(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-82342(P2019-82342A)
(43)【公開日】2019年5月30日
(54)【発明の名称】温度センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01K 7/22 20060101AFI20190510BHJP
G01K 1/08 20060101ALI20190510BHJP
H01C 1/028 20060101ALI20190510BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20190510BHJP
G01K 1/10 20060101ALI20190510BHJP
【FI】
G01K7/22 C
G01K7/22 L
G01K1/08 Q
H01C1/028
H01C7/02
G01K1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-208683(P2017-208683)
(22)【出願日】2017年10月28日
(71)【出願人】
【識別番号】511174948
【氏名又は名称】株式会社立山科学センサーテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100181881
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 俊一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松浦 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】串田 健治
【テーマコード(参考)】
2F056
5E028
5E034
【Fターム(参考)】
2F056BP10
2F056QC04
2F056QC07
2F056QC12
2F056QC18
2F056QF04
2F056QF05
2F056QF07
2F056QF08
5E028BB08
5E028CA16
5E028EA01
5E028EA03
5E028EA13
5E028EB01
5E028JB01
5E034AA09
5E034DA03
5E034DB05
(57)【要約】
【課題】 サーミスタ素子を樹脂モールドした温度センサ及びその製造方法に関し、サーミスタ素子に対する気密性を高め、製造時における性能の安定性及び歩留まりを高める温度センサ及びその製造方法の提供。
【解決手段】 サーミスタ素子1と接続ターミナル2からなるセンサ部Aと、前記接続ターミナル2に接続されたケーブル部Bと、前記センサ部Aの全体及び前記ケーブル部Bの先端部を覆う被覆部Cを備えた温度センサにおいて、前記被覆部Cは、前記サーミスタ素子1が収まる先端部中央に向って先細りとなる内空部5aを備えるセンサケース5と、前記サーミスタ素子1の全面を覆う弾性樹脂コーティング層6と、前記センサケース5の内面と前記弾性樹脂コーティング層6の間に満たされる充填樹脂層7を備える温度センサ及びその製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーミスタ素子と接続ターミナルからなるセンサ部と、前記接続ターミナルに接続されたケーブル部と、前記センサ部の全体及び前記ケーブル部の先端部を覆う被覆部を備えた温度センサにおいて、
前記被覆部は、前記サーミスタ素子が収まる先端部中央に向って先細りとなる内空部を備えるセンサケースと、
前記サーミスタ素子の全面を覆う弾性樹脂コーティング層と、
前記センサケースの内面と前記弾性樹脂コーティング層の間に満たされる充填樹脂層を備えることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
前記ケーブル部の先端部を覆うプライマ層を備えることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記弾性樹脂コーティング層を、前記サーミスタ素子の全面及びそこから前記ケーブル部の先端部に至る領域に連続して備えることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の温度センサ。
【請求項4】
サーミスタ素子と接続ターミナルからなるセンサ部と、前記接続ターミナルに接続されたケーブル部と、前記センサ部の全体及び前記ケーブル部の先端部を覆う被覆部を備えた温度センサの製造方法であって、
センサ部の接続ターミナルにケーブル部の導線を連結する接続工程と、
前記センサ部のサーミスタ素子の全面に弾性樹脂コーティング層を被着するコーティング工程と、
前記ケーブル部の先端部にプライマ層を被着する下地形成工程と、
前記サーミスタ素子が収まる先端部中央に向って先細りとなる内空部を具備するセンサケースの内空部の先端に前記工程を経たサーミスタ素子を差し入れる装填工程と、
前記センサケースの内面と前記弾性樹脂コーティング層の間に充填樹脂層を満たす充填工程と、
前記充填樹脂層を固める固化工程を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーミスタ素子を樹脂モールドした温度センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度センサは、サーミスタ素子と接続ターミナル(銅線やジュメット線など)を導線で接続したセンサ部を金属製のケースに挿入し、ケースの開口部をモールド樹脂で形成された樹脂モールド部により封口する構造が知られている(例えば下記特許文献1参照)。
このような温度センサは、水分の浸入による金属合金の腐食などによりセンサ部の断線や短絡などの原因となることから、センサ部内の気密性を確保することが極めて重要となる。
