても、その通路周辺部での応力集中を回避可能とした差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、中空のケース本体、及び前記ケース本体の外周面に一体に突設した環状のフランジ部を有して、所定の軸線回りを回転可能なデフケースと、前記ケース本体内に収容されるデフ機構と、前記ケース本体内への前記デフ機構の組み込みを許容すべく、前記フランジ部の、前記軸線に沿う方向で一方側において前記ケース本体に設けられる作業窓と、動力源に連なる駆動ギヤと噛合して該駆動ギヤからの動力を前記デフケースに伝えるリングギヤとを備えており、前記リングギヤは、前記駆動ギヤとの噛合により前記軸線に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯部を有し、前記フランジ部の外周部は、前記リングギヤの内周面に溶接で接合される接合部と、前記リングギヤの内周面に嵌合される嵌合面部と、前記接合部及び前記嵌合面部間に位置し且つ前記リングギヤの内周面との間で閉塞空間を形成する空間形成部とを有し、前記閉塞空間を前記デフケースの外面に連通させるガス抜き通路が前記フランジ部に設けられる差動装置において、前記フランジ部は、前記軸線と直交する投影面で見て、該軸線と前記作業窓の、前記デフケースの周方向で一方側及び他方側の各内端とをそれぞれ通る一対の仮想直線で挟まれた領域の外側に位置する第1フランジ部と、前記領域に位置する第2フランジ部とを含み、前記ガス抜き通路は、前記第2フランジ部の、前記第1フランジ部との境界部から前記周方向に離間した所定領域と、前記第1フランジ部とのうちの少なくとも一方にのみ配置され、前記所定領域は、前記スラスト荷重が前記フランジ部に対し、該フランジ部の前記軸線側への倒れに抗する応力を生じさせるように作用したときに、該所定領域に存する前記ガス抜き通路の周辺部での応力集中を回避可能な領域であることを第1の特徴とする。
【0009】
また上記目的を達成するために、本発明は、中空のケース本体、及び前記ケース本体の外周面に一体に突設した環状のフランジ部を有して、所定の軸線回りを回転可能なデフケースと、前記ケース本体内に収容されるデフ機構と、前記ケース本体内への前記デフ機構の組み込みを許容すべく、前記フランジ部の、前記軸線に沿う方向で一方側において前記ケース本体に設けられる作業窓と、動力源に連なる駆動ギヤと噛合して該駆動ギヤからの動力を前記デフケースに伝えるリングギヤとを備えており、前記リングギヤは、前記駆動ギヤとの噛合により前記軸線に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯部を有し、前記フランジ部の外周部は、前記リングギヤの内周面に溶接で接合される接合部と、前記リングギヤの内周面に嵌合される嵌合面部と、前記接合部及び前記嵌合面部間に位置し且つ前記リングギヤの内周面との間で閉塞空間を形成する空間形成部とを有し、前記閉塞空間を前記デフケースの外面に連通させるガス抜き通路が前記フランジ部に設けられる差動装置において、前記フランジ部は、前記軸線と直交する投影面で見て、該軸線と前記作業窓の、前記デフケースの周方向で一方側及び他方側の各内端とをそれぞれ通る一対の仮想直線で挟まれた領域の外側に位置する第1フランジ部と、前記領域に位置する第2フランジ部とを含み、前記ガス抜き通路は、前記第2フランジ部の、前記周方向で中央部と、前記第1フランジ部とのうちの少なくとも一方にのみ配置されることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記ガス抜き通路は複数有って、前記周方向に等間隔をおいて配置されることを第3の特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、前記デフケースが、該デフケースの成形用キャビティを相互間に画成可能な複数の成形型により鋳造された、第1〜第3の何れかの特徴を有する差動装置であて、前記フランジ部の外周部に設けられて前記ガス抜き通路として機能する複数のガス抜き溝を各々成形するための複数の溝成形部の全てが、前記複数の成形型の何れか1つに集約して設けられることを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1,第2の各特徴によれば、作業窓に対し周方向でオフセットした位置に在ってデフケース本体で強固に支持される第1フランジ部の剛性よりも、作業窓に対応する位置に在ってデフケース本体による強固な支持が期待できない第2フランジ部の剛性の方が低くなるデフケースにおいて、リングギヤからのスラスト荷重がフランジ部に作用して倒れに抗する応力を生じさせるときに、フランジ部の、周方向での応力差(換言すれば、倒れ量の、周方向での変化勾配)が無いか或いは殆ど無い領域にガス抜き通路が配置されることになる。