(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2019-83882(P2019-83882A)
(43)【公開日】2019年6月6日
(54)【発明の名称】IH対応調理器具
(51)【国際特許分類】
A47J 36/04 20060101AFI20190517BHJP
A47J 27/00 20060101ALI20190517BHJP
【FI】
A47J36/04
A47J27/00 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-212806(P2017-212806)
(22)【出願日】2017年11月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100134566
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 和俊
(72)【発明者】
【氏名】大久保 博
(72)【発明者】
【氏名】西尾 博文
(72)【発明者】
【氏名】東城 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】松井 良文
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA09
4B055BA22
4B055CA02
4B055CA71
4B055CB16
4B055DA01
4B055DA02
4B055DB14
4B055DB21
4B055FA01
4B055FA02
4B055FB12
4B055FC07
(57)【要約】
【課題】黒鉛により構成されており、誘導加熱による昇温速度が高く、かつ、昇温速度が安定しているIH対応調理器具を提供する。
【解決手段】IH対応調理器具1は、等方性黒鉛製の発熱部材を備えている。発熱部材の開気孔率が10%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等方性黒鉛製の発熱部材を備え、
前記発熱部材の開気孔率が10%以上である、IH対応調理器具。
【請求項2】
前記発熱部材の開気孔率が15%以上、20%以下である、請求項1に記載のIH対応調理器具。
【請求項3】
前記発熱部材の表面の少なくとも一部を覆うコーティング膜をさらに備える、請求項1または2に記載のIH対応調理器具。
【請求項4】
前記発熱部材は、器具本体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIH対応調理器具。
【請求項5】
器具本体をさらに備え、前記発熱部材が前記器具本体に取り付けられている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIH対応調理器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IH対応調理器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、誘導加熱(IH)を用いたIH調理器の普及が進んでいる。IH調理器を用いて調理を行うためには、誘導加熱可能な調理器具を用いる必要がある。例えば特許文献1には、誘導加熱可能な調理器具として、黒鉛により構成された鍋が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−75211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
黒鉛製の鍋は金属製の鍋に比べ、誘導加熱による昇温速度が高いことが知られている。しかし、近年では省エネ意識の高まりと共に、短時間調理を可能とするために更なる昇温速度の向上が求められている。
【0005】
また、黒鉛製の鍋は、同一条件下での使用であっても昇温速度にバラツキが出る場合があることが知られており、炊飯器等の緻密で細かい温度コントロールが必要な用途においては、昇温速度の安定も昇温速度の向上と合わせて求められている。
【0006】
本発明の主な目的は、黒鉛により構成されており、誘導加熱による昇温速度が高く、かつ、昇温速度が安定しているIH対応調理器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るIH対応調理器具は、等方性黒鉛製の発熱部材を備えている。発熱部材の開気孔率が10%以上である。このため、本発明に係るIH対応調理器具は、高い昇温速度を有している。また、本発明に係るIH対応調理器具は、昇温速度のばらつきが狭く、昇温速度が安定している。
【0008】