【0003】
そこで、金属製のケースの開口部に樹脂製の絶縁キャップを挿入し、この絶縁キャップの開口部にセンサ部を挿入し、この状態でケース及び絶縁キャップの開口部を樹脂でモールド成形して封口する構成が提案されている。
この例では、絶縁キャップ及び樹脂モールド部に同じ樹脂を採用することによって、モールド成形時にこの界面が溶着し水分の浸入経路を遮断する構造となっている。
【0004】
この様な温度センサは、一般的にサーミスタ素子が用いられていることが多いが、サーミスタ表面は、極めて脆い保護膜で覆われているものも存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−77678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような温度センサを小型化しようとすれば、水分の浸入経路を遮断する溶着部分の延面距離が短くなってしまい、サーミスタ素子に対する気密性が低下してしまうという問題がある。
また、モールド樹脂は、固化の際に、限られた空隙内で膨張し、サーミスタ素子の保護膜を破損させる原因となり、製造時における歩留まりを低下させることとなる。
加えて、この様なモールドタイプの温度センサは、ケース内におけるサーミスタ素子のモールド位置の相違によって、センサの感度や特性が変化し、品質が安定しないと言う問題もある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、サーミスタ素子を樹脂モールドした温度センサ及びその製造方法に関し、サーミスタ素子に対する気密性を高め、製造時における性能の安定性及び歩留まりを高める温度センサ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明による温度センサは、サーミスタ素子と接続ターミナルからなるセンサ部と、前記接続ターミナルに接続されたケーブル部と、前記センサ部の全体及び前記ケーブル部の先端部を覆う被覆部を備えた温度センサにおいて、前記被覆部は、前記サーミスタ素子が収まる先端部中央に向って先細りとなる内空部を備えるセンサケースと、前記サーミスタ素子の全面を覆う弾性樹脂コーティング層と、前記センサケースの内面と前記弾性樹脂コーティング層の間に満たされる充填樹脂層を備えることを特徴とする。
【0009】
前記ケーブル部の先端部を覆うプライマ層を備える温度センサとすることもできる。
また、前記弾性樹脂コーティング層を、前記サーミスタ素子の全面及びそこから前記ケーブル部の先端部に至る領域に連続して備える構成を採ることもできる。
尚、プライマとは、一般的に接着促進剤や下処理剤として使用されるものであって、部材間の接着性を向上させる効果を有するものである。
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明による温度センサの製造方法は、サーミスタ素子と接続ターミナルからなるセンサ部と、前記接続ターミナルに接続されたケーブル部と、前記センサ部の全体及び前記ケーブル部の先端部を覆う被覆部を備えた温度センサの製造方法であって、センサ部の接続ターミナルにケーブル部の導線を連結する接続工程と、前記センサ部のサーミスタ素子の全面に弾性樹脂コーティング層を被着するコーティング工程と、前記ケーブル部の先端部にプライマ層を被着する下地形成工程と、前記サーミスタ素子が収まる先端部中央に向って先細りとなる内空部を具備するセンサケースの内空部の先端に前記工程を経たサーミスタ素子を差し入れる装填工程と、前記センサケースの内面と前記弾性樹脂コーティング層の間に充填樹脂層を満たす充填工程と、前記充填樹脂層を固める固化工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による温度センサ及びその製造方法によれば、前記センサケースの内空部の形状を、前記サーミスタ素子が収まる先端部中央に向って先細りとなる内空部を備える形状とすることによって、前記サーミスタ素子が、ケースの内面の先端に当接する際に、当該センサケースの先端部中央への位置決めを自動的に行うので、当該サーミスタ素子の位置をより簡単に且つ正確に定めることができる。
また、前記内空部が先細りであるため、サーミスタ素子の近傍に存在する充填樹脂の量が少なくなり、充填樹脂の膨張に伴う圧力がセンサケースの開口部に向うことが相俟って、当該サーミスタ素子に加わる応力が緩和される。
【0012】
更に、前記サーミスタ素子の全面を覆う弾性樹脂コーティング層を備えることによって、その緩衝作用により、前記充填樹脂が固化する際に生じる圧力で前記サーミスタ素子の表面に備える保護膜が破損する不具合を回避することができる。
加えて、当該弾性樹脂コーティング層を、更に、前記ケーブル部の先端部に至る領域に連続して備える構成を採ることによって、当該センサ部を被覆部に装填する際の接続ターミナルの変形による短絡を防止することも出来る。
【0013】
一方、前記センサケースの素材として、ガラス繊維や無機フィラーなどの強化材を含有するPPSなどの熱伝導率の高い素材を採用すれば、サーミスタ素子近傍に存在する充填樹脂の厚みが薄さと相俟って前記内空部に装填されるサーミスタ素子の熱応答性を高めることができる。
【0014】
また、前記ケーブル部の先端部にプライマ層を被着する下地形成工程を経ることによって、前記ケーブルの被覆と前記充填樹脂との密着性が高まりケーブルの表面に沿った空気、湿気又は油分の浸入を回避し、長期にわたって良好な温度検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による温度センサの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明による温度センサの構成要素の一例を示す分解図である。