これにより、フランジ部のガス抜き通路周辺部での応力集中が回避可能となるから、デフケースの耐久性向上に寄与することができる。
【0013】
第3の特徴によれば、ガス抜き通路が複数有ることで、必要なガス抜き効果を確保しながらも個々のガス抜き通路の横断面積を極力小さくできて、ガス抜き通路の周方向一端及び他端周辺部での応力差(即ち上記倒れ量の差)をより低減できるため、ガス抜き通路周辺部での応力集中をより確実に回避することができる。しかも複数のガス抜き通路がデフケース周方向で等間隔に配置されることで、溶接箇所に依らずガス抜き効果を略均等化することができる。
【0014】
第4の特徴によれば、ガス抜き通路として機能する複数のガス抜き溝を各々成形するための複数の溝成形部の全てが、複数の成形型の何れか1つに集約して設けられるため、それらの溝成形部を複数の成形型に分散して設けた場合と比べて、複数のガス抜き溝の位置のばらつきを抑え、ガス抜き溝の成形精度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0017】
図1において、車両(例えば自動車)のミッションケースM内に差動装置Dが収容される。差動装置Dは、デフケース10と、デフケース10に内蔵されるデフ機構20とを備える。
【0018】
デフケース10は、内部にデフ機構20を収納した中空のケース本体11と、ケース本体11の右側部及び左側部に一体に連設されて第1軸線(所定の軸線)X1上に並ぶ第1,第2軸受ボス12,13とを備える。これら第1及び第2軸受ボス12,13は、軸受14,15を介してミッションケースMに第1軸線X1回りに回転自在に支持されると共に、左右の車軸(ドライブ軸)16,17を回転自在に嵌合、支持する。
【0019】
デフ機構20は、第1軸線X1と直交する第2軸線X2上に配置されてデフケース10に保持されるピニオン軸21と、このピニオン軸21に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ22,22と、左右の車軸16,17の内端部にそれぞれスプライン結合され且つ各ピニオンギヤ22と噛合する一対のサイドギヤ23,23とを備える。ピニオンギヤ22及びサイドギヤ23の各々の背面はケース本体11の内面で回転自在に支承される。尚、ケース本体11の上記内面は、本実施形態では球面状のものを例示したが、これをテーパ面、或いは第1軸線X1又は第2軸線X2と直交する平面としてもよい。
【0020】
ピニオン軸21は、ケース本体11の外周端部に形成されて第2軸線X2上に延びる一対の支孔11aに挿通、保持される。またケース本体11には、ピニオン軸21の一端部を横切るように貫通する抜け止めピン18が挿着(例えば圧入)され、この抜け止めピン18により、ピニオン軸21の支孔11aからの離脱が阻止される。
【0021】
更にケース本体11の外周面には、その中心Oから第2軸受ボス13側にオフセットした位置で、環状のフランジ部Fが径方向外向きに一体に形成される。このフランジ部Fの外周部にはリングギヤRが固定され、リングギヤRは、図示しない動力源(例えばエンジン)に連なる変速装置の出力部となる駆動ギヤ31と噛合する。これにより、駆動ギヤ31からの回転駆動力は、リングギヤR及びフランジ部Fを介してケース本体11に伝達される。
【0022】
そして、ケース本体11に伝達された回転駆動力は、デフ機構20を介して左右の車軸16,17に対し差動回転を許容されつつ分配伝達される。尚、デフ機構20の差動機能は従来周知であるので、説明を省略する。
【0023】
図2〜
