【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1に係る変速機用同期装置の主要部の断面図である。
図1は、出力軸10の中心から上半分を描いた拡大図である。なお、後述するように
図1の一部は拡大して
図4としており、一部の符号は
図1に記述しないで
図4に記している。
出力軸10は図示しない差動装置を介して車輪に連結されている。
該出力軸10には、外周にスプライン10aが形成され、出力軸10に装着されたスナップリング10bとともにハブ12が一体的に固定されている。
出力軸10はスプライン10aの右側に支持部10cと鍔部10dとが形成され、ハブ12のボス12aと鍔部10dとの間の支持部10cには、ベアリング10eに支持された1速ギヤ14が回転自在に設けられている。
【0012】
1速ギヤ14は、そのギヤ部14aが図示しない入力軸と一体の1速入力ギヤと噛み合っており、該入力軸はクラッチディスクと連結している。
1速ギヤ14には、後述のスリーブ16のスプライン16aと噛み合うスプライン(ドッグギヤ)14bが、ハブ12に面した側のチャンファ14cとともに形成され、ハブ12に面した側にはさらに支持面14dが形成されている。
該支持面14dは円錐角θの円錐面に近い形状であるが、
図2に示す拡大断面図のように外面線が半径Rの円弧を描くようにクラウニングされている。むろん、支持面14dは一般的な円錐面であってもよい。
また、スプライン14bの径方向内側には円周方向3カ所に軸方向の支持穴14eが形成されており、後述の中間リング20の突起20bが係合している。また支持穴14eの径方向外側は内面14fである。
【0013】
ハブ12は、ボス12aの外側にフランジ部12bが形成され、その外周にスプライン12cが形成された環状部12dを有し、環状部12dからフランジ部12bにかけて、
図3の部分拡大正面図に示すように3カ所の切り欠き12eを形成している。
【0014】
ハブ12の外側にはスリーブ16が、該スリーブ16のスプライン16aとハブ12のスプライン12cが嵌合して、回転方向は両者一体で軸方向にはスリーブ16がハブ12に対して移動可能に装着してある。
スプライン16aの軸方向両端部にはチャンファ16cが形成してある。
スリーブ16の外周にはリバースギヤ16dとシフトフォーク溝16eが形成してあり、シフトフォーク溝16eには図示しないシフトフォークが係合してスリーブ16を軸方向に移動させることができる。なお、リバースギヤ16dは本同期装置の作用には関係しないので説明を省略する。
スプライン16aの内周にはボール溝16fが形成され、該ボール溝16fには後述するボールユニット22が接している。
【0015】
1速ギヤ14とハブ12およびスリーブ16の間には同期リング18と中間リング20が装着されている。ここで、
図1における同期リング18と中間リング20および後述のボールユニット22の拡大図を
図4に示す。
また、
図5に同期リング18のハブ12側から見た部分正面図を、
図6に中間リング20の1速ギヤ14側から見た正面図を、それぞれ示す。
【0016】
同期リング18は、
図5に示すように、その外周にチャンファ18aを有するスプライン18bと、ハブ12の切り欠き12eに対応した突起18cが、内側には
図4に見るように円錐摩擦面18dが、それぞれ形成されている。チャンファ18aはスリーブ16のチャンファ16cに対応しており、円錐内面18dは後述の中間リング20の円錐外面20dに対応している。
突起18cは、ハブ12の切り欠き12eに若干の回転方向の遊びを有している。
【0017】
中間リング20は、
図6に見るように全体はリング状であるが開口部20aを有してC形状になっている。
図4、
図6に見るように、中間リング20の1速ギヤ14側には3カ所に軸方向の突起20bが形成され、該突起20bは1速ギヤ14の支持穴14eと係合しており、回転方向は1速ギヤ14と一体であるとともに、突起20bの外周面20cは支持穴14eの内面14fに接しており、これにより中間リング20は径方向への広がりを規制されている。
【0018】
中間リング20には円錐外面20dが形成され、該円錐外面20dには摩擦材20eが貼付されている。円錐外面20dと摩擦材20eは同期リング18の円錐摩擦面18dに対応しており、後述の同期作用において両者間で摩擦トルクを生じる。
なお、摩擦材20eは、貼付に限らず金属の溶射や樹脂の射出成形であってもよい。