なお、本発明において、「等方性黒鉛」とは、異方比が1.1以下である黒鉛のことをいう。
【0009】
本発明において、「発熱部材」とは、磁場の影響下にあるときに誘導加熱され、昇温する部分を意味する。
【0010】
本発明のIH対応調理器具では、発熱部材の開気孔率が15%以上、18%以下であることがより好ましい。
【0011】
本発明に係るIH対応調理器具は、発熱部材の表面の少なくとも一部を覆うコーティング膜をさらに備えていてもよい。
【0012】
本発明のIH対応調理器具では、発熱部材が器具本体であってもよい。
【0013】
本発明に係るIH対応調理器具は、器具本体をさらに備え、発熱部材が器具本体に取り付けられていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、黒鉛により構成されており、誘導加熱による昇温速度が高く、かつ、昇温速度が安定しているIH対応調理器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係るIH対応調理器具の模式的断面図である。
【
図2】第2の実施形態に係るIH対応調理器具の模式的断面図である。
【
図3】実施例1〜4で作製したサンプル1〜4の開気孔率と250℃到達所要時間との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係るIH対応調理器具1の模式的断面図である。
【0018】
図1に示すIH対応調理器具1は、具体的には、鍋である。なお、本発明において、「調理器具」には、鍋、炊飯ジャー用内釜、フライパン等に加え、皿、カップ、トレイ等の食器も含まれるものとする。
【0019】
IH対応調理器具1は、発熱部材として、等方性黒鉛製の器具本体10を備えている。ここで、等方性黒鉛とは、静水圧成形法等により成形された黒鉛であり、異方比が1.1以下の等方的な構造・特性を有する黒鉛である。
【0020】
本発明者らは、鋭意研究の結果、開気孔率が特定の範囲にある場合においては、誘導加熱時の昇温速度が、等方性黒鉛の開気孔率と相関していることを見出した。具体的には、開気孔率が特定の範囲にある場合においては、等方性黒鉛の開気孔率が高いほど、誘導加熱時の昇温速度が高くなることを見出した。
【0021】
本実施形態のIH対応調理器具1では、等方性黒鉛製の器具本体10の開気孔率が10%以上とされている。従って、IH対応調理器具1は、高い昇温速度を有する。その理由としては、定かではないが、等方性黒鉛製の器具本体10が有する開気孔は、孔径の分布が狭く、その孔径の分布が狭い開気孔を10%以上と多く有するため、昇温速度が高くなるものと考えられる。
【0022】
より高い昇温速度を実現する観点からは、器具本体10の開気孔率は、12%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。但し、器具本体10の開気孔率が高すぎると、IH対応調理器具1の強度が低くなったり、昇温速度にばらつきが生じたりする場合がある。従って、器具本体10の開気孔率は、20%以下であることが好ましく、18%以下であることがより好ましい。
【0023】
なお、器具本体10の開気孔率は、株式会社島津製作所製 micromeritics(型番;Auto Pore IV MIC−9500)を用いて、水銀圧入法により測定することができる。
【0024】
本実施形態では、器具本体10が発熱部材を構成している例について説明した。但し、本発明において、器具本体が発熱部材により構成されている必要は必ずしもない。本発明においては、磁場の影響下にあるときに誘導加熱される部分が、開気孔率が10%以上の等方性黒鉛からなる発熱部材により構成されていればよい。本発明においては、IH対応調理器具が、黒鉛製の器具本体に加えて、他の部材をさらに備えていてもよい。例えば、本実施形態に係るIH対応調理器具1は、器具本体10と、器具本体10の表面の少なくとも一部を覆うコーティング膜20とを備えている。コーティング膜20としては、例えば、セラミック膜やフッ素樹脂膜等が挙げられる。IH対応調理器具1が、例えば、土鍋等である場合には、IH対応調理器具1の外表面がセラミック膜によりコーティングされており、内表面がフッ素樹脂膜によりコーティングされていてもよい。
【0025】
(製造方法)
次に、IH対応調理器具1の製造方法の一例について説明する。
【0026】
まず、コークス等の骨材にピッチ等のバインダーを加えて混練・粉砕する。その後、混練物を成形する。次に、成形物を焼成、黒鉛化することにより黒鉛ブロックを作製する。得られるブロックの特性の均一性を確保するため、冷間等方圧加圧成形にて成形を行うことが好ましい。次に、黒鉛ブロックを所望の形状に削り出すことにより、IH対応調理器具1を製造することができる。