図4に示すように、ケース本体11の、第1,第2軸線X1,X2と直交する一直径線上で相対向する周壁には、デフ機構20のケース本体11内への組込みを容易にすること等のための一対の作業窓Hが設けられる。これら作業窓Hは、
図2,4にも明示されるように第1軸線X1に沿う方向でフランジ部Fの根元部分まで達するように大きく形成される。
【0024】
尚、作業窓Hは、フランジ部Fの根元部分から軸方向(即ち第1軸線X1に沿う方向)で若干離間して形成してもよいし、或いは、フランジ部Fの根元部分に若干食い込むようにして形成してもよい。
【0025】
而して、本実施形態では、フランジ部Fのうち、第1軸線X1と直交する投影面(
図3を参照)で見て第1軸線X1と、作業窓Hの、デフケース10周方向で一方側の内端He1及び他方側の内端He2とをそれぞれ通る一対の仮想直線L1,L2で挟まれた領域Aの外側に位置するもの(即ち作業窓Hに対し周方向でオフセットした領域にあるもの)を第1フランジ部F1とし、また同領域Aに位置するもの(即ち作業窓Hに対し周方向で略同一の領域にあるもの)を第2フランジ部F2とする。この場合、第1,第2フランジ部F1,F2に対するケース本体11の支持剛性には、後述するように各フランジ部F1,F2が作業窓Hに対し周方向にオフセットしているか否かに関係して、少なからず高低差が生じる。
【0026】
また、リングギヤRは、ヘリカルギヤ(斜歯)状の歯部Ragを外周に有するリムRaと、このリムRaの内周面から突出する円板状のスポークRbと、このスポークRbの内周端部に短円筒状のハブRcとを備える。尚、
図1,2,4,5において、歯部Ragは、表示を簡略化するために、歯筋に沿う断面表示とした。
【0027】
而して、リングギヤRは、ヘリカルギヤ状の歯部Ragを有することで、同じくヘリカルギヤ状の歯部を有する駆動ギヤ31との噛合により第1軸線X1に沿う方向のスラスト荷重(噛合反力のスラスト方向成分)を受け、このスラスト荷重は、リングギヤRからフランジ部Fを経てケース本体11に受け止められる。
【0028】
図5も併せて参照して、ハブRcの内周面は、本実施形態では第1内周面41と、第1内周面41に環状の中間段差面43を介して隣接する、第1内周面41よりも小径の第2内周面42とを備える。第1内周面41は、被溶接部となる外側内周面部41aと、外側内周面部41aの内端に連なる、閉塞空間形成用の内側内周面部41bとを有する。そして、このハブRcの内周面がフランジ部Fを囲繞し、次に説明するように溶接にて固着される。
【0029】
即ち、フランジ部Fの外周部は、ハブRcの内周面(特に第1内周面41の外側内周面部41a)に溶接wで接合される接合部51と、ハブRcの第2内周面42に圧入して嵌合される嵌合面部52と、第1軸線X1に沿う方向で接合部51及び嵌合面部52間に位置する空間形成部53とを備える。その空間形成部53は、ハブRcの内周面(特に第1内周面41の内側内周面部41b及び中間段差面43)との間で環状の閉塞空間Sを形成する。
【0030】
空間形成部53は、本実施形態では接合部51より径方向内方側に一段下がった環状凹面に形成され、また嵌合面部52は、本実施形態では空間形成部53の底面より径方向内方側に一段下がった環状凹面に形成される。従って、嵌合面部52と空間形成部53の底面との間には、この間を接続する環状の段差面部54が形成される。この段差面部54は、ハブRcの第2内周面42をフランジ部Fの嵌合面部52に圧入により嵌合する際に、段差面部54にハブRcの中間段差面43を当接させることで、圧入深さ(嵌合深さ)を規定する。
【0031】
尚、中間段差面43の段差面部54への上記当接によれば、リングギヤRに作用する一方向(本実施形態では
図5で左向き)のスラスト荷重がフランジ部Fに確実に受け止められるため、それだけ溶接w部位の荷重負担が軽減される。
【0032】
フランジ部Fの接合部51と、ハブRcの第1内周面41(特に外側内周面部41a)との間は、その全周に亘って第2軸受ボス13側(
図5左側)からレーザによる溶接wが施される。尚、
図5の二点鎖線で例示するように、溶接前において接合部51及び外側内周面部41aに開先(即ち互いに先拡がりのテーパ面)を設ければ、溶接作業(例えば溶接材料の供給等)のスムーズ化を図る上で有利である。
【0033】
ところでフランジ部Fには、
図1〜