また、中間リング20の内側は円錐内面20fが形成され、該円錐内面20fは1速ギヤ14の支持面14dに接するようになっている。
ここで、円錐内面20fの円錐角は、円錐外面20dの円錐角よりやや大きくしている。
【0019】
前述のように、1速ギヤ14の支持面14dはクラウニングされた円錐面であるので、中間リング20の円錐内面20fとは
図2にQで示す円周で接する。該Qで示した円周は、円周内面20fにおいて軸方向の中央よりハブ12側へ寄っている。
そして、中間リング20のハブ12側端部の外周に溝20gが形成してあり、該溝20gには係止リング20hが係合している。溝20gは、同期リング18の中間リング20に対する軸方向への移動を規制するような、係止リング20hの位置になるように形成されている。
なお、同期リング18と中間リング20の軸方向の移動を規制する手段は、他の方法でもよく、要は同期リング18の円錐摩擦面18dの小径部よりやや大きな部分が中間リング20に形成してあればよい。
【0020】
ハブ12の切り欠き12eには、スリーブ16と同期リング18の間に、相互に軸方向に移動可能なボールユニット22が配置されている。すなわち、ボールユニット22は、
図4に示すように、ボール22aとケース22bとスプリング22cからなっており、ケース22bに収めたスプリング22cの弾性力でボール22aをスリーブ16のボール溝16fに押しつけている。ケース22bは径方向と回転方向はハブ12の切り欠き12eに接して、軸方向には若干の隙間を有して同期リング18と接する。
【0021】
図1は、ハブ12から右側の、1速ギヤ14とその同期装置のみを描いているが、一般的にはハブ12の左側に2速ギヤが配置され、2速ギヤ用の同期装置もハブ12を中心に1速ギヤ14用と線対称に配置されるが、図示を省略している。そして、
図1はスリーブ16が中立、すなわち1速と2速の中間に存在する状態である。
【0022】
なお、前述の従来例は一般的にポルシェ型と呼ばれる同期装置であるが、本発明の同期装置は基本的にボーグ・ワーナー型と呼ばれる形式であり、作動等は周知であるので細かい説明を省略する場合がある。
次に、
図1に示した同期装置の作動を、
図1、
図4と
図7、
図8を中心に説明する。
図7、
図8は、
図1の上方から見た作動途中の部分展開図であり、スリーブ16のスプライン16aは1個だけ断面で描いてあり、ハブ12のスプライン12cは省略して描いている。
【0023】
図1において、出力軸10と1速ギヤ14との間に回転速度差があって、1速ギヤが図示しないクラッチディスク等とともに空転している状態で、ドライバーが図示しないシフトフォークを介してスリーブ16を1速ギヤ14側へ移動を始める。
最初はスリーブ16とともにボールユニット22が一緒に移動するが、やがてケース22bが同期リング18を1速ギヤ14側へ押す。すなわち、ボール22aはスプリング22cの弾性力でスリーブ16のボール溝16fに押しつけられているので、その張力弾性力に応じた荷重で同期リング18は中間リング20を介して1速ギヤ14に押しつけられる。
【0024】
1速ギヤ14と回転方向が一体の中間リング20と同期リング18は、両者の円錐外面20dと円錐摩擦面18dとの間で摩擦トルクが生じる。この摩擦トルクにより、同期リング18はハブ12に対してわずかに相対回転する。すなわち、同期リング18の突起18cがハブ12の切り欠き12eに対して回転方向に隙間がある分だけ回転する。
【0025】
スリーブ16がさらに1速ギヤ14側へ押すと、ボール溝16fによりスプリング22cの弾性力に抗して径方向ボール22aを径方向内側へ押し込みながらスリーブ16が進行し、
図7に示すようにスリーブ16のチャンファ16cが同期リング18のチャンファ18aに当接してこれを押圧する。
この押圧力により前述の摩擦トルクがさらに高まって、同期作用が促進して、やがて出力軸10と1速ギヤ14の回転速度差がなくなる。
【0026】
回転速度差がなくなると摩擦トルクも消滅するので、スリーブ16のチャンファ16cが同期リング18のチャンファ18aを押しのけるように進行したのが
図8の状態であり、以降はスリーブ16が進行してやがてスプライン16aが1速ギヤ14のスプライン14bと噛み合って変速操作が終了する。
【0027】
この変速操作中にあって、スリーブ16のスプライン16aが1速ギヤ14のスプライン14bと噛み合う際に、中間リング20の円錐外面20dと同期リング18の円錐摩擦面18dとの間で貼り付きのような現象があると、スプライン16aのチャンファ16cがスプライン14bのチャンファ14cをかき分けるようにして、両者を引きはがす必要がある。