【
図3】本発明による温度センサの製造方法の一工程を示す説明図である。
【
図4】本発明による温度センサの製造方法の一工程を示す説明図である。
【
図5】本発明による温度センサの製造方法の一工程を示す説明図である。
【
図6】本発明による温度センサのセンサケースの例(A)(B)を従来の温度センサの一例(C)と対比して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による温度センサの実施の形態を、その製造方法と共に図面に基づき詳細に説明する。
本発明による温度センサは、サーミスタ素子1と接続ターミナル2からなるセンサ部Aと、前記接続ターミナル2に接続された導線3及び各銅線を絶縁し保護するシース4からなるケーブル部Bと、前記センサ部Aの全体及び前記ケーブル部Bの先端部を覆う被覆部Cを備えた温度センサである。
【0017】
前記センサ部Aは、表面がガラス製の保護膜1aで覆われたガラス封止型のサーミスタ素子1と、当該サーミスタ素子1と温度制御回路との間を通電させる一対の前記接続ターミナル2,2を備える。
前記ケーブル部Bは、一対の導線3,3と、その側面を被覆するフッ素ゴムなどからなるシース4を備え、前記一対の導線3,3は、前記一対の接続ターミナル2,2に各々溶接されている。
【0018】
前記被覆部Cは、前記サーミスタ素子1が収まる先端部中央に向って先細りとなる内空部5aを備えるセンサケース5と、前記サーミスタ素子1の全面を覆う弾性樹脂コーティング層6と、前記センサケース5の内面と前記弾性樹脂コーティング層6の間に満たされる充填樹脂層7を備える。
【0019】
前記センサケース5は、熱伝導性が比較的高く、且つ絶縁性を持った合成樹脂等を採用した保護ケースであって、この例では、PPS(ポリフェニレンサルファイド)を採用している。
この例のセンサケース5は、設置に便宜な直方体状の外形を持ち、その中央部に先細りの内空部5aを備える。
前記内空部5aは、前記サーミスタ素子1を前記センサケース5の先端部の略定位置に保持し得る平面状、球面状又は角錐状の支持面5bを備え、当該支持面5bから連続的又は断続的に末広がりとなる案内面5cを備える(例えば
図6(A)又は(B)参照)。
【0020】
この様なセンサケース5の外形及び内空部5aの形状の関係より、当該センサケース5の先端部の左右の厚みが大きくなる一方、同先端部の前後方向の厚みが薄く出来る。
この様に、前記サーミスタ素子1を取り巻く環境によって、当該サーミスタ素子1の感度が方向によって異なることは否めないものの、前記センサケース5の素材であるPPSは、熱伝導性が比較的高い絶縁素材であるから、当該サーミスタ素子1の感度の、方向性による相違を緩和することができる。
尚、より高い応答性を求める場合には、ガラス繊維や無機フィラーなどを含有させて熱伝導性を向上させ、又は前記センサケース5の肉厚を薄くすることが出来る先端部を温度検出すべき方向へ合わせればよい。
【0021】
この例の前記弾性樹脂コーティング層6は、例えば、シリコン樹脂等の硬度の低い樹脂材料を採用し、前記サーミスタ素子1の全面及び前記ケーブル部Bの先端部に形成される。
また、この例の前記充填樹脂層7は、エポキシ系樹脂を採用し、前記センサケース5の内面と前記プライマ層8の隙間を満たす様に形成される。
【0022】
<製造方法>
上記温度センサは、前記温度センサの各構成要素を、成形空間内においてサーミスタ素子1の配置変動を抑制しつつ組み立てる製造方法であって、前記センサ部Aの前記接続ターミナル2,2にケーブル部Bの前記導線3,3をレーザー若しくは超音波又は半田付けなどを用いた工法で溶接する接続工程(
図2参照)と、前記センサ部Aのサーミスタ素子1をシリコン樹脂に浸し固化させることによって当該サーミスタ素子1の全面に前記弾性樹脂コーティング層6を被着するコーティング工程(
図3参照)と、前記サーミスタ素子1の先端から前記ケーブル部Bの先端部をプライマに浸し乾燥させることによって前記サーミスタ素子1の全面及び前記ケーブル部Bの先端部にプライマ層8を被着する下地形成工程(
図4参照)と、前記センサケース5の内空部5aの先端の支持面5bに前記工程を経た前記サーミスタ素子1を差し入れる装填工程(
図5参照)と、前記センサケース5の内面と前記プライマ層8の間にエポキシ樹脂からなる充填樹脂を満たす充填工程と、前記サーミスタ素子1の位置を維持しつつ前記充填工程を経た前記センサケース5を加熱し前記充填樹脂を固める(前記充填樹脂層7を形成する)固化工程(
図1参照)を経て製造される。
【0023】
この製造方法によれば、前記コーティング工程を経ることによって、前記弾性樹脂コーティング層6の弾性と前記センサケース5の内空部5aの末広がりの形態とが相俟って、前記固化工程の際、又は使用時において高温負荷を受けている際の充填樹脂の膨張でガラス製の保護膜1aが破損することを防止することができる。
【0024】
また、前記充填工程の前に、前記サーミスタ素子1の全面及び前記ケーブル部Bの先端部にプライマ層8を被着する下地形成工程を経ることによって、前記固化工程の際に、前記充填樹脂7と前記ケーブル部Bの前記シース4との親和性が高まり、前記センサ部A周辺の気密性はもとより、当該センサ部Aの先端部について、従来の下地形成工程を経ない充填工程による水分の遮断構造より高い気密性を確保することができる。
【符号の説明】
【0025】
A センサ部,B ケーブル部,C 被覆部,
1 サーミスタ素子,1a 保護膜,
2 接続ターミナル,
3 導線,4 シース,
5 センサケース,5a 内空部,5b 支持面,5c 案内面,
6 弾性樹脂コーティング層,
7 充填樹脂層,8 プライマ層,