図5に明示されるように、閉塞空間Sをデフケース10の外面に連通させるガス抜き通路としてのガス抜き溝55が設けられる。ガス抜き溝55は、上記の如く接合部51及び第1内周面41間を溶接wしたときに閉塞空間S内に生じた溶接ガスをデフケース10外にスムーズに排出する機能を果たす。従って、溶接ガスが閉塞空間Sよりスムーズに排出されないことに起因した溶接欠陥の発生を、ガス抜き溝55のガス排出効果により未然に防止可能である。
【0034】
またガス抜き溝55は、本実施形態では嵌合面部52及び段差面部54に跨がるようにL字状に延びており、そのガス抜き溝55の内端は空間形成部53の底面に開口し、またガス抜き溝55の外端は、フランジ部Fの、第1軸受ボス12側の側面に開口する。
【0035】
また
図3,
図8〜
図13にも示されるように、ガス抜き溝55は、第2フランジ部F2の、第1フランジ部F1との境界部(即ち第1軸線X1と直交する投影面即ち
図3で見て前述の仮想直線L1,L2bが横切る部位)から周方向に離間した所定領域Zと、第1フランジ部F1とのうちの少なくとも一方にのみ配置される。
【0036】
即ち、ガス抜き溝55の配置態様は、第1フランジ部F1にのみ配置される配置態様(例えば
図3,
図8,
図9に夫々示す第1〜第3実施形態)と、第2フランジ部F2の所定領域Zにのみ配置される配置態様(例えば
図10,
図11に夫々示す第4,第5実施形態)と、第1フランジ部F1及び所定領域Zの両方にのみ配置される配置態様(例えば
図12,
図13に夫々示す第6,第7実施形態)の何れかとなる。
【0037】
尚、
図8〜
図13に示す第2〜第7実施形態のデフケース10の構造は、ガス抜き溝55の配設位置の違いを除いて、
図1〜
図5に示す第1実施形態のデフケース10の構造と同様であるので、第2〜第7実施形態の各構成要素には、それらと対応する第1実施形態の各構成要素と同じ参照符号を
図8〜
図13に各々付記するにとどめ、それ以上の具体的説明は省略する。
【0038】
上記した所定領域Zは、差動装置Dの作動中、リングギヤRからのスラスト荷重(特に右向きのスラスト荷重)がフランジ部Fに対し、第1軸線X1側へ倒れるのに抗する応力(以下、本明細書では単に「倒れ応力」という)を生じさせるように作用したときに、第2フランジ部F2の、所定領域Zに存するガス抜き溝55の周辺部での応力集中を回避可能な領域であることを設定条件として設定される。
【0039】
尚、この所定領域Zは、機種毎に異なる種々の変動要因(例えば作業窓Hの大きさや、作業窓H外側での第2フランジ部F2の根元部分とケース本体11との接続部分の構造や、ガス抜き溝55の断面形状等)に応じて周方向の領域範囲が変動するが、上記スラスト荷重が作用したときの第2フランジ部F2のガス抜き溝55周辺部での実際の応力分布を測定することで、機種毎に所定領域Zを実験的に求めることができる
また、この所定領域Zには、第2フランジ部F2の、周方向で中央部F2cが当然に含まれるが、上記設定条件を満たす領域であれば例えば中央部F2cの周方向隣接領域や更にその外側領域も含まれる。例えば、
図10,
図12,
図13に夫々示す第4,第6,第7実施形態では、ガス抜き溝55を中央部F2cに配置しているが、
図11に示す第5実施形態では、所定領域Z内であるが中央部F2cよりも外側の領域にガス抜き溝55を配置している。そして、特に第4,第6,第7実施形態のように第2フランジ部F2の中央部F2cにガス抜き溝55を配置した場合には、第2フランジ部F2の、周方向での応力差(換言すれば、第2フランジ部F2の倒れ量の、周方向での変化勾配)が最小の部位にガス抜き溝55が在るため、ガス抜き溝55周辺部での応力集中をより確実に回避可能となる。
【0040】
このように本発明では、ガス抜き溝55を第2フランジ部F2の、周方向で中央部F2cと、第1フランジ部F1とのうちの少なくとも一方にのみ配置する実施形態も実施可能である。この場合、ガス抜き溝55は、第1フランジ部F1のみに配置されるか、或いは第2フランジ部F2の中央部F2cのみに配置されるか、或いはまた第1フランジ部F1及び第2フランジ部F2の中央部F2cのみに配置される。
【0041】
また上記したガス抜き溝55は、複数有ってデフケース10の周方向に等間隔をおいて配置(例えば
図8,
図10〜