【0027】
なお、開気孔率は、平均粒子径が大きな骨材と、平均粒子径が小さな骨材とを併用したり、平均粒子径が大きな骨材と、平均粒子径が小さな骨材が生じるように混練物を粉砕したりすることにより、成形の際に平均粒子径が大きな骨材間の隙間に平均粒子径が小さな骨材が入ることで制御することができる。また、ピッチを含浸させたり、ピッチを含浸させる際の圧力、含浸回数等の含浸条件を変化させることによっても開気孔率を制御することができる。
【0028】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係るIH対応調理器具の模式的断面図である。
【0029】
第1の実施形態では、発熱部材本体が器具本体により構成されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。
【0030】
例えば、
図2に示す第2の実施形態に係るIH対応調理器具1aは、例えば、土鍋等の誘導加熱されない器具本体10aと、器具本体10aに取り付けられた発熱部材30を備えている。発熱部材30は、開気孔率が10%以上である等方性黒鉛製の部材である。IH対応調理器具1aにおいても、開気孔率が10%以上である等方性黒鉛製の部材により発熱部材30が構成されているため、IH対応調理器具1と同様に、誘導加熱による高い昇温速度と、昇温速度の狭いばらつきとを実現することができる。
【0031】
なお、第2の実施形態に係るIH対応調理器具1aは、第1の実施形態に係るIH対応調理器具1と同様に、コーティング膜等をさらに有していてもよい。
【0032】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0033】
(実施例1)
平均粒子径の大きなコークスと、平均粒子径の小さなコークスとにピッチバインダーを加えて混練・粉砕した後、冷間等方圧加圧成形を行い、焼成、黒鉛化することにより得られた黒鉛ブロックからφ124.5×3mmの円盤を削り出しサンプル1を作製した。作製したサンプル1の開気孔率は17%で、異方比が1.05であった。
【0034】
(実施例2)
平均粒子径の大きなコークスと、平均粒子径の小さなコークスとにピッチバインダーを加えて混練した後に、平均粒子径が大きな混練物の粒子と、平均粒子径が小さな混練物の粒子とが生じるように粉砕したこと以外、実施例1と同じ工程にてサンプル2を作製した。作製したサンプル2の開気孔率は16%で、異方比が1.05であった。
【0035】
(実施例3)
焼成後にピッチ加圧含浸を行い、再度焼成した後に黒鉛化を行った以外は、実施例1と同様にしてサンプル3を作製した。作製したサンプル3の開気孔率は13%で、異方比が1.05であった。
【0036】
(実施例4)
ピッチを含浸後に再度焼成する工程を2回行ったこと以外は、実施例3と同様にしてサンプル4を作製した。作製したサンプル4の開気孔率は11%で、異方比が1.05であった。
【0037】
(比較例)
一定の粒子径のコークスを用い、且つ、押し出成形を行った以外は、実施例1と同じ工程にてサンプル5を作製した。作製したサンプルの開気孔率は20%で、異方比が1.25であった。
【0038】
(開気孔率)
実施例1〜4および比較例のそれぞれにおいて作製したサンプル1〜5の開気孔率を、株式会社島津製作所製 micromeritics(型番;Auto Pore IV MIC−9500)を用いて、水銀圧入法により測定した。結果を表1に示す。
【0039】
(250℃到達所要時間)
実施例1〜4および比較例のそれぞれにおいて作製したサンプル1〜5を出力が1400WのIH調理器(パナソニック株式会社製「PH−33」)を用いて加熱することにより、250℃到達所要時間を測定した。結果を表1及び
図3に示す。
【0041】
実施例1〜4のサンプル1〜4に関しては、250℃到達所要時間を3回測定した結果、毎回同様の時間であった。一方、異方性黒鉛を用いた比較例では、250℃到達所要時間を3回測定した結果、100秒、85秒、90秒と測定毎にばらついた。この結果から、等方性黒鉛を用いることにより、加熱速度のばらつきを抑制できることが分かる。
【0042】
また、等方性黒鉛を用い、開気孔率が10%以上である実施例1〜4のサンプル1〜4は、等方性黒鉛を用いない比較例のサンプル5よりも250℃到達所要時間が短かった。この結果から、等方性黒鉛を用い、開気孔率が10%以上とすることにより、誘導加熱による昇温速度を高めることができることが分かる。
【符号の説明】
【0043】
1、1a IH対応調理器具
10、10a 器具本体
20 コーティング膜
30 発熱部材