そして、一般に同期性能を高めるために円錐外面20dと円錐摩擦面18dの円錐角を小さくすると、この貼り付き現象が起きやすく、これを引きはがすための力が必要になって、ドライバーのシフトフィーリングを悪化させる。
【0028】
これに対して本実施例では、次のようにして中間リング20と同期リング18の貼り付き現象を低減する。
すなわち、前述したように円錐内面20fの円錐角は、円錐外面20dの円錐角よりやや大きくしているため、中間リング20がC形状をしていることと相まって、円錐外面20dと円錐摩擦面18dの貼りつきが起きにくい。
さらにそれに加えて1速ギヤ14の支持面14dと中間リング20の円錐内面20fとは
図2にQで示す円周で接しており、この円周Qは円周内面20fにおいて軸方向の中央よりハブ12側へ寄っている。このため、円錐外面20dと円錐摩擦面18dに作用する軸方向の荷重が最も大きくなる、すなわち上記した同期作用の途中で中間リング20のハブ12側の径が大きくなる方向にわずかに変形する。そして、出力軸10と1速ギヤ14の回転速度差がなくなって、
図7から
図8に至る間で円錐外面20dと円錐摩擦面18dに作用する軸方向の荷重が急に下がって、その変形が元に戻る。
【0029】
このため、円錐外面20dと円錐摩擦面18dで貼り付きのような現象が解消されるように作用するので、上記したチャンファ16cがチャンファ14cをかき分けるのに要する力が大幅に小さくなる。
このように、本発明の実施例1に係る変速機用同期装置によれば、円錐外面20dと円錐摩擦面18dの円錐角を小さくして同期能力を高めても、それによる両者間の貼り付き現象を抑制して、ドライバーのシフトフィーリングを悪化させない効果が得られる。
また、中間リング20に設けた溝20gと系止リング20hにより、組み合わせた同期リング18と中間リング20が互いに外れないので、変速機等への組み付けがやりやすく、さらに潤滑オイルを円錐外面20dと円錐摩擦面18dに塗布して維持するのに役立つ。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の実施例2の変速機用同期装置につき説明する。
図9は、1速ギヤ14の支持穴14eと中間リング20の突起20bの関係を描いたものである。中間リング20は1速ギヤ14側から見た外観であり、支持穴14eは分かりやすくするため破線で描いている。
実施例1との違いはこの部分だけであるので、他の構成に関しては図示と説明を省略する。
【0031】
図9において、支持穴14eは円周上の等分6カ所に同じ大きさで形成されているが、突起20bは開口部20aに近い2カ所の20iは他の4カ所とやや異なる。
すなわち、他の4カ所の突起20bは支持穴14eに対応して等分6カ所の位置に形成されているが、2カ所の突起20iは開口部20aに近い配置にややずれて配置している。このため、中間リング20の1速ギヤ14に対する回転方向の位置は、この2カ所の突起20iで決まることになる。
【0032】
つづいて、実施例2の作動を説明する。
上記のように、実施例1との違いは1速ギヤ14の支持穴14eと中間リング20の突起20b、20iの関係のみであるので、これに絞って説明する。
同期作用において、中間リング20の円錐外面20dと同期リング18の円錐摩擦面18dとの間に摩擦トルクが作用すると、中間リング20が1速ギヤ14に対して相対回転するので、2カ所の突起20iのうち一方の突起20iの側面20jが支持穴14eに接して、そこに摩擦トルクが作用することになる。
【0033】
これにより、内部拡張式ブレーキのように、中間リング20は径方向外側へ押し広げられる力、いわゆるセルフサーボ力が作用する。しかし、突起20b、20iと支持穴14eによって1速ギヤ14側の径方向の広がりは制約されているので、ハブ12側がわずかに広げられることになる。
【0034】
これは、実施例1で説明した、1速ギヤ14の支持面14dと中間リング20の円錐内面20fとが円周Qで接していることによる作用と同様の効果をもたらす。
したがって、実施例2に係る変速機用同期装置によれば、実施例1で説明した効果も相まって、円錐外面20dと円錐摩擦面18dの円錐角を小さくして同期能力を高めても、それによる両者間の貼り付き現象をいっそう抑制して、ドライバーのシフトフィーリングを悪化させない効果が得られる。