図13にそれぞれ示す第2,第4〜第7実施形態を参照)されることが望ましい。その場合には、ガス抜き溝55が複数有ることで、必要なガス抜き効果を確保しつつ、個々のガス抜き溝55の横断面積を極力小さくして、フランジ部Fの、ガス抜き溝55の周方向一端及び他端での応力差(即ち倒れ量の差)をより低減できるため、そのガス抜き溝55周辺部での応力集中をより確実に回避することができる。しかも複数のガス抜き溝55がデフケース10の周方向で等間隔に配置されることで、溶接箇所に依らずガス抜き効果を略均等化することができる。
【0043】
デフケース10は、本実施形態では複数の成形型C1〜C3より分割構成される鋳造型装置Cを用いて鋳造成形される。その鋳造成形された直後のデフケース素材10′は、必要箇所(例えば第1,第2軸受ボス12,13の軸受孔、フランジ部Fの外周面等)に機械加工を適宜施されてデフケース10に仕上げられる。
【0044】
鋳造型装置Cは、例えばデフケース10の、第1軸受ボス12からフランジ部F外周面に至るまでの外面の大部分を成形するための第1成形型C1と、デフケース10の、第2軸受ボス13からフランジ部F左側面に至るまでの外面を成形するための第2成形型C2と、デフケース10の中空部及び作業窓H、並びに第2フランジ部F2の大部分の外周面及び右側面を成形するための、砂中子よりなる第3成形型C3とを備える。
【0045】
第1〜第3成形型C1〜C3は、それらの型閉め状態で相互間にデフケース成形用キャビティ110を画成するように構成される。そして、複数あるガス抜き溝55を各々成形するための複数の溝成形部155は、ガス抜き溝55が特に第1フランジ部F1のみに配置される第1〜第3実施形態(
図3,
図8,
図9及び
図6,7参照)では第1成形型C1の対応箇所にだけ設けられ、またガス抜き溝55が特に第2フランジ部F2のみに配置される第4,第5実施形態(
図10,
図11,
図14参照)では第3成形型C3の対応箇所にだけ設けられる。
【0046】
そして、これら第1〜第5実施形態のように複数のガス抜き溝55の全てを複数の成形型C1〜C3の何れか1つ(第1成形型C1又は第3成形型C3)に集約して設ける場合には、それらの溝成形部155を第6,第7実施形態(
図12,
図13参照)のように複数の成形型C1,C3に分散して設けた場合と比べて、複数のガス抜き溝155の位置のばらつきが抑えられ、ガス抜き溝155の成形精度を高め得る利点がある。
【0047】
上記のようにして製造されたデフケース10は、それのフランジ部F外周の嵌合面部52にリングギヤRのハブRcの第2内周面42を圧入により嵌合するが、その圧入の際には、フランジ部F外周の段差面部54にハブRc内周の中間段差面43を当接させることで、その圧入深さが規制される。そして、この状態で、フランジ部F外周の接合部51とハブRcの内周面(特に第1内周面41の外側内周面部41a)との対向面間をその全周に亘って、第2軸受ボス13側からレーザによる溶接wを施す。
【0048】
これにより、その溶接作業を、フランジ部F及びハブRcの一側面(実施形態では左側面)側のみで行いながらも、フランジ部F及びハブRcの結合強度を高めることができ、また溶接作業の能率を上げて製作コストの低減を図ることができる。しかも、溶接するフランジ部F及びハブRcの一側面側は、ケース本体11の作業窓Hと反対側であるので、溶接時に発生するスパッタが作業窓Hからデフケース10内に侵入する心配もない。
【0049】
ところで駆動ギヤ31とリングギヤR間でのトルク伝達中、歯部Ragがヘリカル状であるリングギヤRには、第1軸線X1に沿う方向のスラスト荷重が作用し、その荷重の向きは、自動車の前進・後退の切替わりに応じて切替わる。そして、特に右向きのスラスト荷重がリングギヤRに作用したときは、デフケース10のフランジ部Fにも同じ向きのスラスト荷重がリングギヤRから伝わり、そのスラスト荷重により、フランジ部Fには前述の倒れ応力が生じる。
【0050】
その一方で、第1,第2フランジ部F1,F2に対するケース本体11の支持剛性には、作業窓Hに影響されて少なからず高低差がある。即ち、作業窓Hに対し周方向でオフセットした位置に在ってデフケース本体11で強固に支持される第1フランジ部F1の剛性よりも、作業窓Hに近接・対応する位置(即ち作業窓Hと周方向で同一の位置、換言すればオフセットしていない位置)に在ってデフケース本体11による強固な支持が期待できない第2フランジ部F2の剛性が、かなり低くなる。
【0051】
そのため、前述のようにリングギヤRからのスラスト荷重を受けてフランジ部Fに倒れ応力が生じたときに、特に第2フランジ部F2の、第1フランジ部F1との境界部(即ち第1軸線X1と直交する投影面で見て仮想直線L1,L2bが横切る部位)に比較的近い領域では、第2フランジ部F2の周方向中央部F2c寄りの領域(例えば、前記所定領域Z)と比べて、第1,第2フランジ部F1,F2の上記した剛性差に関係して周方向での応力差(換言すれば、第2フランジ部F2が微小に倒れようとする際の倒れ量の、周方向での変化勾配)が大きくなる。
【0052】
そして、仮にこの第2フランジ部F2の応力差(即ち倒れ量の、周方向での変化勾配)が大きい領域にガス抜き溝55を配置した場合には、例えば
図15に示すように、ガス抜き溝55の周方向一端と他端での倒れ量に少なからず差が生じる。このため、その倒れ量の差に因り第2フランジ部F2のガス抜き溝55の周辺部(特に溝底部)に応力集中が生じ易くなり、デフケース10の耐久性を低下させる虞れがある。尚、
図15は、本発明の原理を理解し易くするために、第2フランジ部F2の倒れ変位量を、二点鎖線で誇張して描いているが、実際の倒れ量は、ごく微小である。
【0053】
これに対し、本実施形態のガス抜き溝55は、第2フランジ部F2の、第1フランジ部F1との前記境界部から周方向に離間した所定領域Z(特に第4,第6,第7実施形態では中央部F2c)と、第1フランジ部F1とのうちの少なくとも一方にのみ配置され、且つ所定領域Zが、スラスト荷重でフランジ部Fに倒れ応力を発生させるときに、当該所定領域Zに存するガス抜き溝55の周辺部での応力集中を回避可能な領域として設定されている。これにより、上記倒れ応力の発生時に、フランジ部Fの、周方向での応力差(即ち倒れ量の、周方向での変化勾配)が無いか或いは殆ど無い領域にガス抜き溝55が配置されることになるから、第2フランジ部F2のガス抜き溝55周辺部での応力集中が回避可能となって、デフケース10の耐久性向上が図られる。
【0054】
以上、本発明の第1〜第7実施形態について説明したが、本発明は、それら実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、差動装置Dを車両用差動装置に実施したものを示したが、本発明では、差動装置Dを車両以外の種々の機械装置に実施してもよい。
【0056】
また前記実施形態では、フランジ部Fの外周部に設けられる接合部51と、空間形成部53を挟んで隣接する嵌合面部52との間に高低差(段差面部54)が存するものを示したが、そのような高低差が無いもの(即ち接合部51と段差面部54とが空間形成部53を挟んで同一又は略同一の円筒面上に並ぶもの)も実施可能である。
【0057】
また前記実施形態では、フランジ部F外周の嵌合面部52を、リングギヤRのハブRcの内周面(第2内周面42)に圧入により嵌合、固定したものを示したが、本発明では、嵌合面部52を軽圧入によりハブRcの内周面(第2内周面42)に嵌合、固定してもよく、或いはまた、ハブRcの内周面(第2内周面42)に対し締代がゼロ又は僅少の状態で嵌合してもよい。
【0058】
また前記実施形態では、デフケース10のフランジ部FとリングギヤRとの溶接wを、レーザ溶接で行うものを例示したが、本発明では、その他の溶接手法(例えば電子ビーム溶接等)で溶接するようにしてもよい。
【0059】
また前記実施形態では、フランジ部Fに設けられるガス抜き通路としてガス抜き溝55を例示したが、本発明のガス抜き通路は、溝に限定されない。例えば、閉塞空間Sをデフケース10の外面に連通させるようにフランジ部Fに設けた孔をガス抜き通路としてもよい。
【0060】
また前記実施形態では、リングギヤRの歯部Ragをヘリカルギヤ状としたものを示したが、本発明のリングギヤは、少なくとも駆動ギヤ31との噛合により第1軸線X1に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯形状であればよく、例えばベベルギヤ、ハイポイドギヤ等でもよい。